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Sweet x Bitter x Sweet 前編
2015 / 02 / 14 ( Sat )
「そんなに緊張しなくて大丈夫だって」
「でも、だって・・・!」

気を抜いていると思わず右手と右足が同時に出そうになるほどガチガチのあたしに類が肩を揺らして笑っている。

「あんた、ほんとに面白い」
「ちょっと、笑わないでよ。こっちは真剣なの! こんな場所、不釣り合いなんだから・・・」

あ、やばい。言っててなんだか泣きそう。
なんだってこんなことくらいで。意味不明にもほどがある。
それもこれもこのあり得ない状況がそうさせてるんだ。

この状況が・・・・・・











「バレンタインどうするの?」
「え~? 彼の別荘に行ってゆっくり過ごすつもり」
「やだ~いいなぁ。あたしなんて都内のホテルよぉ」
「でもいいところのホテルなんでしょ? 充分じゃな~い!」
「きゃははは・・・」


後ろのテーブルから聞こえてくる黄色い声に思わずはぁ・・・と溜め息が出る。
ふっと目をやった窓の外には昨日の雨が嘘のような澄み渡った空が広がっていた。
ところどころ光に反射して直視できないほどに眩しい。

「はぁ~~~・・・」

今日何度目かの溜め息をつくと、そのまま頭をテーブルにゴンとつけた。 
一体どうしてこんなに気持ちが沈んでいるというのか。

・・・そんなのわかってる。
わかってるくせに、自分で気付かないふりをしているだけ。


「まーきの」


「・・・え?」

自分の名前を呼ぶ声と共に響いた黄色い歓声に、つけたばかりの頭を上げる。

「・・・・・・類」
「やっと見つけた」
「え?」

ニッコリ笑うと類は目の前の椅子を引いて腰掛けた。
周囲にいた女性陣がさらに色めきだつ。そして視線が痛い。
普段ならまずいるはずのない男が現れたことに、学食が異様な雰囲気になっている。
それにしても見つけたって・・・・・・あたしを探してたってこと?

「どうしたの?」
「ん? まぁ牧野に話があってさ」
「話?」

うんと頷かれてもまったく見当がつかない。

「牧野、もう全部の試験終わったんでしょ?」
「え? あぁ、うん。昨日で全部終わった」
「じゃあさ、俺の仕事の手伝いしてくれない?」
「手伝い? あたしが?」
「そう」

いつも突拍子もないことを言い出す男だが、相変わらず今日も意味がわからない。
一体あたしが彼の仕事の何を手伝えるというのか。
胡散臭そうな顔をしているあたしを見て、類がビー玉を細めて笑う。

「パーティでパートナーになって欲しいんだ」
「パートナー?」
「うん。ほら、他の女は色々と面倒くさいからさ。牧野にお願いしたくて」
「でも、あたし・・・」
「大丈夫。ただ横にいてくれるだけでいいんだ。何も面倒なこともない。お礼も弾むよ」
「いや、お礼とかは全然いいんだけどさ、」
「じゃあ決まり。急で悪いんだけど明日から数日大学休んでもらっていい?」
「・・・はぁっ?!」

一体どこまで意味不明なことを言い出せば気が済むのか。

「試験は終わったんでしょ? じゃあ数日くらいなら大丈夫でしょ」
「いや、意味わかんないから! なんで休まなきゃいけないわけ?! バイトだってあるし・・・」
「バイト先にはもう話をつけてあるよ」

思いもしない言葉に思わず二度見してしまった。
・・・何だって?!

「試験で大変そうだったからさ、バイト先には俺の方から言っといたから」

いやいやいや、言っといたからじゃないよ!
ニコニコととんでもないことを言い出す男に思わず目の前がクラリとする。

「ちょっと待って。あのさ、まぁこの際パーティに同伴する件は置いといて。それと大学とバイトを休むことがどう関係するわけ?全くもって意味がわからないんだけど」
「だって日本じゃないから」
「・・・・・・・・・へ?」
「パーティの会場が日本じゃないんだもん。休まないと無理だろ?」
「に、日本じゃないって・・・・・・・・・まさか」

あたしの言葉を聞く前にニッコリと笑うと、おもむろに類が立ち上がった。

「じゃあそういうことだから。出発は明後日の午前中。パーティで着るドレスはこっちでも準備しておくけど、牧野は例のあれがいいんじゃない? じゃあまた迎えに行くから」
「ちょ、ちょっとっ?!」

じゃあ、じゃないよっ!!
一方的に言い募って背中を向けた類を必死で呼び止める。
が、その前に何かを思い出したように類が振り返った。

「そうそう、仮に牧野が準備してなくても連れて行くから。身一つでも全然問題ないからね。要するにこれは決定事項ってことだよ。・・・じゃ、またね」

全く反論させる隙を与えずにそう言うと、王子様然とした笑顔を見せて今度こそ本当にいなくなってしまった。
あたしはその場に呆然と立ち尽くしているだけ。
嵐を巻き起こして何事もなかったようにいなくなった男をただ見送るだけだった。






あれから3日後。
一体どうしてこんなことになっているというのか。
しっかり立たなきゃと思うのに、その心に反して足はカタカタ震えて止まらない。

「そんなに緊張しないで」
「するに決まってるじゃん! なんだってこんなとこに・・・仕事って言ってたじゃない!」
「仕事だよ? そしてパートナーが必要だったのも本当。だから牧野に頼んだ。嘘はついてない」
「でも、だからって・・・」

