星降る夜に奇跡をひとつ 2 by うさぎ
2015 / 02 / 13 ( Fri ) 「もう戻らないと・・・」
鏡の前で気合を入れると同期の二宮 翔子さんがトイレに入って来た。 「牧野さん?大丈夫?酔った?」 「あっ二宮さん。はい。ちょっと。お酒弱いので。」 「そっか。私も強い方じゃないけど、今日は飲ませられたからちょっと酔ったかな。ってか、同期なんだから名前で呼んでもいいかな?」 「いっいいですよ。」 「クスッ敬語もやめない?」 「あっわかりました。やめますっ。あれ?やめるね。」 「良かった。つくしちゃんと仲良くしたかったんだけど最近なんか深刻に悩み事でもあるのか話しかけづらかったから、仕事以外で話せなかったの。」 「ははは。なんか自分が嫌いになりそうで・・・。」 「ん~、あっそうだ。ちょっと待って。」 そう言って二宮さんは鞄から小さなポーチを取り出した。 「ちょっとだけ、髪のアレンジとメイクしてもいいかな?」 「えっいや・・・」 「お願いっ。やらせてっ。」 私より5センチ低い彼女の上目づかいの可愛い目線にNOとは言えなかった。 メイクルームが併設されてあるトイレ。 椅子に座り、髪をセットしてもらう。 「つくしちゃんってずっと髪の毛を後ろで一つに結んでいるじゃない?髪をおろしてこうすれば・・・・・はいっ」 仕事の時は、長い髪が邪魔でいつも後ろに結んでいた。 おしゃれよりも楽な方がいい、そういう考えだった。 少し手を加えてもらったら、あたしじゃないみたいになった。 「やっぱり、可愛い。」 「えっあっありがとう。」 「じゃあ、ちょっとアイシャドウとアイラインを入れさせてね。」 そう言ってあたしの顔に高そうな化粧品を惜しげもなく使ってくれた。 「出来た。つくしちゃん目が大きいから化粧映えするね。羨ましい。」 「そんなことないよ。」 「えぇーそれ私にケンカ売ってるの?」 口をとがらせて言う二宮さん。 「えっ」 「うそだよー。リクルートスーツなのが残念だけど、とってもかわいいよ。 つくしちゃんは社内でモテるんだよ。この姿見たらきっと男性陣はイチコロだね。」 そう言ってウィンクした。 「なっあたしがモテるなんて絶対ないから。そんなもの好きそうそういないってば。」 全力で否定するあたしに笑う。 「クスッつくしちゃんって鈍感な人だと思ったけど、思ってたより結構鈍感なんだね。」 「ど鈍感かな?」 「鈍感だよ。もう戻ろっか?」 「うん。」 あたしを好きになってくれるのは道明寺くらいだ。 それなのにあたしはいつも自分の事ばっかりで、あいつの気持ちを考えていないのかもしれない。 彼氏が覚えていて自分が誕生日を忘れているってありえないよね。 部屋に戻ると、自分の席に他の人が座っていたので、扉の近くに座った。 座ると一斉にこっちを見られた。 「まま牧野さん?」 目を擦ってあたしなのか確認する男性陣。 「やっぱり変ですか?」 「変じゃない変じゃない。今までも清楚に見えて可愛いのに、今までのイメージと見違えた。」 「牧野かわいいぞー」 「食べちゃいたい」 酔っぱらった上司や先輩方が野次を飛ばす。 本心じゃないことはわかってますから。 「まきのーのめー」 同期の相葉 潤さんがあたしにビールを差し出す。 「ビールはちょっと・・・。」 「酔っぱらったら俺が送ってくよ。」 「いや、それはいい。自分で帰れるから。」 全力で断る。 「おー、相葉が牧野にフラれてるぞー。」 「なっ」 告白されてないですから。 変な事言わないでよ。 この人確か、社内でもモテるって聞いてことある。 「大野先輩、まだ告ってもないんですよ。牧野は鈍感なんで。」 また鈍感って。どうせあたしは鈍感ですよ。 「じゃー今言っちまえ。牧野はクリスマスでも残業する奴だ。フリーに決まってる。相葉、健闘を祈る。」 そう言って、敬礼していた。 相葉さんも敬礼し返す。 あたしに正座で向き合う相葉さん。 大きく深呼吸した。 静まりかえる部屋。 期待している視線が痛い。 「牧野、俺はお前が好きだ。付き合ってくれ。」 差し出された手。 全員が固唾を呑んで見つめている。 「ごめ」 バンッ あたしの言葉は、突然大きな音を立てて開いたドアの音でかき消された。 開いたドアの前に立っていた一人の男。 音信不通だったあたしの彼氏、道明寺司が立っていた。 「おい、てめぇ俺の女に告ってんじゃねぇよ。」
