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また逢う日まで 1
2015 / 12 / 13 ( Sun )
ずっとその顔を見ていた。

よく穴が開くほど見るだなんて大袈裟な言葉を聞くけど、きっとこの時のあたしはまさにそれを体現していたんじゃないかと思う。面と向かって褒めたことなんて一度だってなかったけど、あらためてこの男はなんて美しいのだろうか。
美しくて、強くて、・・・そして誰よりも深い愛情をもってる。
一見乱暴な心の奥にあるその優しさに気付いてしまったら・・・
もう自分の心を誤魔化すことなんてできるはずがない。

「ん・・・」

小さく声を漏らして身じろぎをした瞬間、ほんの少しだけ体が離れたことにほっとしつつも、それ以上に寂しく感じてしまう自分はなんて勝手なのだろうかと思う。
寂しいだなんて思う資格などないというのに。

「・・・・・・」

そっと、ゆっくりと体を起こしていく。
心の底から安心したように熟睡する男の顔から決して目を逸らさずに、ゆっくりと。
少年のようなあどけない寝顔が可愛くて、思わずクスッと笑いが漏れた。

記憶なんて関係ない。
心の底から愛おしいと求めてあって、・・・そしてあたしたちは結ばれた。
なんて幸福な時間だったのだろう。
ずっとずっと、このまま傍にいたい。
離れたくない。

・・・けれど、あたし達にはまだ超えなければならない山があるから。
真の幸せを手に掴む為に、最後にして最大の山が。

音をたてないように細心の注意を払いながらベッドから降りると、つくしはそのまま脱ぎ捨てられた衣類を手にして続きの部屋へと移動した。
手早く衣服を身につけていった最後にふと手が止まる。
何かを考えるようにしばし一点を見つめると、持って来ていた小さなボストンバッグからあるものを取り出した。そしてそれをふかふかのカーペットの上に置くと、そこには似ているようで少し違う四角い箱が2つ並べられた。
つくしは静かに右の箱を開けると、そのまま左の箱も開けて薄暗い室内でもはっきりわかるほど輝いているそれを取り出し、迷うことなく自分の首へとつけた。

「あんたはしばらくお留守番ね」

綺麗に箱に収められたままのもう1つのネックレスに触れながら語りかける。
それはまだ少年だった男がくれた純粋な愛情の証。
記憶が戻ってから今日まで、司に会う直前まで肌身離さず身につけていた。

道明寺の起こした奇跡。
それはほんの少しだけあったあたしの迷いを吹き飛ばした。
絶対に何があってもあいつを信じられる。
・・・そして彼もまた自分を信じてくれると。

新たに胸に輝いているのは、過去も今も、そして未来も含めたあたし達の愛情の証。
たとえ記憶が戻らなくたってあたしはあたし。そしてあいつはあいつ。
何一つ変わらない。
道明寺司という男の真っ直ぐな愛を胸に・・・あたしは未来を掴む一歩を踏み出す。

2つの小箱を大切に鞄にしまうと、つくしは再び司の眠る寝室へと戻っていった。
熟睡したことなんてほとんどないだなんて昔も言ってたけど、今ここにいるのは物音1つくらいでは到底起きそうにもないほど安心しきって深い眠りに沈んでいる男。
その寝顔は幸せに満ち溢れている。

「ごめんね、道明寺・・・」

本当はこんなことしちゃいけないってわかってるのに。
万が一にも起こしてしまっては全てがパーになる。
それでも、勝手に動いてしまう自分の体を止めることができない。
・・・ううん、そうしたくてたまらないのはこのあたし自身なのだ。

そっと、羽に触れるようにそーっと司の頬に触れた。
腹が立つほど綺麗な肌はほんわりと温かい。
ほんの数時間前までこの肌にずっと触れていた。
思いの丈をぶつけあって、心の求めるままに。


「・・・待ってるから。 『 またね 』 」


触れるか触れないかのキスを落とすと、つくしは閉じていた目を開けた。
そうして目の前の男の姿をしかとその瞳に焼き付けると、何かを決意したように力強く立ち上がった。

しばらくしてパタンと小さな小さな音が寝室に響く。
広い室内に1人、幸せの海の中に沈んでいる男だけが残された。
その幸せが夜が明けても続くのだと信じて疑わない男が。







「おはようございます牧野様」
「おはようございます。今日は無理を言ってしまって本当に申し訳ありません」
「いえ、どうかお気になさらずに。もうご準備はよろしいのですか?」
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」

深々と頭を下げると、パイロットの男性が恐縮しながら顔を上げるように促した。
小型のジェットに乗り込む男性に続いてタラップを上っていくと、歩く度にズキンズキンと下半身が痛んで動きがぎこちなくなってしまう。
その理由を思い出す度に恥ずかしくもあり、・・・そしてこの上ない幸せに満たされる。

