シンジルモノハ・・・? 前編
2016 / 02 / 22 ( Mon ) 「ねぇねぇ、今日のあたしの運勢最高だって!」
「なになに、どこよ?」 「ほら、今一番当たるって評判の占い師。見て、ここ。今日の蟹座のあなたには最高の出会いが待っているでしょう、だってぇ~!」 雑誌をバンバン叩きながらきゃーっと黄色い声が上がる。 「ぬぁにぃ~?! あたしはどうなのよ、どれどれ・・・ラッキーアイテムはフリルのついた洋服ぅ?」 「あっ、ブラウスにフリルついてるじゃん!」 「え? あ、ほんとだ~! ふっふふふ、これであたしにもいい出会いが待ってるかしら?」 「待ってる待ってる。信じる者は救われる世の中でなくっちゃでしょ!」 「だよね~!」 「あ、そろそろ時間。遅刻でもして出遅れちゃったら台無しよ!」 「第一印象から決めていかなきゃだもんね~! ねぇ、髪型大丈夫?」 「バッチリバッチリ。てかあたしこそグロスオッケー?」 「オッケーオッケー。テッカテカに光りまくってるわよ」 キャハハといかにも女子と言わんばかりの笑い声を上げると、開いていた雑誌を閉じて2人同時に立ち上がった。 「牧野さん、じゃあ悪いけど・・・お先に失礼するね」 「あ、はい。お疲れ様でした! 楽しんできてくださいね」 「ありがと~! っていうか今度は牧野さんも参加してよね~! 一度も来てくれないんだから」 「あはは、あたしはそういうのはちょっとダメで・・・」 「そんなことばーっかり言ってるからいつまでたっても男の気配がないんだよ? まぁいいわ、この話はまた今度ゆっくりね。じゃあお疲れ様~!」 「お疲れ様です」 寒いというのにミニスカートに生足で気合は充分。狭い室内に甘い香りを残していった仲間を見送った後、振っていた右手を止めた途端何故だか勝手に溜め息が出た。 「はぁ・・・なんかあたしってば枯れすぎ?」 我ながら何を今さらと思う。 パタンと力なく下ろした右手はかっさかさ。せめてハンドクリームでも塗ればいいのだろうけど、それすらもなんだか億劫で放置する始末。 「これじゃあ男の気配無しって思われても仕方ないよね。・・・って実際いないんだけどさ」 ・・・いや違うか。 正確には 「近くにはいない」 だ。 なんて、一体誰に弁明してるんだか。 ふと、先程のバイト仲間が残していった雑誌が目に入った。 別に読みたいわけでもないけれど、休憩が終わるまではもう少し時間がある。ぼーっとしてるのもなんだし、その雑誌を手にとってなんとなしにパラパラと中身を捲っていく。デート服特集なんてページを見てもちっとも心が躍らない自分はやっぱり枯れ枯れだな、なんて苦笑いしたところで占いのページへと辿り着いた。 「さっき騒いでたのってこれかぁ」 何やらその話題の占い師とやらのどでかい写真まで載っている。 おそらく世間の女子から見ればイケメンともてはやされる部類の人間なのだろうが、つくしからしてみればただの胡散臭いインチキペテン師にしか見えない。そもそも占い師のくせに見た目をアピールするっておかしくないか? とはいえこうなったら興味本位が出てくるのも事実なわけで。 イケメン占い師とやらが一体どんなことを書いてるのかを確認してみようじゃないの。 別に占いなんて全く信じてないけどさ。 「えーとなになに、山羊座の今日の運勢は・・・?」 該当項目を指で辿っていくと、書いてある内容を見てその動きが止まった。 「・・・・・・はぁ、所詮占いなんてこんなもんだよね」 世の中そんないいことばかりあるはずがないしその逆もまた然り。 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。きっと自分自身があることないこと適当に書いたって中には的中してしまうことが1つや2つはあるに違いない。 『 素直になればあなたの願いが叶う日でしょう 』 バカバカしい。実にバカバカしい。 素直になれば願いが叶う? そんなことが簡単に当たるなら世の中誰も苦労なんかしないっつーの! 「いいなぁ。あたしも適当なこと言ってお金稼げたらいいのに・・・」 ついそんな本音がポロッと口を突いて出てしまった。 『 勤労処女 』 西門の高笑いが浮かんできて思わず眉間に皺が寄る。 