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幸せの果実 1
2015 / 02 / 27 ( Fri )
幸せってなんだろう?


幸せってどんな色?
幸せってどんな形?


お金で買える幸せもあれば、
お金では絶対に手に入らない幸せもある

きっと幸せは何か特別なことなんかじゃなくて
何でもない日常の中にたくさん潜んでいるものなんだ


それに気づくことができることが一番の幸せ





朝笑っておはようと言えるそんな毎日が、今何よりの幸せ・・・









「あふ・・・」


「夕べはよく眠れなかったんですか?」

そのまま人一人くらいなら吸い込んでしまうのではないかと思えるほどの大あくびを前に、目の前の使用人が心配そうに顔を覗き込んでいる。

「えっ? あっ、いや、いえいえいえ、そんなことは・・・」
「そりゃあそうさね。新婚さんに無粋なことを聞くんじゃないよ」
「えっ? ・・・あっ! これは大変失礼致しました!」

何かに思い当たったのか、しまったというような顔になって慌てて頭を下げられた。

「えっ、ちょっ、違いますから! ちょっと、タマさんっ! 誤解を招くようなことは言わないでくれますかっ?!」
「ほぉ~、誤解、ねぇ・・・?」
「うっ・・・」
「今朝は随分坊ちゃんの機嫌がよござんしたけどねぇ。朝からあんなにご機嫌な坊ちゃんなんてめったにお目にかかれないから、てっきりいいことでもあったんだと思ったんですけどねぇ。まぁまぁ、一体何がそんなに嬉しかったんでしょうかねぇ・・・?」

うぅっ・・・!
この人は相変わらずっ!

えぇえぇ、ご指摘の通りがっつり寝不足でございますよ。
ぜーーーーーんぜん眠れなかったですよ!
っていうか眠らせてもらえなかったですよ!
眠らせて・・・・・・


ぼわんとつくしの脳裏に夕べの出来事が蘇る。


『 やっ・・・もうムリっ・・・ 』
『 ムリじゃねーだろ。お前のココはもっとって言ってる 』
『 あっ・・・ダメっ・・・! 』
『 ダメじゃねぇ。 ほら、もっと腰上げろ 』
『 や、ぁっ・・・! 』


一晩中続いたあんなことやこんなことに、全身が一瞬でカーーーーッと熱くなる。
ここ最近月のものでずっとお預け状態が続いていたのだが、昨日になってようやくそれが解禁されたとわかると、仕事で疲れているにもかかわらず朝までひたすら翻弄され続けた。

前々から思っていたことだが、何故あの男はあんなにも底なしの体力があるのだろうか。
いくらここ数日お預けだったからとはいえ、あの体力は尋常じゃない。
仕事だって決して楽なわけではない。
遅くなることはザラだし、連日遠方へ飛び回ることだって少なくない。
それだというのあんな、あんな・・・・・・


発情期の獣かっ!!!




「ほぉ~~、獣かい。いかにも坊ちゃんらしいねぇ」
「えっ?!」

ハッと我に返ればタマがたいそうご満悦そうにニヤニヤしながらこちらを見ている。
その向こうにいる使用人の女性は心なしか頬が赤く見えるのは気のせいか。

ま、まさか・・・

「相変わらずあんたは心の声がダダ漏れだねぇ。まぁこちらとしては面白くていいんだけどね」
「なっ・・・?!」
「そうかいそうかい。それならあんた達の御子をこの手に抱ける日もそう遠くなさそうだねぇ」

羞恥のあまりプルプルと震えるつくしなどお構いなし、タマはふぉふぉふぉとまるで仙人のように声高らかに笑い飛ばす。

「~~~~もうっ! タマさんっ!!!」
「わっはははは! あたしゃー何も悪くないさね。あんたが一人で喋っただけじゃないか」
「そうかもしれないけど・・・意地悪ですよっ!!」
「いいじゃないか。夫婦が仲睦まじくて何が恥ずかしいことがあるのさ。いいことなんだからもっと胸を張りな」

胸を張れと言われても、あんなことやこんなことで・・・

そこまで考えて再び蘇りそうになった記憶を慌てて振り払う。
真っ昼間っから考えることじゃないっ!!


「でもつくし様、どんどんお綺麗になられてますよね」
「えっ?」

これまでずっと恥ずかしそうに会話を聞き流していた使用人が一転、ニコニコと嬉しそうに話し始めたかと思えば全くの想定外のことを言い出した。

「以前から素敵な方でいらっしゃいましたけど、ご結婚なされてからは日に日にお綺麗になられていると使用人の間でも専らの評判ですよ」
「は、はぁっ?! いやいやいや、そんなバカな」
「バカなことではございませんっ!! 本当ですからっ!!」

いつも笑顔を絶やさずほんわかがトレードマークの女性のその変わりっぷりに思わずつくしも姿勢を正す。
こういう女性の方が意外と強かったりするものだろうか?
世間で言うギャップ萌えってこんな感じ?
・・・っていやいや、そういうことではなくて。

「やだ、私ったら・・・大変失礼致しました。でも本当なんですよ? 制服に着替えているときなんかによく話題にあがるんです。つくし様がどんどんお美しくなられてるって」
「えぇ~・・・?」

美しいだなんて言葉、自分からは一番遠いところにあるものだろうに。

「まぁまぁ、あんたがどう思おうとこの子達からはそう見えてるってことさね。ありがたいことじゃないか」
「は、はぁ、それはまぁ・・・」
「あっははは! あんたは本当に変わった子だねぇ。褒められて困るなんて一体どういうことだい?」
「あ、ははは。慣れてないもので。逞しいとか強いとかなら慣れてるんですけどね」
「まぁ、つくし様ったら。ふふふ」

「はい。では採寸は全て大丈夫です。もう手を下ろされて大丈夫ですよ」
「あ、は~い」

談笑している間も真剣な顔でせっせと仕事に励んでいた目の前の女性がにこっと笑った。
今日はつくしのウエディングドレスのための採寸の日だ。

2人が帰国して約1ヶ月。
その日のうちに籍を入れて晴れて夫婦となったが、式などはお預け状態だった。
正直なところ、つくし的にはしなくても構わないと思っていたのだが、お家柄そういうわけにもいかず。帰国直後は司が多忙を極めたためゆっくりと準備する時間も取れなかったが、最近ようやく落ち着きを取り戻してきたのに合わせて急ピッチで準備が進められていた。

つくしは全く気づいていなかったが、NYでの正式発表後、ある程度の予定は既にビジネスで繋がりのある相手先には知らされていたのだという。
やはり上流社会。
色々とつくしには理解できない暗黙のルールというものが存在するらしい。
仕事とのバランスを考えた結果、式は1ヶ月後に執り行われることとなった。
式は身内と極々親しい者だけで行われるが、その後の披露宴には相当な数の招待客が来るらしい。

当然ながらドレスはオーダーメイド。
一応レンタルで十分だと主張してみたものの、

『 バカ言ってんじゃねぇよ 』

の一言で瞬殺されてしまった。
つくしだって女のはしくれ。
ウエディングドレスを着ることへの憧れもある。
だが目が飛び出すほどの値段がするあろうドレスを身に纏うなんて、想像するだけで恐ろしい。


「つくし様、いよいよですね」
「そうですねぇ・・・」
「嬉しくないのですか?」
「いや、もちろん嬉しいんですけど、ある意味では不安というか・・・」
「不安?」
「いやほら、相当な人数が集まるんでしょう? やっぱりそこだけは慣れないっていうか・・・」
「全く、あんたは何から何まで相変わらずだねぇ・・・」
「そりゃそうですよ。三つ子の魂百までって言うじゃないですか。仮に100歳までこの邸で生きたとしても、私の庶民根性は永久に不滅ですよ」
「ふふふっ、つくし様ったら」