今にも泣きそうになるあたしの頭にふわっと温かい感触が載せられる。

「会いたくない?」
「それは・・・」
「怖い?」

その言葉にドキッとする。
怖い・・・
今の自分の気持ちを最も表現しているのはその言葉なのかもしれない。
今日、ここにいるであろう男に会ってしまうのが。

「だって、あたしが来てること言ってないんでしょ?」
「うん。驚かせようと思って。その方が喜ぶでしょ」
「でも怒ったら・・・」
「あはっ、なんで怒るのさ。喜ぶことはあっても怒るなんてあり得ないでしょ。もっと自分に自信を持ちなよ」
「・・・・・・」

黙り込んで俯いてしまったあたしにフッと呆れたように笑うと、ポンポンと頭を叩いた。
自信・・・・・・
そう。今のあたしは自信を失ってるのかもしれない。


道明寺との遠距離が始まって3年。
長かったような、あっという間だったような。
相変わらず大学とバイトの往復の繰り返しのあたしに、日々世界を飛び回る道明寺。
その生活はすれ違いの連続だった。
それでも忙しい中時間を作ってはあいつは連絡をくれる。
たとえそれが夜中だろうと早朝だろうと、繋がってるんだってことが嬉しかった。

最後に会ったのはイタリアでのほんの短い逢瀬。
その時も類の計らいだった。
一度は断ってしまった婚約指輪をもらって、短いけれど幸せな時間を過ごした。

あれから1年、あたし達は一度も会えてはいない。
最初から覚悟はしていたことだし、気が付けば残すところあと1年。
待つ時間より残された時間の方が少なくなっていたことに、あたしはどこかホッとしていた。


「牧野?」

ボーッと考え込んでいたあたしの顔を類が覗き込んでいる。

「あっ、ごめん。ボーッとしちゃってた」

慌てて顔をあげてハハッと笑う。
そんなあたしを類はただ黙って見つめている。まるで全てを見透かしたような瞳で。


・・・やめて。 心の奥を曝かないで。


「あ。司」
「・・・えっ?」

その声に思わず類の視線を追った。

・・・あ。 いた。
人波の中に頭一つ抜けた特徴的な髪の男。
どんなに人が溢れていたって、唯一無二の絶対的なオーラを放つその男。


道明寺司がすぐ目の前にいる。


「どうしたの牧野。早く会いに行こう」
「う、うん・・・」

金縛りにあったようにその場に足が貼り付いて動けないでいるあたしの背中をそっと押すと、類は誘導するように一歩一歩と足を進めていく。彼がいなければあたしは一歩だってその場から動くことなどできないに違いない。

類がずっとあたしを気にかけてくれていることはわかってた。
素直じゃないあたしをいつだって助けてくれた。
今日こうやって強引な形でここに連れてきたのも・・・全てはあたしのため。

素直に会いたいと言えずにいる弱虫なあたしのため。


「・・・・・・あ」

遠目に見えた光景にそれまで動いていた足がピタリと止まる。
またしても接着剤でくっつけたようにその場に貼り付いてしまった。

「牧野? どうしたのさ」
「・・・・・・」

そんなあたしを一瞥した後、類が視線を前に送った。

そこにはあたしの知らない道明寺がいた。
自信に満ち溢れたオーラは変わらない。
次から次にやってくる人の波に笑顔で対応している。
そんな大人な道明寺がどこか遠い人に思えた。

・・・そして。 気付いてしまった。
道明寺の左手に添えられた華奢な白い手の存在に。

道明寺が手を添えているわけではない。
それでも、ずっと添えられたその手が振り払われることはない。
そんな中で道明寺は笑っている。


ズキン・・・


胸がつんと痛くなってなんだかうまく呼吸ができない。


「牧野、行くよ」

立ち止まったままのあたしの背中を押しながら強い口調で類が言った。
足は動かないけれど、それ以上の力で押されて半ば無理矢理足が前に一歩出る。

ドクンドクン・・・

少しずつ、確実に大きくなるその姿に、心臓が壊れそうなほど暴れ回る。
あたしに気付いたらあいつはどうするだろう。
怒る? ・・・・・・そんなことあり得ない。
それは類の言う通りだろう。
きっと目が落ちるんじゃないかってくらいに驚いて、そして・・・・・・

想像してクスッと笑いかけたところで目を見開いたのはあたしだった。

ドクンドクンドクンドクン・・・

「・・・・・・ごめん、類」
「え?」

「あたし・・・・・・やっぱり先に戻ってる」

「え? あ、牧野っ!!!」

驚く類が引き止めるのを振り払うと、あたしは全速力でその場から駆けだした。
後ろからあたしを呼ぶ声が聞こえたけれど、脇目も振らずにただひたすらに。


走って、走って、走って、走って・・・・・・


「きゃっ?!」

ドサドサッ! バサッ!!

