タイムアップ!
2015 / 11 / 19 ( Thu ) いつもご訪問くださっている皆様、有難うございます^^
「忘れえぬ人」、いよいよクライマックスが近づいている雰囲気が漂ってますが (え、全くそうは思わない?汗)、ちょっと今日の更新はお休みさせていただきます。 今年も残すところあとひと月半。(まずそこにビックリ!( ゚Д゚)) 何かと忙しくなってまいりまして。 なかなか自分の時間が取れない日々が続いております。そんな中でも騙し騙し更新を続けてまいりましたが・・・さすがにちょっとムリがでてきてしまいました(^_^;) 終盤なのでテキトーに書くのは嫌なんですよね。ある程度しっかり頭の中で納得できたものを書いて終わらせたいと思ってますので、書くときは集中したいんです。 ・・・が! このところ思うようにいかず。ジレンマを感じております。 目標は今月中に終わらせる&100話以内におさめる! ・・・なんですけどね。私をよく知る人はきっと話半分でしか聞いてくれないでしょう(笑) 来週末から再来週にかけて確実に忙しくなることが決まってるので、なんとか今月中に完結させたいなぁとは思ってるんですが・・・はてさてどうなることやら。(今のところそこは更新が滞る可能性が大なので) ということでまずは明日の定時更新を目指してなんとか頑張ります。 万が一ムリだったときはごめんなさい。保険をかけて先に謝っておきますm(__)m ← 忙しくても皆さんのコメントや拍手にいつも力をもらって頑張れてます。 いつもありがとうございます(o^^o) そしてこれからもよろしくお願いします! ・・・しれっと要求(笑) 追伸: 今日のバナーは久々に我が家の将軍様です。 『将軍様、雪に埋もれる』 の巻 (チラ見している小汚い手についての苦情は一切受けつけませんのであしからず( ̄∇ ̄))
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忘れえぬ人 80
2015 / 11 / 18 ( Wed ) 「運命? 随分陳腐な言葉だこと」
「本当ですよね。自分でもそう思います」 もし自分が聞き手だったら笑いそうになるのを必死で耐えているに違いない。こんな青春ドラマみたいなくさいセリフを、まさかこの自分が口にする日がくるなんて夢にも思っていなかったのだから。 「でもそれ以外に形容する言葉が見つからないんです。何度出会おうとお互いの第一印象は最悪。・・・というよりあいつの視界には私の姿すらまともに映ってもいなかったんでしょうけど」 自分で言っていて思わず笑ってしまった。 犬猿の仲にすらならないほど最悪な関係。そんな2人が何度も恋に落ちる。 これが運命じゃなかったらなんだというのだ。 「記憶を失う前、記憶を失っている間、・・・そしてあいつと再会してから今に至るまで。今の私の中には全ての出来事がはっきりと存在している。そのどこを切り取っても辿り着く答えは全て同じ。そしてそれはきっと道明寺にとっても同じこと。・・・たとえマイナスからのスタートだとしても、私達は必ず同じ場所で巡り会う。そう確信したんです。・・・だから私も覚悟を決めた」 「・・・覚悟?」 「はい。何があってもその事実から目を背けないって」 「・・・・・・」 「4年前あいつに別れを告げようとしたのは、そうでもしないと目の前の現実に打ちのめされてしまうから。受け入れたくない現実から逃げるために、私は別れの道を選択しようとした。捨てられるのは自分じゃなくて向こうなんだって思いたくて」 そうだ。今になってよくわかる。 本当は別れたかったわけじゃなくて、別れることに正当な理由をつけたかっただけなのだと。 惨めな自分を認めたくなくて。目を逸らしたくて。 ・・・結局、弱い自分に負けてしまったのだ。 「希望通りにリセットされても同じ道を辿るのならば、今度こそ迷ったりしない。もしあいつが記憶を失うようなことがあるなら、またそこから始めればいい」 はっきりとそう言い切ったつくしを楓はただ黙ったまま見つめている。 ともすれば睨んでいるとも言えるような鋭い瞳で。 何を考えているのかなんて全く読めない。 いきなり押しかけて来たかと思えば小娘ごときが何の戯れ言をと思われているかもしれない。 それでも。 自分の言葉できちんと伝えたかった。 それが記憶を取り戻した自分が真っ先にすべきことだと思えたのだ。 「・・・あの子と付き合うということはただそれだけで済む問題ではない」 「・・・え?」 思わず聞き返してしまったつくしに呆れたようにふぅっと息を吐き出した。 お前はわざわざ説明しなければわからないのかと言わんばかりに。 「司はいずれこの道明寺財閥を背負って立つ身。その辺りの人間とお付き合いするのとはわけが違うのです。覚悟を決めたと簡単に仰っていますけど、あなたはそのあたりまでお考えになっていて?」 「それは・・・」 一瞬だけ言葉に詰まったのを見逃さないとばかり楓が言葉を続ける。 「平穏な日常を好むあなたにはこの世界は荷が重い。価値観の対等な人間と一緒になる方が双方への負担も減るというもの。そうすることがあなたにとってもいいことなのではなくて?」 「・・・」 彼女の言っていることは決して間違ってはいない。 道明寺夫人としてこの世界に足を踏み入れて来た時から、きっとこちらの想像を絶する試練や修羅場をくぐり抜けてきたに違いない。ただ単に道明寺とあたしを引き離したいがために言っているのではないということもわかる。 