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晴れ、ときどき×× 1
2014 / 10 / 30 ( Thu )
~♪~~~~♪~~

ボフッ!!

ひっきりなしにかかってくる携帯に枕を投げつける。
幾分音が小さくはなったものの尚も音が途絶えることはない。

「もうっ!いつまでかけてくるつもりよ?!」

つくしはイライラしながらもあいつなら時間の許す限りやり続けるに違いないと妙な確信を持っていた。鳴り続けている音楽がプツリと途絶えた一瞬の隙をついて考える。
仕方がない。
使えなくなるのは困るがしばらく電源を落としてしまおう。

~♪~~♪

そう思って携帯に手を伸ばした瞬間、先程までとは違うメロディが響き始めた。
この音楽はあいつからの着信音ではない。
つくしは急いでそれを手に取り画面を確認した。

「桜子・・・?・・・もしもし?」
『あ、先輩。お元気ですか?今日T4で集まらないかって滋さんと話してるんですけど、先輩の予定はどうですか?」

大学を卒業して1年。
それぞれが自分の道を進み始め、学生の頃のように頻繁には会うこともなくなっていた。
だが時間を見つけてはこうして定期的に女子会を開いている。それがつくしにとっても息抜きとなっていた。

「行くっ!!絶対行くっ!!」
『先輩がそんなに乗り気なのも珍しいですね。・・・・まぁいいです。お話は後でゆっくりと。じゃあいつものところに7時でいいですか?』
「了解!」

通話を終わらせると先程までの鬱々とした気分が一気に晴れている自分に気付く。
今日は煩わしいことは忘れて思いっきり楽しもう。うん、そうしよう。

~~♪~~♪~~

そう思っているところに手の中の携帯が再び音を奏で始める。
名前なんて見なくてもわかる。この着信音を響かせるのは一人しかいないから。

「もうっ、あんたはそんなに暇な人間じゃないでしょ!」

叫ぶが早いかつくしはブツッと一気に電源を落とした。
ようやく室内に静寂が訪れる。さっさとこうしておけば良かったのだ。
はーーっと盛大に息を吐き出すと、つくしは仕事に行く準備を始めた。


******

「牧野さん、今日皆で飲みに行かないかって話があるんだけど一緒にどう?」
「あ、ごめんなさい!今日は予定があって・・・・」
「あ~、もしかしてデート?」

一日の業務を終えてデスクの上を片付けていたところで声をかけられた。
入社したときから何かとよく面倒を見てくれるいい先輩だ。
是非にといいたいところだが今日はあいにく先約がある。

「まさか~!女子会ですよ、女子会」
「あら、牧野さんもなの?それじゃあお互い一週間の疲れを吐き出さなきゃね」
「ほんとですね。私、気合い入りまくってますよ」

そう言ってむんっ!と腕まくりをするつくしに吹き出す。

「あははっ!じゃあまたの機会にしましょ。じゃあお疲れ様!」
「はい。お疲れ様でした!」


大学卒業後につくしが就職したのは輸入品の取り扱いをする中小企業。
決して大きくはないが社員同士の繋がりはとても強い。
そこにつくしの性格も相まってこうして声がかかることは少なくないのだが・・・・

「よしっ、私も急いで準備しなきゃ」

考えることを無理矢理中断させると、つくしは更衣室へと急いだ。


****

煌びやかな店内を進んでいくと見えてくる重厚な扉。
外からは中の様子を伺い知ることはできない。VIPのための部屋だ。
つくしは来る度に身の丈に合っていないなと思いつつ、その扉に手をかけた。

