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愛が聞こえる 31
2015 / 04 / 30 ( Thu )
7年ぶりに触れた手はこんなに小さかっただろうかと思うほどに頼りなく思えた。

それでも、握りしめた手が驚くほどの力で握り返された瞬間、えも言われぬ感情が全身を駆け巡る。それはまるで稲妻が走ったかのように。


___ この手をもう二度と離しはしない。



「牧野っ! 大丈夫かっ!」
「はぁっはぁっ・・・ど・・・じ・・・っ」

苦悶に顔を歪めたつくしの瞳には涙がいっぱいに溜まっていた。
おそらくまともに目の前が見えてはいないだろう。
ここにいるのが司だという認識が本人に一体どれだけあるのか。

だがそんなことは関係ない。
ここに本人がいるいないにかかわらず、つくしが助けを求めたのは自分だったのだから。
今にも消え入りそうな声で彼女は確かに言った。

『 道明寺 』 と。

それはそのまま彼女の心の叫びを表していた。
心の奥底ではつくしも自分を求めているのだと。

ならば何があってもこの手を離さない。
必ず彼女をこの苦しみから救い出してみせる。


「牧野! 落ち着けっ! ゆっくり俺の名前を呼ぶんだ!」

司は握りしめた手とは反対の手で蹲ったままのつくしの体を抱き起こす。
顔は真っ青で、初めて司が目の当たりにしたつくしの姿と何一つ変わってはいない。
見ている方が息が止まるのではないかと思うほど、あまりにも痛々しい。

「牧野! 名前を言うんだ!」
「はぁっはぁっはぁっ・・・ど・・・み・・じ・・・はぁっはぁっ!・・・」

虚ろな瞳で目の前の影を捉えると、つくしは必死で言葉を紡いでいこうとする。

「ど・・みょじ・・・はぁはぁっ・・・!」
「そうだ、もう一回、何度も何度も繰り返して!」
「どう・・・みょうじっ・・・! はぁっ・・・」

必死で己の名前を口にするつくしの姿に、司は心を打たれていた。
不謹慎なのは百も承知だ。
それでも、あれだけ避けてきたであろう自分の名前を必死で紡いでいくその姿に、心が震えない人間などいるのだろうか。もがき苦しみながらも、自分の名を呼んで助けを求める姿に心を動かされない者がいるだろうか。

「 牧野っ・・・! 」

張り裂けんほどに胸が苦しくなると、考えるよりも先に体が動いていた。
小刻みに震える細い体を引き寄せると、自分の腕の中へ閉じ込めて力の限り抱きしめた。

「牧野っ、牧野っ・・・!」

全身でつくしがここにいるのだということを確かめる。

記憶を取り戻してから、・・・・いや、正確には記憶を失っていた頃から求めていた。

____ 牧野つくしだけを。

地獄のような時間を過ごしてきた自分にとって、求め続けてきた唯一の光。
それが今、この手の中にある。

「はぁっ・・・どみょ・・・じっ・・・」

つくしがどこまで理解できているかはわからない。
それでも、彼女が呼び続けているのは他の誰でもないこの自分なのだ。
今はその事実だけで充分だ。

「牧野、ゆっくり、ゆっくり息を吸って俺の名前を呼べ。何度も、何度も」

ぐったりと力の入らないつくしの体をしっかりと抱きしめ、まだ激しく上下する背中をゆっくりゆっくり摩りながら言い聞かせるようにつくしに囁き続ける。
その声に合わせるようにつくしが何度も司の名前を口ずさむと、やがて少しずつ呼吸が落ち着きを取り戻し始めた。

「そうだ、それでいい。ゆっくり、ゆっくりでいいんだ」
「はぁ・・・はぁ・・・」

肩で息をする回数が明らかに少なくなってきた。
それでも司は根気よく、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
何度も何度も背中を摩りながら。
つくしの体温を、存在を確かめながら。


「 ・・・・・・ 」


それから数分後、完全につくしの呼吸は落ち着きを取り戻した。
それと同時にずしりとつくしの重みを感じる。

「・・・牧野?」
「・・・・・・」

返事はない。
そっと顔を覗き込んでみれば、街灯に照らされたつくしの瞳は閉じられていた。

「疲れて眠ったか・・・」

体に感じる重みがこの上なく心地いい。
つくしが自分に全てを委ねているのだと思うだけで、これ以上ない幸福感が襲ってくる。


____ ただただ、愛おしい。


「牧野・・・」

もう一度その存在を確かめるように両手に力を込める。



「司様っ!!」



だがその時後方から聞こえた切羽詰まった声にハッと振り返れば、すぐ目の前に手を振りかざした人影が見えた。

「チッ・・・!」

つくしのことに全神経が注がれていて油断していた。
司がつくしを支えた反対の手を咄嗟に振り上げると、腕に一瞬痛みが走った。

「っの野郎っ・・・!」

カァッと全身に血が巡ると、即座に立ち上がった長い足が男の腹部へと命中した。

「ぐあっ!!」

カシャンカシャーン! という音と共に、ナイフと男の体が数メートル吹っ飛んだ。
男が体を起こす暇も与えずに馬乗りになると、司はその顔面に数発拳を落としていく。
鈍い音と声が響き渡ると、やがて男は完全に抵抗しなくなった。


「司様っ! もうその辺りにしておいてください!」


ようやく追いついた西田が慌てて司の体を引き止める。

「この野郎、ナイフまで持ってやがった。 ぶっ殺す・・・!」

もし自分が駆けつけるのがもう少し遅ければつくしは一体どうなっていたというのか。
そう考えると腹の底から業火が湧き上がってくる。

「気持ちはわかりますがもう気を失ってます! 今は牧野様のことを第一にお考え下さい!」

振り払おうとしていた西田の声に我に返る。
ガバッと振り返れば視線の先でつくしの体が運転手の斎藤によって抱き起こされようとしていた。

「牧野っ!」

腹の下でグッタリした男など気にも留めず全速力で駆け寄ると、まるで壊れ物を扱うようにそっとつくしの体を受け取った。まだ顔色が良くないが、幸い本人は呼吸も落ち着いてスースーと寝息をたてている。
そのことにひとまずはほっと胸を撫で下ろす。

「司様、腕から血が・・・」

ナイフを受け止めた際にできた切り傷により司の左手からは血が流れていた。

「こんなんかすり傷だ。なんでもねぇ。それよりその男を警察送りにしろ。再起不能なほどにやれ」
「・・・かしこまりました。牧野様はいかがなさいますか? 病院を手配いたしましょうか?」

司の腕の中でくったりと力を失ったつくしを見て西田が言う。

「・・・・・・いや、今病院に連れて行くことはこいつにとって得策じゃないだろう。ただでさえこのクソ野郎のせいでショックを受けてんだ。目が覚めて俺がいて、しかも病院にいるとなればパニックになる可能性だってある。とりあえずはこいつの部屋に連れて行く」
「・・・そうですね。司様の仰るとおりかもしれません。では私は警察の手配をしますので、何かありましたらいつでもご連絡下さい」
「あぁ、頼んだぞ」

頭を下げた西田に背を向けると、司はつくしを抱き上げたままアパートの階段を上っていく。
カンカンカンと甲高い音をたてる階段は、決してそこが新しい場所ではないことを教えている。
昔ながらの、女一人が暮らすには心許ない古びたアパートだ。

「司様、せめて鍵だけでもお取り致します!」

追いかけてきた斎藤が両手の塞がった司の代わりを申し出た。

「・・・じゃあ頼む」
「はいっ! ・・・牧野様、大変申し訳ございません。鍵だけ取らせていただきます。失礼致します」

全く聞こえていないだろうつくしに何度も頭を下げると、斎藤はつくしの鞄の中から鍵を取り出した。そしてその手で鍵穴に差し込むと、ガチャッという音と共にドアが開いた。

「では私はここまでで失礼させていただきます。私もこちらに留まっておりますから、何かあればいつでもご連絡くださいませ」
「あぁ。悪いな。サンキュ」

司の口から自然と出たその言葉に斎藤は一瞬目を丸くする。

「い、いえ、そんな滅相もございません! では失礼致します」

2人に深々と頭を下げると、斎藤はすぐに階段を降りていった。その足取りは心なしか軽い。

「・・・・・・」

司はしばらく開いたドアを見つめると、やがてその中へと足を一歩踏み入れた。


遠目にこの場所を何度見ただろうか。
やってることだけを見れば自分のやっていることもストーカー同然かもしれない。

「・・・クッ」

笑ってその考えを振り払うと、初めて目の当たりにする室内に目をやった。

中は入ってすぐのところに小さなキッチンがあり、部屋はせいぜい6畳程度だろうか。
外観通り、中も古びた感じの造りだった。
部屋にはシングルベッドが1つ、それ以外には収納棚と小さなテーブルが1つ、今時こんな小さなものがどこで手に入るのだろうかというほど小さなテレビが1つ置いてあるだけ。
女が住むにはあまりにも閑散とした空間が広がっていた。
つくしがここでいかに慎ましやかな生活を送っていたのかなど、もはや考えるまでもない。

全く飾りっ気のない部屋がいかにもつくしらしいと言えばそれまでだが、何故だか司の胸は締め付けられるように苦しかった。
こんな部屋でただ1人、どんな想いを抱えながら生活してきたというのか。


ギシッと音をたててゆっくりとつくしをベッドへと下ろす。
さっきよりは幾分顔色が戻っただろうか。
スースーと安定した呼吸音が聞こえることにひとまず安堵する。

きっと目が覚めたら目の前にいる自分の姿を見て驚愕することだろう。
おそらくさっきのつくしの行動は頭で考えてやったものではない。
無意識に、もっと言えば本能で体が動いた。
人は時として考えるよりも先に体が反応することがある。
先のつくしはその典型だったと言える。

つくしが心で自分を求めているということを確信した。
だが、それをつくしが自覚しているかというとまた話は別だ。
自分の行動すらほとんど覚えていない中ですぐに受け入れられるかと言えば・・・それは難しいだろう。


それでも。

彼女の本心を知ってしまった以上、もう躊躇う理由などどこにもない。
俺がお前を、お前が俺を求めている。
その事実がある限り、もうこの気持ちを止めることなど天地がひっくり返ろうとも不可能だ。


「 牧野・・・ 」


そっと触れた頬には確かな温もりを感じる。
血の気の戻ってきた顔色はほんのりと桜色に染まっていた。
寒いわけでもないのに、小刻みに手が震えているのは一体どうしたというのか。

7年もの時間をかけてようやくこの手に触れることができた。
この想いを言葉にすることなどできやしない。


「・・・あれは・・・」

ふと、視界に入ってきたものに視線を奪われる。
小さな収納棚の上に置かれた一台の写真立て。

引き寄せられるように立ち上がろうとした体がくんっと後ろに引っ張られた。

「 ? 」

何事かと振り返ると、つくしの小さな手が司のスーツの裾を掴んでいた。
見ればつくしは変わらずぐったりと眠ったままで全く起きる気配はない。
それでも、その手はしっかりと服を掴んだまま離さない。


まるで離れて行かないでと言っているかのように。


そんな無邪気なつくしの寝顔を見ていたら、大声で叫びたいほどの感情が司を埋め尽くす。
その衝動を必死で抑え込むと、その代わりにつくしの手を両手で包み込んだ。
やはりその手は小刻みに震えていた。 情けないほどに。


「 牧野・・・ 」


次から次に溢れてくる想いを伝えるように、司は自分よりも一回り小さなその手に静かに唇を落とした。







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愛が聞こえる 30
2015 / 04 / 29 ( Wed )
思えば彼には違和感を覚えることが多かった。

つくしが富山に引っ越して就職した先に彼はいた。
高卒で入ったばかりのつくしの教育係となったのが6歳年上の彼だった。
見た目はおそらく可もなく不可もなく。一般的な顔立ちの男性と言えるだろう。
その分いつも人の良さそうな笑顔を絶やさない優しい男性という印象だったが、ふとした瞬間どこかズレを感じることが多かった。
例えるならば 「いいお天気ですね」 と言えば 「予定はフリーだよ」 と返ってくる感じだろうか。
会話が噛み合わないというか、とにかく何かがずれている。

だが、鈍感さではつくしだって負けてはいない。
おまけに社会人としての一歩を踏み出したことに必死で、そんなことを気に掛けている余裕など皆無だった。 日々の業務をこなすのに精一杯。
高卒だから使い物にならないと言われないために、とにかくがむしゃらに努力をしてきた。
ようやく周囲にまで目がいくようになったのは、就職して4年ほどが経った頃だった。
少しずつどこか噛み合わないテンポを感じながらも、だからといって直接何か不都合があったわけでもなかったことから、最初は軽く受け流す程度だった。

だが、一度同期の勧めで一緒に出掛けた頃からその違和感に気付くようになる。
てっきり女ばかりの集まりだと思って行った先には数名の男性社員もいた。
端から見ればグループデートのような形態に抵抗を感じつつも、同じ会社の仲間同士、自分だけ抜けるだなんて勝手なことを言うこともできず、やむを得ず行動を共にした。

その時に執拗につくしの隣にいたのがこの男、野口だった。
いくら鈍感なつくしと言えど好意を持たれているだろうことは明らかで、とはいえ直接はっきり言われるわけでもなければ無碍に突き放すこともできない。
しかも仕事ではよく面倒を見てくれた先輩ともあれば尚更のこと。
戸惑いを感じながら、極力相手に期待を持たせないようにとつくしは必死で防御線を張ったのだが・・・やはりこの男はどこかずれていた。

後になってわかったことだが、あの集まりも元々はつくしに好意を寄せている野口をお膳立てするためのものだったらしい。
そこにつくしが現れたものだから野口の中ではつくしも自分を好いているものと勝手に結論づけられ、それからというもの、まるで既に自分がつくしの恋人になったかのような言動ばかりを繰り返すようになっていった。

