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忘れえぬ人 3
2015 / 07 / 31 ( Fri )
「司様?」

ぼんやりと、何も考えずにただ窓の外に流していた意識が急に現実に引き戻される。

「・・・何だ」
「そちら・・・どうなさいましたか?」
「あ?」

意味不明な問いかけにイラッとしつつも男が指差した先へと視線を移す。
・・・と、そこには本来あるはずのものがなくなっていた。

「どこかで落とされましたか?」
「・・・記憶にねぇな」

そう口にした後であることを思い出す。

「・・・あの時か?」
「え?」
「・・・いや、なんでもねぇ」

ほんの10分ほど前にある女とぶつかったことを思い出す。
イライラしてろくに顔も見ていないが、随分間抜けなツラでこちらを見上げていた記憶だけが微かに残っている。そう言えば周囲にはあの女の荷物が散乱していたか。
大方あの時の衝撃で落ちてしまったのだろう。

・・・チッ、イライラする。

「これからどうなされますか? 代替案をお考えならば・・・」
「必要ねぇ。最初の計画通りだ」
「ですが花沢様は・・・」
「関係ねーよ。俺はやると決めたらやる。あいつが首を縦に振らないなら振らせるまでだ」
「・・・・・・かしこまりました」

この男は良きにせよ悪しきにせよ額面通りに事を進めていく。
やると言ったらやる、それもまた同じこと。
一切の説得など無意味だと判断すると、西田は手元の資料へと視線を落とした。





***





「う~~~~ん・・・」

ゴロンと寝返りを打って伸ばした手の先を見つめる。
結局あれから持ち帰ったもの。それは・・・

「道明寺司って・・・あの道明寺財閥の道明寺だよね?」

答えてくれる人間がいるわけでもないのに思わず口にしてしまう。
そしてその答えが 「イエス」 だということは状況的に見て疑いようがないわけで。










「道明寺司・・・?」

どこかで聞いたことがあるような名前につくしが考え込む。
道明寺と言えば世界に名だたる大財閥の名前だが、引っかかるのはそれだけではないような・・・

「・・・あ。」
「何か思い出した?」
「もしかして・・・あの時言ってた人?」
「正解」

ご名答とばかり類が頷いた。

「あの人が、道明寺司・・・」

ずっと前に話に聞いたことはあったが、実物は想像以上にオーラが凄かった。
少しだけ教えてもらっていたことのある人物像が、決して大袈裟なんかじゃなかったということをたったあの一瞬で身をもって知ることになろうとは。

「何も思い出せない?」
「・・・うん。 ごめん・・・」
「はは、なんで謝るのさ。 あんたは何も悪いことなんかしてないだろ?」
「でも・・・」

しょんぼりと落ち込んでしまった頭にポンポンと手がのせられる。
反射的に上げた顔は今にも泣きそうに不安でいっぱいになっていた。

「また落ち込む」
「だって・・・」
「言っただろ? 焦ったって仕方ないって。お前はお前のペースでゆっくり行けばいいって何度話した?」
「・・・うん」

この手の話になると普段の勢いがまるで嘘のように萎れてしまう。
その姿に類は呆れるように笑った。

「必ずその時は来る。今日偶然会ったのだって何かの意味があるかもしれないし、ないかもしれない。それは誰にもわからないことだし、自然の流れに身を任せな」
「・・・うん」
「ということでそのピンは牧野が自分で管理すること」
「・・・うん・・・・・・えっ!!」

ハッとして顔を上げればしてやったり顔で類が笑っている。
・・・やられたっ!

「はぁ~~、また花沢類のペースにやられちゃったよ・・・」
「人聞きの悪いこと言わないでくれる? 素直に返事したのは牧野自身だろ」
「それはそうだけどさ・・・」

思いっきり嵌められたような気がするのは気のせいなんかじゃないはずだ。

「じゃあ今度こそ本題に入るよ。次の予定だけど・・・」










「はぁ~~~、道明寺ホールディングスかぁ・・・」

結局、そのことについて類と話をしたのはそれっきりだった。
後は本来の目的を果たすべくひたすら打ち合わせに没頭するのみ。
聞いたところで余計焦りが募るだけだとわかっているせいか、彼も必要以上にその話に触れようとはしなかった。

「なんで花沢類から返してくれないんだろ・・・」

焦らなくていいと言いながらも頑としてこのタイピンを受け取ってはくれなかった。
できることなら今すぐにでも返しに行きたいくらいに持っているだけで不安でしょうがない。
彼の正体がわかった今、これを返すためには道明寺ホールディングス本社へ行かなければならないということが確定してしまった。
花沢物産へ行くだけでも憂鬱で仕方がないのに、今度は道明寺ホールディングス?!
しかも意味不明なものを持って見知らぬ女が来たともなれば・・・一体受付でどんな顔をされるというのやら。
かといってこんなものを持ち続けるなんて冗談じゃない。

もしなくしてしまったら?
もし今この部屋に強盗が押し入ったら?

無限大に広がる 「 もし 」 を考えるだけでもド庶民のつくしにとっては苦痛だ。

「明日・・・って言っても土曜日だからな~。いないかもしれないし、かえって迷惑になったら嫌だし・・・う~ん」

眩しいほどの輝きが恨めしく思えてくる。
質屋に出せば一体何ヶ月分の家賃が払えるのだろうか。

「とにかく行ってみるか。動かないことには進まないわけだし。ダメならダメでまた月曜に出直そう。うん、そうしよう!」

半ば強引に納得させるように自分に言い聞かせると、おもむろにベッドから体を起こして収納棚に手を掛けた。大した物は入っていない収納だが、その中でただ一つだけ、鍵の掛かる小さな金庫が置かれている。
明らかに不釣り合いなその箱を取り出すと、つくしは番号を入力して鍵を解除していく。
カチャッと小さな音をたてて開いた箱の中から更に小さな箱を取り出すと、テーブルの上のタイピンに並べるようにしてそっと置いた。
そしてゆっくりと、ゆっくりと、慎重に慎重を期して箱を開けていく・・・

「・・・・・・」

いつだってこの箱を開ける瞬間は言葉を失う。

驚き、感動、疑問、恐れ、
ありとあらゆる感情が同時に襲ってきて、何一つ言葉にすることなどできなくなってしまうから。

つくしはその中身を手に取ることはせずに、指の先でそっと撫でていく。

「・・・おーい、あなたはどうしてこんなところにいるの~?」

そう問いかけてみても答えなど返ってくるはずもなく。
少し視線をずらして入ってくるタイピンと交互に見比べると、用途も形も全く違うものなのに、何故だか不思議と共通点があるような気がしてならないのはどうしてなのか。
小さな物体の中に大宇宙が広がっているかのようにキラキラと輝きを放っているだけではなく、何かもっと違う共通項があるような。

「偶然にしたってこんな高価なものを2つも持ってるなんて・・・生きた心地がしないよ」

普通の女なら喜ぶところなのかもしれないが、とてもじゃないがそんな気になどなれない。
見れば見るほど 「何故?」 ばかりが頭を埋め尽くしていく。

「っ・・・! いった・・・」

そしてその後は決まって激しい頭痛に襲われる。




同じような事を繰り返してもう何年経つのか ___

考えないように、焦らないように、そう言い聞かせていても、ふとしたきっかけでこうして頭の中を占拠しては消えてくれないものがある。





自分には、どうしても取り戻せない抜け落ちた記憶があるのだということを。





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00 : 00 : 00 | 忘れえぬ人(完) | コメント(18) | page top
忘れえぬ人 2
2015 / 07 / 30 ( Thu )
「どうぞこちらへ」
「あ、ありがとうございます・・・」

案内されるまま執務室に入ると、デスクに向かって下げていた頭がふっと上がった。

「やぁ。 遅かったね」
「あ・・・ごめん。ちょっと色々あって・・・」
「別にいいよ。呼び出したのはこっちだからね。 君、もういいよ」
「あ、はい・・・」

ここまで案内してくれた秘書の女性が出しなにちらりとこちらをを振り返る。
その視線は明らかに好意を含んではおらず、つくしはそれに気付かないふりをして誰にも見えないように深く息を吐いた。

「何溜め息ついてるのさ?」

だがそんなことにすら目ざとく気付いてしまうのがこの男。
いつの間に立ち上がっていたのか、ふわりと微笑みながらこちらへ近づいてきた。

「だって・・・明らかに場違いなあたしが特別待遇でこんなところまで通してもらえるなんて・・・あの人達が不満に思うのも当然なんだもん」
「そう? 俺がいいって言ってるんだから何の問題もないでしょ」
「充分あるよ・・・」

いくら友人だとはいえ、こんな役員クラスの執務室に簡単に出入りしていいはずがない。
目の前の男はどうして自分がこんなに憂鬱になっているのか少しもわかってはいない。

「毎度毎度受付と秘書の人達の視線が痛いんだから」
「ははっ、そういう連中の妬みなんて気にする必要ないから」
「はぁ~~っ、あんた達には一生わかってもらえないんだろうね。 花沢類」

思いっきり皮肉を込めて言ってみても、相変わらずどこ吹く風で猫のように笑って見せるだけ。
どこかでこうして愚痴るのを楽しんでるんじゃないかとすら思えてくる。
度々花沢物産へ通うようになってからというもの、つくしの存在を知る一部の女性達から目の敵にされてしまっているのが辛いところだ。

「あれ、そこどうしたの?」
「え?」
「お尻のとこ、汚れてる」
「えっ!!」

まさか知らない間に月のものでも始まってしまっていた?!
慌てて後ろを押さえようと手を伸ばしたが、それよりも先に動いたのは類だった。
こともあろうにパンパンと音をたてて平然とお尻の辺りをはたいている。

「ぎゃあっ!!」

思わず出た声にその動きが止まり不思議そうな顔に変わった。

「・・・どうしたの」
「どっ、どうしたのじゃないよ! お尻! 触らないでよっ!!」

真っ赤になりながらつい今しがたまで動いていた右手を指差す。

「・・・触ってないけど?」
「触ってました!」
「スーツの泥を払っただけだけど」
「だとしてもお尻に当たってたから!」

何をそんなに怒ってるんだとばかりにキョトンとしているが、こっちからしてみればこの上なく恥ずかしいのだから当然の主張だ!

「お尻・・・?」
「ちょっとっ! 今とんでもなく失礼なこと考えてるでしょっ?!」

じーっと己の右手を見つめながら首を傾げる類の心の中など想像するに難くない。
『 どこにお尻の感触があったっけ? 』
うるさいっ、どうせ鶏ガラ女だよっ!!

「ていうかさ、なんでそんなに汚れてるの。来る途中どっかで転んだ?」
「あ・・・いや、実はね」
「・・・? あんた、今日何か香水でもつけてる?」
「え?」
「いや、今少し動いた拍子になんか匂ったから珍しいなと思って」
「ううん、香水なんて何も・・・」

そもそも持ってすらいない。
だが類の言葉にふとあることを思い出す。

「・・・あ。 もしかしたらさっきの人かも」
「さっきの人?」
「うん。あのさ、もしかしてあたしがここに来る前に誰か男の人がここに来たりした?」
「え?」

つくしの口にした言葉にサッと類の表情が変わったのを見逃さなかった。
そのほんの一瞬の変化が意味することは全く検討もつかないが、普段見せないその様子からしてどうやら図星らしいということくらいはつくしにもわかる。

「・・・なんで?」
「あ・・・いや、実は下のエレベーターに乗るときに男の人と思いっきりぶつかっちゃって。このお尻の汚れもその時に尻もちついたせいだと思うんだ」
「・・・そう。 それで?」
「えっ?」
「それで? その後どうしたの?」
「あ、えーと、なんかその男の人がすっごい怖いオーラに包まれてて。ちゃんと謝る前にいなくなっちゃった」
「・・・・・・」
「・・・類?」

話を聞いて急に黙り込んでしまった類に今度はつくしが首を傾ける。
さっきからどこか彼の様子がおかしい気がするのは気のせいだろうか。

「それだけ?」
「え?」
「何か気付いたこととかなかったの?」
「気付いたこと・・・?」

何故そんなことを聞くのだろうか。
全く意味がわからないが、彼はいつになく真剣な顔をしている。

「・・・あ。そういえばこれを拾ったの」

処分に困っていたタイピンをポケットから取り出すと、つくしは類の目の前に差し出した。

「多分あたしがぶつかった時に落ちたんだと思う。追いかけようにももうどこにも姿が見えなかったし・・・かといってこんな高価なものを持ち続けててもあたしが困るっていうか。だからもしあの人が花沢類の知り合いなんだとしたら、これは花沢類が・・・」
「お前が持ってなよ」
「え?」
「それはあんたが預かっておきな」
「・・・・・・え、なんで・・・? だって・・・」

見ず知らずの男性の高級な持ち物など預かって一体どうしろと言うのか。

「牧野が拾ったんだから。最後まで責任もってあんたが管理しな」
「そ、そんな! だってこんな高価な物・・・それに、どこの誰かもわからない上にまた会える保証なんてどこにも・・・」
「会えるよ」
「えっ?」
「必ず会えるよ」
「・・・・・・なんで、そんなこと・・・」
「・・・」

真っ直ぐ射貫くビー玉の瞳にそれ以上言葉が続かない。
今日の彼はいつもとどこか違う。
何故?
このタイピンだって知り合いだというのなら渡してくれたっていいのに。
どうしてそんな遠回りなことをさせようとするのか。

・・・わからない。
いつだってこの男の心の中は読めないけれど、今日は格段に見えない。

「じゃあ早速だけど本題に入っていい?」
「あ、うん・・・」

こちらの戸惑いなどお構いなしに相変わらずこの男はマイペースを崩さない。
だが今日ばかりはつくしも心ここにあらずでちっとも話が頭に入ってこない。
おそらくン十万・・・下手すればさらに桁が上がるかもしれないこんな代物を、特売が大親友の自分なんかが持っているなどできっこない!

類の性格を考えれば無理矢理押しつけたところで絶対に頷いてはくれないだろう。
受付の人に頼んで渡してもらう?
・・・いやいやいや、そこで万が一何かあったら責任取れる?
だったら拾得物として交番にでも届ける?
・・・って、持ち主を知ってる人間がここにいるのにそんなバカな話があるかっ!

あぁ~~~、もうっ!!!


「あのっ!」

突然大きな声で言葉を遮ったつくしを類が仰ぎ見る。

「・・・何?」
「あのさ、これ、花沢類にお願いしてさっきの人に返してくれるなんてことは・・・」
「ないね」
「・・・だよね」

わかっちゃいたけど一応聞かずにはいられなかったというか。

「じゃあさ、せめてあの人の情報だけでも何かくれない? あたしほんとにこんな高価なものを預かるなんて嫌だからさ。名前とか、勤務先とかでもわかれば届けるから。だからほんの少しでいいから何か教えてほしいの。 お願いっ!!」
「・・・・・・」

人に押しつけることもできなければこんなものを平然と持ち続けることもできない自分にできることは・・・もう拝み倒すしかないっ!
見なくても呆れたようにこっちを見下ろしてる花沢類の姿が容易に目に浮かぶけど・・・
背に腹はかえられない。



「 道明寺司 」



「 ・・・・・・・・・えっ? 」

力を入れて頭を下げていたせいでよく聞こえなかった。
間抜け面で顔を上げたつくしとは対照的に、どこかいつもよりも真剣な顔でもう一度類がその名を口にした。





「道明寺司。 その持ち主の名前」





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00 : 00 : 00 | 忘れえぬ人(完) | コメント(26) | page top
忘れえぬ人 1
2015 / 07 / 29 ( Wed )
時々、夢を見る。

その夢の中であたしはバカみたいに大口を開けて笑ってて、
一体何がそんなにおかしいの? ってくらいにとにかく笑ってるんだ。

そしてその夢には決まって誰かがいる。
でもその 「 誰か 」 はわからない。 
せいぜいわかるのは、見上げるほどの背の高さで多分男の人なんだろうなってことくらい。

いつだって 「その人」 と笑ってる。
ひたすら笑って、笑って、笑って。
そうしてひとしきり笑い終えると、急に真顔になって 「その人」 が何かを言おうと口を開くのだ。


でも、 「その人」 の口から何かが発せられようとしたその瞬間、
決まって夢は終わりを告げる。


もう何度そんな夢を見続けたのだろうか。
目が覚めてしまえば記憶も薄れて忘れてしまうけれど、
ほら、またこうして同じ夢を見る度に思い出す。



ねぇ、 「 あなた 」 は一体だれ・・・?