「いったぁ~~~・・・」

慣れないヒールで全力疾走なんてするもんじゃない。
思いっきり派手に転んで恥ずかしいったらありゃしない。
・・・とはいえ廊下にはほとんど人がいなかったのが救いだけれど。

「・・・・・・あ~あ」

立ち上がってパンパンとワンピースについた汚れを叩き落とす。
このドレスを着るのは2回目。
初めて身につけたのは静さんの結婚式だった。

・・・と、すぐ目の前に転ったままの袋が目に入ってきた。



・・・・・・会いたかった。 
ずっとずっと、会いたかった。

でもそれと同じくらい会うのが怖かった。
その相反する気持ちが自分の中でぐちゃぐちゃだったけど、今日はっきりと気付いてしまった。


____ 自分の知らないあいつに会うのが怖かったんだって。


偶然見かけた経済誌で見たあいつはまるでどこか知らない人のようだった。
傲慢で、俺様で、世界は自分を中心に回っていると思っていたようなそんな男が、一体どこの紳士なのかと思うほど、大人の顔をして写っていた。
その中には隣に女性を引き連れた写真もあった。
そっと腕に手をかけられていたけれどあいつは笑っていた。

____ さっきと同じように。

何もないなんてわかってる。
手をかけられていても、あいつが手をかけている写真なんて一つもない。
それも仕事の一つなんだってこともわかってる。
やりたくてやってるんじゃないってことも。


そんなことはわかってる。

わかってるわかってるわかってる!!!



「・・・・・・あ~あ」

転んだ拍子に飛んだ袋を手に掴むと、くしゃくしゃになった場所を綺麗に手で整えていく。
破れかぶれのその状態がまるで・・・・・・

「ふふっ、まるであたしみたい」


ずっと気付かないように蓋をしてた。
自分の中にあるこの正体が一体何かってことを。

あたしは・・・・・・怖かったのだ。

ずっとずっと自分よりも大人になってしまったあいつに会うことが。
自分が頑張るその何百倍もの速度であいつは大人になってしまう。

・・・・・・まるで自分だけ置いてけぼりにされてしまったような。
そんな言葉にできない寂しさをずっと感じていたのだということを。


会いたい。


その一言がどうしても言えなかった。
言ったら、あいつの足を引っ張ってしまうような気がして。

・・・そして、そうしてしまったら自分の気持ちに歯止めが効かなくなるんじゃないかって。

そんな弱気なあたしが、どんどん輝いていくあいつにどんな顔して会えばいいのか。


会いたくて、会いたくて、会いたくて、

・・・・・・怖くて。


「ふっ・・・うぅっ・・・」


そんな自分が情けなくて恥ずかしくて。


「うぅ゛~~~~っ・・・」



ポツンと廊下に佇んだまま、気が付けば声を出して泣いている自分がいた。





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00 : 00 : 10 | Sweet x Bitter x Sweet | コメント(7) | page top
Sweet x Bitter x Sweet 中編
2015 / 02 / 15 ( Sun )
かったりぃ。

接待、ビジネス、接待、ビジネス、パーティ、ビジネス、パーティ。
無限ループのような目が回るほど忙しい日々の繰り返し。
少し前の俺だったらとっくに爆発して暴れてるに違いねぇ。

だが今の俺には明白な目標がある。

だからどんなにクソつまんねぇことだろうと、ただひたすらそのゴールを目指して突き進むだけ。
そのゴールに辿り着くために必要なことなら、どんなことでも乗り越える確固たる自信がある。
胡散くせぇゴマすりオヤジ共も、化け物みたいなケバい女共も、俺にとっては人形と同じ。
誰を見ても同じ人形にしか見えない。
何も感じない。

今ここにいるのがあいつだったらどれだけいいだろうといつも考える。
あいつがそこにいるだけで、このモノクロの世界が一瞬で色鮮やかな世界へと変わるのに。
いるはずなどないとわかっているのに、つい見渡してあいつがどこかにいるんじゃないか・・・なんて探してしまう自分が女々しくて情けない。

「・・・クッ」

思わず自嘲めいた笑いが零れる。

「どうかされましたか?」
「・・・いえ、何でもありません」

我ながらビジネス用の愛想笑いも随分身についたもんだと感心する。
中には本当に信頼の置けるビジネスパートナーもいるが、大抵は人形だ。
上辺だけに擦り寄ってくる奴には俺も上辺だけの対応で返す。
こんなことですら反吐が出そうなほど嫌で仕方なかったが、あいつを一日でも早く迎えに行くためには己の立場を理解するしかない。

次の事業で手を組む企業の令嬢だかなんだか知らねぇが、パーティが始まって最初のうちだけでいいからエスコートをしろとババァに厳命された。
冗談じゃねぇ。
俺がエスコートするのはこの世にただ一人。
あいつだけ。
俺がエスコートするようなことは絶対にしない。
指先一本触れることもない。
どんなに譲歩しても隣に立つだけ。これ以上はあり得ない。

だが中には調子に乗って俺に触ってくる女もいる。
静かにその手を振りほどいても、何事もなかったかのように再び触れてくる。
俺の目が全く笑っていないことになど気付かない勘違い女は、まるで俺が自分のものにでもなったかのような尊大な振る舞いを見せる。
今日の女がいい例だ。
必死で何かを喋っているが何一つ頭に入ってなどこない。
自分の立場を何一つ考えなくていいのならば、一発ぶん殴ってやるところだ。
強制労働の時間がいつ終わるのか、ひたすらそのカウントダウンを頭の中で繰り返すだけ。