つくしにはそんなつもりは毛頭なかったし、誰かを好きになるなんて気持ちにも全くなれなかった。
当然誘いを受ける度にはっきり断り続けてきたが、結局のところ直接好きだと言われたこともなければ付き合って欲しいと言われたわけでもない。
それから一年ほどはどうにもこうにも身動きのとれない息苦しい時間が続いた。




「牧野さん?」

ハッと意識が戻ると目の前の男が一歩こちらに足を踏み出したところだった。
頭で考えなくとも自分の足が一歩後ろへ下がる。
それに気付いた野口は歩みを止め、しょうがないなと言わんばかりに笑って見せた。

「どうして逃げるの? 俺はこんなに牧野さんのことが好きなのに」

『 好き 』

直接的な言葉を言われたのはこれが初めてのことだった。
あれだけ遠回しながらも執拗な行動しか取ってこなかった男がこうもあっさり好きという言葉を出すとは、つくしも思わぬ意表を突かれた形だ。

だがいずれにしても彼の気持ちに応えることはできない。

「あの・・・申し訳ありません。私にはそういうつもりは一切ありません」

ようやくこの言葉が言える。
つくしははっきりと逃げずに言い切った。
だが予想外の言葉だったのか、男は明らかに驚いた顔をしている。
以前もあれだけ誘いを断り続け、執拗にモーションをかけられるようになってからは極力接点を持たないようにしていたにもかかわらず、この男には全く通じていなかったということなのだろうか。

「・・・どうして? 黙っていなくなったことなら俺は怒ってないよ?」
「え・・・?」

怒ってない?
何の権利があってそんなことを言われなければならないのか。

「男たるもの女のちょっとした気まぐれには懐の深さを見せないとだからね。過去の事はもう水に流そう」
「いえ、そういうことではなくて・・・」

さっき顔を合わせた時には 「偶然見かけたのは神様がくれたチャンス」 だと言っていたのに、いつの間にか 「彼女の我儘を許してやる寛大な彼氏」 と勝手に設定が変わっている。

駄目だ・・・。 やっぱりどうやってもこの人とはわかり合えない。
噛み合わない。

「ごめんなさい。はっきり言います。私は野口さんのことを男性として意識したことは一度もありません。ですからお付き合いもできません。なのでこういう待ち伏せもこれで最後にして下さい。お願いします」

つくしは一気に最後まで言い切ると頭を下げた。
どうかこれでわかって欲しい。
そしてもう二度と来ないで欲しい。


「・・・っ!!」

しばらくしてゆっくりと頭を上げたつくしの口から思わず悲鳴が漏れそうになる。
いつの間に近づいていたのか、顔を上げたすぐ目の前に野口が立っていた。
その距離わずか数十センチ。
その顔は・・・・・・笑っている。

底知れぬ恐怖を感じたつくしは咄嗟にその場から離れようと足を引いた。

「ひっ!!」

だが体の向きを変える前にガシッと腕を掴まれ心臓が飛び上がる。
見れば今まで見たこともないような顔でつくしへとじりじりと迫ってきているではないか。

「は・・・離してくださいっ!!」
「なんでそんなこと言うの? 俺は許してあげるって言ったよね?」
「ですから意味がわかりませんからっ! 私は野口さんに許してもらわなければならないことをした覚えは何一つありません!」

必死で腕を振り払おうともがくが、びっくりするほどにピクリとも動かない。
見た目は細身なこの体のどこにこんな力が秘められているというのか。

「あんなに仲良くしてたのになんでそんなこと言うの」
「仲良くって・・・私は野口さんと特別親しくした覚えはありません!」
「仕事の時よく一緒にいたでしょ?」
「それは・・・新人の時に指導係をしてもらったからです。必要以外に特別野口さんだけと親睦を深めた覚えはありません!」

ぴくっ

つくしの言葉に野口の顔が引き攣るのがはっきりわかった。
彼のトレードマークとも言える笑顔がスーーーっと引いていく。
それに合わせてその周辺の温度が下がっていくような錯覚すら覚える。
小刻みに震えだした体と共にゴクッと喉が鳴った。

「・・・・・・俺のこと好きなんじゃないの?」

今まで見たこともないような真顔で迫る野口には恐怖しかない。
それでも、今曖昧なことを言っては余計に彼を誤解させるだけだ。

「お世話になった先輩という認識しかありません。異性としての感情は何もありません」
「・・・・・・・」
「痛っ・・・!」

握りしめられた手首に痛みが走る。相当な怒りを買ってしまったのだろう。
この後どんな行動に出るのか全く読めない。
万が一の時には大声を出すこともやむを得ない。
幸いこの辺りには住宅が密集していて、きっと誰かしらが気付いてくれるはず。

つくしはそんなことを必死に考えながらなんとか自分を落ち着かせていく。
仕事ではあんなに頼りになる優秀な人だったのだ。
まさか犯罪を犯して人生を棒に振るだなんてバカなことをするはずがない。
何度も何度も自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返す。


「・・・・・・牧野さんって変わったよね」
「・・・えっ?」

今度はいきなり何を言い出したのか。

「連中と出かけた辺りから俺への態度が変わったよね?」
「・・・・・・」

今更ここでそんなことを言われるとは思ってもなかったが、その点に関しては否定はできない。
彼にあらぬ誤解を与えぬためにも、仕事でも最低限の接触しかしないようにしていたのだから。
でも何故今になってそんなことを掘り返すのか。
本当は当時からこちらの気持ちにはとっくに気付いていたということなのだろうか。
それをわかった上であの行動に出ていた・・・?

「・・・ご両親が亡くなったのもそんな時だったよね?」
「 っ?! 」

まさかここで両親の話が出てくるとは露程も思っていなかったつくしが驚愕する。
その反応が気になったのか、野口は何故かここにきて再び微笑んだ。

「わかってるよ。本当は俺のところに来たかったんだよね? でもあの時ご両親があんなことになって・・・君は混乱したんだろう? あまりに突然の悲劇に」
「・・・・・・っ」
「ほら、少し前に社食で話してたじゃないか。もう少しお金を貯めたら両親に旅行をプレゼントするんだって。親思いの君にとって本当にショックな出来事だったよね。だから現実逃避したくてあの場を離れたのもわかるよ。俺はそんな君の気持ちを理解してるつもりさ」

俯いてしまったつくしに構うことなく男はペラペラと饒舌に喋り続ける。

「まぁ本音で言えば黙っていなくなったことは怒ってるよ? でもあの事故以降、君の精神状態が普通じゃなかったのはわかるからね。だから過去の事は水に流してあげ・・・・・・牧野さん?」
「・・・っ・・・はっ・・・」
「牧野さん? どうかしたの?」

どこかつくしの様子がおかしいことにようやく気付いた時には既に手遅れだ。
つくしは苦しそうに顔を歪めてずるずるとその場にしゃがみ込んでしまった。
あれだけ離れなかった野口の手が面白いほどにするすると外れていく。

「はぁっはぁっ・・・くっ・・・はぁっ・・・!」
「ちょっ・・・おいっ! 一体どうしたんだよ?!」

つくしの変貌ぶりにさすがの野口も動揺を隠せない。
ただ話をしていただけだというのに、一体何をどうすればこんな状況になってしまうのか。
肩で激しく息をするつくしには何を話しかけても届きはしない。

「牧野さん、落ち着いて! まき・・・」

必死でつくしを落ち着かせようと声を掛けていた野口がはたとあることに気付く。

視線の下には尚も苦しげに息を荒げる女の姿。
このままでは彼女がもがき苦しむことになる。
・・・だが今の彼女は無抵抗だ。 こちらの声すらろくに聞こえてはいないだろう。

「・・・・・・」

彼女を落ち着かせることはここじゃなくてもできる。
いや、むしろこんな場所ですべきではない。

そう考え至った野口の口元が愉悦に歪んでいく。
思わず声を出して笑ってしまいそうなのを我慢しながらゆっくりとつくしの肩に手を置いた。

「・・・牧野さん、このままじゃあ君の体が危険だ」
「はぁっはぁっはぁっ」
「とりあえず君の家の中に入ろう。ベッドに横になって休まないと駄目だよ」
「はぁっはぁっはっ、・・・はなしてっ・・・! ・・くっ・・・!」

引き寄せられそうになった体を朦朧とした意識の中必死で振り払う。
パシッと音をたてて野口の手が離れたが、つくしの抵抗も虚しくすぐに再び体に触れた。
全身に鳥肌が立つほど気持ち悪いというのに、体が思うように動かない。
いつものように自分をコントロールしなければと思えば思うほど、焦りが空回りしてますます呼吸が苦しくなっていくばかりだ。

こんなに苦しいのは久しぶりのことで、自分でも危険だとわかる。
このままではいけない・・・!


「混乱してるんだね。なんだったらうちに来ればいいよ。ここからそう遠くないから、そこでゆっくり休んで・・・ぐっ?!」


ガッ、ドサドサッ !!


再びつくしの肩に触れた手が突然掴まれたと思った次の瞬間、野口の体が吹っ飛んだ。

「ぐはっ・・・! な、何だっ・・・?!」

目の前の塀に激しく背中を強打した野口が息も絶え絶え必死に顔を上げると、そこには見たこともない男が立っていた。

「てめぇ・・・何しやがるっ!」


何が起こっているのか全くわからないが、自分がこの男に吹っ飛ばされたのだけは違いないと認識すると、野口は立ち上がって男に向かって拳を振り上げた。

「グフッ!!」

だが拳が届いたのは己ではなく相手の男だった。
リーチの長い男の手が野口の腹部に一発入ると、再びその体が後ろに吹っ飛んだ。
背中の真芯から激突したのか、すぐに呼吸ができずにゲホゲホと蹲ってしまった。




「 牧野っ!! 」




道端に蹲ったままのつくしを必死で呼ぶ声がする。
気を失いそうなくらいに苦しいのに、何故だかその声だけははっきりと耳に届いた。


「 ど・・・みょ・・じ・・・ 」


切れ切れの呼吸をしながらやっとのことで紡いだ一言に、つくし本人は気付いていない。

ただ、頭の中に響いた声が懐かしくて、温かくて。
何故だかわからないけれど、こんな自分を救い出してくれるような気がして。

涙で滲んだ視界は霞んで何も見えはしない。
それでも震える手を必死で伸ばしていく。

前へ、 前へと。



「 牧野っ!! 」



伸ばした震える手を、すぐに燃えるような熱い手が包み込んだ。






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愛が聞こえる 29
2015 / 04 / 28 ( Tue )
「あのジジィ、相変わらず何考えてんのか全く読めねぇな・・・」

ハァッと大きな体を革張りのソファーに沈み込める。
どんなに勢いよく倒れたところでそこはふわりとその体を受け止める。

本格的な交渉を始めてから早4ヶ月。
一向に進展の兆しの見えない現状にイライラが募る。
だがその一方でこのままでも構わないと心のどこかで思っている自分がいることにも気付いていた。話がまとまらなければ再びあの地へ赴く正当な理由ができるのだから。
交渉を有能な部下に任せることだってできるというのに、今回ばかりは決してその権利を譲ることはなかった。あの地に足を踏み入れるのは自分以外には認めないと言わんばかりに。

「お前はあのガキと今回の件が関連してると思うか?」
「・・・それはまだなんとも。ただ絶対にないとは言い切れないのは確実です。あの少年がこの辺りに移り住んだのと計画が白紙に戻された時期はそう離れてはいませんから。ただ決定打となるものは何もないのが現状です」
「・・・」

西田の答えが全てだろう。
現時点でそれ以外に知りようがない。
ただ、あのガキが何かしらの鍵を握っているような気がしてならないのは考えすぎか。

この数ヶ月、つくしと直接対面できたのはあの2回のみ。
あとは間接的に見るか手紙を渡すか、あのガキを通してその存在を確かめるくらいだ。
おそらく開封されてもいないだろう手紙をもう何通託しただろうか。
・・・いや、何十通と言った方が正解か。

プロジェクトにおいても、つくしのことに関しても、あの少年が大きな鍵になるのではないか。
それはここ最近ずっと頭の中を占拠して離れない1つの可能性だった。

昔の自分と全く同じ目をした少年。
まるでそこに分身がいるのではないかと思える程だった。
あのガキが何を思い、何に苛立っているのかが手に取るようにわかる。
そんな少年がつくしと出会い、変わろうとしている。
そしてそのガキが確かに自分とつくしを繋ぐ架け橋になっているのは違いない。

これらのことを全て 「偶然」 という一言で片付けてしまっていいのだろうか。


「はぁ・・・」

度重なる激務に思わず溜め息が出る。
一目でもつくしの姿を捉えることができれば百万馬力なのだが、それも思うようにはいかない。
はじめから簡単にどうこうなるなどと思ってはいなかったが、ある意味期待以上に己の惚れた女は手強かった。

「くっ・・・俺も大概か」

雑草のようにしぶとい女を諦めない自分も相当なタマだということか。
そう考えると笑えて仕方がない。
一人笑う上司を横目で見ている西田の視線など気にも留めず、窓の外を凄まじいスピードで流れていくすっかり見慣れた風景に目をやった。




ピリリリリリッ ピリリリリリッ




とその時、広いリムジンに胸ポケットから電子音が響き渡る。
音を奏でる物体を出してみればそこには 『 非通知 』 の文字が並ぶ。

「 ・・・・・・・・・ 」

通常であれば非通知の電話などまず出ない。
だが司はほんの数秒その画面を見ただけですぐに通話ボタンを押した。


「 ・・・もしもし? 」


電話の向こうからは何も聞こえては来ない。


「 もしもし。 お前だろ、遥人 」
『 ・・・・・・・・・ 』

変わらず受話器の向こうは何の反応も示さない。
だが司は確信を持って言葉を続けていく。

「 何があった。隠さず話せ 」

『 ・・・・・・つくしが・・・ 』
「あいつがどうした」

ようやく聞こえてきた声は今にも消え入りそうなほどに頼りなげだった。
思わず司は体を起こす。


『 つくしが・・・・・・知らない男とどこかに・・・ 』
「 ?! おい、お前何言ってる? 」
『 俺、思うところはあったけど、でもつくしが大丈夫って目をしてたから、だから・・・。 でもあの男、俺を最後に見た目が明らかにおかしくて、それで・・・ 』

