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時を超えて 1  by うさぎ
2015 / 01 / 31 ( Sat )
企画司BD
こちらは前回のコラボ作品 <星降る夜に奇跡をひとつ> のその後のお話になります。
単体でも問題ありませんが、未読の方はそちらも是非ご覧くださいませ。









0時を過ぎ、自室で仕事をしているとノックの音が聞こえる。


「入れ。」

静かに開く扉。

コーヒーを片手に持った長男の姿がそこにはあった。

「父さん、今大丈夫?」

パソコンを閉じて部屋に入って来る息子に顔を向ける。

「あぁ、なんか話でもあんのか?」

「うん。ちょっとね。コーヒーここに置くね。」

「サンキュ」

立ち上がり、ソファに座る息子と向き合って座る。

もうコーヒーをブラックで飲めるようになった息子は高校生。

俺より10センチ低い身長は、まだまだ伸びる時期。

いつか追い越される日が来るのかもしれない。


「来週の父さんの誕生日は休み?」

パパからお父さんに呼び名が変わり、今では父さん。

そろそろ親父って呼ばれるのだろうか。

顔は高校時代の俺瓜二つだが、荒れ狂った俺の高校時代とは正反対の息子。

それもつくしのお蔭だろう。

真っ直ぐに育ってくれている。

そして、中学の時から経済学の勉強もしている。

誰が言ったわけでもない。

自分で学びたいと言い出し、学校が休みの日に一緒に会社に行くこともあった。

夏休みにはNYに行き、親父とお袋に同行して世界を飛び回った。

生き急ぐことはないのに、自分の宿命を受け入れ背伸びせずに、素直に吸収している。

俺もこんな風に成長していたら、もっと違った人生だったのだろうか?


いや、だとしたらつくしとは巡り合えていないだろう。





来週で40歳になる俺。

ビジネスの道具でしかなかった誕生日。

つくしと出会って誕生日が来るのが嬉しくてしかたねぇ。

「あぁ、翌日にパーティーの予定だ。」

「じゃあさ、これ俺たちからの父さんへの誕生日プレゼント。」

差し出されたのは旅館のパンフレット。

熱海温泉の文字

「お前たちから?」

「そうだよ。俺たちのお小遣い、それと使用人と執事の人のカンパもちょっとある。」

「・・・そうか。」

「来月末にはNYでしょ?俺たちは行かないから二人だけで行ってきて。」



来月に家族で渡米することが決まった。

日本で迎える誕生日はしばらくないだろう。


「なんで熱海なんだ?」

「総二郎さんとかに父さんと母さんの日本での思い出の場所聞いたら「熱海じゃねぇか?」って言ってたから。」

「・・・そうか。」

あいつら他に余計な事言ってねぇだろうな。

「駄目だった?」

俺が不機嫌な顔に見えたのだろう。

覗き込むように俺を見る。

俺と瓜二つなのに、こんな時はつくしのように感じる。


「いや、サンキュ。つくしに聞いてみる。」

「母さんは喜ぶと思うよ。」

笑う息子。

「だろうな。」

俺まで笑った。

親孝行の息子。

親思いなのはつくし譲りだろう。




熱海か・・・


高校三年の夏を思いだす。


あれから22年か。

俺の人生の半分以上、つくしが俺の中に存在する。

俺の人生を変えてくれた大事な女。



二人っきりの旅行なんて何年振りだろう。






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00 : 00 : 00 | 時を超えて | コメント(0) | page top
時を超えて 2  by みやとも
2015 / 01 / 31 ( Sat )
「熱海かぁ・・・懐かしいなぁ」