この痛みすら愛おしい。
愛する人と深いところで繋がりあえたという何よりの証。
この痛みを、この喜びをずっと胸に刻んであたしは一歩を踏み出す。


夜明けと共に体が宙へと浮いていく。
黄金に輝く朝日を浴びながらどんどん小さくなっていく島をこの目に焼き付けた。

___ また新たな一日が始まる。



「 また逢う日まで。少しの間だけ、バイバイ 」



残していなくなること、本当にごめんなさい。
それでも、たとえ今は辛くても、痛みの先にある未来を掴んでみせる。
あんたを・・・
道明寺を信じてるから。


だからどうかあたしを信じて欲しい。
あなたに対する、この揺らぎない気持ちを。





 
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「忘れえぬ人」、たくさんのコメント及び拍手を有難うございました!早速ですが感謝の気持ちを込めてこちらの番外編からお届けします^^
2人が初めて結ばれた夜、その続きから再会までの時間を描いた物語となります。つくし目線、司目線をそれぞれ交えながら2人が再会する瞬間までを追っていきます。おそらく10話前後になるのではないかと予想しています。
尚、他の番外編も年末年始を利用してお届けできたらいいなと思ってますのでお楽しみに!
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また逢う日まで 2
2015 / 12 / 14 ( Mon )
「失礼します。おはようございます」

約束の時間きっかりに執務室に入ってきたつくしに、まだ早朝だというのに既に仕事モード全開の女性が顔を上げた。
そもそもこの人物にオフという概念が存在するのかも疑わしいところだが。

「全て予定通りですか?」
「はい。・・・まさか私がいなくなるとは夢にも思っていないはずです」

あれだけ幸せの絶頂を味わっているのだから。
目が覚めてからの彼の混乱と悲しみを考えては胸が痛む。
けれど嘆いてばかりでは前へは進めない。

____ 何があっても信じると決めたのだから。

「あの・・・それでこれから私はどうすればいいんでしょうか」

司の前から姿を消す。
告げられた驚きの条件はそれだけではなかった。
「消える」 まさにその言葉通り、楓の指示は徹底されたものだった。

約束の旅行までの間、タイミング良くとも言うべきか、司は仕事で海外に飛んで不在だった。
それが偶然だったのか、はたまた楓が水面下で動いていたのかはわからない。
いずれにせよ彼のいない間にまずアパートの引き払いを命令された。
高校を卒業してから4年以上を過ごしてきた我が城。
たとえ小さくとも、自分自身がそこにギュギュッと濃縮された大切な空間。
そこからいなくなるということは、自分で想像していた以上に言葉にできない寂しさを感じた。

そしてそれだけではない。
未熟ながらも粉骨砕身己を捧げてきた仕事をやめる、それも条件の1つだった。
家を引き払うよりも何よりも辛いのがこれだった。
まるで本当の親子のように大事に大事にしてくれた渡邉社長夫妻、兄のように、戦友のようにいつだって励まし支えてくれた大塚、そして全ての同僚・・・。少人数だったけれど、いや、少人数だからこそ事務所が1つの大家族のように温かく、居心地は最高だった。

手前勝手な理由で仕事をやめる。
しかもその理由を現段階ではっきりと打ち明けることすらできない。
どんなときでも、仕事に対して人一倍責任感を大事にしてきたつくしにとって、これほど重く苦しい決断はなかった。
まさに断腸の思い。

だがつくしの予想に反して社長は快く送り出してくれた。
何の前触れもない申し出であるのにもかかわらず。
何故やめるのかすらきちんと話せないというのに。

『 誰よりも真面目なお前がそれだけの決断をするのにはそれだけの理由があるんだろう。だったら俺は気持ち良くお前を送り出してやる。頑張れよ 』

たったそれだけ。
ふざけるなと怒るどころか何かを聞き出すこともせず、彼はそうエールを送って背中を押してくれたのだ。信じられないと共に、この人は最初からこういう人だったことをあらためて思い出した。
高卒だった自分を厳しくも優しく根気よく育ててくれた。
だからこそつくし自身もその想いに応えられるようにと必死に頑張ってきたのだ。

当然ながら他の同僚には驚かれたが、それでも誰一人咎めるような人はいなかった。
それこそが社長の人徳であり、つくしが社会人になってから自分の全てを捧げてきた大切な大切な空間だと再認識させられた。

だからこそ。
尚更中途半端な覚悟でやめるわけにはいかない。
迷っている暇などない。
きちんとした形でまた報告に行くためにも、後ろを向いてなんかいられない。
自分の決断は間違っていなかったのだと信じて前に進むのみ。


「あなたにはこちらで働いてもらいます」

ハッと意識の戻ったつくしの前に一冊のパンフレットが置かれた。
軽く会釈をしてそれを手に取ると、表紙を見て目を見開いた。

「こ、ここは・・・」

嘘・・・でしょう・・・?
まさか、こんな偶然が ___

「あなたもあの子の補佐として働いていたのならご存知でしょう。春のオープンに合わせて年明けからスタッフには現地での研修に臨んでもらいます」
「それで、私がここへ・・・?」
「あなたにはオープンニングスタッフとしてそこで働いてもらいます。それに伴い従業員専用の寮へ入ってもらい、現地での生活を送ってもらいます」
「・・・・・・」

これは・・・単なる偶然なのだろうか?
それとも・・・?

