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私をスキーに連れてって 前編
2015 / 01 / 25 ( Sun )
「わぁっ?!」

ドザザザッ!!


「・・・・・・・・・もぉおおお~~~っ!!!」

つくしは雄叫びをあげるとその身をボフッと後ろに倒した。
勢いよく倒れていったが、柔らかくて冷たい感触がふわりとその身を受け止めてくれる。


「・・・・・・はぁ~、綺麗だなぁ・・・」

大の字に寝転がりながら上を見上げると、雲一つない真っ青な空が自分を見下ろしていた。
白と青のコントラストに思わず感嘆の息が零れると、吐き出した息もまた真っ白にとけていく。


・・・・・・・シャーーーーーーーー・・・・


「・・・ん?」

どこからともなく聞こえてくる音に首だけ起こして辺りを伺う。
・・・・・・と。


シャーーーーーーーーーーッ ズザザザッ!!!!


「きゃあああああああっ?!!!!」

凄まじい音と共に襲いかかってきた真っ白な壁に、つくしの体が再び真っ逆さまに倒れ込んだ。

「・・・ははっ!」
「~~~~~~~~~っ! ちょおっとぉっ!!!!」

真っ白な中に怒り狂った真っ赤な頬が浮かび上がる。

「わりぃわりぃ。ほら、手ぇ出せ」

ヌッと差し出された大きい手を苦々しい顔で掴むと、あっという間にその体が引き起こされる。

「もうっ! 全然悪いと思ってないでしょっ?!」
「はははっ、思ってるって」

目の前の男は実に楽しそうにつくしの体に貼り付いた雪をはたき落としていく。

「絶対思ってないから! 何なのよその笑顔はっ!」
「お前もたいがいしつけーな。そうカリカリすんなよ」
「あんたが子どもみたいなことするからでしょっ?!」
「はははっ!」
「全く・・・!」

ぷりぷり怒りが収まらないつくしを宥めているのかはたまたからかっているのか、司は雪を落としながら頭をポンポンと撫でる。その顔は相変わらずニコニコ上機嫌だ。


「つくしぃ~~っ!」
「えっ? わぁっ!!!」

ズザザザザザーーーーっ!!!

声のする方へ振り向きざまに再び白い壁がつくしを襲う。
司が体を掴んでいたから倒れこそしなかったが、真っ正面からもろに喰らった格好だ。

「あちゃ~、ごめぇ~ん! えへへっ」

俯いたままぷるぷると小刻みに震えるつくしに滋がてへっと舌を出す。

「・・・・・・・・・・・・ちょおっとぉ!!!! あんた達はなんで皆そうなのよっ!!!」
「きゃーーーーっ!!」
「うおわっ!」

ガバッと顔を上げるとつくしはその辺にある雪をむんずと掴み、手当たり次第に投げ始めた。至近距離にいた滋と司の顔面に直撃してもなおつくしの怒りはおさまらない。

「バカお前、やめろっ!」
「うるさーいっ! 元はといえばあんた達がやったんでしょぉっ! しかも雪の量が比較にならないっての!」
「きゃーきゃー!!」

まるで小学生のように雪を投げ合いながらギャーギャー騒ぎ回る。

「おまえらなーーにやってんだ? ブッ!!」
「あっ! 美作さんごめんっ! でも今それどころじゃないから!」

騒ぎを聞きつけて近付いて来たあきらの顔面に雪玉がクリーンヒットする。

「あいつら何やってんだ?」
「・・・さぁな。とりあえず俺もお見舞いの一発をもらったわ」
「ははっ。つーか司がこんなことするなんて信じらんねぇな」
「ほんとですよねぇ。道明寺様が雪合戦とか・・・かなりレアな光景ですね」

三つ巴の激しいバトルを繰り広げる姿を物珍しいものでも見るように総二郎達が見ていたのを当の本人は知る由もない。






司が帰国して8ヶ月余り。
つくしの大学が休みに入ったこともあり、突然滋が旅行に行こうと言い出した。
最初は女だけの旅になる予定だったが、それに異議を唱えたのは司だった。

帰国したとはいえ、立場的に多忙を極める日々。さらにはつくしも大学最後の年ということもあり、2人が想像していたほどの甘い日々は送れていないのが現実だった。
だからこそ司としては何としてもこの冬につくしとの時間を作るつもりでいた。