「つくし~!遅いぞっ!」
「ごめんっ!電車一本乗り遅れちゃって」

開けて真っ先に目に入ってきたのは滋だった。
横には桜子と優紀もいて、どうやら自分が一番最後だったようだ。

「つくし、お疲れ」
「先輩、お疲れ様です」
「お疲れ。今日は皆早いんだね?」
「だって花金だよ?俄然頑張っちゃうでしょ~」

ニヒヒと笑いながら滋がつくしの隣へと移動してくる。

「先輩何にしますか?」
「あ、じゃあカシスオレンジで」

手慣れた動作で桜子が全員分のアルコールを注文すると、
運ばれてきたグラスを片手に一度全員立ち上がった。

「じゃあ、久しぶりのT4、カンパ~イ!!」
「「「カンパ~イ!!」」」

滋のかけ声で乾杯すると、それぞれがグラスの中身をグイッと煽る。
中でもつくしのピッチは一番速かった。

「つくし今日はグイグイいくね。何かあった?」
「別に何も~?」

心配そうに顔を覗き込む優紀を気にすることなく、つくしは目の前にある美味しそうな料理を一掴みして口に運ぶ。

「ん~、美味しいっ!やっぱり仕事終わりのお酒とおいしいご飯は格別だわ」
「確かに。っていうか私たちも全員社会人かぁ~。なんか不思議だよね」
「うんうん、このメンバーでいると学生気分が抜けないって言うか」
「わかるわかる!一瞬で戻っちゃうよね」
「まぁ実際ほとんど成長してないんだけどさぁ・・・・」
「あはははっ!」


ピリリリリリリリリっ!


各々話に花を咲かせていたとき、室内に一つの着信音が鳴り響いた。
どうやら桜子の携帯のようだ。

「あ、ごめんなさい。私のです」

そう言うと鞄の中から携帯を取り出す。画面を確認した桜子の動きが一瞬だけ止まったような気がするが、次の瞬間には普通に電話を耳にしていた。
つくしをはじめ残りのメンツは会話の邪魔にならないようにお酒やおつまみを口にしている。

「もしもし?はい、お久しぶりです。・・・・・え?先輩ですか?」

聞こえてきたその言葉につくしの手がピタリと止まった。
見れば桜子がこちらを意味ありげに見ている。
その電話の相手が誰であるか、そして何が目的であるのかを瞬時に悟ったつくしはブンブンと首を横に振りながら手で大きく×印を作った。

「・・・・・・いえ、私は知らないです。・・・え?・・・はい。はい、わかりました。それじゃあ失礼します」

ピッという音と共に会話を終わらせると、いつの間にか室内は静寂に包まれていた。

「もしかして司?」

最初に口を開いたのは滋だ。

「はい。先輩がそこにいないかって。携帯が繋がらないって心配してましたよ?」
「つくし~、またケンかしたの?」
「・・・・・・別に」

否定の言葉を出しながらもつくしの顔は明らかに不機嫌だ。

「・・・・・で?一体何があったんですか?道明寺さんに居場所を知られたくないならちゃんと話してくれますよね?」

有無を言わさない桜子の口調に顔を上げれば全員が自分をじっと見つめている。
こうなっては話すまで逃げることは許されない。
つくしははぁ~っと溜息をつくとゆっくりと口を開いた。





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09 : 46 : 35 | 晴れ、ときどき×× | コメント(8) | page top
晴れ、ときどき×× 2
2014 / 10 / 31 ( Fri )
6つの目がじーーーっと一点に集中する。
突き刺さるような視線にいたたまれない気持ちになるが、つくしはぽつりぽつりと言葉を選んでいく。

「おとといなんだけど、仕事で女の先輩と同期の男の子と外回りに行ったのよ。で、思ったより遅くなったから3人でご飯でも食べてから帰ろうって話になって・・・・」
「なって?」
「で、皆で夕食食べて帰ったんだけど、同期の子が車で来てるから送ってくれるって言い出して。一応相手は男性だし、あいつにバレでもしたらうるさいから断ったんだけど、先輩が方向が同じなんだから一緒に送ってもらおうって。先輩だけ乗ってくださいとはさすがに言えなくて。それで送ってもらうことにしたんだけど・・・・」

そこまで話すとつくしがまた溜息をつく。

「帰ったら予告なしにあいつがアパートの前で待っててさ。先輩の方が家が手前だったから、車には私と同期の子しかいなくて・・・・」
「うわぁ~、さすがは野生の勘。凄いタイミングだね、司」

滋が感心したように言う。

「もちろん私は後部座席にいたんだよ?それにその子には長く付き合ってる彼女がいるの知ってるし。・・・でもあいつ、見た瞬間凄い剣幕でその子に迫ってさ」
「まぁ道明寺さんなら当然そうなるでしょうね」
「見知らぬ男と二人きりで車に乗って帰宅したんじゃあねぇ・・・・・」
「だーかーらー、そんなんじゃないって!それもあいつに説明したんだけど全然聞く耳持ってくれなくて。ぶん殴りそうな勢いですごむもんだから、彼逃げるように帰っちゃって。もう申し訳ないったら」
「・・・それで?それからどうしたんですか?」