「前にも述べたとおり、あの子が私欲に走るようなことがあった時点でこの賭けはあなたの負け。そして際限なくこの賭けを続けたところで時間の無駄ですから、タイムリミットまでは1年とします」
「1年・・・」
「その間にあなたを見つけ出すことができなければ・・・わかっていますね?」
「・・・はい」

そう。
これが偶然だろうと必然だろうとそんなことは関係ない。
「その日」 は絶対に来ると信じて自分にできることをするだけ。

「では早速ですが今日の午後には現地へ飛んでもらいます。あなたの不在を知れば司はすぐに動き出すに違いない。あの子が担当している事業ではありますが、既に現地で行うべき業務は終えている。つまりは意図的でない限り司がそこへ行くことはあり得ない」
「・・・・・・」

ほんの数時間前までいたあの場所へよもやすぐに戻ることになるだなんて。
こんな展開を一体誰が予想するだろうか。
彼女の言う通り、きっと今頃あいつはあたしがいないことに驚き、そして怒っている。
既にあの島を飛び立っていると考えるのが自然だろう。

この人はあたし達がついさっきまでそこで共に過ごしたことを知っているのだろうか?
・・・ううん、少なくとも勝負を決めてからはあたし達の行動を監視させるようなことはしていない。
何の根拠もないけれど、何故だかそう思えた。
運命を決める場所があの島であったことに驚くと同時に、どこかで喜んでいる自分がいる。
絶対に・・・彼は見つけ出してくれる。
図らずもこの偶然が勇気をくれた。


「絶対にこの賭けに勝ってみせます。どうか見ていてください」


つくしは黙って自分を見つめる楓にそう強く宣言すると、頭を下げた後、第2秘書の男性に続いて執務室を出て行った。


「・・・さぁ、その強気が吉と出るか凶と出るか。答えは自ずと見えてくるでしょう」


その背中にそんな言葉がかけられていたことには気付かずに。








***



ピンポンピンポンピンポンピンポーーーーーーン!!


けたたましく鳴らされるチャイムに何事かと慌てて中から男性が飛び出してきた。

「ちょっと、どちら様ですかっ! 夜なのに一体何を考えてっ・・・!」

普段ほとんど見られない怒った顔で怒鳴りつけていた男の言葉がそこで途切れてしまった。

「・・・親父? どうしたんだよ、一体誰が ____ 」

様子がおかしいことに気付いたもう1人の男が後ろからひょこっと顔を出したはいいが、やはり同じように途中で途切れてしまった。
というよりも2人揃って驚愕したまま固まっている。


「はぁはぁはぁ・・・あいつは・・・牧野はどこにいる」


荒い呼吸を繰り返して汗だくになりながらもその整った顔は全く崩れていない。
元来ここにいるはずのない、いるはずがない、
見る者全てが思わず息を呑んでしまうその相手は ____



「 ど、道明寺さんっ?! 」




 
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また逢う日まで 3
2015 / 12 / 15 ( Tue )
「えっ、道明寺さんって、まさか ___ っ・・・?!」

騒ぎを聞きつけた千恵子までもが驚きに固まってしまった。
似た顔の3人が並んで口を開けたまま放心している姿はこの上なくマヌケだ。

「牧野は? あいつはここにいねぇのか?!」

だが司の切羽詰まった声に真っ先に我に返ったのは進だった。

「あ、姉ならここにはいません。・・・というか何故ここへ? 一体何があったんですか?!」

今日はたまたま久しぶりに両親の住むアパートへと帰って来ていた。
牧野家と司の接点は4年前で途絶えており、当然彼が両親の引っ越し先を知るはずがない。
つくしが教えるか、あるいは司が自ら調べでもしない限りは。
その上で突然訪問してきたかと思えばこれだけ切羽詰まった顔を見せるだなんて、余程のことがあった以外に考えられない。

「いなくなった」
「えっ?」
「夕べ俺と一緒に過ごして・・・朝には消えていた」
「消えたって・・・」

消えたという事実にも驚きだが、両親にとってはその前部分も非常に気になる。
一緒に過ごした? ということは・・・

「あ、あの道明寺さん、確かあなたはつくしのことを・・・」
「いえ、思い出しましたよ。何もかも、全て」
「えっ!!」

晴男の疑問に即答した司に三者三様驚きの顔を見せた。
それもそのはず。少し前に偶然の再会を果たした進はまだしも、晴男と千恵子の中では恋人に忘れ去られた憐れな娘という認識のまま止まっているのだから。