そこにきて突然女共で旅行に行くなどとほざきだしたではないか。
人の苦労など知らずに嬉しそうに話すつくしに司は断固反対した。
が、つくしがはいそうですかと素直に聞き入れるはずもなく。
それからというもの 「行く」「行くな」 の押し問答は延々と繰り返された。

そこに折衷案を出したのが滋だ。だったら皆で行ったらどうかと。
当然の如く司は論外だとバッサリ切ったが、それとは対照的につくしは乗り気だった。
あのメンツで旅行ができるなんてそうそうないというのもあるが、つくしにとって純粋に大人数でどこかに出かけるということに憧れがあった。

中学まではともかく、高校・大学と英徳で過ごしているつくしは、実は修学旅行に行っていない。
修学旅行ですら数百万の費用がかかるからだ。もはや学生の旅行レベルではなく、牧野家にそんなお金があるはずもなかった。
・・・まぁそれ以前にあの欲と虚栄心の塊の集団とどこかにでかけたいとも思わなかったのだが。

そういうこともあり、仲間内で行く旅が楽しみでしょうがなかった。
結局最後まで譲らなかったつくしに折れる形で司も参加することを渋々了承したというわけだ。
提案したのは滋だったが、最終的には道明寺家の所有するスキー場へとやって来た。当然ながらゲレンデも宿も完全貸し切りだ。

美男美女は何をやっても様になるらしく、一人転がりまくるつくしを尻目に、皆スイスイと真っ白なゲレンデを駆け下りていく。もしこれが一般客も混じったゲレンデだったら、認めたくはないがその場にいる誰もが釘付けになるに違いないほどカッコイイ。

天は二物を与えるとはなんて憎らしい!

最初はつくしにマンツーマンで滑りを教えていた司だったが、いつまでも自分につきっきりになってもらうことが気の毒で仕方がないつくしが半ば無理矢理司を上級者コースに追いやった。

そして超初心者コースでのんびりしていたところで・・・・・・今に至る。


「っていうか何で皆そんなに上手いのよ!」

雪合戦で疲れ切ったつくしが肩で息をしながら真っさらな雪の上に座り込んだ。

「なんでって・・・小さい頃からやってたから?」
「そうですね。うちも冬になると別荘に行ってよく滑ってましたからね」
「まぁ俺らも似たようなもんだな」
「つーか俺の場合基本的に最初から何でもできるからな」

お家自慢から能力自慢まで、途切れることのない答えに思わず溜め息が出る。

「はぁ~~、生粋のお金持ちなのね・・・っていうか金持ちでスポーツもできるって卑怯でしょ!」
「いや先輩、その理屈意味がわかりません」
「天は二物を与えないんじゃなかったの?!・・・あ、でも道明寺の場合性格に難ありなのか」

サラッと人格否定をされて司のこめかみがピクッと動く。

「んだと? てめぇ・・・喧嘩売ってやがんのか?」
「えー? でも事実でしょ? 極悪非道を生き字引でやってるような人間だったじゃない」

ピクピクッ

「我ながら何でこんな男と付き合うことになったんだろうって今さらながら不思議だわ~あははは」

ビキビキビキっ!!

「おい牧野、正面見ろ」
「え? ・・・ひっ!」

総二郎の言葉にフッと顔を上げて見ると、般若の様な顔で司が自分を見下ろしていた。
顔中に怒りマークを貼り付けて。

「てめぇ・・・」
「あ、あははは。 ちょっとバカ正直に言いすぎちゃった・・・?」
「・・・全然フォローになってねぇだろうがぁ!!」
「きゃーーーーーーーーーーっ?!!! バカバカバカ、離せぇっ!!!」

笑って誤魔化そうとするつくしに司がヒグマの如くぐわっと飛びかかる。
座った状態のつくしは抵抗する暇もなくそのまま雪の上に押し倒されてしまった。
ジッタンバッタン暴れても司はぴくりともしないどころか、かえって新雪の中に体が埋もれていく。