それから・・・・・は散々だった。

「相変わらずお前はあっちにフラフラこっちにフラフラ、ちょっと目ぇ離すとすぐにこれだ」
「だから中野君はただの同期だって言ってるじゃん!彼女だっているし、うちにつくほんの数分前までは女の先輩と一緒だったの!」

玄関をくぐった途端怒りを露わにする司につくしも引っ込みがつかなくなる。
ちょっとでも異性と接点があるだけですぐにキレられていては仕事もできやしない。

「彼女がいたって他の女に手ぇ出すことなんて簡単なんだよ!」
「へぇ~、じゃああんたもそういうことができるんだ?」
「んなわけねぇだろが!俺がそんなことするわけねぇだろ?!」
「だって今そう言ったじゃん」
「あれは世の男共に言っただけで俺にはあてはまらねぇんだよ!」
「何よそれ、意味わかんない!」

ギャアギャア相変わらず互いに引くに引けないまま口論はヒートアップしていくばかり。

「っていうかなんでここにいたのよ?仕事は?」
「・・・・・明日から仕事で東京を離れることになったからお前の顔でもみておこうと思ったんだよ。何日かかるかまだわかんねぇし。で、何とか時間を作って来てみれば知らねぇ男と二人っきりで帰ってきやがって・・・。これじゃあおちおち仕事にも行けねぇっつの」
「だから何でもないって言ってるじゃん!もう、何ですぐそういう方向にもっていくのかなぁ!」

ガンッ!!

頬を膨らませていると突然司がつくしの顔を挟むような形で扉に手をついた。
凄い勢いのせいで大きな音が響き渡り、思わずつくしの体も跳ねる。

「な、何よ?!」
「お前は相変わらず自分の価値を全くわかっちゃいねぇんだよ」
「え?」
「お前にその気がなくても相手はそうじゃねぇことが多々あるってんだよ。彼女がいるからって安心すんじゃねぇ!」

つくしの顔の目前まで迫って司がすごんでくる。
こんなときにもかかわらず相変わらずこの男は何て整った顔なんだと思ってしまう自分がバカすぎる。

「だ、だから何もないって・・・・」
「もういい。お前には言っても無駄だから行動でわからせてやる」
「えっ?」

突然司の顔が肩に沈んできたかと思うと、首筋に温かい感触を感じて体がビクッと跳ねる。

「ちょっと、道明寺!なにすんの・・・・・あっ!」

ヌルッとした感触で首筋を舐められていると気付いたのも束の間、次の瞬間にはチクッと鋭い痛みを感じた。
まさか・・・?!この痛みには嫌と言うほど身に覚えのあるつくしはハッとして司の体を押しのけようとするが、ただでさえ体格差が激しい司がちょっと本気を出せばピクリとも動かすことはできない。後ろに引こうにも扉に阻まれてどうにもこうにも身動きがとれない状態だ。

「ちょっと、バカバカバカッ!!どこにつけてんのよ!やめなさいよっ!」

必死で叫んでいる間もまた一つ、一つと首筋や耳の後ろにその痛みが走る。

「本気で怒るんだから!絶対許さないんだから!バカバカバカばんっ・・・・・・・!!」

気が付けば唇ごと自由を奪われていた。おまけに顔を両手で掴まれ、もう何一つ抗う術がない。
すぐに口内に侵入してきた舌の感触から逃れようとするが、あっという間に捉えられ、縦横無尽に食べ尽くされていく。
心の中では憤慨していても、いつだって蕩けるようなその感触に次第につくしの体から力が抜けていく。
ただキスをされているだけなのに、気が付けば膝から力が抜け落ちて司に支えられていなければ立っていられないほどになっていた。

「はぁはぁはぁ・・・・・」

どれくらいの時間が経ったのだろうか。
ようやく唇を解放されたときには息も絶え絶えになっていた。
司はつくしの濡れた唇を親指でグイッと拭うと、キスができそうなほどの至近距離で言った。

「わかったか。男なんて本気になれば簡単にこういうことができるんだよ。お前は俺だけのもんだ。フラフラすることは絶対に許さねぇ。これはおしおきと俺のモンだっていう証だ」
「なっ・・・・!」
「俺がいない間フラフラすんじゃねぇぞ。いい子で待ってろ」

そう言って唖然とするつくしの唇にもう一度キスを落とすと、司は扉を開けて部屋から出て行った。
支えを失ったつくしの体がずるずると壁伝いに落ちていき、やがてペタンと玄関に座り込んでしまう。
唇に首筋に、燃え上がるような熱が残っているのがわかる。
それからしばらくつくしはその場から動くことができずにいた。