一体何を言おうとしているの・・・?









ピピピピピピピッ ピピピピピピピッ ピピピッ!

「う゛~~ん・・・」

バシッと張り手をかましてアラームを止めると、尚も諦めきれない体がもぞもぞと布団の中で回転を繰り返す。

「・・・・・・・・・えっ、8時っ?!!!!」

だが棚の上の置き時計をうっすらその視界に捉えると、数瞬前までの微睡みが嘘のように飛び起きた。

「やばいっ、遅刻するっ!!」

転がり落ちるようにベッドから離れると、まるで早送り再生をしているかのような動きで慌ただしく身支度を整えていった。








バンッ!!!!

「おはようございますっ!!!」

扉を壊さんばかりの勢いで入って来た女はぜぇはぁ全身で息をしている。

「おい牧野~、お前この小さい事務所をぶっ壊す気か?」
「し、しゃちょ・・・す、すま・・・せっ・・・ぜぇはぁ」

呆れ顔の社長に必死で謝罪の言葉を並べようとするが、もはや解読不能の暗号状態だ。

「ぶはっ、牧野~お前すげぇ格好してんな」
「えっ・・・?」
「一瞬ヤマンバが入って来たかと思ったぜ」
「やっ・・・? も、大塚っ! ゲホゲホゴホッ!」
「おいおい、まずは落ち着いて呼吸しろって」

バンバンと背中を叩かれながら必死で深呼吸を繰り返す。

「・・・・・・・・・はぁ~、ありがと。もう大丈夫」
「久しぶりにやらかしたんか?」
「うん、今日は本気でやばかった。でも間に合ったあたしってかなり凄くない?」

8時に起きて8時半の就業時間に間に合わせる。
ギリギリ徒歩圏に住んでいるとはいえ、我ながら自分を褒めてやりたい。

「まぁ間に合ったのはすげーかもしんねぇけど・・・お前相変わらず女を捨ててるよな」
「もうっ、さっきからうるさいよっ!」
「ハハッ、だって自分の姿を見てみろよ。多分思ってる以上にすげーぞ」

また大袈裟にからかってと思いつつ事務所内に置かれた鏡に自分を映すと、そこには少しも誇大表現などではないほどひどい有様の女がいた。
・・・女と言うには躊躇うほどに。
爆破実験でも行ったのかと思えるボサボサの髪に、身につけた服はヨレヨレに乱れまくり。

「な、想像以上だっただろ?」
「・・・もう何も言うでない」
「ぶはっ!」

一気に疲れが出てきたのか、つくしはガックリと項垂れた。

「牧野、少しくらいなら時間やるから身なりを整えてこいよ」
「社長・・・すみません、じゃあお言葉に甘えて少しだけ」
「おう、少しはいい女になって戻って来い」
「そのお約束はできません」
「ハハッ、そこは嘘でもいいからはいって言うとこだろうが」

とても上司と部下だとは思えないくだけた雰囲気の事務所は、つくしが高校卒業後すぐに就職した小さな建築事務所だ。社員はつくしを含めてわずか6人。小さな会社だが、40と比較的まだ若い社長の人望もあってか仕事の依頼は後を絶たない。
高卒はつくしだけだったが、そんな自分ですら確かな戦力として大事にしてくれる会社で働けることに、この上ないやりがいと達成感を日々感じていた。

つくしがここで事務員として働き出してもう3年の月日が流れていた。




***


「牧野、週末だし今日は久しぶりに行かねぇか?」

クイッとお酌の真似をしてみせるのは同期入社の大塚亮平だ。
高卒のつくしと大卒の大塚には4つの年齢差があるが、先のやりとりからもわかるようにそういった年齢の壁は全く存在しない。

「あ~・・・ぜひ! って言いたいところなんだけどね。 ごめん、今日はムリ」
「えっ・・・? もしかして・・・男か?」

どうしてどいつもこいつも予定がある = 男 の図式にしたがるのか。
つくしはハァッと溜め息をつくとトントンと目の前の書類を束ねて机に置いた。

「残念ながら違います。学生時代の知り合いとね、ちょっと会う予定が入ってて」
「へぇ~、お前が断るなんて珍しいからついに男でもできたかと思ったけど・・・まぁお前に限ってそれはねーか」
「もうっ、だからいちいちうるさいよっ! あんたこそ週末を一緒に過ごす女くらいいないの?!」
「別に俺がその気になれば普通にいるけど?」
「はぁ~・・・見た目がいい男ってなんでこんなんばっかりなの」
「ん? 何か言ったか?」
「・・・何でもない」

身近に存在する似たような男を思い出してげんなりする。
確かにこの男、見た目はそれなりにいい。
きっと本人が言っていることもあながち大袈裟なことでもないのだろう。
が、いかんせんその軽さがつくしには理解できなかった。
友人としてはいい男だと思うが、異性として意識するなんてことはとても考えられない。

「その気になりゃあ遊ぶ女なんていくらでもいるんだけどな。いい加減そういうのはやめて本気になろうかと思って」
「ふ~ん・・・? よくわかんないけど、まぁ頑張って。あ、じゃあ時間来たから今日はもう帰るね」

ガタガタと荷物を集めると社長のもとへと向かって一言二言言葉を交わす。
そうして退社の了承を得たのだろうか、元気よく社員に挨拶をすると意気揚々と事務所を後にした。

「・・・・・・・・・」

呆れたようにその姿を見送っていた大塚の肩にポンと手がのせられる。
振り向けばそこにはこの事務所であと1人しかいない女性、社長の妻であるその人がいた。
その顔がどこか笑いを堪えきれないようにしているのは気のせいなんかではないはずだ。

「大塚君も大変ね」
「・・・あいつの鈍感さはエベレストよりもハードルが高い気がします」
「ふふっ、それが彼女の良さなんじゃないかしら?」
「そうなんですけどね・・・こうも鈍いと時々わざとやってんじゃないかとすら思えますよ」
「クスクス・・・まぁ焦る必要はないんじゃない? じっくり時間をかけて頑張って」
「はぁ・・・」

己の人生において経験したことのない難敵の出現に、大塚はその張本人の消えた扉を恨めしげに見つめながら盛大に溜め息をついた。






***



「あ~やばい、約束の時間過ぎちゃってる」

流れる人の波に逆らうように目の前に立ちはだかる高層ビルへと急ぐ。
何度ここへ足を運ぼうとも自分の場違いっぷりを感じずにはいられない。
つくしは慣れたように裏口へと回ると、通常特別な人間しか通ることを許されないエレベーターへと急ぐ。

「あっ、ちょうど来てる!」

タイミング良く扉が開いてるのが見えてさらにその足を加速させる。


ドンッ!! 


「きゃあっ!!」


ドサッ、バサバサバサッ!!


だが基内に体を滑り込ませようとした瞬間、誰もいないと思っていた中から出てきた人物と激しくぶつかった。つくしの体は軽く吹っ飛び、思いっきり尻もちをつくと同時に手にしていた荷物が見事に散乱する。

「いったたたたたた・・・ご、ごめんなさいっ! 大丈夫ですかっ?!」

どうやら正面からぶつかった相手は転んだりしていないようで、ひとまずほっと胸を撫で下ろしながら立っている人物を仰ぎ見た。

「 ____ っ・・・! 」

だがその姿を目にした瞬間、続けようとした謝罪の言葉を思わず呑み込んだ。

目の前に立って自分を見ろしている人物 ___
その男は身も凍り付くほどの冷たい瞳を携えていたから。
はっきりとした目鼻立ちにも関わらず、その瞳は鈍い鉛のような光を放っている。

「あ、あのっ・・・!」

武者震いだろうか。
どこの誰とも知らない相手だというのに、一目見た瞬間から震えが止まらない。
きちんと謝らなければと思うのに、まるで酔っ払いのようにろれつが回らない。

「・・・・・・・・・」

青い顔をして動揺しまくるつくしをしばらくじっと睨み付けると、やがて男は言葉もなくその場から立ち去ってしまった。見るからに長い足が作り出す一歩は大きく、声をかける隙など与えられないほどにあっという間にその姿は見えなくなった。

「・・・・・・こ、怖かったぁ~・・・」

完全に見えなくなると、どっと全身から力が抜けていく。
と同時に変な汗が一気に噴き出してきた。

「怖かったけど、すっごいオーラ・・・」

そう。 震えてしまったのは単純に怖いからというだけではなく、あの言葉にできない圧倒的な存在感がそうさせていたのかもしれない。

「イタタタタ・・・お尻と腰、いったぁ~!」

脱力した途端思い出した様にあちらこちらが痛みを訴え始める。
とはいえいつまでもこんな場所で座り込んでいるわけにもいかない。
まるでお婆さんになったかのようによろよろと体を起こすと、つくしは辺り一帯に散乱した荷物を急いで拾い始めた。

「・・・・・・ん?」

その最中、やたらと光を放つ銀色の小さな物体にふと目が奪われる。

「これって・・・」

ハッとして前を見たが、当然ながらそこにはもう誰もいない。
戸惑いがちに拾い上げると、小さいながらもそれは目映いほどの輝きを伴っていた。

「すごっ・・・ネクタイピンなのにダイヤが埋め込まれてるんだけど・・・」

しかもちょっとやそっとの数ではない。
これ1つで一体いくらするのだろうかというほどびっしりと埋め込まれている。
驚きに言葉を失うと同時にはたと大事なことに気付く。

「これ、一体どうしたらいいの・・・?」

偶然ぶつかった初対面の人間に再び会える確率など、一体どれほど天文学的な数字となることか。
かといってこんな持っているだけで手が震えるような高級なものを持ち続けることなどできない。


「ここにいたってことは・・・聞けば何かわかるのかな・・・」

そう呟くと、つくしはすっかり誰もいなくなった裏口をもう一度じっと見つめた。



特徴的な髪型をした長身の男は、煌々と輝くネクタイピンだけでなく、これまでのつくしの人生で嗅いだことのない甘酸っぱい香りをもその場に残していた。






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いよいよ新作始動です! 読みながら 「ん? どういうこと?」 と思った点が多々あるかと思います。その辺りは今後徐々にわかっていきますので、是非色々と想像しながら楽しんでいただけたらと思っています^^
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春待ち人
2015 / 07 / 28 ( Tue )
「ねぇ、聞いた? 今日この会場にあの道明寺司が来るって噂」
「えぇっ、嘘でしょう?!」
「私だってそう思ったわよ! でも今日の主役本人がそう触れ回ってるって」
「あの令嬢が・・・?」

ひそひそと声を潜めながら見つめる先には、パープルのカクテルドレスに身を包んで満面の笑みを浮かべる金髪女性がいる。

「・・・すっごいドレス」
「ほんとに。元々派手好きで有名だったけど、今日はその比じゃないわね。見て、あのメイク。並大抵の気合の入れ方じゃないわよ。今から結婚式でも挙げるのかって感じ」
「なんだかあれを見てたらさっきのこともあながち嘘じゃないのかもって気になってくるわよね」
「そうね・・・」

ちょうどその時、突如会場内をどよめきが包み込む。
何事かと振り向けば、そこには今まさに噂をしていた人物が会場内に入ってくるところだった。

「あれは・・・!」
「嘘っ、本物?!」


「「 道明寺司・・・! 」」


思わず声を揃えて名を呼んだその相手。
特徴的な頭一つ分抜けた長身の男は見るからに高級だとわかるブラックスーツを身に纏い、周囲の欧米人の中にいても全く引けを取らないオーラを放っている。
むしろ彼がいることで周囲が一気に霞んでいくような。
突然現れたその男に会場内の視線が集まる中、本人だけが至ってクールなまま一直線にある場所を目指していく。

「司さん・・・!」

辿り着いた先で今にも泣きそうなほど歓喜の渦に包まれているのはさきほどの女性だ。
あの道明寺司自らがこの場に現れたことで、最近この世界でまことしやかに囁かれていたことが真実なのではないかと俄に会場内がざわつき始める。

「この度はお誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございますっ! 司さんに来ていただけるなんて・・・私本当に幸せです!」

だが溢れんばかりの喜びを爆発させている女とは対照的に、男の表情は会場に入ってきた時とほとんど変わってはいない。せいぜいほんの少しだけ口角を上げて微笑んでいる・・・ように見えなくもない程度の変化しか見られない。
その姿に、噂を一度は耳にしたことがあるであろう人間達は混乱する。

___ 噂は真実なのか否か。

このところ、大きな業務提携の水面下で双方のジュニア同士が婚約するのではないかとのスクープが雑誌を賑わせていた。
その当事者が今まさに目の前にいる2人というわけだ。
司側は最初に噂を否定してからというもの、それ以降は一貫してノーコメントを貫いていた。
だが一方で令嬢側はまんざらでもない曖昧なコメントに終始し、どちからが真実なのか判断しかねる状況が続いていた。

そんな中で令嬢の誕生日パーティにわざわざ足を運んだともなれば・・・色々と勘ぐりたくなるのも自然な感情と言わざるを得ない。


「あの・・・よろしかったら私と一曲踊っていただけませんか?」

手を差し伸べた女の顔は断られることなど露ほども想定していない。
当然のように手を取られると信じて疑わない態度は控えめな言葉をもってしても隠せてはいない。
ここで差し出された手を取れば、まだ半信半疑でいる者全てが導き出す答えは1つになる。


___ はずだった。


「・・・申し訳ありませんが。 それにお応えすることはできません」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

全く予想の範疇外だったのか、女が反応を示したのは随分と時間が経ってからのことだった。

「今・・・何と?」
「あなたのその願いにお応えすることはできないと言いました」
「そんな・・・! だって、今日ここにおいでくださったのは私のためじゃ・・・」
「私はビジネスの一環としてこちらに参っただけです」
「・・・ビジ・・ネス・・・?」

想定外の 「否や」 の返事だけに留まらず、さらに続けられた言葉はとても信じられるようなものではなかった。先程までの上機嫌が嘘のように、その顔が驚愕の色に染まっていく。

「私が自ら手を取る女はこの世に1人しか存在しません。 ・・・では、これにて」
「えっ・・・?! まっ、待ってくださいっ!」

戸惑う女になど構わず、司は軽く頭を下げると背を向けた。

「一体どうしたんだねっ?!」

突き刺さるような悲痛な声を聞きつけ人集りの向こうから恰幅のいい中年男性が現れると、女はまるで救世主が現れたかのようにホッと安堵して駆け寄った。

「パパ・・・! 司さんが・・・」
「・・・・・・司君、これはどういうことかね?」

娘の様子から大方の予想がついた男は一瞬にして険しい顔に変わると、司を睨み付けた。

「どういうこともありませんが。今娘さんにお伝えしたとおりです」
「・・・1年に1度の晴れ舞台で娘に恥をかかせると言うのかね?」
「その気もないことで不必要に期待をさせることこそ失礼だと思ったまでですが」
「何っ?!」

カッと怒りで顔を赤らめる男とは対照的に司の表情は一貫して変わらない。

「私は個人的にここに来たのではありません。あくまでも道明寺ホールディングスの1人としての義務を果たすために来たまで。・・・ではこれにて失礼します」

父親、つまりは会長を目の前にしても悪びれることもなくそう言ってのける。

「今回の契約が白紙に戻ってもいいのかっ?!」

だが、投げつけられた次の言葉に再びその足が止まった。
ざわざわと、周囲が異様な空気に包まれる中、司だけが終始動揺を見せずにゆっくりと振り返る。
・・・まるでこうなることを予想していたかのように。

「・・・それはどういう意味ですか?」
「どうもこうもない、額面通りだ。君が我が娘にそのような無礼な振る舞いをするのであれば、私は今回の提携を白紙に戻しても構わんのだぞ?」
「・・・・・・」
「もう少し年齢に見合った謙虚さというものを身につけたらどうだね? 君は自分の力でその立場にいるのだと過信し過ぎてはいないか?」