「ぎゃ~~! 埋もれるっ・・・助けてぇ~!」
「助けて欲しけりゃ訂正しろ。俺の人間性は素晴らしいと」
「む、ムリっ! あたしは嘘がつけない性格なのっ!」
「・・・・・・・・・・・・」
「あーーーーーっ、やめてぇっ! そこに乗られたらもう身動き取れないからっ。し、死ぬぅっ!」
「じゃあ言え。私の恋人は世界一格好良くて素晴らしい男性だと」
「・・・・・・嘘はつけな・・・ぎゃーーーーっ!!!」
「よし、じゃあその口を塞いでやる」
「アホかーーーっ! ひぇぇえええっ、ムリ、ムリぃっ! 桜子、滋っ、助けてぇ~~~っ!!」

上に乗ったまま迫ってくる顔につくしが必至でSOSを出すが、ウンともスンとも自分を助けに来てくれる気配はない。

「誰か・・・ぎゃーーーーーーっんむっ・・・・!!」



「・・・あー、あほらし。バカップルは放っておいて先に戻ってよっか」
「そうですね」
「夕食前に温泉でも入ったらどうだ?」
「あ~、それいいねっ! 楽しみ~♪」

悲鳴が沈黙に変わったのを背中で聞きながら、他のメンツは薄情にもさっさとその場を切り上げていった。








***




「あ゛~、散々な目にあったわ・・・あいつら後で覚えてなさい!」

ようやくペンションへと戻って来られたつくしはヨロヨロと覚束ない足取りでウエアーを脱いでいく。
・・・と、だだっ広いロビーに置かれたソファーから足だけが顔を出しているのが見えた。

「あれ? ・・・お~い、類? まだ寝てるの?」
「ん・・・?」

つくしが近付いて覗き込むと、顔に本をのせたまま腕組みした状態で類が惰眠を貪っていた。
つくしの声が聞こえると目をしぱしぱさせながらうっすらと目を開いていく。

「あれ・・・もう終わったの?」
「うん。っていうか何で類は滑らないの?」
「うーーーん・・・眠いから?」

ふああと欠伸をしながら気怠そうに答える。

「眠いからって・・・わざわざ何しにここまで来たのよ」
「うーーん・・・牧野と一緒にいたかったから?」
「えっ!!!」

思わぬ言葉につくしの心臓がドキッと跳ねる。

「・・・なんて言ったらどうする?」

まるでつくしの心を見透かしたように類がいたずらっぽく笑った。

「・・・・・・もうっ! ほんっとあんた達って性格に難ありだわっ!」
「あははは、 『達』 ってなに」
「そのまんまの意味だよ! ほんっと一癖も二癖もあるんだから」
「はははっ・・・・・・あ。」
「え?」

笑い転げていた類の視線がつくしの後方に向いたまま止まった。
つられるようにつくしも振り返って見ると、再び般若面した男がこちらへと向かってきていた。

「てめぇら、何いちゃついてやがる」
「ひっ・・・! 何言ってんの?! いちゃついてなんかないから!」
「うるせぇ。顔が近すぎんだよ」

確かに覗き込んだこともあり顔はかなり至近距離ではあった。
というかどれだけ目ざといんだ!

「別にいいじゃん。俺と牧野の時間を邪魔しないでよ」
「んだとぉ~?」
「ちょ、ちょっと類っ! なんでそういう言い方すんのよ!」
「何が? だってそうでしょ? 2人で楽しく話してたんじゃん」
「そ、それはそうだけど・・・って、ひぃっ!」

いつの間にか真横には氷点下の睨みをきかせた男が。

「お前・・・いい加減類って呼ぶのはやめろっつってんだろ」
「え? だってこれはもういつの間にか変わってたっていうか・・・」
「だったら早く俺のことも名前で呼びやがれ。どう考えてもおかしいだろうが。類が呼び捨てで俺が名字のままとか」
「う~・・・だって、そんなに簡単には変えられないもん。道明寺は道明寺だし」

ピクピクッ

「そうだよ。俺と牧野の絆なんだからいちいちヤキモチやくなよ」
「だから類っ! そうやって面白がらないで!」
「だって楽しいんだもん」

ピクピクピクッ!

類のからかいにトドメはつくしの呼び捨て。
墓穴を掘っていることなど気付かずにつくしは司の地雷をこれでもかと踏みまくる。

「・・・・・・てめぇら・・・」
「えっ? ひえぇっ・・・!!」

おどろおどろしい空気を纏った司につくしの危険センサーが激しく反応する。
このままではさっきの二の舞になりかねない。
類の目の前で押し倒してこれでもかと見せつけるような行為に及ぶ。
この男ならやる。 絶対にやる!


