夜明けを君と
2016 / 01 / 01 ( Fri ) 空気に触れた指先が冷たくてぶるりと震えた。
温もりが恋しくて、無意識にそれを求めて体が動く。 と、指先にツンっと何かが触れてそれ以上前へ進むことを阻まれた。 すぐに自分の指先にツンっと刺激が返ってきて、思わず顔が綻ぶ。 負けじともう一度つっつき返すと、間髪入れずにお返しとばかりにそれ以上の刺激が戻って来て、そのくすぐったさにたまらず身を捩った。 「・・・あはははっ! もう、くすぐったいってば!」 「先にやったのお前だろうが」 「あたしのは偶然当たっただけでしょー?」 「俺も偶然なんだよ」 「なわけないじゃん! どんだけ倍返ししてるのよ!」 口ではそう言いながら、互いの指先はさらに絡み合っていく。 空気に触れているのはさっきと何ら変わらないのに、今は信じられないほどに温かい。 圧倒的にこの男の方が足が長いというのに、何故か同じ位置でピタリとくっつき合うそれに、布団の中できっと微妙な位置調整をしてるんだろうと想像するだけで可愛くってしかたがない。 「あったかいねぇ・・・」 「あぁ」 それが合言葉のようにギュウッと抱きしめられると、燃えるように熱い素肌に頬を寄せた。 ・・・いつだったか昔もこんなことがあったっけ。 あれは確か雪山で遭難しかかったあたしをこいつが助けてくれて、それで素肌を寄せ合って暖を取ったんだった。・・・って、あの状況と今を同列で語るのはおかしいのかもしれないけど。 思えば初めて触れたときからこの男はいつだって温かかった。 心は氷のように冷たく見えて・・・その中身は誰よりも熱い。 「・・・何笑ってんだよ」 「んー? ほら、昔雪山で遭難しそうになった時のことを思い出してさ」 「あぁ、あれか。つーかあれはお前がアホ過ぎだったな」 「なっ・・・! ・・・でもまぁ冗談抜きで死にかけたんだから反論はできないかも」 「お前ほど騙されやすいお人好し人間はいねーよ」 「う、うるさいな、もう・・・」 しまった。余計なこと言わなきゃよかった。 せっかく人が珍しくロマンチックな気分に浸っていたというのに。 「・・・あっ!」 「おわっ、何だよ?! いきなり大声出してびびったじゃねーか」 突然大声を出して体を起こしたつくしに司が思いっきり顔をしかめる。 「雪!」 「え?」 「ほら見て、雪が降ってる! どうりで寒いはずだー」 つくしが指差した天窓からは白い塊がひらひらと舞い落ちる様子がよく見える。 「・・・あぁ、別にそんなに驚くことじゃねーだろ?」 「驚くよ! だって東京じゃめったに雪降らないんだから。あー、どうせなら積もって欲しいなぁ」 「げ、やめろよ。足元が汚れてめんどくせーったらねぇ」 「・・・あんたってどうしてそんな夢のないこと言うのかな」 「お前こそらしくもなくやけに乙女思考じゃねーか」 「あはは、乙女思考って」 体を起こした司の腕がつくしを包み込むように後ろから回される。 その大きな腕にギュッとしがみつくと、つくしはもう一度天窓を見上げた。 「あけましておめでとう、道明寺」 「・・・あぁ」 「あぁ、じゃないでしょ? ちゃんとあけましておめでとうって言わなきゃ」 「なんでだよ。生まれてこの方そんなセリフは言ったことがねーんだよ」 「えー?! だったら尚更言わなくちゃだめじゃん! ほら、ちゃんと言って!」 「んだよ、そんなんめんどくせー・・・」 そこまで言いかけてハッとする。 自分の腕にキュッとしがみついたまま後ろを振り向いたつくしの姿に、時間が止まった。 やべぇ・・・こいつ、可愛いすぎんだろ。 大きな黒目を潤ませながら(司ビジョン)おねだり顔をするこの女は・・・最強だ。 これをやられて逆らえる男がいるもんなら出てこいやと叫びたい。 「ちっ、お前がそこまで言うならしかたがねーな。・・・あけましておめでとう。これでいいだろ?」 「うん! 最初の一言が余計だったけど道明寺にしては上出来」 一言が余計なのはお前の方じゃねーのかよ。 ツッコミたくなるのをぐっと堪える。 せっかくこいつがこんなに可愛い仕草を見せてんだ。 わざわざそれをやめさせる理由なんかどこにもねぇ。 「・・・初めて一緒に年越ししたね」 「まぁこの4年はずっと向こうだったしな」 「うん・・・」 4年の遠距離恋愛を経て初めて2人で迎えた新年。 心も体もぐっと近づいた距離に、今さらながらなんだか照れくさい。 「ら、来年も一緒に過ごせたらいいね」 恥ずかしさを誤魔化すように咄嗟に出た一言に、司のこめかみがピクッと動いた。 「おい、どういう意味だよ。来年どころか死ぬまで一緒だろうが」 「えっ?」 「つーか来年の今頃お前は道明寺になってんだよ」 「・・・・・・」 「・・・なんだよその顔は? まさか今さら嫌だなんて言うんじゃねーだろうな」 どこか他人事のように呆けるつくしにますます眉間の皺は深くなる。 だがそれとは対照的に何故かつくしの頬がほんのりと赤らんだ。 ・・・何だ? 「あ・・・いや、そういうんじゃなくて・・・」 「じゃあなんだよ」 「うん、えっと・・・なんていうか、 『道明寺つくし』 って名前を想像したらなんか、急に照れくさくなっちゃって・・・」 ズッキューーーーーーン!! もじもじとはにかみながら見せた微笑みが完全にスイッチを押した。 押しまくった。 「お前、それはダメだろ・・・」 「えっ?! ご、ごめん。何か変なこと言った?」 「あぁ・・・押しまくりだ」 「お、押し・・・?」 意味不明な返しに今度はつくしが顔をしかめる番だ。 ___ が。 「えっ?!」 バフッ!! 一瞬にして体が反転すると、正面に見えるのは天窓・・・と妖しい笑みを浮かべた男。 この笑いを見せているときは・・・色んな意味でキケン。 「ど、道明寺・・・? な、なに・・・?」 「新年をこうして2人で迎えられる喜びをもっともっと感じねーとなぁ?」 「はっ・・・?」 「総二郎の奴が言ってたぜ。男女の新年一発目の楽しみは当然ヒメハジメだろ、ってな」 「ひ、姫・・・?」 必死でその意味を考えている間にも色気がダダ漏れの男の顔は近づいてくる。 ハッとしたときにはもう遅い。 剥き出しのうなじに吸い付くように舌を這わせられると、ビクッと震えた体からはたちまち力が抜けていってしまった。 「ど、みょじ・・・っ、まって・・・!」 「心配すんな。お姫様を丁重に天国に連れてってやっから、な?」 「・・・・・・っ!!!」 つくしがはっきりと覚えているのはそう言ってニヤリと不敵に微笑んだところまで。 後のことはまるで嵐が来たようにあれよあれよと熱に浮かされ何がどうなったかなんて少しもわからない。 ただ、それが夜が明けるまで続いたということは辛うじてわかった。 そりゃそうでしょうよ、気が付けば天窓から青空が覗いてたんだからっ!! 西門のアホーーーーーーっ!!!! 今年も笑顔溢れる一年となりますように。
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