「・・・・・で?先輩は一体何に対して怒ってるんです?」

一通り聞き終えた桜子が冷静に口にする。

「だって!あいつ、絶対につけないでって前から言ってたのにあんな・・・・・」
「キスマークのことですか?」
「・・・前に知らない間に見えないところにつけられて職場ですっごくからかわれたことがあるの!身内だけにからかわれるならまだいいけど、仕事として会う人にまで見られてたかと思うともう恥ずかしくて・・・・」
「え~?愛の証って感じでいいじゃん!」

あっけらかんと言ってのける滋をつくしは一睨みする。

「社会人なら最低限の身だしなみは必要なの!ああいうのを見せて満足するのは本人だけなんだから!だからそれ以降は見えるところには絶対つけないって約束したのにあいつ・・・・しかもあんなにいっぱい・・・」
「どれどれ?・・・・うわっ!これは凄いわ。さすがは司」

つくしの来ていたタートルネックの襟元をグイッと引っ張ると、さすがの滋も驚いた声を上げた。

「え、私も見せてください。・・・・うわ~、これはすごいですね」
「ほんとだ・・・すごい、耳の後ろもあるよ、つくし」

滋に続いて桜子と優紀も物珍しいものを見るようにマジマジと観察し始める。

「ちょっと!見世物じゃないんだから!」

つくしは思いっきり服を引っ張って再び首を隠す。
引っ張った勢いで布がピキッと鳴ったような気がするが、今はそんなことは後回しだ。

「さすがにそれはやりすぎかもしれませんね」
「でしょう?!もう隠しようがないくらいの数なんだから!しかもすっごい強さでつけてるし。タートルネックを開発してくれた人がいなかったらもうどうなってたことか・・・」

寒さを凌ぐ以外に目的はないと思っていたタートルネックがこれほどに有難い存在だったとは。
こんなことでもなければ一生気付くことはなかっただろう。

「だから連絡を絶ってるんですか?」
「そうだよ。あいつのことだからちっとも悪いなんて思ってないんだから!」
「でも電源まで切っちゃうなんて、道明寺さんなら強行策に出るんじゃないの?」

優紀の心配はもっともだ。目的のためなら警視総監を動かすことさえ厭わない男なのだから。

「大丈夫。事前に力技に持ち込むようなことがあれば別れてやる!って釘をさしてあるから」
「わぉ~、さすがはつくし。司の取り扱いはお手の物ってわけか」
「あの道明寺さんを我慢させることができるのなんて・・・・ライオンの調教より難しいんじゃないですか?」
「うんうん、それは言えてる」

「ちょっと!そんなことはいいから今日は飲むよ!煩わしいことは忘れて楽しむんだからっ!」

やいのやいの面白おかしく話に花を咲かせる3人に不機嫌そうに視線を送ると、つくしは気分を切り替えるように目の前のグラスに入ったアルコールをグイッと一気に煽った。





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00 : 18 : 00 | 晴れ、ときどき×× | コメント(10) | page top
晴れ、ときどき×× 3
2014 / 11 / 01 ( Sat )
「そういえばこの前滋さんがお見合いしなきゃいけないかもって言ってた御曹司はどうなったんですか?」
「あ~、あれはダメダメ!だって超マザコンなんだもん」
「どういうことですか?」
「どうしてもって言うからとりあえず会ったのはいいんだけどさ~、何をするにも『母が、母が』の連発で。そのうちママ~って言い出すんじゃないかとゾッとしたわ」
「うわ~、それは最悪ですねぇ」
「マザコンだけは勘弁だわ・・・・」


あれからつくしが飲み始めたのをきっかけに、場は一気にくだけたものとなっていた。
貸し切りの部屋の中で飲めや食べろやの大騒ぎ。
女だらけの室内では一週間の疲れを吐き出すように話に花が咲き乱れている。