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星降る夜に奇跡をひとつ 3 by みやとも
2015 / 02 / 13 ( Fri ) 青天の霹靂。
鳩が豆鉄砲を食ったよう。 今の自分を表現するならまさにこの言葉が相応しい。 でもそれは決してあたしだけじゃなくて。 この場にいた全員がポカンと口を開けて突如現れた男に目を奪われていた。 最初に我に返ったのは相葉さんだ。 「あ、あの、どちら様ですか・・・?」 目の前で仁王立ちする大男にびびっているのだろうか、かなり弱腰だ。 「あぁ?てめぇこそ誰だ。人の女にちょっかい出すなんざ、それ相応の覚悟はできてんだろうな」 「えっ?!女・・・・・?」 人を殺しかねない鋭い睨みに縮み上がりながらも相葉さんは耳に入った言葉を繰り返す。 やがて室内がザワザワと騒がしくなり始めた。 「ね、ねぇ牧野さん、女ってまさか、この男性って牧野さんの・・・?」 「えっ?あ、あははははは」 すぐ隣に座っていた二宮さんが道明寺とあたしを交互に見ながら耳打ちしてきたが、この場にいる全員の視線が突き刺さり、もう笑うしかない。 「あれ誰・・・・?」 「めちゃくちゃカッコイイ~!」 「っていうかどっかでみたことないか?」 「誰だっけ・・・・?」 会場のあちらこちらからそんな声が聞こえてくる。 あぁ、これまで彼氏がいるか疑問にすら思われたことのないあたしが。 別に隠してたわけでもないけど、内心平穏に過ごしたかったのも本音で。 それでもいつかはこういう日が来るだろうとは覚悟はしていたのだけれど。 よりにもよってこん な形でばれることになろうとは。 「なぁ、牧「おい、牧野」 オロオロしながら声をかけてきた相葉さんに被せるようにして響いた重低音。 ビクッとお尻が浮いたような錯覚を覚える。 頭上から痛~~~い視線をビリビリと感じながらゆっくりと顔を上げていく。 ・・・・うっ!! そんなに怖い顔で睨まないでよ! 「ひ、久しぶり」 へらっと。どうしていいかわからずにとりあえず笑ってみる。 ピキッ! 瞬間、あいつの顔に青筋が一本立ったような気がした。ヒ、ヒィっ!! 「久しぶりじゃねーよ。さっきのは何なんだよ。今日は仕事なんじゃなかったのか?」 「し、仕事だよ!ここにいるのは全員職場の人なんだから!」 「じゃあ何で告白なんかされてんだよ。 おかしいだろうが!」 「そっ、それは・・・!」 あたしに言われても困る!・・・・と言いたいけれど怖くて言えない。 どうせお前に隙があるからだとか言われるに決まってる。 あたしが望んで告白されたんじゃないのに! っていうか相葉さんは何かの罰ゲームでもさせられてたんじゃないの?! 「しかも何なんだよその格好は・・・」 「へ?」 格好って・・・色気もクソもないただのリクルートスーツですけど? 「うなじがチラッと見えるような髪型に妙に色気づいた化粧してんじゃねぇか」 「あっ、これは・・・!」 そうだった。さっきレストルームで二宮さんにやってもらったんだった。 自分じゃ見えないからすっかり忘れていた。 「人が必死こいて来てみりゃあ お前は相変わらずフラフラしやがって・・・!」 「ちょっ、ちょっと!人聞き悪いこと言わないでくれる?!」 「事実だろうが!」 「あのねぇっ!」 突然目の前で始まった言い争いにその場にいる全員が固唾を呑んで見つめている。 「あ、あのっ!!」 その時、震える声で二宮さんが手を上げてあたしたちの間に入ってきた。 