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ゆく年くる年
2014 / 12 / 31 ( Wed )
「わぁ~、こんな小さなところでもやっぱり混んでるんだねぇ・・・」

見つめた先に溢れかえる人波を見てつくしはハァ~っと感心する。
ゴーン、ゴーンと、辺り一面に新年を迎える鐘の音が鳴り響いている。

「感心してる場合じゃねぇだろ。何が楽しくてわざわざ人混みに来なきゃなんねぇんだよ」

すぐ隣に立っている司がうんざりしたように前を見ている。
そこは子連れからカップル、引いては外国人まで、ありとあらゆる人でごった返している。

「だって日本人でしょ? だったらちゃんと新年の挨拶に来なきゃ!」
「あいにく俺は何の信仰もねぇんだよ」
「いーの! 大事なのはそういうことじゃないんだから。日本の昔からの風習に習うことだって大事なことなんだよ?」
「チッ、俺にはわっかんねーな・・・なんでわざわざ混んでるってわかってる場所に出向かなきゃなんねーのか」
「はいはい、ブツブツ言わなーい。じゃあ並ぶよっ!」

今だブツブツと愚痴が止まらないことに構うことなく、つくしは司の腕を掴んでグイグイと前へと引っ張っていく。口ではなんだかんだ文句を言いつつも、いとも簡単にその体は動いてしまうのだから、つくしは可笑しいやら嬉しいやらだ。



今日は12月31日、 大晦日だ。

牧野家では日付が変わる前に神社へ出向いてそこで新年を迎えてお参りをして帰る、それが幼い頃からずっと続いていた習慣だった。
独立してからはさすがにその機会も減っていたが、今日は牧野つくしとしてではなく 『道明寺つくし』 として迎える初めての年越しだ。初詣に行きたい!というつくしのお願いに盛大に嫌そうな顔をしてみせた司だったが、上目遣いのおねだり光線をビンビンに浴びてはその抵抗など瞬時に泡と消えてしまった。
有名所に行けばそれはそれは凄まじい人で溢れかえっているだろうからと、道明寺邸からほど近い地元の小さな神社へやって来たのだが・・・やはりさすがは大晦日。普段はほとんど人もいない小さな神社にも驚くほどの人出があった。

本殿へ続く行列の後ろまでやって来ると、つくしは司を引き連れてそこに並んだ。


「ここが最後尾みたいだね。じゃあ並んで待ってよ」
「何すんだよ?」
「え? 順番が来たらあそこでお参りするんだよ。司もやったことあるでしょ?」
「ねぇな」
「えぇっ?! ないの? 一回も?」
「あぁ、1回も」

年が明ければ司は間もなく25歳になる。
それなのに一度も神社にお参りに来たことがないなんて。
つくしは正直驚きを隠せない。

「え・・・じゃあ年末年始ってどうやって過ごしてたの?」
「あ? ・・・どうだったかな。もう覚えてもねーよ。使用人以外誰かが邸にいるわけでもねーし、せいぜいあいつらと適当に飲むとかそんな感じだったんじゃねーか? 年末年始なんてことを意識したこともねぇからな」
「ちっちゃい頃から・・・?」
「まぁな。節目に家族で何かをしたなんて記憶、俺には残ってねーからな」
「そう・・・なんだ・・・」

特段気にした様子もなくサラッと話す司だが、つくしは胸が苦しくなるのを止められなかった。
確かに今の司にとっては何でもないことなのかもしれない。
それでも、幼い少年にとってみればそれはきっととてつもなく不安で寂しいことだったに違いない。寂しいことが当たり前の日常だったから、だから諦めることが自然と身についてしまっただけで・・・

つくしはギュウッと司の腕にしがみついた。

「なんだよ? ・・・お前まさか泣いてんのか?」

自分を見上げるつくしの瞳がうっすら潤んでいるように見えて司は驚く。

「お前バカじゃねーの? 俺がそんなことでいちいち悲しむような男じゃねぇってことくらいわかってんだろ? ったくお前はすぐ情に流されんだから・・・」
「っ、泣いてなんかないっ!」