悲しいかな事実なだけに腹が立っても反論はできない。 「好きでビンボーやってるんじゃないし、好きで処女なんじゃないですよーだ!」 負け惜しみのように悪態をつきながらゴツンと額とテーブルにつけた。 牧野つくし 二十歳。 多分女子としては一番輝けるお年頃。 ・・・なはずなのに現実はひたすら大学とバイトに明け暮れる日々。彼女たちのように異性の話題に花を咲かせることもなければ合コンだなんだと参加することもなし。 興味があるのはその日の特売品だなんて・・・我ながら女を捨ててると思う。 『 お前は素直に甘えてりゃいいのになんでそう苦労したがるんだよ 』 そんな声が頭に響いてくる。 確かに既に4年間の学費は払ってもらってるんだけどさ。 親の作った借金だってとっくに肩代わりしてもらったんだけどさ。 1円だって返さなくていいってうるさいほどに言われてるけどさ。 ・・・仕方ないじゃない。それを甘んじて受けられるほどおめでたい性格じゃないんだから。 クソ真面目と言われようと勤労処女と馬鹿にされようと、借りたものはきちんと返す。そう考えて行動に移すことってそんなにおかしい? きっと男から見れば可愛さの欠片もないんだろうけど・・・ 仕方ないじゃない。それが牧野つくしなんだもの。 「・・・自分でも可愛げがないって思うんだから向こうからすれば相当なもんだよね」 わかってても人間の本質なんてそうそう簡単には変わらない。 だったらせめてもう少し器用に甘えられたらいいんだろうけど、現状それをすることは難しい。 何故なら・・・ 「だって甘えたところでどうしようもないじゃん。会えるわけでもないのにさ」 いじけた子どものように口を尖らせて呟く。 そう。あいつがいるのは遠い遠い空の下。時間だってまるで正反対の国。 離ればなれの生活も気が付けば3年。もうすぐ最後の1年を迎えようとしている。 すっかり慣れたようで本当はちっとも慣れてなんかいない。 でも 「仕方ない」 と自分を納得させる以外にどうしようもない。実際あたしたちに残された選択はそれしかないのだから。 自分でも可愛くないって自覚はある。 けれど、だからって何でも平気なわけじゃない。 ・・・こんなあたしでも、ふとおセンチな気分に浸ってしまうことだってあるんだから。 『 素直になればあなたの願いが叶う日でしょう 』 「 ・・・・・・・・・・・・・・・会いたいよ、道明寺・・・ 」 ぽつりと。 本当に小さな声で呟いた一言はたちまち静かな室内に消え入った。 「・・・・・・なーんてねっ! あーあ、あたしも疲れてんのかな? なんか変なこと口走っちゃった。今のナシナシっ! っていうかそもそも誰も聞いてないし。それ以前に占いなんて当たらないし!」 アハハと1人笑いながら立ち上がる姿は不気味の一言に尽きる。 第三者が見れば見えない者と交信でもしているのかと思うに違いない。 くわばらくわばら。 「貧乏暇ナシ! さー働くぞぉ~!」 うーんと盛大に背伸びすると、つくしは開いた雑誌をそのままに1人店内へと戻っていった。
「何もしたくない病」 絶賛発症中ではありますが、皆さんの元気玉の後押しとコメントにヒントをもらい、リハビリも兼ねて(笑)つかつく短編を書いてみることにしました。中身は全くありませんがリハビリなので大目にみてください。 えっ、イマサラ? ( ̄∇ ̄) この短編後の更新は自分でも読めませんが、ちゃんと完結させますのでそこはご安心くださいね。 スポンサーサイト
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シンジルモノハ・・・? 後編
2016 / 02 / 23 ( Tue ) 「はー、今日も働いた働いた。・・・働けど働けど我が暮らし楽にならずってか」
