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嵐は突然やってくる
2015 / 07 / 27 ( Mon )
「・・・し・・・・・・くし・・・つくし」
「ん~・・・」

ゴロンとやけに重い体をひっくり返したつくしの目の前に1人の老婆が見える。

「ん・・・タマさん・・・?」

寝ぼけ眼の頭ではタマなのかどこぞの仙人なのかいまいちよく判別がつかない。

「こらっ、誰が仙人だって?!」
「・・・え? ハッ!! た、た、タマさんっ?!」

ようやく我に返ると、つくしは慌ててはだけた布団を引っ張った。
正真正銘生まれたままの姿。
いくら同性だとはいえこんなこっ恥ずかしい姿を見られるなんて!

「っていうかどうしたんですか?! 部屋にまで入ってくるなんてめったにないのに・・・」
「あんたも随分お疲れのようだから、ゆっくり休ませてあげたいところなんだけどねぇ・・・」

意味深な言葉にカーーーッと頬が熱くなる。
寝坊の原因など言わなくとも全て筒抜けなのが死にそうに恥ずかしい。

「・・・実は旦那様と奥様がお帰りになられたんだよ」
「・・・・・・・・・・・・え?」

言われた言葉がすぐにピンと来ない。 誰が帰ってきたって?
旦那様? 奥様・・・? って・・・・・・

「・・・・・・え。 えぇえぇえっ?!!」

ガバッと飛び起きた拍子にハラリと掛け布団がずり落ちた。

「旦那様は帰られてすぐにお出掛けになったよ。奥様はいらっしゃるけど、別にあんたのことをあれこれ言っちゃいないから安心しな。・・・それにしてもあんたも毎晩御苦労なこって」
「えっ?」
「とにかく、朝食・・・というかお昼は準備できてるから、着替えたらダイニングへおいで。あまり胸元が開いた服を着るんじゃないよ」
「・・・へ?」

そう言い残してすたこら部屋を出て行くタマの後ろ姿を呆然と見つめる。
一体彼女は何を言っていたのやら。

ふと何気なく胸元に視線を下ろした・・・直後フリーズする。
そこには無数に咲き乱れた赤い花がこれでもかと存在を主張していたのだから。

「ひ、ひえええええええええっ!!!」






***



バタバタバタバタンッ!!

「おっ、おはようございますっ!! お帰りとは知らずにこんな大失態を・・・申し訳ありませんっ!」

ぜぇはぁ息を切らして入って来たつくしに表情一つ変えずに新聞から顔を上げた女性。
それは結婚以来初めての帰国となる道明寺楓、その人だ。
久しぶりの再会がこんな大寝坊の日と重なるなんて、何たる不運。
それもこれも全てはあの男が・・・!

「随分お疲れの様子ね?」
「あっ、いえ、その・・・き、今日はたまたま寝坊してしまいまして・・・申し訳ありません!」
「・・・・・・」

沈黙が痛い。
グッサグッサとつくしの全身に突き刺さってえぐり取られそうな感覚すら覚える。

「・・・はぁ」

小さくつかれた溜め息ですら体が吹っ飛ばされそうなほどの威力だ。

「・・・お食事」
「えっ?」
「まだ今日は何も口にしていないのではなくて?」
「は、はぁ、それは・・・」

今起きたばかりですから、とはもう言えない。

「もう準備ができていると聞きましたが。まずはそちらに行かれた方がよろしいのでは?」
「あっ、はい・・・すみません、それではお言葉に甘えて・・・ほんとにすみません、失礼します!」

ペッコペコとひたすら頭を下げ続けると、最後は脱兎の如く部屋から出て行った。
楓はその一部始終をやはり表情一つ変えずに見送ると、再びふぅ~っと大きく息を吐いた。





予定外の帰国をしたのは朝の8時を回った頃 ___


『 奥様! 突然のご帰国どうなされたのですか?! 』
「 これからインドネシアへ向かうのだけれど、あの人が急用で日本に立ち寄ることになったの。戻り次第すぐ発ちます 」
『 それでは今すぐに朝食の手配をいたします 』
「 軽めにしてちょうだい 」
『 かしこまりました! 』