「わ、私です・・・・」 「あぁ?」 道明寺の切り返しに二宮さんが一回り小さく縮んだような気がする。それでも彼女は諦めない。 「私なんです!牧野さんのメイクとヘアアレンジさせてもらったのは。さっきお手洗いで話したのが楽しくて、それにちょっと落ち込んでたみたいだから元気づけようと思って、それで・・・・ごめんなさい!だから牧 野さんは何も悪くないんですっ!!」 そう言うと二宮さんはガバッと頭を下げた。 「ちょっと二宮さん!そんなことしないで!」 「いいの、私の余計なお世話が喧嘩の原因になってるのは事実なんだから」 頭を上げるように肩に手を置いても二宮さんは引かない。 あたしは道明寺をキッと睨んだ。 「ちょっと道明寺!あたしの友達になんてこと言わせるのよ?!彼女は何も悪くないんだから!」 さすがにこうも堂々と謝られてはこれ以上何も言えないのか、道明寺もバツが悪そうな顔をしている。 「・・・わかったよ。悪かったな」 「・・・・!いえ、こちらこそすみませんでした」 二宮さんがホッとしたように笑って目を潤ませている。 「おい、今道明寺って 言ったか・・・?」 「道明寺って、あの?!」 「っていうか俺、経済誌で見たことあるぞ」 「えっ、じゃあ牧野さんの彼氏って道明寺財閥の・・・・?!」 一難去ってまた一難。 今度はあたしの口から飛び出した道明寺という言葉に室内が異様などよめきに包まれていく。 相葉さんが驚愕の顔で私を見ている。 「お、おい牧野、本当なのか?」 「えっ、えーと、は・・・」 「おい、そこのお前」 「は、はいっ!!」 ドスのきいた声にご指名を受けた相葉さんがビクッと跳ねた。 次の瞬間、あたしの体が大きな手にグイッと引き寄せられ、気が付いたときにはあいつの胸の中にすっぽりと収められていた。 「ちょっ、ちょっと?!」 「いいか、耳をかっぽじってよーーーー ーく聞いとけよ。こいつは俺のもんだ。指一本髪の毛一本も触れることは許さねぇ。万が一の時は・・・・・・それ相応の覚悟をしておけよ。・・・わかったか?」 「は、はいィっ!!!!」 相葉さんは直立不動で壊れたロボットのようにただ首を縦に振り続ける。 これじゃあ完全な脅しじゃないか! 「ちょっと道明寺!すごまないでっていつもんっ・・・・・・・!!!!!!」 口から出かけた文句がすっぽりと呑み込まれる。あいつの中に。 何を思ったか、あいつはそのままあたしに覆い被さると皆が見ている前で濃厚なキスをしてきた。 「ん~、ん~~~~っ!!!!」 ジタバタ体を動かして抵抗してもうんともすんとも言わない。 あいつが少しでも本気を出せばあたしの 力なんてありんこ以下なわけで。 為す術もなく全員の視線を浴びながらされるがまま翻弄され続けた。 「はぁっはぁっはぁっ・・・・・」 「おっと」 ようやく解放された時には足元からガクッと崩れ落ちて。 あいつはそれを予想していたかのようにいとも簡単に抱きとめた。 「こいつの荷物は?」 「えっ?あ、あぁっ、こちらです!!」 たまたまあたしの近くに座っていた同僚が献上物を捧げるように道明寺にあたしの荷物を差し出している。 「じゃあこいつはもらってくから」 そう言うと、片手でヒョイッとあたしの体を持ち上げてその身を翻した。 だが一歩進んだところでピタリと止まる。 「あ、そういえばここの会計は全部済ませてっから。じゃな」 最後の捨て台詞を残して道明寺は颯爽とその場を去って行った。 まるでハリケーンでも過ぎ去ったかのように、 その場に残された誰もがしばし動くことができなかった______ なんてことを聞かされたのはもう少し先の話。
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星降る夜に奇跡をひとつ 4 完 by うさぎ
2015 / 02 / 13 ( Fri ) 抱きかかえられたまま店を出る。