言った直後に自嘲めいた笑いが出る。 どうも今日の自分は妙なテンションの日らしい。 いい加減勉強とバイト三昧の日々に知らず知らず疲れが溜まってきたのかもしれない。 「ご飯どうしよっかなー。お腹すきすきだけど・・・なんか作るのめんどくさいなぁ」 かといって外食でもして帰ろうかなんて選択肢が出てくるはずもなく。 「・・・いっか。今日は帰ったらお風呂入ってすぐ寝よ」 珍しく生き甲斐の1つを放棄することを選択すると、つくしはとにかく少しでも早く家に帰るべく大股で歩き始めた。いつもなら最寄りのその1つ先の駅まで歩いて行くところだが、今日はその気力も体力も残っていない。たかが50円、されど50円。その差額が惜しいところではあるが、その分今日は夕食を食べないのだからプラマイゼロということにしておこう。 真冬のこの時期、剥き出しの手がかじかむように冷たい。 体も懐も凍えてせめて手袋の1つくらい持って来ればよかったと物ぐさな自分が恨めしい。 少しでも寒さを凌ごうと体を縮こめながら俯き加減にズンズン歩いて行くと、ふと前方から人が歩いてくる気配を感じた。確認せずともそのことに確信を得ていたつくしは、そのまま顔を上げることなく誰もいない方へとすっと横にずれていった。 だが何故かその気配が同じ方向へと動く。 一瞬眉間に皺が寄るが、たまたま動いた方向が同じだっただけだろうと思い直す。 相手を避けようと動いて鉢合わせるのは珍しくもないあるあるだ。 瞬時にそう納得すると、つくしは再び反対側へとその身をスライドさせた。 「 ! 」 だが再び同じ事が起ったではないか。 ・・・まぁ、2度3度と同じ動きをしてしまうこともよくある話。ここは冷静に冷静に・・・ そう自分に言い聞かせながら全神経を相手に集中させる。そうして相手の動きを全身で察知すると、今度こそとばかりに絶対にぶつからないであろう方向へと一歩を踏み出した。 だがその瞬間またしても立ちはだかるようにしてその気配がついてくる。 「なっ・・・!」 いい加減偶然にしては過ぎるというもの。 面倒くささ故にこれまでひたすら俯いていたつくしだったが、この事態に堪らずに顔を上げた。 「 _________ えっ・・・ 」 睨み付けるつもりで上げた瞳が今にも零れ落ちんばかりに見開かれた。 凍えるほど寒かった体は全く違う意味でカタカタと小刻みに震え始める。 すぐ目の前で行く手を阻むようにして仁王立ちしている男は・・・ 「・・・な・・・なん・・・」 「お前何シカトぶっこいてんだよ」 「・・・へ?」 被せるように降ってきた声はすこぶる機嫌が悪い。 弾かれるようにもう一度その顔を見ると、声に負けず劣らず不機嫌さを滲ませている。 「この俺様をシカトしようなんて1億光年早ぇんじゃねーか?」 「い、1億光年って・・・」 それは時間じゃなくて距離の単位でしょうが! ・・・って、そんなことは心底どーでもよくて。 「ど・・・道明寺っ?!」 「なんだよ」 「な、なんだよって・・・それはこっちのセリフ・・・」 「あぁ? なんでだよ。お前は俺に会えて嬉しくねーのかよ」 「・・・・・・」 ・・・これは幻? 夢? っていうかどう考えてもそうだよね? だってあいつが今ここにいるはずがないんだから。また海外に飛ばなきゃなんねぇって愚痴を昨日この耳で聞いたばっかりだもん。今頃あいつは遠いイタリアの空の下にいるはず。 ついうっかりらしくもないことなんて呟いちゃったもんだからとうとう幻覚まで見えるようになっちゃったとか? あぁ、そういうことかぁ。 ・・・って、あたしの疲れってそこまで来てたの? やばくない?! っていうかそもそも一体どこからが夢だった? 夢だったからあんなことを口走ったり夕食抜きでいいと思えたんだ。 そう考えたら妙に納得できる。 でも・・・ 「・・・・・・嬉しい」 「あ?」 いつまでもブツブツとわけのわからない独り言を続けるつくしに司の顔がますます険しくなっていたが、自分を見上げるつくしの妙に明るい顔に呆気にとられてそれもすぐに引っ込んでしまった。 「まき・・・」 「夢でも幻でもなんでもいいや。道明寺に会えたんだから」 「は・・・」 「会えて嬉しい。・・・会いたかったぁ」 「・・・・・・」 へにゃっと。 見たこともないようなはにかんだつくしの笑顔に、司の思考回路は完全に停止した。 「・・・道明寺、どうしたの? ねぇ大丈夫? ・・・ってかこれ夢なんだよね。じゃあこんなことしても大丈夫かな」 そう言って放心状態の司の頬を思いっきり引っ張ってみる。 あれだけ筋肉質なのに実はほっぺただけは柔らかくてよく伸びる。 これは遠距離恋愛を始める前に気付いた意外な道明寺トリビアだ。