彼女だからこそ真実味のある言葉になるのだということも。 彼らがいるのは愛だ恋だなんて綺麗事だけで全てがなんとかなるような世界じゃないのだ。 「・・・そうですね。今の私には所詮想像することくらいしかできませんけど、あなたの仰るとおりなんだと思います。これまでだって価値観の違いで衝突することは幾度となくありましたから。でも、だからこそ私はあいつの傍にいたいと思ってるんです」 「・・・どういうことです?」 「お互いに記憶がないときにあいつが言ったんです。メシを美味いと思ったこともなければそれに疑問を感じたことすらねぇって。私はそれを聞いた時に胸が苦しくて仕方がなかった。確かにあいつの生きてきた世界ではそれが当たり前のことだったのかもしれない。でも、それが当たり前だなんて思って欲しくなかった。全く正反対の世界も存在するんだって知って欲しかった」 「・・・・・・」 「私は子どもみたいに笑う道明寺をもっともっと見ていたい。それを引き出せるのが自分だとするならば、何があっても離れたりしない。価値観が違うならお互いにない部分を補い合えばいい。あなたの言う厳しい世界で生きるあいつだからこそ、私みたいな人間が必要なんです。・・・人の上に立つ人間だからこそ、限られた価値観だけで生きていって欲しくない。世の中には私みたいな貧乏人がいて、でもたとえ貧乏でも幸せに生きてる人間だっている。高級な食事なんてできなくたって、それを美味しいと感じられる人間だっている。そういうことをあいつにはもっともっと知って欲しいんです!」 はぁはぁと息が上がる。おまけに歯を食いしばってなければ涙が零れ落ちそうだ。 それほどに溢れ出す感情を抑えることができない。 いつの間にあたしはあいつのことをこんなにも ____ 「・・・フッ」 「・・・えっ?」 もしかして・・・今笑った? だがハッとして仰ぎ見ても、楓の顔は少しも笑ってはいない。 表情は無のまま。 「本当に。あなたはいつまで経っても綺麗事の世界だけで生きているのね」 「・・・決して綺麗事だけで生きてきたつもりはありません。私なりに苦しいことだってありました」 「あの子にあなたが必要だと言うことはこの道明寺財閥にとってもあなたは必要だと?」 そこまで大それたことを言うつもりなんてない。 けれど、お互いが唯一無二の存在だと言うのならば ___ 「 ___ はい。 そうです 」 あたしがそれを認めなきゃだめだ。 迷うことなくそう答えたつくしを楓はただ黙って見つめている。 怒るでもなく、嘲笑うでもなく。 つくしもそんな彼女から視線を逸らさずに、次に出てくる言葉を静かに待った。 ・・・自分が言うべきことは全て伝えられたと思えたから。 「・・・よほどの自信をお持ちのようね」 それは純粋な言葉なのか皮肉が込められているのか。 微動だにしない表情からは伺い知ることはできない。 「ならばその覚悟とやらを見せていただきましょうか」 「・・・え?」 すぐにはその言葉の意味が理解できずに首を傾げた。 「あなたのその自信が本物であるか、賭けをしようではありませんか」 「賭け・・・? 一体なんの・・・」 「先に詳しく聞いてどうするのです? できない勝負ならばしないとでも?」 「っそんなことはありませんっ!」 「ならば受けて立つということでいいですね?」 「・・・賭けてその結果どうなるんです?」 返ってくる答えは十中八九決まっているだろう。 それでも確認しないわけにはいかない。 「あなたが勝った暁には今後一切あなた方の関係に口出しはしません」 「・・・負けたら?」 「金輪際あの子に、道明寺家に関わることを許しません。口をきくことすら、一生」 「・・・・・・」 ゴクッと大きな音が響く。 どんな賭けをするというのか何一つわからない。 それでも、あいつとの未来を夢見るならばこの人を避けては通れない。 その人物が提示する試練がそれだと言うならば ____ つくしは目を閉じて深呼吸すると、やがて何かを決意したように静かに目を開けた。 そして・・・ 「 やります。そして絶対に勝ってみせます 」 目の前の圧倒的なオーラに怯むことなくはっきりとそう言い切った。 「 牧野様 」 階下へのボタンを押したところでかけられた声に振り返る。 と、つくしのたっての願いを叶えてくれた人物がそこにいた。 「あ・・・西田さん。今日は無理を言ってすみませんでした。感謝しています」 普通ならばまず会えるはずのない人物と話す機会を与えてもらえたのは他でもないこの人のおかげだ。つくしはあらためて深々と頭を下げた。 「いえ、礼には及びませんのでどうかお気になさらずに。それよりも司様が急遽不在となってしまって申し訳ありません」 「えっ? いえいえいえ! それこそどうして西田さんが謝るんですか? 仕事ですし何にも気にしてません。・・・それに、結果的にあいつが今日本にいないことはあたしにとって助かりましたから」 そこで一旦言葉を区切ると、つくしは西田を仰ぎ見た。 「前にもお願いしましたけど、あたしが社長と会ったってことはあいつに言わないでもらえますか? なんだか頼み事ばかりでほんとに申し訳ないんですけど・・・どうかよろしくお願いします」 「・・・・・・それで本当によろしいのですか?」 「はい、もちろんです!」 力強く即答したつくしをしばらく見つめると、西田は静かに頷いた。 「わかりました。お約束いたします」 「わがままばかり言って本当にごめんなさい。