勝ち誇ったような顔で男が実に愉快そうに笑う。
・・・だが、笑ったのは彼だけではない。

「・・・クッ。 娘が娘なら親父も親父ってわけか」
「何っ?! 貴様、今何を・・・!」
「やってみろよ」
「何?」
「白紙に戻してみろよ」
「 ?! 」

思いも寄らぬ切り返しにしばし言葉を失う。
だが、これも事態を切り抜けるための若造のハッタリに違いない。

「白紙に戻して本当に困るのがどっちなのかやってみようぜ」
「・・・? お前、一体何を言っ・・・」
「何故今までマスゴミ共に好き勝手あることないこと書くのを許してたと思う?」
「何・・・?」
「俺が目的もなくそんなことを許すような男だとでも思ってたか? だとしたら随分見くびられたもんだな」
「・・・・・・」

ただのハッタリにしては目の前の男の揺るがない自信はどこからやってくるというのか。

「・・・・・・まさか・・・?!」

何かに気付いた男がハッと顔色を変えたのを見届けると、司は不敵に笑って颯爽とその場から離れて行く。

「ま、待てっ!」

血相を変えた男が必死で呼び止めるが、その足は止まるどころか速度を増していくばかり。
異様な雰囲気に包まれた会場内の視線を一身に浴びながら、長身の男は真っ直ぐに前だけを見据えて歩いて行く。その歩みに迷いは欠片もない。

まさに威風堂々。
まだ20代の若造とも言える男が、この場にいる誰よりも自信に満ち溢れて見えた。
何人たりとも近寄らせないそのオーラに、司を避けるように自然と道が開けていく。
まるで花道を抜けて行くような姿にその場にいた誰もが目を奪われると、やがて司は元来た場所から完全にその姿を消した。

「はっ・・・! ま、待てっ、待ってくれっ!」

呆然としていた男が我に返ると、慌てて司の後を追っていく。
すっかり形勢逆転したその一部始終を見ていた者達は、これまではっきりとしなかった真実の答えを目の当たりにしたことを感じていた。





***



「司様・・・!」

ホテルのエントランスで待ち構えていた秘書がその姿を確認するなり駆け寄ってくると、会場から出ると同時にタイに手を突っ込んでいた司が放り投げるようにして手渡した。

「俺の義務は果たしたぞ。これ以上は一切の口出しを認めねぇ。あの狸ジジィが追いかけてくるだろうから後の処理はお前がやれ。俺はこのまま飛行場へ向かう」
「はっ!」
「ったく、あのクソババァも最後の最後まで余計なことをしやがって・・・」
「司様、それは・・・」
「まぁいい。それも今回までだ。日本に帰ればババァの思い通りにはさせねぇからな」

忌々しげに零しながらもその顔はどこか晴々としている。
その理由は ____

「飛行場の方で西田さんがお待ちです。こちらは私が指示通りに動きますので司様は一刻も早くあちらへ」
「・・・サンキュ。 世話になったな、上田」
「司様・・・とんでもございません。私にとっても司様にお仕えした時間は大変有意義なものでした。帰国されてもどうかお元気で」
「あぁ。 遅かれ早かれまたいつか一緒に仕事する日が来るだろ」
「・・・はい! その時にはご夫婦揃ってお会いできることを楽しみにしております」
「・・・フッ、じゃあな」

上田の切り返しに一瞬だけ表情を緩めると、その場に秘書を残して司は準備されたリムジンへと乗り込んでいく。音もなく走り去る車を、上田は深々と頭を下げながらいつまでも見送り続けた。







***



ゴオオオオオと凄まじい音をたてて機体が宙に浮く。

すっかり日の暮れた眼下には、マンハッタンの眠らない街が煌びやかな光を携えている。
この中にあるはずのない光をどれだけ探しただろうか。
この空の遥か向こう、愛するただ1人の女を想って ___


「ブライアン会長が契約白紙は言葉のあやだったと謝罪してきたそうです」

西田からの予想通りの報告に堪えきれずに笑いが漏れる。

「クッ・・・あの狸ジジィ、人が下手に出てるのも気付かねーでよく今まであこまで偉そうにしてたもんだ」

敢えて能なしを演じていたことにまんまと騙された男は司をただのボンクラ2世だと舐めてかかり、水面下では着々と有利に事を進めていっていたことに気付かないなどとなんと間抜けなことか。

「あれでよく長年会長なんかやってられたもんだな」
「それだけ司様の演技が堂に入っていたということかと」

半分以上は少し前までのありのままの姿だったも同然だという言葉は呑み込む。

「ふん、あのジジィ、マスコミに金を渡してあることないこと書かせてたからな。まぁ思う存分泳いでもらった分こっちとしては好都合だったけどな」

さっきの司の強気の発言がハッタリでもなんでもなく、裏を取られてしまった何よりの証拠だと気付いて今頃慌てふためいているに違いない。
仕事に於いては切れる人間だが、娘に盲目的になるあまり綻びが出るのが玉に瑕。
だがそれこそが交渉を有利に進めたい者にとってこの上ない利点でもあった。

「今日わざわざあの場に顔を出さなくとも何の問題もなかったのに・・・あのクソババァ」

あの女の誕生日パーティに顔を出せとの厳命が下ったのは昨夜のことだった。
最高潮だった気分が一瞬にして削がれた形だ。

「あのババァ、最後の最後まで俺の妨害をしてきやがる」
「・・・あれもまた社長なりの愛情の形かと」
「はぁ?! 何ふざけたこと言ってやがる。どう考えたって嫌がらせだろうが。人がいい気持ちで今日を迎えようとしてたのに、あからさまに水を差してきたんだからな」
「・・・」
「・・・まぁ全ては今日までだ。 全てはこの日を迎えるためだったと思えば」

忌々しい気持ちですら、この先に待つ未来を思えば不思議なほどに凪いでいく。



___ 4年。

全てはこの時を迎えるためだけに。


何度お前を想って眠れぬ夜を過ごしたことか。
何度全てを捨ててお前の元へ飛んでいこうと思ったことか。

だが、いつだってそんな俺を思いとどまらせたのはお前だった。


最後に会ったのはもう1年以上も前のこと。
あの日、たった一度だけこの手でお前の本当の温もりを知った。
えも言われぬ喜びを知ったと同時に、再び手放さなければならない葛藤にどれだけ心が揺れたか。

だが、お前は気丈に笑って手を振った。
・・・今にも泣きそうな顔をしながら、最後まで笑顔のまま。

雑草のように踏まれても踏まれても起き上がる根性の持ち主のくせに、時として今にも壊れてしまいそうなほど儚げに見えることがある。
それでも、最後には決まって笑って見せる。
たとえ心の中でどんなに泣いていたのだとしても。

そんなお前の覚悟と健気さを見せつけられる度に、俺はその場に踏ん張って真っ直ぐに立っていられた。そうでなければいつ己の欲望のままに暴走していたかもわからない。
いつだってそれに気付かせてくれたのはお前だった。

狸ジジィ共との化かし合いも、ババァからの度重なる無理難題も、全てはお前との未来を掴むためと思えばこそ乗り越えられてきた。

___ 約束の日を迎える、ただそのためだけに。


見えないところでお前が涙を流していることがわかっていても、これまではどうしてやることもできなかった。そんな自分がもどかしく、己の力の無さを痛感した。
・・・だが。

これからは好きなだけ泣けばいい。
俺の前で、今までの分まで思い切り。
泣いたら泣いた分だけ、俺がその涙を拭ってやる。
流れた涙の分だけ抱きしめて、キスをして、愛の言葉を囁いて。
そうしてお前の心と体を満たしてやる。

___ 寂しいだなんて思う暇などないほどに。



「規制はかけてありますが、おそらく飛行場にはマスコミが駆けつけているかと」
「・・・・・・」

きっとお前は躊躇いながら、不安そうに待っているに違いない。
そうして俺を見た瞬間、また泣きそうな顔で笑うのだろう。

「それならそれで話は早ぇ。わざわざ会見を開く手間が省けるからな」
「・・・」
「一生に一度のことだ。 ど派手にやってやろうじゃねぇか」


不安など、躊躇いなど、全てが吹き飛ぶくらいにお前を抱きしめてやる。
余計な雑音など何一つ入らないほどに強く。
今の俺を止めることができる者などもうどこにもいない。


___ 正々堂々、今からお前を迎えに行く。


はじめは何が起こったかわからずに呆然と魂が抜けたようになるに違いない。
そうして我に返ると真っ赤になって大騒ぎするんだろう。
台本通りに騒ぎ立てるお前の姿が容易に目に浮かんで今から笑いが止まらない。


もう悲しい涙は流させない。
もう寂しい涙も流させない。
流すのは嬉し涙だけ。


これからはどんな雨風からも俺がお前を守る。
これまでお前が俺を俺でいさせてくれたように。




____ 全ては牧野、 お前を愛するためだけに。






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こちらは「222222」のキリ番企画で、ま※さまからのリクエストになります。
リクエストはGLAYの 『春を愛する人』 の曲のイメージに合わせたお話をとのことでした。
今回のリクエストで初めてこちらの曲を知ったのですが、歌詞を見てびっくり。まるでこの2人をイメージしたような曲ではありませんか!特に司の心情に重なる部分が多く、そういうことから約束の4年を終えてつくしを迎えに行く、その心情と重ねたお話を書いてみました。もっと細かくああすればよかったな、こうすればよかったなと反省する点があるのですが、ひとまずはこういった形に仕上がりました。
また、ちょい役でいいので可能であれば「上田」という人物を出して欲しいとのリクエストもありましたので、今回第2秘書という形で登場させてみました。
が、よく考えたら西田と上田。まるでどこぞのコンビ芸人みたいな感じになっちゃいました(笑)
ま※様、素敵なリクエストを有難うございました^^
00 : 01 : 50 | 春待ち人 | コメント(34) | page top
嵐は突然やってくる
2015 / 07 / 27 ( Mon )
「・・・し・・・・・・くし・・・つくし」
「ん~・・・」

ゴロンとやけに重い体をひっくり返したつくしの目の前に1人の老婆が見える。

「ん・・・タマさん・・・?」

寝ぼけ眼の頭ではタマなのかどこぞの仙人なのかいまいちよく判別がつかない。

「こらっ、誰が仙人だって?!」
「・・・え? ハッ!! た、た、タマさんっ?!」

ようやく我に返ると、つくしは慌ててはだけた布団を引っ張った。
正真正銘生まれたままの姿。
いくら同性だとはいえこんなこっ恥ずかしい姿を見られるなんて!

「っていうかどうしたんですか?! 部屋にまで入ってくるなんてめったにないのに・・・」
「あんたも随分お疲れのようだから、ゆっくり休ませてあげたいところなんだけどねぇ・・・」

意味深な言葉にカーーーッと頬が熱くなる。
寝坊の原因など言わなくとも全て筒抜けなのが死にそうに恥ずかしい。

「・・・実は旦那様と奥様がお帰りになられたんだよ」
「・・・・・・・・・・・・え?」

言われた言葉がすぐにピンと来ない。 誰が帰ってきたって?
旦那様? 奥様・・・? って・・・・・・

「・・・・・・え。 えぇえぇえっ?!!」

ガバッと飛び起きた拍子にハラリと掛け布団がずり落ちた。

「旦那様は帰られてすぐにお出掛けになったよ。奥様はいらっしゃるけど、別にあんたのことをあれこれ言っちゃいないから安心しな。・・・それにしてもあんたも毎晩御苦労なこって」
「えっ?」
「とにかく、朝食・・・というかお昼は準備できてるから、着替えたらダイニングへおいで。あまり胸元が開いた服を着るんじゃないよ」
「・・・へ?」

そう言い残してすたこら部屋を出て行くタマの後ろ姿を呆然と見つめる。
一体彼女は何を言っていたのやら。

ふと何気なく胸元に視線を下ろした・・・直後フリーズする。
そこには無数に咲き乱れた赤い花がこれでもかと存在を主張していたのだから。

「ひ、ひえええええええええっ!!!」






***



バタバタバタバタンッ!!

「おっ、おはようございますっ!! お帰りとは知らずにこんな大失態を・・・申し訳ありませんっ!」

ぜぇはぁ息を切らして入って来たつくしに表情一つ変えずに新聞から顔を上げた女性。
それは結婚以来初めての帰国となる道明寺楓、その人だ。
久しぶりの再会がこんな大寝坊の日と重なるなんて、何たる不運。
それもこれも全てはあの男が・・・!

「随分お疲れの様子ね?」
「あっ、いえ、その・・・き、今日はたまたま寝坊してしまいまして・・・申し訳ありません!」
「・・・・・・」

沈黙が痛い。
グッサグッサとつくしの全身に突き刺さってえぐり取られそうな感覚すら覚える。

「・・・はぁ」

小さくつかれた溜め息ですら体が吹っ飛ばされそうなほどの威力だ。

「・・・お食事」
「えっ?」
「まだ今日は何も口にしていないのではなくて?」
「は、はぁ、それは・・・」

今起きたばかりですから、とはもう言えない。

「もう準備ができていると聞きましたが。まずはそちらに行かれた方がよろしいのでは?」
「あっ、はい・・・すみません、それではお言葉に甘えて・・・ほんとにすみません、失礼します!」

ペッコペコとひたすら頭を下げ続けると、最後は脱兎の如く部屋から出て行った。
楓はその一部始終をやはり表情一つ変えずに見送ると、再びふぅ~っと大きく息を吐いた。





予定外の帰国をしたのは朝の8時を回った頃 ___


『 奥様! 突然のご帰国どうなされたのですか?! 』
「 これからインドネシアへ向かうのだけれど、あの人が急用で日本に立ち寄ることになったの。戻り次第すぐ発ちます 」
『 それでは今すぐに朝食の手配をいたします 』
「 軽めにしてちょうだい 」
『 かしこまりました! 』

まさかの予告無し帰国に邸中が大わらわ。
とはいえ道明寺のお邸ともなれば態勢は常に整っているため、少しも待たせることなく準備はなされた。

『 ・・・つくしさんは? 』

だが、いくら時間が経過しようとも一向に姿を現さないつくしに楓が疑問を抱く。

「 あ、えぇ、つくしは今日はちょっと疲れが溜まっているようでして・・・何かご用とあらば今すぐお呼びいたしますが? 」
『 結構です。ただ姿が見えないからどうなされたのかと思って 』
「 えぇえぇ、その通りでございますね。昨夜は司様のお帰りが遅うございましたから・・・あっ、いえいえ。 でもこんなことは滅多にないことですよ! あの子は使用人の頃から本当によく働く子でしたから。結婚されてからもそれは少しも変わらず、いつもは早起きしてお邸のことを・・・ 」
『 そんなに必死に説明しなくて結構よ 』
「 は、はい。出過ぎたことを申しました 」

いつもどっしりと構えているタマがこんなに口数を増やしてまで必死で言い募る理由など一つしか考えられない。
楓には何とも説明しづらい 『事情』 があるに他ならない。
先程の使用人の話では司はたいそう機嫌良く仕事へと向かったようで。


「・・・・・・ぶら下がったにんじんは有効に使うのがビジネスの常」

つくしの出ていった扉を見つめながらそう独りごちると、楓は携帯を取り出してどこかへと連絡を始めた。






***




「おい司~、やっと来たか。お前最近付き合いが悪すぎだろ」
「うるせーよ。お前らのしけたツラなんてわざわざ見たくもねぇんだよ」
「おーおー、結婚した途端この変わり身だぜ? 昔、真夜中だろうとお構いなしに人を叩き起こしてたのはどこのどいつだったっけなぁ?」
「知らねーな」

ドヤ顔でソファーに座り込んだ司に3人は苦笑いだ。
2人が結婚してから数ヶ月。こうして4人で集まる機会もめっきり減っていた。

「どうだよ、新婚生活ってのは」
「別に。何も変わんねーだろ」
「おいおい、嘘つくんじゃねーよ。緩む口元隠せてねーぞ」
「あぁ? んなわけねーだろうが」
「嘘じゃねーって。何を思いだしたか知んねーけど緩みまくってんぞ」

緩んでるのはお前だろうがと言いたいほど総二郎がニヤニヤしているが、自分も大差ない顔をしているのだろうか?