車窓から流れる景色を眺めながら、つくしが感慨深そうに呟いた。

「あいつらもなかなか渋いところを選択してきたな」
「あはは、確かにね。・・・でも、我が子ながらいい子に育ったよねぇ・・・」
「・・・そうだな」


俺の帰国から2年後、あのプロポーズから間もなく結婚した俺たちは4人の子宝に恵まれた。
3男1女、上は高校生から下は小学生まで。
つくしの言う通り、我が子ながら真っ直ぐに子どもらしく育っている。
でもそれは間違いなくつくしの影響が大きいわけで。
この女はそんなことには相変わらずちっとも自覚がありゃしねーが、負けず嫌いながらも人思いの素直な性格に育ってくれていて、おそらく世間から見れば理想の家族像なんじゃないかと思う。

「家族像か・・・」

「え? 何? 何か言った?」
「・・・いや、何でもない」

クッと喉を鳴らした俺につくしが不思議そうに視線を送る。


家族・・・

俺の人生において最もかけ離れた言葉。
女と付き合うことすら反吐が出そうなほどだった俺にとって、結婚はおろか、子どもができるなんて地球がひっくり返っても考えられないことだった。
俺のような無意味なジュニアはこの世に必要ない。
ただ道具としてしか生きる価値のない子どもに何の意味がある。
ずっとそう思って生きてきた。


_______ つくしに出会うまでは。


何をやっても満たされない俺に、
人としての感情、愛情、・・・そして家族を、 全てを与えてくれたのがつくしだ。
親に愛されなかった人間が親になったらどうなるんだなんて不安は、こいつが全て吹っ飛ばしてくれた。



「・・・あ。着いたみたいだよ」
「あぁ」

リムジンが辿り着いた先は決して高級旅館ではない。
一般的な和風旅館に横付けされたリムジンは明らかに異色を放っていることだろう。
案の定、リムジンを降りた途端、旅館の支配人が大慌てで飛び出してきた。

「ようこそおいでくださいました! まさかあの道明寺様だとは夢にも思わず・・・! あの、よろしければ当旅館で一番いいお部屋へと変更させていただきたいのですが・・・?」

世界に名だたる道明寺財閥の社長ともあろう男が、まさか自分の旅館に、しかも普通の部屋に泊まりに来るなどゆめゆめ思わなかったのだろう。
それもそのはず、俺だって思いもしてなかったのだから。

「・・・・・・いや、結構だ」
「え、ですが・・・」

断られた支配人が困惑気味に俺たちの顔色を伺っている。

「ありがとうございます。そのお気持ちだけで充分です。実は今日は主人の誕生日なんです。そのために子ども達がお金を貯めてプレゼントしてくれたのがこちらなんですよ。ですからそのままで充分なんです。 いえ、そのままがいいんです」
「まぁ・・・! なんて素敵なお子さんなんでしょう・・・」

つくしの言葉に支配人は感動のあまり口に手をあてて言葉に詰まる。

「はい。自分で言うのもなんですが、とってもいい子達に育ってくれてるんです」
「えぇえぇ、本当にその通りですね。そんな素敵な話があるとは知らずに大変失礼なことを申し上げてしまいました」
「あぁっ! 頭を上げてください! 謝る必要なんてないんですよ。そちらのお気遣いもとても嬉しかったですから。一番いいお部屋にはまた今度、家族全員で遊びに来させてくださいね」
「は・・・はいっ、是非っ!!」

頭を下げていた支配人の顔が上がったかと思うと、みるみる幸せそうな笑顔に変わっていく。
そんな支配人に、つくしも嬉しそうに頷く。


何年経ってもこの女はすげーと思う。
本人にそんなつもりはなくても、気付かないうちに色んな人間を虜にしていく。
そんな不思議な魅力を持つのがつくしだ。
この支配人だって、たった数分で心の全てをつくしに持って行かれてしまった。

普通に考えれば、大金持ちの嫁なんて傲慢でケバくてろくでもない連中が多いと思うのが世間の目ってもんだろう。
それなのにこいつときたらどうだ。
結婚して15年以上が経つというのに、昔と何一つ変わらない。
いつでもおごらず、謙虚に、でもいざというときはその芯をしっかりと見せつける。
そうやってこの俺を、道明寺財閥を、そして家族を守り続けている。