タマの言葉に胸を張って反論するつくしにその場にいた女性全員がぷっと吹き出した。

「まぁあんたの場合は変わらない方がいいんだろうねぇ」
「え?」
「あんたはこの先子どもが出来ても、ずーーーっとあんたらしさをなくさないで自分らしくやっていけばいいのさ。道明寺夫人だからこうしなきゃなんて考える必要はないんだよ。坊ちゃんだってそんなことはあんたに望んじゃいないさ。表の舞台は男に任せて、あんたは坊ちゃんが安心して帰ってこられる家庭を作ってやんな」
「タマさん・・・」

長年この邸を見守り続けてきたタマの言葉は一つ一つが重い。


「・・・タマさん、ずっと聞いてみたかったことなんですけど・・・」
「なんだい?」
「その・・・お義母さんがこのお邸に来たときってどんな感じだったんですか?」


つくしはこれまでずっと心の中にはあれども一度だって言葉にはしなかったことを、司にすら聞いたことのない楓の昔のことを、この時初めて口に出していた。






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お待ちかねの新婚編スタートです。
思うように時間が作れなかったため、予定より内容量を減らして、ボリュームよりも更新することを優先させていただきましたm(_ _)m 今作も歩く事故発見器の活躍をご期待ください(笑)
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幸せの果実 2
2015 / 03 / 02 ( Mon )
今は亡き司の父と楓が出会ったのは今から28年前、楓が22歳の頃だった。

大企業の一人娘、4人兄妹の末っ子としてこの世に生を受けた楓は、幼い頃からいずれ大財閥の嫁になることを大前提とした躾を徹底されて育った。
幼い頃から頭脳明晰だった彼女は、思春期を迎えた頃から家柄とは関係なしに自立して自分の人生を歩みたいという思いが強くなっていったが、家がそれを許してはくれなかった。
幼稚園から大学まで、全て親が敷いたレールの上をひたすら歩かされ続けた。家を捨てて自分の人生を掴み取ることを考えなかったわけじゃない。だが、たった一人の女にできることなどたかが知れている。

___ 井の中の蛙大海を知らず

力を持たない小娘のささやかな抵抗など赤子の手を捻るようなもの。
一人の娘の夢は絶大な権力の前にいとも簡単に閉ざされてしまった。



大学卒業を目前に控えたタイミングで楓に見合いの話が舞い込んだ。
とはいえ見合いとは名ばかりで、結婚することは既に決定事項。

政略結婚

見合いの実態がそれであることは誰の目にも明らかであったと同時に暗黙の了解でもあった。
当時楓は自立の道を模索していたため恋愛に時間を費やしている余裕などなかったが、既に道明寺財閥の副社長としての地位を確立していた父には恋人がいた。

だがどちらも大きな組織のジュニアであるという宿命からは逃れることができなかった。
当時それぞれの利害が一致していたことで、結婚の話は本人達の意志とは関係のないところでとんとん拍子に進められていった。
両社の目論見通り、2人の結婚は大々的に報道され、その結果業績はさらに上昇していった。

嫁入りする直前、楓は偶然父の考えを耳にしてしまった。
息子達に我が社を継がせてそれなりの令嬢をもらって会社を大きくすると共に、外に大きな繋がりをもつためにもなんとしても娘が欲しかったのだということを。
諦めかけていたが、最後の最後に念願叶って娘ができて嬉しかったことを。

だが喜んだのはあくまでも会社の利益になるという点だけ。
事実その証拠に一人娘だからと言って特別愛情をかけられた記憶もない。
唯一の接点は令嬢たる者はこうすべきと説き伏せるときだけ。
少しでも大きな財閥とのコネクションを作るためだけに徹底的にマナーを叩き込まれた。


自分の存在価値はビジネスとしての駒でしかない。


嫌が応でも気づいてしまう悲しい現実だった。








「・・・なんだかそれって、まるで・・・」

ここまで黙って話を聞いていたつくしが口を開いたはいいものの、それ以上なんと言っていいのか言葉に詰まってしまった。そんなつくしの心の内を代弁したのはタマだ。

「そうだね。楓様と坊ちゃん達は同じような境遇で育ったってことだね」
「そんな・・・じゃあどうして・・・?」

つくしの疑問はもっともなことだろう。
親の敷いたレールの上を歩かされ続ける人生の辛さを誰よりも知っていたはずの楓が、何故自ら同じ道を辿ってしまったというのか。


「奥様は結婚する際に旦那様に条件を出したそうだよ」
「条件?」
「あぁ。 互いに納得のいかない結婚ならば、せめて自分の力がどれだけのものかを試させて欲しいとね。奥様は結婚後も家に入らず道明寺財閥の一員として働かせてくれと直談判したのさ」
「それって・・・」
「もともと頭の切れる方だったからね。旦那様も決してマイナスにはならないと判断したんだろう。働くことを許可された奥様の勢いを止められる者は誰一人いなかったよ。まるで 『こんなに有能な人間を操り人形と化した自分の選択を後悔しなさい』 と言わんばかりにその手腕を発揮していったのさ」
「後悔・・・?」
「そう。女だというだけで追い出してしまった両親への当てつけのようにすら見えるほど必死だったよ。事実、結婚当時は力関係はほとんど変わらなかったはずの両社が、あれよあれよという間に差が開いていったからね。皮肉なことに、後を継がせた息子達よりも追い出した形の奥様の方がよほど優れた経営者だったってことさ」
「・・・・・・」

「旦那様も奥様も賢い人だったからね。政略結婚だったとはいえ、納得がいかなかろうと互いにその役目はきちんと果たしていたよ。2年後には椿様を、そして更に数年後には司様というかけがえのない子宝にも恵まれた。・・・だけどね、そのときには既にこの道明寺財閥はあまりにも大きくなりすぎていたんだよ」
「・・・どういう意味ですか?」
「確固たる地位を作り上げるには何年もの時間を要する。だけど壊れるときはほんの一瞬。奥様も旦那様もそれを守ることだけに必死になってしまったのさ」
「それって・・・」
「後はあんたも知っているとおりさ。親の愛情を受けずに育ってしまった坊ちゃんがどうなっていったのか」
「・・・・・・」

室内を長い沈黙が包み込む。
つくしを含めてその場にいた誰もが何も言葉を発することが出来ずにいる。

「奥様は自分の存在価値を示したかったのだろうね。もちろん本人にはそんなつもりはなかったのかもしれないけれど。自分は駒なんかではなく一人の人間としての存在価値があるのだと、この道明寺財閥を守り続けることで証明したかったのだろうよ」
「・・・悲しいですね」

・・・どうして、どうして。
楓は椿や司の苦しみを誰よりも理解できていたはずなのに。
何故同じ過ちを繰り返してしまったのか。
一つのボタンの掛け違いが全ての歯車を狂わせてしまったなんて。
あまりにも悲しすぎる。

・・・でも実際には人はそんなに強い生き物じゃない。
後になってあの時ああしてれば良かったなんて思うことはいくらでもあるのだ。
それは自分にだって。
司と離れていたあの時、結局自分の弱さに負けてしまった。
彼が最後まで諦めないでいてくれたからこそ今がある。

だから、 「どうして?」 なんて簡単に口にすることなどできっこないのだ。


「でも結果的にはこれで良かったんだよ」
「え・・・?」
「確かに坊ちゃんは長いトンネルの中で彷徨い続けたのかもしれない。それでもその中であんたに出会うことが出来た。あの子が真っ直ぐに育っていたらきっとあんたとは出会えていないだろうよ。そう考えるとあの子のこれまでの人生にもちゃーんと意味があったと思えるのさ」
「タマさん・・・」


バシィッ!!