新婚生活・・・?
そんなん最高に決まってんだろうが。 愚問だ、愚問。
どんなに遅くなろうと邸に帰ればつくしがいて、笑っておかえりと迎えてくれる。
そんなことをされた日にゃあ・・・もう暴走を止めることなどできやしない。

「どう見たって緩んでんだろ・・・」
「てめーら人の幸せを妬んでる暇があるならさっさと自分の女を探せよ」
「はぁ~~っ?! 何をどうすりゃ妬むなんて話になんだよ」
「俺たちが羨ましくてたまんねーんだろうが」
「はぁっ?! お前なに言ってんだ」
「まぁいい。お前らがんなことを素直に認めねーのなんてわかりきったことだからな」
「「「 ・・・・・・・・・ 」」」

色ボケとはまさにこのことか。
3人はもはや反論する気力すら削がれて開いた口が塞がらない。


ピロロ~~ン♪


「お。噂をすれば何とやら。牧野からじゃねーのか?」
「あ? あぁ・・・」

響いたメールの着信音に全員の視線が集中する。

「寂しいから早く帰って来てぇ~ん! なんて書いてんじゃねーのか?」
「ギャッハハハ! 牧野に限ってそりゃねぇだろ~!」
「・・・っておい、どうしたその顔は」

まんざらでもなさそうにメールをチェックしていた司の顔がみるみる渋いものへと変わっていく。
何事かと3人は立ち上がって司の手元を覗き込んだ。
そこで見たのは・・・


『 バカバカバカバカ!!
 司のせいでとんでもない大失態しちゃったんだから!!
 もうしばらく帰って来んなっ!! (`Д´)  』


「「「 ・・・・・・・・・ 」」」

さっきまでの盛り上がりが嘘のようにシーーーンと一瞬で静まり返る。

「・・・・・・なんかよくわかんねーけどご立腹の様子だぜ?」
「おい司~、お前何やらかしたんだよ?」
「知るかっ! 俺は何もしてねぇっ!!」
「でも牧野明らかに怒ってるじゃん。司が何かしたに決まってるでしょ」
「だからなんもしてねーっつってんだろうが!」

司がそう言うのも無理はない。
実際今の今まですこぶる気分は最高潮だったのだから。
つくしが腹を立てている理由など皆目検討がつかない。


ピリリリリリッ ピリリリリリリッ ピッ!


まるでタイミングを図ったかのように響く着信音。

「もしもし、つくしか?! ・・・チッ、西田か。なんだよ、・・・え? あぁ、そういうことか。なるほどな」
「なんだ?」
「さぁな」
「・・・・・・何っ?! ふっざけんな! 誰がそんなこと・・・おいっ、ちょっ・・・!」

突然大声を張り上げたかと思えば今度は携帯を手にしていた右手がダラリと落ちてきた。
司は何故か呆然としている。

「・・・おい、一体どうしたんだよ?」
「・・・・・・ジジィとババァが帰国してるらしい」
「え? そうなのか? また急な話だな」
「もしかして牧野が怒ってたのってそれと関係してんのか?」
「・・・・・・」
「どうせあれでしょ。司のせいで牧野が寝坊とかしておばさん達の前で赤っ恥掻いたとかそういうことなんじゃないの?」
「・・・・・・」
「・・・何?」

目を見開いて自分を振り返った司に類が涼しげに答える。

「なんでお前がそんなこと知ってんだって? そんなの状況とあれだけ浮かれてた司を見れば明らかでしょ」
「さすが類。言われてみりゃあ全てが納得だな」
「で? 別におじさん達が帰国したって問題はないよな? 何をそんな怒ってんだよ」

見るからに司は怒っている。 何故?

「・・・・・・今から仕事でロシアに飛べだと」
「・・・は?」
「急遽ロシアでの仕事が入ったから西田が迎えに来るって」
「え・・・今からか?! そりゃまたえらい急な話だな・・・」
「ババァだ・・・」
「え?」
「こんな急な話なんてババァしかいねぇだろ。あんの野郎、嫌がらせしてきやがった」
「そんなバカな・・・とっくに結婚だってしてんのに今さらじゃねーか」

あきらが鼻で笑うのも当然だ。
2人の関係はとっくに認められている。だからこそ今があるわけで。

「あれじゃない? 牧野が寝坊してきたのはどう考えても司が牧野を眠らせないから。そんなに体力が有り余ってるならこの仕事もやってみろとかそんなとこでしょ。 ・・・って、だから何」
「「「 ・・・・・・ 」」」

お前は何者だと言わんばかりの視線が類に集中する。

「牧野が真面目人間だっつーのはおばさんも認めてるだろうしな。その牧野が寝坊だなんてさすがに見るに見かねたんじゃねーのか? 少しは節度のある生活をしろって」
「あぁ? 節度って何だよ! 俺はただ感情のままに・・・」
「お前はそれでよくても牧野にはハードなんだろ。そもそも体力が違いすぎんだよ。お前が本気になりゃあ多分牧野死ぬぞ。少しは加減してやれよ」
「うるせーな。お前らに何がわかんだよ! そもそも誘ってんのはあいつの方だっつの!」
「「いやいや、それはねーだろ」」

あきらと総二郎が綺麗にハモる。

「嘘じゃねぇっつの! あの女、毎日わざわざ俺の胸元まで近寄ってきて上目遣いで 『お帰り、お疲れ様』 だなんて言うんだぜ? あれが誘ってねぇっつーなら一体何なんだよ?! 俺のスイッチが入るのがわかっててやってんだから誘ってんに決まってんだろうが!」
「「「 ・・・・・・ 」」」
「なんだんだよその目はっ!!」
「うおわっ! バカ、八つ当たりすんじゃねぇ!」
「だったらそんな目で見てんじゃねぇっ!!」


「 司様。 お迎えに上がりました 」


VIPルームに響いた機械音を彷彿とさせる声に振り回していた足が止まる。
当然ながら入り口で待ち構えているのはいつにも増して真顔が憎々しい我が秘書。

「俺は行かねーぞ」
「その場合には来月から半年ほどブラジルの方へ渡ってもらうことになりますが」
「はぁっ?! てめぇ何を言ってやがる!」
「おい、司っ、落ち着けって!」

飛び出したとんでも発言に思わず大股で駆けよって胸倉を掴み上げた。
だが西田はそれでも表情を崩さない。

「これは会長直々の命です。今から1週間ほどロシアへと赴いて1つの案件を終わらせるか、あるいは来月から半年ブラジル支社へと出向するか。急なことですから選択肢はお与えになるとのことでした」

力の抜けた手から西田の体がずり落ちていった。
すぐにネクタイを正すとなおも続ける。

「私としましては前者の方がよろしいのではないかと判断してお迎えにあがったのですが・・・出過ぎたことのようでしたら来月からの出向に向けて準備に取りかからせていただきます」
「ま、待てっ!!」
「・・・何か?」

背を向けた西田を呼び止めた司の顔は苦々しい。 この上なく。
対照的に西田の顔は涼やかだ。 腹立たしいほどに。

「・・・本当に一週間なんだな?」
「はい。その点は何度も確認していますので間違いございません」
「・・・・・・わーったよ。行きゃあいいんだろ! 行きゃあ!」
「ご理解が早くて助かります」

白々しく頭をさげる態度がまた感情を逆なでする。
だがここでキレては更にどんな無理難題を押しつけられるかわかったもんじゃない。

「それではフライトの時間が迫っております。すぐに参りましょう」
「っておい、マジで邸にも戻らずこのままかよ?」
「仰るとおりです」
「・・・・・・」

一礼すると西田はさっさとVIPルームを後にしてしまった。
呆然とそれを見ていた司の背中は何故か一回り小さく見えるような。

「お、おい、司・・・ひっ!」

ドガッ!!!

思いっきり司の一撃が入った壁には穴が開いている。
手は大丈夫か?! ・・・なんて心配には及ばない。
むしろ壁の方こそ大丈夫なのだろうか。

「・・・んの野郎、次に会ったときにはブッ殺す!!!」

人を殺せるほどの眼光でそう吐き捨てると、司はそれ以上一言も発さずに歩き出した。
だが先程の言葉とは裏腹に、その背中はひどく悲しげだ。

「・・・なんつーか、売られていく子牛みてぇだな・・・」
「・・・・・・ドナドナ・・・」


「「「 ブフーーーッ!!! 」」」


鬼の居ぬ間になんとやら、見えなくなった背中に3人は盛大に吹き出した。







***




「あ、あのっ!」
「・・・何か?」

バタバタとエントランスまで追いかけてきたつくしを振り返る。

「もう行かれるんですか?」
「もともと帰る予定はなかったのです。急遽仕事の関係で立ち寄っただけのこと」
「あ・・・そうだったんですね。 ・・・あの、今朝は本当に失礼致しました!」

大寝坊したことをなお気に病んでいたつくしが再び楓に頭を下げた。

「・・・・・・あなたはあなたで色々と大変なようですけど」
「え?」
「この道明寺家、引いては道明寺財閥を繁栄させるためにはそれもまた大切な役割だと自覚することです」
「は、はぁ・・・」

楓が言わんとすることがいまいちわからない。
一体何を言っているのやら?

「とはいえ今日の疲れ具合は少々見るに見かねるものがありましたから。あなたにも時には休養も必要でしょう」
「えっ?」
「・・・しばらくはゆっくりできるのではなくて?」
「・・・え? えっ? ???」

完全にハテナ顔のつくしをじっと見つめると、ほんの一瞬だけ口元を緩めた・・・
ような気がしたのも一瞬のこと。
すぐに踵を返すと、楓はもう振り向くことなく颯爽と邸を出て行った。
取り残されたつくしだけが1人浦島太郎状態だ。


「え・・・え? なに、何? 何のことっ?!」


つくしがタマから全ての話を聞かされるのは、もう少しだけ後のこと。






「くっそおおおおおおおおお!!!! あンのクソババァ、次に会ったらブッ殺すっ!!!」




ちょうどその頃、遥か上空ではジェットすら振り落とすほどの雄叫びが上がっていた。






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こちらは「222222」のキリ番企画で、未来様からのリクエストになります。
「バカ甘カップルを」とのことで、突然の楓夫妻の帰国、でもつくしはなかなか起きてこない・・・
心配した楓がタマから事情を聞いてそれを聞いた楓はさらに西田に何かを命じる。
その何か(オチ)はお任せということで必死に考えました。
書いて気が付いたんですが・・・「バカ甘カップル」とのご要望だったのに、これじゃただの「バカな話」じゃないかっ!!ガガーン( ̄ロ ̄lll)
いやもうここは筆者の力量不足ということで・・・これが限界でしたm(__)mスンマセン・・・
楓さん、西田さん、F3、これらの役者が揃うという条件だとどうやってもこういう展開しか・・・(泣)
大丈夫!帰ってきたらきっとイイコトあるよっ!(≧∀≦) ガンバレボッチャン! ←
『嫌よイヤよもスキのうち?』 とオチが同じやんというイケズなツッコミは壁だけにして~!(笑)
ちなみにこのお話はどれにも属さない単発だとお考え下さい。
未来様、楽しいリクエストを有難うございました^^
00 : 00 : 00 | 嵐は突然やってくる | コメント(8) | page top
白の愛
2015 / 07 / 26 ( Sun )
(こちらは 「あなたの欠片」 シリーズの続編かつ番外編になります。)


「お前がこんなとこにいるなんて珍しいな」
「わっ?! あ・・・びっくりしたぁ~!」

ヌッと後ろから回された手に軽くつくしが飛び上がった。

「どうしたんだよ? じーっとドレスなんか見上げて」
「んーん。どうしたってわけじゃないんだけど・・・なんだかふっと見たくなっちゃって」

そう言ってもう一度見上げた先には純白のドレスが飾られていた。
滑らかなシルクとレースに彩られたそれは、つくしのためだけに作られた正真正銘最高級の一点ものだ。

「やっぱり何度見ても綺麗だなぁ・・・」
「へ~、そんなに見に来てんのか?」
「たまーにね。司が仕事に行ってる間に散歩ついでに見たくなったり」
「散歩ついでって・・・」
「だってこのお邸広すぎるんだもん。ここに来るまでですら立派な運動になるよ」

そう笑って撫でたお腹はすっかり大きくなっていた。すぐにその上に司の手が重ねられる。

「お前、何を準備するにもギャーギャー騒いでたよな」
「そりゃそうだよ。一般庶民のあたしからすれば別世界すぎたもん」
「普通、女なら泣いて喜びそうなもんだけどな。お前の場合別の意味で泣きそうだったからな」
「あはは、ほんとだよね~。あれも今となってはいい思い出だなぁ」






***


「お前の好きなデザインを選べよ。何なら特注で作らせても構わない」
「えっ・・・?」

入籍を済ませた足で連れて来られたのは、世界でも名だたる超高級宝飾店だった。
超VIP待遇でホテルの一室のような場所に連れてこられると、そこにはズラリと並べられた数々の結婚指輪が。豪華な照明も相まってか目を開けているのすらやっとなほどの輝きで溢れている。

「えーと、一応確認するけど結婚指輪・・・だよね?」
「お前が婚約指輪がもう一つ欲しいっつーんならそれでも構わねぇけど?」
「ちっ、違いますっ! そういうことじゃなくって!!」
「じゃあなんだよ」

つくしは既に自分の左手に鎮座している指輪をあらためて見つめた。
桜子達から億は下らないと言われた婚約指輪。
結婚指輪をするようになればこんな恐ろしいものを身につける機会がやっと減るだろうと安堵していたというのに、今目の前に並んでいるのはそれに負けず劣らず超高級品だとわかるものばかり。

「あのさ、結婚指輪って・・・石とかついてないものなんじゃないの?」
「それは人によりけりだろ。なんだ、それが嫌なのか?」
「嫌っていうか・・・これから毎日身につけるものだから壊れたらどうしようとか怖くて」
「そん時は直せばいいだけだろ」

いかにもセレブらしいアッサリとした答えだが、目ん玉が飛び出そうなほどの宝石が壊れることを想像するだけでも失神しそうだ。

「そうかもしんないけどさ・・・一生ものだからそうはしたくないっていうか」
「・・・・・・」
「・・・何?」

何故か自分を見て微かに頬を赤らめた反応につくしが首を傾げる。

「・・・お前、文句言いながらもサラッと人を喜ばせることを言うよな」
「えっ?! 何が?」
「俺との絆である指輪を肌身離さず身につけていたいとか・・・ったくお前も相変わらず遠回しな女だよな」
「え? えっ?!」

なんか相当脚色がなされてないか?!
呆気にとられるつくしをよそに、司はすこぶる上機嫌で緩む口元が隠せていない。

「まぁいい。いずれにせよお前にはそれなりのものを送りたいっつーのは俺の男としてのプライドだ。デザイン諸々はお前の好きなようにしろよ」
「う、うん。 ありがとう・・・」

なんだか腑に落ちない点もあるが、まぁ喜んでもらえたのなら結果オーライにしておこう。
つくしはそう自分を納得させると、あらためてズラリと並んだ数々の指輪を見渡した。
いずれも超高級品であることに変わりはないが、少々デザインが奇抜なものから極々シンプルなものまで、よく見れば実に様々なデザインがあることがわかる。

「あ、これ・・・」

その中の1つに、何故かふと目に止まったものがあった。
プラチナの指輪だが片方はぐるりと周囲を囲むようにダイヤが埋め込まれ、方や対照的に1つだけダイヤが埋め込まれている。おそらく値段はつくしが想像する遥か上をいくのだろうが、豪華ながらもシンプルで上品なそのデザインに心惹かれた。

「そちらのデザインコンセプトは男性側が 『あなただけを愛し続けます』 、女性側が 『あなたを無限の愛で包み込みます』 なんですよ」

じっとそれを見ていたつくしに担当の女性がニッコリ笑ってすかさずフォローを入れる。

「そ、そうなんですか・・・」

なんだかコンセプトをあらためて言われるとまるで盛大な愛の告白をしているようで照れくさい。
だが・・・

「お前これが気に入ったのか?」
「・・・うん。理由はわかんないけどなんかこれだけが目に入ってきたの」
「じゃあこれに決まりだな」

降ってきた言葉に思わず顔を上げた。

「えっ?! だってまだ全部見てないよ?」
「必要ねーよ。こういうのは直感が大事なんだよ」
「でも司の希望は・・・?」
「俺がそんなもんあると思うか? お前がいいっつーなら俺にとってはどれでも同じだ」
「・・・すんごい安いのでも?」

その切り返しにピクッと動きが止まる。

「プッ、うそうそ。 うん、そうだね。たくさん見たって迷うだけだし、司の言う通り直感で決めることにする」
「よし、じゃあ決まりだな」
「あ、ちなみにだけど・・・」
「ん?」