でもありがとうございます」 「ですから礼には及びません。それよりも司様の帰国予定が当初よりも早まりそうです」 「えっ、そうなんですか?」 急な仕事で欧州数カ国を回ることになったと連絡が来たのは今から2週間ほど前。 記憶が戻って3日後のことだった。 本来であれば西田さんが同行するところなのだろうけれど、何故か今回は第2秘書を帯同して行ったらしい。その理由はもしかしなくてもあたしなのだろうか・・・と思って彼にに聞いたところでイエスと認めるはずもなく。 ただただ感謝するばかりだ。 「はい。帰国してからよほど楽しみにしていることがおありのようで。第2秘書からその働きぶりたるや凄まじいと報告がきております。・・・何かご存知ですか?」 「え? い、いやぁ~・・・なんででしょうね?! あははははは!」 わざわざ聞いてくる時点で全てお見通しなのだろうけど、それでも誤魔化さずにいられないのはもう仕様ということで。そんな乾いた笑いにツッコミを入れるかのようにポーンと小気味いい音を響かせながらエレベーターが到着した。 「あ・・・じゃあ本当にありがとうございました」 「いえ、どうかお気を付けてお帰りくださいませ。留守中に万一にもあなたに何かあればこの会社は傾いてしまいますから」 「えっ? あははははっ! はい、気をつけます。では失礼しますね」 「お疲れ様でした」 頭を下げた西田の姿が扉の向こうに消えたと同時に鞄に忍ばせていた携帯がブルッと震えた。 「・・・・・・・・・」 差出人を確認するまでもないメールは、やはり予想通りの人物からのものだった。 それを見た瞬間、つくしは閉ざされた空間で1人吹き出した。 『 俺が日本にいねぇ間に怖じ気づいて今さら旅行に行かねぇなんて逃げ出すんじゃねーぞ。その時には地獄の果てまで追いかけっからな 』 「地獄の果てまでって・・・そのセリフはあんたの専売特許かっつーの」 『 誰がよ。あんたこそ心ここにあらずで仕事したら承知しないんだからね! 』 『 お前こそ誰に言ってんだドアホ 』 『 あんた以外に誰がいるっていうのよ 』 『 バーーーーカ! すぐに帰るから待ってろよ 』 きっと電話はできない状況ながらも隙を見てメールしているに違いない。 あの男がこんなにメールのやり取りをするなんて普段ならまずありえない。 しかもこんな子どもみたいな内容を一体どんな顔でやってることやら。きっとこっちが返信する度に眉間の皺が1本ずつ増えてるに違いない。 容易に想像できすぎてまたしても笑ってしまった。 「・・・よしっ、行くか!」 『 りょーーーかい! 』 短い一言に今の想いを全て込めて返信すると、つくしは開いた扉から力強く一歩を踏み出した。
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忘れえぬ人 79
2015 / 11 / 17 ( Tue ) あいつと再会してからもうどれくらいここに来たことだろう。
わけもわからない仕事で縛り付けられて、理不尽なことで呼び出されて。 おまけに限られた者しか通れないエレベーターの使用まで許されて。 今思い出しても 「ありえない」 の連続だった。 でもその 「ありえない」 がいつしか普通のことへと変わっていった。 それはいつからだったんだろう? 自分でもその境目がよくわからない。 本当に気が付けば、ごく自然な形で 「日常」 へと変化していた。 でもそんな中で決して足を踏み入れることがなかった領域。 いや、それが許されなかった領域。 ____ あたしは今からその場所へと自ら踏み込んでいく。 閉じていた瞳をゆっくり開くと、ブラウスの上から鎖骨の辺りに手をあててギュッと力強く握りしめた。 「失礼します。牧野様をお連れ致しました」 ドクンドクンドクンドクンドクンドクン・・・! 心臓が破裂しそうなほどに暴れ回ってる。 思いっきり踏ん張ってなきゃ膝から崩れ落ちそうなほどに足が震えてる。 それでも、あたしはここから逃げ出すわけにはいかない。 そうでなきゃ ____ 「では私はここで失礼いたします」 「あ、ありがとうございました」 一礼した西田につくしも深々と頭を下げる。 と、それまでデスクに向かって何かをしていた人影がフッと顔を上げたのが横目でもはっきりわかった。つくしはゆっくりと正面に向き直ると、その人物と真っ正面から対峙した。 「・・・ご無沙汰しています。お忙しい中無理を言ってしまって申し訳ありません」 「・・・・・・」 門前払いをされる可能性だって当然覚悟していた。 本当はそうなりかけたところを西田さんがなんとかしてくれただけなのかもしれない。 それでも、何故だかこの人自身の意思で今という時間を作ってくれた、そう思えてならなかった。 それが自分の望む理由であるかまではわからない。 ただ、こうして面と向かって話をすることを頭から拒絶はされてはいない。 そう思うことが今のつくしを後押ししていた。 カタン・・・ 小さく聞こえた音に下げていた頭を上げると、目の前の女性がデスクに眼鏡を置いたところだった。 「・・・・・・あなたがここに来るということは」 眼鏡から視線がフッと自分へと向けられる。 言わんとすることがわかっていたつくしは、その先を待たずしてゆっくり頷いた。 「・・・はい。記憶が戻りました。・・・全て」 女性・・・道明寺楓は表情一つ変えずにそれを聞いている。 何を考えているのか、いくら考えたところで全くわからないほどに感情が表に出てこない。 