・・・・・・そしてあいつのことを考える。

今頃あいつは何をしているだろうか。
日本は夜中だから、きっとグースカ大口開けて寝ているに違いない。
そんなことを考えながらこのクソつまらない時間をひたすらやり過ごす。
そうしているとどうだ、不思議なほど心が凪いでいく。
もしかしたらそれが顔に出ているかもしれないと思うほど、あいつのことを考えるだけで余計なことが己の中から排除されていく。


会いたい・・・


何百万回と心の中で繰り返す言葉。

最後に会ってから1年。
あいつに会えないのもそろそろ限界になりそうだった。
毎夜夢に出てくるあいつはいつも花のような笑顔を見せて・・・そして泣いている。

我慢させている。
寂しい思いをさせている。

そんな事は俺が一番わかっている。
そしてあいつはそんなことを一言だって口にしない。
思っていたって、それを言葉にしてぶつけるような女じゃない。
自分のことになるとひたすら我慢して、いつだって相手のことばかり考える奴だ。

それが痛いほどわかるからこそ、俺がなんだかんだと愚痴をこぼすわけにはいかない。
納得がいかない仕事だろうと、ババァとのビジネスをしっかりこなす。
そして一日でも早く何一つ口出しできねぇような一人前の男になってみせる。
それが今の俺にできる唯一にして最大のあいつへの誠意だ。



「司」



どこか聞き覚えのある声がしたような気がして振り返る。
ゴチャゴチャとした人混みが見えるだけでただの気のせいかと思った時、頭一つ分背の高い男の姿が視界に入ってきた。

「・・・・・・類?」

まさか。 何故ここに?
・・・あぁ、俺の知らない間に花沢物産にも招待状を出していたのか。
そんなことを考えている間にどうやら本物らしい男が目の前までやって来た。

「久しぶりだね」
「あぁ。お前も来てたなんて知らなかったぜ。うちから連絡がいったのか?」
「まぁね。今度の事業は間接的にうちも関わってるから」
「あぁ、それでか。元気だったか?」
「俺はね。 元気だよ」

ピクッ。

何気ない一言だが何故か妙に引っかかる。暗に何かを含んでいるような。
こいつがこういう言い方をする理由は大抵一つしかない。
・・・あいつが絡んでいる時だ。
あいつに何かがあったのだろうか。

「牧野来てるよ」
「・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・今なんつった? 空耳か?


「牧野、ここに来てるよ」
「・・・・・・・・・は? お前、何言って・・・」

一瞬ふざけてんのかと思ったが・・・・・・違う。
こいつの目を見ればそれが真実か否かなんてすぐにわかる。
あいつが・・・・・・ここに?

「でもここにはいない」

バッと顔を上げて会場中を見回す俺に類がわけのわからないことを言う。
やっぱりふざけてんのか?

「あ? お前さっきから何言ってんだ。ふざけてんのか?」
「正確にはここにいた。でもいなくなった」

いなくなった?!

「おい、一体どういうことだよ?!」
「さっきまで俺といたのは本当。でも牧野走っていなくなったんだ。・・・お前を見て」
「俺を・・・?」

一体どういうことだ?!
経緯はどうあれあいつがここに来るなんて俺に会うために決まってる。
それなのにいなくなるなんて、一体・・・・・・

「お前を見て今にも泣きそうな顔で出てったよ、あいつ」
「俺を・・・?」

「道明寺さん、どうなさったんですか?」

わけがわからない俺に聞こえてきた声にハッとする。
そして自分の隣に陣取って立つ女の存在に今初めて気付く。
ない存在としてずっと思考から、視界から消えていたその女に。

牧野は俺を見て泣きそうになったと言っていた。
俺を・・・・・・



「クソッ!!」



「あっ?! 道明寺さんっ!!」

必死で手を離すまいと近付いて来た女を思いっきり振り払うと、俺は呼び止める声など耳にも入れずにその場を駆けだした。













***




「・・・っ、グズッ・・・・・・・・もう帰らなきゃ・・」

一体どれくらいの時間泣き続けていたのか。
目はヒリヒリ。鼻はズルズル。きっとメイクも酷い有様だ。

「類のこと置いてきちゃった・・・どうしよう」

思わず飛び出してしまったけれど、だからといって今さら戻る勇気なんてない。

・・・・・・こんな情けない姿を見せられるわけがない。

「ちゃんと連絡入れればいっか。・・・よし、帰ろう」

ズビッと最後にもう一度鼻を啜ると、エントランスへ向かって歩き始める。


・・・あいつ、元気そうで良かった。
少しだけ、痩せたかな?
相変わらず自信に満ち溢れて、そして決して楽しそうではなかったけど。
・・・それでももう立派な社会人だった。
やりたくない仕事でも、本音を隠して順応できる、そういう男になってた。

そのうち類と会ってあたしがここにいたことを聞かされるに違いない。
ここまで来ておきながら帰ったって知ったら、きっと怒るんだろうな。


「・・・・・・ごめんね、道明寺」


いくじなしで本当にごめん。


ガシッ!!