「いたぁっ!!!」

しんみりと言葉に詰まってしまったつくしの背中にタマの会心の一撃が入った。
その小さい体から放たれた一撃は信じられないほどの威力を持っている。

「ちょっ、タマさん! 本気で痛いんですけどっ?!」
「そりゃそうだろうさ。本気で叩いたんだから」
「なっ・・・?!」
「いいかい、過去を悲しんだってしょうがないんだよ。大事なのはこれからだろう? 言ったじゃないか。あんたらしい道明寺夫人になればいいんだって。あんたが余計なことを考えるとろくでもないことが起きるからね」
「ろくでもないって・・・」
「あんたは坊ちゃんどころか奥様までをも変えたんだ。それが全てなんだよ。それは色々考えたからって計算できることなんかじゃない。むしろ計算して行動したって逆効果さ。奥様はそんなことがわからないほど愚かな人間じゃないからね。だから奥様の過去を知ったからってあれこれ考えるのはやめな」
「タマさん・・・・・・。 ・・・はい、わかりました」

しばらく黙り込んだ後にこっと笑って頷いたつくしにタマも満足そうに頷く。

「そうそう、素直が一番だ。あんたは1ヶ月後に花嫁になるんだからね。今は何よりもそのことに集中しな」
「う・・・それはそれで緊張するんですけど」
「まーーーたそんなこと言ってるのかい? もう一発気合いを入れてやろうか?」
「やっ!! それはもういいですからっ!!」

右手を開いてハーハー息を吹きかけるタマをつくしが慌てて制止する。
その姿にそれまでつくし同様しんみりとしていた使用人達がドッと笑いに包まれた。









***




「自分らしく・・・か」

「ん? 何か言ったか?」
「えっ? あ、上がってたんだ。ううん、何でもない」
「 ? 」

ガシガシとタオルで濡れた髪を拭きながら司がベッドに腰掛けると、俯せになっていたつくしの体も少し沈む。ゆっくりと体を起こすと目の前に座る男をあらためてまじまじと見つめてみた。
・・・・・・やっぱり悔しいほどにいい男だ。

「・・・なんだよ?」

前のめり気味に自分を見つめるつくしに司も若干戸惑い気味だ。
単に誘惑されているのなら両手を広げて迎え入れるが、大抵つくしの場合は何かしらオチが待っているというパターンになるためさすがの司も見極めているらしい。

「・・・ううん。 この髪、ほんと不思議だね」
「・・・は?」

至近距離でじーーーっと見つめて、こりゃあいよいよ誘惑の方かと天秤が傾きかけたところでつくしが突拍子もないことを言い出した。

「最先端の縮毛矯正でも真っ直ぐにならないんでしょ? それなのに濡れるだけでこんなにサラサラのストレートになるんだもん。一体どういうこと?! 不思議だよね~」
「・・・・・・」

一体どういうことはお前の頭の中だろと突っ込まれていることなど露程も気付かず、つくしは細い指を伸ばしてその濡れた髪をそっと掴んだ。

「きゃっ?!」


バサバサッ!!


が、掴めたのはほんの一瞬だけで、気がつけば体が反転してベッドに押さえつけられていた。
両手は大きな手にしっかりと押さえつけられていて身動きは取れそうもない。
そして無駄に色気をダダ洩れさせている男が眼前に迫っている。

「お前誘ってんのか?」
「・・・はっ?!」

思ってもいない問いかけに目を丸くする。
何がどうしたら一体そうなるのか?

「そんなに目ぇキラキラさせて近づいてきて、しかも髪にまで触ってくるなんて誘ってんだろ?」
「ち、違うからっ!」
「相変わらずわけのわかんねーこと言ってっけど、まぁ素直になれないお前だから仕方ねぇよな」
「え? いやいやいや、なんか違うなんか違う」
「まぁ遠回しなのも悪くねぇけどな。たまにはストレートに誘ってみろよ」
「いや、だから・・・」

何やら司の中ではつくしが誘惑したことで結論づけられてしまったらしい。
つい昼間タマから聞かされた話に耽っていたのを、鋭い司に悟られないようにと咄嗟に移した行動だったのだが・・・どうやらスイッチを押し間違えてしまったようだ。

だがそこまで考えてつくしはふと思った。

楓の過去を知り、ますます今の幸せな時間の大切さに気づくことができたことを。
こうして共に過ごせることの尊さをあらためて感じることができたことを。
そう思ったら何故だか無意識に司の髪に触れていたのだということを。



・・・こういう感情を愛おしいと言うのだろうか。



「・・・好きだよ」
「・・・は?」

ベッドに貼り付けたつくしの口から出た一言に司がまた呆気にとられる。
やたらと自分から触れてきたかと思えば挙げ句の果てに好きだなんて、言わせようと躍起にならない限りそう簡単には口にしないというのに、やはり今日はどこかおかしい。
天秤が一気に 「怪しい」 へと傾き始める。

「お前今日なんかあったのか?」

さすがは司。野生の感は半端じゃない。
だがつくしは動揺など全く見せずに静かに首を振った。

「何もないよ。・・・ただ、司とこうしていられる時間が幸せだなって思っただけ」
「・・・・・・」
「そう思ったら好きって言いたくなったの。・・・ダメだった?」

司はつくしの目をじっと見つめてその言葉の真意を探った。
・・・だが、キラキラした瞳で自分を見上げているつくしを見ていたら、ものの3秒で細かいことなどどうでも良くなってしまった。

「ダメだな」
「えっ?」
「好き、なんて生ぬるい言葉じゃ納得できねぇな」
「へっ? ・・・ぷっ、あはは! そこ?!」
「ったりめーだろが。最重要ポイントだっつの」
「あはははは! 相変わらず意味がわかんないんだから。 ・・・愛してるよ、司」

ちょっとはにかみながらも素面でこんなに素直に愛の言葉を囁くなんて、やっぱりおかしい。
とはいえつくしの瞳に嘘は何一つ感じられない。
それよりも何よりもそんな女が愛しくてたまらない。

「意味がわかんねーのはお前の方だろ」
「はぁ? 何が、んっ・・・!」

塞がれた唇ごと言葉が飲み込まれてしまった。

あぁ、やっぱりこの時間が好きだなぁ・・・

つくしはキスだけでも蕩けそうになってしまうその極上の心地よさに、いつの間にか自由になっていた手を司の首に回した。
と、ふっと唇の感触が離れてしまったのを感じ、物足りなさに目を開いた。
予想に反して司の顔は目の前に残されたまま。唇までも1ミリほどの距離しかない。

「・・・お前が誘ったんだからな。昨日の約束は無効だぞ」
「・・・え?」

約束・・・?
何か約束なんてしたっけ・・・?