きっとこの事実を知っているのは限られた人間だけなのだと思うだけで頬が緩んでくる。 「あははは! あんたすっごいマヌケな顔!」 「・・・・・・」 さすがは夢か幻。こんなことをしているというのにこの男が少しも抵抗しない。 こうなったら普段はできないことをとことん楽しんじゃえ。 「っていうかあんたってムカツクほど肌が綺麗よね~。一体どうなってんの? 小鼻に毛穴の1つもないなんて! 難ありなのは性格だけってどんだけよ。まぁその唯一がとんでもなくドでかい問題なんだけどさー」 頬の次は鼻。 嫉妬も込めて抓んでやったがやはり抵抗しない。 ビバ幻! 「・・・・・・」 そうしてしばらく遊んで笑っていたつくしがやがてゆっくりと手を下ろす。 司は尚もじーっとこちらを見ているだけでうんともすんとも反応はない。 ・・・どうせ夢なら。 ・・・どうせいずれ目覚めて現実に引き戻されるなら。 だったらせめて今だけでも ___ キュッと一度手を握りしめてもう一度開くと、恐る恐る、つくしは躊躇いながらゆっくりと司の体にしがみついた。震えている自分に気付かないふりを通して。 「 _____ 」 「・・・あったかぁい」 夢にしてはやけにリアルな温かさだ。 でも気持ちいい。・・・あぁそうだ。こいつってばいつも燃えるように熱かったんだっけ。 会えない日が長すぎて、そんなことすら忘れてしまいそうになっていた。 ふわりと鼻腔をくすぐるコロンの香りも実に精巧に再現されている。 最近は夢までハイクオリティなのか。 「・・・・・・牧野」 「んー?」 うっとりとそのまま腕の中で眠ってしまいそうなつくしにようやく司の声が降ってくる。 「お前って奴は、なんでいつもそう・・・」 「・・・・・・」 あーほわほわあったかくって気持ちいい。 え? お前って奴はなんだって? ・・・まいっか。どうせ夢なんだし深く考えるのはやめやめ。 あー、ほんとにこのまま眠りそう。・・・って既に寝てるのか。あははは! 「ぎゃあっ?!」 幸せの淵に落ちていこうとしたまさにその瞬間、つくしの体が宙に浮いた。 さっきまで自分が立っていたはずのアスファルトが真下に見える。そしてやけに目線が高い。 「な・・・なにごとっ?!」 「お前って奴は・・・時間がねーときに限っていっつもこうだ」 「は・・・はぁっ?! ちょっ・・・これ夢でしょ? っていうか何がどうなってんの?! とにかく下ろしてよ!」 「アホか。言っただろ、時間がねぇんだって。クソ、もうこんな時間じゃねーか」 右手で米俵よろしくつくしを担ぎながら左手の腕時計を見て舌打ちする。 ありえない場所で揺らされながらつくしは振り落とされないように必死でしがみついている。 と、視線の先に妙に見覚えのある車が見えてきた。 「あれってまさか・・・」 つくしがそう呟いたのとこれまたやけに見覚えのある男が降りてくるのはほぼ同時だった。 「に・・・西田さんっ?!」 「ご無沙汰しております。牧野様」 彼まで出てくるとは夢にしてはあまりにもできすぎじゃなかろうか。 そんな疑念がムクムクとつくしの中で膨れ上がってくる。 もし、もし万が一夢じゃなかったとしたら・・・・・・あたしは一体何をした?! 「おい西田、なんとかあと30分時間を作れ」 「・・・ですが既にかなりの無理をしてこの時間を作り出しているのです。これ以上は」 「つべこべ言わずにやれっつってんだよ。どうせお前のことだ。俺がそう言い出すことを見越した上で時間設定してんに決まってんだろ」 「・・・・・・」 「死ぬほど働かされてるのに見合った対価をもらわねーとやってらんねーよなぁ」 「ぎゃっ!!」 そう言うと司はリムジンの後部座席につくしを放り込んだ。 「いいか。今から30分、一切の邪魔すんじゃねーぞ」 「・・・かしこまりました」 溜め息交じりにそう言うと、西田の目の前の扉が凄まじい勢いで閉じられた。 「・・・はぁ。それを言うなら私こそどれだけの対価をいただきたいことか」 呆れながら思わず出た本音は幸か不幸か主には届いていない。 *** 「な・・・なんで? なんでリムジンが? なんで道明寺が? なんで、なんで・・・夢じゃあ・・・」 「お前さっきから何わけわかんねーこと言ってんだ? これは夢じゃねぇ、現実だ」 「えっ!!」 