「ほ、本当ですか?! 本当に姉ちゃんのことを・・・!」
「あぁ、嘘じゃねぇ。夕べ全てを思い出して・・・それと同時にあいつはいなくなった」
「そんな、一体どうして・・・」
「何かあいつから聞いてねぇか? どこか様子がおかしかったとか気付いたことは」
「い、いえ、何も・・・」

全てが寝耳に水の進は呆然と立ち尽くす。
先週会った時にはいつもと何ら変わりはなかったというのに。

「あの・・・道明寺さん、実は少し前につくしから連絡が来たんです」

おずおずと何かを思い出したように晴男が口を開くと、ピクッと司の眉尻が跳ね上がった。

「急だけど仕事の関係でしばらく家を空けるから心配しないでくれって。忙しくてなかなか連絡が取れないかもしれないけどそれも心配しないでほしいと。あの子は普段からしっかりしてましたから、まさかそこに何かあるだなんて考えもしなくて・・・」
「・・・・・・」
「まさかつくしに何かあったんでしょうか?!」
「・・・アパートは既に引き払われていました」
「えっ?!」
「それだけじゃない。携帯も繋がらない。おそらく仕事もやめたのではないかと」

全く考えだにしないことを言われて全員が愕然と言葉を失う。

「そ、そんな! あの子はそんなこと一言だって・・・一体何があったんです?! あの子は一体どこへ・・・!」
「親父、落ち着けって!」

普段迷惑かけっぱなしの情けない親とはいえ、娘を愛する気持ちに偽りはない。
珍しく取り乱して司に詰め寄る晴男を進が慌てて引き止めた。

「あの、道明寺さん、僕たちにとっては本当に何が何だか・・・姉に一体何があったんですか? この前会った時はあんなに楽しそうだったのに・・・もしかして道明寺さんの記憶が戻ったことと何か関係が・・・?」
「それはねぇ。そもそも俺の記憶が戻ってまだ1日も経ってないからな。あいつはその事実にすら気付いてねぇはずだ」
「じゃあどうして・・・」
「・・・むしろその逆だ」
「逆?」

その意味を考えあぐねて進が首を傾げる。

「先に記憶が戻ったのは俺じゃなくて・・・あいつだった。だからこそあいつは動いた」
「えっ・・・姉ちゃんの、記憶が・・・?」
「道明寺さんっ、それは本当なんですかっ?!」
「本人に確認したわけではありません。だがそれ以外に考えられない」
「まさかそんなことが・・・でも何故つくしはいなくなったのです? 私達に嘘をついてまで、何故・・・」
「・・・・・・」

何故。
それは今朝目覚めと共につくしの不在を知って司が真っ先に考えたことだった。
あの幸福な時間は決して自分だけのものではなかったはずだ。
直感でしかないが、つくしが先に記憶が戻っていたとするならば、尚更別れるつもりで男に抱かれるような女であるはずがない。それに、夕べ全身全霊でぶつけてきた気持ちが嘘でなかったことはこの自分が一番よくわかっている。

家族にすら何も伝えずに姿を消した ___
親の尻拭いで借金返済に追われようとも、何よりも家族を大事にしてきたあいつが嘘をついてまでいなくなった。

それはそこに悲観的な未来を想定していないという何よりの証拠だ。
あいつは誰かのために自分を犠牲にすることはできても、自分のせいで誰かを悲しませるようなことを進んで望むはずがない。
ということはそうせざるを得ない何かがあったということに他ならない。

「・・・はっきりとは言えませんがおそらく私の母親に会ったのかと」
「えっ・・・お母様に・・・?」

司の母親。
それは3人にとって恐ろしい存在そのものとして記憶に刻まれていた。
邪魔なものを排除するためには大金ですらまるでゴミのように差し出す冷酷非道な女。
身分違いの恋に、本人が何も言わなくとも悩み苦しんでいたことを知っている。

「いつとはお約束できません。ですができるだけ早く必ずあいつを連れ戻してみせます」
「道明寺さん・・・?」

心許なそうに顔を上げた晴男と千恵子に司がはっきりと告げる。

「あいつは俺から逃げるつもりでいなくなったわけじゃない。そう確信しています。きっとどこかで俺が見つけ出すのを待っている」
「え・・・?」
「ですからどうか心配なさらずに。必ず、絶対にあいつを見つけ出してみせますから」
「道明寺さん・・・」

あまりにも強い眼差しにそれ以上の言葉が出てこない。

「本当であればもっときちんとご挨拶すべきところなんでしょうが・・・とにかく今はあいつを見つけ出すことに全力を捧げたい。ですからそれはあいつを見つけ出すまでは保留にさせてください」
「・・・・・・」
「夜分遅くに失礼しました。では私はこれで」
「えっ? あっ・・・!」