店の前にハザードランプを点滅させてリムジンが横付けされていた。 あたしを抱きかかえたままリムジンに乗る。 扉を閉める運転手に邸向うように指示を出す。 それ以降、無言だった道明寺が大きなため息を吐いた。 「はぁ~~~」 ため息を吐きたいのはあたしの方だ。 みんなになんて言ったらいいのだろう。 って言うか、膝の上に乗ったままなんですけど。 「なぁ、牧野。」 さっきまでの俺様な態度の奴からは考えられない弱弱しい声が聞こえた。 「・・・なに?」 「今日何の日か知ってっか?」 「・・・あたしの誕生日」 「好きな女の誕生日を祝いたいと思う俺は変か?」 「・・・・変じゃないです・・・。さっきまで自分の誕生日だってことを忘れてた。」 「・・・・だと思った。」 「・・・・ごめん。」 また無言になった道明寺。 怒っているんだろうけど、あたしを抱きしめる腕はとても優しかった。 程なくして邸に着いた。 使用人、執事がお出迎えをしてくれるこの邸。 いつもは道明寺の後ろを、ペコペコと頭を下げて通り過ぎるが今日は違う。 「ちょっと、歩ける。降ろして。」 「うるせー、黙ってろ。」 お姫様抱っこをされてリムジンを出た。 さっきまでの俺様に戻ってしまった。 うげぇー 恥ずかしすぎる。 「顔見られたくなかったら、寝たふりして俺の方向いておけ。」 頭の上から聞こえるのは小声の優しい声だった。 「・・・うん。」 目を閉じ道明寺の胸板に顔をうずめる。 道明寺のコロンの匂いに、ずっと恋しかった温もりに涙が出そうになった。 「「「「「お帰りなさいませ。」」」」」 一斉に聞こえる声、今日はごめんなさい。 「タマ、準備してたか?」 「えぇ、仰せの通りに。寝ているのですか?」 「あぁ。今日はもう下がれ。部屋にも来なくていい。」 「畏まりました。つくしにたんじ」 「タマ、俺より先に言うな。」 「失礼しました。」 タマさんごめんなさい。気持ちはちゃんと受け取りました。 長い廊下を、あたしを抱きかかえて歩く道明寺。 「もう、目開けてもいいぞ。」 その声で瞼を開けると、土星を見た部屋の前だった。 あたしを抱きかかえたまま扉を開ける道明寺。 おろしてくれてもいいのに。 ゆっくりとベッドにおろされた。 顔が近い距離。 目が合うと、綺麗な顔の道明寺の顔が近づいてきた。 そっと触れる唇。 さっきの濃厚なキスではないが、道明寺はキスが上手い。 一度知ったら抜け出せない。あたしを乙女へと変貌させる。 瞼を開けると整った顔の道明寺が微笑んだ。 「牧野、誕生日おめでと。」 「・・・ありがと。」 何だか照れくさい。 「ちょっと、待ってろな。」 ? 天体望遠鏡を覗き込む道明寺。 前は1時間以上かかったのに、そんなに時間はかからず見つけたようだ。 「牧野、こっちに来い」 差し出された手で起き上がり、天体望遠鏡を覗き込む。 「きれー。あっ流れ星。」 願い事言いそびれちゃった。 「天気が良くて良かったぜ。俺が天気を気にするなんて青天の屁こきだな。」 ・・・・これと温厚な性格ならば、完璧な男なのだが・・・。 でも、これでこそあたしが好きな道明寺だ。 「土星見せてくれてありがとう。」 「おう。」 あたしを抱きしめる道明寺。 あの時のあたしは道明寺が好きなのかわからなかった。 でも、今は違う。 大好き・・・いや、愛してる。 包まれていた腕を離され、見つめ合う。 そこには決意を固めた時の道明寺の顔があった。 その顔は渡米を決意したあの時の道明寺の顔とダブった。 「牧野、結婚して。」 聞こえた声が、またあの時とダブる。 「えっ結婚って・・・社会人として最低でも2年働いていいって。」 自分も社会に出て働いてみたいと我儘をいい、2年だけ結婚を待ってもらっていた。 「あの時はそうだった。・・・・またNYに行くことになった。」 「えっ」 「デカい事業で俺が担当する。3年は確実にNYだ。」 「3年?」 「あぁ、俺はお前ともう離れたくねぇ。お前はどうなんだ?」 