そんなこいつを見せつけられる度に俺はこいつに惚れ直すのだ。



「ではお部屋へご案内しますからこちらへどうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます。じゃあ司、行こう」
「あぁ」

そう言ってつくしの手を握って歩き始めると、支配人が微笑ましそうに目を細めた。

「仲がよろしいのですね。お子さんが素敵に育つのもよくわかります」
「あはは、ありがとうございます。私は恥ずかしいんですけどね・・・」
「いいえ、素敵ですよ」

いい歳して恥ずかしいなんてつくしは言うが、そんなことは知ったこっちゃない。
世間の目なんて関係ない。
これが俺たちなのだから。




***


「ではご夕食はこちらのお部屋になりますので。それまでごゆっくりお過ごしくださいませ」
「はい。ありがとうございます」

いつの間にやら増えていた女将と共に頭を下げると、支配人共々部屋から出て行った。
2人きりになった部屋をあらためて見渡す。
とは言っても見渡すほどもない小さな部屋だ。せいぜいあっても12畳ほどだろうか。
つくしは嬉しそうに窓からの景色を夢中で見ている。

「狭ぇな」

そう口にした俺に呆れたような顔でつくしが振り返った。

「まーたそんなこと言って。2人で泊まるのにこれだけの広さがあるなんて贅沢なんだよ? それにほら! この部屋には露天風呂までついてるじゃん! 普通の部屋よりだいぶ高いんだから」
「そんなもんなのか?」
「そうなの! あの子達、一生懸命お金貯めたんだと思うよ?」

まぁ俺にはよくわかんねーけど。
でもまぁあいつらがこつこつ金を貯めたってのはそうなんだろう。
金に関してはかなりシビアなのがつくしだ。
贅沢をさせるところとそうじゃないところの線引きがはっきりしている。
放っておけば何でも買い与えてしまう俺を抑制するように、毎月の小遣いだけは一般人と変わらないレベルに合わせて徹底しているのだ。
おそらく長男ですらせいぜい1万がいいところじゃないだろうか。

大財閥の子どもの小遣いが月1万?
あり得ねぇ。

それでも、子ども達はグレることもなく真っ直ぐに育っている。
それはすなわちつくしの子育ては間違っていないという何よりの証拠で。
人の心が育つのは、人が幸せを実感するのは金の力じゃないということ。
それを子ども達が俺に教えてくれている。




「ねぇ、夕食までもう少し時間があるでしょ? この後どうする?」







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06 : 00 : 00 | 時を超えて | コメント(0) | page top
時を超えて 3  by うさぎ
2015 / 01 / 31 ( Sat )
「露天風呂入ろうぜ。」