「あっ、あたしお風呂に入ってくるから! あんた達も入ったら? じゃあねっ!!!!」
「あっ、てめぇ待ちやがれっ!!!」

捨て台詞を残すとつくしは脱兎の如くその場から逃げ出した。
まだウエアーを身につけたままの司がいつものスピードが出せずにもたつく間にあっという間に視界から消えていく。

「くっそー、あの女。後で覚えてやがれ!」

頭をガシガシと掻きながら苦虫を噛み潰したようにそう吐き捨てると、面白くなさそうに司も引き上げていった。




「・・・どうしてわざわざ来たのかって? こうやって面白いもんが見られるからに決まってるじゃん」


類は再びその体をソファーに横たえると、堪えきれないように肩を揺らして笑い転げた。








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00 : 03 : 07 | 私をスキーに連れてって | コメント(5) | page top
私をスキーに連れてって 後編
2015 / 01 / 26 ( Mon )
「あ~、生き返る~! やっぱ日本人はお風呂だよねぇ」
「ぷっ、先輩、それじゃオヤジですよ」
「え~? でも皆だってそう思うでしょ?」
「まぁそれは否定しませんね」
「ほら~! あ~極楽極楽~♪」

夕食までの空いた時間、女3人でお風呂へとやって来た。
ペンションには源泉掛け流しの天然温泉があり、入った瞬間たちまち肌がつるつるになるほどの最高の泉質だ。

フーッと息を吐きながら一日の疲れを癒やすつくしの目の前を大きな桃が横切っていく。

「・・・ちょっと、滋っ! お尻出てるからっ!」

・・・いや、桃ではなく尻だ。
だだっ広い露天風呂を滋がスイスイと手をつきながら泳ぎ回っている。
右に左に動く度にキュッと引き締まったなんとも可愛らしい小尻がつくしの目の前を通過していく。

「え~? 女同士なんだから別にいいじゃん」
「いいって・・・女同士でも目の前にお尻が浮いてたら気になるでしょ!」
「そうかな~? だってこんなに広いんだもん。普通、泳ぎたくなるでしょ~」
「まぁ、そこは否定しないけどさ・・・」
「いや先輩、そこは否定しましょうよ」

素早い桜子のツッコミに思わず笑う。
いや、見ている人がいなければついつい泳ぎたい衝動に駆られるのはきっと皆同じはずだ。

「でもさぁ、ほんとにお金持ちってすごいんだねぇ」
「え? 何が?」
「だってさ、いつ来るかもわかんないのにこのペンションとスキー場まで作るなんてさ。もったいないったらありゃしないよ」
「まぁ、道明寺さんの場合またランクがさらに上がるから一概には言えないですけどね」
「でも皆だって別荘とかはあるわけでしょ?」
「それはまぁそうですね」
「ほら~、やっぱり凄いよ。っていうか一生慣れない世界だわ・・・」

うーんと背伸びをしながらつくしが呆れたように息を吐き出す。

「でもさー、司と結婚したらこれが当たり前になるんだよ?」
「えっ?!」
「えって。だってそうでしょ?」

ようやく尻泳ぎを終えた滋がつくしの隣までやって来る。

「でもまだ結婚なんて・・・」
「えーっ? しないのっ?!」
「いや、そうじゃなくって。まだそこまでは早いって言うか・・・」
「でも道明寺さんはいつでもその気なんじゃないですか?」
「う・・・それは・・・」

否定できない。
何故なら帰国して真っ先に 「結婚するぞ」 と言われていたから。
当然学生の身分であるつくしが了承できるはずもなかったが、司としては卒業したらすぐにでもそうする気満々のようだ。

「したくないの?」
「いや、そういうことでもなくて、何て言うか・・・その・・・」
「怖じ気づいちゃったんですか? 身分の違いに」
「うっ・・・!」

図星をつかれて言葉に詰まる。

「まぁ気持ちとしてはわからなくないですけどね。私たちからみても道明寺さんは雲の上の人ですから」
「・・・だよねぇ」
「でもそんなの今さらじゃないの?」
「そうなんだけど・・・」
「けど何ですか?」