あたしの肩を掴む道明寺の手に力がはいる。 「・・・あたしは・・・・」 約束通り4年で帰って来た道明寺。 帰って来て日本で仕事をする道明寺は長期の出張で海外に行くことは何度もあったけど、日本に赴任しているから帰って来ることが当たり前だった。 大学にバイトのあたしと分単位で構成されたスケジュールの道明寺。 すれ違いの生活だったけど、それでも時差を気にしない電話と頑張れば会える距離。 4年の遠距離の時より恋人らしいあたしたちの関係だった。 あたしが大学を卒業してお互い社会人になった今でも、忙しい中時間を作って会えることがうれしい。 それがまた離れ離れだなんて・・・ 「牧野、お前はあの時俺の10分の1しか好きじゃないって言ったよな? 今はどうなんだ。」 「・・・今は・・・・。」 あの時よりもっともっと道明寺が好き。大好き。 あたしはどうしたらいいんだろう。 道明寺と対等になりたくて今まで頑張って来た。 もう離れるなんて嫌だ。 魔女は?ラオウは?認めてもらえた? 頭の中でグルグルと考える。 道明寺と連絡取れなかったこの数日。 聞きたかった声。 包まれたかった腕。 触れたかった唇。 あたしは・・・・・ 涙が溢れていた。 「・・・泣かせるようなこと聞いたか?」 横に首を振る。 道明寺が優しく流れた涙を拭いてくれた。 「・・・・好きだよ。あの時より・・・大好き。」 「じゃあ、俺についてこい。お前の心配してることはなんもねぇよ。あの時守れなかったけど、今は守ってやれる。」 「・・・・守ってもらうのはイヤッ。」 「ったく、相変わらず可愛くねぇな。」 道明寺はポケットから小さな箱を取り出した。 「俺を幸せにしてくれ。」 差し出された指輪、初めてもらったのは病院の中庭だった。 あれから数年。 あの時のバカでかいダイヤではなく、私のことを考えて選んだ小さなダイヤモンドの指輪。 道明寺、相手のことを考えられるまでいい男になったんだね。 「・・・いいよ。あたしがあんたを幸せにしてあげる。だからあたしも幸せにして。」 ニヤリと笑う道明寺。 「任せとけ。」 そっと指輪を左薬指にはめてくれた。 はめた指輪を撫でる道明寺があたしの手を強引に引っ張った。 「キャッ」 包み込まれる男らしい腕。 私は土星の球体だろうか。 この温かい腕は土星包み込むリング。 守られるだけじゃいやだけど、この人になら守ってもらってもいいかな。 月に照らされた道明寺。 あの時、触られただけで逃げた。 でも今は触られたいと思っている。 甘く優しいキスから深くなるキス。 あたしは道明寺を愛してる。 道明寺の背中に腕を回す。 離れた唇は、お互いの唾液で濡れていた。 唇を月明かりが照らし輝く。 窓から月と星があたしたちを照らしていた。 「プレゼントは忙しくて買えてねぇから、今年のプレゼントは俺な。受け取れ。」 プレゼントは俺って。 あんたそれ女の子が言うセリフだよ。 見た目はすっごくかっこいいのに、日本語が弱い。 短気で、嫉妬深くて、女々しくて、ロマンチスト。 そんな道明寺があたしは大好き。 「いいよ。プレゼントなら包装とらないとね。」 そっと、道明寺のワイシャツのボタンに手を伸ばした。 「あぁ。」 抱き合いお互いの体温を感じ、愛を確かめ合う。 カーテンの隙間から流れ星がまた見えた。 あたしの願いは・・・・ 道明寺とずっと一緒に居られますように・・・・ 数年前、土星のネックレスをもらったこの部屋で、プロポーズの言葉と指輪。そして道明寺をもらった。 「牧野、愛してる。」 耳元で囁く甘く低い声。 「・・・あたしも。愛してる。司。」 あたしの言葉に、目を見開いたあと少年のような顔で笑った道明寺がいた。 その笑顔が、あたしが一番欲しかったプレゼントだ。 FIN HAPPY BIRTHDAY TSUKUSHI
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