企画のお知らせ
2015 / 04 / 19 ( Sun ) つくしちゃんのご懐妊で司と共に皆様の盛り上がりも最高潮~!!
・・・ではありますが、今日はお休みです。ごめんなさいm(__)m ちょっと忙しくて執筆時間が取れませんでした。 私もノリノリだっただけに無念。 明日には更新できたらいいなとは思ってますが・・・全てはチビゴン次第です。泣きながらも幼稚園を毎日頑張ってる反動か、ベッタリ度が増してまして(^_^;) さてさて、ついに? それともようやく? つくしちゃんがおめでたとなったわけですが、反響の大きさにびっくりしています。 かくいう私も、困難を乗り越える過程からずーーっと書き続けての今なので、書き手としてもとっても感慨深く思っているところです。単発で書くのとはやっぱり気持ちが違いましたね。 コメントもたくさん有難うございます。順次お返事していきますのでお待ち下さいね^^ 性別はどっちだろう? まさか双子? など、コメントを通してかなりの盛り上がりを感じています。有難いことです。 それでですね、どうせなら皆様に企画に参加していただこう! と思いまして。 その名も 『 つかつくベビーの性別&名前を予想しちゃおう!! 』 です。 はい、なーーーんの捻りもないザ・シンプル企画でございます。 一応私の中で第一子の性別、名前は決めています。 どうせなら皆様に色々と予想して楽しんでもらえたらな~と思いまして^^ やり方は簡単です。 性別、名前を予想してコメント欄に入れて下さい。(双子だと思う場合はそれも含めて) いずれもドンピシャで当てた方がいた場合はお好きなリクエストを受けつけたいと思っています。 尚、この企画に関するコメントには返信をしませんのでその点はご了承下さい。 また、予想は必ずこの記事にてコメント記入をお願いします。 (他の記事に予想を書かれても企画参加とはみなしませんので気をつけて下さいね) キリ番だと運とタイミングが物を言うのでなかなか難しいですが、これなら皆さん平等に参加してもらえるのではないかと思っています。 くだらないですが皆様に少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 では、皆さんのご参加をお待ちしております(o^^o) <追記:重要!> 早速企画に参加して下さって有難うございます^^ ただ、複数名前を挙げるのはナシとさせていただきます。 それだと誰もが当たる可能性がありますよね。 子ども1人につき名前は1つのみ予想可能とさせてもらいます。 複数予想された場合は無効とさせていただきますので、該当する方はもう一度あらためて予想されてください。
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幸せの果実 17
2015 / 04 / 18 ( Sat ) 『 赤ちゃんができたかもしれない 』
破れそうな心臓をなんとか鎮めながらこの言葉を発してどれくらいの時間が経っただろうか。 一体どんな言葉が、反応が返ってくるかと一瞬だって目を離すことができないというのに、目の前の男は一言も発しないどころか微動だにしない。 まるで石のように。 「つ、司・・・? 聞いてる・・・?」 もしかして聞こえなかったのだろうか・・・? あまりの反応のなさに不安になってひらひらと手のひらを振って呼びかける。 だがその状態でも無反応は変わらず、困り果てたつくしが直接触れようと手を伸ばした ___ ガシッ!! 「ひゃっ?!」 だが触れるよりも先にその手が掴まれて思わず声が上擦る。 決して痛くはないが凄まじい力が込められているのだけはよくわかる。 驚いて顔を上げれば、普通の人間ならたじろいでしまうほど真剣な表情をした司の顔が目前まで迫っていた。その視線はつくしの顔と腹部を何度も行ったり来たりを繰り返した後、再びつくしの眼前へと戻ってくる。 「つ、つか・・・」 「本当か?」 「えっ?」 「本当に子どもができたのか?」 そのあまりにも真剣な様子に何故だか胸がキュウッと締め付けられる。 「い、いや、まだ調べてないからわからないの。ただその可能性があるってだけで・・・」 まだ言葉の途中だというのに突然司が立ち上がると、つくしの両肩に手を置いて顔を覗き込んだ。 「いいか。お前はここにいろ。動くんじゃねぇぞ」 「え?」 全くわけのわからないことを言い残すと、つくしに背を向けて部屋を出て行こうとする。 「ま、待って! ねぇっ、どこ行くのっ?!」 慌ててつくしが呼び止めると、何故か司は呆れたように振り返った。 「決まってんだろ。医者を連れて来るんだよ」 「い、医者っ?!」 「何を驚いてんだ、当たり前のことだろ? 今すぐ調べてもらう」 「ま、まままま待ってっ!!!」 再び歩き出した司を引き止めようとつくしが急いでベッドから降りて追いかける。 「ねぇ、待ってよ!」 何とか追いついてガシッと腕を掴むと、目の玉が落ちるんじゃないかと思うほど驚愕に満ちた顔で司が振り返った。そのあまりの迫力に一瞬言葉を失う。 「っまえ・・・このバカっ!! 動くなっつっただろ!」 だがわけもわからず叱られ思わずカチンとくる。 「なっ・・・何で怒るのよ!」 「決まってんだろ! 腹の子に何かあったらどうするつもりだ!」 「な、何かって・・・ただ歩いただけでしょ?!」 「それでもダメだ! 万が一のことがあったらどうすんだ。お前はじっとしてろ!」 「ひゃあっ?!」 フワリと体が浮いたと思ったら再び今来た道を戻っていく。 やがて柔らかい感触にお尻から沈み込むと、両頬に手を添えた司が真剣な眼差しで言った。 「いいから。お前はここで待ってろ」 優しく頬を撫でるとまたつくしへ背中を向ける。 だがつくしの手が目の前の服を掴むと、全く想定外だった司の体がくんっと後ろに引っ張られてそのまま尻もちをついてしまった。司のこめかみにピシッと青筋が立ったのがはっきりわかる。 「ってぇ・・・何すんだよ?!」 「お医者さんなんて呼ばなくていいから!」 「はぁ? 何言ってんだ、ちゃんと調べてもらわなくてどうすんだ!」 「今日はもう夜も遅いし明日ちゃんと病院に行くから」 「ダメだ! すぐに診てもらわなきゃだろうが!」 その真剣な迫力に思わず負けてしまいそうになるが、つくしは首を横に振った。 「仮に赤ちゃんがいたとしても病人じゃないんだから。大丈夫だよ。それに、妊娠検査のために家に医者を呼ぶ人なんてどこ探してもいないよ?」 「ここにいるじゃねーか」 「えっ? あははっ、ほんとだね」 真顔で言い返してくる司がおかしくてしょうがない。 赤ちゃんができたかも・・・なんて考えたら意味もわからずドキドキしてあんなに落ち着かなかったというのに、司のこんな姿を見せられたら、何故だか不思議なくらい心が凪いでいく。 つくしはニッコリ笑うと未だ納得いかない顔をした司の両手を握りしめた。 「大丈夫だから。・・・信じて? 明日ちゃんと病院に行ってみてもらうから」 「・・・・・・」 無言のままの手をギュッと握りしめると、はぁっと大きな溜め息が聞こえた。 そして次の瞬間にはその手がつくしの背中へと回されていた。 「今すぐ来てもらえばいいじゃねーかよ」 「もう夜の11時だよ? 病気じゃないんだからそんなことしないで」 「ったく・・・俺が望めばなんだってできるってのに・・・」 「そんなことは望んでないから。普通でいいの」 ふぅ~と呆れたような溜め息がもう1回聞こえると、ゆっくりと体が離れていく。その代わりに近づいてきた顔は呆れているけれど・・・それと同時にこの上なく優しい。 「明日、朝一で行くからな」 「うん」 「俺も行くから」 「う・・・え゛っ?!!」 思いっきり目をひんむいて驚くつくしに司の眉根が寄る。 「なんだよ? その反応は」 「え・・・だって、・・・行くの? 司も?」 「あぁ」 「産婦人科だよ?」 「あぁ。 つーか俺の子なんだから行くのは当然だろ?」 「・・・・・・」 ぽかーんと口を開けたまま言葉も出ないつくしに呆れたように3度目の溜め息をつくと、司はもう一度その体を自分の腕の中に閉じ込めた。慈しむように優しく、優しく。 「明日仕事じゃ・・・」 「もともと土曜日だろ。西田に調整させれば何の問題もねぇ」 「でも・・・」 「でもじゃねぇよ。 お前は俺が行くと嫌なのか?」 「っそんなわけないじゃん!!」 ガバッと顔を上げて拒否するつくしにフッと目を細めると、そのままゴツンと額を合わせた。 「今日呼ばない時点で充分譲歩してやってんだ。これ以上の要求は聞かねぇぞ」 「・・・・・・うん。 ありがとう・・・」 そのまま見つめ合うと、どちらからともなくクスクスと笑いが止まらない。 「そうと決まれば話は早ぇ。とにかくすぐ寝ろ」 「・・・うん」 そのままベッドに沈み込むように横たわると、すぐに司の大きな手がつくしの体を包み込んだ。 このところ寝不足が続いていたのに、サラサラと髪を撫でるその手の感触で、背中に回された手の温もりで、たちまち瞼が落ちてくるから不思議だ。 まるで魔法使いのよう。 「・・・司・・・」 「ん?」 「ありがとう・・・」 「・・・礼を言われるようなことをした覚えはねぇな」 「・・・うん・・・でも、言いたくなった・・・の・・」 途切れ途切れに呟くと、つくしはそのまますうすうと眠りの世界へと落ちていってしまった。 「・・・・・・」 幸せそうな顔で寝息をたてるその姿を、司が一晩中眠れずにずっと見つめていたということを・・・当の本人は何一つ知らない。 *** 翌朝、司の宣言通り朝一でやって来たのは財閥が経営する病院だった。 一族のトップが来るともあれば当然の如くVIP待遇で、まるでホテルでの出迎えを受けているような錯覚を覚えた。受付もせずに医者に診てもらうことなどが許されていいのだろうかとハラハラするつくしとは対照的に、司は悠然と院内を歩いて行く。 見る人見る人が彼を振り返ったのはもはや言うまでもないこと。 「こんな特別扱いなんて嫌だな・・・」 中待合のふかふかのソファーで待ちながら思わず本音が零れる。 「仕方ねぇだろ。お前は俺の嫁なんだ。普通と同じじゃやっていけないこともあると諦めろ」 「そうだけどさ・・・」 もっとこう、例えば待合室で他のお母さんと雑談したりとか、そういう光景を想像してたのに・・・ 無意識なのか唇を尖らせてブツブツ言っているつくしにやれやれと息を吐くと、司の手がポンポンと頭を叩いた。 「今後のことはまたあらためて考えればいい。とりあえず今はいるのかいないのか、それを知るのが最優先だろ? 細かいことは後回しだ」 「司・・・・・・うん、そうだね」 そうだ。 今は何よりも真偽を確かめなければ。 ・・・ここに赤ちゃんがいるのかどうか。 「お待たせしました。