「御曹司って言ってもいろんなのがいるよねぇ・・・・」

滋がしみじみと噛みしめるように呟く。

「私が以前お付き合いしたことのある方はあっちの方に変な趣味をお持ちでしたよ。気付いてすぐにさよならしましたけど」
「えっ、なになに?桜子っ、詳しく聞きたい!」

またしても真っ先に食い付いたのは滋だ。

「よくある話ですよ。そういうときになったらいきなり紐を出して縛ってくださいって言い出したんです」
「ぶっ!!よ、よくある話じゃないでしょう?!」

予想外の内容につくしは思わず口にしていた唐揚げをふき出してしまう。

「意外とそういう趣味の人っているんですよ?先輩には想像もできないかもしれないですけど」
「そ、そういうもん・・・・?」
「そういうもんです」

はぁ~と世の中には色んな人がいるもんだと妙な感心をしてしまう。

「そういうつくしのところこそどうなのよ?」
「は?」
「司だよ、つ・か・さ!どんな感じなの?」
「ど、どんな感じって何が?!」
「だから~、変な趣味とかないの?」
「なっ、ないないないないないないないない!!!!」

そもそも変な趣味自体なんぞや?のつくしはぶんぶんと凄い勢いで首を振る。

「道明寺さんって意外と優しい感じがするんですよね」
「あー、それは言えてる。じゃなきゃ何年も待てないよね、普通」
「待ちに待って何年ですか?4年?5年?」
「つくし達がそうなったのって道明寺さんの帰国後なの?」
「うっ・・・・・・うん、まぁ・・・・・」
「ほら~!普通はそんなに待ってくれないって。やっぱり司は優しいんだよ」
「本人がその気になれば女なんて選り取り見取りな人ですからね。それがわざわざ先輩みたいなド庶民を選んで何年も待つ・・・そうそうできることじゃないですよ」
「つくし、よかったね」
「ド庶民は余計でしょうよド庶民は・・・・まぁ否定しないけどさ」

いつの間にやらまた話のターゲットが自分になっていることに何とも言えない居心地を感じながら、つくしは苦笑いするしかない。

「でも何年もって言ったって、あいつがいなかったんだからどうしようもないっていうか・・・・不可抗力でしょ?」
「でもただの一度も会えなかったわけじゃないでしょ?普通ならその時にやることやっちゃうって」
「で、初めてはどういうシチュエーションだったんですか?」
「えっ!!」
「今さらカマトトぶらないでくださいよ?減るものでもあるまいし教えてください」
「聞きたい聞きたいっ!!」

またしても6つの目がキラキラと一点に集中している。
何故にこんな展開になってるんだ?と思いつつどう考えても逃げられる状況ではない。

「う・・・・・だから、あいつが帰国して・・・・・」
「して?」
「有無を言わさず邸に連れて行かれて・・・・それで・・・・」
「そのままやったのっ?!」
「ちょっとっ!やったとか言わないでよ!」
「だってやったんでしょ?」
「うぅっ、・・・・・・・・・・・・・うん」

その言葉にキャーっと3人の黄色い声が上がる。
ますます目が輝いているのは気のせいだろうか。しかも怪しく。

「で?で?どうだった?」
「もういいじゃん!私の話はこれで終わりっ!」
「ダメっ!!私たちだって話したんだから次はつくしの番だよ!」

そう。これまで盛り上がりに盛り上がってそれぞれの体験談を話しまくっていたのだ。
花より団子、飲食に夢中なつくしは話半分で聞き流していたがまさここに来て自分がターゲットになろうとは。

「どうだったって・・・・わかんないよ。だって比較する相手がいないんだもん」
「あ~、それは確かに。しかも初めて同士だもんねぇ」
「とりあえず痛かったって記憶しかない」
「まぁ最初は皆そうですよね。というか道明寺さんだとさらに痛そうですね」
「つかさってなんか凄そうだよね。あの体のデカさだもん。あっちもすごそう」
「で、実際どうなんですか?」
「しっ、知らないよ!だから比べたこともないからわかんないって!」
「じゃあテクニックは?」
「わかるわけないじゃん!っていうかなんでこんな話になってんのよ?!」
「え~、だって女子会の醍醐味じゃん?」
「そんなん知らないよ!」

とりあえず話の流れを断ち切ろうと目の前にあるアルコールを流し込むが、追及の手は緩むことを知らない。

「まぁ仮にテクニックがなくても司の場合持久力で勝負って感じじゃない?」
「無尽蔵の体力っぽいですもんね」
「たしかに・・・・」

本人の言葉なんて関係なしに言いたい放題盛り上がる3人に呆れながらさらに一口飲み込む。

「先輩わかってますか?自分がすっごーーーく恵まれた立場にいるってこと」
「なにがよ」
「だってあの道明寺さんですよ?彼ならお金払ってでも付き合いたい、一晩を共にしたいって女がゴロゴロいるんですよ。それなのに彼を独り占めできてるってことがどれだけ凄いことなのか」
「そんなこと知らないよ・・・」
「そうだよ、つくし-!私と桜子でもダメだったんだからね?つくしはすごいんだよ」
「あの道明寺さんが選んだのはド庶民の先輩なんですから」
「だからド庶民はいいでしょって・・・・否定できないけど」