何かを言いかけたつくしがはたと我に返って慌てて首を振った。

「あ、やっぱり何でもない」
「なんだよ? 気になんだろ」
「ううん、いいのいいの! あ~、ほんとに綺麗なデザインだね~!」
「・・・?」

腑に落ちない顔をしているが、あれ以上聞いてしまったら眠れなくなるのはつくしの方だ。
以前もらった婚約指輪も素晴らしいものだとは思っていたが、まさか億は下らないと言われるとは思ってもいなかった。今ここでこの指輪の値段を聞いたところで・・・きっと予想の遥か上をいく答えが返ってきて卒倒するに違いない。

聞かぬが仏、知らぬが仏・・・





***



指輪を選んでから後、今度は結婚式の衣装を決めるときがやって来た。
今度はお店へ赴くのではなく、なんと邸へとその手のプロがやって来て完全オーダーメイドのドレスを作るということになった。無駄にお金をかけなくていいとつくしは主張したが、今回は司がそこにこだわりを見せた。
つくしの体のラインにピッタリ沿った、この世に1つしかないつくしにだけ似合うドレスをと。

だがその作業はつくしにとってはある意味羞恥プレイでもあった。
ただでさえ自分の体に自信がないのに、上から下までこれでもかと採寸されて恥ずかしいったらありゃしない。全てが完璧で、自信に満ち溢れた男には一生わかってもらえないだろう。

「つくしさんってバランスのいいお体されてますね」
「はっ?!」

採寸を終えたデザイナーが何かを書き込みながらサラッと言った言葉に思わず周囲をキョロキョロと見渡す。・・・だがこの部屋につくしという人間は他にいない。
・・・空耳だろうか? うん、間違いない。

「クスッ、つくしさんのことですよ。出るところは出て、引き締まるところは締まっていて、女性が憧れるプロポーションですよ」
「え・・・えぇっ?!」

そんなバカな。
確かに線は細い方だが、ただ貧相なだけの細さだ。
出るところなんて出ちゃいない。

「何かの間違いじゃないですか? 私昔から鶏ガラって言われてたんですよ?」
「そうなんですか? じゃあ年月と共に少しずつ体型も変化していったのかもしれませんね」
「え・・・ちなみにバストってどれくらいあります?」
「65のCですね」
「し、しぃっ?!」

つくしの雄叫びに室内にいた人間が飛び上がる。
それも致し方ない。 何故なら生まれてこの方Bより上に行ったことがないのだから。
しかも限りなくAに近いBだったというのに。

「あ・・・ごめんなさい。え、でもそれって本当ですか?!」
「はい、間違いありませんよ。もっと言えばDに近いCです」
「で、でぃーっ?!」

今度は完全に声が裏返った。

「おまえうるせーよ」
「ハッ?! ・・・って、司っ?! なんでここに!」
「思ったより仕事が早く終わったんだよ」
「あ、そうなんだ・・・って、キャーーーーーっ! あっち行っててよぉっ!!!」

自分が今どんな格好をしていたのかを思い出して慌ててしゃがみ込む。
だがその言葉を完全に無視した司は寄り掛かっていた壁から体を起こすと、ズカズカとつくしのいる場所までやって来た。

「バカバカバカバカ! 信じらんないっ!!」
「なにがだよ。今さらお前の下着姿見たところで驚きもしねーっつんだよ」
「そういう問題じゃないっ!」
「へー、80、60、83・・・」
「って、ぎゃ~~~~~~っ!!! 何やってんのよぉっ!」

司の手に握られた細かいサイズがびっしりと書かれたノートをバリッと奪い返す。
というかデザイナーよ、何故あっさり渡すんじゃっ!!!

「やっぱでかくなってたか」
「は、はぁっ?!」
「何となくそうじゃねーかとは思ってたんだよな」
「な、何バカなこと言ってんの?!」

信じられないとばかりにつくしの全身がまっ赤っかだ。

「バカじゃねーよ。お前の体のことならお前より俺の方がよく知ってんだよ」
「ブッ! ちょ、ちょっとぉっ! 人がいる前でなんてこと言うのよっ!!」
「いって! バカ、やめろ! お前の胸がでかくなったのだって俺様のおかげだろうが!」
「ギャーーーーーっ! もうバカバカバカバカ! このエロオヤジっ!!!」
「いてっ! マジ殴りはやめろっ! んのやろうっ・・・!」
「えっ?! キャーーーーっ! ヘンタイっ!」

サッと足を掛けられたと思った次の瞬間には床に大の字になって覆い被さられていた。
っていうか皆が見てるからっ!!!

「誰がヘンタイだと?」
「あんた以外にいるわけないでしょっ!」
「んだとぉ?」
「えっ? ひっ・・・! や、やめっ・・・!」

下着しか身につけていない心許ない腰の辺りを撫でられてゾクッと全身が粟立つ。

バシッ! ベシッ!

「テッ!」
「たっ!」

「なーにをバカなことをやってるんだい!」

突然頭に走った衝撃に2人ポカンと顔を上げる。
そこには実際の数倍以上大きく見えるタマが仁王立ちで見下ろしていた。

「た、タマさん・・・」
「次期社長夫妻ともあろう人間が人前で一体何してるんだい!」

そこかしこに散らばる高級な生地の波に沈むように、下着姿の女とスーツ姿の男が絡むようにして横たわっている。 何やってんだはごもっともな状況だ。

「ってーな。 何って見りゃわかんだろーが。邪魔すんじゃねーよ」
「ちょっとぉっ! いいからどきなさいよっ!」
「チッ」
「そこ、舌打ちしないっ!!」

漫才のようなやりとりに周囲で一部始終を見ていた者は笑いを堪えることができずにいる。

「全く・・・。 あんた達、ちょっと来てもらえるかい?」
「なんだよ。ここじゃダメなのか?」
「見てもらいたいものがあるんだよ」
「・・・?」

2人不思議そうに顔を見合わせると、急いで衣類を身につけてタマの後を追った。








「ぅわあっ・・・!」

ついて行った先で目にした清楚で美しい純白の白無垢衣装に思わず声が上がる。

「え・・・これ、どうしたんですか?」

2人の式は神前式と決めてはいたが、まだその衣装までは手が回っていない状況だった。

「奥様から届いたんだよ」
「えっ?!」

思いも寄らぬ答えにタマを二度見する。
今、なんと・・・?

「これは奥様からつくしにと贈られて来たものなんだ」
「お、お義母様が・・・?」

NYで最後に会って以降、一度も連絡は取り合っていない。
入籍の報告をしたときだって、特段何か反応があったというわけでもなく。
元々そういうドライな付き合いになっていくだろうことはわかってはいたのだが・・・
まさか、その楓がこの衣装を?!

「奥様はつくしに出会ってやはりどこか変わられたようだねぇ・・・。見てもらっただけでもわかるだろうけど、これは正絹の最高級品だよ。しかもオーダーメイド。昨日や今日頼んだからってできる代物じゃない」
「それって・・・」

言葉の続かないつくしの代わりにタマが大きく頷く。

「おそらく奥様は半年、あるいはもっと前からこの白無垢の手配をしていたはずさ。・・・つくし、あんたのためにね」
「嘘・・・」

一体いつから?
NYではあんな課題を出しておきながら、実はその時から既に・・・?

「手紙も何もない。ただこの衣装が届けられただけ。それでも、奥様のつくしへの想いは充分伝わっただろう?」
「・・・・・・」
「あの奥様が今さら優しい言葉をかけるような人間に変わるなんて無理な話さ。それでも、前の奥様だったらこんなことすら考えられないことだっただろうよ。・・・つくし、あんたが奥様を変えたんだ」
「・・・・・・ふっ・・・!」

何も話すことができない。
言葉の代わりに、涙が次から次に溢れ出してしまって。

「坊ちゃんは本当にいい方と巡り会いましたねぇ」
「おれの ”にんとく” だろ」
「グズッ・・・バカ・・・人徳でしょ? 天皇じゃないんだから・・・」
「それくらい偉いんだから大して変わんねーだろ」
「変わるよ・・・もう、ほんとに・・・ズズッ」
「お前は泣くか笑うかどっちかにしろよ」
「・・・・・・うぅ・・・泣くっ!!」
「ははっ、そっちかよ!」

振り向きざまにガバッとしがみつくと、つくしは司の腕の中で大号泣しまくった。
スーツが見るも無惨になったのはもうお約束。
それもまた一生忘れることのできない大切な思い出の1ページだ。










「まだ1年足らずなのに懐かしいねぇ・・・」

愛おしげにつくしが触れたのはドレスの横に飾られている白無垢だ。
時折こうして足を運んでは言葉にできない想いを感じていた。

「まぁあのババァにしちゃあらしくねーよな」

フンと司が鼻で笑うが、それも一種の照れ隠しだということを知っている。

「クスッ、でもある意味凄くらしくもあるよね」
「・・・タマの言った通りお前だったから、だろうな」
「・・・・・・あたしね、この子が男の子でも女の子でも、成長したらこの衣装を絶対見せようと思ってるんだ。あなたのお婆ちゃんはこんな優しい人なんだよって話したくて。・・・ここからは勝手な希望だけど、お嫁に行くときか、お嫁さんをもらうとき、この衣装が引き継がれていってくれたらもっと嬉しいなぁなんて」
「随分気が早ぇな。まだ生まれてもねーのに」
「ふふっ、だからこれは私の勝手な未来希望図」
「なんだそりゃ」
「いいの~!」



流れる穏やかな時間。
それは数多くの困難を乗り越えて来たからこそ実感できる至福の時。


この先、赤ん坊を包むこの世に1つしかないおくるみが届けられるのは・・・


あとほんの少しだけ未来の話。






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こちらは「222222」のキリ番企画で、RIN様からのリクエストになります。
リクエスト内容は 「結婚式の準備について詳しく」 というものでした。
ちょうど出産のお話も書いていたので、どうせならそこともリンクさせてしまおう! と、こういったお話に仕上がりました。 ツンデレ楓さんの愛情表現、大好物です( ´艸`)
尚、本来こちらはリクエストのカテゴリーに属するのですが、内容的に 「あなたの欠片」 シリーズの番外編となりますので、初めての人でも見落としがないようにするためにそちらにカテゴライズさせてもらいました。
RIN様、素敵なリクエストを有難うございました^^
00 : 00 : 00 | 白の愛 | コメント(11) | page top
嫌よイヤよもスキのうち?
2015 / 07 / 25 ( Sat )
「きゃ~~っ! かぁわいい~~~~っ!!」

自分には絶対聞かせてなどもらえない黄色い声が部屋中に響き渡る。
こんなにいい男を目の前にしておきながら、まっっっっっっったく眼中になど入っていやがらねぇ。

「ねぇねぇ道明寺ぃ~、すんごい可愛いよぉ~!」
「・・・・・・」

なーにが 「道明寺ぃ」 だ。
なーにが 「よぉ~!」 だ。
そんな猫撫で声、未だかつて俺に対して出したことがあったか?!
・・・気に入らねぇ。
すこぶる気に入らねぇったらねぇ。

「・・・何そんな難しい顔してんの?」
「してねーよ」
「誰がどう見たってしてるじゃん」

キョトンとした顔でこっちを見やがって。
相変わらずこの女は何にもわかっちゃいない。

目が潰れるほどのえびす顔で牧野が見ているのは数匹の猫。
前々から行きたいと言ってた 『猫カフェ』 なるものに今日は連れてこられたのだが・・・
そもそも猫カフェってなんだよ? 猫が茶でも飲むのか?
水で充分だろっ!

・・・と思って来たらどうも想像とは違っていた。
いかにも女が好みそうなファンシーな内装の店内には、5、6匹ほどの猫が自由に動き回っている。
そしていくつかのテーブル席があって、そこでは飲食をしている客がちらほら。
察するに、猫と触れ合いができるカフェなのだということが段々わかってきた。

____ が。
俺にとっては最も苦手とする場所であることに違いはない。

「道明寺って動物嫌いなんだっけ?」
「嫌いっつーかなんつーか・・・俺にはよくわかんねぇ生きもんだよな」
「動物園にも行ったことなかったんだもんね」
「見たいときにはアフリカに行けばいいだけだからな」
「はぁ~、理解できない世界だわ・・・」

俺にはこっちの方が理解できねーよ。

「つーかお前猫が好きだったのか?」
「うん、好きだよ。っていうか動物全般何でも好き。でもほら、うちってビンボーだったでしょ? 狭いアパート暮らしが当たり前だったし、そもそも飼うお金もないし。子どもの頃は動物飼ってる友達がほんと羨ましかったなぁ~」
「ふーん・・・そんなもんなのか? 俺にはよくわかんねーな」
「あはは、道明寺の場合自分が猛獣みたいなもんだからね。 ・・・っと。」

ジロリと横目で睨み付けると、牧野が明後日の方向を見て慌てて口を噤んだ。

「あ~、おいでおいで~!」

チョロチョロと牧野のところまで歩いてきた猫が嬉しそうに体に擦り寄っている。
俺のところまでゴロンゴロンという音が響いているが、どうも猫科の動物は嬉しいと喉を鳴らす生き物らしいということくらいは知っている。
そうこうしているうちに別の猫まで近づいて来た。
この女、人間だけじゃ飽き足らずこんな動物にまで引き寄せ体質なのか?!

「はぁ~~、可愛い~、癒やされるぅ~!」
「・・・たまには俺の前でもそれくらい素直になってみろよ」
「えぇ~?! ムリムリっ!」
「おい、なんで速攻で否定すんだよ」
「ムリなものはムリだから。太陽は東から昇って西に沈むのは不変、みたいな感じ?」
「・・・・・・」

どんな感じだよ!
この対照的な可愛げのなさは一体なんだっつーんだ!
俺が動物を好きになれない所以はこういうところにあるんじゃねーのか?

「ねぇねぇ、キミもこっちにおいでよ~」

数匹の猫とじゃれ合って満足したのか、立ち上がった牧野は何やら大きめのタワーの上に悠然と横たわっている猫の元へと寄っていく。
牧野の目線より上にいるその猫は、ここにいる猫の中で最もデカく毛も長い。
おそらく、それなりに高級な品種に属するのだろうということはなんとなくわかる。

「この子ね~、ノルウェージャンフォレストキャットっていう品種なんだよ」
「ノルウェー産ってことか?」
「基本的にはそうみたい。北欧の猫だからほら、毛が長くて深いでしょ? ゴージャスで気品があって、かっこいいよね~!」

俺には死んでも言わないセリフをわざとやってんのかと思えるほどに連発しまくる。
・・・まぁ確かに今ここにいる猫の中では一番高貴な雰囲気はある感じだが。

「・・・ん?」

ふと、ちょうど同じ目線にいるその猫と目が合った。
何を考えてんのか知らねーが、やたらじーーっとこっちを見てやがる。
なんだ? ガン飛ばしてやがんのか?
まるでバチバチと火花を飛ばし合うようにそのまま睨み合うと、しばらくしてフイッと猫の方が先に視線を逸らした。

「・・・こいつ、気に食わねぇな」
「え?」
「こいつだけやたらとお高くとまってやがる」
「ぷっ、何言ってるの? おーい、下りておいでよ~」

牧野が手招きすると、さっきまでのガン飛ばしがまるで嘘のようにその猫はするするとタワーの上から下りてきた。さっきまで知らん顔だったくせに急に態度を変えやがった。

「わ~い、可愛い~! いい子だね~!」

頭をわしゃわしゃと撫でられると、まんざらでもなさそうな顔で目を閉じている。

「ここ気持ちいいでしょ?」

頭から首、耳の裏までマッサージを施されると、まるで催眠術にでもかかったようにデカい図体がゴロンとひっくり返った。足を押っ広げてさっきまでのすました空気など何処へやら。

「いや~ん、可愛い~! ねぇねぇ道明寺、見てよ!」
「・・・見てんだろ」
「あたしが撫でたらこうなったんだよ? 超可愛くない?」

・・・ぶっちゃけ何が可愛いのかわからねぇ。
どうみても干物にしか見えねーぞ。 それか巨大なモップか。

「ねぇ、道明寺も少しは撫でてみなよ。凄く穏やかでいい子だよ?」
「俺はいい」
「いーから! せっかく来たんだし。ちょっと触るだけだから、ほら!」
「おいって!」

問答無用で俺の手を掴むと、牧野はそのままひっくり返った猫の元へと導いていく。

____ が!

あと数センチで触れると思われたその刹那、クルッと身を翻したそいつはシラーーーっと知らん顔で俺の目の前を横切って行きやがった。振り向きもせず背を向けたままどこへ行くかと思いきや、何やらドーム型の箱の中へと入っていく。

「・・・あ」
「何だよ?」

牧野は何かに気付いたようだが俺にはさっぱり意味がわからない。
だがそれも数秒で解決されることとなる。
座り込んでむんっと体を竦めたと思えば、砂の中にボトッとそれはそれは立派なモンが落下した。
人間顔負けのそれに砂をかけてせっせと埋め終わると、そいつはやたらとスッキリした顔で再び牧野の前へと戻って来た。

「わ~、上手にできたねぇ。すごいすごい!」

べた褒めにこの上ないドヤ顔をしながら俺の方を見ている。
こいつ、さっきからやたらと俺に対して好戦的に見えるのは気のせいか?

