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白の愛
2015 / 07 / 26 ( Sun )
(こちらは 「あなたの欠片」 シリーズの続編かつ番外編になります。)


「お前がこんなとこにいるなんて珍しいな」
「わっ?! あ・・・びっくりしたぁ~!」

ヌッと後ろから回された手に軽くつくしが飛び上がった。

「どうしたんだよ? じーっとドレスなんか見上げて」
「んーん。どうしたってわけじゃないんだけど・・・なんだかふっと見たくなっちゃって」

そう言ってもう一度見上げた先には純白のドレスが飾られていた。
滑らかなシルクとレースに彩られたそれは、つくしのためだけに作られた正真正銘最高級の一点ものだ。

「やっぱり何度見ても綺麗だなぁ・・・」
「へ~、そんなに見に来てんのか?」
「たまーにね。司が仕事に行ってる間に散歩ついでに見たくなったり」
「散歩ついでって・・・」
「だってこのお邸広すぎるんだもん。ここに来るまでですら立派な運動になるよ」

そう笑って撫でたお腹はすっかり大きくなっていた。すぐにその上に司の手が重ねられる。

「お前、何を準備するにもギャーギャー騒いでたよな」
「そりゃそうだよ。一般庶民のあたしからすれば別世界すぎたもん」
「普通、女なら泣いて喜びそうなもんだけどな。お前の場合別の意味で泣きそうだったからな」
「あはは、ほんとだよね~。あれも今となってはいい思い出だなぁ」






***


「お前の好きなデザインを選べよ。何なら特注で作らせても構わない」
「えっ・・・?」

入籍を済ませた足で連れて来られたのは、世界でも名だたる超高級宝飾店だった。
超VIP待遇でホテルの一室のような場所に連れてこられると、そこにはズラリと並べられた数々の結婚指輪が。豪華な照明も相まってか目を開けているのすらやっとなほどの輝きで溢れている。

「えーと、一応確認するけど結婚指輪・・・だよね?」
「お前が婚約指輪がもう一つ欲しいっつーんならそれでも構わねぇけど?」
「ちっ、違いますっ! そういうことじゃなくって!!」
「じゃあなんだよ」

つくしは既に自分の左手に鎮座している指輪をあらためて見つめた。
桜子達から億は下らないと言われた婚約指輪。
結婚指輪をするようになればこんな恐ろしいものを身につける機会がやっと減るだろうと安堵していたというのに、今目の前に並んでいるのはそれに負けず劣らず超高級品だとわかるものばかり。

「あのさ、結婚指輪って・・・石とかついてないものなんじゃないの?」
「それは人によりけりだろ。なんだ、それが嫌なのか?」
「嫌っていうか・・・これから毎日身につけるものだから壊れたらどうしようとか怖くて」
「そん時は直せばいいだけだろ」

いかにもセレブらしいアッサリとした答えだが、目ん玉が飛び出そうなほどの宝石が壊れることを想像するだけでも失神しそうだ。

「そうかもしんないけどさ・・・一生ものだからそうはしたくないっていうか」
「・・・・・・」
「・・・何?」

何故か自分を見て微かに頬を赤らめた反応につくしが首を傾げる。

「・・・お前、文句言いながらもサラッと人を喜ばせることを言うよな」
「えっ?! 何が?」
「俺との絆である指輪を肌身離さず身につけていたいとか・・・ったくお前も相変わらず遠回しな女だよな」
「え? えっ?!」

なんか相当脚色がなされてないか?!
呆気にとられるつくしをよそに、司はすこぶる上機嫌で緩む口元が隠せていない。

「まぁいい。いずれにせよお前にはそれなりのものを送りたいっつーのは俺の男としてのプライドだ。デザイン諸々はお前の好きなようにしろよ」
「う、うん。 ありがとう・・・」

なんだか腑に落ちない点もあるが、まぁ喜んでもらえたのなら結果オーライにしておこう。
つくしはそう自分を納得させると、あらためてズラリと並んだ数々の指輪を見渡した。
いずれも超高級品であることに変わりはないが、少々デザインが奇抜なものから極々シンプルなものまで、よく見れば実に様々なデザインがあることがわかる。