げ、現実?! まさかまさかと過ぎっていた可能性をあっさり肯定されて一気に血の気が引いていく。 「いってぇっ!!」 「・・・ほんとだ。これって夢じゃなかったの? リアルなのっ?!」 目の前の男の見た目とは真逆の柔らかい頬を引っ張りながらつくしが驚きに声を上げる。 「つーかお前何しやがる! 普通やるなら自分の顔でやるだろうが!」 「・・・本物?」 「あぁ?」 「本物の道明寺なの? 幻じゃなくて? 夢じゃなくて?」 「だからそうだっつってんだろうが。触ってみろよ」 「・・・・・・」 強引に掴まされた手ががっしりとした体に触れた。そこから手のひらにドクンドクンと力強い鼓動が響いてくる。 ・・・本物だ。 「ど、どうして・・・だって、あんた昨日・・・」 「あぁ、イタリアに行くはずだったんだけどな。その前に急遽香港での仕事が入ったんだよ。だからそこに行くついでに日本に立ち寄る時間を作らせた」 「ついでって・・・」 どう考えてもついでの距離じゃないでしょうが! そう言おうとしたつくしの体ごと大きな腕の中に包み込まれた。 「あーーーーーーーーーーー、マジで会いたかった・・・」 「道明寺・・・」 「お前が昨日の電話で元気がなかったのが気になって。そしたらその直後に香港行きが決まったんだよ。だからこれを使わない手はねぇと思ってな。ソッコーでジェットに飛び乗った」 「・・・・・・」 「会えても15分が限界だって西田のヤローに口うるさく言われてたんだけどな。お前がやれ会いたかっただの嬉しいだの素直に言ったかと思えばトドメに抱きついてきただろ? んなもん誰が15分で我慢できっかってんだよ」 「あっ、あれは! あたしは夢だと思ってたから・・・!」 慌てて弁明しようとしたつくしの頬に両手が添えられる。 「バーカ。夢だろうと何だろうとお前の本音には違いねーんだろうが」 「 ! 」 「つーかむしろいつも夢の中ではあんなクソ可愛いことやってんのかと思う方がたまんねーな」 「ななっ・・・!」 真っ赤になったつくしの額にゴツンと司の額がくっつく。 「はーーー。俺もすっげー疲れてたんだけどな。・・・さっきのお前で全部吹っ飛んだ」 「道明寺・・・」 「死ぬほど会いたかった」 あまりにも真っ直ぐな眼差しでそう言うから。 「・・・あたしも。死ぬほど会いたかった」 だから気が付けば素直にそう言っている自分がいた。 そうしたらあいつは本当に嬉しそうに笑ってみせて。 あぁ、ほんの少し素直になるだけでこんなに喜んでもらえるんだって、こっちまで幸せな気持ちでいっぱいになったんだ。 ギュウッと抱きしめられた腕の中であのコロンの香りを思いっきり吸い込む。 夢じゃない。 これは現実。 たとえ15分でも。 ううん、たとえ1分だったとしても。 本物のあいつの腕の中に包まれてるんだ。 素直じゃない可愛くない牧野つくしは少しの間お留守番。 あたしだって一応女の端くれだもん、たまにはそんな日があったっていいよね? 「あー、クソ。せめて2時間あったらお前を邸に連れ込んで離さねーのに」 「なっ、何言ってんのよ!」 「あぁ? そんなん男なら当然だろ。つーか時間ねーから。言い合ってる時間がもったいねー」 「 っ・・・! 」 すぐに重ねられた唇にそれ以上の言葉を奪われる。 ・・・あぁ、あたしってば間違ってた。 見た目とは裏腹に柔らかいのはほっぺただけじゃなかった。 この男の唇は柔らかくて驚くほどに優しくあたしを包み込む。 ガキのくせに。自己チューのくせに。俺様のくせに。 いつだってあたしに触れる全てが優しいんだ・・・ 「 道明寺・・・帰ってきてくれてありがとう 」 またしばらく会えなくなるんだから、今日くらいは今までの分もまとめて素直になろうと思う。 こんなエッセンスを与えてくれるのなら、遠距離も案外悪いことばかりじゃないのかもしれない。 ・・・・・・もしかして、占い的中? ・・・まさかね。 でも、この日を境にあのインチキペテン師とやらの占いを時々チェックするようになったのは・・・ 絶対に誰にもナイショの話。
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