道明寺様、中へどうぞ」 その時ちょうど出てきた看護師に誘導されるまま診察室に入ると、そこにはとても優しい顔をした50代ほどと思しき男性医師が2人を待ち構えていた。 一歩ずつ足を踏み入れる度に心臓の音がうるさいほどに音量をあげていく。 「おはようございます。まずは尿検査の結果から申し上げますと・・・陽性反応が出ました」 「・・・えっ?」 医師はニコニコ笑いながらいともあっさりそう言った。 陽性反応・・・? それってつまり・・・? 合わせ鏡のように目を丸くする目の前の夫婦に微笑んで頷くと、医師は更に続けた。 「妊娠していらっしゃるのは間違いありません」 ドクンッ・・・! その言葉に途端に手が震え始める。 いや、手だけではない。 全身がカタカタと震えている。 すぐに司の手が伸びてくると、そんなつくしの体をギュッと包み込むように引き寄せた。 「ですがそれが正常な妊娠であるかはエコーを見てみないとわかりません」 「えっ・・・?」 「今からエコーで赤ちゃんを見てみましょう。 そちらでズボンと下着を脱いでいただいて、そこに置いてあるタオルを巻いた状態でベッドに横になってください」 ガタガタンッ!! その言葉に驚愕した司が椅子をひっくり返しながら立ち上がった。 「お前・・・何言ってやがる? 下半身を露出しろっつってんのか?!」 「え・・・いえ、露出というわけではなくてですね、エコー検査のためには・・・」 「ダメだっ!! そんなことはぜってぇに許さねぇっ!!」 声を張り上げる司に医師が目を丸くして戸惑っているのが手に取るようにわかる。 「つ、司、検査には必要なことなんだから仕方ないでしょ?」 「検査・・・? 一体どんな検査するっつーんだ?」 「えと・・・それはですね、子宮の中の様子を見る器具を下から入れて・・・」 「入れるっ? 下からっ?!」 ますます声がデカくなっていくあまりの迫力にその場にいた全員がたじろく。 「ダメだっ!! 男にそんなことは絶対にさせられねぇ! 絶っっっっっっ対にだ!!」 「司・・・そんな子どもみたいなこと言わないで。 皆同じ条件・・・」 「女を呼べ」 「えっ?」 「女の医者を呼べ。 今すぐ!!」 駄々っ子のようなことを言い出した司につくしが心底呆れかえる。 「そんな我儘・・・」 「聞こえねぇのか? いいから女の医者を呼べっ!!」 「は、はいっ・・・!」 あまりの凄みっぷりに医師も看護師も縮み上がると、慌てて女の医者を手配するためかバタバタと忙しなく動き始めた。 口をあんぐりと開けて呆れかえるつくしに、怒りを携え至極真剣な顔の司。 もはや何を言おうとこの男の言うことは絶対だと諦めると、つくしはやれやれと頭を抱えた。 今からこんなんでこれから先一体どうなってしまうことやら。 病院としては産婦人科の中でも最もベテラン医師をと配慮しての担当だったのだが、よもやこんな結末が待っていようとはさすがに予想していなかったようだ。 結局、その後すぐに女性のベテラン医師が連れてこられたのだが、今回のすったもんだ騒動が院内で伝説のように語り継がれていったのは・・・また別の話。 「見えますか? ここの小さな点滅が」 「はい」 つくしと司の視線の先ではモニターに映し出された豆粒のような物体が点滅している。 「これは赤ちゃんの心臓ですよ」 「えっ?!」 顔を見合わせた2人がもう一度モニターを見ると、そこにははっきりと力強く点滅する光が。 「とても元気よく動いてますよ。これでようやく言えますね。 ご懐妊おめでとうございます」 「・・・は、はい・・・」 呆然と、間抜けな返事しかできないつくしの手をギュッと力強く司が包み込む。 それから色々と医師が話をしてくれたのだが、正直つくしの記憶にはほとんど残っていない。 ただ一つだけはっきりと覚えていること。 それは 『 元気な赤ちゃんを育てていきましょうね。 お母さん 』 その一言だけ。 パタン・・・ 「・・・・・・」 診察室を出ても尚放心状態のつくしの体がすぐに大きな温もりに包まれた。 世界一安心できる、大好きなその場所。 決してお腹に負荷を与えないように優しく、優しく、そして強く。 無意識に何度も何度も深呼吸をしてその香りを吸い込むと、つくしの手も背中にぎゅうっと回る。 「・・・信じらんねぇな」 「うん」 「・・・この俺が、親になる?」 「うん」 「・・・ここに・・・いる?」 「・・・うん」 そっと触れられた場所に確かな命がある。 「・・・ありがとな」 「・・・・・・うん」 目の前の司の顔が今まで見たこともないくらい優しい顔でくしゃっと皺をつくる。 そして大好きな手がつくしの目尻を何度も何度も拭っていく。 「泣くなよ」 「グズッ・・・ないでな゛い・・・」 「ぶはっ! 嘘つくんじゃねーよ。鼻水もすげぇことになってんぞ」 「う゛ぅっ・・・だっでぇ~~・・・」 きったねーななんて言いながらも手のひらや目が飛び出るほどの高級な服でそれを拭ってくれる姿を見たら、もう涙腺は完全に崩壊して涙は止まらない。 おんおん声をあげて子どものように泣きじゃくるつくしを、司は優しく強く抱きしめる。 今の気持ちを言葉に表すことなんてできない。 嬉しいとか、感動したとか、そんな言葉が陳腐に思えてしまうほどに、全てを超えた感情がつくしの体中を包み込んでいた。 「つかさ・・・づがざぁ~~~っ」 「わーった、わーったよ、鼻タレ女」 骨が軋むほどにしがみつくつくしを、司は笑いながらも愛おしげに抱きしめ続けた。 それからしらばくして病院のエントランスに戻ると、掃除用の雑巾を片手にウロウロウロウロ落ち着かない様子でリムジンの周りを動き回っている斎藤が目に入った。 ようやくつくしたちが戻って来たことに気付くと、慌てて平常心を取り戻そうとする。 ・・・だが、2人の固く握られた手を見て、そして涙の残る顔を真っ赤にして満面の笑顔を見せたつくしを見た瞬間・・・斎藤の目からは大粒の涙が零れ落ちた。 やっと涙が止まったと思ったのに、再び斎藤と共に大号泣を始めたつくしを見て司が天を仰いだのは・・・後になって笑い話となった。
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キリ番についての大事なお知らせ
2015 / 04 / 17 ( Fri )
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幸せの果実 16
2015 / 04 / 17 ( Fri ) ドクンドクンドクンドクン・・・
震える。 手が、体が、心が。 手を置いた場所がじんわりと温もりを帯びてくる。 まさか、ここに・・・・・・ 「 赤ちゃん・・・? 」 その言葉を口にした途端、えも言われぬような感動が全身を駆け巡る。 考えてみればいつそうなったっておかしくはなかったというのに、いざその可能性を目の当たりにしたらこんなに動揺している自分がいる。 「待って、落ち着いて。まだそうと決まったわけじゃないんだから」 一体誰に話しかけているというのか。 言葉とは裏腹に全く落ち着いてなどいられない。 最後に生理が来たのはいつだった? 結婚式の準備やら職場復帰やらですっかり頭から抜けていた。 よくよく考えてみたら・・・・・・先月から来ていない。 ドクンドクンドクンドクン・・・! 「どうしよう・・・どうしたらいい? 司にすぐに言うべき? それとも・・・」 あぁどうしよう。 早まる鼓動に何一つ冷静に考えられない。 「 あっ! 」 「 ・・・え? 」 オロオロ考えているうちにいつの間にか人が入って来ていたらしい。 ハッとして振り返ると、そこにはよく見覚えのある女性が立っていた。 「あ、あなたは・・・」 「・・・っ、先程はうちの遠野が本当に申し訳ございませんでしたっ!!」 互いを見合って驚いたのも束の間、目の前の女性はすぐさま頭を下げて謝罪を始めた。 その早技っぷりにつくしも思わず言葉を失う。 「あ、あのっ! 小林さん・・・ですよね? 顔を上げてください!」 「は、はい・・・」 控えめに顔を上げた小林の顔色は決して良くない。余程上司の無礼を気に病んでいるのだろう。 なんだか気の毒になってしまうほどだ。 「確かにあの方に迷惑しているのは事実ですけど・・・小林さんがそんなに心を痛める必要はありませんから」 「ですが・・・」 今にも泣きそうになっている彼女は本当に責任感の強い人なのだろう。 こんなに一生懸命部下がフォローしているというのに、一体あの男は何を考えているのか。 考えれば考えるほどますます腹が立ってくる。 「・・・・・・・・・本当は悪い人ではないんです」 「えっ?」 そんな心の中が読めたのだろうか。見れば真剣ながらもどこか悲しげな顔をしている。 「社長は・・・私の大学時代の先輩なんです。人思いのとても優しい方でした。頭もずば抜けて良くて、センスもあって。いつか自分の会社を持つんだという夢に向かって努力を続ける、本当に憧れの先輩だったんです。卒業後もこの世に怖いものは何もないって思えるくらい、全てが順調でした」 そこまで言い募って何故だかグッと言葉に詰まる。 「・・・・・・でも、もうすぐ会社を立ち上げるというところになって・・・婚約者に裏切られたんです」 「えっ・・・?」 「学生時代からお付き合いしていた本当にお似合いの女性でした。誰もがあの2人は結婚するんだって信じて疑わないほど。・・・でも、その女性は社長の友人だった方と・・・」 それ以上続かない言葉が何であるか、想像するに難くない。 「それからです。社長が変わってしまったのは。全てを忘れるように仕事に打ち込んで成果を上げていく一方で、異性関係は激しくなっていって・・・・・・気が付けば、既婚者やお付き合いの相手が既にいる方ばかりを狙うようになってしまったんです」 「それって・・・」 心から申し訳なさそうに小林は頷いた。 「はい・・・ご想像の通りです。裏切られたショックからか、あるいはその仕返しのつもりなのか。社長の中で人は裏切る生き物なんだということが根付いてしまって・・・。幸せな人を誘惑しては結局目論見通りに事が運ぶ。その度に社長の人への不信感は増していくばかりで・・・全てが悪循環に陥ってしまってるんです」 「そんな・・・」 だから次のターゲットは私たちだと? ・・・そんな馬鹿げた話! 「道明寺様にはこんなことに巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っています。どんなにお詫びしても許されることではないご無礼だということも重々承知しています。・・・ですが、社長があなたに抱いた好意というのは決して嘘ではないんです」 「・・・どういうことですか?」 「テレビや新聞であなた方のことが取り上げられる度、社長はいつもどこか羨ましそうな顔で見ていました。あなたのその真っ直ぐな笑顔や逆境を乗り越えたお2人の絆が・・・堪らなく羨ましかったのだと思います。