ただ、彼女がつくしの記憶喪失について知っていたということは紛れもない事実。 司が渡米してからもずっと動向を追っていたのか、あるいは司の動向を追っていく中でつくしを調べるに至ったのか、その経緯を知る術はない。はっきりしていることは、おそらく司が帰国してから今日に至るまでの全てのことは既に彼女の知るところだということだ。 「そうですか。・・・それでわざわざ時間を作らせてまでここに来た理由は? お察しの通り私は分刻みで動く身。こうして意味のわからない時間を費やすような暇はないのです」 「わかっています。そんな中で時間を作っていただいたこと、心から感謝しています。・・・今日はお願いがあって来ました」 「・・・お願い?」 ピクリと整った眉を上げた楓をつくしはまっすぐに見つめる。 すぅっと大きく息を吸い込むと、それを吐き出すと同時に口を開いた。 「はい。・・・司さんとの交際を認めていただきたいんです」 殊の外大きな声が響いた後、室内が静まりかえった。 ピリピリと、目に見えない緊張が広い空間に充満している。 だが決してその空気に呑まれまいと、つくしは背筋をぴんっと伸ばしたまま前だけを見つめた。 「・・・・・・1年」 「・・・え?」 長い沈黙の後にようやく楓が口を開く。 「4年前、私はあなたに1年だけ死んだことにしてあげると言いました」 「 ! 」 「つまりあなたに与えた猶予はもうとうの昔に過ぎている」 「っそれはっ・・・!」 「あなた方の記憶の有無は私には一切関係のないこと。約束は約束です」 「 ___ っ 」 彼女の言うことは正論だ。 記憶喪失になったのはあくまでも個々の問題。 そんなことで条件を変えてくれるほど甘い人間じゃないということは嫌というほど知っている。 でも・・・! 有無を言わさない迫力に押されそうになりながらも、グッと足に力を入れて踏ん張り続ける。 「約束だというのならば・・・それは道明寺にとっても同じことですよね?」 「・・・どういう意味です?」 「確かに4年前、あなたは私達に1年間の猶予を与えると仰いました。そしてその後に道明寺にはアメリカに来てもらうと。約束の話をするのならば、彼もまたその義務を果たしていることになりますよね?」 「・・・つまり?」 「義務を果たした者には権利も与えて欲しい、そういうことです」 「・・・・・・」 世界を股に掛ける道明寺ホールディングスのトップ相手にただの一般人が何を言ってるんだと自分でも思う。 それでも、決して避けて通れない道ならばぶつかっていくしかないのだ。 ___ 未来を掴むためには。 じっと答えを待ち続けるつくしを一瞥すると、楓はふぅっと深く息を吐き出した。 「権利・・・ですか。随分大それたことを」 「わかっています。それでも道明寺のこの4年を無駄にしてほしくない。ちゃんと認めてあげて欲しいんです」 「・・・記憶のことは?」 その問いかけにつくしが首を振る。 「誰の意見にも左右されずに自分の意思であなたに会いたかった。だから何も言ってません」 「・・・・・・」 「4年前に道明寺が渡米すると知った日、私はあいつと決別するつもりでいました。記憶がないからって黙っていなくなるなんて許せない。人の人生引っかき回しておきながら、何事もなかったようにいなくなるなんて絶対に嫌だった。・・・だから言いたいことを全部ぶちまけて、それでも気が済まなかったら一発でも何発でもぶん殴って、そうしてあいつとの全てに終止符を打とう、そう思ってました」 何も聞かれていないのに、溢れ出す言葉はとどまることを知らない。 「でもその道中で事故に遭って・・・何の因果か私まで記憶を失って。結果的には自分が望んだように本当の意味であいつとの関係にピリオドが打たれた。・・・・・・そのはずでした」 「・・・・・・」 「でも私達はもう一度出会ってしまった。4年前と何一つ変わらない、最悪の出会い方で」 今思い出すと笑えてくる。 そう、いつだってあたしたちの出会いは最悪だ。 そして・・・ 「・・・最悪だったはずなのに、気が付けばお互いにとってかけがえのない存在へと変わっていった。記憶を失って全てが真っさらな状態で、私達はもう一度恋に落ちたんです。・・・そうして今、私だけが記憶を取り戻した」 「・・・・・・」 そこまで言い終えるとつくしはキュッと唇を閉じ、あらためて楓を見据えた。 「全てを思い出した私は自分でも驚くほど冷静でした。波が押し寄せるように失った記憶が自分の中に溢れ出して・・・そして辿り着いたのはただ一つの真実だけでした」 「・・・真実?」 表情を全く変えずに声のトーンだけで微妙な変化を見せる楓につくしはゆっくりと頷いてみせた。 「 私達はどうやったって自分達の運命に抗うことはできないのだと 」
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忘れえぬ人 78
2015 / 11 / 16 ( Mon ) 波の音が聞こえる・・・