ぼんやりと記憶を辿っていくつくしに夕べの出来事が蘇る。
月のものが終わって司にクタクタになるまで翻弄され続けたことを。
そして最後はほとんど泣きながら 「明日はもうムリだから許して」 と懇願したということを。
断片的な記憶ではあるがはっきりと覚えている。

「あ、あのっんんっ・・・!」


ハッとしたときは時既に遅し。

つくしの口が余計な言葉を発する前に完全にその動きを封じ込まれてしまった。

幸せ感に浸るあまりにすっかり忘れてしまっていたとは。
昨夜の疲労がまだ全身に残された状態だというのに。
自分から誘ってしまったとはいえこれでは完全に自殺行為だ。

せめて手加減してほしいと伝えようと体をじたばた動かすが、動かせば動かすほど司の体が上手いことポジションを取っていって本末転倒甚だしい。


「俺もお前を愛してる」


耳元で囁かれた一言に体中からへなへなと力が抜けていくのを確認して満足すると、司は無抵抗になったつくしを今夜も隅々まで愛していった。





翌朝、エントランスまで司の見送りにつくし自らが足を運ばなかったのは結婚して初めてのことだった。司の機嫌の良さと艶っぷりを見れば何が起こったのかなど聞くまでもなく、誰一人として理由を尋ねる者などいなかった。


「・・・やれやれ、仲が良いのは結構だけど、ちょっとだけつくしに同情するわい」

羽が生えたように足取りの軽い主を見送りながら、タマが呆れたように独りごちていたなんてこと、当の本人達が知る由もない _____






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00 : 03 : 58 | 幸せの果実(完) | コメント(8) | page top
幸せの果実 3
2015 / 03 / 06 ( Fri )
「つくしー! こっちこっち!」


入った店の奥で久しぶりに見る顔につくしも自然と笑顔になる。

「ごめーん! 待った?」
「ぜーんぜん。 あたしもさっき来たところだから。ねっ?」
「うん」

息を切らしながら椅子に腰を下ろすと、帰国以来久しぶりに顔を合わせる3人が既に席に着いていた。

「全員揃うのってつくし達が帰国した次の日以来だっけ?」
「多分そうですね」
「えー、ってことはもう2ヶ月近く経つの? 早いー!」
「先輩、飲み物は何にされますか?」
「えっ? えーと・・・じゃあカプチーノで」
「了解です」

すぐに話に花を咲かせる滋にそれに相槌を打つ優紀、そして世話焼き上手な桜子、いつになってもこの自然体な構図は変わらない。

「なんかごめんね? 皆忙しいのにあたし達の都合で集まってもらっちゃって・・・」
「何言ってるの! 親友の晴れ舞台なのに駆けつけない方がおかしいでしょ?!」
「っていうか呼んでもらえない方が滋さん怒りそう・・・」
「そんなのあったり前じゃん! 万が一にもそんなことがあったら手製のバズーカ砲を持って式場に乱入するよっ!」
「バズーカ砲ってあんた・・・」
「でも滋さんなら何の違和感もなさそうなところが怖いですよね」
「あははは・・・!」

すぐに笑い声が溢れるところも何も変わらない。

「桜子は今ロンドンにいるんだっけ?」
「はい。今手がけてる仕事の都合でもうしばらくは向こうにいることになりそうです」
「わざわざ帰国させちゃって大丈夫だったの?」
「もちろんです。それとこれとは全く別問題ですから。先輩が気にするようなことは何一つありませんよ」
「そっか・・・ありがとね」
「とんでもありません」

ニッコリ笑って見せた笑顔は以前に増してまた美しくなった気がする。


つくし達の式まであと2日。
目前まで迫った今日、滋の声かけで久しぶりにT4が一堂に会した。
4人全員が揃うのは、帰国した翌日にF3も含めた全員が集まった時以来だ。

今現在全員がバリバリの社会人。
ましてや優紀以外は全てが上流階級の人間。
それぞれが世界中を飛び回り、昔のように全員が顔を揃えることは難しくなっていた。


「つくしは今お邸の仕事を手伝ってるんだっけ?」
「うん。最初は普通に働くつもりでいたんだけど、ほら、籍だけ先に入れて式とか諸々はまだだったでしょ? その準備でバタバタするから司が落ち着いてからでも遅くはないんじゃないかって」
「確かに色々準備大変そうだもんねぇ・・・」
「なんだかね・・・。招待客のリストとか見てるとそれだけで気を失いそうになるよね」
「あははっ、何それ」
「嘘じゃないよ! だって、普通にテレビとか新聞の世界でしか見たことのない人の名前なんかがずらっと並んでるんだもん。平気でいろって方がムリでしょ」
「確かにそれはそうかも・・・」
「優紀っ! やっぱりあんただけだよ、この気持ちをわかってくれるのはっ!!!」

庶民の感覚を理解できるのはこの中では優紀くらいのものだろう。
つくしは優紀の両手をガシッと掴むと、うるうるしながらうんうんと激しく頷いた。

「あははっ、結婚してもつくしは変わらないねぇ」
「当たり前じゃん。人はそんなに簡単に変わらないんだよ」
「先輩のそういうところが道明寺さんの心を掴んで離さないんでしょうねぇ・・・」
「はぁっ? なんでそういう話になるのよ」
「だって事実そうなんですから。 ・・・っていうか今後もお仕事続けられるつもりなんですか?」
「え? もちろんだよ。なんで?」
「なんでって・・・」

キョトンとするつくしに残りの3人が顔を見合わせる。

「勝手な想像だけど、道明寺さんってそのままつくしにお邸に入って欲しいのかな~、なんて」

少し言いづらそうに優紀が言った。

「あー、そういうことか。まぁねぇ、それも0ではないんだけどね。でも基本的にはあたしのしたいようにすればいいって言ってくれてるよ」
「へぇ~、司も大人になったんだぁ」
「あはは、大人って。・・・ほら、あたしの貧乏気質って見ての通りあいつと結婚しようがどうしようが消えないでしょ? やっぱり何か働いてないと落ち着かないっていうか。そんなことはあいつもお見通しだろうし、条件さえ呑めば好きにして構わないって。まぁ今は準備とお邸での仕事だけでもいっぱいいっぱいだけどさ。結構お邸での仕事ってあるんだよね~」
「条件? 何それ」
「え? あっ・・・!」

そこまで詳しく話すつもりはなかったつくしが思わず口に手を当てる。
だが既に遅い。
全員の目が興味津々と自分に注がれているではないか。
こうなると自白するまでは追求が続く。
つくしははぁ~と息を吐くと、そうなる前に自分から話し始めた。

「・・・あいつの目の届く範囲で働くこと、それが条件」
「それってつまりは秘書ってこと?」
「いや、必ずしもそうじゃないんだけど・・・まぁあいつの直属の部下ならなんでも」
「へぇ~、独占欲の強い司なら邸にいろって言ってもおかしくなさそうだけど。NYでの秘書生活が案外楽しかったのかな」
「副社長と秘書・・・なんか響き的にはHだもんね」
「ちょっと、優紀! あんた何言ってんのよ!」
「だってぇ~・・・」

とんでもないことを言い出す優紀の脇腹を突っつくが、今度は滋の目がキランと輝きだした。

「上司と秘書の情事・・・うぅ~、たまらんっ!!」
「滋までやめてよねっ!!」
「だってあの司だよ? そういうことが一切なかったの?」
「そっ、それは・・・」

何かを思い出したのか、つくしの顔がみるみる赤く染まっていく。

「あーーーーーーっ! あったんだあったんだ?! なになになに、どういうシチュエーションで?! デスクに押し倒されてそのまま? それとも応接用のソファーに?!」
「ちょっ・・・声が大きいからっ!!」
「むごごごっ・・!」
「先輩の声が一番大きいですよ。・・・そっか、さすがは道明寺さん、しっかりやることはやられてるんですね」
「桜子っ!!」
「ふふふ」

全くこの人達は相変わらずっ!!
というかそもそもあいつがあんなことをしなければ・・・
つくしの脳裏に誰一人として教えていない秘密の情事が蘇る。

あれはとあるパーティに出席するために仮眠室で着替えていた時のこと。
その前に会ったある男性会社役員がつくしに色目を使っているだのなんだの言い出した司の嫉妬により、ドレスと素肌ギリギリのところにマーキングを施されたことがあった。
だがそこは野獣。
一人で勝手に時間と相談した結果大丈夫だと判断し、抵抗するつくしを問答無用で押し倒してそのまま・・・


「あー、思い出してる思い出してる」
「えっ?! ちっ、違う違う違う違う!!」
「そんな耳まで真っ赤な人に否定されても説得力は皆無ですよ」
「う゛っ・・・!」

ガバッと咄嗟に押さえた耳は燃え上がるように熱い。

「今更恥ずかしがらなくたっていいじゃーん! だってあの司だよ? むしろそんなことの一つや二つ、ない方が心配になるよ」
「いや、それなんかおかしいから」
「なんだかんだ言ったって幸せなんでしょ? つくし」
「う・・・・・・うん、それはまぁ」

ぽっとほのかに頬に赤みが差す。
そんなつくしの背中を滋がバシッと一発叩いた。

「くーーーっ、結局はのろけかこのやろうっ!!」
「いったあ!! ちょっと、少しは手加減しなさいよっ!」

なんだかこのところ背中を殴られてばかりじゃないか?!
というか明後日にはドレスを着るんだから手形が残るのだけは勘弁して欲しい!