庶民と言うよりもむしろド貧乏と言った方が正しいのではなかろうか。
我ながらそう思いつつつくしは目の前のチーズを一口放り込む。

「金持ちでルックス最高、しかも一途、もう言うことないんじゃない?」
「あいつの場合性格に最大の難ありでしょ」
「でもそれもつくしに出会って劇的によくなったじゃん。あれ以上の相手はいないと思うけど」
「・・・・・・・・別にあたしは・・・・・」

もごもごと咀嚼していた口と共に言葉がそこで止まる。

「・・・・どうしたんですか?先輩」

不思議そうに顔を覗き込む桜子を視界に捉えながら、つくしは前を見据えてぽつりぽつりと呟くように口を開く。

「あたしはさ、別にあいつが金持ちだからとか見た目がいいとかそんなことはどうでもいいんだよ」
「いきなり無一文になったとしても?」
「あははっ!そういうときこそ私の出番じゃない?逆境には強いつもりだからどうとでもなるって」
「つまりはどんな道明寺さんでも好きってことですか?」

真っ直ぐ射貫くように自分をみている桜子から視線がそらせない。
酔っているせいだろうか、その視線がいつもなら口にしないようなことを素直に出させていた。

「・・・・・うん。別にあいつが御曹司だろうが貧乏だろうが、あいつがあいつであることに意味があるっていうか。・・・・・そのまんまの道明寺司がいいの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・だそうですよ?道明寺さん」
「えっ?!」

聞き捨てならないセリフに桜子を見ると、その視線はいつの間にか自分の背後へと移っている。
まさか・・・・?!
驚きに目を見開いてバッと振り返ると、そこにはいるはずのない男が壁にもたれるようにして立っていた。

「なっ?!な、な、な、なっ・・・・・・?!」
「よう」
「さ、桜子っ?!あんた謀ったわね?!」

ガバッと桜子の方に振り返ると、つくしの怒りなんて何処吹く風とばかりに涼しい顔で微笑んでいる。

「人聞きの悪いこと言わないでください。私は何もお教えしてませんよ?ただ道明寺さんにここにいるのかと聞かれたのではいとお答えしただけです」
「そんなん屁理屈だっての!あんたってやつは~~~!!」
「三条、助かったぜ。こいつ連れて行くから」
「どうぞどうぞ。煮るなり焼くなりお好きにしてください」

寄りかかっていた壁からようやく体を起こすと、司は後ろからいとも簡単につくしの体を担ぎ上げた。

「ちょっ、ちょっとぉっ?!バカバカバカっ!離せ、離せ、離せぇ~~~っ!!」

司の肩の上でジタバタと全力で暴れ回るが、そんなつくしの扱いにもすっかり手慣れている司はびくりともしない。

「司~、これつくしの荷物」
「サンキュ。ここは俺が出しといたから好きにやれ」
「さすがは司~!サンキュ~!」
「道明寺さん、ありがとうございます」
「あぁ、じゃあな」

滋から荷物を受け取ると、司は迷うことなく扉へと歩き始めた。

「じゃあなじゃないっ!!おろせおろせぇっ!!っていうか桜子ぉっ、あんた次に会ったときには覚えときなさいよ!ただじゃ済まないんだから!」
「お前耳元でうるせーよ。仕事帰りで疲れてんだからちったぁ静かにしろ」
「そんなん知るかぁ!っていうかまだ怒ってるんだから!離しなさいよこのバカッ!!」
「どんな俺でも好きなんだろ?」
「なっ・・・・・・・・・??!!!!」

突然司の口から飛び出した爆弾発言につくしの動きがピタリと止まる。
こ、この男一体いつからあそこに・・・・?
考えたくない想像が頭を駆け巡り全身がゾッと震え上がる。

「じゃあな」

司はそんなつくしの様子に満足そうな笑みを浮かべると、軽く振り返って一言放つと颯爽と部屋から出て行った。
長くせずして再びギャアギャアと喚く声が聞こえ始めるが、残された3人は全く気にもとめることなく飲食を再開していた。