風のように現れて風のように去っていく男を引き止める暇もない。
一度にあまりにも多くのことが起こりすぎて、これが現実なのかすら実感が湧いてこない。


「 道明寺さんっ!! 」


瞬く間に部屋を後にし、リムジンへと今まさに乗り込もうとしていた司をある声が引き止めた。
見れば進が息を切らしながら必死で追いかけてきている。

「あ、あのっ、姉ちゃんは本当に・・・!」

はぁはぁと息が上がってうまく言葉が続けられない。
だが進が言いたいことはそれだけでも全て司には伝わっていた。
姉を心から心配する弟の想いが、全て。

「心配すんな。まぁ正直この俺もまさかの展開にやられたっつー感情は消えねぇけどな。事情があろうと俺を置いていったあいつにも、それに気づけなかった俺自身にも怒りを感じてる。・・・それでも今の俺はあいつを信じてる。もう4年前のようなことはこりごりだからな」
「道明寺さん・・・」

本当であればとっくに荒れ狂っていてもおかしくないのに。
何故か目の前の男には少しの余裕すら感じさせる何かがある。
彼をそうさせているのは一体何なのか・・・それを進が伺い知ることはできない。
2人にしかわからない何かがきっと ____

「あいつをぶっ飛ばそうにもまずは見つけねぇことには話になんねーからな」
「・・・」
「万が一あいつに関する手がかりが掴めたときには必ず連絡しろ。どんな小さなことでも構わない」
「っ、わかりました!」

胸ポケットから出した名刺にサラッとプライベート用の番号を書き込むと、司は大きく頷く進にそれを渡した。
自分以外がつくしを探し出せるはずがないと心の中では確信しながらも。

「じゃあな」

「あっ・・・! 姉を・・・どうか姉のことをよろしくお願いしますっ・・・!」

懇願するような言葉に再び足を止めると、司は振り向きざまに不敵な笑みを浮かべた。

「俺を誰だと思ってる? それに前にも言っただろ。俺は何があってもお前の姉貴を離さねーって。やっと・・・やっとこの手に掴んだんだ。死んでも離してたまるかよ」
「道明寺さん・・・」
「つーことだから余計な心配すんじゃねーぞ」

じっと見つめていた手のひらをグッと握りしめると、司はもう振り向くことはなかった。


すぐに動き出したリムジンを見送りながら、進は不思議な感覚に包まれていた。
それは本当に不思議な感覚だった。
つい今しがたまでいた憧れの男が・・・知っているようでまるで知らない人のようで。
それでも確実に道明寺司という男であることに違いはなくて。

4年前に見た男とも、少し前に再会した男ともどこか違う。
そう、言うなればまた新しく生まれ変わったとでも言うべきか。
元々自信に満ち溢れた男だったが、今日ほど揺らぎない何かを感じたことはない。



「 道明寺さん、姉をお願いします・・・! 」



瞬く間に小さくなっていく車体を見送りながら、進は自分でも意識しないままそう呟いていた。




 
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また逢う日まで 4
2015 / 12 / 16 ( Wed )
「な~んか、この事務所ってこんなに静かだったっけか?」
「・・・・・・」

カタカタカタ・・・
同僚の言葉を右から左に流しながら黙々と手を動かしていく。

「牧野1人の存在感がこれだけあったなんて、いなくなるまで気付かなかったよなぁ」
「・・・・・・」

カタ・・・
しみじみと感慨深そうに呟かれた一言に、思わず動かしていた手が止まった。

「お前が一番寂しいだろ?」
「・・・・・・ちょっとコーヒー買ってくるわ」
「あ、おいっ?」

何か答えるでもなく無言で出ていった男に、同僚の男が溜め息をついた。

「やっぱ相当ショック受けてんだな・・・まぁそりゃそうだよな」
「おい矢野、無駄口叩いてる暇があるならこの処理お前がやってくれ」
「ひぇっ!? し、社長!それはないっすよ!」
「いーや、それだけ余裕があるなら何の問題もないだろ。ということで頼んだぞ」
「えぇっ?! そ、そんなぁ~~っ!!」



ガコンッ!
冷たいコーヒーを手にすると、すぐにプシュッと開けて勢いよく口に流し込んだ。

「ふー・・・」

仕事に集中するあまり今日は何も口に入れていなかった。
カラカラに貼り付いた喉にじわじわと潤いが広がってほっと安堵の息をついた。


『 やめるって・・・いきなり何でだよ?! 』
「 ・・・ごめん、今は言えない 」
『 言えないって・・・まさかあいつと何かあったのか? 』
「 ないよ! 何もない。・・・ただ、あたしにはどうしてもやらなきゃいけないことがあるの 」
『 やらなきゃいけないこと・・・? 』
「 ほんとにごめんね? 皆さんにはお詫びしてもしきれないくらいに申し訳ないと思ってる。それでも、どうしてもなの。・・・大塚にも感謝しきれないほどに色んな事で助けてもらった。心から感謝してる。本当にありがとう。それからこういう形でやめることになってほんとにごめんなさい 」
『 牧野・・・ 』
「 時期が来たらちゃんと説明するから。だから今はこれで許してほしい___ 」