今さらなんだと言わんばかりに2人の鋭い視線がつくしにビシビシと突き刺さる。

「何て言うか・・・さ、あいつ、変わったよね?」
「は?」
「なんか、大人になったって言うか・・・」
「はぁ~? そんなん4年も経ってるんだから当然でしょ。10代と20代じゃ違うよ」
「うん、そうなんだけどそうじゃなくて・・・」
「内面のことを言ってるんですか?」

しどろもどろ上手く言葉にできないつくしの代わりに桜子が代弁する。

「・・・そう。なんて言うかさ、さっきみたいにすっごいくだらないことやったり、すぐ嫉妬したりするところは変わってないのに、ふとした瞬間突然あいつがもの凄く大人びて見えるときがあるんだよね。なんか、あたしの知ってる道明寺じゃないっていうか・・・」
「う~ん? いまいちよくわかんないなぁ」
「・・・私はなんとなくわかる気がします」
「えっ?」

首を傾げる滋の横で桜子が妙に納得したように頷いた。

「道明寺さんって昔から大人と子どもが混在しているような方でしたよね。赤札なんて貼ってた頃はまさに悪ガキがそのまま成長したような感じでしたし・・・。でも、一方で凄く引いた目を持ってるっていうか、実は誰よりも物事をクールに捉えてた人でもあって。まぁある意味では不思議なアンバランスさのある男性ですよね」
「そう! まさに桜子の言う通りなの!」

つくしはあまりにも的を射た指摘に思わず桜子の手をガシッと掴む。

「それで? 帰国したら大人の部分が一気に成長してたってことですか?」
「・・・・・・多分。なんか、一緒にいてほんとにあいつなの? って思うくらい大人びて見えることがあってさ」
「だって4年間もアメリカで頑張ったんだよ? 成長して当然じゃん」
「うん。そうなんだよね。そうなんだけど・・・なんか、一方で自分は全然成長できてないような気がして・・・何て言うか、さ」
「はぁ~・・・、またそうやって一人でグルグル考えちゃってるというわけですね」
「う・・・」

まるで説教をされているようで思わず小さくなってしまう。

「道明寺さんが大人になったのは先輩がいたからじゃないんですか?」
「えっ?」
「先輩を迎えに行くだけに相応しい人間になろうと努力した結果が今なんでしょう? 厳しい世界で相当頑張られたんだと思いますよ。それも全ては先輩、あなたと一緒にいるためじゃないですか」
「あたしと・・・」
「そうですよ。あの道明寺さんにそこまでさせられる女なんてどこを探したっていないんですから、もっと自分に自信を持ってくださいよ」
「そうだよーつくしぃっ! この美しくてナイスバディのあたしたちですら司はなびかなかったんだから!」

そう言うと滋が立ち上がってスタイルのいいボディをポージングしながら見せつける。

「ちょっ・・・滋っ! だから堂々と見せないでって言ってるでしょ?!」
「え~、別に減るものじゃないしいいじゃーーん!」
「まぁ先輩が堂々とできない気持ちはわかりますけどね」

桜子がお湯の中のつくしの体をじーーっと見ながらチクリと呟く。

「ちょっと、桜子っ!! 否定はできないけど言わなくていいでしょ!!」
「つくしって確かに出るとこはあんまり出てないしくびれもいまいちだけどさ」
「おいっ!」
「でも色は綺麗だよね~」
「・・・・・・はぁっ?!」

意味がわからずに変な声を出すつくしに滋がにニヒヒと笑って指で胸を突っついた。

「ほら、ピンクで綺麗」
「ぴっ・・・・・・!」
「あと小さいけど形はいいよね。肌も白くて綺麗だし」
「ぎゃあっ!! な、な、な、何言ってんのっ?!」
「えー? そこって結構重要なポイントなんだよ? 男からしたらピンク色って堪らないんだって」
「知らないよっそんなこと!」
「そうですよ、先輩。顔はいじって変えられても肌質は変えられないんですから。そこは先輩が大いに自信を持っていいところですよ」
「そうだよつくしぃ~! 司だって絶対喜んでるって。なんかさ、きもーち少しだけ胸も大きくなってない?」
「言われてみればそんな気もしますね」
「ぎゃーーーっ!! 触るなバカッ! 変態っ!!」