「つーかこいつ、俺が触る直前でク●しに行きやがった」
「ちょ、ちょっと! ここはカフェなんだからそんなこと言わないでよっ!」
「それを言うならこいつは客の前でやってんだからそっちの方が問題だろうが」
「ここは猫が自由に過ごす場所なんだからそれはいいの!」
「なんだそりゃ」
「ここで偉いのは人間じゃなくて猫の方ってこと」

フン、何が猫の方が偉いだ。 どう考えたって人間の方が上に決まってんだろうが。
チラッと見ると、またしてもすました顔でこっちを見てやがる。
だからおめーはさっきから何なんだよ!

「あ、この子男の子みたいだね。だからこんなに凜々しいんだ。納得~!」
「・・・・・・」

その言葉にピクッと眉尻が動く。
オス・・・だと?
・・・さっきから妙にビシビシと感じていた何とも言えない臨戦態勢の正体がわかった気がした。
再び奴を見ればフンと鼻を鳴らすように顎をクイッと上げやがった。

このやろう・・・!

「も~、何? 急に甘えん坊だねぇ~!」
「ンニャ~!」

案の定、見せつけるように牧野に擦りついてその名の通り猫撫で声を出している。

「おい、牧野」
「え? わぁっ?!」

左手をグイッと引き寄せると、無抵抗の体が面白いように俺の腕の中へと転がってきた。
牧野は何が起こったのかわかってないのか、目をパチパチとしばたたかせている。

「な、何っ?! いきなりどうしたの?!」
「猫ばっか構ってんじゃねーよ」
「はぁっ? 何言ってんの?! って、ちょっ・・・ここお店の中だから!」
「誰も見てねーよ」
「そういう問題じゃなくてっ・・・道明寺っ!」

膝の上に倒れ込んだままの牧野に顔を近づけていくが、相手はこの女。最初から本当にキスができるだなんて思っちゃいねぇ。 ま、俺が本気を出せばいとも簡単だけどな。
目的はキスをすることじゃねぇ。 (いや、できるもんなら喜んでやるけど)
チラッと目の前を見ると、例の猫がジーーーーッと相変わらずの目でこっちを見ている。
どうにもこうにもそのスカした態度が気に食わねぇ。
牧野は俺のもんだとでも言わんばかりのデカイ態度、誰の前でしてやがる。

お前のもんじゃねぇ、俺のもんだ!

目でそう訴えると、表情を変えないそいつはしばらくじっとしていたが、何を思ったかスッと歩き出した。

「えっ?」

驚きの声を上げたのは牧野だ。
それもそのはず。 この野郎、俺の膝の上に横たわったままの牧野の腹の上に乗って来やがった。 いや、腹というよりはほぼ胸の上か。

「やだ~、可愛い~! いい子いい子~!」
「・・・・・・」

自ら体に乗って来たのがよほど嬉しいのか、牧野は鼻の下を伸ばしてデレまくっている。
わっしゃわっしゃと撫で攻撃を受けながら、ヤツはドヤ顔で俺を見た。

・・・売られた喧嘩は買う。
相手が猫だろうとなんだろうと関係ねぇ!

「・・・この野郎、さっきから気にいらねぇんだよっ! 下りやがれ!」
「ちょっ・・・?! 道明寺っ、何すんのよっ!」
「うるせぇ、こいつはさっきから俺にやけに挑戦的な態度をとりやがる。どけっ!」
「バッカじゃない?! 猫相手に何ムキになってんのよ! やめなさいよっ!」
「いいからてめぇは下りやが・・・」


「 ファーーーーーーーーーーッ!!!! 」


無理矢理牧野の腹から引き摺り下ろそうとした瞬間、突如野郎が毛を逆立てて吠えた。

「なっ、何だ? この野郎・・・おわっ?!」

ドンッと突き飛ばされた俺の体が勢い余って後ろに転がった。

「ほらもう! 道明寺が嫌がることするから怒っちゃったじゃん。完全に道明寺が悪いんだよ」
「俺は・・・!」
「もう~、猫相手なのに手加減できない奴でごめんね? いい子いい子。ちゅ~!」
「あっ!」

目の前でこともあろうにブチューと猫の頬にキスをしたその衝撃映像にしばし時間が止まる。
・・・つーか動物にキスなんてありえねぇだろっ!!!

「もう、ここにいるとおじちゃんうるさいからあっちで遊ぼ?」

言葉も通じない猫相手にペラペラ話しかけると、牧野は呆然と佇む俺をガン無視で向こうのソファーへと離れて行った。野郎もトコトコと大人しく牧野の後をついていく。

おじちゃん・・・?
誰がだよっ!!!
天下の俺様を彼氏に持ちながらこともあろうにおじちゃんだと?! ざけんなっ!!
くっそー、全てはあの忌々しい猫野郎が・・・

「ん?」

ふと視線を感じて顔を上げると、牧野の後を歩いていたヤツがいつの間にが立ち止まってこちらを見ていた。またしても例の目でジーーーッと。

「てめぇ、さっきから何なんだよ! いちいち挑戦的な目で俺を見やがって」

言葉の通じない相手に必死に喋ってんのは俺も同じか。
だがそんなことは関係ねぇ。こいつの態度に問題があんだから。
その後しばし俺を観察すると、やがてフイッと顔を背けて再び歩き出した。
まるで 「フンッ」 と嘲笑うかのような振り返り方で。


コイツ~~~~!!
やっぱりクソ気に食わねぇっ!!
完全にこの俺を舐めてやがる。
この俺様が、猫ごときに鼻で笑われるなんぞ天地がひっくり返っても許されねぇんだよ!


「なんかさ~、この子と道明寺って似てるよね」
「・・・は?!」

膝に乗って来た野郎を撫でながら、牧野が笑ってとんでもねぇことを言い出した。
誰が誰に似てるって?

「だってさ、見た目はすごく高貴な感じでしょ? でも実際は俺様な空気をまとってふんぞり返ってるっていうか。そのくせムキになってあたしの取り合いしたりとかさ。なんかそのギャップがそっくりなんだもん」
「・・・・・・」

やけに楽しそうに大笑いしている牧野を呆然と見つめる。
・・・・・・ざけんな。 俺がこのクソ猫に似てるだと?
一体どこが似てるっつーんだよ!

どこか上から見下したようなふてぶてしい態度、そのくせ決まった女にはデレデレする。
気に入らねぇ相手には牙を向ける。
こんなクソ生意気なクソ猫野郎のどこが似てるって・・・・・・

「 ・・・・・・ 」

「 ね? そっくりでしょ? 」




ぜっっっっっっっっっっっっっっったいに似てねぇっっっっ!!!!!!!










***



「あ~、楽しかった。また来ようね」
「死んでも断る」
「え~? なんでよ~! あんなに癒やされる場所なんてないのに」
「断る」

ぶーーと牧野が不満そうに口を尖らせるが冗談じゃねぇ。

あれから時間が来るまで散々だった。
牧野は完全に俺を放置状態で奴らと戯れまくり。例の一番気に入らねぇ野郎も途中からは完全に俺の存在をアウトオブ眼中にしてやがった。むしろ俺のイライラが募れば募るほど、ふてぶてしい態度に拍車がかかっていった。

いくら牧野の頼みだろうともう二度と来ねぇ。


「あっ!」
「・・・どうした?」
「お店にストール忘れちゃった!」
「・・・俺が新しいの買ってやるよ」
「何言ってるの? そんなもったいないことするわけないでしょ。ちょっと取りに戻ってくる」

お前がそう答えるのなんてわかりきってんだよ。
それでもそう言わずにいられないほどあの場所に戻りたくねぇってことくらいわかれ!

「すぐ来るからここで待っててね!」

・・・・・・だが。

「ちょっと待て。俺が行ってきてやるよ」
「・・・え?!」

手を掴んで引き止めた俺を牧野が驚いた顔で振り返る。
自分でも何言ってんだと思うが、牧野をあの場に戻してまた野郎がいい思いをするのだけは阻止したい。だったら俺が行くのが話が早ぇ。

「あのブルーのやつだろ? すぐに持って来るからお前はそこで待ってろ」
「道明寺・・・ありがとう」


嬉しそうに微笑む牧野を残して先を急ぐと、二度と来ないと今しがた誓ったばかりの忌々しい店の中へと足を踏み入れた。すぐに店員がこちらに気付く。

「おい、ブルーのストールがなかったか?」
「あ、こちらですね。ちょうど今見つけてどうしようかと思っていたところだったんです」
「悪ぃな。もらってくぞ」

素早く目的のものを受け取ると、一目散にこの場を立ち去ろうと踵を返す。
だが振り向いたちょうどその場所にいつの間にかあの猫が座っていた。
例に違わず俺をじっと見上げた状態で。

「・・・なんなんだテメェは。どかねぇとぶっ飛ばすぞ」
「お、お客様・・・!」

笑っていた店員が俺の発言にギョッと慌て出す。

「・・・チッ!」

忌々しい気持ちを押し留めて不本意ながらも自分が猫を避けて出口の方へと向かう。
・・・と、足を一歩踏み出した瞬間、ヤツも体を起こしたかと思えばそのまま何の前触れもなく俺の足元にすりすりと擦り寄ってきた。

「・・・・・・は? なんだコイツ?」
「珍しいですね、その子はなかなかそういうことをするタイプじゃないんですが・・・。よほどお客様と波長が合ってるのでしょうね」
「・・・」

何言ってやがる。 波長が合う、だと?
この世でこれほど合わないヤツはいねぇ、の間違いじゃねぇのか?!
だが何度も何度も俺の足に擦りついてるのはどこからどう見てもヤツに違いない。

「・・・おい、どけ。あいつが待ってんだよ」

その言葉に動きを止めると、まるで言っていることが理解できているかのようにこちらをじっと見つめている。しばらくそのまま時間が過ぎると、やがてヤツは静かに店の奥へと戻っていった。

「・・・・・・一体何だったんだ・・・?」

わからねぇ。
全くもってわからねぇ。
・・・だが、不思議と不愉快な気持ちはどこにもなかった。

「つっても二度と来ねぇけどな」

言い聞かせるようにそう口にすると、牧野の待つ場所へと急いだ。







「あっ、ありがとう!」
「もう忘れんじゃねーぞ」
「うん。 ・・・あれ? 道明寺、そこどうしたの?」
「あ?」
「足元、すんごい毛がつきまくってるよ?」
「・・・」

言われて見てみれば黒のスラックスの一部にこれでもかとグレイがかった毛が貼り付いている。

・・・まさかこれが目的だったとか?
いや、いくらなんでも猫ごときがそこまで考えられないだろう。
あれだけ長ければ毛がつくのも当然の結果だろうし、気にくわねぇがやむを得ねぇ。

「・・・あ。 ここ、目やにもついてるよ?」
「何っ?!」

思わず二度見した場所には言葉にするのも忌々しいほどのブツが凄まじい存在感を示していた。

「あはは、随分すりすりされたんだねぇ~。やっぱり司も好きなんじゃん。絶対また行こうね!」

楽しそうに前を歩き出した牧野の後ろ姿がやけに小刻みに揺れて見える。
ブルブルと震えているのは手か足か。
それとも全身か。
握りしめた血管が今にもブチ切れそうだ。





「 あんのクソ野郎~~~~! やっぱりブッ殺すっっっっ!!!!! 」






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こちらは「222222」のキリ番企画で、べ※※ん様からのリクエストになります。
「キリ番にちなんで猫の出てくるお話を」 とのことで、大好物の猫話。
張りきって取りかかったはいいものの、司と猫をどう絡めるかで非常~に頭を抱えました。
そもそも司が動物嫌いですからね。ほのぼのとした話はまず望めない・・・
となれば出来上るのはほぼほぼお約束の流れかと(笑)
司そっくりの猫ちゃん、ナイスです! 坊ちゃんイジリ超たのし~~!! v(≧∀≦)v
べ※※ん様、楽しいリクエストを有難うございました^^
00 : 00 : 00 | 嫌よイヤよもスキのうち? | コメント(13) | page top
幸せの果実 42 完
2015 / 07 / 24 ( Fri )
「退院おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます。皆さんには本当に良くしていただいて・・・お世話になりました。また検診の時はよろしくお願いしますね」
「検診の時だけだなんて言わずにいつでも顔を出してください」
「あはは、ぜひそうさせてもらいます」

おくるみに身を包んだ誠を抱いたつくしの周りには黒山の人集りができていた。
無事に誠を生んでから6日目、母子ともに健康そのもので無事に退院の日を迎えた。

生後一週間足らずの誠の顔は日に日にしっかりとしてきて、今では髪の毛以外でも立派に司の子だと言えるほど似てきている。
そんな誠が看護師や助産師の人気を得ないはずはなく・・・看護師長から小耳に挟んだ話によると、日々の診察では誰が行くかの争奪戦になるほどだったらしい。

全く、イケメンに生まれるのも楽じゃない。


「よし、そろそろ行くぞ」
「あ、うん。 じゃあ皆さん、本当にお世話になりました」
「とんでもありません。誠君、また遊びに来てね」

出産の時にお世話になった助産師が誠の頭を撫でると、またしても笑ったような顔を見せる。

「この子、既に女のハートを鷲掴みする術を身につけてるんだけど」
「知るか。その辺は俺じゃなくてお前に似てんだろ」

ジトーっと自分を見上げるつくしに、心外だとばかりに大袈裟に溜め息をついた。

「は~っ?! なんでよ?!」
「人ホイホイのお前の遺伝子以外に何があるっつーんだよ。俺は簡単に愛想を振りまくような人間じゃねーのはお前がよく知ってんだろうが」
「そりゃそうだけど・・・っていうか! 人ホイホイって何よ、人ホイホイって?!」
「お前だ、お前。 新種のウイルスだろ」
「 ? ? ? ? 」
「行くぞ」

無数のハテナを浮かべている姿にクスリと密かに笑うと、司はつくしの背中に手を回した。

「あっ・・・じゃあ皆さん、本当にありがとうございました! また会いに来ます!」
「お元気で!」

ほぼ全員が揃っているのではないかと思えるほどの盛大な見送りを背に受けながら、つくし達は斎藤の待ち構えるエントランスへと向かった。
道明寺夫妻とそのご子息がめでたく退院するとの噂を聞きつけた患者達によってその道中はさながら花道のようになっていた。SPの数も大増量され、一体どこのアイドルがやって来たのかと思えるほどの大盛況ぶりだった。
てっきり司はブチ切れるかと思われたが、意外や意外、まんざらでもなさそうに笑っていた。
誠の存在がそうさせているのかと、つくしはあらためその存在の大きさを感じていた。


「司様! つくし様!」
「斎藤さんっ!」

エントランスを出ると、これ以上は待ちきれないとばかりに斎藤が駆けよって来た。
つくしに抱かれた誠を一目見ると、たちまちその目には涙が溜まっていく。

「誠様・・・お会いできて私は本当に嬉しいですっ・・・!」
「さ、斎藤さん、泣かないでください!」
「も、申し訳ありません! でも、嬉しくてっ・・・! あの司様がこうしてお子を持つ未来に立ち会えることが本当に嬉しくて嬉しくてたまらないんです・・・っ!」
「斎藤さん・・・」