「いいねぇ。景色も一望できる部屋だし、夕食前に入りたいかも~♡」

部屋から外の露天風呂を見渡すつくし。

ウキウキ気分のつくしに俺まで嬉しくなる。

部屋に温泉付きってプランを選んだ子供たちを褒めてやりたい。

俺の事わかってんじゃねぇか。

帰ったら、お礼にアイツらのお願いなんでも聞いてやるか。

思わず口角が上がっちまう。


「わぁ~ご飯はこの景色見て食べれるんだね。」

部屋とは別に食事処の座敷が準備されていた。

座りながらでも一望できる、熱海の景気。

グレードアップしなくても十分楽しめる。

「その前に、温泉って言ったら卓球でしょ?」

イキイキとした表情で振り向き俺を見る。

「夕飯前に体動かしてお腹空かせないと。」

にっこり笑うつくしの眩しい笑顔。



出たっ。



俺の高ぶる気持ちを一瞬で脱力に変える技。


自分で聞いたくせに、つくしの中では決定事項。

すげぇー嬉しそうな顔に俺もダメだとは言えなくなるこの笑顔。

この顔の魔力はすげぇ厄介。



「決まりっ勝負ねっ。行こうっ。居ない間に布団も引いてもらおうかな?」

返事もしてねぇのに靴を履きはじめる。

後ろ姿で浮かれているのが分かっちまう。

何歳になっても変わらないつくしの魅力の一つ。

もう39歳だっつーのに、家族旅行は子供たちよりはしゃぐ。

ふつうは親をウザがる年頃の高校生になった息子たちもつくしの姿に、自然と笑い旅行を楽しむ。

いつだって家族の中心はつくし。

「記念記念」と言い、自らカメラをもち写真を撮る。

変な銅像の前で何枚も撮る姿。

嬉しそうな顔を見るたび、またどこかに家族で旅行に行きたいと俺に思わせてくれる。



「・・・・わかったよ。負けた奴は旅行中、絶対服従な。」

ニヤリと笑う俺。

「なっなんでそうなるのよ。もうっ。じゃあ、あんたはスリッパで戦ってよ。まともにやったらあたしが負けるんだからっ」

急に焦り始める。

「はいはい、ハンデならいくらでも。なんなら、5対0からスタートすっか?」

「もうっバカにしてっ」

口をとがらせて怒るつくしに笑う俺。

頬を膨らませてそっぽ向くつくしに何歳だよっ。と突っ込みたくなる俺。

ホント見てて飽きないコイツの表情。

こいつと出会って満たされた感情の一つ一つが俺の人生を色鮮やかな物へと変え、幸せだと感じさせる。


「行くぞっ」


手を繋ぎ、卓球台に向かう俺たち。

「スリッパなら、回転はかけられないわよね。うん。勝てる勝てる。」

独り言を言うつくし、その自信はどこから来るのか。

簡単に俺から勝てるわけねぇだろ。



俺たちが熱海に来るのはこれで3回目。

1回目は、高校生の時。

2回目は、新婚旅行。

本当はつくしが行きたかったハワイの予定だったけど、俺たちは籍だけ先に入れた。

結婚式は6月のジューンブライド。

入籍と式の数か月の間に、長男を妊娠したつくし。

大事をとってハワイ旅行は出産して落ち着いてからってことで延期した。

つわりは軽い方だった。

温泉の独特の匂いを気にはしていたが折角の休みだからと言って熱海に旅行に来た俺たち。

ハネムーンって雰囲気でもなかったが、つくしとゆっくりと過ごすが出来た数日間。

ここなんかとは比べ物にならないくらいの高級旅館。

最上級のおもてなしだった。

つくしの頭には温泉=卓球

高級旅館にもなぜか卓球台はあった。

妊婦のくせに卓球をやりたいと言ったつくし。

気が気じゃない俺。

あの時はジャンケンでサーブ権が俺からだった。

だから回転のかかったサーブでつくしには1点も取らせず勝敗を決めた。

それ以来、卓球はやらなかったが、子供たちが大きくなり邸に卓球台を置いた。

子供たちと特訓するつくし。つくしが子供たちに勝つのは2割くらい。



そして俺たちが戦うのは久しぶり。


「司はスリッパね。」

この宿にもある卓球専用のスリッパ。

これを考えた奴はつくしみたいに貧乏だったのだろうか。

そんなことを考えながらスリッパを握る。

俺にこんな事をさせる奴は世界でたった一人。

それが心地いいと思う俺。

サーブ権は今回も俺から。

ジャンケンが弱いつくし。