『 俺はおまえが好きだ 』 『 あたしたちこないだからつきあってますっ・・・! 』 『 あんたが好きだって言ってるじゃないっ! このぼけなすっ!! 』 『 牧野、行くぞ! 』 『 誰? 』 『 てめぇみたいな女は大嫌いだ。うせろ 』 『 ・・・もうこれで終わりにするんだ 』 あぁ・・・波のように全てが押し寄せてくる。 そうか・・・そうだったのか・・・ あたしは・・・あたしは・・・ 道明寺、あんたのことを _____ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「気が付いたか?」 ぼんやりする頭にはっきりと聞こえてきた声に目だけを動かす。 「・・・・・・」 「大丈夫か? お前いきなりぶっ倒れっからびびったぞ。一応医者に診てもらったけどどこにも異常はねぇって。気分はどうだ?」 「・・・・・・」 「おいどうした、マジで大丈夫か?」 「・・・・・・大丈夫だよ。ありがとう」 ようやく返ってきた言葉に目の前の男がほっと安堵の息を吐き出す。 「・・・ここは?」 「あぁ、うちの邸に連れて来たんだ。異常はねぇってことだったし、万が一何かあればここでも対応はできるしな」 「そっか・・・」 ふかふかのベッドに細部まで手の施された天井。 どうりでどこか既視感があると思った。 「さっきは怖い思いさせてマジで悪かったな」 「え・・・?」 そこまで言われて初めて思い出す。意識を失うきっかけになった出来事を。 「あっ・・・! 怪我は?! 道明寺の怪我はっ・・・!」 予想していたかのようにサッと腕が差し出された。 男らしいその腕の一部には包帯が巻かれている。 「見ての通りなんの問題もねぇ。縫ってもいねぇしこうしてるのはバイ菌を入れないための念のため処置だとよ。思いの外出血したのが予定外だったが、傷自体は深くもねぇし何も気にすることなんてねーよ」 「・・・本当に?」 「嘘だと思うなら主治医に聞いてみろ」 「・・・ううん、信じる」 「お前こそあの男に怪我させられてねーか? 一応一通り調べてはみたけど、どっかおかしいとこがあるなら・・・」 聞き捨てならない言葉にガバッと体を起こした。 「・・・調べてみたって・・・どういうこと?」 「あのクソ野郎、ナイフでお前のことを脅してやがっただろ? だから念のために・・・」 「そうじゃなくて! 調べたって・・・一体どうやって・・・」 「あ? 全裸にしてくまなくチェックしたに決まってんだろ」 「はっ・・・?!」 ニヤッと笑った男に顎が外れそうなほど愕然とする。 全裸・・・? くまなくチェック・・・? どこを・・・なにを・・・ 「こ、このヘンタイっ!!!」 「おわっ?! いてっ! バカっ、やめろっ!!!」 後ろ手にむんずと掴んだ枕を思いっきり顔面に直撃させると、つくしは問答無用で何度も何度もその手を振り下ろした。その顔は真っ赤でほぼ涙目になっている。 「ヘンタイっ、ヘンタイっ、このドすけべーーーっ!!!!」 「いててててっ! やめろっつってんだろ!!」 「うるさーーーいっ!! 裸見られた女心を少しは考えなさいよっ!!」 「いてぇっ! バカッ! んなん冗談に決まってんだろうがっ!!」 「このヘンタイっ! こうしてやるこうしてやるこうしてっ・・・・・・・・・・・・え?」 遅れて入ってきた言葉にピタリと動きが止まる。 ・・・・・・冗談? 「いってーなおい。さっきまで気ぃ失ってた奴のすることじゃねーだろ」 「そっ・・・だ、だってっ!」 「いくらなんでも外傷もねーのに素っ裸にするわけがねぇだろうが。そんくらいわかるだろ」 「わ、わかんないよっ! っていうかこの状況下で冗談が悪趣味過ぎるからっ!」 「願望を込めた冗談っつーことだろ」 「願望・・・? ___ って、アホかっ!!」 再びカーーッと赤くなると同時にボッフンボッフン音が響き始めた。 「うわ、いって! やめろって! ・・・んの野郎っ!!」 「きゃあっ?!!」 振り上げた腕ごと掴まれると、そのまま凄まじい力で押し倒されてしまった。 バフンッ!! と勢いよく倒れた2人分の体を極上のベッドが優しく受け止める。 「・・・・・・・・・」 手にしていたはずの枕がどこかに消えた代わりに自分を包み込むように大きな体が巻き付く。 体勢上自分も腕を回さなければ苦しく、自然と抱き合う形になってしまった。 「ったく、お前は信じらんねー凶暴女だな」 「・・・あんたにだけは言われたくないよ」 「ふはっ! ・・・かもな。まぁとにかく大事なくてよかったよ」 それはこっちのセリフでしょう? あんたに万が一のことがあったらあたしは・・・ 「・・・そう言えばさっきの男の人ってどうなったの?」 「あぁ、SP共に捕まってブタ箱行きだ」 「一体誰が・・・」 「どうやら週刊誌に載った女が裏で手を引いてたらしいな。ちょっと手を加えりゃすぐに吐いたぜ」 「あの人が?!」 「裏取引で個人的に雇った男らしいな。お前の情報は事細かにもらってても俺のことはわかってなかったらしい。まさか俺がお前のすぐ近くにいるなんて思ってもなかったんだろ。相手がバカである意味助かったな」 「・・・・・・」 「・・・どうした?」 ギュッと手に力をこめたつくしに司が顔を覗き込もうとしてきたが、つくしは胸元に顔をうずめてそれを阻む。まるでくっつき虫のように。 「お前に怖い思いさせたのはマジで悪かったと思ってる。こっちのことは俺がちゃんと始末しておくから、お前は何も心配すんな。わかったな?」 「・・・・・・うん」 「どうした、震えてねーか?」 「・・・大丈夫。少し寒いだけ」 「寒い? ちょっと待て、布団かけてやっから」 「・・・・・・」 長い手でいとも簡単に布団を掴むと、フワリと極上の羽毛布団が2人の体を包み込んだ。 密着した体温と相まってたちまち体の芯からぬくもりが広がっていく。 「あったかい・・・」 「寒くねーか?」 「うん・・・ありがとう」 「今夜はこのまま泊まっていけよ。