「うるさいっ! 幸せボケした奴にはこれくらいがちょうどいいのじゃ!!」
「滋さん今度は何設定・・・」
「ワシはおのろけ成敗仙人じゃっ!!」
「いや、相変わらず意味わかんないから」
「あはははっ!!」

4人が揃うと相変わらず笑いと大騒ぎが止まらない。

「でもつくしってさ、いずれあの楓社長みたいな立ち位置になるの?」
「えっ?」

優紀の何気ない一言にカプチーノを一口飲み込もうとしていた手が止まる。

「いやほら、道明寺さんの奥さんってことはいずれは社長夫人になるわけでしょ? ってことはああいう表舞台に立っていくのかなーって」
「ないないないない! それはないっ!」
「え、でも可能性はなきにしもあらずでしょ?」
「そうだけど、あたしはお義母さんとはタイプが違うよ。あたしは裏方で働いてる方が性に合ってると思う」
「それは確かに言えてるかも・・・。つくしって昔から気がつけば中心に立ってるような人間だったけど、自分から真ん中に立つってイメージはないんだよね」
「でしょ? 仮にあたしがお義母さんみたいな立ち位置に立ったとしても、きっと空回りして上手くいかなくなっちゃうと思う。もちろん仕事は続けていくし、道明寺財閥のために一肌でも二肌でも脱ぐつもりだけど、あたしはあいつの後ろから支える形で十分だよ」
「縁の下の力持ちかぁ~。いかにもつくしらしくていいかもね」
「適材適所って言葉がありますしね。先輩の仰るとおり、今の社長みたいに率先して自らトップに立っていく姿は想像ができないですね」
「そうそう」

つくしは止まったままだった手を動かしてカプチーノを一口含むとふぅっと息を吐いた。

「それにさ、」
「ん? 何?」
「いつか・・・いつかもしあたしたちに新たな家族ができるんだとするなら・・・その時はしっかり自分の手で育ててあげたいなって思ってるから」
「つくし・・・」
「もちろんわかんないことだらけで人の手を借りてばかりだとは思うよ? でも下手でもいいからちゃんと自分で向き合って育てていきたいんだ。・・・って気が早いんだけどさ。あはは」

照れくさそうに笑うつくしに3人がうんうんと頷く。

「そっかそっか。うん、そうだね。つくしなら絶対にいい肝っ玉母ちゃんになるもんね」
「表舞台は今の道明寺さんなら怖いものなしでしょうからね。いずれ子どもが出来てさらに守る者が増えればもっと強くなるでしょうし。先輩は内助の功を発揮してあげてください。・・・とはいえ結局なんだかんだで目立っちゃうんでしょうけど。でもそれが先輩らしくていいんですよ」
「え? 最後何か言った?」
「いいえ、こちらの話です」
「・・・・・・?」

くすくす顔を見合わせて笑い合う3人を見ながらつくしが不思議そうにしているが、当の本人は何故笑われているのかがわからない。

「あーでもいよいよ明後日かぁ」
「早いよねぇ・・・」
「っていうか入籍してもう2ヶ月近く経つことにびっくりだよ」
「あー、それもほんとにねぇ・・・」
「って、ちょっとつくし! 当事者の自覚あるのっ?!」

まるで人ごとのように話すつくしの腕を滋がガシッと鷲掴みする。
手にしていたカップがひっくり返りそうになって慌ててテーブルに置いた。

「ちょっ・・・零れちゃうから! 自覚って言っても・・・なんか緊張しすぎて逆に今は実感が湧かないんだよね。さっきも言ったけど、招待客の多さだけじゃなくてその顔ぶれも非現実すぎて・・・。自分ではどうしていいのかわかんないんだもん。だからもう披露宴に関しては司に全部任せることにしたの。あたしはとりあえず笑顔を絶やさずにいればいいかなって」
「あはは、それが一番間違いないかも」
「正直披露宴はおまけみたいなものですものね」
「確かに。メインはその前の式とその後の近しい人間だけのパーティだもんね。披露宴は仕事関係の人のためのお披露目みたいなものだからねぇ」
「あたし、終わる頃には顔筋が戻らなくなってるかも・・・」
「あはははっ! その時はこのゴッドハンドがマッサージしちゃる!」
「や、やめてっ! その手の動き変だからっ!」

滋がわさわさしている手の動きはどこか卑猥でつくしが思わず後ずさりする。

「ついでにモミモミさせろっ!!」
「ぎゃーーーっ、やっぱりっ! やだやだやだっ!! 桜子助けてっ!!」
「えっ?! ちょっ、先輩っ!」
「こら、お肌ピッチピチの新妻っ! 腹が立つほどツルツルした乳を揉ませてみやがれっ!!」
「ぜっっっったいやだっ! 滋の触り方いやらしいんだもん! あっちいけっ!!」
「司ほどはいやらしくないよ~~~だっ」
「先輩! 人を盾にするのやめてくれませんかっ?!」
「っていうか滋さん、仙人の次は一体何なんですか?!」
「うへへへへ、今度はただの変態オヤジだよ~~」

美貌に似合わぬニヤニヤ顔は変態顔負け。
というかほとんど素に近いのではなかろうか。
桜子の背中に隠れて必死で逃げ回るつくしをぐるぐる追いかけ回す姿はまるで子どもだ。 

「いつまでも隠れるつもりなら・・・・・・まずは桜子からだよっ!」
「えっ? ちょっと・・・?! ひっ、やめてくださいっ!! 先輩っ!!」
「桜子許せっ!」
「いやぁ~~~っ!!」









「・・・・・・社長、どうされましたか?」

やいのやいの騒がしい店の奥をじっと見つめたまま動かない上司を秘書が不思議そうに覗き込む。

「・・・いや、何でもない」
「・・・? この後は是枝社長との会食になっております。そろそろ移動のお時間です」
「あぁ、そうだな。行こうか」
「はい」

先に店を後にする秘書に続いて出ようとしたところで立ち止まると、もう一度賑やかな一角を振り返った。
そしてその中心にいる一人の女をじっと見つめる。


「牧野つくし・・・。 道明寺つくし・・・・・・か」


一見大財閥に嫁いだとは到底思えないような女をしばしじっと観察していたが、やがて男はクッと口角を上げて不敵に笑うと、カツンと革靴の音を立てて颯爽とその場を立ち去っていった。


じっと見られていたことなど、当の本人は気づくはずもなかった。






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00 : 00 : 00 | 幸せの果実(完) | コメント(11) | page top
幸せの果実 4
2015 / 03 / 18 ( Wed )
その日は朝から澄み渡るような青空が広がっていた。

前日まで降っていた雨が嘘のように。
まるで2人の門出を祝福してくれているかのように。






「ぐずっ・・・うぅっ・・・つくし、つくしぃ~~っ」

太陽がキラキラと差し込む室内に似つかわしくない何とも情けない声がこだまする。
鏡に映された女はそんな男を呆れた顔で見ている。
その姿もまた、身につけた衣装には似つかわしくない間抜け面だ。