ツンツン指先でつっついてくる2人につくしは逃げ回る。

「あーーーっ、そういうこと言っちゃうんだ? そんな悪い子にはおしおきだよ!」
「えっ? ・・・ってぎゃああああああ!!!」

逃げ惑うつくしの後ろから滋がむんずと胸を鷲掴みにする。

「何すんのっ、アホかっ! 変態ぃっ!!!」
「うんうん、小ぶりだけど手触りはいいよ。司も満足してるって」
「知らないからっ!! っていうか離せぇえええええっ!!!!」
「ぎゃっ!!」

ドガッと思いっきり突き飛ばすと、滋の体が見事にお湯の中にダイブした。
今度は尻ではなく足先だけが出ていてまるでシンクロ状態だ。

「この変態共がっ!! あたしはもう上がるからねっ!!」

はぁはぁ息を切らしながらそう吐き捨てると、つくしは全身を真っ赤にして逃げ出した。
あっという間につくしがその場から消えたのと同時に滋が湯船から顔を出す。

「ぷはーーーーっ!! 死ぬかと思ったわ」
「滋さん、ちょっとやり過ぎですよ。先輩はその辺りの免疫が少ないんですからね」

やれやれと呆れ顔で桜子が溜め息をついても当の本人はケロッとしている。

「えー? 司に散々触られてるのに今さらでしょー。っていうかすんごく気持ち良かったぁ。なんか、男の人の気持ちがよくわかったかも・・・」

滋がほくほくしながら手をわしゃわしゃ動かす。

「はぁーーーっ・・・。先輩といい滋さんといい、完全にオヤジですね」
「なにっ?! 桜子っ! 聞き捨てならんっ!!」
「えっ? やだちょっと! やめてくださいよ!」
「やめんっ! その豊満な乳を揉ませやがれぃっ!!」
「いやですっ、やめてくださいっ!!!」

バシャバシャと逃げ惑う桜子を完全に変態化した滋が追い回す。
しばし騒がしい悲鳴が外に響き渡っていたが、やがてその声も自然と小さくなっていった。









「・・・・・・・・・・・・・・・・・なんつーかさ。時として女の方がすげぇって思うよな」
「・・・だな」


すぐ隣で事の一部始終を聞かれていたなんて事、女3人はゆめゆめ思いもしていないに違いない。









***




「何やってんだ?」
「あ・・・道明寺。いや、綺麗だなーって。雪景色に見とれてた」

すっかりのぼせてしまったつくしは、ロビーのソファーに腰掛けながら窓の外に見えるライトアップされたゲレンデに見入っていた。そんなつくしに気付いた司が隣に腰を下ろす。
そのまま2人してぼんやりと外を眺める。

「こうした時間も貴重だね」
「俺としては2人っきりが良かったけどな」
「もー、またその話? たまにはいいじゃん! 友情だって大事にしなきゃだよ?」
「俺にとって一番大事なのはお前なんだから仕方ねーだろ」
「また・・・そういうことをサラッと言う・・・」

どうしてこの男は平然とそういう殺し文句を言えるのか。
パッと顔を逸らしたつくしを司が面白そうに覗き込んだ。

「お。なんだ、お前もしかして照れてんのか?」
「て、照れてないからっ!!」
「いや、顔が赤ぇ。なんだよ、可愛いとこあんじゃねーか」

司が急にニヤニヤと上から目線でつくしを見下ろす。

「だから違うってばっ! もう、ほんとにどいつもこいつもっ!!」

ポッカンポッカン胸を叩いても司の機嫌は良くなるばかり。

「今夜は俺の部屋に来いよ」
「えっ・・・? だ、駄目だよ! 今日は女部屋だって言ったでしょ」
「チッ・・・!」
「ちょっとそこっ! 舌打ちしない!」
「なんでお前と旅行に来てんのに部屋が別々なんだよ・・・」

司が心底面白くなさそうにブツブツ零す。

そう。 今夜の部屋割りは男と女で分けられていた。
とはいえ男4人が相部屋になりたがるわけもなく、彼らに関しては全員個室なわけだが、つくしら女性陣は一部屋で学生気分を満喫する気満々なのだ。