まさかの予告無し帰国に邸中が大わらわ。
とはいえ道明寺のお邸ともなれば態勢は常に整っているため、少しも待たせることなく準備はなされた。

『 ・・・つくしさんは? 』

だが、いくら時間が経過しようとも一向に姿を現さないつくしに楓が疑問を抱く。

「 あ、えぇ、つくしは今日はちょっと疲れが溜まっているようでして・・・何かご用とあらば今すぐお呼びいたしますが? 」
『 結構です。ただ姿が見えないからどうなされたのかと思って 』
「 えぇえぇ、その通りでございますね。昨夜は司様のお帰りが遅うございましたから・・・あっ、いえいえ。 でもこんなことは滅多にないことですよ! あの子は使用人の頃から本当によく働く子でしたから。結婚されてからもそれは少しも変わらず、いつもは早起きしてお邸のことを・・・ 」
『 そんなに必死に説明しなくて結構よ 』
「 は、はい。出過ぎたことを申しました 」

いつもどっしりと構えているタマがこんなに口数を増やしてまで必死で言い募る理由など一つしか考えられない。
楓には何とも説明しづらい 『事情』 があるに他ならない。
先程の使用人の話では司はたいそう機嫌良く仕事へと向かったようで。


「・・・・・・ぶら下がったにんじんは有効に使うのがビジネスの常」

つくしの出ていった扉を見つめながらそう独りごちると、楓は携帯を取り出してどこかへと連絡を始めた。






***




「おい司~、やっと来たか。お前最近付き合いが悪すぎだろ」
「うるせーよ。お前らのしけたツラなんてわざわざ見たくもねぇんだよ」
「おーおー、結婚した途端この変わり身だぜ? 昔、真夜中だろうとお構いなしに人を叩き起こしてたのはどこのどいつだったっけなぁ?」
「知らねーな」

ドヤ顔でソファーに座り込んだ司に3人は苦笑いだ。
2人が結婚してから数ヶ月。こうして4人で集まる機会もめっきり減っていた。

「どうだよ、新婚生活ってのは」
「別に。何も変わんねーだろ」
「おいおい、嘘つくんじゃねーよ。緩む口元隠せてねーぞ」
「あぁ? んなわけねーだろうが」
「嘘じゃねーって。何を思いだしたか知んねーけど緩みまくってんぞ」

緩んでるのはお前だろうがと言いたいほど総二郎がニヤニヤしているが、自分も大差ない顔をしているのだろうか?

新婚生活・・・?
そんなん最高に決まってんだろうが。 愚問だ、愚問。
どんなに遅くなろうと邸に帰ればつくしがいて、笑っておかえりと迎えてくれる。
そんなことをされた日にゃあ・・・もう暴走を止めることなどできやしない。

「どう見たって緩んでんだろ・・・」
「てめーら人の幸せを妬んでる暇があるならさっさと自分の女を探せよ」
「はぁ~~っ?! 何をどうすりゃ妬むなんて話になんだよ」
「俺たちが羨ましくてたまんねーんだろうが」
「はぁっ?! お前なに言ってんだ」
「まぁいい。お前らがんなことを素直に認めねーのなんてわかりきったことだからな」
「「「 ・・・・・・・・・ 」」」

色ボケとはまさにこのことか。
3人はもはや反論する気力すら削がれて開いた口が塞がらない。


ピロロ~~ン♪


「お。噂をすれば何とやら。牧野からじゃねーのか?」
「あ? あぁ・・・」

響いたメールの着信音に全員の視線が集中する。

「寂しいから早く帰って来てぇ~ん! なんて書いてんじゃねーのか?」
「ギャッハハハ! 牧野に限ってそりゃねぇだろ~!」
「・・・っておい、どうしたその顔は」

まんざらでもなさそうにメールをチェックしていた司の顔がみるみる渋いものへと変わっていく。
何事かと3人は立ち上がって司の手元を覗き込んだ。
そこで見たのは・・・


『 バカバカバカバカ!!
 司のせいでとんでもない大失態しちゃったんだから!!
 もうしばらく帰って来んなっ!! (`Д´)  』


「「「 ・・・・・・・・・ 」」」

さっきまでの盛り上がりが嘘のようにシーーーンと一瞬で静まり返る。

「・・・・・・なんかよくわかんねーけどご立腹の様子だぜ?」
「おい司~、お前何やらかしたんだよ?」
「知るかっ! 俺は何もしてねぇっ!!」
「でも牧野明らかに怒ってるじゃん。司が何かしたに決まってるでしょ」
「だからなんもしてねーっつってんだろうが!」

司がそう言うのも無理はない。
実際今の今まですこぶる気分は最高潮だったのだから。
つくしが腹を立てている理由など皆目検討がつかない。


ピリリリリリッ ピリリリリリリッ ピッ!