「司、いつ戻ってきてたの?」
「さっき電話があったときみたいですよ。先輩と連絡が取れないからいてもたってもいられなくて、相当早く仕事を終わらせて帰ってきたみたいです」
「つくしがいたら道明寺さんの仕事の回転率がすごそうですね」
「つくしニンジンを追いかける司馬・・・・・・」
「ぶっ、ぶはははははははははっ!!!!まさにそれだっ!!!」

滋の呟きに全員がお腹を抱えて笑い転げていたなんて、当の本人は夢にも思わぬに違いない。





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11 : 28 : 32 | 晴れ、ときどき×× | コメント(4) | page top
晴れ、ときどき×× 4
2014 / 11 / 02 ( Sun )
ジタバタと暴れる体は少しも離れることはなく、遠ざかっていく景色の中に深々と頭を下げている店の責任者の姿が見えた。やがて外に出るとそこには見覚えのありすぎる無駄に長い物体が見えてくる。

「バカバカバカ!降ろしてよっ!」
「うるせーな、すぐに降ろしてやるよ。ほらっ」

ドサッという音と共に体が柔らかい感触に包まれる。
当たり前のようにリムジンの中に放り込まれると、出口を塞ぐような形で司が目の前に腰を下ろした。

「ちょっと!私電車で帰るんだから。降ろしなさいよっ!」
「んなこと許すわけねーだろ。行け」

運転席の方にチラリと目線を送ると同時に、車体が音もなく静かに動き出した。

「あっ!斉藤さん、止まってください!ここで降りますからっ!」
「ばーか、止まるわけねぇだろが。いい加減諦めろ」

すっかり顔なじみになっている運転手の斉藤への願いも虚しく、車は滑らかに夜の街を駆け抜けていく。
もはや何を言っても無駄だとようやく悟ったのか、つくしは頬を膨らませて不満を隠さずにソファへと体を投げた。
棘々したつくしの心とは対照的に、革張りのそこが自分を柔らかく包み込んでくれる。

「ぷっ、お前の顔おもしれぇ」

顔筋の全てを使って不機嫌さを滲み出しているつくしに、思わず司が吹き出す。

「ちょっと!何笑ってんのよ。私まだ怒ってるんだからね?!」
「何がだよ?俺は何もしてねーだろが。っつーかお前こそどういうつもりだよ?連絡取れねぇようにしやがって。心配すんだろが!」

こちらの不機嫌なんてお構いなし。
自分の方こそ怒ってるとばかりに眉間に皺を寄せる男に、つくしはあらためて思う。
やっぱり。この男はちっとも悪いだなんて思っちゃいない。

「だって!元はと言えばあんたが悪いんでしょ?絶対に見えるところにつけないでって約束したのにあんな・・・・・。しかも一つならまだしも、数え切れないほどつけるなんて信じらんない!」
「あれはおしおきだっつったろ?お前密室に男と二人きりになんてなるんじゃねーよ。本気で襲われたら簡単にやられんだからな」
「だからっ!そういう心配はいらない相手だって言ってるでしょ?!」
「お前の大丈夫ほどアテになんねーもんはねぇんだよ」
「何よそれ」
「そうやって油断しまくってるお前に惚れる男が今までどれだけいたと思ってんだ」
「はぁっ?意味わかんない。そんな人いるわけないじゃん!」
「ほらな、これだ。ったく無自覚ほどタチの悪いもんはねぇっつんだよ」

どこか呆れたように溜め息を零す司にますますつくしのイライラは募るばかり。

「仕事の付き合いでどうしてもってことはあんたにだってあるでしょ?いちいちあれくらいのことでキレないでよ」
「俺は絶対に隙なんか見せねぇぞ」
「そう思ってるのはあんただけかもしれないじゃん」
「あぁ?んなわけねーだろが。お前と一緒にすんじゃねぇよ」

いつまで経っても水掛け論の応酬に運転手の斉藤が一人苦笑いを零している。
当然そんなことには気づきもしない当人達は小学生かと突っ込みたくなるほどのやりとりを延々と繰り返す。

「もういいよ。とにかくお願いだから見えるところにだけはつけないで!」
「別にそんなん堂々としてりゃいいだろうが」

悪びれもせずケロッと言ってのける司をつくしは下から睨み付けた。

「バカ言わないでよ!仕事の時に取引先の人に見られでもしたら身だしなみとしてだらしないでしょう?!仮にあんたが同じようなことしてみなさいよ。副社長としての立場がないでしょ」
「俺は別に構わねーけど」
「えっ?」
「キスマークだろ?別にいくらついてようが痛くも痒くもねーけど」
「でっでも、あんたは副社長じゃない・・・」

一体何をとんでもないことを言い出すのだろうか?
企業の上に立つ人間が、しかもそんじょそこらの大きさではない。
大財閥の副社長ともあろう男がキスマークを堂々と見せても平気だって?
いやいやいやいや、ありえないっつーの!