その時、突然左手を掴まれてハッとする。

・・・・・・まさか。 いや、違う。
あいつがここに、こんなに早くここに来るはずが・・・・・・

ドクンドクンと緊張と期待の入り交じった状態で恐る恐る振り返っていく・・・・・・

「ずっと泣いてたみたいだけど大丈夫? さっきから気になってたんだ」
「あ・・・」

目の前には全く見覚えのない男。お酒が入っているのか、頬が少し赤くて顔が緩んでいる。

「すみません、何でもありません」
「そんなこと言わないで。ゆっくり話聞いてあげるよ? ね?」
「ちょっ・・・離してくださいっ!!」

引こうとした手を強引に掴まれて離れない。

「君日本人でしょ? 大丈夫だよ、僕もそうだから。だから安心して?」
「ふざけないでっ! 離してください!」

何が大丈夫なんだ?! ふざけるなっ!!
そうは思いつつも悲しいかな、男の力には到底勝つことなどできず。

「じゃあゆっくりできるところに行こうか」
「ちょっ・・・!!」

ズルズルとそのまま引き摺られていきそうになる。
冗談じゃない。
何が悲しくてこんなところまで来てこんなろくでもない男にこんな目に遭わなきゃならないんだ。

「・・・っ離せって言ってんでしょうがっ!!!」
「ぶっ!!」

右手で持っていた紙袋を思いっきり男の顔面にヒットさせると、呻き声と共に掴まれた手が離れた。その一瞬の隙に全速力で逃げ出す。

「あ、おいっ! 待ちやがれっコラァ!!」

待てと言われて待つバカがどこにいる。
あぁもう。 ヒールなんかで走るもんじゃないってついさっき言ったばかりじゃないか!
全くどうしてこんな目に遭わなきゃなんないっての?!

はぁはぁはぁはぁ

あと少し・・・あと少しで表に出られる。そうすれば車を拾って・・・


ガシッ!!!


「ひっ!!」

エントランスの自動ドアが開いた瞬間、後ろから肩を掴まれて思わず悲鳴があがる。

「おい・・・」
「はなせぇっ!! はなせぇーーーーーーーーっっっっ!! このヘンタイっ!!!!!」
「うぉわっ!!!」

腹が立つやら悲しいやら悔しいやら。
もうわけがわかんなくなって振り向きざまに袋をブンブンと思いっきり振り回す。
この際どこでもいいからヒットしてぶっ倒れやがれ!!

「ちょっ、やめろっ!!」
「ふざけんなっ!! 触るな! 近付くな! このヘンタイっ!!!!」

「ちょ・・落ち着けっ! 牧野っっっ!!!」

「うるさいっ! なんであたしの名前を知ってんのよ! なんでっ・・・・・・・・・え?」

ブンブン力の限り振り回していた手がピタリと止まる。

今、牧野って言った・・・?

っていうか、あの声は・・・・・・

「俺だ。だから落ち着け」
「・・・・・・・・・・・・」

うそ・・・。 どうして?
どうしてこの男がここに? だって・・・・・・


ボフッ


そんなことを呆然と考えていたら、いつの間にか自分の体が大きな何かに包まれていた。
全く力の入っていないあたしを、それはこれでもかとギュウギュウに締め付けていく。

これは・・・なに・・・?

「牧野、悪かった」
「・・・・・・・・・え・・・?」
「不安にさせて悪かった」

何言って・・・
何も謝る必要なんか・・・
勝手に来て、勝手に不安になって、勝手に帰ろうとしたあたしに謝る必要なんてどこにも・・・


「・・・ふっ、・・うぅっ・・・・・・うぅ゛~~~~っ・・・」


ぷつりと糸が切れたように、気が付けばボロボロと涙がこぼれていた。
それはもう自分の意思なんか関係なく、次から次と止まることを知らない。

「ごめん・・・。 牧野・・・会いたかった」
「うっ、うぇっ、うぅ゛~~~っ・・・・・・」

まるであたしの泣き声を、不安をかき消すように、背中に回された手に力が籠もる。
これ以上力を入れたら潰されて死んじゃうんじゃないかってほどに強く。
でも、その痛みすら心地よくて。
あったかくて。


「ど・・・みょうじ・・・。 道明寺っ、どうみょうじぃ~~~っ・・・!」


頭で考えるよりも先に、自分が求めているものは何なのか、この手が、心が知っていた。


震える手をゆっくりと大きな背中へと回して触れると、さらに自分を引き寄せるように道明寺の手に力が込められた。
それに導かれるように力の限りしがみつくと、あいつの胸に顔を埋めて他の事なんて何一つ考えられないくらいに、ただひたすら声をあげて泣いた。






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Sweet x Bitter x Sweet 後編
2015 / 02 / 16 ( Mon )
いない、いない・・・・・・いない!


引き止める声を無視して会場の外に飛び出した。
ババァの耳に入るのも時間の問題だろうがそんなことは知ったこっちゃねぇ。
もう充分役目は果たしたはずだ。これ以上強制させられる言われはねぇ。

「クソッ、どこ行った?!」

手当たり次第走り回るがそれらしき姿が見当たらない。
もしかしたらもう外に出てしまったのかもしれない。

階段を駆け下りてロビーまでの道のりを走っていると、遥か遠くに黒髪の女が見えた。

「・・・っ牧野っ!!」

声を張り上げるがあいつは気付かない。
そうこうしているうちに後ろから得体の知れない男があいつの腕を掴んだのが見えた。
その瞬間、全身が燃え上がるようにカッと熱くなる。

「・・んの野郎、ブッ殺すっっっ!!!!」

階段を駆け下りるのすらもどかしい。
残り3分の1ほどをひとっ飛びに下りてきた俺に驚いてすっ転びそうになってる奴がいるが、そんなことに構ってる暇はねぇ。
今はとにかく一歩でも、一秒でも早くあいつの元へ。