だけど真剣な表情でいつも挑んでくる。

すげぇ負けず嫌いはあの時から変わらない。

回転が出来ない代わりに、高いバウンドでサーブする。

意地悪、卑怯者そんな言葉は聞こえない。

ハンデは宣言通り5対0でスタート。

もちろんつくしが5。

サーブ権が俺のまま、結局俺が勝っちまう。

ニヤつく俺と怒ってるつくし。

ったく、相変わらず勝気な奴。

何度勝負しても俺の勝ち。


「絶対服従だよな?」

呼吸を整えるつくしの手を握りニヤリと笑い、文句を言いそうな口を塞ぎ抱きかかえ部屋を目指す。




部屋に戻る最中、他の客とすれ違う。

恥ずかしそうに俺の腕の中にいるつくし。

「一緒に部屋の露天風呂入ろうぜ、奥さん。」

耳元でわざと唇が触れるか触れないかの距離で囁く。

観念したつくしは俺にしがみつき真っ赤な顔を隠していた。








***





露天風呂にゆっくりとつかる。

包み込むように後ろから抱き、俺の腕の中にすっぽり納まるつくし。

幸せな時間が流れる。

子供たちから貰った最高のプレゼント。


「動いたら、お腹空いたね。」

「俺は全然動いてねぇ。」

「それはあんたが卑怯だから。」

「卑怯は人聞き悪いぜ。作戦勝ちだ。」

「毎回余裕なのがムカつく。」

「俺に勝とうなんて100万年早いぜ。」

「いつか、勝ってやるんだから。」


色気もない他愛もない会話が心地いい。

景色が一望できる露天風呂。

海に沈む夕日が見える。

「綺麗な夕焼けだね。」

夕日に染まるつくしの顔が何だか妙に色っぽい。

「一緒に夕日を見るのは久しぶりだな。」

「そうだね。考えてみたら司と日の出見たことはないかも。」

「毎年、初日の出見ようって言っていつまでもグーグー寝てんのお前だろっ」

「なっそれは毎年あんたが遅くまで寝かせてくれないからでしょっ」

振り向いて真っ赤になって文句を言うつくし。

のぼせてんじゃなくて、思いだして真っ赤な顔をしている。

何回俺たちは抱き合ってんだよ。

子供も4人も居るつーの。

「今日も寝かせるつもりねぇけど。」

耳元で囁けばもっと真っ赤になる。

「もうっじゃあ、プレゼントあげないんだからねっ」

「お前とこうやって二人っきりで過ごせた時点でプレゼントはもうもらってんだよ。
それに絶対服従だろ?何にすっかなぁ。」

「何にって変な事じゃないでしょうね?」

ニヤリと笑い

「ナニはナニだろ?夫婦なんだから変じゃねぇし。」

「なっ」

文句を言う口を塞ぐ。

唇を離すと潤んだ瞳で見上げるつくしの顔。

風呂で赤くなっただけじゃねぇよな。

「夕飯前に体動かしてお腹空かせないと。だろ?」

夕日が完全に沈むころ、俺たちは既に準備された布団に温泉より熱いキスを繰り返して沈む。






もちろん、つくしが楽しみにしていた夕食は1時間遅れさせた。






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12 : 00 : 00 | 時を超えて | コメント(0) | page top
時を超えて 4 完  by みやとも
2015 / 01 / 31 ( Sat )
「うわぁ、おいしそうっ! お腹空いたぁ~!」

目の前に並べられたご馳走の数々につくしが感嘆の声を上げる。
その目にはハートマークが浮かんでいる。

「たっぷり運動したから腹も減るよなぁ?」
「・・・っ、もう! やめてよね!」

ニヤニヤとからかう俺にぶうっと頬を膨らませて怒りを露わにする。
お前はガキかよ。
とてもじゃねぇけど来年40になる女だとは思えねぇな。

・・・そう。
目の前にいる女は何も変わらない。
出会った頃と何一つ。 見た目も、中身も。

・・・いや、やっぱり変わった。
俺に愛されて、家族に愛されて、磨けば光る原石は美しい宝石へと変貌した。
だがそれは見た目云々の話ではない。
つくし自身が放つオーラがそうさせている。
笑顔と、慈愛と、自信に満ち溢れたつくしの姿は、会う人会う人の心を瞬時に鷲づかみにしてしまう。俺がそのことでどれだけ気を揉んできたかなんてこと、この女は微塵も気付いてはいないのだろう。