そんなつくしの心の叫びを知ってか知らずか、司はフッと不敵な笑みを浮かべると、一気につくしの横まで体をずらして密着してきた。

「ちょっ・・・!」

つくしが気づいた時には時すでに遅し。
逃げようと後ずさった方から大きな手が伸びてきて肩をがっちりと抱き込まれてしまった。目の前には広い胸板があって挟み込まれた状態だ。

「いいぜ?」
「はっ?」
「キスマーク、つけろよ。ほら」

そう言うと司は顎をクイッと上げた。つくしの目の前に男らしい喉仏と男性とは思えないほど色っぽい首筋が晒される。

「ちょっ、冗談やめてよ!あんた副社長でしょ?ダメに決まってるじゃん!」
「なんでだよ。俺は構わねえってんだろ?」
「だって他の社員に示しがつかないじゃん!わっ?!」

体を仰け反らせながらなんとか距離を取ろうとギリギリと力を入れるつくしの体を片手でいとも簡単に引き寄せると、司は鼻と鼻がくっつくほどの距離で言い切った。

「言っとくけど。俺はキスマークくらいでどうこう言われるほどやわな仕事はしてねぇぞ」
「ちょっと・・・・近いっ、近いからっ!」

悔しいが何度見ようとも整った顔を目前に、つくしの心臓がバクバクとその速度を上げていく。
だがそんなつくしの焦りをさらに上昇させるように、司は両手でつくしの顔をガシッと固定する。

「キスマーク程度でガタがくるような仕事はしてねぇんだよ。っつーかむしろハエのようにたかってくる女共への牽制になっていいんじゃねぇのか?」
「わ、わかったから!だから離してよっ・・・・」
「俺はお前からのキスマークなら喜んでつけていくぜ」
「ちょっ・・・・んっ・・・!」

目の前の形のいい唇が弧を描いたと思った次の瞬間、吐き出そうとしていた言葉ごと奪われていた。
顔を両手で固定され逃げることもできず、必死で胸を叩いて抵抗するが強靱な肉体はぴくりともしない。
柔らかい唇の隙間からすぐに生温かいものが侵入してくる。その感触にビクッと反応したのが合図かのように侵食が激しさを増す。

「んっ・・・・あっ・・・・」

怒ってたのに。
ちゃんと謝るまで絶対許さないって思ってたのに。
それなのに・・・・

どうしてこいつのキスはこんなに優しいの。
あんなに自己中で凶暴でバカな俺様なのに、触れる唇は恐ろしいほど優しくて。
どんな時だってこの男にキスをされたらいつの間にか何も考えられなくなって・・・・・・
蕩けそうなほどの感触に溺れていってしまうんだ。



「はぁっ・・・・」

気が付けば抵抗していた体からはすっかり力が抜け落ち、顔を固定していた大きな手はつくしの背中へと回されていた。ようやく唇が離れて行ったと同時に艶めかしい吐息が零れる。

「お前今自分がどんな顔してるかわかってんのか?」
「な・・・・にが・・・?」
「すっげーエロイ顔してる」
「なっ・・・・!!」

変わらず至近距離でニヤリと笑う男の顔の方がよっぽど妖艶で。
カッと頬を染めて反論しようとした時にグイッと腕を引かれた。

「ちょ、ちょっと?!」
「ほら行くぞ」

いつの間にやら車は邸に着いていたようで、視線を後ろに送れば斉藤が後部座席のドアを開けて恭しく主が出てくるのを待っている。

いつからドアが開いていたのだろうか・・・?!
まさか見られた?!

全くもって今さらなことを悶々と考え込むつくしの体を引き寄せると、司は慣れた手つきで邸の中へと入っていった。





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晴れ、ときどき×× 5
2014 / 11 / 05 ( Wed )
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