「あ、これ・・・」

その中の1つに、何故かふと目に止まったものがあった。
プラチナの指輪だが片方はぐるりと周囲を囲むようにダイヤが埋め込まれ、方や対照的に1つだけダイヤが埋め込まれている。おそらく値段はつくしが想像する遥か上をいくのだろうが、豪華ながらもシンプルで上品なそのデザインに心惹かれた。

「そちらのデザインコンセプトは男性側が 『あなただけを愛し続けます』 、女性側が 『あなたを無限の愛で包み込みます』 なんですよ」

じっとそれを見ていたつくしに担当の女性がニッコリ笑ってすかさずフォローを入れる。

「そ、そうなんですか・・・」

なんだかコンセプトをあらためて言われるとまるで盛大な愛の告白をしているようで照れくさい。
だが・・・

「お前これが気に入ったのか?」
「・・・うん。理由はわかんないけどなんかこれだけが目に入ってきたの」
「じゃあこれに決まりだな」

降ってきた言葉に思わず顔を上げた。

「えっ?! だってまだ全部見てないよ?」
「必要ねーよ。こういうのは直感が大事なんだよ」
「でも司の希望は・・・?」
「俺がそんなもんあると思うか? お前がいいっつーなら俺にとってはどれでも同じだ」
「・・・すんごい安いのでも?」

その切り返しにピクッと動きが止まる。

「プッ、うそうそ。 うん、そうだね。たくさん見たって迷うだけだし、司の言う通り直感で決めることにする」
「よし、じゃあ決まりだな」
「あ、ちなみにだけど・・・」
「ん?」

何かを言いかけたつくしがはたと我に返って慌てて首を振った。

「あ、やっぱり何でもない」
「なんだよ? 気になんだろ」
「ううん、いいのいいの! あ~、ほんとに綺麗なデザインだね~!」
「・・・?」

腑に落ちない顔をしているが、あれ以上聞いてしまったら眠れなくなるのはつくしの方だ。
以前もらった婚約指輪も素晴らしいものだとは思っていたが、まさか億は下らないと言われるとは思ってもいなかった。今ここでこの指輪の値段を聞いたところで・・・きっと予想の遥か上をいく答えが返ってきて卒倒するに違いない。

聞かぬが仏、知らぬが仏・・・





***



指輪を選んでから後、今度は結婚式の衣装を決めるときがやって来た。
今度はお店へ赴くのではなく、なんと邸へとその手のプロがやって来て完全オーダーメイドのドレスを作るということになった。無駄にお金をかけなくていいとつくしは主張したが、今回は司がそこにこだわりを見せた。
つくしの体のラインにピッタリ沿った、この世に1つしかないつくしにだけ似合うドレスをと。

だがその作業はつくしにとってはある意味羞恥プレイでもあった。
ただでさえ自分の体に自信がないのに、上から下までこれでもかと採寸されて恥ずかしいったらありゃしない。全てが完璧で、自信に満ち溢れた男には一生わかってもらえないだろう。

「つくしさんってバランスのいいお体されてますね」
「はっ?!」

採寸を終えたデザイナーが何かを書き込みながらサラッと言った言葉に思わず周囲をキョロキョロと見渡す。・・・だがこの部屋につくしという人間は他にいない。
・・・空耳だろうか? うん、間違いない。

「クスッ、つくしさんのことですよ。出るところは出て、引き締まるところは締まっていて、女性が憧れるプロポーションですよ」
「え・・・えぇっ?!」

そんなバカな。
確かに線は細い方だが、ただ貧相なだけの細さだ。
出るところなんて出ちゃいない。

「何かの間違いじゃないですか? 私昔から鶏ガラって言われてたんですよ?」
「そうなんですか? じゃあ年月と共に少しずつ体型も変化していったのかもしれませんね」
「え・・・ちなみにバストってどれくらいあります?」
「65のCですね」
「し、しぃっ?!」