本人は自覚していないでしょうが、いつの間にかあなたを見る目が変わっていったんです」 「そんな・・・」 バカな。 一度だって会ったことはないというのに。 だが小林は苦笑いしながら首を振る。 「バカバカしいと仰るのも当然です。ですが社長が淡い恋心を抱いたのは真実です。・・・私は人を好きになった時、社長がどんな顔をするのかを昔よく見ていましたから」 「・・・小林さん・・・?」 フワリと儚げに笑うと、小林は再び頭を下げた。 「いかなる理由があっても社長の行動は正当化されません。私が必ず社長を説得してみせますから。ご迷惑をおかけして本当に申し訳なく思っています。・・・ですが、遠野の仕事に対する能力だけは疑わないでやってください。責任を持ってやり遂げさせていただきますから、どうかこのままお仕事を続けさせて下さいっ!」 「・・・・・・」 何と答えればいいのか。 鈍感なつくしをもってしても、彼女の心の内が手に取るようにわかってしまった。 彼女がここまで身を粉にしてまで頭を下げ続けるのは・・・ 「つくし様、大丈夫ですか? 何か問題でも?」 その時、入り口から聞こえた声に2人してハッと振り返る。 見ればなかなか戻って来ないつくしを心配してSPが顔を覗かせていた。 「あっ、ごめんなさい! 知り合いの方とちょっとお話をしていて・・・すぐに行きます!」 その答えと中の様子を確認すると、SPは頷いて再び外へと出て行く。 「私ったら・・・長々と申し訳ありませんでした! 今後道明寺様にご迷惑をおかけしないようにしますので、今後とも何卒宜しくお願い致します。 ・・・それでは失礼致します!」 「あっ、小林さん・・・!」 ペコペコと慌てて頭を下げると、小林は恐縮しながらレストルームを出て行ってしまった。 結果的に用も足すこともできずに彼女はつくしに謝っただけだ。 「彼女は遠野社長のことを・・・」 彼女が今どういう気持ちで頑張っているのかを考えたら・・・それ以上の言葉は続けられなかった。 つくしは彼女が出ていった方を胸がギュッと締め付けられる思いでしばらく見続けていた。 *** 「・・・どうした? 気分でも悪いのか?」 「えっ・・・? ・・・・・・わぁっ!!」 フッと影が差したかと思えば目の前に顔のドアップがあって思わず仰け反りそうになる。 バスローブ姿でタオルを首に掛けた男はいつの間にかお風呂から上がっていたらしい。 ギシッと音をたてて既にベッドに入っていたつくしの横に腰掛ける。 「お前さっきからどっか変だぞ。具合でも悪ぃのか?」 「え・・・あ、ううん。 大丈夫。 ちょっとボーッとしてただけ」 どこか空元気に見えるつくしを司はじっと見つめる。 「・・・まさかあいつのこと考えてんのか?」 「・・・え?」 あいつって・・・? まさか司もあの秘書のことを何か気付いたのだろうか・・・? 「あんなクソ野郎のことなんか一切考えんじゃねぇよ」 「へ?」 「・・・なんだよ、違うのかよ?」 クソ野郎・・・? そう言われてようやく思い出す。 にっくきあの全ての諸悪の根源を。 彼女のことを考えるあまりすっかりその存在が消え去っていた。 「ふふっ、司に言われるまで忘れてた」 予想外の返事だったのか司は一瞬目を丸くした後どこか嬉しそうにフッと微笑むと、つくしの肩を自分の方へと引き寄せた。すぐに反対の手がつくしの顎を捉え上を向かせる。 「ん・・・」 次の瞬間には柔らかい感触が唇を包み込んでいた。チュッチュと音をたてて啄むようなキスを何度か繰り返すと、やがてヌルリとした感触が口内へと侵入してくる。 もうこれだけでもいつだって何も考えられなくなるほどに頭が痺れてしまう。 やっぱりこの男のキスは麻薬と同じだ。 「んっ・・・!」 肩を抱きしめていた腕の力がグッと強くなると、いつの間にかパジャマの裾から大きな手が侵入してつくしの素肌を這っていた。控えめな膨らみに到達したところでつくしが慌てて我に返る。 そう、今は人のことを考えている場合ではない。 「まっ、待って!」 「・・・なんだよ?」 突然グイッと体を押されて司が不服そうに眉を潜める。 どうしようとか1人で悩むだなんてやっぱりダメだ。 ・・・ちゃんと2人で考えなければ。 「あの・・・あのね? 大事な話が、あるの・・・」 「大事な話? ・・・なんだよ」 「えと、その・・・」 俯き加減でもごもごと口ごもるつくしの様子が司には全く理解できない。 「やっぱりあのクソ野郎のことか?」 「ちっ、違うよ! 全然違うっ! 存在すら忘れてたって言ったじゃん!」 「じゃあ何だよ。言いにくいことなんだろ?」 決して怒ってはいないがさっきまでの甘い空気は鳴りを潜めてしまっている。 つくしはゴクッと喉を鳴らして何度も何度も深呼吸をすると、司の手を両手で掴んで自分の下腹部へとゆっくり導いた。 「・・・つくし?」 全く予想外の行動に司がわけもわからず首を傾げる。 破れてしまいそうなほど激しく鼓動を刻む心臓が手を伝って彼にも聞こえているだろうか。 最後にもう一度深呼吸をすると、真っ直ぐに自分だけを見つめる男の瞳を正面から捉えた。 「 赤ちゃんが・・・できたかもしれない 」
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幸せの果実 15
2015 / 04 / 16 ( Thu ) 「あふ・・・」
綺麗なドレスで正装しているというのに、その格好からは対極にあるどデカイ欠伸が一発。 「ククッ、すげぇ欠伸だな。人一人ぐらい吸い込めんじゃねぇのか?」 堪えきれずに肩を揺らす自分の夫をジロリと横目で睨み付ける。 「誰のせいだと思ってんのよ」 「さぁな」 「あんたのせいでしょおっ?! 夕方からパーティがあるってわかってるのに、あんな・・・!」 「あんな・・・? 続きは何だよ?」 ニヤニヤと顔を緩ませる男が本当に憎たらしい! 「もうっ、ほんとに意地悪なんだからっ!!」 「てっ! 何だよ、俺はいつだって優しいだろ?」 「あっ?!」 ポカポカ叩いてくる手を掴むと、あっという間にその体を自分の腕の中に引き寄せる。 ボフッと収まった腕の中はあつらえたようにピタリと寄り添い、瞬く間に抵抗する気力が奪われていってしまう。 「俺はいつだってお前だけに優しいだろ・・・?」 「つか・・・んっ・・・!」 捉えられた手はそのままに、覆い被さってきた唇がつくしのそれに重なる。 へなへなと力が抜けていくのを体で感じると、司は満足げに口角を上げて腕の中に収まる妻に優しく唇を落とし続けていった。 「着くまで寝てろよ」 「・・・ん」 眠気とキスの余韻でとろんと微睡むつくしの髪を撫でると、つくしも完全に身を預けるようにして静かに目を閉じた。 *** 「これはこれは! わざわざお越しくださいましてありがとうございます!」 「こちらこそお招きいただきましてありがとうございます」 満面の笑みで出迎えを受けながら司に続いて頭を下げると、中年にしてはとても容姿の整ったダンディーな男性がつくしを見た。 「直接奥様にお目にかかるのは披露宴以来ですかな?」 「あっ・・・はい! その節は大変お世話になりました」 「いえいえいいんですよ。こうしてゆっくりお話したいと思ってましたからね。光栄です」 「そんな、こちらこそ光栄です。 ありがとうございます。 この度は娘さんのご婚約、おめでとうございます」 「いやはや、ありがとうございます。幸せいっぱいのつくしさんにそう言っていただけると娘も喜ぶと思いますよ」 そう言って笑う男性の目はとても優しい。 この増田という男性は、司が6年ぶりに帰国した際の事業でお世話になった社長らしい。ビジネス上の仮面を徹底して外さない司が、素顔を垣間見せることのできる数少ない貴重な人物だ。 娘さんの婚約披露パーティにこうして夫婦で参列するのもその表れと言える。 「娘が機会があればつくしさんと是非話がしてみたいと懇願しておりました。お時間があれば娘の我儘を聞いてやってください」 「はい! こちらこそ喜んで!」 聞けば娘さんは一般人の男性と結婚するとか。 男女逆転現象とはいえ、いわゆる身分の違いを乗り越えてのゴールインに、つくしと話してみたいことがきっと山ほどあるのだろう。 「何もありませんが今日はゆっくりされていってくださいね」 「はい。ありがとうございます」 そう言って目尻に皺を寄せてニコッと微笑むと、男性は次の招待客の元へと立ち去っていった。 「・・・素敵な男性だね」 後ろ姿を見送りながらぽつりと呟いた一言にすぐさま司が反応する。 「よそ見してんじゃねぇぞ」 「・・・はぁ?! 誰が、誰に?」 「お前の口から素敵だなんて言う相手は俺一人でいいんだよ」 不満そうに真顔でそんなことを言ってのける男につくしは唖然とする。 「・・・ぷっ! あんたってなんでそんなに嫉妬深いのよ?! ただ人間的に素敵だなって言っただけじゃん。性的な意味なんて皆無なのに・・・あははっ」 「なんだろうがお前が褒めるのは俺だけでいいんだよ」 「あははっ、もうほんとにおかしーんだから」 「うるせー」 面白くなさそうにプイッと顔を背けるその姿がまるで子どものようで。 仕事ではあんなに見る者全てを黙らせるだけのカリスマ性をもった男だというのに、本人が望めばどんな女だって好きにできる男だというのに、たった一人の言葉でこうも一喜一憂してしまうだなんて・・・・・・それが堪らなく愛しい。 つくしは腕を組んだ反対の手で司の袖をキュッと掴むと、背伸びして耳打ちするように言った。 「そんな心配しなくたってあたしには司しか見えてないよ?」 まさかつくしがこんな場所でそんなことを言うとは夢にも思っていなかったのか、司は目を丸くすると、次第にその頬が赤く染まっていく。 「・・・え。 何その反応。 もしかして照れてるの?」 「っうるせっ! お前こそこんなとこで煽るようなこと言いやがって! 覚悟はできてんのかっ?!」 「えっ?! ちょっ・・・待って待って! 人がいるからっ!」 照れ隠しか本能か、つくしの肩をグイグイ引き寄せると、まるでキスをする勢いで顔を近づけてくる。さっきあれだけしておきながらまだもの足らないとでも言うのか?! っていうか人前でなんて無理だからっ!! 「 相変わらず仲が宜しいんですね 」 「えっ?」 夫婦漫才のようなジタバタがその声にピタッと止まる。 顔を見る前に肩に置かれた司の手にグッと力が込められたのがわかった。 「・・・遠野社長・・・」 「こんばんは。 道明寺さん、つくしさん」 ニッコリと爽やかな笑顔を見せるのは、つくしにとってはあの日以来となる遠野康介だ。 その爽やかすぎるほどの笑顔が胡散臭く見えて仕方がない。 「てめぇ、なんでここにいる?」 「何故って・・・招待を受けたからに決まってるじゃないですか。