「こんな機会めったにないんだからさ。あたしこういう旅行もしてみたかったんだ。だから最終的に許してくれた道明寺に感謝してるよ。ありがとうね。それから、2人ではまた別に行こう?」
「牧野・・・」

キラキラと輝く目で見上げられて思わず司の頬が赤く染まる。

「お前・・・ほんっと卑怯な女だな」
「え?」
「ほんと手に負えねぇ女だよ。お前は・・・」
「え? 何が? え?!」

全く意味がわからないつくしのまわりにハテナが飛び回る。
司はそんなつくしの顎を掴むと、静かに自分の顔を近づけていった。

「え? ちょっ・・・道明寺?!」
「うるせー、黙ってキスさせろ」
「だ、だってここ、ロビーだからっ!」
「関係ねぇ。つーか俺たち以外誰もいねー」
「ま、まっ・・・!」

反対の手がつくしの後頭部に回されると、あっという間に凄い力で引き寄せられた。
もはや抵抗する術がない。
唇の先にほんの少し温もりがかすめた・・・・・・その瞬間。



「つくしーーーーっ! ご飯できたってーーー!!」


「ハッ?! はいいいいいっ!!!!!」

ドスッ!!

「どわっ?!」

滋の声にビクッと飛び上がった反動で思いっきり司の胸元を突き飛ばした。
と、大男が見事にソファーの向こうに転がっていった。

「あっ・・・ごめんっ!!」
「いってーな! 何すんだよ!」
「だって! 元はといえばこんなところでキスしようとする司が悪いんでしょ?!」
「あぁ? 意味わかんねー! 好きな女とどこでキスしようと自由だろうが」
「だめだめっ! あたしはあんたとは違うの! 誰かが見てるかもしれない場所なんてムリっ!」
「チッ、ほんと面倒くせぇ奴だな」
「ムッ! ほら、もういいからご飯行こ。お腹空いちゃった」
「色気より食い気かよ」
「そうそう。ほら行った行った!」
「バカ、押すんじゃねー」

口では文句言いつつも抵抗しない司の背中をグイグイ押しやると、つくしは楽しそうにその場を離れて行った。









***



「あー、お腹いっぱい! あとはデザートだけだね」
「・・・お前ら見た目細いくせしてどこにそんだけ入るんだよ」

男でもお腹が破れそうなほどのフルコースをぺろりと平らげ、さらには目を輝かせてデザートを待つ女衆に総二郎がげんなりしながら言う。

「えー? デザートは別腹でしょ」
「いや、どう考えても同じ腹に入っていくだろ・・・」
「もう、いちいち細かいこと気にしないの! 食べられるものはありがたくいただく。それだけ。って、わぁ~、おいしそうっ!」

そうこうしているうちに目の前に出されたデザートにつくしの目がきらっと光る。

「杏仁豆腐か~。さっぱりしていいね! ・・・う~ん、おいしいっ!!」
「ほんとだ。甘すぎず後味さっぱりだね」
「これなら低カロリーでいいかもしれませんね」

カロリーを気にするなら食べなきゃいいんじゃないのか?というツッコミは呑み込んで。
デザートまでは食指が動かない男性陣は凄い勢いで口に運んでいく女達の勇ましさをただ呆気にとられて見ていた。


「白・・・ピンク・・・」
「ん? どうした? 類」

目の前に置かれた杏仁豆腐を見つめながらぽつりと類が呟く。
全員が意味がわからずそちらに注目すると、ふっと顔を上げた類の視線がつくしとぶつかった。

「・・・・・・え、何?」

類の言わんとすることがわからずにつくしも首を捻る。

「・・・白くてピンクって言ってた」
「えっ?」
「さっき、牧野のことを」
「あたしが? 白くてピンク・・・・・・?」

ますます意味がわからず類の手元に置かれた杏仁豆腐に視線を送る。
そこには真っ白な杏仁豆腐にぷりぷりのサクランボが載せられていた。


白くて・・・・・・・ピンク・・・・・・?


「・・・・・・あっ! もしかしてっ?!」


ガタガタガターーーーンッ!!!