「・・・お前があんなことするなんて、理由はあいつ以外に考えらんねーだろ」

今さらあの2人の間に割って入ろうだなんて思わない。
そんなことが簡単にできるはずもないことは嫌と言うほどわかっている。
あいつにあんな大胆な決断をさせるだなんてよっぽどのことがあるのだろう。
だがそこまでさせる原因が、もしも結果的ににあいつを苦しめるようなものであるとするならば・・・

力強く握りしめた缶がグシャッといとも簡単に手の中で潰れる。
それを勢いよくゴミ箱に放り込むと、今日何度目かわからない溜め息がこぼれた。

カツカツカツカツ・・・

「・・・?」

あまり聞き慣れない靴音が廊下から響いてきて何となしに顔を上げる。

「 _____ ?! 」

と、目の前に見えた光景に我が目を疑った。
高質な靴音はあっという間に目の前を通り過ぎ、そしてさっきまで自分がいた場所へと迷うことなく向かっている。ハッと我に返ると、大塚は慌てて休憩室から飛び出した。


「 おい、待てよっ!! 」








***



ガチャッ

「おい大塚、おせぇぞ~! お前のせいで俺がとんだとばっちりを・・・」

ようやく戻ってきた同僚に零しかけた愚痴がそこまでで途切れた。
何かを言おうと思ってはいるのに、その口はその意思に反して全く動いてはくれない。

ガタンッ!!

「 ____ 道明寺さんっ?! 」

そんな男の様子を見ていた渡邉がふっと扉の方へ目をやると、直後に目を見開いて立ち上がった。大塚と共に事務所に入ってきたのは・・・間違いなく道明寺司、その人だ。

「ど、どうなされたんですか? まさかうちが何か不手際でも・・・!」

既に仕事は完了しているとはいえ、副社長がアポもなしに直々に訪問してくるなど普通ではない。何か気付かぬところで問題でも起きたのかと渡邉が珍しく動揺している。
司は後ろを追いかけてきた大塚の存在を気にすることもなくそのまま戸惑いを滲ませている渡邉の前まで一気に近づくと、軽く一礼してみせた。

「お久しぶりです。突然の訪問で申し訳ありません」
「いえ・・・それは全く構いませんが一体どうなさったんですか? 何かトラブルでも・・・」
「ここへ来た理由はただ一つ。他でもない牧野のことでお伺いしたいことがありまして」
「えっ、牧野・・・ですか?」

全く考えだにしていなかったことを言われて渡邉がキョトンとする。
目が点になるとはまさにこのことだ。

「牧野はいつ、どういった理由でここをやめたのか教えていただきたい」
「え・・・? あの、何故そんなことを・・・それを知ってどうされるんです?」

渡邉とて詳しい事情を知っているわけではない。
だがいくら道明寺副社長が相手だとはいえ、娘同然の可愛い部下のことを軽々に話すことなどできない。



「牧野は私の婚約者です」



「 ・・・えぇっ?!! 」


その言葉に驚愕したのは渡邉だけではない。
事務所内にいた全員が驚きに声を上げて立ち上がった。
そしてそれは大塚も例外ではなく、さも当然と言わんばかりに出てきた言葉に唖然と司を凝視した。




 
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すみませ~ん、ちょいと首が痛くて予定より短くなってしまいました><
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また逢う日まで 5
2015 / 12 / 18 ( Fri )
「おい、婚約者ってお前・・・。つーかお前こそあいつが突然仕事をやめた理由を知ってるんじゃねーのかよ!」
「おい大塚! 立場をわきまえろっ!」

突然食ってかかった大塚を社長である渡邉がたしなめる。

「 ___ っ、すみません・・・でも、」
「あいつは自分の意志でいなくなった」
「えっ?」

ゆっくりと振り返った司の鋭い眼光に背筋がゾクッと震えた。
だがここで怯んでなるものかと大塚も負けじと睨み返す。

「自分の意志でって・・・だったら尚更お前に原因があるんだろうが!」
「俺は何もしちゃいねぇ」
「そんなわけねーだろ! あいつが・・・あのクソ真面目な牧野がこんな形で仕事をやめるだなんて普通なら考えらんねーだろ?! お前すら理由を知らずにやめたんだとしたら・・・」
「あいつは俺に全幅の信頼を預けた上で消えたんだ」
「えっ・・・?」
「そして俺に信じろというメッセージを残してな」

そう言いながら司が触れているのはダイヤの輝きが目にも眩しいタイピンだ。

「お前、何を言って・・・」

わざわざここに足を運ぶということはつくしがいなくなったことはこの男にとっても想定外のことだったに違いない。だというのに何故こうも落ち着いていられるというのか。全く理解できない。