まるでタイミングを図ったかのように響く着信音。

「もしもし、つくしか?! ・・・チッ、西田か。なんだよ、・・・え? あぁ、そういうことか。なるほどな」
「なんだ?」
「さぁな」
「・・・・・・何っ?! ふっざけんな! 誰がそんなこと・・・おいっ、ちょっ・・・!」

突然大声を張り上げたかと思えば今度は携帯を手にしていた右手がダラリと落ちてきた。
司は何故か呆然としている。

「・・・おい、一体どうしたんだよ?」
「・・・・・・ジジィとババァが帰国してるらしい」
「え? そうなのか? また急な話だな」
「もしかして牧野が怒ってたのってそれと関係してんのか?」
「・・・・・・」
「どうせあれでしょ。司のせいで牧野が寝坊とかしておばさん達の前で赤っ恥掻いたとかそういうことなんじゃないの?」
「・・・・・・」
「・・・何?」

目を見開いて自分を振り返った司に類が涼しげに答える。

「なんでお前がそんなこと知ってんだって? そんなの状況とあれだけ浮かれてた司を見れば明らかでしょ」
「さすが類。言われてみりゃあ全てが納得だな」
「で? 別におじさん達が帰国したって問題はないよな? 何をそんな怒ってんだよ」

見るからに司は怒っている。 何故?

「・・・・・・今から仕事でロシアに飛べだと」
「・・・は?」
「急遽ロシアでの仕事が入ったから西田が迎えに来るって」
「え・・・今からか?! そりゃまたえらい急な話だな・・・」
「ババァだ・・・」
「え?」
「こんな急な話なんてババァしかいねぇだろ。あんの野郎、嫌がらせしてきやがった」
「そんなバカな・・・とっくに結婚だってしてんのに今さらじゃねーか」

あきらが鼻で笑うのも当然だ。
2人の関係はとっくに認められている。だからこそ今があるわけで。

「あれじゃない? 牧野が寝坊してきたのはどう考えても司が牧野を眠らせないから。そんなに体力が有り余ってるならこの仕事もやってみろとかそんなとこでしょ。 ・・・って、だから何」
「「「 ・・・・・・ 」」」

お前は何者だと言わんばかりの視線が類に集中する。

「牧野が真面目人間だっつーのはおばさんも認めてるだろうしな。その牧野が寝坊だなんてさすがに見るに見かねたんじゃねーのか? 少しは節度のある生活をしろって」
「あぁ? 節度って何だよ! 俺はただ感情のままに・・・」
「お前はそれでよくても牧野にはハードなんだろ。そもそも体力が違いすぎんだよ。お前が本気になりゃあ多分牧野死ぬぞ。少しは加減してやれよ」
「うるせーな。お前らに何がわかんだよ! そもそも誘ってんのはあいつの方だっつの!」
「「いやいや、それはねーだろ」」

あきらと総二郎が綺麗にハモる。

「嘘じゃねぇっつの! あの女、毎日わざわざ俺の胸元まで近寄ってきて上目遣いで 『お帰り、お疲れ様』 だなんて言うんだぜ? あれが誘ってねぇっつーなら一体何なんだよ?! 俺のスイッチが入るのがわかっててやってんだから誘ってんに決まってんだろうが!」
「「「 ・・・・・・ 」」」
「なんだんだよその目はっ!!」
「うおわっ! バカ、八つ当たりすんじゃねぇ!」
「だったらそんな目で見てんじゃねぇっ!!」


「 司様。 お迎えに上がりました 」


VIPルームに響いた機械音を彷彿とさせる声に振り回していた足が止まる。
当然ながら入り口で待ち構えているのはいつにも増して真顔が憎々しい我が秘書。

「俺は行かねーぞ」
「その場合には来月から半年ほどブラジルの方へ渡ってもらうことになりますが」
「はぁっ?! てめぇ何を言ってやがる!」
「おい、司っ、落ち着けって!」

飛び出したとんでも発言に思わず大股で駆けよって胸倉を掴み上げた。
だが西田はそれでも表情を崩さない。

「これは会長直々の命です。今から1週間ほどロシアへと赴いて1つの案件を終わらせるか、あるいは来月から半年ブラジル支社へと出向するか。急なことですから選択肢はお与えになるとのことでした」

力の抜けた手から西田の体がずり落ちていった。
すぐにネクタイを正すとなおも続ける。

「私としましては前者の方がよろしいのではないかと判断してお迎えにあがったのですが・・・出過ぎたことのようでしたら来月からの出向に向けて準備に取りかからせていただきます」
「ま、待てっ!!」
「・・・何か?」