「もう・・・パパ! とっくに入籍してるのになんでそんなに泣いてるのよ?!」
「ぐすっ、それとこれとはまた別なんだよぉっ・・・ぐずっ・・・」

そう言うやいなやますますむせび泣き始め、我が親ながら開いた口が塞がらない。

「まぁまぁつくし、これが親心ってものなのよ」
「ママ・・・」
「娘のこんなに綺麗な姿を見られるんですもの。嬉しくて泣くなって方が無理な話じゃない」

鏡越しに映った母の目にもうっすらと光るものが見える。
なんだかそれを見ていたら自分の目まで潤んできそうになるが、慌ててその涙を引っ込めた。
今泣いてしまったらせっかくのおめかしが台無しだ。


「姉ちゃん、義兄さんが来たよ」
「え?」

視線を上げるとカタンと言う音と共に実に凜々しい姿へと変貌した男が入ってくるのが見えた。

「準備できたか?」
「あ・・・うん」

すぐには振り向けないためゆっくりとその体を入り口の方へと向けていく。
すると徐々に見えてきたつくしの姿に目の前の男が息を呑んだのがわかった。

「・・・っ」
「・・・!」

あらためて真正面から互いの姿を見合うと、どちらからともなく頬がほんのりと赤く染まっていく。

悔しいけれど、この男が凄まじくいい男なのは抗いようのない事実ではあった。
だが今目の前にいる男はその比ではない。
ミーハーではないつくしをもってしても思わず見とれてしまうほどに、今日の我が夫は凜々しく逞しい。 そしてそれと全く同じように、司は司でつくしの姿に呆然と見とれてしまっていた。
互いにポカンと口を開けたまま見つめ合うこと数十秒、まるでそこだけ時間が止まってしまったかのように異質な甘い空気が漂っていた。


「まあ~~~っ! 道明寺さん、なんて素敵なお姿なんでしょう!」

なんとも照れくさいはにかんだ空気を切り裂くような黄色い歓声が響き渡る。
見れば千恵子が目を特大ハートにしてうっとりと司を眺めているではないか。
見とれるあまり意識的か無意識か、じりじりとその距離を詰めている。
司もそれに気付いたのか、引き攣った笑いでじわりじわりと後退していく。つくしの母でなければぶっ飛ばされていること間違いなしだが、よもやそんなことができるはずもなく。

このままでは中年女子による壁ドンになること違いなし。
名付けて 『 中ドン 』
まるで爆弾の投下音のような響きだが、あながち間違いとも言えない。

そんなの誰が見たいんだっっっ!!!


「ちょっと、ママ! 司が困ってるでしょっ!!」
「・・・ハッ!! あらやだっ・・・私ったら! 恥ずかしい~~!!」

いや~んとでも言わんばかりに頬赤らめて体を捩らせているいい歳の女。
イヤはこっちのセリフだっつーの!

「道明寺さん、ごめんなさいね? 道明寺さんの和装姿なんて初めて見たものだから、つい見とれてしまいました」
「いえ、大丈夫です」

どう見てもその笑顔は若干引き攣っているが、ハイテンションの千恵子が気付くはずもなく。
とはいえ千恵子がそれだけ興奮してしまうのも致し方ないことなのかもしれない。
何故なら ____


「義兄さん、本当にかっこいいですね」
「おう、進。 惚れんじゃねーぞ?」
「あはは、義兄さんが世界一いい男なのは間違いないですけど、残念ながらそっちの気はありません」
「くっ、悪ぃけどそれはこっちのセリフだ」
「はははっ、ですよね」

顔を合わせて笑いあう男同士、義理の兄弟はいつの間にやらすっかり気の合う友人のような関係になっていた。
結婚後も進は司のことを 「道明寺さん」 と尊敬の念も込めて呼び続けていたが、それを司が許さなかった。いつまでも他人行儀な呼び方をやめないならお前を弟だとは認めねぇなどと、ほとんど脅すような形で強制的に変えさせたが、結果的にそれが2人の距離をグッと近づけることとなった。

社会人となった進にとっては司は純粋に尊敬すべき人間だった。
この若さで大財閥を引っ張っていくことがどれだけ凄まじいことなのか、新米ながら・・・いや、新米だからこそそれを身に染みて感じているのだ。
そして見た目の格好良さに加えて持ち前の男らしさ。
全てが進の憧れの的だった。
司は司で可愛い弟分ができたようで、まんざら嫌そうでもなく。
というよりむしろ誰の目にも嬉しそうなのは明らかだった。


「姉ちゃん! いつまで見とれてんだよ」
「・・・えっ? あ、あぁ、見慣れないから・・・つい」
「ははっ、見とれてたのは認めるんだ」
「う、うるさいよ、進っ!」
「へぇ~、見とれてたのか?」
「もうっ、司までうるさいっ!」

そう。 今日の司はつくしですらうっとりと見とれてしまう。

____ 何故なら普段滅多に見ることのない和装だから。


式をするにあたり、お前の願望を何でもいいから出しまくれと言われた。
その時につくしの脳裏に浮かんだのはチャペルでの洋式ではなく厳かな神前式だった。
披露宴では立場上大々的なものになってしまうのは避けられないし、つくしも道明寺に入った人間としてそこは覚悟していた。
そんな中でも、式だけは限られた人間だけで落ち着いた中でやりたかった。
そこで和式に拘りたいという想いがふっと湧き上がってきたのだ。

別にそれまで神前式に対する拘りがあったわけでもない。
だが司に聞かれてあらためて思ったのだ。
人生の節目に自分が日本人であることを誇りに思いたい、と。
そして昔から伝わる和装に身をつつんで厳かに誓いを立てたいと。

司は面倒くさがるかと内心心配もしたが、それは全くの杞憂に終わった。
二つ返事であっさりとゴーサインが出た。
後でわかったことだが、司自身にも拘りは全くなかったし、披露宴でさほど自由が効かない分、式はつくしの思う存分やりたいことをさせてやりたいと思っていてくれていたらしい。
それがつくしには何よりも嬉しかった。
自由にできることが嬉しいのではない。普段あまりそういうことに頓着がないように見えてしっかりと考えてくれていたことが嬉しかったのだ。
司の深い愛情を感じることができて。


そして迎えた今日、実際に昔ながらの黒の紋付き袴を身につけた司の精悍さ。
世の女性が見たらほぼ全員がほの字になること間違いなしだろう。
いや、つくしですらうっとり見とれてしまうほどにカッコイイのだから絶対だ。


「俺は見とれてたぜ」
「えっ?」
「お前のその姿、想像以上にすっげー綺麗だ」
「司・・・」

相変わらず恥ずかしげもなく堂々とそんなことを口にする。
だがつくしも想いは同じだった。
ほんのりと頬を染めながらも嬉しそうに笑うと、自分でも驚くほどにすんなりと素直な気持ちが出ていた。

「・・・ありがとう。 司もすっごく素敵だよ」
「ったりめーだろ。 俺は何をやってもいい男なんだよ」
「えっ? ・・・ぷっ、あはははっ! それがなければもっといい男なんだけどね~」
「バカ言えよ。これがあってこその俺らしさだろ」
「・・・そっか。その通りかも。あははっ」

せっかくの白無垢姿で美しくなっているというのに、大口をあけて笑う姿はいつもと何一つ変わらない。司はそんなつくしをを見て目を細めると、スッと右手を頬に伸ばした。
触れた感触につくしの顔から笑いが消えて行く。

そのまま見つめ合うこと数瞬、どちらからともなく吸い寄せられるように近づいていく ____



「 ごほごほっうぉっほんっ!!」



「 はっ?!」

ドンッ!

「 うおわっ!!」

ドサドサッ!!