つくしの雄叫びに室内にいた人間が飛び上がる。
それも致し方ない。 何故なら生まれてこの方Bより上に行ったことがないのだから。
しかも限りなくAに近いBだったというのに。

「あ・・・ごめんなさい。え、でもそれって本当ですか?!」
「はい、間違いありませんよ。もっと言えばDに近いCです」
「で、でぃーっ?!」

今度は完全に声が裏返った。

「おまえうるせーよ」
「ハッ?! ・・・って、司っ?! なんでここに!」
「思ったより仕事が早く終わったんだよ」
「あ、そうなんだ・・・って、キャーーーーーっ! あっち行っててよぉっ!!!」

自分が今どんな格好をしていたのかを思い出して慌ててしゃがみ込む。
だがその言葉を完全に無視した司は寄り掛かっていた壁から体を起こすと、ズカズカとつくしのいる場所までやって来た。

「バカバカバカバカ! 信じらんないっ!!」
「なにがだよ。今さらお前の下着姿見たところで驚きもしねーっつんだよ」
「そういう問題じゃないっ!」
「へー、80、60、83・・・」
「って、ぎゃ~~~~~~っ!!! 何やってんのよぉっ!」

司の手に握られた細かいサイズがびっしりと書かれたノートをバリッと奪い返す。
というかデザイナーよ、何故あっさり渡すんじゃっ!!!

「やっぱでかくなってたか」
「は、はぁっ?!」
「何となくそうじゃねーかとは思ってたんだよな」
「な、何バカなこと言ってんの?!」

信じられないとばかりにつくしの全身がまっ赤っかだ。

「バカじゃねーよ。お前の体のことならお前より俺の方がよく知ってんだよ」
「ブッ! ちょ、ちょっとぉっ! 人がいる前でなんてこと言うのよっ!!」
「いって! バカ、やめろ! お前の胸がでかくなったのだって俺様のおかげだろうが!」
「ギャーーーーーっ! もうバカバカバカバカ! このエロオヤジっ!!!」
「いてっ! マジ殴りはやめろっ! んのやろうっ・・・!」
「えっ?! キャーーーーっ! ヘンタイっ!」

サッと足を掛けられたと思った次の瞬間には床に大の字になって覆い被さられていた。
っていうか皆が見てるからっ!!!

「誰がヘンタイだと?」
「あんた以外にいるわけないでしょっ!」
「んだとぉ?」
「えっ? ひっ・・・! や、やめっ・・・!」

下着しか身につけていない心許ない腰の辺りを撫でられてゾクッと全身が粟立つ。

バシッ! ベシッ!

「テッ!」
「たっ!」

「なーにをバカなことをやってるんだい!」

突然頭に走った衝撃に2人ポカンと顔を上げる。
そこには実際の数倍以上大きく見えるタマが仁王立ちで見下ろしていた。

「た、タマさん・・・」
「次期社長夫妻ともあろう人間が人前で一体何してるんだい!」

そこかしこに散らばる高級な生地の波に沈むように、下着姿の女とスーツ姿の男が絡むようにして横たわっている。 何やってんだはごもっともな状況だ。

「ってーな。 何って見りゃわかんだろーが。邪魔すんじゃねーよ」
「ちょっとぉっ! いいからどきなさいよっ!」
「チッ」
「そこ、舌打ちしないっ!!」

漫才のようなやりとりに周囲で一部始終を見ていた者は笑いを堪えることができずにいる。

「全く・・・。 あんた達、ちょっと来てもらえるかい?」
「なんだよ。ここじゃダメなのか?」
「見てもらいたいものがあるんだよ」
「・・・?」

2人不思議そうに顔を見合わせると、急いで衣類を身につけてタマの後を追った。








「ぅわあっ・・・!」

ついて行った先で目にした清楚で美しい純白の白無垢衣装に思わず声が上がる。

「え・・・これ、どうしたんですか?」

2人の式は神前式と決めてはいたが、まだその衣装までは手が回っていない状況だった。

「奥様から届いたんだよ」
「えっ?!」

思いも寄らぬ答えにタマを二度見する。
今、なんと・・・?