だがそれでいい。 それでこそ俺の愛した女だ。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)とした世界で生きていかなければならない俺にとって、ずっと変わらずにいてくれる人間が傍にいることがどれだけ価値のあることなのか。
こいつに出会っていなければそれに気付くこともなかっただろう。


_____ 全てはつくしに出会えたから。



「ねぇ、食べないの? せっかくの料理が冷めちゃうよ?」
「あ? あぁ・・・食うよ」
「早く食べないとあたしがもらっちゃうからね」
「クッ・・・じゃあ食った分だけまた運動しねぇとなぁ?」
「なっ・・・もう! なんですぐにそっちの方に話を持っていくのよ!」

何を今さら真っ赤になってんだか。
ついさっきまであんなに乱れてたくせに。なんだかんだ言いながらお前も乗り気だったじゃねぇか。
・・・って、いつまでたってもからかうことをやめられない俺も大概ガキだな。



「失礼致します。 お子様からお預かりしたものをお持ち致しました」
「えっ・・・?」

スーッと開いた襖から女将がお盆にケーキを乗せて入って来た。

「こちらはお子様達からのプレゼントです」
「わぁっ・・・! 凄いね、司!」
「あいつら・・・」

ホールケーキの上部には40thの文字と太いろうそくが4本。
そしてど真ん中に鎮座するのは誰が見ても俺とつくしだとわかる顔が2つ。
満面の笑みを浮かべるつくしに、特徴的な髪型で不敵な笑みを浮かべる俺。
・・・あいつら、よく特徴を掴んでやがるじゃねぇか。

「本当に素敵なお子様達ですね。こちらのケーキともう一つ。実はカメラをお預かりしてるんです」
「カメラ・・・ですか?」
「はい。こちらです」

そう言うと女将は胸元に忍ばせていたデジタルカメラを取り出した。
あれは確か・・・いつかの誕生日に長男に買ってやったもののはずだ。
もっと新しいものが出ているからそっちに変えてやろうかと何度か言ったが、これがいいんだと言ってずっと大切に使い続けている。

「今日の良き日を記念に撮ってあげてくださいだそうです。残念ながら自分はその場にいられないから、こちらにお二人の姿を写真に収めて欲しいとのお願いがありました」
「そうだったんですか・・・」

感慨深そうに呟いたつくしの瞳は潤んでいた。

「では撮らせていただいてもよろしいですか?」
「もちろんです。司、撮ってもらおう?」
「・・・・・・あぁ」

2人でテーブルの中央に移動すると、全体が映るようにつくしがケーキを斜めに持ってニコッと笑った。そんなつくしを見ていたら自然と俺まで笑顔になる。

カシャッ

そのほんの一瞬を女将は逃さなかった。
おそらく一番のシャッターチャンスだったに違いない。

「素敵なお写真が撮れましたよ。お子様もお喜びになると思います。ではケーキはどうなさいますか?今食べられますか?」
「あ・・・じゃあ主人のだけはほんの少しにしてもらっていいですか? 甘いものは苦手で」
「あら、そうなんですね。くすくす、でも少し食べられるんですね。優しいお父様で」
「だって。良かったね、司」
「うるせー」

苦虫を噛み潰したような俺を見てつくしと女将が顔を見合わせてくすくす肩を揺らす。
仕方ねぇだろうが。昔っから甘いもんは苦手なんだよ。
かと言って子どもの気持ちを踏みにじるほどの冷酷な人間ではとっくになくなっていた。

目の前に一口サイズにカットされたケーキが置かれる。
つくしの前のものは特大だ。 デカすぎだろ! まだそんなに食えんのかよ。

「それでは残りはケースに入れてお帰りの時にお渡し致しますね」
「ありがとうございます。そうしていただけると嬉しいです。帰ったら子ども達にも見せて一緒に食べたいと思います」
「かしこまりました。ではごゆっくりどうぞ」