何やら揉める様子が見えていたが、やがて牧野が男を振り切り全速力で走り出した。
諦めの悪いヤローがそれでも牧野を追いかけようとする。

「ざけんじゃねぇぞっ・・・!」

叫びながら牧野を追いかけようとしている男の首根っこを最大限手を伸ばして掴む。

「なっ・・・?!」
「テメェ・・・俺の女に手ぇ出してみろ。ブッ殺すぞ!!!」
「ひっ・・・?!」

俺のことを知っているのだろうか、驚愕と恐怖に満ち溢れた男は睨み一つでその場で硬直したまま動けなくなる。本当ならここで一発ぶん殴ってやりたいところだが今はそんな時間はない。
そのまま掴んでいた手を思いっきり振り払うと、男はいとも簡単に吹っ飛ばされて転がった。


「牧野、・・・牧野っ!!」


すぐにあいつを追いかけながら叫ぶが全く立ち止まる気配はない。
凄まじい速さでエントランスへと向かっていく。

「くそっ、聞こえねーのか?!」

それとも聞こえている上で逃げてんのか・・・?

チラリと脳裏を掠めたその可能性を即座に振り払う。

「ぜってぇに逃がさねぇぞ・・・!」


もう声を出す余裕もないほどのスピードで走った。
走って、走って、走って・・・・・・
少しずつ大きくなっていくあいつへと手を伸ばす。
エントランスからその体が一歩はみ出たとき、ようやくこの手に触れた。

「ひっ!!」

肩を掴んだ瞬間あいつの体が大きく跳びはねた。
何か言葉をと思うが、さすがの俺も息が上がってすぐには喋れない。
なんとか呼吸を落ち着かせようと大きく息を吸い込んだところで感じた気配に思わず体を仰け反らせた。

「はなせぇっ!! はなせぇーーーーーーーーっっっっ!! このヘンタイっ!!!!!」
「うぉわっ!!!」

まさに間一髪。
我ながら勘の鋭さに感心するほど。
だが目の前の女は狂ったように手を振り回して暴れ回る。
もう何も見えちゃいないし耳に入っちゃいねぇ。半錯乱状態だ。

「ちょ・・落ち着けっ! 牧野っっっ!!!」
「うるさいっ! なんであたしの名前を知ってんのよ! なんでっ・・・・・・・・・え?」

ようやく我に返った牧野が今度は一転、呆けた顔で固まってしまう。
ぽろっと目ん玉が零れ落ちてくんじゃないかってほどの間抜け面で。
いつもならそれがおかしくて笑ってしまうに違いねぇのに、何故だか今は胸が締め付けられるように痛くなった。


___ だから言葉よりも先に体が動いていた。


「牧野、悪かった」
「・・・・・・・・・え・・・?」
「不安にさせて悪かった」

戸惑うあいつをこの腕に閉じ込めて離さない。
ダラリと完全に力の抜けた女はただなされるがまま。
それが苦しくて切ない。

「・・・ふっ、・・うぅっ・・・・・・うぅ゛~~~~っ・・・」

と、突然堰を切ったように牧野が泣き出した。
ズキズキと、小刻みな震えが心に突き刺さる。


「ど・・・みょうじ・・・。 道明寺っ、どうみょうじぃ~~~っ・・・!」


痛ぇ・・・

こいつがこんなに感情的に泣くなんて普通じゃない。
どれだけ精神的に追い詰められていたのかが痛いほど突き刺さってくる。
フ・・・と背中に控えめな感触を感じたのを合図に、俺はこいつが潰されてしまうことも忘れて力の限りきつく抱きしめた。





・・・
・・・・・
・・・・・・


「・・・グズッ・・・」

どのくらいの時間そうしていたのかはわからない。
けれど、こいつの気が済むまでひたすら泣かせた。
溜まってたもんを全て吐き出して、それからゆっくり話をすればいい。
ようやく落ち着きを取り戻してきた牧野の髪をそっと撫でていく。


「・・・ま・・・、・・・司様・・・!」


と、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
チッ、ここで邪魔されてたまるかってんだ。冗談じゃねぇ。

グイッ!!

だがそんな俺の思いとは裏腹に突然体を突き放される。
驚いて見下ろせばあいつが引き攣った笑いで俺をゆっくりと見上げた。
その顔は尋常じゃないくらい涙でぐちゃぐちゃだ。

「おい、まき・・・」
「ご、ごめんっ! 仕事の邪魔しちゃったよね。忙しそうだし黙って帰ろうと思ったんだけど。途中道に迷っちゃって泣きそうになっちゃってたよ、あはははは」
「まき・・・」
「ほんとにごめんね?! ほんとはこっちに来る予定なんてなかったんだけど、なんでだかこんなことになってて・・・。でもあんたの元気そうな顔が見られたし良かったよ。ほら、忙しいんでしょ? あたしは大丈夫だから戻って?」
「おい・・・」
「さてと! 遅くなると危ないしそろそろ行くね。忙しいだろうけどあまり無理しちゃダメだからね? じゃ・・・」
「おいっ! 待てって!!」