司の言葉が聞こえているのかいないのか。
遥人はらしくもなくまとまりのない言葉を忙しなく連ねていく。

「 おいっ、落ち着け! お前がしっかりしなくてどうすんだっ! 」
『 っ・・・! 』

怒鳴りつけるような言葉に遥人の言葉が初めて途切れる。


「 いいか、落ち着いて順を追って話していけ。 わかったな?! 」










***






「やっと会ってもらえた」
「・・・・・・」

最寄り駅近くのコーヒーショップで互いに向かい合う。
男が心底嬉しそうな笑顔を浮かべているのとは対照的に女の表情は冴えない。

「・・・あの、ご用件はなんでしょうか」
「もちろん決まってる。牧野さんに会いたかったんだよ」
「・・・」

即答ぶりにますます困惑すると、さっきよりも余計俯いてしまった。


このところ彼を何度か見かけたことがあった。
最初は他人の空似だと思った。
けれどもそれからふとした瞬間に視線を感じると、その先に必ずと言っていいほど彼がいた。
目が合った瞬間見せる顔が、笑っているのに何故か怖くて、ずっとずっと気付かないふりをしてきた。

それなのに・・・

「そういえば俺転職したんだ」
「そう、なんですか・・・」
「あれ、どんな仕事に就いたか聞かないの?」
「いえ・・・」

ニコニコ笑いながらもグイグイ押してくる男につくしはただ相槌をうつだけで精一杯だ。
つくしがさっきから浮かない顔をしているのは誰の目にも明らかなのに、男はそんなことには構わず1人上機嫌で会話を続けていく。

「俺もこっちに引っ越してきたんだよ」
「えっ・・・?」

まさかの一言にここに来て初めて正面から男を見た。
つくしと目があったのが嬉しいのか、ますます男の目尻が下がっていく。

「1ヶ月前に偶然この街で牧野さんを見かけてね。ずっとずっと会いたいと思ってたから。これは神様がくれたチャンスだと思って仕事もやめてこっちに引っ越して来たんだよ」
「・・・・・・」

つくしにはこの男が何を言っているのか全く理解できない。
いるはずのない街にいたかと思えば引っ越して来た?
しかも自分がいるから・・・?

思わずブルッと体が震える。

つくしの顔色がみるみる悪くなっていくのを目の当たりにしても男は笑ったまま。
その笑顔こそがつくしを震え上がらせていた。
だが男は気にしたそぶりも見せず、それどころかさらに耳を疑うような信じられない言葉を続けた。

「今の住まい、ここから割と近いんだ。よかったらおいでよ」
「えっ・・・?!」

驚愕するつくしに照れくさそうな素振りで笑う。

「はは、っていうか俺の気持ちはもう知ってるよね? だから俺としてはいつも牧野さんと一緒にいたいと思ってるから。 だからうちにおい・・・」


ガタンッ!!


勢いよく立ち上がったせいで思いの外大きな音が店内に響き渡る。
だがそんなことを気にしてなどいられない。
つくしはカバンの中からガサガサと急いで紙幣を取り出すと、目の前のテーブルに置いた。

「あのっ、用事があるのでこれで失礼します。 さようならっ」
「えっ? あっ、ちょっと! 牧野さんっ!!」

呼び止める声も無視して急いでお店を後にする。
一瞬だけ振り返るとつくしを追いかけるためか慌てて立ち上がっているのが見えた。
お金を払っている間に少しでも離れなければ。


早く、早く、早く !!!


今にも足が絡まって転んでしまいそうなのを必死で堪えてひたすら全速力で走る。


何故? 何故彼はここに?
この街に引っ越して来た・・・?
もしかして・・・自分を追いかけて・・・?
今日あのバス停で会ったのは偶然じゃなかったとしたら・・・?


_____ 怖い。


以前と何一つ変わらない笑顔の奥に見える濁った目が、怖い。


「はぁっはぁっはぁっ・・・!」


こんなに全速力で走ったのはいつ以来だろうか。
もしかしたらすぐ後ろを追いかけてきているかもしれない。
かといって振り向いている間に距離が縮まってはもっと困る。

つくしは見えない恐怖に襲われながらも必死で前だけを向いてひたすら走り続けた。









***



「足、痛・・・」

ようやくアパートの近くまで戻って来た頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。

あれから、つくしは万が一のことを考えてひたすら小道に入って遠回りをして帰った。
正規のルートをもし相手に知られてしまっては困ると考えたからだ。
幸い後ろから誰かが追いかけてくることはなく、その点に関してはホッと胸を撫で下ろした。

だが問題は解決していない。
いつも彼の視線を感じたのはフリースクール周辺だった。
ということはボランティアに行くときにはまた偶然を装って会う可能性が高いということ。
そうなった場合一体どうすればいいのだろうか。
ハルが見ている手前、変な行動は起こせない。
ただでさえ鋭い彼にこれ以上余計な心配などかけるわけにはいかないのだから。


「・・・・・・あれ・・・?」


そんなことを一人ぶつぶつ呟きながらアパートの数メートル前で立ち止まる。


誰かが・・・いる。


アパートの階段付近に人影が見える。
誰・・・?

つくしがそう思ったのと、人影が振り返ったのはほぼ同時だった。

「・・・っ!」

街灯に照らされたその顔を見た瞬間、つくしの呼吸が止まる。
対照的にこちらに気付いた人影の口元がゆっくりと弧を描いていく。



「おかえり、牧野さん。 ひどいなぁ、まだ話の途中だったのに置いて帰るなんて」

「野、口さん・・・」



驚きに硬直するつくしはそれ以上の言葉を発することができなかった。





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愛が聞こえる 28
2015 / 04 / 27 ( Mon )
「はぁ・・・」
「どうしたの? 悩み事?」

思わず出た溜め息に同じ部屋で昼食をとっていた同僚が顔を上げた。

「え? いえ、違います違います!」
「そう? なんだか浮かない顔してるわよ?」
「あはは、そうですかね? 昨日ちょっと夜にテレビを見過ぎちゃって・・・」
「あ~、もしかして今話題の芸人が出てた深夜番組?」
「えっ?! ・・・あ、あ~・・・そう、そうです!」
「わかるわかる~! ついつい時間も忘れて見ちゃうよねぇ~!」
「は、はい、あははは・・・」

内容をつっこまれたらどうしようかとヒヤヒヤしながら必死で作り笑いをする。

「あ、じゃあそろそろ時間なので戻りますね」
「了解~」

軽く挨拶をしてそそくさとスタッフルームを後にすると、ほうっと今度は安堵の溜め息が出た。

「ひっ?!!」

だが今度は後ろから伸びてきた手にポンッと肩を叩かれて飛び上がりそうなほどに驚く。

「あ、ごめん。そんなに驚くとは思わなかったから・・・」
「・・・なんだ、笹岡さんですか。びっくりさせないでくださいよ。心臓が止まるかと思いましたよ・・・」
「あはは、ごめんごめん。てっきり気付いてるんだと思ってたから」

はぁ~~~っと死にそうな顔で胸を撫で下ろすつくしを笑っている女性、彼女はこの図書館の設立当初からの司書だ。つくしもここで働くようになってから幾度となくお世話になっている。

「やけに物思いに耽った横顔してたからどうしたのかなと思って」
「え・・・そんな顔に見えました?」
「うん。すっごく」

つい数分前も似たような事を言われた。
確かに考え事はしていたがそんなに酷い顔だったのだろうか。
咄嗟に頬に手を添える。

「・・・手紙のこと気にしてるの?」
「えっ?!」
「ほら、昨日例のあの人からの手紙を渡したから、それで・・・」
「あっ、違います、全然! ・・・あ、でも全く気にならないって言ったら嘘になりますけど、でもほんとにそれは違うんです」
「・・・そう?」

コクコクと必死に首を縦に振ると笹岡がほっとしたように笑った。

「それならよかった。やっぱり渡してる身としては気になってたから」
「・・・すみません、いつも何かとご迷惑をおかけしてしまって」
「あら、そんなことはいいのよ~。牧野さんが元気になってくれるのならそれで」
「あはは・・・」

苦笑いのつくしを笹岡がじっと見つめる。

「・・・でもなんか前より少し表情が吹っ切れた感じがするわね」
「えっ?」
「なんとなくだけどね。少し心境に変化があったのかな~なんて」
「そ、そんなことは・・・」

ない、と言い切れるのだろうか。
少なくともいずれ向き合わなければという気持ちが芽生えただけでも大きな変化だ。
それが端から見てもわかるほどだというのか?

「ふふっ、そんな難しく考えないで。あなたが発作を起こさずにあの手紙を受け取ってる時点で私は大きな意味があることだってずっと思ってたから」
「え・・・?」
「じゃあお昼とるわね」

ニコッと笑ってもう一度つくしの肩をポンと叩くと、笹岡はそのまま部屋の中へと入っていった。
残された廊下で1人、つくしの頭の中には言われた言葉がいつまでも残り続けた。









***



「おい! 落ちてるって!」
「えっ? わあぁっ!!」

大きな声にハッとして視線を下げると手にしていたプリントがバサバサと音をたてて気持ちいいほどに落下していた。次回のボランティアの時に使おうと準備したばかりのプリントだ。

「ったく何やってんだよ! 何度も名前呼んだだろっ」
「ご、ごめんっ! わあ~~っ、あんなとこまで飛んでる」

小学生に叱られながら慌てて必死で紙を掻き集めていく。
口では厳しいことを言いながらも、なんだかんだで遥人も手を動かしてくれている。

「・・・また何か考え込んでんのか?」
「・・・え?」

しばらく無言で手を動かしていたつくしの背中に遥人が呟く。
振り返って見れば遥人は相変わらずつくしに背を向けたままだ。

「まーた悩んでんのかって聞いてんだよ」
「え・・・何でそんなこと?」
「なんでじゃねーだろ。そんなにボーッとしてりゃあバカでも気付くってんだよ」
「ば、バカって・・・」

子どもにこんなことを言われて怒ってもよさそうなものだが、今日このツッコミをされるのは実に3回目だ。そんなに浮かない顔をしてるのだろうか?
・・・してるから言われているに決まってる。

「あのおっさんのことかよ」
「え?」
「つくしを悩ませてる原因」

いつの間にかこちらを見ていた遥人が真剣な顔で聞いてくる。

「・・・違うよ」
「嘘はつくなよ」
「嘘じゃない。この前話したでしょ? 道明寺のことはちゃんと考えていくって。あの言葉に嘘は何一つない。だからほんとに違う」
「・・・じゃあ何」
「え?」
「あいつ以外につくしにそんな顔をさせてる原因は一体何なんだよ」
「ハル・・・」

むしろ遥人にとっては司が原因と言われた方が納得できたのだろうか。
つくしの答えを聞いてさっきよりもよほど腑に落ちない顔になってしまった。

「何でもないって! 女の子には色々あんのよ」
「いって!」

バシッと背中を叩いて豪快に笑うつくしを遥人が睨み付ける。

「まぁまぁ、ハルも男ならその繊細な部分はそうっとしておいてよ。 ね?」
「はぁ? 意味わかんねぇっつの!」
「まぁそのうちわかるから。気にしない気にしない。よーし、全部集まったし今日はこれで終わりにして帰ろっか」
「あ、おいっ! 俺は真面目に・・・!」

ニコッと笑って振り返ったつくしに何故だか遥人はそれ以上何も言えなくなってしまう。
つくしが何かを誤魔化しているのなんて明白だった。
だがそれと同時に今何を聞いたところで絶対に誤魔化し続けるだろうことも明らかだ。

あいつ以外に何かつくしを困らせることがあった・・・?

直感だがそう思った。
だからといってそれが何かなんて遥人に知る術などない。
ただ、つくしがそれを言いたくなさそうにしているということだけはわかる。

「・・・・・・わかったよ。 何かあったら必ず言えよ」
「えぇ~~? だから何もないって!」
「・・・」

カラッと笑って見せてもちっとも説得力などない。
とはいえ、今は騙されたふりをする以外に何もできそうもない。
必要があればつくしはきっと話をしてくれるはずだから。

そう結論づけると、遥人はカバンを手にさっさと部屋を出ていった。

「あっ?! ちょっと待ってよ! 途中まで一緒に行こうよっ!」

せめてもの仕返しとばかりに必死の声かけを無視してスタスタと歩いて行く。
大慌てで後を追いかけてくるのはいいものの、途中手にしていた紙を再び落としたり急ぐあまり転びそうになったりと、見ていなくとも1人大騒ぎしているのがよくわかる。
本気で置いて行こうと思っていたのに、そのあまりの慌てっぷりに思わず足が止まった。

「・・・くっ、バーーーーーカ。 お前はガキかよ」
「が・・・ガキじゃないっ!! そこの君っ、大人への口のきき方がなってないぞ!!」

遥人が止まって笑ってくれたのが嬉しいのか、つくしがたちまち笑顔に溢れていく。

「・・・あっそ。じゃあな」
「あぁっ! 嘘です嘘です! 待って、遥人君っ!」
「キモイ呼び方してんじゃねーよ」
「あははは、待って~!!」

再び必死で追いかけ始めたつくしを背中で感じながら、遥人は緩む口元を抑えるのに必死だった。








「牧野さん」

「・・・え?」

結局あれから一緒に施設を出ていつものようにバス停へと向かう道すがら、つくしを呼び止める声に2人の足が同時に止まった。
ゆっくりと振り返るとそこには全く見覚えのない男が1人。つくしよりも少し年が上だろうか。
ニコニコと人の良さそうな笑顔でそこに立っていた。