明日には送ってやるから」 「でも・・・」 「でもは聞かねーぞ。いいからこのまま寝ろ。腹が減ったらいつでもメシも食わしてやる」 「・・・ぷっ、人を物乞いみたいに言わないでよね」 「似たようなもんだろ」 「もうっ・・・! ・・・・・・でもほんとによかった・・・」 「何も心配することなんてねーから。安心して寝ろ」 「・・・うん・・・」 あの男を動かしたのがあんたのお母さんじゃなくてほんとによかった・・・ 「え? 何か言ったか?」 「・・・・・・」 ぼそぼそと何か聞こえたような気がしたが当の本人は既に夢の世界へと落ちている。 空耳だったか。 相手するまでもないと完全無視を貫いていたが、まさかこんな愚かな行動に出るとは。 今日はたまたま一緒にいたから守ってやれたが、もし1人だったらと考えただけでゾッとする。 あのクソ野郎共、徹底的に地獄に落としてやる。 この俺相手に手を出そうとしたことを死ぬまで後悔させてやろうじゃねーか。 「SPつけることも考えた方がよさそうだな・・・。こいつは死ぬほど抵抗するだろうけど」 だがこいつを守るためなら手段は選ばない。 司はさっきとはうって変わって安堵の表情で眠りについているつくしの寝顔を見つめながらそう固く決意していた。 *** 「何か少しでもおかしいと思うことがあればすぐに連絡しろ。24時間いつでも構わねーから」 「うん、ありがとう」 「じゃあな」 「うん。気をつけて」 「そりゃお前だろうが」 「あはは、そうだったね。でももう大丈夫だよ。そっちこそ過労で倒れないでね?」 「誰に向かって言ってんだ? 俺は不死身なんだよ。それにお前と旅行にいくっつー明確な目標があるからな。疲れなんて感じてる暇はねーよ」 「っ・・・!」 言われて思いだしたのかカァッと期待通りに赤く染まる。 そんなつくしを引き寄せると、司は優しく唇を重ねた。 「じゃあまた連絡すっから。お前も何でもいいからこまめに連絡よこせよ」 「わかった。じゃあね。送ってくれてありがとう」 「おう」 軽く手を挙げながら出ていくと、やがてパタンと音をたてて部屋の扉が閉まった。 その場に仄かなコロンの香りだけが残される。 ・・・いや、自分の体中からもその香りをそこかしこに感じることができる。 つくしはそんな自分自身をギュッと抱きしめると、何かを決心するかのように前を見据えた。 足早に部屋に入ると迷わずに鞄の中から携帯を取り出す。 そしてその中のとある名前を引き出すと、じっとその番号を見つめた。 「使うことなんてないと思ってたんだけどな・・・」 何とも言えない緊張感を抱きながら電話を耳に当てると、3回数えないうちにコール音が途切れた。 『 もしもし? どうなさいましたか? 』 「あっ・・・あのっ、突然すみません! 牧野つくしですけど・・・」 『 はい、もちろん存じております。何かお困りのことでもございましたか? 』 ・・・そうか。向こうはとっくにこっちの番号なんて登録してるんだったっけ。 掛けられることはあってもこっちからするなんてことなかったから、なんだか変な感じだ。 「あの・・・いきなりで申し訳ないんですけど、西田さんにお願いしたいことがあるんです」 『 お願いしたいこと・・・ですか? 」 「はい」 『 できる範囲でお応えするつもりではいますが・・・どういったご用件でしょうか 』 返ってきた当然の質問にキュッと携帯を握る手に力が入る。 つくしは自分を落ち着かせるように深呼吸をすると、意を決したようにゆっくり口を開いた。 「 社長に・・・・・・道明寺のお母様に会わせてほしいんです 」
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忘れえぬ人 77
2015 / 11 / 15 ( Sun ) 「ここでいいよ、忙しいんでしょ?」
「バカ言え。送ってくに決まってんだろ。もうすぐで車が来るから待ってろ」 「・・・うん」 なんだかんだで店を出る頃にはすっかり日も陰っていた。 「・・・あ、わり。電話だ」 「仕事の? じゃああたしその辺ぷらぷら見て待ってるよ」 「わりぃな。すぐ終わるから」 「全然気にしないで。ウインドウショッピングでもして楽しんでるから」 電話に出て話し始めた司から少し離れたところに移動すると、つくしは通りに面したショップをなんとなしに眺める。表参道なんて自分の買い物で利用することはほとんどないけど、こうして目で見て楽しむだけでもオシャレさんになったような気分を味わえる。 「そういえば旅行の時ってどんな服装で行けばいいんだろ・・・」 ふとそんなことまで考えている自分が恥ずかしくなる。 一体どれだけ気合を入れてんだってあいつがニヤニヤする姿が容易に目に浮かぶ。 いかんいかん、落ち着け自分! 煩悩を振り払うように首をぶんぶんしていると、フッと自分にかかる大きな影ができた。 それが司のものであると疑いもしないつくしはもう電話が終わったのだろうかと顔を上げようとして・・・次の瞬間その動きがそこで固まった。 何故なら ___ 「牧野つくしさんですね?」 「・・・・・・」 何も反応を示さないつくしに構わずにその人物は言葉を続けていく。 不自然なほどに体を密着されているというのに、一歩もそこから離れることができない。 「単刀直入に言います。道明寺司さんから手を引きなさい」 「・・・・・・」 「あなただってバカではないでしょう? 突っぱねればどういうことになるかくらい・・・おわかりですよね?」 