人の言うことなんかにゃ耳も貸さずに一人でペラペラと喋り続ける、しかも勝手に終わらせようとする意地っ張りな口を体ごと塞ぎ込む。

「は、離っ・・・」
「俺に会いに来てくれたお前を黙って帰すわけねぇだろっ!」
「べ、別にあんたに会いに来たわけじゃないよっ。る、類が、類が半ば強制的に連れてきて、それでどうしようもなくて・・・」
「黙ってろっっ!!!」

俺の張り上げた声に牧野の体がビクッと動く。
そんなあいつの背中をゆっくりと撫でながら頭に顔を埋めた。

「いいからもう、黙ってろ・・・」
「・・・・・・」

ギュウッと強く抱きしめると、牧野はそのまま黙り込んでしまった。
さっきとは違って俺の背中に手を回そうとはしない。


「・・・・・・・・・牧野」
「・・・え・・?」

戸惑いがちな顔を上げたあいつの手を掴むと、予想通り驚いた顔を見せる。

「・・・・・・走れっ!」
「・・・えっ? えっ?!」

わけもわからずにいる牧野の手を引いて思いっきり駆け出す。

「ま、待っ・・・! は、離してっ! はなっ・・・!」
「バカッ! 誰が離すかよ! いいから走れっ!!!!」
「ひ、ひぇえぇっ??!! 待って、まっ、ま゛~~~~~っ???!!!!」

もうほとんど悲鳴をあげているあいつの手をきつく掴んだまま、俺はそのまま全速力でその場から逃げ出した。後ろから焦った声が俺を呼び止めていたが、そんなのは知ったこっちゃない。

今俺がすべきことはただ一つ。
掴んだこの手を絶対に離さねぇ。

ギャーギャー喚いているあいつを引き連れて走っている俺は、まるで体中に羽が生えたんじゃねぇかと思うほど体も心も軽かった。
息が苦しくて堪らないってのに、何故だか笑いが止まらなかった。










***



「あ? 知らねーよ。それくらいのことはお前らでなんとかしろ。じゃあな」

ブツッと強引に会話を終了させるとそのままポイッと携帯を放り投げた。
暖炉の前のソファーになんとも情けない顔で座っている牧野の前まで戻ると、ハッとしてあいつが俺を見上げた。
・・・くそっ、そんなに可愛い顔すんじゃねぇよ。

「ほら、熱いから気をつけろ」
「あ、ありがとう・・・」

俺が差し出したホットココアを戸惑いがちに受け取る。

「・・・ねぇ、やっぱり戻った方が・・・」
「いいんだよ。これくらいのことで立ち行かなくなるようじゃどのみち道明寺なんて崩壊した方がいいんだよ」
「なっ・・・あんた、それ本気で・・・?!」
「あぁ。ある意味本気だぜ?」

俺の放った言葉にこれ以上ないくらいの驚愕の顔を見せる。

「・・・フッ。んな心配すんなって。大丈夫だよ。俺の居場所は知れてんだ。本当に困ってんなら今すぐ連れ戻しにくるはずだろ? それをしねぇってことはつまりはそういうことなんだよ」
「・・・・・・」
「な?」
「・・・・・・うん・・・」
「それよりも見ろよ、これ。 似合うだろ?」
「え?」

尚もどこか不安げなあいつに、俺は自分の首元をどうだと言わんばかりに突きだした。

「・・・ぶっ・・・! 何威張ってんのよ! それ、あたしがあげたマフラーじゃん」

一瞬キョトンと呆けた顔を見せると、牧野は腹を抱えて笑い出した。

あぁ、やっとお前の笑顔が見られた。
ずっとずっと見たかったお前の本当の笑顔を。

「ありがとう、牧野」
「えっ・・・?」
「すげぇあったかい」

ピタッと笑うのをやめると、驚いた後にあいつは少しずつ表情を変えていき、最後は涙目になって笑った。
その笑顔に吸い寄せられるように顔を近づけると、やがて牧野も静かに目を閉じた。

ふわりと触れたところから一気に全身に熱を帯びていく。
心が震えるとはこういうことなのだろうか。
その想いの全てを込めてあいつを抱きしめる。
控えめに回された手の温もりを感じると、俺たちの間には少しの隙間もなくなった。



「今日はほんとに忙しい中ありがとう。・・・そろそろ戻らないとだよね?」

長い抱擁を終えると、笑いながらもどこか寂しげにあいつが呟いた。
・・・ったく、最後の最後まで素直じゃねぇ。

「今日は戻らねぇ」
「えっ?」
「早朝には戻らなくちゃなんねーけど、今夜はここに泊まる」
「泊まるって・・・」

「ここはうちの臨時用の別邸だ。仕事で必要な時なんかに使ってんだ。心配すんな、誰も来ねぇよ」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」

明らかに動揺を見せる牧野の目がキョロキョロと忙しなく動き回る。
そんな牧野の頬に手を添えるとぴくっと戸惑った眼差しを見せる。

「俺はお前と一緒にいたい。 ・・・・・・嫌か?」

なんて、たとえ嫌だと言おうと離さねぇけどな。

「・・・・・・嫌じゃない。 あたしも・・・あたしもあんたと一緒にいたい」

震える声であいつが上目遣いで俺を見つめる。
やっと本音を覗かせたその姿にズキュンと心臓が撃ち抜かれた。
ばかやろう、早々に火をつけんじゃねぇっつの。
このまますぐに押し倒しちまいたいところだけど、まずはその前に。