「こんなところで会うなんてすごい偶然ですね」
「・・・どうして・・・」

だが隣に立つつくしから一瞬出たのは明らかに動揺した声。

「・・・つくし?」

遥人の声にハッと我に返ると、つくしは一瞬にしてその戸惑いを消した。

「あ・・・何でもない。以前働いてた職場の人なの。ここにいると思ってなかったからびっくりしただけだよ」

そう言ってなんでもなかったかのように笑って見せる。
目の前の男はそんな2人のやりとりを笑顔で見ていたが、やがてタイミングを見計らってつくしに声を掛けた。

「あの・・・よかったらこの後少しだけお時間いいですか?」
「え?」
「せっかく会えたんですし、少しだけお話したいんです」
「・・・・・・」

男の申し出につくしがしばらく黙り込む。 迷っているのは明らかだった。
と、男も申し訳なさそうに苦笑いする。

「あ・・・すみません。 突然こんなことを言って迷惑ですよね」
「あ、いえ、そんなことは・・・」

そう言って再び考え込むと、そんなつくしをじっと見つめたままの遥人とバチッと目が合った。
すぐにまるで心配しないで大丈夫と言うようにニコッと笑って見せると、つくしは男性の方へ再び向き直して頷いた。

「わかりました。あまり時間はありませんけど、それでもよければ」
「本当ですかっ?」
「はい」

控えめに笑うつくしとは対照的に男は心底嬉しそうに喜んでいる。
その笑顔に何か裏があるようにはとても見えない。
ただ、つくしを好意的に思っているのは子どもが見たって明らかだ。

「つくし・・・?」
「なぁに? ただの昔の同僚だよ。何もないから。 ね?」
「・・・・・・」

少なくともこの男から邪気のようなものは感じないし、同僚というのもきっと真実なのだろう。
男の知り合いがいたって何ら不思議なことはない。

だが・・・

「何かあったら絶対連絡しろよ」

つくしの腕をグイッと引っ張って耳元でそう囁くと、つくしが驚いて目を丸くする。
少しの時間を置いて嬉しそうに笑うと、何を思ったか遥人の頭をわしゃわしゃと撫で始めた。

「ハル~、あんたってばやっぱりいい子っ!!」
「ちょっ・・・おいっ、やめろよっ!!」
「ふふっ、ありがとね」
「別に俺は何も・・・」
「ハルのその気持ちが嬉しいよ。 ほんとに」
「・・・」

笑いながらも真剣な顔でつくしがそう告げたのと同時にバスがやって来た。

「あ、来たよ。じゃあ気をつけて帰るんだよ」
「子どもじゃねぇよ」
「子どもでしょ」

お決まりのやり取りを繰り返しながらバスに乗り込む直前、遥人はもう一度つくしと男の顔を交互に見た。つくしはいつもの笑顔、男も目が合った瞬間子ども相手にペコッと会釈をしている。

心配し過ぎか・・・?

「・・・・・・」

全く気にならないと言ったら嘘になるが、つくしにだって自分の知らない知り合いの1人や2人がいて当然なのだ。そう自分を納得させると、遥人は無言でバスの中に乗り込んだ。
席に座るとすぐに手を振るつくし達を残してバスが動き始める。
いつもならそっぽを向いたまま別れるが、この日は何故だかもう一度つくしの顔を見たくなった。


「 ・・・?! 」


変わらぬ笑顔で自分を見送っているつくしの後ろ、さっきまでニコニコと心底人の良さそうな笑顔を見せて立っていた男が、その顔が見えなくなる瞬間、フッと見たこともないような顔で笑った。
あまりにも一瞬の出来事でそれは見間違いだったのかもしれない。

だが、見間違いと言うにはあまりにも劇的な変化だった。
それはまるでこの時を待っていたと言わんばかりに・・・

瞳が黒く光ったような気がした。



「つくし・・・?!」



ガバッと立ち上がって後方の窓からもう一度見ようとしたときには、もう2人の姿は遥か後方で小さく背を向けて歩き出していた。





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ブログ開設から半年が経ちました
2015 / 04 / 26 ( Sun )
気が付けば当サイトを開設してから6ヶ月という月日が経っていました。
もう? と思う気持ちと、え、まだ? と思う気持ち、実は半々だったりします。
ひっそりと立ち上げたサイトがまさかこんなにたくさんの方に訪問していただけるようになるなんて、右も左もわからずに始めた頃には想像もしていませんでした。作品数も自分で考えていた以上に増えていて、あらためて見てみるとよく書いたなぁなんてびっくりしています(^_^;)
誰かいい子いい子して~(≧∀≦) ←

実は私は結構飽きっぽい性格でして。何かを作り出すなんていう面倒くさい作業をこうして続けられているのは、間違いなく皆様がいてこそです。本当に有難うございます(o^ー^o)

目下悩み中のことがありまして。
連載中の2つのお話、実はこの後結構物語が動くんですねぇ。 で、なるべくバランス良く更新していけたらいいな~と基本的には思ってるんですが、 「えぇっ!!」 と続きが気になるところでしばらくもう一つの話に切り替わるというパターン、そのやり方で更新を続けるか、ある程度話の展開が落ち着くまで一方を更新し続けるか、結構悩んでます。
後者だともう一方の作品を待ってる人にとっては待ち遠しいよなぁと思ったり。皆様だったらどっちがいいですか?
ちなみに書き手としてはノってるときは一気に書き進めたい気分なんですが、逆パターンの時は別の話に助けられたり。実にケースバイケースなんですよねぇ(笑)

おそらく 「続き! はよう続きをっ!!」 と思われるであろう展開になりますので、さてどうしたものか。(・・・なんか自分でハードルを上げてる気がして不安になってきた。 あの~、内容的には大したことないのでね、そこは過度な期待はされませんように・笑)

そして先も言ったように飽き性のわたくし。
最近テンプレを変えたいな~、でもこれも可愛いしな~とぐるぐる気持ちが揺れております。
半年を機に気分転換して変えようかな? とずっと思ってたんですが、いざ来てみたら躊躇してます(笑)テンプレ変わっても平気ですか?それとも今のままがいいですか?(変える場合も似たような感じのゆる~い印象です)


それから子どもの名前はいつ正解発表がありますか? とのご意見をいただきました。
すみません、生まれるまで待って下さい(笑)
事前に発表すると面白さが半減しちゃうかな~と思いますので、いつになるとははっきり言えませんが、その時をお待ち下さいませ。
ということで、その回がくるまでは名前予想まだまだ募集しています! まだ参加されていない方は該当記事 → コチラ のコメント欄にて参加をお願いします。(予想は1つのみです!)
子どもの性別や名前が初登場の話を更新して以降に投稿された予想コメントは一切無効とさせていただきますのでご了承下さい。(その前日までのものが有効ということです)

そしてですね~、気になる今のところ正解者はいるのか?! という点ですが・・・

ズバリ、 いますっ!!

1名様いらっしゃいます!! (≧∀≦) ひゃっほー!
さぁさぁ、あなた様かな? そちら様かな? どちら様でしょうか?!
ドキドキしてお待ち下さい。
そしてですね、皆様の素敵な名前を拝見しながら 「これはイイ!!」 と、正解ではないけれど個人的に気に入った名前には 「みやとも賞」 なるなんの有難みもない賞を一方的に授与することに致しました。勝手に選ばれるかもしれないあなた様、逃げ場はないですよ( ≖ิ‿≖ิ )
該当者は1名様のみです。 当然リクエスト権も差し上げます。
なので、諦めずにチャレンジしてみて下さいね~!!


これからも皆様と末永いお付き合いができたらいいなと勝手に思ってますので、どうぞ今後ともよろしくお願い致します(*´ェ`*)


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<追記>今日は予定ではお話も更新するつもりだったのですが、急遽家庭の事情により無理になりました。すみませんm(__)m
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幸せの果実 20
2015 / 04 / 25 ( Sat )
「よぉ~! 主役のくせにおせーぞ」
「るせーよ。忙しいのに無理矢理呼び出したのはそっちだろうが」
「ははっ! まぁまぁ、細かいことは気にせずさっさと座れよ」
「ったく・・・」

長い足を持て余すように足を組んでソファに座ると、たちまちその空間だけ色が変わる。
元々3人だけでも目には見えないキラキラがそこかしこも飛び交っていたが、最後に来た男はそのふわんとした空気を一瞬にして引き締めてしまった。
とはいえオーラだけは目映いほどに見えているのだが。


「じゃあとりあえずは乾杯だな」

「「「「 乾杯! 」」」」

カチンと軽快な音と共に全員がグラスの酒を一気に煽った。

「ついに司も親父になんのかぁ」

司がグラスを置いたタイミングを見計らってあきらが言う。

「つーかあの司がだぜ? 女嫌いで政略結婚以外はありえねぇだろって感じの男がだぜ?」
「ざけんな。政略結婚なんか死んでもするわけねーだろ」
「それよりもつい2年近く前まで童貞だった男が、だぞ」
「あぁ、言われてみりゃあそうだよな。お前帰国するまで童貞だったんだもんなぁ~!」

何とも感慨深そうに総二郎とあきらがうんうんと頷く。

「童貞男が初っぱな失敗していきなりデキ婚なんて話もたまに聞くけどな」
「まぁ、司の場合は・・・・・・こいつ無駄にテクだけはもってそうだからな」
「おい、無駄とはなんだ無駄とは」

チラッと自分を見た総二郎をジロリと睨み返すと笑って誤魔化している。

「つーかお前らいつ解禁したんだよ?」
「あ?」
「なんだかんだずっと牧野と一緒に暮らしてるよな?」
「あ? あぁ・・・言われてみりゃ確かにそうかもな」

6年ぶりに帰国した司を待っていたのは類の邸で生活する変わり果てた姿のつくしだった。
それからしばらくしてからはなんだかんだでずっと司と同じ空間で生活してきたのだ。

「まぁあいつと結婚するのは揺るがなかったし、俺は最初から避妊しなくても良かったんだけどな。やっぱあいつはそういうわけにはいかねーだろ」
「結婚するまで待ったのか?」
「正確には入籍してからだな」

司の言葉に2人がくう~~っと大袈裟に泣き真似をしてみせる。

「おっまえ大人になったなぁ~! お兄さんは嬉しいぞ!」
「誰が兄だ、ざけんな」
「つーかお前くらいの男なら婚約が成立した時点でそうしててもおかしくねーよな」
「まぁな」
「お前ってなんだかんだ牧野のためなら待てる男だよなぁ~」

感心したようにあきらが唸る。

「まぁ、とはいえ解禁された暁には牧野の方が散々な目にあってんだろうけどな」
「それは違いねーな。 ハハハッ!」
「おい、お前らさっきから人で遊んでんじゃねぇぞ」
「おっと~、んな怖い目で睨むなって」

待ったのポーズで総二郎が慌てて苦笑いする。


「牧野は? 元気なの?」


これまで黙ってただ事の成り行きを見守っていた類が初めて口を開いた。

「あぁ。今のところはな。ただ人によってはつわりってもんがそろそろ出てくるらしいから・・・それがどうなっていくかはまだわかんねーな」
「仕事は? 辞めんのか?」
「まぁ司ならそうさせるに決まってるよな」
「・・・・・・」

思いの外反応がない司を総二郎とあきらが振り返る。

「牧野の事だからやめたくないとか言ったんでしょ」
「・・・あぁ」
「まぁ司のことだから当然反対はするよね。で、なんだかんだと丸め込まれて仕事は続けることになった。腑には落ちないけど自分が一番近くで見守ってやれるというメリットもある。 最終的に認めた理由はそんなとこ?」

「・・・・・・お前・・・」
「・・・何? 何か変なこと言った?」

驚きに目を丸くする司とは対照的に類は飄々としている。
その顔にはそれくらい考えなくてもわかるでしょと書いてある。
非常に気にくわないが、この男は一番すっとぼけた顔して一番洞察力が鋭い。

「え、じゃあ牧野はマジで仕事続けんのか?」
「・・・あぁ」
「へぇ~! 類の言ったことがあるとはいえよくお前が許したな」

愉快そうに笑う総二郎を司が苦虫を噛み潰したような顔で睨み付ける。

「あいつ・・・卑怯くせぇんだよ」
「は?」
「すっげぇ可愛い顔しながら上目遣いで傍にいさせて、だなんて言いやがって・・・。 あんなにタチのわりぃ女は何処探してもいねぇぜ。ブツブツ・・・」

「「「 ・・・・・・ 」」」

「・・・なんだよ? 揃いもそろってその顔はなんなんだよ」

突き刺さるような視線を感じて見てみれば、雁首揃えたように全員が呆れ顔でこっちを見ているではないか。

「そりゃこっちのセリフだろ」
「あぁ?」
「お前自分が今どんな顔してるのかわかってんのか?」
「は? だからさっきから何言ってやがる」
「言葉とは正反対に口元にやついてるけど。頬も少し赤いんじゃない?」
「?!」

類の言葉にガバッと片手を口元にあてる。
・・・確かに口角が上がっているのがなんとなくわかる。
ハッと再び視線を感じて顔を上げれば今度は三者三様のにやけ顔でこっちを見ていた。

「・・・てめぇらうるせぇぞっ!!」
「おわっ! バカっ、八つ当たりすんじゃねぇよ! ニヤけてたのはお前だろうが!」
「うるせぇっ! 今にやけてんのはお前らだろうがっ!!」
「そんなん完全な屁理屈だろ!」
「知るかっ! 俺は屁はこいてねぇっ!」
「屁じゃねぇよ! 屁理屈だ!」
「んなんどっちだっていいんだよ!」
「いや、よくねぇだろ」

その後もしばらくの間実にくだらない押し問答が続けられ、手前の空間でそれを聞いていた他の客が見た目とあまりにも乖離したそのやりとりに、何とも言えない顔で笑っていたことを当の本人達は気付いてもいない。





「俺そろそろ行くわ」
「えっ、もうか?」

司が店に入ってきてまだ1時間も経っていない。
4人で集まったのもなんだかんだ久しぶりだというのに。

「わりぃな。 金は俺が出しておく」
「いや、んなことは構わねーんだけどよ・・・」

言いながら既に司は立ち上がっている。

「牧野によろしく言っといて。また今度日を改めて会いに行くからって」
「あ、俺らもそう伝えておいてくれよ。おめでとうって」
「あぁ。 じゃあまたな」
「おう、じゃあな」