「・・・・・・」 ぐっと。 その男の手に握られていた銀色に光る物体がつくしの鞄へと押し当てられた。 つくしを直接どうこうしようという意思は感じられない。 だが相手を竦ませるには充分な効果が得られる程度の強い意思を感じる。 「・・・・・・あなた一体誰ですか?」 帽子を目深に被ってマスクをしている男の素顔を伺い知ることはできない。 声を聞く限り心当たりも全くない。 まさかこの前の女性が・・・? あるいは道明寺の母親が・・・? 「そんなことはこの際どうでもいいことではありませんか。それよりもご自分の心配をなさった方がよいのでは? あなたの返答次第では悲劇を迎えることになりますよ」 「・・・・・・」 スーッと動いたそれが鞄を通り越してつくしの服の上へと押し当てられた。 足元から震えそうになるのを必死で堪える。 ・・・ここで動揺を見せちゃダメだ。 「・・・・・・・・お断りします」 「・・・今何と?」 「お断りしますと言ったんです。私は道明寺から離れたりしません」 「 ____ っ 」 この状況下でそんな答えが返ってくるとは夢にも思っていなかったのだろう。男の手からフッと力が抜けたのがはっきりわかった。 つくしは待ってましたとばかりに男の手を蹴り上げるべく全身に力を入れた。 ドガッ!! 「ぐわぁっ?!」 だが足を振り上げる前に男の体は地面へと吹き飛ばされていた。 「んの野郎っ・・・! ブッ殺すっ!!」 「ど、道明寺っ?!」 後ろから膝蹴りをくらって倒れ込んだ男に馬乗りになると、司は容赦なく顔面へと拳を落としていく。一発、また一発と鈍い音を響かせて。 突然のことに呆然としていたつくしだったが、我に返ると慌てて止めに入った。 「道明寺っ! そのままじゃ死んじゃうからっ、待ってっ!!」 「うるせぇっ、殺してやるんだよ! お前を危険な目に遭わせやがって・・・!」 ガツッゴフッ!! 「お願いだからやめてっ!! 道明寺っ!! お願いだからっ!!!!」 悲痛な声で懇願すると、ようやく掴んだ腕から力が抜けたのがわかった。既に男はぐったりとして動かない。それを確認すると、司はゆっくりと男の体から離れていく。 「?! 何泣いてんだよ? どっか怪我したか?!」 ぼろぼろと涙を流すつくしの姿に慌てて駆け寄る。 「ち、ちがっ・・・! ほ、ほんとにその人が死んじゃうかとっ・・・!」 「バーカ。本気で殺したりはしねーよ。ま、半殺しにはしてやっけどな。お前にこんななめた真似するような人間には当然の仕打ちだろ」 「っ・・・バカッ・・・!」 「俺が目ぇ離した隙に・・・悪かった。もう大丈夫だから」 ギュウッと閉じ込められた腕の中で必死で首を横に振る。 違う・・・そんなことが怖くて泣いてるんじゃない。 あんたにもしものことがあったらって思ったら・・・言葉にできない恐怖を感じた。 それが怖くて気が付いたら涙が溢れてたんだよ・・・ 言葉にならない代わりにつくしは力の限り司の背中にしがみついた。 「 ?! ______ くっ・・・! 」 だが次の瞬間突然司が体を反転させると、体を密着させているつくしにもガッと何かの振動が伝わってきた。 「んの野郎・・・! おい、絶対に逃がすなっ!!」 何が起こっているのかわけがわからないが、バタバタとさっきまで倒れていたはずの男が走って逃げていく姿が目に入った。そしてそれを追いかける数人の黒いスーツの集団も。さっきまではいなかったはずなのに、一体どこに隠れていたのだろうか? 「び、びっくりした・・・一体何が起こってるの・・・? ___ って、道明寺っ?!」 振り返ったつくしの目に入った光景に言葉を失う。 司のスーツの袖部分がパックリと切れていて、そこからポタポタと血が滴り落ちていたのだから。 「ど、どうしてっ・・・! 大丈夫っ?! どうしよう、どうしようっ・・・! き、救急車・・・!」 半ばパニック状態のつくしの腕を力強い手がガシッと掴む。 「落ち着け牧野。全く大した傷じゃねぇ。血は出てるがかすり傷だ。ほら見ろ、手だって何の問題もなく動かせる。だから落ち着け。救急車なんかいらねーよ」 「でもっ・・・!」 「あいつのナイフが掠っただけだ。まさか起き上がるとは想定外だったから油断しちまったが・・・今頃SPに捕まってるだろうしもう大丈夫だ。今度こそ安心しろ」 「・・・・・・」 もう一度抱きしめられたが、つくしの目の前にはポタポタと尚も滴り落ちる真っ赤な液体が。 ドクンドクンドクンドクン・・・ 「・・・牧野? どうした、大丈夫か?」 急にカタカタと震えだしたつくしを訝しく思った司が体を離すと、まるで紙のように顔面蒼白になっていた。 「おい牧野っ?! 大丈夫かっ?!」 「あ・・・あ・・・」 「どうした?! 俺は大丈夫だって言っただろ! なんでそんなに震えて・・・!」 『 いやだ・・・道明寺・・・・・・道明寺ぃっ・・・!! 』 「ど・・・みょじ・・・」 「牧野っ?! おい、牧野っ、牧野っっっ!!!!」 必死で自分を呼ぶ声を最後に、つくしの意識はそこで途絶えた ____
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忘れえぬ人 76
2015 / 11 / 14 ( Sat ) 「おい、聞いてんのか?」