「これは奥様からつくしにと贈られて来たものなんだ」
「お、お義母様が・・・?」

NYで最後に会って以降、一度も連絡は取り合っていない。
入籍の報告をしたときだって、特段何か反応があったというわけでもなく。
元々そういうドライな付き合いになっていくだろうことはわかってはいたのだが・・・
まさか、その楓がこの衣装を?!

「奥様はつくしに出会ってやはりどこか変わられたようだねぇ・・・。見てもらっただけでもわかるだろうけど、これは正絹の最高級品だよ。しかもオーダーメイド。昨日や今日頼んだからってできる代物じゃない」
「それって・・・」

言葉の続かないつくしの代わりにタマが大きく頷く。

「おそらく奥様は半年、あるいはもっと前からこの白無垢の手配をしていたはずさ。・・・つくし、あんたのためにね」
「嘘・・・」

一体いつから?
NYではあんな課題を出しておきながら、実はその時から既に・・・?

「手紙も何もない。ただこの衣装が届けられただけ。それでも、奥様のつくしへの想いは充分伝わっただろう?」
「・・・・・・」
「あの奥様が今さら優しい言葉をかけるような人間に変わるなんて無理な話さ。それでも、前の奥様だったらこんなことすら考えられないことだっただろうよ。・・・つくし、あんたが奥様を変えたんだ」
「・・・・・・ふっ・・・!」

何も話すことができない。
言葉の代わりに、涙が次から次に溢れ出してしまって。

「坊ちゃんは本当にいい方と巡り会いましたねぇ」
「おれの ”にんとく” だろ」
「グズッ・・・バカ・・・人徳でしょ? 天皇じゃないんだから・・・」
「それくらい偉いんだから大して変わんねーだろ」
「変わるよ・・・もう、ほんとに・・・ズズッ」
「お前は泣くか笑うかどっちかにしろよ」
「・・・・・・うぅ・・・泣くっ!!」
「ははっ、そっちかよ!」

振り向きざまにガバッとしがみつくと、つくしは司の腕の中で大号泣しまくった。
スーツが見るも無惨になったのはもうお約束。
それもまた一生忘れることのできない大切な思い出の1ページだ。










「まだ1年足らずなのに懐かしいねぇ・・・」

愛おしげにつくしが触れたのはドレスの横に飾られている白無垢だ。
時折こうして足を運んでは言葉にできない想いを感じていた。

「まぁあのババァにしちゃあらしくねーよな」

フンと司が鼻で笑うが、それも一種の照れ隠しだということを知っている。

「クスッ、でもある意味凄くらしくもあるよね」
「・・・タマの言った通りお前だったから、だろうな」
「・・・・・・あたしね、この子が男の子でも女の子でも、成長したらこの衣装を絶対見せようと思ってるんだ。あなたのお婆ちゃんはこんな優しい人なんだよって話したくて。・・・ここからは勝手な希望だけど、お嫁に行くときか、お嫁さんをもらうとき、この衣装が引き継がれていってくれたらもっと嬉しいなぁなんて」
「随分気が早ぇな。まだ生まれてもねーのに」
「ふふっ、だからこれは私の勝手な未来希望図」
「なんだそりゃ」
「いいの~!」



流れる穏やかな時間。
それは数多くの困難を乗り越えて来たからこそ実感できる至福の時。


この先、赤ん坊を包むこの世に1つしかないおくるみが届けられるのは・・・


あとほんの少しだけ未来の話。






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こちらは「222222」のキリ番企画で、RIN様からのリクエストになります。
リクエスト内容は 「結婚式の準備について詳しく」 というものでした。
ちょうど出産のお話も書いていたので、どうせならそこともリンクさせてしまおう! と、こういったお話に仕上がりました。 ツンデレ楓さんの愛情表現、大好物です( ´艸`)
尚、本来こちらはリクエストのカテゴリーに属するのですが、内容的に 「あなたの欠片」 シリーズの番外編となりますので、初めての人でも見落としがないようにするためにそちらにカテゴライズさせてもらいました。
RIN様、素敵なリクエストを有難うございました^^
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