軽く笑うと司は一度も後ろを振り向かずにその場を去って行った。



「・・・あいつ、ますます付き合いが悪くなってねぇか?」

すっかり誰もいなくなってしまった方向を見ながら総二郎が零す。

「だな。ここに来ても帰るまで終始時計を気にしてたしな」
「完全に溺れきってんなぁ~」
「はは、牧野にとっちゃある意味ご愁傷様ってやつか?」
「案外子どもができるのも遅かった方なのかもな。司のことだから野獣並なわけだろ」
「だな。はははっ!」

ひとしきり笑うと、は~と息を吐きながらあきらがあらためてしみじみと噛みしめる。

「しっかし司が父親になるのか・・・。牧野が母親になった姿なんて目を閉じなくても浮かんでくるけど、あの司がとうとう・・・。なんかまじで感慨深いもんがあるな」
「ほんとだな。今からあんなんでガキが出てきたらあいつどうなるんだ?」
「万が一男だったら牧野の奪い合いを始めんじゃねぇのか?」
「はははっ! それガチであり得るな」

「どっちにしても案外いい父親になるんじゃない? 司なら」

類の一言にピタッと笑いが止まると、総二郎もあきらもやけに真剣な顔で頷いた。

「・・・だな。 あいつはああ見えていい父親になると思うぜ」
「今流行のイクメンってやつか?」
「はは、だな」
「・・・じゃああらためて俺たちだけで乾杯といくか」
「おう」

「「「 乾杯 」」」

各々笑いながら、手にしたグラスを親友が出ていった方へ向かってカチンと鳴らした。







***





「あっ、司~!」

エントランスを入ってすぐのところで聞こえてきたのは使用人の声ではなく甲高い女の声。
顔を上げて見れば滋を含んだ3人がこちらへ向かってくるところだった。

「・・・あれ、お前ら来てたのか?」
「うん。ちょうど今から帰るところ」
「あいつは?」
「先輩ならお風呂に入って横になるって言ってましたよ」
「そっか。わざわざサンキューな」
「えぇ~? 親友なんだから来るのは当然じゃん! っていうか司のお礼なんて激レア~!」
「うるせぇよ」

あははっと3人が笑い声をあげる。

「司~、おめでとう!」
「道明寺さん、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「あぁ、サンキュ。 たまにあいつの息抜きに付き合ってやってくれよ」
「そんなのこっちがお願いしたいくらいですよ」
「そうだよ~! つくしが嫌だって言っても来ちゃうもんね~!」
「・・・フッ、お前らならそうだったな。うちのに送らせるから気をつけて帰れよ。 じゃあな」
「は~い! またね~!!」

めったに見せないふわりとした笑顔を見せると、司はあっという間にその場からいなくなった。
その心はもうとっくにその先の目指す場所へと行っていたに違いない。


「はぁ~~、あんな優しい笑顔の司なんて久しぶりに見たかも・・・」
「見られたとしても先輩がいる時限定ですものねぇ・・・」
「今日はかなりレアケースだったかもしれないね」



「「「 はぁ~~~~~っ、つくし (先輩) が羨ましい~~~~っ!!! 」」」



溜め息にも似た羨望の声が広い広いエントランスへとこだました。










***







さらりと何か温かい感触が頭に触れたような気がする。

「・・・・・・ん」

うっすらと目を開けると、スーツ姿でベッドに腰掛けた状態で頭を撫でている夫がいた。

「悪い。起こしちまったか?」
「司・・・。 あ、ごめん、あたし・・・」
「いいから。そのまま寝てろ」

起きようとしたつくしの体を司の手が押し留める。

「でも・・・」
「気にすんな。とにかくそのまま横になってろ」
「・・・ありがとう。 お仕事お疲れ様」
「おう。 こっちこそ悪かったな。予定ではもっと早く帰ってくるつもりだったのが急にあいつらに呼び出されてな」
「へぇ・・・そうだったんだ」
「あぁ。俺は行かねぇっつってんのにしつけーったらありゃしねぇ」

口では文句を言いながらも本音では嫌がってなどいないことをつくしはよく知っている。

「ふふっ。あたしのことは気にしなくていいからゆっくりしてきてよかったのに」
「バーカ。 ゆっくり酒を飲もうなんて気にはならねーよ」
「・・・ごめんね? いっぱい心配かけて・・・たっ!」

話している途中で軽いデコピンがヒットした。
全く想定外だったのか、驚いたつくしがおでこを押さえながら目をまんまるにしている。

「アホか。心配だからじゃねぇ。俺がお前の傍にいたいからに決まってんだろ」
「司・・・・・・ふふっ、ありがと」
「おう」

顔のすぐに置かれた手に自分の手を重ねて顔を寄せると、つくしは幸せそうに目を閉じた。

「眠いか?」
「・・・うん。 ごめんね・・・ちゃんと司が帰ってくるまで起きて待ってるつもりだったんだけど・・・どうしても眠気が抜けなくて・・・」

バサバサと音をたてて司がベッドの中へと入ってくると、腕枕をしてあっという間につくしの体を自分の中へと閉じ込める。

「司・・・?」
「だから言ってんだろ。まずはお前と腹の子が第一だって。自分の体の調子に逆らうんじゃねぇよ。俺のことは二の次だ。そんなことで余計なストレス抱えんな」
「司・・・」

ほんの少し怒ったようなその声は愛情で溢れている。

・・・駄目だ。
これだけのことでももう泣きそうになってしまう。
ほんとに最近の自分は一体どうしてしまったというのか。

・・・それでも。 幸せで幸せでたまらない。

つくしは顔を埋めながらまるで子どものようにぎゅうっと司の大きな体にしがみついた。

「・・・ありがとう。 大好き」
「・・・フッ。 どうした、子どもができてからやたらと甘えんじゃねーか」
「そうだよ。迷惑?」

顔だけあげて悪戯っぽく照れ笑いするつくしの唇にすかさずキスを落とす。

「あぁ。この上なく迷惑な話だな。欲情するったらありゃしねぇ」
「えっ? ・・・ぷっ、あははっ!」
「笑うな。こっちは真剣だ」
「あははは! それは大変だぁ~!」

笑いの止まらないつくしを再び腕の中に閉じ込めると、はぁ~っと溜め息をひとつ。

「ったく。人が襲えないタイミングに限って普段は言わねぇようなことばっか言うんだもんな。これがタチの悪い女じゃなけりゃなんだっつーんだよ」
「ふふふっ」
「・・・まぁいい。これも惚れた弱みってやつだからな。しばらくは我慢してやる。 その代わり・・・」
「・・・・・・その代わり・・・?」

恐る恐る視線を上げると妖しい笑みを浮かべる男が1人。思わず背筋がゾゾッとする。

「解禁になった時は覚悟してろよ?」
「えっ・・・?!」
「ほら、早く寝ろ」

解禁の意味を必死で考えるつくしの頭を自分に引き寄せると、そのまま赤子を宥めるようにポンポンと撫でていく。 規則的なリズムを刻むその振動と自分を包み込む温もりに、もともと眠かったつくしの瞼があっという間に落ちていく。

「・・・・・・司・・・」
「ん?」
「・・・やっぱり大好きだよ・・・」

眠りに落ちる寸前そう言い残すと、そのままスースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえ始めた。



「・・・・・・・・・やっぱりお前はほとほとタチのわりぃ女だよ」



この上なく幸せそうな顔で微睡むつくしにそう言うと、やれやれと呆れ笑いを浮かべながら宝物を抱きしめた。






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幸せの果実 19
2015 / 04 / 24 ( Fri )
「つくし様、ご友人の皆様がいらっしゃいましたよ」
「え? わぁっ?!」

「つくしぃ~~~~~~~~~~っ!!! ぐえっ?!」

言われて顔を上げたときにはもう既に目の前に突進するように滋の顔が迫っていた。
だがつくしにぶつかるすんでの所でその動きがピタリと止まる。

「滋さん、先輩にタックルなんかしちゃダメですよ!」
「あっ・・・てへへ、そうだった。ごめぇ~~ん!」

テヘッと舌を出して笑う滋の首根っこが桜子によって掴まれている。
どうやらカエルが潰れたような声の正体はこれだったらしい。
一番後ろから入って来た優紀が一部始終を見てクスクス笑っている。

「皆・・・来てくれたんだ」
「あったり前じゃんっ! もう嬉しくて嬉しくていてもたってもいられなくて。つくし、おめでとうっ!!」
「先輩、おめでとうございます」
「つくし、おめでとう! ほんとによかったね!」
「あ、ありがとう・・・」

妊娠が判明してからというもの耳にタコができるほどに言われ続けている言葉だが、何度言われようとも気恥ずかしさは抜けていかない。

「体調はどう?」
「あ、うん。今のところはまだそんなに。たまに体がだるいなって思う時があるくらいかな」
「そっかぁ」

つくしの向かいのソファーに座ると、当然の如く全員の視線がお腹へと集中する。
まだまだ言われなければ妊婦だなんて誰にもわからない。

「つくしがついにママになるのかぁ~」

一番付き合いの長い優紀が感慨深そうに呟く。

「ほんとだよね。自分でもびっくり」

アハハっと笑いながらお腹に手を当てる。最近は時間さえあれば無意識のうちに触っているのだが、本人はさほど自覚していない。そんなつくしの様子を見ていた桜子が言った。

「・・・なんか、すっかり母親の顔ですね」
「えっ?」
「お腹に手を当てる姿だけでも母性に溢れてますよ」
「えぇっ?! そ、そうかな・・・?」
「そうですよ」
「うんうん、なんかすっごーーーく柔らか~い表情してる。今までそういう顔って見たことないもん」
「そ、そう・・・? 自分じゃ意識してないからわかんないよ」

あらためて指摘されると恥ずかしいったらありゃしない。
一体どんな顔をしているのやら。

「そうやってお母さんになっていくんだねぇ・・・」
「・・・うん」

優紀の言葉がじんわりと心に響く。

「そういえば今日司は?」

滋がキョロキョロと部屋を見渡しながら主の姿を探している。

「あ。今日は仕事なんだ。この前検査にいくために休んじゃった分のしわ寄せがきてて」
「へぇ~っ? じゃあ司も病院に行ったんだ?」
「う、うん」
「すごーーーい! あの司が産婦人科に行くとか・・・なんか想像しただけで萌えるわぁ」
「滋さん顔やばいですから。でも確かに意外と言えば意外かもしれませんね」
「あたしもびっくりだよ。まさか一緒に行くなんて言うとは思ってもなかったもん」

むしろ男がそんなところに行ってられっか! くらいのことを言われるとばかり思っていた。

「そうかなぁ? あたしはむしろいかにも道明寺さんらしいと思ったけど」
「・・・優紀?」
「ほら、道明寺さんってつくしのためだったらたとえ火の中水の中って感じの人でしょ? だから何よりも大事なつくしに赤ちゃんができたともなればそうするのが至って普通じゃないかな~って」
「言われてみればそうかもねぇ・・・」
「先輩命ですものねぇ・・・」
「なっ・・・何よそのニヤニヤした顔はっ?!」

全員が足並みを揃えたようにニヤついた顔でつくしを見ている。

「別に~? そんなに愛されてるつくしが羨ましいなって話」
「愛っ・・・?!」
「今更照れるなっての~! 子どもができるようなこと散々しておきながらこれしきで」
「し、滋っ!!」
「あははっ」

ついこの前もどこかの誰かに似たようなことを言われたような。
・・・全く!

「そういえば先輩って今もお仕事続けられてるんですか?」
「え? ・・・あぁ、うん。一応ね」
「よくあの司が許したねぇ? てっきりすぐやめさせるとばかり思ってたけど」
「それが・・・最初は大変だったのよ・・・」

はぁっと溜め息をつきながらつくしは少し前のことを思い出していた。










「・・・今なんつった?」

ピシッと空間に見えない亀裂が走ったのをひしひしと肌で感じる。
だがここで怯んでなるものか。

「・・・だから、これからも仕事は続けさせて欲しいの」
「っざけんなっ! 万が一お前と腹の子に何かあったらどうするんだよっ!!」

張り上げられた声に思わずつくしの体がビクッと揺れる。

「坊ちゃん! 妊婦にそんな大きな声を出してどうするんです! 言ってることとやってることが矛盾してますよ!」
「あ・・・悪い。・・・大丈夫か?」

憤慨していたのから一転、まるで壊れ物を扱うように優しくつくしの肩に触れる。
その顔は罪悪感で埋め尽くされている。

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「いや・・・」

自分の行動を後ろめたく思っているのか、何ともバツが悪そうに司が視線を泳がせた。
めったにないその動揺につくしの中の何かがギュッと締め付けられる。

「司・・・あたしは病人じゃないの。働いてる妊婦さんだってたくさんいる。つわりだってまだそんなに出てない。・・・だから、できるだけ可能な限り仕事は続けていきたいって思うの」
「・・・・・・」
「司のお母様だってお腹が大きくなっても会社のトップとして働き続けてたって聞いたことがある。私だって、道明寺の人間としてできることは頑張りたいの」

司の視線がつくしのそれと真っ正面からぶつかる。その目は承服できない、そう言っている。
つくしは肩に置かれた手に自分の手を重ねた。

「体調が悪くなるようだったり、自分がいることでかえって皆の足を引っ張ると思ったときには潔く身を引く。だからお願い。司の元で働かせて・・・?」
「・・・・・・」

真っ直ぐに見つめたまま載せた手にギュッと力を込めると、やがてはぁ~~っと特大の溜め息が聞こえた。 かと思った次の瞬間にはつくしの体は大きな体に包まれていた。
ギュウギュウと、決して腹部に負担をかけないようにしながらもその力は強い。