「あのっ・・・! もしかして、つくしちゃんが忘れていた人って・・・」

その時1人の女性がおずおずと割って入った。
渡邉の妻でありこの事務所でつくし以外で唯一の女性、里子だ。

「里子・・・? お前、何か知ってるのか?」
「あ、いえ・・・ただ以前つくしちゃんが言ってたのよ。自分には欠けた記憶があるんだって。その人のことは何も思い出せないのに、気になって仕方ないんだって。だからそれが好きってことなんじゃないの? って話したことがあって・・・。だからもしかしたら、その相手が・・・」
「欠けた記憶・・・?」

記憶喪失の事実を初めて聞いた面々が驚きに染まる。
それと同時に全員の視線が一点に集中した。
圧倒的なオーラでそこに立っている男へと。

「・・・渡邉社長、あいつはいつどんな形でここをやめたんでしょうか」
「えっ? あ・・・あぁ、あれは・・・今から1ヶ月ほど前でしょうか。神妙な面持ちでいきなり頭を下げられたんです。急な話で本当に申し訳ありません、ですが一身上の都合で仕事をやめさせてくださいと」

1ヶ月前・・・
それは例の女が起こしたトラブルが原因でつくしが倒れて間もない頃だ。
やはりあいつはあの時 ___

「他には何か?」
「いえ、全く寝耳に水で驚いたのは事実ですけど・・・正直なところ、私も深くは追求していないんですよ」
「・・・それはどういうことです?」

怪訝そうに司が眉を潜める。

「私は彼女を信頼してるんです。大塚の言った通りクソがつくほど真面目、そして人一倍努力する。そんな彼女がいきなりあんなことを言い出したんです。もしも後ろ暗いことがあるようなら当然全力で引き止めるつもりでしたよ? でも牧野の目力は強かった。そこに一切の迷いを感じなかった。ならば私は彼女の決断を黙って受け入れようと思ったんです」
「・・・・・・」
「まぁ経営者としてはそれじゃ駄目なのかもしれませんけどね」

そう言って苦笑いする。
この男を見ていれば、自分の知らない4年間をつくしがどう過ごしてきたのか、今の司にはそれが手に取るようにわかる。

「だが1つだけ。あなたは先程牧野を婚約者だと言った。大塚は牧野がここをいなくなったのにはあなたが関係していると言う。里子の話が事実だとするならば、色々と複雑な事情がおありなのでしょう。具体的に何があったのかまで聞くつもりはありません。・・・ですがこれだけは確認したい。あなたを本当に信頼していいんですよね? ・・・牧野を幸せにしていただけるんですね?」
「・・・・・・」

柔和に笑っていた顔が一瞬にして真剣なものへと変わる。
それはまるで大事な娘を攫われる父親のように鋭い眼差しへと。
司はしばし睨み合うようにその視線を真っ正面から受けると、長い沈黙の後何故か笑った。
笑う理由など皆目検討がつかない一同は戸惑いを滲ませて司の言葉を待っている。

「・・・愚問だな」
「え?」
「私にそれを聞くこと自体が愚問だと言ったんです」
「それは・・・」

「牧野は俺の全てだ」

「 ! 」

短いながらも凄まじい威力をもつ言葉に室内が静まりかえる。
次にどんな言葉が紡がれるのか、一文字ですら聞き逃すまいと。

「確かに俺も牧野も記憶を失った。・・・だがそんなことは問題ではない。辿り着く場所は同じ」
「辿り着く場所・・・?」
「俺を幸せにできるのは世界にただ1人、牧野つくしという女だけ。そしてその逆もまた同じ」
「・・・・・・」

ゴクッと渡邉の呑み込んだ唾液の音が響き渡る。
20ほども歳が離れているというのに、放たれるこの圧倒的なオーラは一体何だというのか。

「俺達に記憶の有無は関係ない。・・・だが彼女は一足先にその欠片を手にしてしまった」
「・・・え?」
「だからこそ彼女は動いた。・・・俺たちが一緒にいるためには越えなければならない壁があると判断して」
「それは、どういう・・・」

最後の方はここにいる人間に聞かせているというよりも、もうほとんど自分に語りかけているようだった。まるでそうして自分を納得させているかのように。

「いかにもあいつらしい、あいつは4年前と何も変わっていない。それでこそ牧野つくしと言わんばかりの行動をしやがった。・・・今日ここに来てあらためてそれを確信することができた」

そこまで言うと、司はいきなり渡邉に向かって頭を下げた。
突然のことにわけがわからず、誰一人、何一つ反応ができないでいる。

「こういう形でここを辞めたこと、彼女と共にお詫びする。そしてこれまで彼女を温かく見守ってくれたことへの感謝も」
「ど、道明寺さん・・・? あの、顔を上げてください!」
「・・・では私はこれで。突然の訪問で失礼した」
「えっ? 道明寺さんっ?!」

軽く会釈をして体を反転した司に慌てて声を掛けるが、来た時以上のスピードで瞬く間に部屋から出て行ってしまった。渡邉を筆頭にその場にいた全員がまるでキツネに抓まれたように呆然と立ち尽くしている。