増田社長とは以前ご一緒させていただいたことがあるのでね」 「・・・チッ」 この男がここに来るなどと全くの計算外だったのだろう。 あれだけつくしとの接点をなくしてきたというのに、まさかこういう形で再会するとは。 司は忌々しげな表情を隠しもせず、つくしの肩を抱いてさっさとその場を立ち去ろうとした。 「つくしさん、お元気でしたか? 担当が急に変わってとても残念だったんですよ」 「・・・・・・」 完全無視を決め込んで立ち去る2人にもお構いなしに遠野は並んで歩き出す。 この行動に、触れられた場所から司の怒りがひしひしと伝わってきてつくしは気が気じゃない。 ここはおめでたい場所なのだ。 一触即発でも起きればとんでもないことになってしまう。 さすがの司もそこはわかっているのだろう。だからこそ体中で怒りを押し留めているのだ。 「今度よろしかったらお食事でもどうですか?」 だが歩けども歩けどもついてきたかと思えば、仕舞いにはいけしゃあしゃあとそんなことを言い出した男にとうとう司の足が止まってしまった。 これはマズイ!! 「あ、あのっ! 前にも言いましたけど、あなたと私がどうこうなるということは未来永劫ありませんから。はっきり言います、こういうことも迷惑以外の何物でもありません。ですからお断りさせていただきます」 司がブチ切れる前にマシンガンのようにつくしが言い募ると、それで思いとどまったのか司の力が抜けていく。 だがそんな願いも虚しく尚も男は引き下がらない。 「そうですか。じゃあ私も諦めずにあなたにお会いする度にお誘いしますね」 「は、はぁっ?!」 あんぐりと開いた口が塞がらない。 いくら行儀が悪いと咎められようとコントロール不能なレベルだ。 「てめぇ・・・マジで何が目的だ?」 地の底を這うような声で司が凄んでもまったく怯むことはない。 「目的? 何がです? 私ははじめからつくしさんが好きだとはっきり言ってるじゃないですか。それ以上でもそれ以下でもないですよ。それともなんです? あなたに対する嫌がらせのためだとでも言いたいんですか? だとしたら残念ですね、そんなことはサラサラ眼中にありませんよ」 ハハハッと笑うこの男はやはりただ者じゃない。 司を相手にここまで挑発的な態度が取れるなどと普通では考えられないのだから。 「・・・の野郎っ・・・!」 「司っ、ダメっ! 待って!」 グッと足を一歩踏み出した司の体を慌ててつくしが押し留める。 ここで喧嘩になるなんてことがあっちゃ絶対にダメ! 「 社長っ!! また何をされてるんですかっ!! 」 と、どこかで聞き覚えのあるフレーズがつくし達に降り注いできた。 見れば人垣の向こうから凄い勢いでこちらへ走ってくる女性が一人。 何から何までデジャブ感満載のこの女性は・・・ その姿を視界に捉えた遠野があちゃーと天を仰ぐ。 「はぁはぁはぁっ・・・ちょっと目を離した隙に一体何をされてるんですかっ!」 凄まじい速さで辿り着くと、息も絶え絶えながら目の前の上司に食ってかかる。 「いや、ちょっとね、挨拶をと思って・・・」 「嘘ばっかり! お二方の表情を見れば何をされたかくらいわかります! 道明寺様、重ね重ね遠野がご無礼を、本当に申し訳ございません! 奥様も申し訳ございませんっ・・・!」 「いえっ、あのっ・・・!」 ガバリと顔が膝につくほど下げたこの女性、確かこの男の秘書の小林と言ったか。 傲慢な社長とは真逆の腰の低い女性だ。 相当真面目な性格なのだろうことは、ただ一人スーツを着込んでこの場に参列しているあたりからも推察できる。縁なし眼鏡がさらにそれに拍車をかけている。 「てめぇの上司に縄つけてでも管理しておけよ。これ以上調子に乗るようなら本気で契約解除するからな。うちとしては解除したところで痛くも痒くもねぇんだよ。こっちは仕事と思って我慢してやってんだ。それを忘れるんじゃねぇぞ」 「はいっ、仰るとおりです! 誠に申し訳ございませんでした! どうか、どうか仕事できちんとお返ししていきますのでお許しくださいませ・・・!」 そのあまりの低頭平身っぷりにさすがの司もそれ以上は言えなかったのか、フンと鼻を鳴らすとつくしの肩を抱いてその場から立ち去ってしまった。小林は司達が見えなくなっても尚頭を下げたままだ。 「あ~あ、やっと彼女に会えたと思ったのに」 だが上から降ってきた言葉にガバッと顔を上げると、その顔は般若のように歪んでいた。 「何を言ってるんですかっ! あれだけご迷惑をおかけしてはいけませんと言ったじゃないですか! 全ての努力を泡にしたいんですかっ!!」 会場に響き渡りそうで響き渡らないギリギリの声で叱りつけるあたり、こういうことが珍しいことでないのだろうことは容易に想像がつく。 「理彩ちゃんそんなに怒らないでよ。 ね?」 「ね? じゃありません! それに理彩ちゃんもおやめください!」 「え~、だって理彩ちゃんでしょ?」 「こ・ば・や・し です! さぁ、ちゃんと挨拶回りをしてお仕事なさってください!」 「えぇ~~・・・」 渋る上司のスーツを掴むと、まるで子どもを引き摺るかのようにズルズルと大男を引いて再び人垣の中へと消えて行った。 *** 「・・・はぁ、なんか疲れたな・・・」 鏡を見ながら思わず溜め息が出た。 寝不足のせいか、心なしか顔色も悪いような。 SPを入り口で待たせているレストルームでつくしは鏡の中の自分と向き合う。 あれからパーティの間、いつまたあの男と顔を合わせるかとヒヤヒヤしていたが、幸いその偶然はなかった。それでも司の機嫌は損ねたまま。まだ同じ空間にいると思うだけで沸々とした怒りを腹に据えている、そんな状態だった。 それを表にはおくびにも出さずにコントロールできているのが昔とは別人のようではあるのだが。 「なんか全然食欲もなかったな・・・あんなにおいしそうな料理ばっかりだったのに」 それもこれもあの男のせいだと思うと一発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まなくなってくる。 これでは司に偉そうなことは言えない。 とはいえあの男、一体どうすればいいというのか。 倒されても倒されても蘇る不死身の起き上がりこぼしのようで不気味でしょうがない。 「うぅ・・・気持ち悪い・・・」 寝不足のせいかストレスのせいか、なんだか気分が優れない。 実はこのところ司のことは抜きにしても思うように眠れない日々が続いていた。 昔、司とのことで色々と思い悩んでいた時期でもこんな感じの不調はなかったというのに、一体どうしたというのだろうか。 「風邪でもひきかけてるのかな・・・」 そこまで考えてふと思い当たる。 とても、とてもとても重要なあることに。 「 ・・・・・・え。 ・・・あれ・・・? 」 どうして真っ先にその可能性を考えなかったのだろう。 今の自分ならば何よりもその可能性があったというのに。 つくしは小刻みに震えだした手をやっとのこと動かしてそっと触れた。 ____ 下腹部に。 「 ・・・・・・もしかして・・・? 」 ドクンドクンと伝わるのは心臓からか、それとも触れた手のひらからか。 つくしは驚愕に満ちた鏡の中の自分と向き合ったまましばらく動くことすらできなかった。
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幸せの果実 14
2015 / 04 / 15 ( Wed ) 「ほ、本気ですか・・・?」
「えっ?! もの凄ーく本気ですけど・・・何か変ですかね?」 「い、いえ、変というわけでは・・・」 きょとんとするつくしを前に、2、3人の女達がどこか戸惑いがちに顔を見合わせる。 「あー・・・やっぱりやめておいた方がいいですかね?」 「いえっ、決してそういうことじゃないんですっ!!」 どうにも微妙な空気を感じたつくしが苦笑いをつくると、今度は慌てて引き止めにかかる。 一体どうすればいいというのか。 「私たちとしては嬉しいんです! ・・・ただ、社長の奥様たるつくしさんをそんな場所に連れて行っていいのかとそれだけが気になってしまって・・・」 「あ~~~っ、言いましたね?」 「えっ?」 目の前の社長夫人はすこぶる不満そうな顔で自分を睨んでいる。 いつだって底抜けに明るいところしか見たことがないのに、それを目の当たりにした佐藤の表情まで一気に不安に陥っていく。 だがその不安をよそに言われたことは予想外の一言だった。 「仕事の時は社長夫人だとか抜きでお願いしますって言いましたよね? 仕事は仕事でちゃんとやりたいんです。我が儘なお願いだとはわかってます。それでもここだけは譲れないんです」 「は、はい・・・」 あまりにも真剣に力説するつくしに思わず佐藤がゴクッと喉を鳴らしながら頷く。 と、すぐにつくしの顔がぱぁっといつもの笑顔に変わった。 「それに、仮に社長夫人の立場を優先するのだとしても、社員と同じ目線で物事を見渡すって大事なことだと思いませんか? あいつ・・・じゃなかった、社長の性格だとそこはちょっと難しいところではあるんですよね。だからこそ私の存在が活きてくるんですよ」 「・・・?」 「社長と私ではそれぞれ果たすべき役割がきっと違うと思うんです。私は私にできることを精一杯やりたい。ただそれだけなんです」 「・・・つくしさん・・・」 「なーーーんて、難しいことはどうでもよくて、ただ社食で食べたいってのが一番の理由なんですけどね?」 「えっ?」 感銘を受けて胸を熱くしていた佐藤の前でつくしが悪戯っぽく等身大の笑顔を見せた。 「・・・ぷっ、あははは!」 と、とうとう我慢できずに佐藤達が吹き出した。 「だから気にせずに行きましょう? 道明寺ホールディングスの社食がどんな味かを知るのも大事な仕事ですっ!」 「あはははっ、・・・そうですね。 じゃあ是非行きましょう!」 ようやく安心したように笑ってくれた女性陣につくしも心から嬉しそうに笑うと、全員で足並みを揃えて社食へと向かった。 今日は秘書課の面々とのランチタイムの日だ。 ・・・というか予定変更によりそうなってしまった。 司不在のこのタイミングこそ、つくしの中でずっと前から目論んでいた社食デビューを果たすにはもってこいだった。 道明寺ホールディングスの秘書ともなれば当然の如く綺麗どころばかりが揃っている。 とはいえ仕事のできない人間などすぐにお払い箱。 そこはさすがとも言うべきか、外見だけではない才色兼備な人材ばかりが集められている。 そんな面々が社食に現れると決まってそこだけが特別な華やかさに包まれるのだが・・・ 今日はそれとは違う異質な空気を纏っていた。 秘書に続いて入ってきたのはこれまた新人秘書・・・もとい社長夫人だ。 まさかの社長夫人の登場に食堂全体がどよめきに包まれる。 初日にエントランスで目撃した社員も多数いたが、それ以降つくしが直接社員と接する機会はそう多くなかった。