背を向けた西田を呼び止めた司の顔は苦々しい。 この上なく。
対照的に西田の顔は涼やかだ。 腹立たしいほどに。

「・・・本当に一週間なんだな?」
「はい。その点は何度も確認していますので間違いございません」
「・・・・・・わーったよ。行きゃあいいんだろ! 行きゃあ!」
「ご理解が早くて助かります」

白々しく頭をさげる態度がまた感情を逆なでする。
だがここでキレては更にどんな無理難題を押しつけられるかわかったもんじゃない。

「それではフライトの時間が迫っております。すぐに参りましょう」
「っておい、マジで邸にも戻らずこのままかよ?」
「仰るとおりです」
「・・・・・・」

一礼すると西田はさっさとVIPルームを後にしてしまった。
呆然とそれを見ていた司の背中は何故か一回り小さく見えるような。

「お、おい、司・・・ひっ!」

ドガッ!!!

思いっきり司の一撃が入った壁には穴が開いている。
手は大丈夫か?! ・・・なんて心配には及ばない。
むしろ壁の方こそ大丈夫なのだろうか。

「・・・んの野郎、次に会ったときにはブッ殺す!!!」

人を殺せるほどの眼光でそう吐き捨てると、司はそれ以上一言も発さずに歩き出した。
だが先程の言葉とは裏腹に、その背中はひどく悲しげだ。

「・・・なんつーか、売られていく子牛みてぇだな・・・」
「・・・・・・ドナドナ・・・」


「「「 ブフーーーッ!!! 」」」


鬼の居ぬ間になんとやら、見えなくなった背中に3人は盛大に吹き出した。







***




「あ、あのっ!」
「・・・何か?」

バタバタとエントランスまで追いかけてきたつくしを振り返る。

「もう行かれるんですか?」
「もともと帰る予定はなかったのです。急遽仕事の関係で立ち寄っただけのこと」
「あ・・・そうだったんですね。 ・・・あの、今朝は本当に失礼致しました!」

大寝坊したことをなお気に病んでいたつくしが再び楓に頭を下げた。

「・・・・・・あなたはあなたで色々と大変なようですけど」
「え?」
「この道明寺家、引いては道明寺財閥を繁栄させるためにはそれもまた大切な役割だと自覚することです」
「は、はぁ・・・」

楓が言わんとすることがいまいちわからない。
一体何を言っているのやら?

「とはいえ今日の疲れ具合は少々見るに見かねるものがありましたから。あなたにも時には休養も必要でしょう」
「えっ?」
「・・・しばらくはゆっくりできるのではなくて?」
「・・・え? えっ? ???」

完全にハテナ顔のつくしをじっと見つめると、ほんの一瞬だけ口元を緩めた・・・
ような気がしたのも一瞬のこと。
すぐに踵を返すと、楓はもう振り向くことなく颯爽と邸を出て行った。
取り残されたつくしだけが1人浦島太郎状態だ。


「え・・・え? なに、何? 何のことっ?!」


つくしがタマから全ての話を聞かされるのは、もう少しだけ後のこと。






「くっそおおおおおおおおお!!!! あンのクソババァ、次に会ったらブッ殺すっ!!!」




ちょうどその頃、遥か上空ではジェットすら振り落とすほどの雄叫びが上がっていた。






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こちらは「222222」のキリ番企画で、未来様からのリクエストになります。
「バカ甘カップルを」とのことで、突然の楓夫妻の帰国、でもつくしはなかなか起きてこない・・・
心配した楓がタマから事情を聞いてそれを聞いた楓はさらに西田に何かを命じる。
その何か(オチ)はお任せということで必死に考えました。
書いて気が付いたんですが・・・「バカ甘カップル」とのご要望だったのに、これじゃただの「バカな話」じゃないかっ!!ガガーン( ̄ロ ̄lll)
いやもうここは筆者の力量不足ということで・・・これが限界でしたm(__)mスンマセン・・・
楓さん、西田さん、F3、これらの役者が揃うという条件だとどうやってもこういう展開しか・・・(泣)
大丈夫!帰ってきたらきっとイイコトあるよっ!(≧∀≦) ガンバレボッチャン! ←
『嫌よイヤよもスキのうち?』 とオチが同じやんというイケズなツッコミは壁だけにして~!(笑)
ちなみにこのお話はどれにも属さない単発だとお考え下さい。
未来様、楽しいリクエストを有難うございました^^
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