「彼が・・・牧野の婚約者・・・?」
「すっげ・・・俺、あの人を生で見るの初めてだよ。オーラがハンパねぇんだな・・・」
「っていうかまさかつくしちゃんの想い人が道明寺副社長だったなんて・・・」

微かに残る高質な香りに酔いしれながら、残された面々は興奮冷めやらぬ様子でいつまでも落ち着かなかった。
ただ一人を残しては。






***


「おい、待てよっ!!」

確実に聞こえているに違いないのに、風のように颯爽と前を行く男は止まらない。
振り向きもしない。

「あいつを泣かせたら承知しねぇからなっ!!」

この野郎と心の中で悪態をつきながら投げたその一言に、ようやくその足がピタリと止まった。

「・・・お前、誰に向かって言ってる?」

振り向きざまに凄んだ声は自分でなければ縮み上がっていただろう。
だがこれだけは言っておかなければ。

「誰ってお前だろ。道明寺司」

名指しされた男のこめかみがピクッと動く。

「お前の言ってた話の半分も意味がわかんねーけどな、これだけは言える。あいつを泣かせたら許さねぇぞ」
「だからてめぇは誰に向かって口聞いてんだ? お前に言われる筋合いもなければてめぇはそんなこと言える立場にねぇだろうが。何か勘違いしてんじゃねーのか? あいつの彼氏気取りかよ、振られた分際で」
「あぁそうだよ、気持ちがいいほどにフラれたさ。でもあいつを心から大事に思う気持ちは何も変わらない。心配する気持ちだって」

その言葉に司の瞳が鋭く光る。

「でもそれは俺だけじゃねーんだよ。見ただろ? 社長だって、里子さんだって、そして同僚だって。あいつを知る人間は心底心配してんだよ。もしもあいつが苦しんだり悲しんだりしてるようなことがあるなら・・・社長だってお前を一発ぶん殴るだろうさ。異性として好きだからじゃない。それ以前に俺たちは牧野つくしっつー人間に惚れてんだよ!」
「・・・・・・」

今にも殴りかかってきそうなほどの空気を纏った男を前にしても、大塚は怯むことなく思いの丈をぶつけた。司は眉間に深い皺を刻んだままじっとそんな男を見据えている。

「・・・・・・フッ」
「・・・え?」

ピリピリとした空気がふっと途切れると、何故か司は笑っている。
呆れたような、どこか諦めにも似たような苦笑いを浮かべながら。

「・・・全く変わってねぇぜ。腹立たしいほどにな」
「 ? 何がだよ 」
「あいつはこの4年記憶を失っていた。けれどその本質は何一つ変わっちゃいねぇ。こうやって本人の自覚のないところで人を惹きつけて離さない」
「・・・・・・」
「そこに男も含まれるっつーのがこの上なく気に入らねぇけどな」

まるで子どものような言い分に大塚が拍子抜けする。

「・・・でもそれでこそ俺が惚れた女なんだよ」
「 ! 」
「俺だって記憶を失おうと本質は何も変わっちゃいねぇ。俺は俺だしあいつはあいつだ。だから俺たちは再び惹かれ合った。泣かせたら承知しねぇだと? そんなことてめぇに関係ねーんだよ。もしもあいつが泣くことがあったならそれ以上に笑わせてやる。あいつが悲しむことがあればそれ以上に幸せを実感させてやる。それができるのはこの世に俺しかいねーんだよ」
「・・・・・・」

歯の浮くようなセリフに大笑いしてやりたいのに、その心とは裏腹に少しも笑えない。
それはこの男がそれを心から信じて疑っていないからだ。
真っ直ぐで揺らぎないその想いが自分を撃ち抜いて、瞬きすらできない。

「お前が入り込む隙は1ミクロンだってねぇっつっただろ。諦めろ」
「あっ、おい!」
「うるせーな。てめぇに構ってる時間なんかねぇんだよ。・・・あいつが俺を待ってっからな」
「・・・!」

口角を少しだけ上げながらそう言うと、再び大塚の前を風が通り抜けた。
ここへ来た時と少しも変わらない高質な靴音を響かせながら、あっという間にその姿は見えなくなる。呆然とそれを見送っていた男が我に返ったのは、その風が吹き抜けてからどれくらいの時間が経ってからのことだっただろうか。



「・・・・・・くっそー。やっぱあの男、心底気に入らねーぜ・・・」



そう言いながらも何故か笑っていた。
いや、もはや笑わずにいられなかったのかもしれない。





 
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昨日はたくさんのコメント有難うございました!予想以上に怪奇現象先輩がいらっしゃいまして、なんだか勇気が湧いてきました(笑)お話の種もたくさん有難うございます^^ 昨日の記事にいただいたコメントお返事は個別にしませんので、これでお礼に代えさせていただきますことをご了承ください(o^^o)
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