もっとゆっくりお前の話を聞かせろよ。
どんなことでも構わねぇ。
日常のこと、俺にぶちまけたい不満、愛の言葉、なんでも。
そうして、今お前がここにいるってことをもっと俺に実感させろ。

夜はまだ始まったばかりなんだから ____












***




ガチャッ


「おはよう」
「お、おはよ。・・・あの、ごめんね? 昨日は途中でいなくなった上に迎えにまで来てもらって・・・」

開口一番、謝罪の言葉を繰り返す。
いくら類に連れてこられたとはいえ、昨日の自分がやったことは最低だ。

「別にいいよ。はじめから司に会わせるために来たんだし。牧野が気にするようなことは何もない」
「類・・・」

ニコッと笑った綺麗な顔から白い吐息が零れた。

「いろいろ悪かったな」
「・・・司」

後ろから顔を出した男は既に高級なスーツをビシッと着こなしている。

「こいつが限界だと思って連れてきたんだろ? 感謝してる」
「・・・司がお礼を言うなんて激レア。帰りのジェット落ちないかな」
「おい」
「ククッ、嘘だよ。・・・で? ちゃんとゆっくり話せたの?」
「あぁ。ゆっくり・・・な?」

そう言ってガシッと肩を抱かれて、途端に全身がカーーーッと熱くなっていく。
や、やばい、このままじゃ類に変に思われちゃう。
鎮まれ心臓! 引っ込め真っ赤っか!!

「・・・・・・そう。色んな意味で語り合いができたみたいだね」

必死の願いも虚しく、類の意味深なツッコミにますます茹で蛸になっていく。
そんなあたしを見て類が肩を揺らして笑い出した。

「くっははは、あんたってほんとにわかりすいね。よかったよ、うまくいったなら」
「う、うん・・・・・・あ、あの! ほんとに色々ありがとう。何てお礼を言ったらいいか・・・」
「あんたのお礼は聞き飽きたって言っただろ?」
「う、うん・・・」
「類。お前にはほんとに感謝してる。でもあと1年だけはこいつのことを頼む」
「・・・了解。でも少しでも期限を過ぎるような時は俺がもらうからね?」

「誰がだよ。ぬかせ」
「くくっ、くっくっく・・・」

そう言って笑い合うと、何やらアイコンタクトをとって2人は頷き合った。
一体どんな会話が繰り広げられたのか、女のあたしにはさっぱりわからない。

「・・・じゃあ牧野。俺は行くから」

ドキッ・・・
その言葉にハッと顔を上げる。
見れば道明寺の顔はスッキリと、昨日見たものなんか比べものにならないほどの自信とオーラに満ち溢れていた。
スッと伸びてきた手があたしの頭を優しく撫でていく。

「必ず1年後にお前を迎えに行く。不安な時はいつだってぶつけてくれて構わない。むしろそうしろ。俺は全てを受け止めるから」
「・・・・・・うん」

・・・泣かない。 絶対に。

「だからあと1年だけ待っててくれ。そうすれば俺たちはずっと一緒にいられる」
「・・・うん」

絶対に泣いてなるものか。
バイバイは笑顔でするって決めてたんだから。
しっかりしろ! つくし。
ちゃんと笑うんだ。

「・・・待ってる。3年待ったんだもん。1年なんてあっという間だよ!」

そう言ってニッコリ笑った顔は、ちょっとだけ目が潤んでいたかもしれない。
それでも、道明寺は気付かないふりをしてくれる。
それがわかっているから。
ほら、ニッといつもの不敵な笑顔を見せてくれる。

「よし。じゃあ俺行くな。会いに来てくれて嬉しかった。・・・またな」
「うん。また、ね!」

笑顔で手を振ったあいつの首元には、高級なスーツには明らかに不釣り合いな下手くそなマフラーが巻き付いていた。
とても嬉しそうに、幸せそうな顔で身につけていたマフラーが。


・・・ほんとにバカなんだから。
でも、そんなあんたが大好きだよ。



「もう大丈夫?」

あいつを見送るあたしの後ろから声がする。
あたしは振り向くことなく明るく言った。

「大丈夫!・・・類、本当にありがとう」
「・・・そう。それならよかった」

本当にありがとう。
ちゃんと後で面と向かってお礼を言うから。
・・・だから、今はもう少しだけ気付かないふりをしてね。


もうほとんど見えないところまで行ってしまったあいつへもう一度手を振ると、その動きに合わせるようにポタリと一粒の滴が地面へと吸い込まれていった。
どんどん霞んで見えなくなっていくあいつを笑顔で見送る。


「行ってらっしゃい! ・・・・・・またねっ・・・!」





また・・・次に会えるときには、
きっと心からの笑顔で。

その日を信じて、また新たな一日が始まる。






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このお話は大好きなとある原案をモチーフに、自分なりにアレンジ、肉付けをして仕上げた作品になります。今回執筆するにあたり快諾してくださったM様、本当に有難うございました。謹んで献上致しますm(__)m
また、話の流れ的に2人が夜をどう過ごしたのかを敢えて詳しく描写しなかったんですが・・・気になりますかね?そのうち番外編を書こうかどうしようかな~。最初は書く気満々だったんですが、敢えて描かない方が美しいかなと思って本編には入れませんでした。
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