つまりは生身の社長夫人を目の当たりにする社員が半数以上はいるのだ。 初めて見るその姿に誰もが手を止めて食い入るように見つめている。 いくら鈍感なつくしと言えど全員から浴びせられる視線にさすがに気付かないはずもなく、入ってすぐに笑って会釈をすると、また何事もなかったかのようにカウンターへと並んだ。 「あ、あのっ・・・お先にどうぞ!!」 つくしの前にいた男性社員が顔色を変えて慌てて順番を譲ろうと道を空けた。 それに続くようにその前にいる社員数人も同じ行動に出る。 「えっ? いやいやいや、ちゃんと並ばなきゃダメです!」 「し、しかし・・・」 「順番を守るのにでももだってもありません。皆平等です。私はここの一社員なんですから。・・・あ、でもそのお気持ちはとっても嬉しかったですよ。どうもありがとうございます」 「は、はい・・・!」 つくしがニコッと笑って見せると、さっきまで青かった顔色が一瞬にして赤に染まっていく。 そうなったのは目の前の男だけではない。近くでそれを目撃していた男性社員の多くが同じようにほんのり頬を染めてつくしの笑顔に見入っていた。 この場に司がいたらどうなっていたことやら。 食堂の入り口から様子を見守っていたSPがほっとしていいものなのか、何とも微妙な心境でその姿を見守っているだなんてこと、つくしは気付くはずもない。 「おいしそう~! じゃあいただきますっ!」 「「「 いただきます 」」」 結局きちんと順番通りに食事を手にしたつくし達は空いていた窓際の席についた。 手を合わせてお辞儀をすると、大きな口を開けて一口ぱくりと放り込む。 「ん~~~っ、おいしいっ!! 幸せ~~~~っ!!」 と、つくしの顔がみるみる緩んでいき、目をキラキラ輝かせながら悶絶しているではないか。 その彼女の手元にあるのは本日オススメメニューのカツ丼定食だ。 社長夫人が社食でカツ丼・・・それだけでも驚きだが、そのあまりの幸福オーラっぷりにその場にいた全員がまたしても手を止めて見入ってしまっている。 「・・・あ、ごめんなさい。 声が大きかったですか?」 あまりにも視線が集中していることに気付いたつくしが慌てて口を押さえたが、周囲にいた人間はめっそうもございませんとばかりにブルブル首を横に振って否定する。 ほっと安堵すると、またしても大きな一口でパクリとカツ丼を頬張った。 その食べっぷりはCMのオファーが来るんじゃないかと思えるほどの気持ちよさだ。 「つくしさんってほんとにおいしそうに食べますね」 目の前に座っていた秘書仲間の佐藤が感心している。何度もランチを共にしている彼女は秘書の中で最も年齢も近いこともあり、今一番つくしに近い存在かもしれない。 「違いますよ。 おいしそう、なんじゃなくておいしいんです!」 「えっ? ・・・あははっ! ほんとですね」 やられたとばかりに笑うと、佐藤や他の秘書も食事を始めた。 そのあまりにも自然体な姿はつくしが社長夫人であるということを誰もが忘れてしまうほどで、いつの間にか食堂全体もいつもの風景を取り戻していた。 「そういえば今日の打ち合わせって本当はつくしさんの担当じゃなかったんですか?」 秘書の1人が思い出したように言った言葉につくしの手がピクッと止まる。 ・・・そう。 本来ならば今自分はここにいないはずだった。 ____ あの男さえ現れなければ。 西田と担当を変えられてしまった仕事、司の性格に加え自分の過去の反省点からやむを得ないとは言え、つくしの中では未だ納得はできていないのが本音だった。 あの男、一体目的は何なのか?! 好きです、なんて言われて喜ぶような女だとでも思われているのか? 司を前にしてもあれだけ飄々と大胆なことを言ってのける男など、絶対腹の底に何かを抱えているに違いない。 『 先輩、油断はしないに限りますよ 』 この前桜子に言われた言葉を思い出す。 そんなことはよくわかってますよ! と言いたいところだが、それでも毎回何かしら厄介事に巻き込まれているだけに反論の余地もない。 思えば自分を好きだと言ってくれる特異な男性はどうしてこうも強引なのだろうか。 夫は言わずもがな、揃いもそろって強烈なキャラばかりじゃないか。 もしかして類は友を呼ぶで自分がそうだからなんてことは・・・ 「つ、つくしさん・・・?」 考え込むあまりびっしりと眉間に皺が寄っているつくしを佐藤が心配そうに覗き込む。 「・・・あっ、ごめんなさい! ちょっと色々考え事してました」 慌てて皺を引っ込めたが、未だに違和感を感じるほど凄い顔になっていたらしい。 「つくしさんって色んな表情があって楽しいですね」 「・・・え、それって褒め言葉ですか?」 「もちろんです!」 「あはは・・・」 あの顔で褒められて喜んでいいのやらなんとも微妙ではあるけれど、本当に楽しそうにしているからまぁよしとしておこう。 「それにしても既にこうして溶け込んでるのはさすがですね」 「え?」 「最初に入ってきた時はあんなにどよめいてたのに、今ではすっかり皆さん平常心を取り戻してるじゃないですか」 言われて見渡してみれば、どの社員も普通に食事に戻っている。 中にはちらほらこちらを見ている者もいるが、それでも最初に比べればその差は歴然だ。 「あ~・・・だってほら、私ってもともとこっち側の人間じゃないですか」 「こっち側?」 「そう。こうして社員食堂で食事することの方が当たり前の人間だったんです。だから溶け込むと言うよりも本来あるべき場所に戻ったって感じじゃないんですかね? あははっ!」 その時、食堂内が再び異様などよめきに包まれる。 だが大笑いしているつくしは全くそのことに気付かない。 目の前で口をあんぐりと開けて硬直している佐藤にも、一気に静まりかえる周囲にも気付くこともなくペラペラと口は止まらない。 「高級な料理はおかわりできないですけど、600円で食べられるカツ丼なら何杯でもおかわりしちゃいますよ!」 「嘘つけ。何でも食いまくってんだろうが」 「・・・え?」 頭の上から降ってきた声に首を反る形で顔を上げると、この場には不釣り合い過ぎるほどイケメンな男が自分を見下ろしていた。 「えっ?!」 ガバッと振り返ると、すぐ真後ろにいつの間にか司がいた。 いつの間にっ?! 「お前がペラペラ喋ってる間に普通にここにいたんだよ。つーか気付いてないのはお前だけだろ」 「えぇっ?!」 言われて見てみれば、確かに1人と漏れずに全員の視線がここに集中している。 社長夫人の登場に続き今度は社長まで。 あり得ないことの連続に、ただただその場がどよめくことも忘れてフリーズしている状態だ。 「全然気付かなかった・・・」 「お前は食いもんの話になると周りが見えなくなるからな」 「し、失礼な!」 「誰がだよ。 つーか腹減った」 そう言うとドカッとつくしの隣の椅子に座ってギュウギュウに体を密着させてくる。 「ちょ、ちょっと・・・!」 「お前何食ってんだよ」 「え? あぁ、これはカツ丼だよ」 「ふ~ん・・・・・・食わせろよ」 「・・・は?」 一体何を言っているのか? 「は? じゃねぇよ。食わせろっつってんだよ」 そう言って口を開けた司につくしが慌てて首を振る。 「なっ、何言ってんの?! そんなことできるわけないじゃん!」 「あぁ? できねぇわけねーだろが。箸で掴んで口に突っ込むだけだろ」 「そういう問題じゃなくて! 社員が社長に食べさせるなんてそんなバカなことあり得ないから!」 「うるせーな。俺は腹が減ってんだよ。早く食わせろ」 「じゃあ新しいのもらってきてあげるから。それ食べなよ」 立ち上がろうとしたつくしの手を司の大きな手がすぐに捉える。 「いいから。お前のを食わせろっつってんだよ」 「なっ・・・?! 一体何を・・・!」 「上司をサポートするのも部下の務めじゃねぇのかよ」 「うっ・・・!」 この男、一体何を考えてる?! ふざけているようでその目は真剣。 つまりはやるまで引き下がらないのは確定だ。 あぁもう、やっぱり自分の周りの男は強引な奴ばかり! ・・・でもそんな男を選んだのは他でもない自分自身だけに文句も言えない。 ・・・・・・えぇいっ、もうなるようになれっ!! 「わかったわよ! 食べさせればいいんでしょっ? 食べさせればっ!」 「だからそうだって最初から言ってんだろ」 「う゛~~~っ、もう! ほらっ!!」 「んぐっ・・・!」 せめてもの抵抗とばかりに、つくしは通常の3口分ほどのカツ丼を司の口内に突っ込んだ。 さすがの司もその量に言葉に詰まっている。 「・・・っまえ、多すぎだろっ!」 「あら、社長が食べさせろとおっしゃるからその通りにしたまでですが? おほほほ」 「お前なぁっ!」 「ひィっ?! ちょっ、ちょっと!! やめてってば!!」 ガバッと肩を組まれたかと思えば耳に息を吹きかけられてゾワゾワと全身が粟立っていく。 ハッと我に返ればさっきからこの場にいた全員の視線が自分たちに釘付けだ。 それどころか騒ぎを聞きつけた社員が押しかけて中も外もそれは凄まじい人集りになっていた。 「つか・・・社長っ!! 冗談はやめてくださいっ!!」 「冗談じゃねーよ。 本気だろ?」 「ひえぇっ! 息っ! やめっ・・・!」 「社長、ここは食堂と言えど職場になります。TPOをお考えください」 と、この騒ぎに似つかわしくない冷静な声が背後から聞こえてきて2人の動きが同時に止まる。 「に、西田さん・・・」 「チッ・・・!」 救世主が現れたとホッとするつくしとは対照的に面白くない顔をする司。 まるで漫才夫婦のようだ。 「社長、さきほどの打ち合わせの詰めがありますのでお部屋へお戻りください」 「・・・んだよ、昼じゃねぇのかよ」 「それはまた後ほどゆっくり差し上げますから。今は先に上へお願い致します」 能面がゆっくりと頭を下げると、司は諦めたように息を吐いて立ち上がった。 「つーことで先に戻ってるわ。ゆっくり食って来いよ。じゃあな」 ぽんっとつくしの頭に手を置くと、司は西田を引き連れて颯爽とその場から立ち去っていった。 その横顔はまるで別人のようで、もう既に社長の顔に戻っている。周囲の社員の浴びるような視線になど目もくれず。 「な、何しに来たのよ一体・・・」 まるで嵐が過ぎ去った後のようにその場が静まりかえる。 だがそれもほんの一瞬だけのこと。 すぐさま地鳴りがするように色めき立つと、もはや会話すら聞こえないほどのフィーバー状態でその場は大騒ぎとなった その日、社員の間で仲睦まじくあーんする社長夫婦の写真が出回ったのは・・・言うまでもない。 あの男のこともあって司が牽制のためにわざわざ食堂に来たんだとつくしが気付いたのは・・・ その写真が出回った後のことだった。 その諸悪の根源とも言える波乱の種が再び近づいていることに・・・つくしはまだ気付いていない。
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愛が聞こえる 25