そう言って腕に顔を埋めてしまったつくしに呆れたように笑いながら頭をグリグリする。そうするとますますしがみつく力が強くなっていく。

「バーーーーーーーーーーカ!」
「バカじゃないっ! ・・・・・・寂しくないわけないじゃん。悲しくないわけないじゃん。だって子どもなんだよ? 家族と一緒にいたいって思うのは当然のことでしょ? ・・・・・・司はそうすることでしか自分を守れなかったんだよ・・・」
「つくし・・・・・・」

グスグスと、しがみついた場所からくぐもった声が聞こえてくる。司の顔がフッと緩むと、今度はポンポンと優しくつくしの頭を撫でた。

「ズズッ」
「おい、人の服で鼻水拭いてんじゃねぇ」
「・・・・・・ばれた?」
「ったく! お前は油断も隙もねぇ」
「えへへ、まぁまぁ。細かいことは気にしなーーい」

あははっと笑うと、つくしはあらためて司の腕にしがみついて顔を見上げた。

「あたしと家族になったからには覚悟しておいてよね? 仕事とかやむを得ない事情でもない限りありとあらゆるイベントを家族で過ごすんだから。今日はその1年の最初のイベントだよ!」
「・・・・・・ちっ、めんどくせぇな」
「あーーー! そこっ! 本音と違うことを言ってしまうそんな君にはおしおきです。はい、鼻水拭いちゃいますよー」
「おいっ!!」

照れ隠しでつい悪態をついてしまう司の胸元につくしが顔を近づけていくと、司は焦ったように体を仰け反らせた。

「あはははっ! 嘘だよーだ。 でも、家族でたくさん過ごすって言うのは本当だからね。あたしと結婚したからにはこれは譲れない条件です」
「つくし・・・」
「あ、もうすぐあたしたちの番が来るよ。行こっ!」
「・・・あぁ」

満面の笑顔で自分の手を引くつくしを見ていたら、人が多いことなんていつのまにかどうでもいいことになってしまっていた。司はそんな自分に笑いが止まらない。



それから5分ほどするとようやくつくしたちの番が回ってきた。礼儀作法としてなんとなくは知っていても、実際お参りになんてきたことのない司はどうしたものかと手持ち無沙汰な様子だ。

「はい。これもって」
「なんだこれ? ・・・5円?」
「そう。これをお賽銭箱に投げ入れるんだよ。そして鈴を鳴らして二礼二拍手一礼するの。その時にお願い事を頭の中で伝えてね」
「願い事すんのに5円かよ? 景気よく万札ぐらい入れたらどうなんだ」

手元の5円玉を信じられないものでも見るように司が眉を寄せる。

「あー、お金の問題じゃないんだよ? 大事なのはココっ!」

そう言ってつくしがドンッと胸を叩く。

「たかが5円、されど5円。この5円にだってちゃんと意味があるんだよ。『御縁がありますように』ってね」
「へぇ~・・・俺にはよくわかんねーな」
「いいからいいから。さっ、やってみよ!」

そう言ってつくしがチャリンと5円をお賽銭箱に投げ込むと、それに続くように司も投げ入れた。そして紐を掴んで2人で一緒に鈴を鳴らす。パンパン!と手を叩いてお参りする姿は、さすがは育ちのいい男、全てが様になっている。
それを見てあったかい気持ちに包まれながら、つくしも目を閉じるとじっと手を合わせた。





***


「ねぇねぇ、おみくじ引いていこっ!」
「おみくじ?」
「年始めの運試しみたいなものかな」
「なんだそりゃ」
「いいのいいの。ほら、司も1コ選んで! あたしはこれにしよっと」
「ったく・・・」