「つ、つか・・・」
「お前、卑怯だぞ」
「えっ・・・?」

グッとさらに力が込められる。

「この状況でその必殺技使うとかタチが悪すぎだろうが・・・」
「ひ、必殺技・・・?」

一体何のことを言っているのか。全く意味がわからない。
だがそんなつくしなど放ったまま司はつくしの肩に顔を埋めて再び特大の溜め息をついた。

「まぁまぁ坊ちゃん。坊ちゃんの心配はごもっともなものですよ。でもね、つくしの言うことも一理あるんです。妊娠は病気じゃないんです。妊娠したからって全ての行動を制限してしまってはむしろその方が体に毒ですよ」
「・・・・・・」
「今は幸いつわりもほとんどないようですし、しばらくは今まで通りで様子を見たらいかがですか? それからでも遅くはないと思いますよ」
「・・・・・・」

つくしを抱きしめたままウンともスンとも言わない司にやれやれとタマが苦笑いする。
つくしもいい加減苦しくなってきた。

「それにね、つくしが妊娠したからって坊ちゃんの仕事が変わるわけじゃないんです。忙しいことも多いでしょう。つくしが今邸に入るとなれば、今までのようにいつでも顔を合わせることだってできなくなってしまうんですよ?」

ピクッ

初めて司の体が小さく動いた。
すかさず畳み掛けるようにタマは続ける。

「その点仕事をしていればつくしとの接点もある。直接つくしの体調を見守ることだってできる。違いますか?」

ピクピクッ

明らかに心の動きが見て取れる司にトドメの一言を投げた。

「一番近くで守ってやれるのは坊ちゃん、あなたなんですよ。赤ん坊を身に宿した女性にとって一番傍にいて欲しいのは父親なんですから」

「・・・・・・・・・」

しばしの沈黙が続く。
だがやがて変わらず背を向けたまま司が口を開いた。

「・・・タマ」
「はい」
「・・・お前も卑怯くせぇぞ」
「あら、そうですか? 私はごく当たり前のことを進言しただけですけどねぇ」
「・・・・・・・・・チッ」

しゃあしゃあと惚けるタマに司が舌打ちする。
つくしはそんなやりとりを身動きできない状態で必死で聞いていた。
だが突然フッと体に纏わり付いていた力が解けて思わず顔を上げる。

「司・・・?」
「約束しろ」
「えっ?」
「お前の体が最優先事項だ。少しでもおかしいと思ったら絶対に無理はしない。状況に応じて仕事は辞める。約束できるか?」
「それって・・・」

目を丸くするつくしに構わず司は続ける。

「どうなんだ。約束できるのか? できないのか?」
「・・・っできます! 約束しますっ!」

ハイッと手を挙げて元気よく返事したつくしを司がじっと見つめる。
そして最後の最後にもう一度今日一番の溜め息をつくと、諦めたように頷いた。

「・・・わかったよ。お前の好きにしろ」

とうとう白旗を揚げた司につくしの笑顔がぱぁっと花開く。
と同時に司の首に両手を巻き付けて子どものように飛びついた。

「司っ!! ありがとうっ!!! 大好きっ!!」
「おわっ?! ・・・バカッ! 激しく動くんじゃねぇっ!!」
「うんうん。でも司にありがとうって言いたかったの」
「ったく・・・。 お前ら女はほんっとに卑怯でタチが悪い生きもんだぜ」

なんだかんだ言いながらもつくしを優しく抱きしめながらジロリと視線をタマに送る。

「・・・おや? 何のことでしょうねぇ? 私には何のことだかさっぱり」
「タマさん! ありがとうございます!!」
「だから何のことだかさっぱりわかりません」
「ふふふっ」

相変わらず惚けた顔で片付けを続けるタマはやはりつくしにとって最大の理解者だ。
自分はこんなに幸せでいいのだろうかと怖くなるほどに、幸せだと断言できる。

「・・・ん?」

だが笑っていたつくしの顔がグイッと司の両手によって挟み込まれた。
見れば今にも唇がくっつきそうなほどの至近距離に司の顔がある。

「な、何・・・?」
「俺が大好きなんだろ?」
「へっ? そ、それが一体・・・」
「じゃあお礼しろ」
「へっ? へえぇっ?! ま、待って待って! タマさんがまだいるからっ!!」

手の平にグッと力が入るとますますその顔が近づいてくる。
司の顔と視界の隅にいるタマの姿を交互に見ながらつくしは必死で抵抗するが、当然の如く全く歯が立たない。

「今更接吻ごときで何とも思いませんからごゆっくりどうぞ」
「たっ、タマさんっ! そんなっ、んんっ・・・!」

フッとタマの姿が視界から消えたと同時に熱く燃え上がるような唇が重なった。
抵抗していたのも最初だけでたちまちつくしの体から力が抜けていく。
司は予想していたかのようにその体を自分に引き寄せると、これでもかと時間をかけてつくしを翻弄し続けていった。


宣言通り目の前で繰り広げられる濃厚なラブシーンを見てもタマは全く動揺していない。
まるで何も見えていないかのようにテーブルの上の物を片付け終えると、完全に2人の世界に入ってしまった若夫婦・・・もといバカ夫婦を残してワゴンを押していく。


「仲がよろしいのは結構なことですけどね、そのまま子作りはなされないでくださいよ」


果たしてあの2人にその声は届いているのやら。
捨て台詞を残すとタマはやれやれと部屋を後にした。





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愛が聞こえる 27
2015 / 04 / 23 ( Thu )
「よう」

入り口から伸びてきた長い影に映し出された特徴的な髪型は、それだけで誰が来たのかを教えている。

「・・・なんだよストーカーおっさん」
「こんなとこに1人で何してんだよ、クソガキ」
「んだとっ?!」

ずっと背中を向けたままだった遥人が思わず振り返って睨み付ける。
だがそれが狙いだったのか、目の前の男はニッと不敵に笑っていた。

「・・・チッ!」
「最近のあいつはどうだ?」
「知るかよ」

再び背を向けた遥人にお構いなしに司は声をかけ続ける。
それどころか遥人のすぐ後ろの椅子を引っ張り出して腰掛けてしまった。

「何だよっ! 来んじゃねーよ!」
「どうしようと俺の自由だろ」
「・・・っ!」

似た者同士、どちらも口が達者なのは変わらないが、そこは年齢を重ねている分だけ一枚も二枚も司の方が上手だ。

「牧野は? 発作は起こしてないのか?」
「自分で聞けよ」

無視すればいいだけなのに何故いちいち答えてしまうのか。
遥人自身も自分の行動が自分で理解できない。

「それができるならお前に聞かねぇよ」
「俺だってお前に答える必要なんかねーだろ」
「・・・クッ、まぁそれはそうだな」

どこか愉快そうに司が笑う。
だが遥人が何なんだこいつはと心の中で思った瞬間、その顔が一瞬にして真顔に戻った。
その変わりように思わず息を呑む。

「俺とお前は似てるんだよ」
「・・・は?」
「お前を見てるとガキの頃の俺を見てるんじゃねぇかと思う時がある」
「・・・・・・意味がわかんねぇよ」

ジロッと司を睨み付ける。 一体この男と自分の何が似ているというのか。
胸糞悪いにもほどがある。

「長谷川遥人。 お前、長谷川コーポレーションの息子だろ?」
「っ?! なんでそれを・・・!」
「クッ、そんなん俺くらいの人間が調べようと思えばわけねぇに決まってんだろ」
「・・・!」
「お前、なんでこんなところにいるんだ?」
「・・・え?」
「確かお前の親父は東京にいるはずだろ。何でお前だけこんな田舎にいる?」
「それは・・・」

思わず口を開きかけてハッと我に返ると慌てて口をつぐんだ。
すんなり答えが聞けるとは思ってもないのか、それともはなから聞くつもりもなかったのか、司はそれ以上深入りしようとはしない。

「まぁどういう理由だろうと俺には関係ねーけどな」
「なっ・・・だからお前は一体何なんだよっ!」

わけのわからないことばかり言いやがって!
らしくもなく感情を揺さぶられて遥人のイライラが募る。

「いかなる理由であれお前がここにいてくれたことに俺は感謝してる」
「・・・は?」

全くもって意味がわからない。
やっぱりこのおっさんどこか頭がおかしいんじゃねぇのか?

そんな心の声が手に取るようにわかって司が実に愉快そうに肩を揺らす。

「まぁお前がそんな顔するのは当然だな。だが事実なんだからどうしようもねぇ」
「だから意味がわかんねぇっつーんだよ」
「お前がいたから牧野が救われてる。お前は俺とあいつを繋ぐ存在なんだよ」
「な、何言って・・・俺はつくしとお前を取り持つつもりなんてねぇぞっ!」
「お前にそのつもりはなくても実際そうなんだよ」
「・・・っ!」

こんな男、つくしの前から消し去ってやりたいと思う一方で、そうすることがつくしを悲しませることになってしまうのだろうか。 そんな相反する感情を持て余し遥人は唇を噛んだ。

「お前、あいつの存在に救われてるんだろ」
「えっ・・・?」

顔を上げて見た男はいつの間にか真顔に戻っていた。

「あいつの・・・牧野の存在にお前の心は救われてるんじゃねぇのか」
「・・・・・・」

救われてる・・・?
俺が? つくしに・・・?

「俺だってそうなんだよ」

その言葉にハッとする。

「俺もお前と同じような境遇で育った人間だ。お前の孤独や苛立ちは俺には手に取るようにわかる。そしてそんな子どもが成長したらどんな人間に育っていくかってこともな」
「・・・」
「まぁ俺はそんな自分に何の疑問も感じてなかったけどな。金さえあればできねぇことは何もなかったし、それが当たり前だとも思ってた。 ・・・でもそんな俺にガツンと喝を入れた奴がいたんだよ」
「・・・・・・それって」

初めて自分から興味を示した遥人に司の口角がくっと上がる。

「お前、あいつに初めて会った時何か説教されなかったか?」
「えっ?」

そう言われて記憶を辿る。
初めて会ったのは、ここでの連中と馬が合わずにイライラして施設を飛び出して・・・
その時つくしとぶつかって・・・

『 まずはごめんなさいでしょっ!! 』

この俺に初対面でそんな説教たれた人間など初めてだった。
いつだってヘコヘコと媚びへつらうような人間しかいなかったというのに。

「・・・やっぱりな。つくづくお前と俺は似てんだよ」
「・・・・・・」
「俺はあいつに腐った根性を叩き直されたんだ」

その言葉に遥人が司を見た。 その表情はどこか楽しげに見える。

「あいつに出会ってからの俺の世界は変わった。モノクロから色のついた世界にな。お前の今の世界だってそうじゃねぇのかよ?」
「それ、は・・・」

毎日何の楽しみもなくただ生きていた。
自分は何のために生まれてきたのかと思ったことは一度や二度じゃない。
・・・でも、つくしに出会ってそれは変わった。
イライラしながらも、どこかそれが楽しいと思ってしまっている自分が・・・いた。

戸惑うように視線を泳がせる遥人に司は目を細める。

「俺にとってもお前にとってもあいつの存在は絶対だ。そしてあいつを救いたいと思ってる。 違うか?」
「・・・・・・」

遥人は黙り込んだまま俯いてしまった。

「あいつがああなってしまった原因の一つに俺がいる。俺は何としてもあいつを救い出さなきゃならねぇんだ。 ・・・そしてこの手に必ず取り戻す」

燃えるような決意の言葉に思わず顔を上げる。
その瞳は一点の曇りもない。 ただ真っ直ぐに、前だけを見ていた。

「お前もあいつを助けたいと思ってるのなら不本意だとしても俺の言うことに耳を貸しておけ。子どものお前にできることには限界があるんだよ」
「んだとっ?!」


「副社長、そろそろお時間です」


カッとして遥人が立ち上がったところで入り口から西田の声が掛かった。
それで我に返ったのか、遥人は再び座るとプイッと司に背を向けた。

「タイムリミットだ。あいつに何かあったらすぐに連絡しろ。俺の連絡先は知ってるだろ」
「そんなんとっくに捨てたっつーんだよ」

ふて腐れたような答えに司がフッと笑う。

「嘘だな。お前は捨てきれてなんかねーよ。とにかく、何かあったときはいつでも連絡しろ。俺が駆けつけるから」
「知らねーよ!」
「・・・フッ、じゃあな。 遥人」

ずっと背を向けたままの遥人にそう言い残すと、司はゆっくりと立ち上がった。



「・・・・・・なぁ」
「・・・あ?」

だが室内から一歩足を踏み出したところで声を掛けられてその足が止まる。
見れば遥人は変わらずに向こうを見たままだ。

「・・・7年も待たせたってどういう意味だよ」

前回会った時に司は意味深なことを言っていた。
『 俺はあいつを7年も待たせたんだ 』 と。

「・・・・・・俺は7年前記憶喪失になったんだ」
「・・・え?」

全く予想だにしない答えだったのか、さすがの遥人も振り返って司を見上げた。
その顔は苦しげに歪んでいた。
この男のそんな顔を見るのは・・・初めてだった。

「何よりも大切なあいつの記憶だけ・・・失った」
「そんな・・・! そんなバカなことが・・・」
「あぁ。俺はどうしようもない大バカ者だ。んなこたぁ俺自身が一番よくわかってる。今更あいつの前にのこのこ姿を現して取り戻そうだなんて、虫が良すぎる話だってこともな」
「・・・・・・」

「それでも俺はあいつを失えない」
「・・・え?」

変わった声のトーンと共に男の表情もガラリと変わった。
それはまるで瞳の奥に燃えさかる炎が見えるかのように、熱くて強い眼差しだった。


「たとえそうだと罵られようと、俺はあいつを失うことなんてできない。生きている以上それはどう抗ったって変えることのできない俺にとってのただ一つの真実だからな」

「・・・・・・」


迫力のあまり言葉を失う遥人を一瞥すると、司は一転して優しい顔で笑った。
らしくないほどの顔で。

「まぁそういうことだ。いくらお前が抵抗したところで運命は変えられねぇ。だから諦めて俺に協力しろ」
「なっ・・・?!」
「クッ、じゃあな」
「あ、おいっ!」

言いたいだけ言い残して風のように去って行った男を、少年はただ呆然と見つめることしかできなかった。








「・・・・・・何が運命だよ、くそじじぃ」


捨てるに捨てられず、それどころかどうしてだか常にカバンに潜ませてしまっているくしゃくしゃの名刺を手に、遥人はバスに揺られながらそう呟いた。





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愛が聞こえる 26
2015 / 04 / 22 ( Wed )
「・・・ハル?」