「「どっ、道明寺様っ!!」」
「義兄さんっ!!」

突然響いた咳払いに咄嗟に目の前にあった体を突き飛ばした瞬間、夫が視界から消えた。
と同時にその場にいた家族全員の悲鳴があがる。
つくしが慌てて立ち上がると、目線を一段下げたところで尻餅をついている姿が目に入った。

「いってぇ~!!」
「ひっ、ひぇえぇっ! ごっごめんっ!! 大丈夫っ?!」
「・・・じゃねぇよっ! お前は式の直前までこのオチかよっ!!」
「ひーーーん、ごめぇ~~~~んっ!!」
「ゴメンで済むか! このドアホっ!!」
「うわーーーーーんっ!!」


最高級の白無垢姿の女と最高級の正絹袴を身につけた男、いずれもこれ以上ない極上のものを身につけているというのに、口から出るのはその姿からはあまりにもかけ離れた子どものようなやりとりだけ。


「ま・・・ママ、僕たちは外で待ってようか・・・?」
「そっ、そうね、パパっ! そうしましょう!」
「そうしようそうしよう。しばらくは終わらないよ、コレ」

いい雰囲気に思わず咳払いしてしまったせいでこんなことになったと責任を感じている晴男は、我先にと一目散に控え室から消えて行く。それを追うようにして千恵子も続く。
最後に進が扉まで行ったところでふっと振り返った。




「化粧が落ちない程度にしときなよ、姉ちゃん。着崩れなんか論外だからな」




どう見てもいちゃついているとしか思えないゴタゴタを続ける2人に何とも意味深な言葉を投げかけるが、当の本人が気付くはずもなく。
そんな2人を見てやれやれと呆れたように溜め息をつくと、駄目押しのように 「ごゆっくり~」 と声を掛けてそのまま外へと出て行った。


それから司が式に上機嫌で現れるまでの間、2人に何があったのかは・・・誰にもわからない。






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随分お待たせしてしまいました~m(__)m これからぼちぼちこちらも更新して参ります!
こちらでは基本イチャコラをお楽しみいただきつつ、もちのろんでハラハラドキドキ(?)してもらえる展開もご用意しております。どうぞお楽しみに^^
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幸せの果実 5
2015 / 03 / 19 ( Thu )
厳かな雰囲気の漂う神殿には、互いの親族といつものメンバー。
そしてタマの姿があった。
挙式は本当に近しい人間だけに祝って欲しい。
それはどちらからともなく望んでいたことだった。


雅楽の演奏に合わせて朱門をくぐると、すぐに愛すべき人達の顔が見えてきた。
つくしを目にした瞬間、本番までは見るのを我慢すると言っていたT3達から感嘆の声があがった。ちらりと目をやれば滋は既に号泣していて、思わず吹き出しそうになる。
それと同時に、これまでの道のりを思うと彼女が流す涙の重みを痛感して、こちらまでもらい泣きしそうになってしまう。でもまだ始まったばかり。先はまだまだ長い。

ふと視線をずらせば今日も眩しいほどの色男が揃いも揃って3人並んでいる。
こんな場所で彼らに見守られているなんてなんだか不思議な感覚だ。
彼らがこんな場所に足を運ぶなんてこと、実はかなりレアなことなんじゃないだろうか?

そして彼らの先にはまるでロボットのように凝り固まった両親の姿が見える。
さっきまであんなに脳天気なことをやっていたというのに、今はまるで別人のようにガッチガチだ。それがいかにも我が親らしくて、さっきまで出かかっていた涙が引っ込んで今度は思いっきり吹き出しそうになった。
玉の輿だなんだと大騒ぎしているくせに、いざそれを目の当たりにするとびびって縮こまることしかできないだなんて・・・。全く、だから人間そう簡単には変わらないといつも言っているのに。
でもそんな両親だからこそ愛おしい。
いつだって落ち着きのない両親に、実は牧野家の中で一番しっかり者の弟。
これが愛すべき牧野家の姿なのだ。


そしてその反対側に視線を移す。
ピシッと見えない音が聞こえてきそうなほどの美しい佇まいで座る女性、道明寺楓はこの厳かな場所にそれはそれは自然に溶け込んでいた。彼女の内から溢れ出るオーラは他の誰にもない唯一無二の絶対的な存在感だ。
司同様、おそらく見るのは初めてではないかと思われる和装姿。これまた最高級の一点ものの留め袖を身に纏ったその佇まいは、見る者の呼吸が一瞬止まるほど。
美しさと気品、そして風格。 全てを兼ね備えている。

彼女を見ているとつくづく司と血が繋がっているのだと実感する。
司も絶対的なオーラをもつ人間だから。
それは生まれたときから持つ潜在的なもので、努力で得られるものではないのだろう。
この場に当たり前に彼女がいてくれるという現実。
その奇跡にまたしても胸の奥から込み上げてくるものがある。
ギリギリまで仕事に没頭して、式の前日に帰国するなんてところもいかにも彼女らしくて自然と顔が綻んでいく。

楓の隣には椿一家もいる。
楓と見た目はそっくりながらもその性格は実に対照的。
彼女の天真爛漫さにどれだけ救われてきたことか。
これから道明寺つくしとして一生を送っていく中で、彼女の存在が幾度となく自分を支えてくれる存在になるに違いない。


そしてそんな彼女達の後ろに座るのは一際小さい体の老婆、タマだ。
本人は自分なんぞが式に出ることなどできないと言っていたが、ここは司もつくしも絶対に譲れないところだった。
彼女に見届けてもらわなくて一体誰に見届けてもらうというのか。
実の肉親よりも肉親らしく2人の絆を支え続けてくれた人物だというのに。
彼女の存在を言葉で表すことなどはもはやできない。
大切とか、かけがえのないとか、そんな言葉を超えた存在なのだから。
ニコニコと、歳を感じさせる皺とはまた別の皺をたくさん寄せながら、目尻を下げて温かい眼差しで見守ってくれている。


2人はこの場にいる全ての人間に、胸の奥がギュッと熱くなるのを感じながらゆっくりと一歩ずつ噛みしめるように歩いて行った。




神前で、そして愛すべき人々に見守られながら一つ、また一つと儀式を進めていく。

入籍して2ヶ月。
つくしの左手にはあの日、司と初めて結ばれた夜にもらった指輪が常に輝いていた。
だが夫である司の左手は未だ空席状態だった。
指輪自体はとっくに存在していたが、どうしてもこの日まで待ちたかった。
誓いを立てて初めて互いの指に通したかった。

案外古風な人間だったのだろうかと自分で自分が可笑しい。
こうして新しい自分を発見できた瞬間、本当に自分が結婚したのだと実感する。
1人では気付くことができないことなのだから。


誓詞を読み上げ、神様に玉串を奉納し、いよいよその時がやってきた。
台座に置かれた2つの指輪は照明を浴びて目映いほどの光を放っている。
婚約指輪とは違って極々シンプルなデザイン。
だがその素材は最高級のものが使われ、一般人には到底手の届かないほどのお値段だ。

ダイヤの埋め込まれたプラチナリングが白くて細い指にするするとはめ込まれていく。
根元まで辿り着いてその動きが止まると、まるでタイミングを合わせたかのようにつくしの瞳からぽつりとひとしずく零れ落ちた。
それに追随するようにそこかしこからも鼻を啜る音が響き渡る。
見えはしないが、中でも特大の音を立てているのは間違いなく滋だろう。

同じ気持ちで涙を流してくれているのだと思ったら、つくしの瞳からは堰を切ったように次から次へと涙が溢れ出した。すぐに、大きいのにびっくりするほど綺麗な手がその涙を拭ってくれる。
それでも、その優しさがかえって火をつけて滝のように流れ出してしまった。