2015 / 04 / 14 ( Tue ) 「・・・どういう意味だ?」
「どうもこうもそのままの意味だよ」 まるで謎解きのような答えに司の苛立ちが募る。 わざわざ呼び止めてまで言いたかったのはこんなわけのわからないことだけなのか。 そんな司の胸の内が手に取るようにわかるのか、類がフッと目を細めた。 「司は俺に対して色々思うことがあるのかもしれない。裏切り者だと思うのなら別にそれでも構わない。まぁ俺自身は裏切ってるつもりも妨害してるつもりもないけどね。ただ俺にとってベストだと思う選択をしてるだけの話」 「それとさっきの発言とが繋がらねーだろ。 俺達の鍵を握るのは誰なんだよ?」 「言っただろ? 俺があげるのはヒントだって。ここから先は司自身が見つけろよ」 「・・・チッ!」 結局それではヒントにすらなっていない。 司にとってはからかわれたも同然だ。 忌々しげに舌打ちすると、自分とは対照的に涼しげな男を視界から外して再びその場から離れて行く。 「俺は全ての真実を知ってるわけじゃない。きっとお前が知ったことと俺の知ってることはそう大差ないはずだ。だからそもそも俺が司の未来をどうこうすることなんてできないんだよ。 ・・・ただ、その鍵を握る人間が必ずいるってことだけは言える」 その言葉に一瞬だけ司の足が止まる。 類はその背中に向かってさらに言葉を続けた。 「お前がその人間を見つけ出せた時に何かが変わるかもしれない」 「・・・・・・」 「俺が司に言えるのはこれが全てだよ」 チラリと目だけ振り返った男と目が合うと、類はフッと仄かに笑った。 「・・・・・・」 しばし無言で向かい合っていたが、そのまま言葉もなく司が再び歩き出した。 3度目の正直、今度こそ立ち止まらずにその場から立ち去っていく。 その場に1人残された類が条件反射のようにすぐにソファに体を横たえた。 「お前の野生の勘をお手並み拝見ってとこかな」 とうに本人はいない。 だが語りかけるようにそう呟くと、類は静かに目を閉じてやがて眠りの世界へと落ちていった。 「鍵を握る人間・・・?」 邸へと戻るリムジンに揺られながら考える。 類の表情を見ればあの言葉に嘘は感じられなかった。 もともとあいつは小手先で何かを誤魔化すような人間じゃない。 そしてわざわざ誰かのために苦労を買って出るような人間でもない。 何を考えているのか掴み所のない人間ではあるが、そこは自分たちが誰よりもよくわかっている。 あいつは全てを知っているわけではない・・・? だが牧野を守るために動いているのは間違いない。 類にそうさせているのは牧野の存在だけではないということか。 一体誰が? 「・・・・・・弟か・・・?」 それはただの直感にすぎない。 だが何故か確信めいたものがあった。 司自身、未だ進の居場所が掴めていない。単純に類がその存在を隠しているとばかり思っていたが・・・牧野同様あいつ自身がそう望んでいるのだとしたら? それは一体なんのために? ・・・・・・わからない。 真実を知るためにはあまりにもわからないことが多すぎる。 だが・・・まるで俺が見つけ出すのを待っているように感じるのは気のせいか。 恐らく類はあいつの居場所を知っているのだろう。 だがそれを教えられない正当な理由が存在する。 それでも俺にわざわざそれを言及するということは・・・ 『 道明寺さん、僕を見つけ出せますか? 』 頭の中であの弟の声が響いたような気がした。 まるでお前の本気がどれほどのものか試させてもらうとでも言わんばかりに。 「・・・クッ、クックックッ・・・!」 どうしてだか笑いが止まらない。 こんな気持ちになるのは一体いつぶりだというのか。 何一つ問題は解決されていない。暗中模索の状態も変わらない。 ____ だがそれでも。 とてつもなく大きな光明を掴んだ気がした。 「 受けて立ってやるよ・・・! 」 そう口にした司の目は野心に満ちた赤い炎でどこか楽しげにギラギラと燃えていた。 *** 「はぁ~~~~っ・・・」 溜め息と共にテーブルに伏せたおでこからゴツンと思った以上にいい音が響いた。 「どうしよう・・・」 もう何百回目だろうか。 何度も何度も同じ所を行ったり来たりしては出てくる言葉も皆同じ。 ぐるぐるぐるぐるいつまで経っても出口が見えてこない。 「ハルの顔見てたら誤魔化せる自信ない・・・」 その呟きと共にまた溜め息が出る。 あの日、ハルが事故に遭いそうになった日。 彼の口から飛び出した 『 道明寺 』 という言葉が頭から離れない。 そもそも何故ハルは彼のことを知っているのだろうか? 施設で偶然鉢合わせた以外にも接点があったということなのか。 他人に興味を示さないハルが何かの理由なしにわざわざ調べるとも思えない。 道明寺が子ども相手にわざわざ名乗るとも思えない。 となれば、自分の知らないところで何かしら接点があった可能性が高いのだろう。 今日はボランティアの日。 施設に行けばハルが待っている。 きっと、あの嘘を許さない真っ直ぐな目でこの前の答えを聞いてくるに違いない。 そうしたら一体どうすればいい? どうすれば・・・ 「はぁ~~~~~っ・・・」 溜め息で幸せが逃げていくと言うけれど、それが本当ならもうとっくに干からびているに違いない。 初めて見たときから彼は不思議な少年だった。 投げつける乱暴な言動とは裏腹に、どこか寂しげな瞳をした男の子だと思った。 全くと言っていいほど人を寄せ付けなかった彼が、少しずつ歩み寄っていく中で見せてくれた素顔。それは年齢よりもずっとずっと幼い純粋な心だった。 その心がほんの少し垣間見えてはすぐにその扉は閉ざされる。その繰り返し。 そして大人よりも大人びた態度で他人との間に見えない壁を作り出す。 そんな彼にずっと既視感を覚えていた。 ずっとずっと感じていたこと。 ・・・そしてずっとずっと考えないようにしていたこと。 『 俺とあの道明寺って男、似てるのか? 』 ・・・そう。 ハルを初めて見たときから何故か初めて会った気がしなかったのは・・・ 彼が似ていたからだ。 ____ 道明寺司という男に。 年齢も姿形もまるで違う。 それだというのに、あの2人がずっと重なって見えていた。 一匹狼のように虚勢を張っていても、その心は純粋で脆い。 人を攻撃することで自分を守っている。 そんな心の内が疑いようがないほどに似ていたのだ。 ずっとずっとその現実から目を背け続けてきただけ。 「・・・っ・・・ハッ・・・! ・・・・・・っ、・・・・ふぅっ・・・!」 一気に上がりそうになる呼吸をゆっくり何度も何度も深呼吸して落ち着けていく。 本来ならばもっと苦しくなるところが、少しずつコントロールできるようになってきたのを感じる。 子どもであるハルに散々説教されてから、いい加減自分のこの状態と向き合わなければならないと思い直し、職場のパソコンを使って自分の症状について色々と調べてみた。 病院に行くのが怖くて、酷い発作に襲われるのが怖くて、ずっと避けて通ってきた道。 ハルの言う通り、常に咄嗟の対処法としてきたやり方は今では避けるべきだと言われていることを初めて知った。最初の発作が起きたときにはそうするようにと勧められていたことが、実は今となっては危険な行為だったなんて。 あの時ハルが言わなければ気付くこともなかった。 ・・・あのハルが自分のためにわざわざ調べてくれたことを無駄にはできない。 発作の原因は自分が一番よくわかっている。 それでも不思議だった。 ハルに言われて以来、その原因が頭を過ぎっても突発的な発作が襲うことはなかった。 それは自分でコントロールする術を身につけたからなのか、それとも・・・ 彼は・・・道明寺はいつまでも自分を待ち続けているに違いない。 久しぶりに見た彼の目は自分のよく知る目だった。 ___ 彼が本当に戻って来たのだと思った。 たとえ見た目が別人のように痩せてしまっていても、あの瞳だけでわかってしまう。 自分だけを忘れ去っていた彼はもうどこにもいないのだと。 「・・・・・・」 つくしは思わず両手で顔を覆った。 自分のためにも、彼のためにも、いつまでもこのままではいられない。 いかなる形であれ、いつかは向き合わねばならない日がくるだろう。 「・・・・・・よし、行くか」 パンッと両手で頬に一発気合を注入すると、つくしはカバンを手に立ち上がった。 「まずはハルと向き合うことから始めよう」 まだ今の自分にはすぐに向き合うだけの勇気はない。 それでも、今のままでいいわけじゃないことくらいはわかってる。 そう思えるようになっただけでも自分の中の何かが変わってきている。 焦るな、 焦るなつくし。 自分を鼓舞するように心の中で呟くと、つくしは強く一歩を踏み出した。
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愛が聞こえる 24
2015 / 04 / 13 ( Mon ) 『 おかけになった電話番号は、電源が入っていないか電波の届かない・・・ 』
ピッ 黒く消えた画面をしばらく眺めた後、窓の外に目をやって思わず溜め息が出る。 繋がるはずがないとわかっていてもかけてしまうのはこれで何度目になるだろうか。 もう数え切れないほどのその行為は目を閉じていてもできるほどだ。 それでも、アナウンスが流れるということはまだどこかで繋がる可能性があるということ。 「・・・そもそも俺が渡したものだからあいつが解約できるはずもねーんだよな」 独りごちてクッと声が出る。 昔、一方的に渡した携帯。 それをあいつが今でも持っている保証などどこにもない。 解約しない限り定型文のアナウンスが流れ続けるのは当然のことなわけで、本体などとっくにこの世に存在しない可能性だって否定はできない。 「・・・・・・それでもあいつなら持ってる」 人が聞けばとてつもない自惚れだと言うだろう。 他の人間が同じことをやっていたら自分だって鼻で笑うに決まっている。 それでも、彼女ならば捨てきることなど絶対にできないという確信があった。 そしてそれこそが自分と彼女を繋ぐ希望だと思えた。 本当に過去を捨てたいのならば、何の躊躇いもなく捨てればいいだけのことなのだから。 「ぜってぇに取り戻してみせるからな・・・」 口にした言葉は誰に向けて言ったのか。 まるで自分に言い聞かせるように一人呟くと、司は静かに目を閉じた。 *** 「よぉ! 忙しいのに悪かったな」 「あぁ」 店の一番奥にあるだだっ広いスペースに悠然と座る親友が2人。 ・・・と、そのすぐ隣のソファーに横たわる男の姿が視界に入った。 「・・・・・・類」 名前を呼ばれた男は気怠そうにゆっくりと目を開けていく。 「あぁ、司も来てたの」 どこか緊張感が走っているのは明らかなのに、類はあっけらかんとしている。 対照的に固い表情のままの司に、すぐさまあきらが笑ってフォローに入った。 