西日の差し込んだ部屋に遥人はいつものように1人でいた。
だがつくしの声かけにも気付かない。
本を手にしてはいるがただ握られただけの状態で、その目は窓の外のどこか遠くへと向けられていた。
今日ここに来るまであれだけ悩んでドキドキしていたというのに、何故かその横顔を見ただけで胸がギュッと締め付けられてしまう。
うだうだ悩んでいたことが嘘のように。


「・・・ハル!」
「えっ・・・?」

もう一度はっきりとした声で名前を呼ぶと、ハッと我に返ったようにこちらを振り返った。

「あ・・・なんだ。つくしかよ」
「ちょっと、なんだとは何よ、なんだとは」
「別に~」

さっきまでどこか物思いに耽っていた表情から一転、いつもの憎まれ口が出る。
そのことにつくしは無意識にホッと胸を撫で下ろしていた。

いつも以上に大人びた横顔がまるで別人のように見えた。

___ 自分の知らない、自分を知らない誰かのように。


「ここに来たってことはちゃんと答える気になったんだろ?」
「・・・えっ?」

今度はつくしが顔を上げる番だ。
目の前にいるのはすっかりいつもの調子を取り戻した少年。
それでもその目は真剣だ。
一回り以上歳が離れているというのに、別に彼の要求に従わなければならない理由などどこにもないというのに、何故だか全く逆らえる気がしない。
もう笑えてしまうほどに。


「・・・ハルの満足いく答えを出せる自信はないけど」
「つくしが嘘をつかなければいいだけだろ」

苦笑いしながら答えたつくしに遥人は即答する。

嘘・・・

何が嘘で何が嘘じゃないのか。 それは自分ですらわからない。
10歳の少年に心の全てを暴かれてしまいそうで怖い。

・・・それでも、彼と向き合うためには目を逸らしては駄目。

「でも1つだけお願いがある」
「・・・何?」
「話してるうちにもしかしたら・・・発作が起きるかもしれない」

その言葉に遥人の手がピクッと動いた。
この少年は既に2度、つくしが発作で苦しむ姿を目の当たりにしている。
その言葉の意味は嫌と言うほどわかっているだろう。

「ハルの聞きたいことにちゃんと答えたいとは思ってる。それでも、発作が起こりそうだと思ったらそれ以上は答えられない。・・・それでもいい?」
「・・・・・・」

正直、つくし自身今の自分がどういう状況で発作を起こすのかがわかっていない。
これまでなら2つの主な原因が考えられた。遥人が事故に遭いそうになった時のことを思い出してもその1つは変わっていないことに違いはないだろう。

問題はもう1つだ。
彼・・・道明寺に関することがどこまでセーフでどこからアウトなのか、自分でわからない。
少し前なら全てがアウトだった。
それなのに、彼に再会してから何かが変わり始めている。
それが良い方向に変わっているのか、それとも逆なのか、それすらもわからない。

・・・だから怖い。 真っ暗闇を手探りで進んでいくようで。


「・・・わかった。その時は無理強いはしない」

しばらく黙っていた遥人の出した答えにつくしはほっと安堵する。
やっぱりこの子は根は優しい。
だからこそ、不用意に傷つけたりはできない。 ・・・放ってなどおけない。

つくしは笑って見せると、遥人に一番近いところにある椅子に腰掛けた。
彼はつくしのその一挙手一投足をただじっと見つめている。

「・・・それで? 何が聞きたいの?」

冷静に言ってはみたけれど、心臓は今にも止まるんじゃないかと思うほどに速い。
自分でもどうなってしまうのかわからない恐怖心なのか、それとも・・・

「道明寺司ってつくしの何なの」

だがそんなつくしの心の内を知ってか知らずか、遥人は直球で核心をついてきた。
彼の口から出てきた名前にドクンッと一際大きな鼓動が響く。
・・・それでも、今のところ発作が出る気配はない。

つくしは念のため1度大きく深呼吸をした。

「・・・何でもないよ」
「嘘つくなよ」
「嘘じゃない。言うとするなら昔の知り合い。ただそれだけ」

そこに偽りはない。
それでも、遥人が納得していないのは明らかだ。

「じゃあ質問を変える。あのおっさんはつくしの何だったの」

相変わらず回転が速い。とてもじゃないが10歳だとは思えないくらいに。
間髪入れずに続けられた質問に言葉に詰まるが、こんな質問は最初から予想していたことだ。

「・・・昔好きだった人」
「それだけ?」
「・・・あいつも、あたしのことが好きだったことがある。自分で言うなって感じだけど」

ハハッと笑うしかないつくしを見ても遥人の表情は変わらない。
まるでつくしの表情の変化をじっと観察しているかのように視線を逸らそうとはしない。

「でも全ては過去の話だよ。今は本当に何でもないってことに嘘は何一つない」
「・・・・・・じゃあなんであいつはつくしに会いに来るの」
「それは・・・」

それを自分の口から言うのは何か違う。
はっきりと本人の口から聞いたわけではないのだから。・・・いや、聞こうとはしないのだから。

「つくしのことが好きだからじゃないのかよ」

ドクンッ・・・!

体が揺れたかと思うくらいに大きく動いた心臓に思わず胸を押さえる。

・・・・・・大丈夫。 大丈夫。
発作は起こらない。 落ち着いて。

言い聞かせるように何度も深呼吸をすると、次第に落ち着いていくのがわかる。
少し前までは考えられなかったことだ。
これも全てはハルのおかげ。

「それは・・・あたしにはわからない」
「聞けばいいだけだろ。会いに来てるんだから」
「それは、そうかもしれない・・・でも・・・」

尻すぼみに声が小さくなっていくと、そのままつくしは俯いてしまった。
まるで年齢が逆転したかのような光景がそこにはある。

「・・・つくしはあいつが来ることに迷惑してんのか?」
「えっ・・・?」

投げられた変化球に思わず顔が上がる。

迷惑・・・?

「なんだよ、嫌だから避けてるんじゃないのかよ」
「それは・・・」

迷惑・・・? 嫌・・・?

そんなことは考えたこともなかった。
ただ、もう会うことはできないって、それだけで・・・

「即答できないってことは今でも好きってことなんじゃないのかよ」
「それは・・・」

『 違う 』 その一言が何故すぐに言えないのか。
肯定も否定もできない自分の心の中を全て少年が見透かしているようで。

「前にも言っただろ? うちの親ってそれなりの権力者だって。つくしが本気で嫌がってるって言うんなら俺が・・・」
「やめてっ!!」

今日一番の大きな声に驚いているのは他でもないつくし自身だ。
対照的に遥人は顔色一つ変えていない。
まるでこうなることを予想していたかのように。

「・・・なんで会わないんだよ」
「そ、それは・・・」
「本当に会いたくないんならはっきりそう言えばいいだろ。逃げてたってあいつは来るんだから」
「・・・・・・」

正論過ぎて何一つ反論できない。

そう。 たった一言でもいいからはっきりと本人に言えばいいのだ。
もう二度と会いに来ないで欲しいと。
苦しむ自分を目の当たりにした今の彼なら、きっと昔の様な強引な行動には出ないに違いない。
それは再会してから今日までの日々が如実に語ってくれていることだった。

それなのに・・・


「本音では会いたいって思ってるんだろ?」
「・・・っ」


どうしてこの子はこうも人の心が読めてしまうのだろう。
自分の心の内は決して見せようとはしないのに。
どんな鎧をまとったとしても、全て剥ぎ取られてしまったかのように全てを見透かしてしまう。

「本当は会いたい。 でも会えない。・・・そういうことだろ?」
「・・・・・・」
「そして何か会えない理由がある」

ドクンッ・・・!

「その理由は一体・・・」

ドクンッドクンッドクンッドクンッ

「・・・つくし?」
「・・・・・・ハッ・・・」
「つくしっ?!」

みるみる顔色が悪くなっていくつくしに今日初めて遥人が動揺を見せた。
慌てて立ち上がるとすぐにつくしの肩に手を掛けて揺らし続ける。

「おいっ! 大きく息吸って!! ゆっくり! もっと、ゆっくりっ!!」
「ハッ・・・ハッ・・・う、んっ・・・ハッ」

遥人の声がこれでもかとうるさいほどに頭の中に響いてくる。
その雑音とも言えるほどの声があるおかげで発作ががなんとか踏みとどまっている。
霞んでいく意識の中でつくしは必死で遥人の声を認識していく。

「息吸って、吐いて! もう1回!」
「ふぅっ・・・はぁ~~っ・・・」

自分は一体何歳なんだ? なんてことはこの際どうだっていい。
この発作から救ってくれる手があるのなら、どんな手だって掴みたい。
いつからからはわからないけれど、確実にそう思えている自分がいた。




「・・・落ち着いた? もう大丈夫か?」
「・・・・・・はぁっ・・・、うん・・・もう大丈夫。 ・・・またごめんね? 迷惑掛けちゃって」

数分して呼吸が落ち着いてきたつくしの顔色もようやく戻ってきた。

「迷惑だとは思ってない」
「・・・ふふ、ありがとう」
「・・・それに、原因は俺だろ?」
「えっ?」
「理由が何かは知らないけど、きっかけを与えたのは俺だから」
「そんな、ハルのせいじゃないよ」
「俺だよ」
「違うって」
「違わない」

終わりのない子どものような応酬に思わずつくしが吹き出した。

「・・・ぷっ! どこまで続けるつもりよ」
「つくしがうんって認めるまでだろ」
「あははっ! それじゃあ何も言えなくなっちゃうじゃない。・・・とにかく! ハルのせいじゃないから。原因は私の中にあるの。だからハルが気にする必要はない」
「・・・」

浮かない顔のハルにつくしがフッと目を細める。

「全く・・・。 そんなに気にするくらいなら何で聞こうとするのよ」
「それは・・・」
「・・・なんて、わかってるよ。あたしを助けたいって思ってくれたんでしょ?」

バッと顔を上げたかと思えば、面白くなさそうにプイッとそっぽを向いてしまった。
口を尖らせたその姿が等身大のハルに見えて自然と口元が緩んでいく。

「ほんとにありがとね。あたしもこのままじゃいけないってわかってるんだ」
「・・・・・・」
「逃げてるだけじゃだめだってことも、わかってる」
「・・・え?」

その言葉に遥人が再びつくしを見た。

「あいつが・・・道明寺があたしの居場所を知ってしまった以上、ずっと避け続けることなんて不可能だって事はあたしが一番よくわかってる。 それに・・・今のままじゃ自分が一生このままだってことも」
「じゃあ・・・」
「うん、そうだね。・・・いつかはちゃんと向き合わなきゃいけないって思ってる」
「つくし・・・」

前向きな発言が予想外だったのか遥人は驚いている。
自分でそう仕向けようとしてたくせに、いざ本当にそうなりそうだとこうして驚くなんて。
そのアンバランスさがやっぱりまだ彼が子どもなのだということを教えてくれる。

「でもね、もう少しだけ時間が欲しいの。ハルから見たらなんで?! ってイライラするかもしれない。そう思うんだったらさっさと行動に移せばいいって思うのも当然だと思う。・・・それでも、あたしにとってはこれだけでも充分前進してるの。もう二度と・・・あいつには会うつもりはなかったんだから」
「・・・・・・」

そこまで言うとつくしはニコッと笑った。

「だから約束する。いつかちゃんとあいつと会って話をするって。それでどうなるかは・・・自分でもわからない。それでも、自分が前に進むためには必要なことだって今なら思えるから。・・・だから待っててくれるかな?」
「・・・俺は・・・別に・・・」
「ハル、本当にありがとう。こうしてあいつの話をしても発作が出ないだなんてこと、少し前の自分なら想像もつかなかった。それに、発作が起こっても少しずつ自分がコントロールできつつあるの。それもこれも全部ハルがあたしのために調べてくれたおかげだよ」
「それはっ・・・!」
「ん?」

何かを言いかけた遥人につくしが笑いながら首を傾げる。

「・・・いや、何でもない」
「・・・? とにかく、ハルのおかげで前向きになれてることは事実なの。だから感謝してる。どうもありがとう」
「・・・・・・」

目の前で頭を下げたつくしを遥人はただ黙って見ている。

「あ。 そろそろバスの時間じゃない?」
「え? あ・・・」

時計は遥人がここを出るタイムリミットを示していた。

「じゃあ帰ろっか。バス停まで送っていくよ」
「いいよ別に。子どもじゃあるまいし」
「あははっ! 充分子どもでしょうが!」
「てっ! 何すんだよ!」

ツンと頭を小突かれた遥人がプリプリ怒る姿もまた愛おしい。
こうして色んな表情をもっともっと見せて欲しいと心から思う。





***



「じゃあまた今度ね」
「・・・あぁ」

結局バス停まで見送りに来ると、相変わらず無愛想なまま遥人はバスに乗り込んだ。
だがステップに一歩足を掛けたところで振り返ってつくしを見る。

「・・・どうしたの?」
「・・・・・・もう1つだけ聞いてもいいか」
「えっ? ・・・何を?」
「・・・俺とあいつって似てるのか?」
「えっ」

思わず驚いてしまったが、よく考えれば一番はじめに聞かれたことはこれだった。
遥人がどういう意図で聞いているのかはわからない。
けれど・・・

「・・・・・・似てるよ」
「え?」
「あいつと重なって見えることがあるのは本当。でもそれと同時に全く違うなとも思ってる。ハルがどういうつもりで聞いてるかはわからないけど、あいつはあいつ、ハルはハルだよ」
「・・・・・・」

ふわりと微笑んだ顔には何一つごまかしは感じられなかった。

「・・・わかった。じゃあな」
「え? あ、うん。気をつけて帰るんだよ!」
「だから子どもじゃねぇっつの」

お決まりのセリフを言って奥へと入ってしまった遥人につくしがあははと笑う。
いつものように手を振るつくしを一瞥した後フイッと別の方向を見ると、バスはそのままつくしを残して立ち去っていった。