滋が声を上げたのとつくしが立ち上がったのはほぼ同時だった。

「なっ、な、な、ななななななななななななっ・・・・・・?!?!!」

もはや意味不明な言葉だけを発するつくしの顔がみるみる真っ赤に染まっていった・・・かと思えば次の瞬間にはたちまち真っ青に変わっていく。

「あ、今度は赤から青になってる。面白いね」

そんなつくしを見て類はサラッと言った。

「えっ、何? もしかしてあの時類君達いたの?!」
「うん、いた」
「ちょっと! 女の子の話を盗み聞きするなんてひどいじゃない!」
「おいおい、お前らがデカイ声で騒いでたんだろうが。不可抗力だっての」
「え、ってことは花沢さんだけじゃなかったってことですか?」
「・・・まーな。司以外はいたな」

その言葉に滋と桜子があちゃーと頭を抱える。

「おい、何だよ? 何が白くてピンクなんだ?」
「いや、それはだな・・・」

全くわけがわからない司だけが置いてけぼりをくらっている。
そんな司に何ともバツが悪そうにあきらも総二郎も目を泳がせる。

「司ならよく知ってるんじゃないの? 牧野が白くてピンクなのか」
「あぁ?! だからさっきから何言って・・・・・・」

そこまで言いかけて司がハッとする。
見れば何とも気まずそうな4人に硬直したまま固まっているつくし。

「ま、まさかてめぇら・・・・・・」

ゴゴゴゴゴゴゴと地の底から湧き上がるような地響きが轟き始める。

「いやっ、司、誤解すんな! 俺たちは完全に不可抗力だ! 勝手に聞こえてきただけだっ!」
「違うよっ! あたし達だってまさか聞かれてるとは思いもしないんだもん! 聞こえてて黙ってる方がサイテーだよ!」

男対女でどっちが悪いの水掛け論が始まる。

「うるせぇっ!! てめぇら同罪だぁああああっ!!!!」

ガチャーーーーーンッ!!!

「うわあっ、バカ、司っ、やめろっ!!」
「きゃあーーーーーっ!!!」

怒りに震える司が力の限り立ち上がると、その勢いでテーブルの上に置かれたグラスが派手に倒れて割れた。司の怒りはなおもおさまらず今にもぶん殴りそうな勢いだ。
命が惜しい面々は必至で逃げ回る。

「落ち着け司っ!!」
「これが落ち着いてられっか! ざけんなよ! 類、てめぇもブッ殺すっ!!!」

あきらが必死で背後から止めにかかるが一人ではとても抑えられそうにない。

「くっ・・・! 今はとにかく牧野だろっ!!」

苦肉の策でつくしの名を呼ぶと、ハッと我に返ったように司がつくしを見た。
視線の先にはまるで石化したように硬直したままのつくしが呆然と立ち尽くしている。
どうやら信じがたい現実に、完全に魂が離脱してしまったようだ。

「おい牧野っ、行くぞっ!!!」

司はつくしの手を掴むとグイグイと引っ張っていくが、なおもつくしは石像のように動かない。

「・・・チッ!」

舌打ちすると司はつくしの体をまるで米俵のように担ぎ上げた。

「おい、司っ!」
「うるせーー! てめぇら邪魔したらぶっ殺す!!」
「うっ・・・!」

一撃必殺の睨みにそれ以上誰も何も言えなくなる。
司はドスドスと鬼のような足音を響かせると、完全に人形化してしまったつくしを担いだまま皆の前から姿を消した。




嵐が去った後のようにその場に取り残された全員が脱力する。
部屋のあちこちに落ちたグラスが散らばっている。

「やっべーな、司の奴マジギレしてたな」
「っていうか西門さん達も趣味が悪いですよ。聞こえてるなら早く言ってくれればいいのに」
「おいおいそれは筋違いだろう? 俺たちだってまさかあんな話になるなんて思いもしなかったんだから」
「つーか類! お前があんなこと言い出すからだろ? ・・・って、類?」

多少の罪悪感を感じているメンツを尻目に類は顔色変えずにただ一人椅子に座ったまま。
やがて手元の杏仁豆腐をひとすくいすると、パクッとそれを口に運んだ。



「・・・・・・うん、甘くておいしいね」



呆気にとられる仲間を気にもせず、一人ニコッと微笑んだ。







「いいやぁああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!!!」








つくしの断末魔の叫びが轟き渡ったのは、それからしばらくしてのこと。









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