「まぁ司、とにかく座れよ。お前がせっかく帰国したのに4人で集まらないってのも変な話だろ? 色々思うところはあるかもしれねーけど、まずは飲もうぜ。 なっ?」 「・・・・・・」 それぞれ忙しい中でわざわざ呼び出すからには何かあるだろうとは思っていたが・・・ 司はふいっと視線を逸らすと、黙って類の横たわる目の前のソファーに腰を下ろした。 「じゃあ7年ぶりのF4集合に・・・乾杯!」 グラスを挙げる総二郎とあきらに対して司と類は手元で握りしめたまま。 苦笑いする2人を横目に司はそのままバーボンをクイッと一口で煽った。疲れた体にきつめのアルコールが一気に染みこんでいく。それに追随する形で残り3人もそれぞれアルコールを口にする。 「それにしても司、お前かなり体型が戻ってきたな。正直驚いたぜ」 「ほんとだよな。8割方戻ってんじゃねぇのか?」 「さぁな。体重なんて量ったことねぇからな。俺にはわかんねーよ」 「まぁ何にせよ健康的になってるならいいことだよ。最初に見たときはマジでびびったからな」 「誰がどう見ても病んでる感じだったもんな。図体がデカい分尚更目立つっつーか」 笑って話す総二郎を横目で睨むと焦ったように口をつぐむ。 「まぁまぁ、司。良い方向に向かってんだからそう怒んなって。 な?」 「別に怒ってなんかねーよ」 フイッと明らかに不機嫌そうに視線を逸らした司にあきらは苦笑いだ。 「仕事は相変わらず忙しいのか?」 「まぁな。っつーかお前らが俺を呼び出したのはそんな目的じゃねぇだろ? 今はお前らと楽しく酒を飲む気分じゃねぇんだよ。さっさと目的を話せ」 ぶっきらぼうにそう投げつける司に総二郎とあきらが顔を見合わせる。 今の司に遠回しなことをやったところで本人の言う通り逆効果だろう。 「司、お前さ・・・」 「あらっ? もしかして西門さんじゃないですかぁっ?」 あきらが口を開きかけたところで甲高い声がその場に響き渡る。 見れば煌びやかな衣装を身に纏った綺麗な女が目を輝かせながらこちらを覗いていた。 そこにいるのが総二郎だと確認できると、嬉しそうに小走りに奥へと近づいてくる。 ここは最奥でそれなりの人間しか入れないスペースだが、完全個室のVIPルームとは違って仕切りがあるわけではない。そのため自ずと他の客からも見える構造になっていた。 「やっぱり! こんなところでどうしたんですかぁ?」 呼んでもないのに奥のスペースへと勝手に侵入してくると、さっきよりもさらに高い猫撫で声を出しながら上目遣いで総二郎の横に立った。パックリと開いた胸元からは豊満なボディが惜しげもなく見えている。 ・・・いや、見せている。 「あ~・・・っと、百合ちゃん・・・だったっけ?」 「そうですよぉ~! 覚えててくれてうれしいっ!」 どうやら総二郎が前に遊んだ女だということは誰の目にも明らかだったが、空気の読めないこの女の行動にその場が凍り付きそうなほどに冷たい空気に包まれていた。 気付いてないのは当の本人だけ。 総二郎ですらあちゃーと天を仰いでいる始末だ。 「百合ちゃん、あのさ、」 「えっ、もしかしてこちらにいらっしゃるのってあの噂のF4の皆さんですかぁっ?」 だがバカな女は尚も有頂天であり得ない行動に出る。 つい条件反射であきらだけは作り笑いを見せたが、司も類も女を視界に捉えることすらしない。 「あのっ、道明寺さんですよね? 私、ずっと前からF4の皆さんに憧れてたんですぅ! 中でも道明寺さんは・・・」 「おいっ、百合ちゃ・・・」 ガッシャーーーーーーーーーーーーーーンッ!!! パリンパリンッ!! 調子に乗った女が胸元が見えるように前屈みになりながら司の肩に手を伸ばしたその時、店内に激しい破壊音が響き渡った。 その場は一瞬にして静まりかえり、女も司に触れる寸前のところで硬直している。 司の長い足が目の前のテーブルを蹴り上げ、その反動で上にあったグラスが真っ逆さまに落下していった。全身からはまるで青い炎が出ているかのようにゆらゆらと怒りのオーラで満ち溢れている。 「・・・おい、総二郎。てめぇはわざわざ俺を呼びつけてこんなくだらねぇことをさせたかったのか? あ?」 一瞥した瞳は氷のように冷たく、友人とはいえ思わずゴクッと唾を飲み込んでしまうほど。 「あ、あのっ、道明寺さんっ、私っ・・・!」 ガァンッ!! この期に及んで尚も声を掛けてきた女に司の足が再びテーブルを叩きつけた。 だがその視線は一度たりとも女を捉えることはない。 「百合ちゃん! 悪いけど今日は勘弁してくれないかな? 今日はダチだけで大事な話があるんだよ」 「えぇ~~っ、でもぉ・・・」 バカな女はどこまでいってもバカのようだ。 だがこんな女を相手にしていた友人はそれ以上にどうしようもないクズだということだ。 司は無言で立ち上がるとさっさとその場を立ち去ろうと踵を返した。 「司っ、待てよ! 悪かった! さすがに俺もこれは計算外でだな・・・」 「てめぇの処理はてめぇでやれよ。時間の無駄だ」 「わかった! わかったから! 俺たちはここを出るから。だからお前はここに残れ!」 「・・・あ?」 足を止めた司が総二郎を睨み付ける。 「お前ももうわかってると思うけど、今日お前を呼んだのは類と会わせるためだ。帰国した時以来会ってないんだろ? こうでもしないと会う機会もないだろうからちゃんと話をしろよ」 「別に話すことなんてねーだろ」 「そう言うなって。とにかく俺と総二郎はここを出るから。お前と類は残れ。 な?」 「・・・・・・」 ポンと宥めるように司の肩を叩いたあきらの後を総二郎が追う。 「マジで悪かったな。わざとじゃねぇからよ。 じゃあまたな」 出がけに詫びるようにそう言い残すと、尚も名残惜しそうな女を引き摺るように連れ出して行った。入れ替わるようにしてすぐにスタッフが駆けつけると、司によって木っ端微塵にされたグラスの欠片を急いで片付けていく。 上玉中の上玉のVIPだ。これくらいのことで入店を断られるなんて事はあり得ない。むしろどうすれば機嫌を直せてもらえるかと店側の方が必死だ。 瞬く速さで片付けを終えると、飲みかけだったアルコールまで新調した完璧な状態となった。 まるで今しがた起こったことが夢だったかのような空間に2人だけが残された。 類は一連の騒ぎの間も顔色一つ変えずに気怠そうにソファーにもたれ掛かったまま。 司との微妙な空気も何処吹く風だ。 「突っ立ったままなのも何だしとりあえず座れば?」 実に飄々とそう言ってのける類を視界の端に捉えると、司は無言で元の場所へと腰を下ろした。 そして新たに置かれた2杯目のバーボンをさっきと同じように一気に流し込んでいく。 「牧野に会ったんだって?」 司の行動の一部始終を見ながら類の口からサラッと出た言葉に思わず手が止まる。 「・・・なんで知ってる?」 「そんな睨むなよ。見れば一目瞭然だろ? あんなに死にそうにやつれてたお前がそこまで回復してるなんてさ。昔から司は良くも悪くもわかりやすいんだよ」 「・・・・・・」 司が面白くなさそうにグラスをテーブルに置く。 「・・・お前がいくら妨害しようと俺はあいつを取り戻すからな」 睨み付けるように宣戦布告する親友に類が堪らずクスッと声を漏らした。 その態度にますます司の機嫌は悪くなっていくばかりだ。 「心外だなぁ。俺は妨害してるつもなんてないけど」 「変わらねぇだろ」 「前も言ったけど何でもかんでも司に従わなきゃなんないわけ? 親友だから言いなりにならなきゃいけないなんておかしいだろ。俺は俺なりの正義をもって行動してるだけだし、司も自分の正義を貫けばいいだけだ」 「・・・・・・」 類の言葉には全く裏があるようには見えない。 その表情もまた然り。 司はフイッと視線を逸らすと、しばらく何かを考えてやがて立ち上がった。 類は無言でそれを見ている。 「・・・まぁ確かにお前の言う通りかもな。周りがどうだろうが俺には関係ねぇ。俺は自分の力であいつを取り戻すまでだ」 まるで自分に言い聞かせるようにそう告げると、司はそのまま類に背を向けた。 「 司 」 「・・・何だよ」 首だけ振り返った親友の顔は尚も不機嫌そうで、思わず笑ってしまいそうになるのを我慢する。 「偶然か必然か、いずれにせよ自力で牧野を見つけ出したお前に敬意を表して1つだけヒントをあげるよ」 「・・・何?」 顔だけ向けていた体が無意識に振り返る。 見ればさっきまでどこか飄々としていたはずの類の顔は真剣だった。 司の鋭い視線を真っ正面から受けながら類は言葉を続けた。 「 お前と牧野の運命の鍵を握るのは俺じゃないよ 」
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魅惑のsweet candy
2015 / 04 / 12 ( Sun ) |
新婚さんいらっしゃ~い♪ 後編
2015 / 04 / 12 ( Sun ) 「皆さんこんにちは・・・」
「おい、何そんなにテンションダダ下がりになってんだよ。お前がノリノリで始めた企画だろうが。ちゃんとやれよ」 「あっ、あんたがそれを言うのっ?! 誰のせいでこんなにっ!」 「あぁ? 文句を言うなら質問した奴らに言えよ。俺は素直に答えただけだろうが。それにそもそもこんなしょーもねぇ企画を考えた奴は誰だよ」 「そ、それは・・・みやともっ、あんたでしょっ!!」 (ドキーーーッ!!) 「あんたのせいであたしは、あたしは・・・!」 「まーまー、ピーチクパーチク言ってんじゃねぇよ。相変わらず素直じゃねぇ奴だな。あんだけ気持ちよさそうによがってたくせに今さらなんだかんだ言うんじゃねぇよ」 「な゛っ?! ななななななななっ??!!!」 「お、早速始まるみたいだぜ」 「うぅっ~~~っ・・・!」 Q.M様からの質問 『 3日休めたら何をしたいですか? 』 「3日かぁ。司ってなかなか休めないもんね。特別なことはしなくてもいいかな。ゆっくり休んでもらって、・・・あ、温泉くらいなら行きたいかも」 「そんなん決まってんだろ。やってやってやりまく・・・」 「もう充分でしょおおおおおおお!!!!!」 Q.M様からの質問 『 F3はどんな人と結婚すると思いますか? ちなみに私は全く想像できません(笑) 』 「えぇっ?! あたしも全っ然想像つかないよ。・・・あ、でも意外と美作さんは普通に結婚しそうな気がする。令嬢かもしれないし、案外一般人の女性とかもあり得そう。美作さんならどんな立場の女性とでもうまくバランス取ってやっていけそうだもん」 「そうかもな。総二郎は・・・あいつもなんだかんだいざとなればすんなり結婚すんのかもしれねーな。本気で好きになった女と結婚する可能性は低そうな気はするけど」 「え~、なんかそれって悲しい」 「あいつがそう簡単に変わると思うか? 結構ドライに割り切ってる男だからな」 「そんなもん?」 