「お前・・・まだ俺の指輪嵌めてねぇだろ」
「う゛っ・・・うぅ゛っ・・・ご、ごめぇん・・・ぐずっ」

厳かな式にしたいという願望などどこへやら。
つくしの号泣っぷりはもはやコント並だった。
ぐすぐすと啜り泣く音に笑い声が混ざり始める。

だがそれがいい。
どんな時でもつくしらしさを失わない。
だからこそこれだけの人間が彼女に心を囚われるのだ。

司も呆れ笑いをしつつ、そんな妻が愛おしくてたまらない。
むせび泣く妻の手を自ら誘導しつつ、つくしは震える手で愛する夫の指に指輪を嵌めていった。
するすると収められ、大きな手に輝く指輪を見たとき、つくしの涙腺は完全に崩壊してしまった。

「お前・・・泣きすぎだろって。顔面崩壊するぞ」
「うぅ゛っ・・・こっ、これ以上は崩れようがないから多分だいじょうぶっ・・・ずびっ」
「はっ?!」

この女は真剣に泣きながら真剣に何を言い出すのか。
ぽかーんと呆れかえる司の一方で、その場にいた全員がとうとう吹き出した。よく見れば斎主まで口元が緩んでいるように見えるが、立場が立場、必死でそれを堪えているようだ。
天下の道明寺財閥の後継者の厳かな式がよもやこんなことになろうとは。その反応も当然のことだろう。
楓だけがやれやれと頭を抱えていたが、あの冷徹な眼差しはどこにも見当たらなかった。


荘厳にと臨んだはずの式は、誰でもないそれを所望した本人の手でいつの間にやらアットホームな世界へとすっかり様変わりしたまま終わりを迎えた。







***


「つくしぃ~~~っ!」
「滋っ!!」

控え室に戻るとすぐに暴れ牛のような勢いで滋がつくしへと飛びついた。

「すっっっっっっごく綺麗だよ! おめでとうっ!!!」
「ありがとう! 滋もすっごく綺麗だよ」
「やだもうっ! あたしのことはどうだっていいのよっ!!」
「アイタッ!」

白無垢姿だろうとお構いなしにバシッと一発気合が注入される。

「ちょっと滋さん、いくらなんでも花嫁を殴るのはタブーじゃないですか?」
「えへへっ、だってぇ~ついっ!」

ぺろっと舌を出して笑う滋に後から入って来た桜子と優紀が呆れ笑いしている。

「つくし、おめでとう。すごく綺麗だよ」
「先輩、今日はお世辞抜きで本当にお綺麗ですよ。おめでとうございます」
「あははは、お世辞抜きでって・・・じゃあありがたく受け取っておきます。ありがとう」

女4人、顔を見合わせてふふっと笑い合う。


「よぉ、牧野。和装もなかなか似合ってんじゃねぇか」
「美作さん」
「馬子にも衣装ってな」
「もう、西門さんっ!」
「牧野、ほんとに綺麗だよ」
「類・・・」

三者三様、それぞれらしい祝福の言葉を並べていく。
次々に入ってくるそうそうたるメンバーに、またしても両親がロボコップのように緊張で固まってしまった。主役の親だというのに部屋の隅っこで小さくなっている。

「しっかし司の和装っつーのも新鮮だよなぁ。俺がどんだけ勧めても嫌がってた男が愛する嫁のためならすんなり着るんだからなぁ」
「うるせーよ」

ニヤニヤが止まらない総二郎をジロリと睨み付けるが本人は意にも介していない。

「でも和装ってやっぱりいいですよね。私も自分が結婚するときは神前式にしたいなって今日あらためて思いましたもの」
「おっ、桜子そんな予定でもあんのか?」
「残念ながらまだ予定は未定ですけど」
「あはははっ!」


「披露宴ではドレスになるんでしょ?」
「うん」
「わぁ~、きっと綺麗なんだろうなぁ。楽しみ~」
「えへへ、恥ずかしいんだけどね」
「そんなこと言わずにお姫様気分を存分に味わなきゃっ!!」
「お、お姫様って・・・」

確実に自分からは一番遠いところにある言葉だ。

「司~、つくしのこんな姿を見ちゃって幸せで堪らないんでしょぉ~」
「まぁな」

その気持ちいいほどの即答っぷりに総二郎とあきらがヒューッと口を鳴らす。

「お前、ほんっと変わったよな。昔は女嫌いだったなんてとても信じらんねぇぜ・・・」
「バカ言ってんじゃねーよ。女嫌いは今も変わってねぇっつの。こいつだからだろ」
「おーおー、お熱いことで。ったくここにいたら当てられっぱなしでしょうがねぇな」

総二郎の茶々入れにつくしの頬がボッと赤くなった。

「その白無垢ってつくしが選んだの?」

つくしの身につけた白無垢に見とれながら優紀の口からほうっと感嘆の息が出る。

「え? あ、これはね・・・」











「つくし、本当にお綺麗でしたねぇ・・・」

別の控え室でお茶を飲みながらタマがしみじみと噛みしめている。

「本当に。つくしちゃんって元々素材はいい子なのよね。磨けば光る原石っていうか。司を見た?ずーーーーっと鼻の下が伸びっぱなしだったじゃない。今からあの調子じゃこの先どうなっちゃうのかしら」
「いいんじゃないですかねぇ。ありのままの坊ちゃんの姿を皆さんに見てもらう機会なんてそうそうないんですから」
「うふふ、それもそうね」

そう言って笑う椿は本当に嬉しそうだ。

「それにしても・・・お母様。 本当にありがとうございます」

突然体の向きを変えたかと思うと、別の席に座っていた楓に深々と頭を下げた。

「・・・何のお話です?」
「あの子に・・・つくしちゃんの白無垢を準備してくださったのはお母様でしょう? この世に2つとないあの素敵なお衣装・・・本当につくしちゃんによくお似合いでした。あの子がお母様の贈られた衣装を身に纏った姿が眩しくて眩しくて。 私、それだけで泣きそうになってしまいましたもの」
「・・・大袈裟な」

「いいえ、大袈裟などではありません!」

呆れたように答える楓にタマがずいっと一歩前に出た。

「今日を迎えるにあたってあの子が一番嬉しかったことは奥様、あなた様がつくしのためにあの衣装を準備してくださったことです。共に生活していないこともあって、あの子の中にはいつも奥様のことがありました。式の準備をしながらも、いつも奥様がこれでいいと言うだろうかと常に気にされていたんです。そんな中であの衣装が邸に届いたとき、あの子は人目も憚らず泣いたんですよ。あの子にはあの衣装がどれだけの価値を持つものかなんてよくわかっていないでしょう。でもそんなことはどうだっていいんです。たとえ安物の衣装だろうと最高級のものだろうと、奥様があの子を想って準備してくださった、その事実だけであの子はこの世で一番の幸せ者になったんです」

「・・・・・・」

タマの言葉を聞きながら、椿の瞳からはほろほろと涙が零れ出した。

「私からもお礼を言わせてください。奥様、本当にありがとうございます」

深々と頭を下げたタマを見てふぅーっと息を吐くと、窓の外に目をやりながらぽつりぽつりと口を開いた。


「全く・・・あなたも大袈裟な方ね。 私は当然のことをしたまでです。 ・・・・・・母親として」


その言葉に椿がハッと顔を上げる。見れば変わらずに外に視線を向けたまま。
だがそれは彼女なりの照れ隠しなのだろう。



「 ・・・・・・お母様っ!!! 」

「 ・・・っ?! 何です?! おやめなさいっ、椿さんっ!! 」


突然背後から襲いかかってきた椿に驚くが、気が付いたときには時既に遅し。
力一杯しがみつく椿を何とか振り払おうとするが、その体はぴくりとも離れはしない。


「お母様、お母様っ・・・!」



まるで子どものように泣きながらしがみつく我が娘に心底呆れたように溜め息をつくと、抵抗することを諦めたのか、全身から力を抜いてただなされるがままに娘に身を委ねた。

タマはそんな親子の様子を顔をしわくちゃにして見守っていた。






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