「・・・・・・そんなに急いで大人にならないでいいんだよ。 ハル・・・」


見えなくなっていくバスに向かってつくしがポツリと呟いた。


それと同じ頃、バスの中では遥人が2時間前に起きたことを1人思い返していた。





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幸せの果実 18
2015 / 04 / 20 ( Mon )
ガチャッ


重厚な扉がギギギと深みのある音を奏でる。
開けてすぐ正面にタマを筆頭にした数人の使用人が普段と同じ様子で出迎えていた。

「おかえりなさいませ」

何もかもがいつもと変わらない。
目の前で頭を下げている数人を前に、つくしはすぐ隣に立つ司を仰ぎ見た。
つくしが自分を見ることを予想していたのか、彼は既にこちらを見ていた。
目があった刹那、その目がゆっくりを弧を描きふわりと微笑んだ。
たったそれだけのことなのに、言葉がなくとも伝えたいことが全て伝わったのだということがわかる。 つくしも笑って頷くと、握りしめられた手の平にギュッと力を入れた。

「あの・・・タマさん」

つくしの呼びかけに全員がゆっくりと顔を上げる。
何故だかドキドキして落ち着かないが、つくしは自由な方の手をそっとお腹の上に重ねた。


「赤ちゃんができました」


その言葉にタマの目が大きく見開かれた。
いつだって冷静な彼女がこんな表情を見せるなんて、かなりレアな経験かもしれない。

なんてことをつくしが考えた、その時 _____



「きゃあ~~~~~~っ!!!! おめでとうございますっ!!!!」
「おめでとうございますっ!!!!」
「つくし様っっっっ!!! おめでとうございます~~~~!!!!」



方々に隠れていた使用人という使用人が一気にエントランスへと駆けだした。
よくこれだけの人数が静かに隠れていられたものだと思うくらい、凄い人数が。
おそらく今日出勤していた人間は全員いるのではないだろうか。
それぞれが歓喜の声を上げながら瞬く間につくし達を取り囲んでいく。

「つくし様っ! 本当におめでとうございます!!」
「あ、ありがとうございます・・・」
「あぁっ、嬉しすぎてもう死んでもいいくらいです・・・っ!」
「いや、それは困ります・・・」
「男の子でしょうか、女の子でしょうか?! どちらにしても素敵で可愛らしいお子さんになること間違いなしですねっ!!」
「だ、だといいんですけど・・・」
「そうに決まってるではないですかぁっ!!」

キャアキャア色めき立つ面々にさすがのつくしも押され気味だ。
きっと心から喜んでくれるだろうとは思っていたがこれほどまでとは。
既に先のつくしと斎藤に負けず劣らず大号泣している人もそこかしこにいる。



「こらっ、あんたたちっ!! そんなに集団で取り囲んで何かあったらどうするんだいっ!!」



仕事も忘れて狂喜乱舞する使用人にタマの雷のような一喝が落ちる。
と、我に返った使用人がササーーーーッと一斉に整列し始めた。
さっきまでの興奮ぶりが嘘のように、今度はシューンと落ち込んでしまった。

「・・・ぷっ、あははははははっ! タマさん、相変わらず凄い!」
「やれやれ。全くこの子達には参ったもんだよ」
「あははは、でも嬉しいです。皆さんにこんなに喜んでもらえて」
「そりゃそうさね。この子達はあんた命だからね」
「おい、この邸の主は俺だろうが」

聞き捨てならないとばかりに司が口を挟む。

「もちろんそうなんですがねぇ。どうしたものか、どの子もこの子も若奥様に夢中のようでねぇ・・・」
「チッ、お前の教育が行き届いてないんじゃねぇのかよ」
「これ以上ないくらいの教育を施してるつもりなんですがねぇ・・・はてどうしたことかねぇ」

まるで親子のようなやりとりがおかしくて堪らない。
口ではブツブツ言いながらも司のその表情はこの上なく柔らかい。

「今何ヶ月なんだい?」
「あ・・・これ」

思い出した様につくしがカバンの中から一冊の小さな冊子を取りだした。
そこには 『 母子健康手帳 』 とはっきりと書かれている。

「ちょうど3ヶ月目に入ったところだそうです」
「そうかいそうかい。じゃあこれからつわりも本格的に出てくるかもしれないね。初めての妊娠で嬉しい反面、不安なこともあるだろうけど、私たちがしっかりサポートさせてもらいますからね。つくしはゆったりどっしり構えていればいいんだよ」
「タマさん・・・。 はいっ、心強いです!」

ぱぁっと笑顔を咲かせるつくしにタマも嬉しそうにうんうん頷く。

「さぁさぁ、ずっとここに立ってるのもあれだよ。部屋に行きましょうな」
「あ、はい」

ここがエントランスだとすっかり忘れていたのか、つくしがあははっと軽快に笑うと、すぐさまその手に大きな手が絡まった。実に自然な流れで。

「行くぞ」
「うんっ!」

そうして2人が仲睦まじく歩き出すと、並んでいた使用人が一斉に頭を下げた。
通りすがりに祝いの言葉が次から次にかけられ、泣きすぎて全く言葉にならない者もいる。
そんな1人1人に笑って応えながらも、つくしの瞳にもキラキラと光るものがあった。






***




「疲れてねぇか?」

部屋に戻るとすぐにソファーに座るように司が促す。
もともと育ちがいいということもあり、こう見えてレディーファーストを徹底する男だったが・・・なんだかそれ以上に既に過保護臭がプンプンするのは気のせいだろうか?
病院に行く間も行っている間も、そして帰りのリムジンの中でもそれはそれは何かと気遣ってくれた。

「ふふ、大丈夫だよ。ありがとう。 っていうかちょっと意外かも」
「何がだよ?」
「司がこんなに心配性になるなんてさ」
「心配性? 普通だろ?」
「ううん、きっと過保護な方だよ。・・・違う、絶対だな」

思わぬ一言だったのか司の眉が上がる。

「だってさ、車が右左折するだけでも体を支えてくるんだもん。一体あたしはどんな重病人になったんだろうって思っちゃったよ。あはは!」
「腹の子に何かあったら困るだろうが」
「そうだけどさ、さすがにそこまでする人は・・・・・・ぷっ、あはははははっ!」
「・・・この野郎っ!!」
「えっ?! きゃーーーーーっ!!」

お腹を抱えて笑い出したつくしに飛びつくように司の腕がつくしを包み込む。後ろから羽交い締めされているような状態につくしはキャアキャア笑って体を捩らせる。
だがやがて司の手が下腹部に置かれると、その動きもピタリと止まった。
触れた場所がじんわりと温かい。 つくしもすぐにそこに自分の手を重ねた。

「俺たちの子どもがここに・・・」
「そうだよ。信じられないよね」
「・・・そうでもねぇぞ? あれだけ毎日やりまくってりゃあ・・・」
「もうっ!! そういうことじゃないでしょおっ?!」
「てっ! やめろバカ!」

振り向きざまに顔を真っ赤にしてポカポカ叩いてくるつくしに司が笑い転げる。

「あっ・・・?!」

だがその手も当然のように捉えられ、今度は正面から抱きしめられる形となった。
顔をうずめた場所からトクントクンと生命の鼓動が響いてくる。

「・・・司の心臓の音が聞こえるよ」
「まぁ生きてるから当然だろうな」
「もうっ! そういう意味じゃなくって・・・」

ぷうっと頬を膨らませて顔を上げれば、そこには予想外に優しい顔で自分を見つめている男がいた。それを見た瞬間つくしは次の言葉が出なくなってしまった。
それどころか何故だか涙が込み上げてきそうになってしまう。


なんて、なんて優しい顔で笑うんだろう・・・


「なんだよ? まるで子どもみてぇだな」
「・・・うるさい」

慌てて顔を埋めてギュウッとしがみついてきたつくしに司が軽快に笑う。
その笑い声だけでもまた涙が溢れそうになる。
笑いながらも背中に回された手はびっくりするほど優しくこの体を包み込んでくれる。
こんなに涙もろくなるなんて一体どうしたというのだろう。
何故だか・・・全てが愛おしい。

「今お前の体の中では2つの心臓が動いてんだな」
「・・・・・・うん」
「泣きすぎだろ」
「・・・泣いてない」
「ふはっ! 堂々と嘘つくんじゃねーよ」
「・・・ぐずっ・・・。 だって・・・司が優しいんだもん」
「フッ、俺のせいかよ?」
「そうだよ。 全部司が悪いの」

ククッと笑う声と共に背中に回された手に力がこもる。つくしも負けじとしがみつけばますます司の笑いは止まらない。

「つくし、上見ろ」
「やだ」

即答に今日一番の笑い声が上がった。

「いいから、上見ろ」
「・・・・・・」

しばしの沈黙の後、ゆっくりと顔を上げたつくしを見て司が吹き出した。
さっきから笑いっぱなしだ。

「ぶはっ、お前ブサイク過ぎ」
「・・・う゛るざいっ!! だからやだって言ったのに」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃのつくしの顔を愛おしげに撫でると、ゆっくりと司の顔が近づいてくる。

「・・・どんなにブサイクだろうとお前しか見えねぇ。 ・・・愛してる」

その言葉を最後に目の前が真っ暗になった。
相変わらず涙は止まらないけれど、もうそんなことはどうだっていい。
今はただ目の前にいるこの男が、そして自分の中に宿る命が愛しくてたまらない。
次から次に溢れ出すこの気持ちを止めることなんて不可能だ。


「・・・・・・・・・・・・」


長い長いキスの後、ただ抱きしめ合ってその存在を確かめ合う。
そこに言葉なんていらなかった。

「・・・体、大事にしろよ」
「・・・うん」

再び司の心音を聞きながら、つくしはゆっくりと閉じていた目を開いていった。

だが、半分ほど開けたところでその目がグワッと全開になる。


「なっ・・・! な、ななななななななななっ???!!!!」
「・・・なんだよ?」

突然ガバッと体を離したつくしを司が訝しむ。

「だっ、だだだだだだだだって!! いつっ・・・いつからっ?!」

驚愕して目の前を指差している方向、そこには・・・

「あぁ、タマか? とっくにいただろ?」
「えぇっ?!」
「お前気付いてなかったのか?」
「ぜ、全然知らないよっ! っていうか教えてよ! いるって知ってたらあ、あ、あんな・・・!」

ソファーからほど近いテーブルでカチャカチャとお茶の準備をしている人物。
タマはつくしの動揺などお構いなしで顔色一つ変えずに手を動かし続けている。

「タ、タマさんっ! 来たなら来たって言ってくださいよ!」

つくしの言葉にようやく顔を上げたタマの顔には心外だと書いてある。

「おやまぁ。言っちゃあなんですけどね、私は何十回もノックしましたよ? 坊ちゃんから入っていいと目で合図を受けましたし、物音だってずっとし続けてましたよ。それをそう言われては・・・心外ですねぇ・・・」
「えっ?! そ、そうなの・・・?」
「あ? あぁ、まぁな。 俺が許可した」

一体いつの間に?! 全く気が付かなかった。

「お前あれだろ、キスだけでも気持ち良すぎてイッてたんだろ」
「は、はぁっ?! 何言ってんの? もう、バッカじゃない?!」
「だってそれ以外考えらんねーだろ」
「もうっ、あんたって奴は!! バカバカバカバカっ!! 信じらんないっ!!」
「ってっ! バカ、やめろ!」
「やめないよっ! バカっ!!」

どう見てもいちゃついてるとしか思えない痴話喧嘩の始まりに、タマがやれやれと息をついた。

「いいかい、つくし。 子どもができるようなことを散々やっておきながら今更接吻の1つや2つでギャアギャア騒ぐんじゃないよ。 全く、しょっちゅうもっと凄いことをやってるだろうに」

呆れたようにブツブツそう言うと、タマはカップに紅茶を注いでいく。
つくしは信じられない顔でぱくぱくと口を動かしている。

「な、な、なんでそんなこと・・・」
「そんなんあれだろ。毎晩のようにお前の声が邸に響いてりゃあブッ!!」

何やら恐ろしい言葉が聞こえそうになったがそんなことは封じ込めてしまおう。
うん、これで何も聞こえない聞こえない。
というかそもそも気のせいだ。 きっとそうに決まってる。

うんうん1人勝手に納得しているつくしにとどめの一言が告げられた。

「気のせいなんかじゃないさ。あんた達が毎晩のように励んでたのはこの邸の人間なら誰もが知ってることさね。なーんにも恥ずかしがることなんてないじゃないか。待望の赤ちゃんまで授かって、この上ない喜びさね」

純粋におめでたい言葉のようで・・・何か引っかかる。

毎晩のように励んでた・・・?
皆知ってる・・・?

頭の中で言葉をかみ砕いていくごとにつくしがプルプルと震え出す。
驚愕しながら顔を上げればニヤニヤ嬉しそうに口元を緩めている司と目が合った。



「 ~~~~~~~っ司っ!! タマさんっ!!! 」



悲痛とも言えるつくしの叫び声の後にタマと司の笑い声が同時にあがった。





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<大事なお知らせ>
名前予想にたくさんご参加いただいて有難うございます。まだまだ募集していますが、注意点が1つあります。予想は1つのみとさせていただきます。 「男の場合は○○、女の子の場合は△△」 こういった予想や、「男の子と予想。名前は○、△、□」 といった具合に複数揚げられているもの、いずれも無効とさせていただきます。
理由は簡単です。複数予想なら誰でも当たる可能性があるからです。そして不平等になります。
このままだと当たったとしても無効になってしまう方が複数名いらっしゃいます。
ここではお名前を挙げませんが、自分かなと思われる方は今一度ルールに沿った形でコメントを入れ直してください。男か女か、そしてその名前を1つ書いてください。(双子の場合はそれに合わせて)
せっかく参加してくださっているのでこのまま無効とならないように是非とも宜しくお願い致します。
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