うっうっと嗚咽しながら男泣きする姿につくしの目頭まで熱くなってくる。

「あの・・・よろしかったら抱っこしてあげてもらえませんか?」
「えっ!!」

まさかの申し出に一瞬にして涙が引っ込んでしまった。
つくしは笑いながら誠を差し出すと、まだ戸惑いを見せる斎藤の腕にそっと預けた。

「誠~、いつもお世話になってる斎藤さんだよ~。これからあなたもたくさんお世話になるんだから。ちゃんと挨拶しておきなさーい」
「つくし様・・・誠様・・・。 うぅっ・・・!」

腕の中に感じる小さな温もりに、堪らず再び斎藤は泣き出した。
今度こそ正真正銘の大号泣だ。

「私は本当に幸せ者ですっ・・・! 司様、つくし様、そして誠様・・・ありがとうございます・・・!」
「・・・おい、斎藤」
「はいっ!」

赤子を抱いてオーイオイと泣き続ける斎藤を見るに見かねて司が口を開いた途端、それまでの大号泣が嘘のように背筋が伸びるのはもはやパブロフ並の条件反射だろう。

「お前これから運転すんだろうが。そんなんでできんのか?」
「は、はいっ! 仰るとおりです。失礼致しましたっ!」

真っ青な顔でつくしに誠を返すと、斎藤は深々と頭を下げた。

「ちょ、ちょっと司っ! そんな言い方しなくったっていいじゃない!」
「いいえ、つくし様。司様の仰るとおりです。私たちは皆様のお命をお預かりする立場。仕事の後ならいざ知らず、する前にこんなに心を乱すなどと・・・プロとしてあるまじき行為でした。大変失礼致しました!」
「斎藤さん・・・」

言っていることは確かにもっともなことだけに何も言い返せない。
だがせっかくの雰囲気が台無しになるのも残念でならず、つくしまでシュンとしてしまう。

「いいか、斎藤。お前にはまだまだ現役でいてもらわねーと困るんだよ。誠が生まれたくらいでそんなになっててどうする? こいつの成長なんてこれから嫌ってほど見られんだ。今からそんなんじゃ寿命が縮まんだろうが」
「つ、司様・・・」

すっかり引っ込んでいたはずの涙腺があっという間に緩み始める。
だがあと少しで溢れ出すところで斎藤は慌てて目尻を拭った。

「・・・はいっ! 生きている限り一生皆様にお仕えさせていただきます! ではご自宅へ帰りましょう!」

そう言って振り向いた背中には目に見えるほどのエネルギーが満ち溢れていた。

「司・・・」
「・・・何だよ。 何か文句でもあんのか?」
「・・・ううん。 惚れ直しただけ」
「・・・は?」

思いも寄らぬ言葉に目を丸くすると、つくしが背伸びして司の耳元で囁いた。


「 大好き 」


照れくささを誤魔化すようにササーーっと斎藤の待つリムジンへと逃げると、残された司はしばしその場に立ち尽くす。

「・・・・・・・・・んの野郎。 人が手ぇ出せねー時ほど素直になりやがって」

思えば昔からそうだった。
気持ちをこれでもかと昂ぶらされておきながら肩すかしをくらったことが何度あったか。
この先もこうして振り回され続けるのも己の宿命なのだろうと思うと笑わずにいられない。

「司~、早くおいでよー!」

そんなこととは露程も気付いていない女に苦笑いしながら、司は一歩踏み出した。







***




「もうそろそろかしら?」
「予定ではそのはずだけど・・・」
「あぁ、私ってば夕べ全然眠れなかったのよ」
「あら、それを言うなら私なんて2日前からよ!」
「はぁ~~っ、ドキドキが止まらないわ~」


「 こらっ! あんた達っ!! 」


「は、はいィっ!!!」

突然落ちた雷に無駄話をしていた全員が飛び上がる。
当然のごとく彼女達に一喝できる人物など1人しかいない。

「司様たちのお帰りだよ。 急いでエントランスに集まりな!」
「・・・! は、はいっ!! 今すぐに!!」

タマの一声にパァッと笑顔を咲かせると、今度は我先にと先を急ぎだす。
そのことでまたしても雷が落ちたことは言うまでもない。






「あ~、たった一週間なのになんだか凄く久しぶりな感じがする。皆どうしてるかなぁ」
「・・・考えるまでもねーと思うけどな」
「え? 何?」
「いや、何でもねぇ」
「 ? 」

この後の大騒ぎを想像して既にうんざり気味の司を横目に斎藤がクスクス笑っている。

これまで節目には決まって邸中が大騒ぎを迎えてきたが、おそらく今回はそれまでの比ではなくなるに違いない。
つくしの出産時に病院に詰めている使用人が複数人いたが、そのいずれもまだ誠との正式な対面を果たしてはいない。せいぜい帰り際に新生児室で眠る姿を少しだけ見た程度だろうか。

それはタマも例外ではなかった。
何度も病室へ入ってゆっくり誠と対面して欲しいと願い出たが、あくまで自分は使用人だとの立場を崩そうとはせず、他の使用人と共に先に帰ってしまったのだ。
自分の背中を見せることで部下を一人前に育て上げていく。
長年使用頭として道明寺家を支え続けてきた真のプロとしてのプライドを目の当たりにした瞬間だった。

「あ~、なんかドキドキしてきた。 ね、誠?」
「あ、う゛~!」
「あはは、お返事上手だね」

笑ったように見えたり返事に聞こえたり、我が子ながらなんと絶妙なタイミングなのだろうか。
そして図ったかのようにエントランスの扉がギギギ・・・と開いていく。


「「「「「 おかえりなさいませ! 」」」」」


ただいまの 「た」 を言う暇も与えられずに一斉に使用人が頭を下げた。
廊下の先にまで続いているそれはまさに圧巻。
まるで一国の王様になったような気分だ。

「た、ただいま帰りました。無事に男の子が生まれました~! 名前は誠といいます!」
「おめでとうございます!」
「おめでとうございますっ!」
「司様、つくし様、おめでとうございますっ!」

次から次に飛んでくる祝福の嵐はとどまることを知らない。
後ろにいる使用人はよく見えない誠を一目見ようと必死で首を伸ばしている。

「可愛らしいお子さんですね! 司様にそっくりです」
「ほら、だから言ったでしょ? 司にそっくりだって」
「つーかお前ら頭見て言ってんだろうが」
「あはははっ!」

ドッとその場が沸きに沸く。

「おかえりなさいませ。司様、つくし様、そして誠様」
「タマさん・・・ただいま帰りました。お産の時にはたくさんお世話になりました」
「とんでもない。私は私の仕事をしたまでさ」
「はい、タマさん」
「 ? 」

不思議そうな顔を見せるタマにつくしが誠を手渡す。
落としてはいけないと、タマは慌ててその小さな身体を受け止めた。
それは小柄なタマをもってしても思わず小さいと言ってしまうほどの存在で。
ついさっきまで起きていたはずなのに、いつの間にか天使の寝顔で眠っていた。

「あの時はゆっくり抱っこしてもらえなかったから。今日はたーーっぷりしてもらいますよ?」
「つくし・・・」
「この子のおばあちゃんは2人いますけど、タマさんはおばあちゃんでもあり母でもあり。この子にとってかけがえのない存在ですから。これからもお世話になります」
「・・・・・・」
「おい、タマ。お前の役目はまだ終わってねぇぞ。昔死ぬまでに俺の子の顔が拝めたら本望だなんてぬかしてやがったけど、まだまだくたばらせねーからな。つーか死ぬまで扱き使うから覚悟しておけよ」
「司っ! またそんな言い方してっ!」

不敵な笑みで自分を見下ろす司からその男の生き写しのような赤子へと視線を移す。
それはまるで数十年前を彷彿とさせる寝顔だった。
あの時これほど小さかった幼子が、今こうして立派な父親となって目の前にいる。

ここまでの軌跡が一瞬にしてタマの脳裏に甦っていく。


「・・・・・・・・・仕方ありませんね」
「えっ?」

ぷりぷりと司に説教を続けていたつくしが振り返ると、タマはどこか清々しい顔をしていた。

「私はこの道明寺家に骨を埋める覚悟でここに参ったんです。坊ちゃん・・・いえ、もう旦那様とお呼びしなければなりませんね。旦那様からの直々のご命令ともあらば、タマのこの魂が燃え尽きるまで、精一杯お仕えさせていただきますよ」
「タマさん・・・」
「フン、言ったな」
「えぇ、言いましたとも」

バチバチと、まるで火花を飛ばし合うように互いを見合うと、やがてどちらからともなく笑った。
つくし1人がキツネに抓まれたような気分だが、2人の笑顔を見ていたら自然と自分も笑っていた。

「ふにゃ~~~・・・」
「おやおや、どうやらお目覚めのようだね。この泣き方はオムツかもしれないねぇ」

腕の中の赤子が小さく愚図り出してもタマは全く動じないどころか手慣れた様子だ。
こうして椿や司を育てていったのだろう。
つくしはその命のリレーに、言葉にできない感動に包まれていた。

「それじゃあ部屋に参りましょうか。誠お坊ちゃまのお部屋やベッドも完備されてますから。一度確認してもらって何か変更があれば何なりとお申し付けくださいませ」
「えっ! 誠の部屋までもうあるんですか?!」
「何かおかしなところでも?」
「え、だって、まだ赤ちゃんなのに・・・」
「椿様や司様の時には全部で5つほど部屋がありましたけどねぇ」
「い、5つっ?!」
「本当はそれと同じくらいにしてもよかったんだけどねぇ。若奥様に何て言われるかわかったもんじゃないから、とりあえずは1つだけ準備しておいたのさ」
「わ、若奥様って・・・」

もしかしなくても自分のことだろうか。

「さぁさぁ、また今日から忙しい毎日が始まるよ! 皆気合を入れて働きな!」
「「「「 はいっ!! 」」」」

鶴の一声ならぬタマの一声に威勢のいい返事が返ると、それぞれが一斉に持ち場へと戻って仕事を始めていく。その足取りは驚くほどに軽い。

「さ、旦那様と若奥様はお部屋へどうぞ」
「あっ、タマさん待ってください! っていうか足はやっ!!」

誠を抱いているにも関わらず、すたこら歩いて行くタマのスピードは老婆のそれではない。
孫ほど歳の離れたつくしの方が必死でその後を追いかけていくほど。

「おい、旦那を置いて行くんじゃねーよ」
「だってタマさんがはや過ぎるんだもん!」
「バーーーカ。 あれは俺たち2人でゆっくり来いっつってんだよ」
「えっ・・・そうなの?!」

考えもしなかった答えに思わず足が止まる。

「いかにもタマがやりそうなこった。お前もまだまだわかっちゃねーな」
「・・・はぁ~。ほんと、まだまだ私には歴史が足りないね」
「これからだろ」
「え?」

顔を上げたつくしが見たのは優しく自分を見下ろす司の姿。

「お前の歴史はこれから先作られていくんだろ。 俺たちと一緒に」
「司・・・」


『 俺たち 』 その言葉がグッと心を締め付ける。


「・・・うん、そうだね。まだまだこれから、だよね」
「そういうことだ。 ま、見ての通り子育てのサポートは万全だからな。あいつらも言ってたが、何でもかんでもお前1人で頑張ろうとすんじゃねーぞ。お前が1人で頑張れば頑張るほど使用人の仕事もなくなるっつーことを忘れんな」
「あははっ、そうだね」
「それに、2人っきりになろうと思えばいつだってなれるしな」
「えっ?!!」

その言葉に歩いていた足が再びピタリと止まる。
まさにそれを待ち構えていたかのようにすかさず司が耳元に顔を寄せた。

「お前がその気になったら俺はいつでも構わねーぜ?」
「・・・っ!!」

バッと耳を押さえたつくしの顔は言わずもがな真っ赤っか。

「ブハッ! おっまえ、何回同じ手にかかりゃー気が済むんだよ」
「~~~~、もうっ! またからかってっ!!!」
「バーカ。 言ってることはマジだっつの。ま、お前がその気にならないときは俺がその気にさせるだけの話だけどな」
「えっ・・・?!」

ニヤリと妖艶な顔で色男が微笑む。
鈍い女は言われた言葉の意味がすぐには理解できない。

「ほら、行くぞ」
「えっ? えっ? っていうか! 今のって!!」
「ギャーギャーうるせーぞ」
「だって・・・! ・・・!」



また道明寺邸の日常が戻って来た。
それはいつもと同じでどこか違う。
昨日とは少し違う新たな1ページがまた刻まれていくのだ。



そうして、彼らの軌跡・・・奇跡は今日も紡がれていく _____





< 完 >




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「幸せの果実」 ひとまずこれにて <完> とさせていただきます。
出産で一区切りした方が読み手の皆さんもわかりやすいかなと思いまして。
まだまだ彼らのこれからが見たい! というご意見も多数いただきましたので、子育て編を含むその後は 「続・幸せの果実」 として、不定期更新で皆様にお届けしていきたいと思います。
これまでの連載とは形式を変えて、 「誕生日編」 「結婚記念日編」 など、数話単位のオムニバス形式になるかもしれません。とはいってもまだ具体的なことは未定ですが(^_^;)
いずれにせよまた彼らに会えるということはお約束致しますのでどうぞお楽しみに!
ここまでの応援も有難うございました (*´∀`*)
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幸せの果実 41
2015 / 07 / 23 ( Thu )
「きゃ~、可愛い~っ!」
「すご~い、見てくださいよ。もう既に髪の毛がクルクル」
「ほんとだ~! やっぱり司の血は濃いんだね」
「まぁ薄い感じはしないですよね」
「あはははっ!」

小さな赤ん坊を囲んだ女達の目がこれでもかと輝いている。
熱視線を浴びながら誠がバタバタと手足を動かす度に黄色い歓声が上がる様子を、つくしはくすくすと笑いながら見守っていた。

「結構大変だったんだって?」
「うーん、どうなんだろう? 初めてだからよくわかんないや。でも安産にはならないのかなぁ?」
「安産っつったら数時間でスポッと生まれるイメージだけどな」
「スポッとって・・・そんな、卵産むんじゃないんだからさ」

総二郎のイメージに苦笑いだが、超安産の人は案外そんな感じなのだろうか?

つくしが無事に出産を終えて3日目。
少し落ち着いた頃を見計らっていつものメンバーが揃ってやって来た。
一度に全員が揃ったのには理由があって、バラバラに来ることはかえってつくしの負担になると考えた彼らなりの気遣いのようだ。
昔はそんなこともお構いなしのことも多々あったが・・・さすがに新生児と出産を終えたばかりの母親への配慮は必要だと思ったらしい。

「司は?」
「あー、今日は何とか説得して仕事に行ってもらったの」
「相当渋ったんじゃねぇのか?」
「それはそれはもう。最後の最後まで納得してなかった」
「だろうな」
「だから最後は西田さんに引き摺るようにして連れて行ってもらったの」
「ははは、お前もほんと変わった女だよな~。普通は旦那が休んで一緒にいてくれるっつったら喜んでいてもらうもんじゃねぇのかよ?」
「それはそうかもしれないけど・・・だって今のままだったら退院するまで休みそうなんだもん」
「そうしてもらえばいいじゃねーかよ」
「ダメだよ! もう5日も休んでもらってるんだし、司は社長なんだから。司が休んでる分他の人にしわ寄せがいってるってことだし、何も言わないけど西田さんなんかほんとに大変だと思うから」
「・・・はぁ~っ、お前もほんと欲のねぇ女だな」

心底呆れたようにあきらが言う。
普通に考えれば現状でも充分過ぎるほど恵まれてると思うのだが・・・
どうしてセレブというのはこうも口を揃えて 「欲がない」 と言うのか。

「でもさ~、あの司がお産の間ずーっとそばについててくれたんでしょ?」
「あ、うん」
「はぁ~~っ、いいなぁ~! 世の中の女達の溜め息が聞こえてきそうだわ」
「また大袈裟な・・・」

と言いながら、既に病院の看護師達ですら目がハートになっていたのが浮かんでくる。

「数年前のあいつを考えれば信じられねぇ話だよな。そもそも家庭を持つっつーことすら想像できなかったんだし」
「それ以前に女に興味なかったからな」
「そうそう。あいつ、お前に出会ってなけりゃあヘタしたら死ぬまで童貞だったんじゃねぇのか?」
「もしくはどっかで確変して俺たちですらドン引くくらいのタラシになってたか」
「あんた達・・・司がいたら絶対ぶっ飛ばされてるんだからね」

言いたい放題の男達に呆れて物も言えない。

「あいつずっとここに泊まり込んでんだって?」
「・・・うん」
「それどころかさっき看護師さん達が話してましたよ。同じベッドで寝てるって」
「ちょっとっ、桜子っ!」
「あら、文句言うなら看護師さん達にお願いできますか? 私は偶然耳にしただけなんですから」
「か~っ! いかにも司らしいっちゃらしいよな。子ども産んですぐ病室のベッドで一緒に寝るとかどんだけなんだよ」
「そのまま子作りなんかしてんじゃねぇだろうな?」

総二郎のニヤニヤ緩んだ口元を捻り上げてやりたいっ!