呆れながらも司は言われたとおりに1つおみくじを選ぶ。

「あーーーーっ! やったっ! 大吉だぁっ!!」

きゃーっとつくしから嬉しい悲鳴が上がる。たかがくじくらいで何を大袈裟な。
司は苦笑いしつつ自分の紙を開いていく。

「こんな子供だましみたいなもんにいちいち一喜一憂してんじゃねー・・・・・・あ。」
「えっ、何? 司は何だったの?・・・あ」

司の手に握られた紙に書かれているのは 『末吉』 の文字。

ふと視線が合うと司が何とも微妙な顔をしている。

「・・・・・・ぷっ! あはははっ!めちゃくちゃ不満そうなのが顔に出てるじゃん!」
「・・・・・うるせーな」
「ほらほら元気出して! ほらっ、中身は結構いいこと書いてあるよ? 言うほど悪くないじゃん!」
「いいんだよ。どうせこんなん子どもだましなんだから」
「ぷくくっ、うんうん、そうだねっ・・・」
「てめぇ・・・笑いすぎだろっ!」

プルプルと肩を揺らして我慢していたつくしだったが、とうとう耐えきれずに吹き出してしまった。
それと同時に司の額に青筋がビキッと走る。

「あははははっ! だって、司が可愛すぎてっ・・・」
「っざけんなっ! こんなもんっ・・・」
「あぁっ!! ダメだよっ!! 破いたりしないで! これはちゃんと神社に結んでいくんだから!」
「あぁ?!」

破り捨てようとした司の手を慌てて掴むと、つくしはそのままつかさの手を引いて敷地内にある1本の木の前までやって来た。

「おみくじはこうやって敷地内に結んで帰るんだよ。ほら、皆もしてるでしょ?」

そう言って見上げた枝には既にたくさんのおみくじが結ばれている。

「はい。じゃあ司も結んでね」
「・・・・・・」

決してやりたいわけではないが、やらないことには帰れなそうだと判断し、司は渋々上の方に紙を結びつけていった。

「・・・あれ、お前はやんねーのか?」
「え? あ、あたしはねー、大吉が出たからお守りにするの」
「結ぶんじゃねーのか?」
「うん。結んでもいいし、ラッキーアイテムとしてお守りにしてもいいんだよ」
「へぇー、要は何でもありってことだな」
「あははっ、それ言っちゃあおしまいだけど。まぁそういうことだね」

ははっと笑うと、つくしは大事そうにおみくじを鞄の中にしまった。

「願い事が叶うといいなぁ・・・」

ぽそっと。
聞こえるか聞こえないかの声で呟いた一言を司は聞き逃さなかった。

「お前の願い事って何だよ?」
「えっ?」
「今言ってただろ」
「え、聞こえてた? えーーーーと・・・司は? 司こそ何願ったの?」
「俺はもう叶ってるからな」
「えっ?」
「俺の願いはお前を手に入れることだけ。もう叶ってる。今の生活が続くんならそれ以上の願いなんてねぇよ」
「司・・・」

相変わらず。
キザなセリフを恥ずかしげもなくサラッと言ってのけるこの男は。
どうしてこの男が口にするとギュンギュン胸が締め付けられるのだろうか。

「で? お前は何なんだよ?」
「あたしは・・・・・・・・・・・・・・・ナイショ」
「はぁ?」
「ふふっ、叶ったときに教えてあげるね」
「なんだそりゃ」
「いいのいいのー! じゃあ帰ろっか」
「・・・だな」

どちらからともなく手を伸ばすと、ギュッと固く手を繋いで歩き始める。
2人の頭上からはまだ鐘の音が響き渡っている。


「今年もいい年になるといいねぇ」
「俺といるんだからなるに決まってんだろ」
「あははっ」

吐く息は真っ白で寒いはずなのに、ちっとも寒くなんかない。


笑顔の溢れる2人に一歩ずつ、もうすぐそこまで近付いて来ている。



新たな幸せが。
・・・・・・新しい家族が。



つくしの願いが叶う日がやってくるのは、もう、すぐ目の前の未来のこと____








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