つくしの言葉に嬉しそうに頷くと、女将は再びケーキを持って部屋を出て行った。


「おいしいね。 幸せだね」

目の前のケーキをパクパクと口にしながらつくしは涙を流している。

「・・・甘ぇ」
「とかなんとか言っちゃって。ほんとは嬉しいくせに」

一口口にして顔をしかめる俺につくしが泣き笑いする。
喜んでるのはお前の方だろが。
・・・・・・なんて、俺もまんざらじゃない。
そんなことは口にしなくともこいつにはお見通しなんだろう。



愛する妻に愛する子ども達。

・・・俺には一生無縁だと思っていた愛の形がここにある。



はっきりと言える。 俺は幸せ者だと。









***



「あっという間に夜も終わっちゃうね」

食事も終わり、後は寝るだけの状態で2人窓際の椅子に腰掛けながら外の景色を眺める。

「俺たちの夜はまだまだこれからが本番だけどな」
「もうっ! またそういうことばっかり・・・」
「お前だって期待してるくせに。40代になろうと俺は現役バリバリだから心配すんな」
「心配なんかしてませんっ! むしろ少し衰えたって構わないから!」
「ははっ」



「・・・司、これ」
「ん? ・・・なんだよ?」

差し出されたのはアルバムのような冊子。
・・・というかアルバムだ。

「あたしからの誕生日プレゼント。40歳っていう節目の誕生日だし、何にしようかずーーーっと考えてた。 考えて、考えて、考えて・・・結局これになっちゃった」
「なんでアルバムなんだ?」

パラパラと捲っていくと中は空っぽだ。

「これまで色んなプレゼントあげてきたでしょう? それに、司って意外と物欲ないから。だから何をあげたらいいんだろうってずっと前から考えてたんだ」
「・・・で?」
「それで、これからの未来を贈りたいなって思って」
「未来?」
「そう」

首を傾げる俺につくしは笑って頷く。

「今そこにはまだ何も入ってないでしょう? そこにあたしたちの未来を一つずつ入れていくの。最初の一枚はもう決まりね。さっき撮ってもらったから。そうして節目節目にあたしたちの家族像をそこに綴っていって、シワシワのお爺ちゃんお婆ちゃんになった時に一緒にみようよ」
「・・・・・・」
「これまで撮ってきた思い出ももちろん同じだよ? あたしからのプレゼントは、ずーーっと変わらない司との未来」
「つくし・・・」
「って、へへ、なんかあらためて言うと恥ずかしいね?」

ポリポリと赤くなった頬を掻きながらつくしが照れ笑いを浮かべる。
そんなつくしの腕を引いて自分の中に閉じ込めると、驚いたつくしの顎を引いて上を向かせた。

「お前はいつまでたってもすげぇ女だな」
「え・・・? 何が・・・?」
「わからねぇならいい。俺だけがわかってりゃいいんだから」
「? ? ? 」

顔中に?マークを貼り付けた顔に笑うと、尚も不思議そうにしているつくしの唇を塞いだ。
何の抵抗もなくすぐに自分の首に回された細い手に俺たちのこれまでの歴史を感じる。


恥ずかしがり屋のこいつがこうやって素直な自分を見せるようになって、
写真が大嫌いだった俺が素直に撮られることを許すようになって、

・・・そうして、今この瞬間も新たな思い出が作られているのだろう。


それはこれからも変わることなく、永遠に_______











旅を終えた俺たちを邸では子ども達が首を長くして待っていた。

つくしが持ち帰ったケーキをおいしいおいしいと、口の周りに大量のクリームをつけて食べながらあいつらは嬉しそうに笑っていた。
カメラが返ってきた長男は、中に収められた写真を見て幸せそうに微笑んでいた。
現像された写真をつくしの宣言通りあのアルバムの最初のページに飾った。





・・・・・・・・・・そして。

そこから少し進んだページに、新たな小さな家族と共に写された思い出が刻まれるのは・・・

もう少しだけ未来の話だ。






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