「てめぇら・・・あんま調子に乗ってるとマジでぶっ飛ばすぞ」

背後から聞こえてきた重低音のある声にその場にいた者が一斉に振り返った。
いつの間にドアを開けていたのか、音もなく中へ入って壁にもたれるようにして立っているのは・・・

「司っ?! どうしたの? 仕事は・・・」
「もう終わった」
「終わった?! だって、まだ夕方前・・・」
「心配すんな。やるべき仕事はちゃんとやってる。効率的にこなしてるだけだ。嘘だと思うなら西田に聞いてみろよ」
「いや、そこまではいいんだけど・・・」

エンジンがかかったときのこの男の手腕は幾度となく目の当たりにしている。
きっと西田のことだ。
つくしと誠というニンジンをぶら下げて、いかに短時間且つ質を高めて仕事をこなせるかを考えて動いているに違いない。

「よぉ~、司、お前もいよいよオヤジか」
「・・・お前ら、俺がいないのをいいことに好き勝手言いやがって」
「つーかお前いつから聞いてたんだよ」
「一生童貞の少し前くらいだな」
「・・・それほとんど全部じゃねぇか」

顔を見合わせた総二郎とあきらの顔にはやっべーと書いてある。

「誰がここで子作りしてるって?」
「ま、まぁまぁ、仲がいいのはいいことだって話だ。そう凶悪な顔で睨むんじゃねーよ」

ジリジリと近づいてくる司に2人揃ってタジタジだ。
すっかり形勢逆転でつくしは笑うのを我慢するだけでも精一杯。

「誠は? 何も変わったことはねぇか」
「あ、うん。元気元気だよ。今日は綺麗どころが揃ってるからかやけにご機嫌なの。この子案外マダムキラーなのかもね?」
「ちょっと先輩、マダムはあんまりじゃないですか」
「あはは、この子から見たら充分マダムだって」
「えぇ~~っ! まだまだ水もピチピチ弾くいい女なのにっ!」

猛抗議をしている女性陣を横目に、ベッドへ近付いて来た司の大きな手が赤ちゃんの体をいとも簡単に抱き上げた。大柄の男が抱くとその小ささが殊に強調される。

「お~っ、親子の触れ合い。いいなぁ」
「つーかあの司がオヤジかよ・・・ほんっと信じらんねぇな」
「でもその頭はどっからどう見ても血が繋がってるよな・・・」

全員の視線が2人の髪型に集中すると、まだまだ産毛にもかかわらず疑いようのないほどそっくりの巻きっぷりに、足並みを揃えたように全員が吹き出した。
ジロリと鋭い視線を向けられても誰一人我慢などできない。


「ふぁ・・・ふぎゃ~~」

と、それまで司の腕の中で大人しくしていた誠がジタバタし始めたと思ったら顔を真っ赤にして泣き出した。

「あっ、泣き出しちゃった・・・。 ごめん、あたしたちのせい?」
「ううん、多分お腹空いたんだと思う」

つくしの即答に皆驚いている。

「すごーい。もうそんなことまでわかるの?」
「え・・・いや、わかるっていうか・・・新生児が泣く理由なんておっぱいかオムツくらいだからね。二者択一みたいな。あははは」
「そっか~。なんかこの数日の間に司もつくしも一気に親になった感じがする。やっぱりお腹にいるときと実際に生まれてきてからでは全然違うんだねぇ」
「まぁ少しずつでもそうなってもらわないと困るっていうか。あはは」

司の手からゆっくりと誠を受け取ると、つくしは愛おしげにその顔を見て笑った。

「・・・どっからどう見ても母親の顔だな」
「え~? 西門さんのことだからどうせまたからかってるんでしょ」
「バカ、ちげーよ。今のはマジだ、マジ」
「・・・そう? それはそれでなんか恥ずかしいんだけど」

気が付けば全員が自分を見つめていて照れくさいったらありゃしない。

「おい、お前ら。こっから先は出ろよ」
「そうだね。赤ちゃんのご飯タイムだもんね。誠ク~ン、お腹いっぱいもらうんだよ~?」

滋が指で頬をチョイチョイっとくすぐると、ただの偶然だろうがほわんと笑って見えた。

「や~~~ん! 可愛い~~! チューしたい~~!!」
「おい、やめろ。 いいから早く出ろっつってんだろ」
「はいはーい。 じゃあちょうどいい時間だし帰ろっか」
「そうですね。 あらためまして、先輩、道明寺さん、この度はおめでとうございます」
「サンキュ」
「桜子、皆、今日は忙しい中わざわざありがとう。あたしもあと2日くらいで退院みたいだし、また今度はお邸の方にゆっくり遊びに来てよ」
「ぜひそうさせてもらいます。先輩もこれからがまた大変だと思いますけど、あまり1人で頑張ろうとせずに皆さんの手を借りてほどよく息抜きしてくださいね。見たところ、道明寺さんもイクメンになりそうですし」
「桜子・・・ありがと」

ニコリと目の前で優しく笑っている人物が昔あんなことをした人間と同一人物とはとても信じられないが、激しいバトルを繰り広げた (と言ってもその実ほぼ一方的だったが) 後には通常より固い友情で結ばれるというのはもうお約束なのかもしれない。

「じゃあ牧野、またな。 桜子の言う通り休めるときには休めよ」
「うん、ほんとにありがとう」
「類もお前に会いたがってたぞ。あと名前は俺がつけるつもりだったのにって零してたな」
「えっ? あはははっ! それは残念だったな~。じゃあ今度お願いしようかな」
「おいっ!」
「ははっ、早くも2人目宣言か? やっぱお前らここで子作りすんじゃねーぞ」

しばしきょとんとしていたが、自分の発言の意味に気付いたつくしの顔がボンッと爆発した。

「えっ・・・? や、やだっ! そういう意味で言ったんじゃないからっ!」
「どっちにしたってそういうことだろーが」
「もうっ、西門さんっ、美作さんっ!!」
「ははっ、これ以上待たせるとそのチビから怒られそうだからな。マジで行くわ」

つくしの腕の中でグズグズしている誠の頭を順に撫でていくと、最後の最後まで笑いながら部屋を出て行った。大所帯が消えた室内はいつにも増して広く見える。

「全くもう・・・。でも幸せなことだね」
「あいつら俺がいないことをわかってて狙って来やがったな」
「え、そうなの? 今日司はどうしたって聞かれたよ?」
「そんなんポーズに決まってんだろ。事前に西田に確認してるに決まってんだろうが」

完全に信じてしまっていたつくしは言葉もない。
気を使ってくれて感動していたが・・・やっぱり彼らは彼らだったということか。

「・・・プッ!」
「笑ってんじゃねーよ。 ったく、あの野郎共め・・・」
「あははは! さすがだねぇ」

これほどまでに超特急で仕事を切り上げてきたのにも妙に納得してしまう。
きっと苦々しい顔をしながら脇目も振らずに頑張ったに違いない。

「司・・・ありがとうね?」
「は? お礼言われる覚えなんてなんもねーぞ」
「いいの。言いたいだけだから」
「・・・・・・」

黙ってすぐ隣に腰を下ろした司の顔がどんどん近づいてくる。
距離が縮まるごとに一気に室内が甘い空気に満たされていくのがわかる。
その目が捉えている柔らかい感触まであと数センチ・・・


ぶにゅっ。


「・・・・・・・・・・・・オイ」

期待したよりも硬い感触に眉根が寄る。

「まずは誠をお腹いっぱいにしてあげないと。 ねっ?」
「・・・・・・」

ニッコリ笑うと、つくしはその手で誠の頭を愛おしげに撫でた。
ごそごそと目の前で授乳にとりかかる姿を司はしばし黙って見つめたまま。

「・・・そんなジロジロ見ないでよ」
「今さら何言ってんだ」
「今さらだろうとそんなに見られたら恥ずかしいの!」
「知るか。そもそもこいつが俺のもんを横取りしてんだろうが」
「横取りって・・・バカなこと言わないでよ」

あんぐりと開いた口が塞がらない。

「何なら今すぐキスしても構わねーんだぞ?」
「うっ・・・! そ、それはダメっ!!」
「だったらゴチャゴチャ言ってんじゃねーよ」
「うぅっ・・・」

一人で勝ち誇った顔をしているが、すこぶる納得がいかないような気がするのは気のせいか。
予想通りの顔を見せるつくしに満足そうに口角を上げた司がそっと耳元で囁いた。

「心配すんな。子作りはもう少し待ってやるから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なっ?!」

舐めるように囁かれた耳を真っ赤にしながら振り返ったつくしが見たのはしたり顔の男。

「~~~~~~~もうっ、司っ!!!」
「ハハハッ!」


両親のやりとりがいかなるものかわかっているのかいないのか。
やいのやいの賑やかな音を子守歌にしながら、それからしばらくして誠は眠りに落ちた。






***





「誠君、想像以上に可愛かった~!」
「ほんとですね。さすが道明寺さんのお子さんなだけあります」
「司の美貌につくしの真っ直ぐさを引き継いだらもう最強なんじゃない?」
「間違いなく将来は争奪戦でしょうねぇ・・・」
「あ~、あたしももう少し若かったらな~!」
「おいおい、冗談でも笑えねぇぞ」
「いいじゃん! 夢見るくらい許されても」
「ははっ! つーかあの司が親になったんだもんな~」
「ほんと、ここまでの道のりを考えると感慨深いよな」

「「「「「 ・・・・・・・・・ 」」」」」

それぞれがこれまでの軌跡を振り返ってしんみりと黙り込んでしまった。

「・・・あいつら、今頃ベッドの中でいちゃついてんじゃねーの?」
「え~? 誠君のお世話してるんじゃない?」
「案外さっさと寝て今は夫婦の時間になってんじゃねーの? ま、さすがに子作りまではしてねぇだろうけどな」

総二郎の茶化しに全員がドッと吹き出した。



ちょうどその頃、キスを繰り返していた2人が同時にくしゃみをしたとかしないとか。





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更新再開とお伝えしたいこと
2015 / 07 / 22 ( Wed )
いつもご訪問くださっている皆様、有難うございます。
急にお休みしたことで想像以上に皆さんにご心配をおかけてしてしまったようです。
告知する前も、そしてした後も、たくさんのコメント(拍手含む)をくださいまして本当に有難うございました。
本当はもう少し休むつもりでいたのですが、皆さんの声に後押しされて更新を再開することにしました。これは皆さんのお声があってこそです。

今回更新を再開するにあたり、私から皆さんにお伝えしておきたいことがあります。
私がこのサイトをオープンして早いものでもうすぐ9ヶ月。
きっとあっという間に1年の節目を迎えることと思います。
この間に今まで全く経験したことのなかった世界、そしてたくさんの方との出会いがありました。
ずっと読み専だった私が書き手になったのは、私の描く世界が誰か1人にでも楽しんでもらえたら、という想いからでした。

有難いことに毎日予想を遙かに上回るたくさんの方にご訪問いただいています。
ですが私自身、万人に満足してもらえる話が書けるだなんて思っていません。
ズブの素人ですから文才も語彙力もありません。それは自分が一番よくわかっています。
ただ 「花男が大好き!!」 という気持ちだけで書いています。
ですから、人によっては私の描く世界が合わない、面白くない、もっと言えば嫌いだと思う人もいるでしょう。それはそれで構いません。好みは千差万別ですから。

ですが、純粋に楽しみたいと思う気持ちに水を差す権利は誰にもないとも思っています。
私は私が描きたい世界を描き、それを面白い、好きだと思ってくれる人が1人でもいるのならば書き手としてこの上ない喜びです。
今は有難いことに、全盛期を彷彿とさせるほどに二次の世界が賑わっていますよね。
書き手になってから時間的余裕がなく、正直私自身浦島太郎状態になってしまってますが、時々書くのをやめて読み専に戻ってしまおうかと思ってしまうことすらあります。
それほどに魅力的なサイト様がたくさんいらっしゃいます。

それぞれの世界観があって、それぞれの魅力が存在する。
とても素晴らしいことだと思います。
皆さん私生活がある中、時間を割いて作品を作り出されていることと思います。
私は読み手だった頃、常々自分が 「読ませてもらっているんだ」 ということを心に留めていました。お金を払って手にするものと違って、こういった世界は書き手の皆さんのやる気と善意があってこそ成り立っていますからね。
書き手となった今、読み手の皆さんに同じように思って欲しいなんてことは全く思っていません。
ただ私が読み手に回ったときにはその気持ちは変わらず持ち続けています。むしろ、書き手になったことでその想いがより強くなったかもしれません。

そこで皆さんに伝えたいことは、読むも読まないも全ては自己責任でお願いしたいということです。
楽しくない、価値観に合わないのに無理してまで読んで欲しいとは思いません。
自己責任の上で読んでもらって、それでやっぱり合わない、嫌いだと思うのならそれで構いません。ですが私は私の描きたい世界観を変えるつもりはありませんし、自分が楽しんでやれるということ第一に考えていきたいと思っています。そうでなければ継続することは不可能です。

そういう方にはそれぞれ皆さんにあったサイト様がどこかにあるでしょうから、色んなところを探して自分好みの場所を見つけてもらえたらいいと思っています。
どうせなら読み手も書き手も楽しく、そうして二次の世界がいつまでも盛り上がっていけたらいいなと願っています。

今回予定より早く更新再開を決意したのも、 「いつまででも待ってます!」 という皆さんのお声が何より嬉しかったからです。拙い作品でもどこかで喜んでくれている人がいる。そう思うだけで 「よし書くぞ!」 というパワーをもらえます。
このところ私生活でもバタバタ忙しくて本当に余裕がなかったのですが、俄然書きたい気持ちが湧き上がってきました。
皆さん、本当に力強いお言葉を有難うございました。
1人1人にお返事せずに申し訳なく思っています。ですが、更新を再開することでその気持ちをお返ししていきたいなと思っていますので、どうぞご理解いただけましたら幸いです。



・・・と前置きが長くなってしまいましたね(^_^;)

更新は明日の定時(0時)から再開します。
まずは 「幸せの果実」 を2日連続で更新します。その後はキリ番「222222」のリクエスト作品を4連続でお届けする予定でいます。(連日なのか間を空けるかはまだ未定です)
リクエスト者様には長らくお待たせしてしまったことを申し訳なく思っています。
長らく短編スランプに陥っていたのですが・・・なんとか仕上げることができそうです。
もうすぐ公開となりますので、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです(o^^o)

それが終わってからは連載中の作品と、新しい作品に取りかかろうかと思っています。
おそらく今回も書きながら絞り込んでいく形になるかと思いますが、ざっと考えているのは

司は記憶喪失のまま渡米し、結局つくしとは別れてしまった。それから数年後、帰国した司はつくしと再会することとなるが、そこにはとある驚きの事実があって・・・?

といった内容です。わけわかんないですよね(^_^;)
また記憶喪失もの?! と思われるかと思います。私も思ってますから(笑)
でもドラマチックな展開をやろうと思うとどうしても使いやすいネタなんですよね~。別れてしまった理由としても一番わかりやすくて納得できるし(笑)
今までの記憶喪失ものとはまた一風変わった作品になっている(予定)ので、楽しんでいただけたら嬉しいです。ジレジレをお楽しみください( ̄ー ̄)


それでは、また明日から皆さんにお会いできることを楽しみにしています。
あ、私の想いが少しでも皆さんに届くようにとの願いを込めて、今日の猫ちゃんバナーは我が家の暴れん坊将軍を初お披露目いたします。ノルウェージャンの暴れん坊将軍、まだまだ我が家に来て間もない頃の可愛らしい体格の一枚です^^
今や6キロ超のビッグマンに成長してます。おデブじゃなくてガタイがいい将軍様です。

では、0時にお会いしましょう! ヾ(*´∀`*)ノ



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