「俺にはわかんねーけどそんなもんだろ。 類の場合は・・・」 「類が結婚なんて想像できないっ!!」 「おわっ、何だよいきなり? 食い付きすぎだろ!」 「あ、ごめん。でもどうやったって想像できいないんだもん。類が選ぶ女の人ってどんな人なんだろう・・・?」 「・・・・・・おい、何を沈んだ顔してやがる。まさかお前、あいつに未練が・・・」 「はぁっ?! そんなわけないじゃん! 何言ってんの?!」 「じゃあなんでそんな顔してんだよ! お前はいっつもいっつも何かってーと類に反応しやがって」 「何言って・・・! あんたこそ・・・! ギャーピーギャーピー!! (以下総カット) 」 Q.M様からの質問 『 記憶喪失になっていたつくしが類と恋人同士→大人の関係になっていたら…さすがに諦めましたか? 』 「ちょ、ちょっと・・・? あくまで質問だからね? キレないでよ?」 「・・・・・・・・・」 「司・・・?」 「俺はお前と別れたつもりはこれっぽっちもなかったからな。俺にとってもお前にとってもそんなことはあり得ねぇ話だろ。・・・まぁ億万が一にもそんなことがあったとしても俺の手に取り戻すだけだろ。相手が類だろうと関係ねぇよ。お前は俺のもんだ。ぜってぇに誰にも渡さねぇ」 「司・・・」 「っつーかこんな質問するクソ野郎は一体どこのどいつだっ! 出てきやがれっっ!!!」 「わーーーーっ! 待って待ってまって~~~っ!!!」 Q.M様からの質問 『 二人の結婚式が神尾先生の漫画で見られるのはいつ頃になると思いますか? 』 「えぇ~っ! それはあたしが一番聞きたいかも・・・」 「俺たちはもう全て済んでるんだし今さら知ったこっちゃねぇな」 「って自分たちのことなんですけど・・・」 Q.M様からの質問 『 今までで相手に一番腹が立ったのはいつ? 』 「うーーーん? 何だかんだ結局のところ出会った頃が一番嫌だったかも。まさかこうして夫婦になるなんて夢にも思わなかったし。アハハ」 「いつっつーよりもこいつの危機感のなさにはいつもイライラさせられてるな」 Q.M様からの質問 『 もっと早くに二人が結ばれていたらその後、どうなっていたと思う? 』 「どうなんだろう? 案外ケンカ別れしてたり? なーんてね」 「子どもが5人くらいいるんじゃねぇか?」 「え゛っ! ペース早すぎでしょ!」 「そうか? 今のような生活してりゃそうなるだろ?」 「う・・・リアル過ぎるからやめてよ・・・」 Q.M様からの質問 『 結婚生活で相手に望むことは何ですか? 』 「なんだろう・・・望むっていうより、いつも自然体でいられたらいいなって思ってる」 「こいつが傍にいるなら特に望むことなんかねぇな」 Q.K様からの質問 『 最後の晩餐、何を食べますか? 』 「えぇ~~っ! 難しすぎるよっ。だってあれも食べたいしこれも食べたいし、お寿司もいいけどおにぎりもいいなぁ。お肉もいいけどお魚も捨てがたい・・・あぁ~~っ、どうせならありとあらゆるものを食べて死にたいっ!!」 「愚問だな。 俺が食いてぇもんなんてこの世に1つしかねぇんだよ」 「えっ?! ぎゃあ~~~~~っ!! (ブッチューーーーーーー!!!)」 Q.K様からの質問 『 つくしちゃんの妊娠中、相当我慢が必要だけど、それでも子だくさんを目指しますか? 』 「うっ・・・なんか嫌な流れの質問だなぁ。あたしは何も考えないで自然に身を任せます」 「目指すかどうかなんて知らねーよ。こいつを求めて結果できたらそれを受け入れるだけだ。それに我慢なんかするつもりはねぇぞ? 何もぶち込むだけが全てじゃねぇからな。お互いが満足する方法なんて山ほどあるだろ?」 「ひっ・・・! 息吹きかけないでよ! っていうかそんなのお断りしますっ!!」 「却下」 Q.P様からの質問 『 お互いの身体で一番好きな場所はどこですか? 』 「うぅうっ、またこんな質問?」 「いちいちエロい方向で受け取ってるお前がおかしんだろ」 「うっ・・・そ、そっか。じゃあ真面目な話ね。あたしはあんたの手が好きだな。なんかその手に包まれてるとすっごく安心できるんだもん」 「お前・・・誘ってんのか?」 「はっ?! 違う違う違う違うっ!!! 断じて違いますっ!!」 「まぁ照れんなよ。俺は1つになんて絞れねぇからな。色気はねぇはずなのにその1つ1つのパーツがエロくて触り心地が最高で、あそこなんかはきつ・・・」 「いい加減にしなさいよおおおおおおっ!!!バシーーーーーンッ!!(殴打音)」 Q.P様からの質問 『 一緒にいるときにおならしたことありますか? 』 「な、ないないないないっ! こう見えてそういうことできないタイプなんですっ」 「どうだかな。意識したことなんかねーな。してんじゃねぇのか?」 「そういえば司のも記憶にないかも・・・っていうかF4のおなら自体イメージできない。したとしても薔薇の香りがするとか?」 「アホか。人間だから普通にするだろうよ。つーかお前が巨大な屁ぇこいたところで気にもしねぇぜ?」 「巨大なって・・・人をスカンクみたいに言わないでよっ!」 Q.P様からの質問 『 一番思い出に残っているデートの場所はどこですか? 』 「デートかぁ・・・。なんだかんだ言ってあたしたちってデートって数えるほどしかしてないよね」 「だな」 「なんだろう、やっぱり高校生の時の庶民デートかな。あれから辛いこともいっぱいあったけど、あそこがあたしたちの原点って感じがするから」 「そうかもしんねーな」 Q.P様からの質問 『 これだけは相手に内緒ということはありますか? 』 「えっ、秘密・・・?」 「隠し事なんかあるわけねーだろ。携帯だろうと体だろうとどこでも調べてもらって構わねぇよ」 「・・・・・・」 「・・・なんだよ。まさかお前あんのか?」 「い、いやっ? 何もないよっ?」 「なんだその不自然な笑いはっ! 隠さずに全部吐きやがれっ!! 言わねぇならただじゃおかねぇぞっ!!」 「きゃーーーっきゃーーーっ!! 何もないって、何もないってばぁっ!!!」 「嘘つくんじゃねぇっ!!!」 「いやあ~~~~~~っ!!! 変なところ触らないでよぉっ!!!(桜子から胸が大きくなる下着をもらって密かにつけたりしてるだなんて言えないっ!!)」 Q.K様からの質問 『 一日だけ、お互いの体が入れ替わります。 さて、何をしますか? 』 「わぁ! こういうのって楽しそう! 誰でも1回はこういうこと考えたことってきっとあるよね。そうだなぁ、まずは司くらいの目線からの景色を楽しみたい! いっつも見上げてばっかりなんだもん。上から見る景色って楽しそう!」 「女自体には興味ねぇからな。こいつだけだし。・・・まぁエロいことはあとからでもじっくりやるとして、まずはこいつに好意をもってる男共のところに行って手当たり次第こっぴどく振っていく。もう二度とそんな気が起きないってくらい再起不能にしてやる」 「ちょっ・・・やめなさいよ! っていうかそんな人どこにもいないからっ!」 「な、こいつがこんなんだから俺が手ぇ回すしかねぇんだよ」 Q.K様からの質問 『 タイムマシンに乗って好きな時にタイムスリップできます。さて、どの時期にしますか? 』 「はいはいはいっ! 司が幼稚園生くらいの頃に行ってみたいっ! きっとまだ可愛げがあったんでしょ? 会ったらいっぱいいい子いい子してあげたい!」 「特にねぇな・・・。まぁ強いて挙げるなら類とキスしたっつー過去を消し去ってやるくらいだな」 「うっ・・・、それ言ったら自分なんか中学生の頃やりまくってたんじゃん!」 「あぁ? 俺が自分からやったんじゃねぇよ!」 「そんなの関係ないじゃん! 嫌ならしなきゃいいだけでしょ?! あたしだって自分からしたわけじゃないもん!」 「ったりめーだろが! つーかあの類が自分からするってことが問題なんだろうが! つーか逃げないって事はお前は嫌がってないってことだろうが!」 「知らないよっ。自分の事棚に上げて人のことグチグチ言わないでよっ!!」 「んだとっ?! てめぇは・・・! ・・・・・・・・! ・・・! ・・・・・・!」 (その後散々揉めた後濃厚なキスで元通りになりました。 これだからバカップルは・・・) Q.K様からの質問 『 自分が息を引き取る際、最後に何と言いますか?または、見送る側は何と答えますか? 』 「また切ない質問だな~。そんなのわかんないよ・・・。でも笑顔でお別れしたいよ」 「言葉なんかで表せるような陳腐な人生じゃねぇだろ。今の時点でそんなことを考えること自体愚問だな」 Q.M様からの質問 『 好きなお互いの表情は? 』 「そんなの・・・」 「決まってんだろ」 「「 笑った顔 」」 「わぁ! 初めてハモったよ?! 嬉しいっ!!」 「まぁ普通に考えりゃそうなるだろ。あとはお前がイった時の顔もかなりいいけどな」 「ぎゃあっ!! せっかく人が幸せに浸ってるのになんでそういうこと言うのよっ!!!」 「仕方ねぇだろ。実際すげぇいい顔すんだから。なんなら今から自分で見てみるか?」 「い゛っ?! いいですいいですいいですいいですっ! もう間に合ってますっ!!!」 最後の質問です。 『 2人の愛は永遠ですか? 』 「それは・・・」 「んなことわざわざ聞く必要があんのか?」 「 もちろんです! 」 「 当たり前だろ 」 そう言い終えたあとフッと視線が絡み合うと、どちらからともなく引き寄せられるように唇が重なった。すぐにつくしの大好きな大きな手がつくしの背中に回されると、あっという間にその体が宙に浮く。つくしは抵抗することはしなかった。 唇を重ねたままつくしの手も自然と司の首の後ろへと回る。 司の口角がフッと上がると、つくしを抱き上げたまま寝室へと足を進めていった。 やがてバタンという音をたてて奥の扉が閉ざされた。 結局口で何と言おうとも、この2人は離れられない運命なのだ。 だからそろそろ素直に認めたらどうですか? ・・・つくしちゃん? ・・・って、今の2人に何を言っても届くはずがないですよね? 末永くお幸せに!
くだらない企画にご協力くださった皆様、誠に有難うございました! 皆様からの質問が楽しくて心から楽しませていただきました。感謝感謝です(*^o^*) 今日はM様からの質問がやたらと多かったですが、念のためこれは私ではございませんよ?(笑)そしていずれも違う方です。みやとも宅にはM様が多数お越しだとあらためて気付きました(笑) 222222のキリ番も是非チャレンジしてくださいね!我が家は訪問者数が毎日ほぼ安定しているので、今のペースだと来週の金曜か土曜が狙い目だと思いますよ(o^^o) そして今日は朝6時にも甘い短編をお届け予定ですのでそちらもどうぞご覧くださいませ♪
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