あんぐりと口を開けたまま一向に反応を示さない女のデコをつんっと突っつくと、弾かれたように意識が戻ってきたのがはっきりわかった。 「そんなに驚くことかよ? 付き合ってる男と女が旅行にいくなんて普通のことだろ?」 「そ、それはそうだけど・・・」 「嫌なのかよ」 「いっ、嫌じゃないよ!」 即答されたことに内心ほっとしたのはこいつには内緒だ。 「ただ、なんていうか、その・・・」 そして何に戸惑っているのかも手に取るようにわかる。 「俺はもちろんそのつもりだけどな」 「えっ」 「当然だろ? 好きな女とやりてぇってのは当然の感情じゃねーか」 「やっ・・・?! ちょっ、こんなところで堂々と言わないでよっ!!」 真っ赤になって口を塞がれるのも想定通り。 相変わらずこの女は飽きなくておもしれぇ。 口を塞いでいる手をバリッと引き剥がすと、想像以上にその手が熱い。どんだけ興奮してんだよ。 そして触れた場所からますますこいつの体は熱を帯びていく。 その熱がこっちにまで伝染してきそうだ。 「・・・そのつもりではいるがお前が嫌だっつーなら無理強いはしねぇ」 「・・・・・・・・・え?」 「ぶっ! その顔、タコよりひでーぞ」 「う、うるさいよっ! っていうか手ぇ離してよ!」 「やだね。こうでもしてねーとお前すぐ逃げっからな」 「に、逃げるなんて・・・」 どんどん小さくなる声で何を言っても説得力なんかない。 「俺はそのつもりで行くけどお前の気持ちを尊重する。だから無理矢理なんてことはしねーよ。今は忙しいけど年末になんとか時間をつくりだすから。だからどっか行かねーか?」 「・・・・・・」 そろそろと戸惑いを滲ませながら顔を上げる。 ・・・つーかその上目遣いやめろ。この場で押し倒したくなるだろうが。 相も変わらずこいつはそんなことは何一つわかっちゃいねぇ。 俺がどんだけ我慢してるのかお前は考えたことがあんのかよ! 「・・・・・・どこに行くの?」 「それはお前が決めろよ。基本お前が行きてぇところに俺が合わせる。海外だろうが無人島だろうがどうとでもなるしな」 「無人島って・・・それじゃ野宿になっちゃうじゃん」 想像したら緊張がほぐれたのかプッと吹き出した。 「お前と2人になれるならどこだっていいんだよ」 だが次に放たれた一言に笑いが引っ込むと、たちまち茹でダコへと逆戻りしてしまった。 「なかなかお前とゆっくりする時間がねーから。余計なことは考えずに2人で過ごしてーんだよ。俺にとっちゃその場所なんて問題じゃねぇ。お前さえいりゃそれで」 「だ、だからそういうこと堂々と言わないでって・・・!」 「なんでだよ。言わずに何かあって後悔なんてしたくねーからな」 「え・・・?」 それってどういう意味・・・? 思いの外真剣な顔をしている司を前につくしもつられて真顔になる。 もしかして・・・記憶がなくなったことを彼なりに気にしてた? あるいは一連の報道のことをやっぱり申し訳ないって思ってたとか・・・? 「どうする? 行くか行かねーか。さっきも言ったけど無理強いするつもりはねぇよ。お前が決めろ」 「・・・・・・」 子どもじゃないんだから。 いくら恋愛偏差値が低いって言ったって、恋人と2人で旅行に行くことの意味くらいわかる。 乱暴な男だけど、言葉通り決して無理強いはしないんだろう。 それは一緒にいた時間が確信を持たせてくれる。 でも・・・行けばそういうことになる。 何故だかそう思えた。 道明寺がどうこうじゃなくて、あたしの中のあたしがそう言っている。 行けば2人は・・・ そこまで考えてキュッと膝の上の手を握りしめた。 「どうする?」 「・・・・・・・・・・・・・・く」 「あ?」 ゆっくりと顔をあげたつくしはやっぱり真っ赤だった。 それでも真っ直ぐに司を見て視線を逸らすことはない。 「・・・・・・行くよ、旅行」 その答えに意外そうに目を丸くしたのは他でもない司だった。 「・・・なによその顔。自分が誘ったんでしょ?」 「いや、そうだけどよ。お前のことだからぶっちゃけ半々くらいかと思ってたっつーか・・・」 「じゃあやめる?」 「アホかっ! 行くに決まってんだろうが!」 「ぷっ! なんだそれ」 2人揃って一体なにやってんだか。 ・・・うん。 この男とならそうなってもいい。 素直にそう思えた。 「じゃあ行きたいところ考えておけよ?」 「そのことだけどさ、正直あたしにはどこがいいとかよくわかんないんだよね」 「何かねーのかよ。行ってみたい場所とか」 「う~ん・・・。旅行って言ってぱっと思いつくのって熱海とか草津の温泉とか・・・?」 「・・・・・・」 道明寺の顔がわかりやすいほど思いっきりビミョ~になる。 「ね、だから言ったでしょ? うちって余裕ない生活してたし、旅行そのものがほとんど経験なくて。ましてや男の人とだなんて・・・。・・・っ!」 言った後でその意味に気付いたのか、ボボボッと顔に火がついた。 「ぷっ! お前こそなんなんだそれ。まぁいい。もう少し時間はあるんだし、もしどこか思いついたときは言えよ。可能な範囲で聞いてやるから。なけりゃあ俺が決める。それでいいな?」 「・・・うん」 「それから年末までは今の調子で忙しい状態が続くと思うから、あんま会える時間が作れねーかもしんねーけど・・・」 「大丈夫だよ。仕事なんだし、気にしないで?」 励ますつもりで笑って答えたのに、何故だか道明寺はまたしても微妙な顔をしている。 ・・・と思ったら長い指が伸びてきて突然ピシッとおでこを弾かれた。 「いったぁっ!! ・・・なっ、何っ?!」 「バーーーーーーカ! こういうときは嘘でもいいから寂しいって言うもんなんだよ」 ヒリヒリと痛むおでこを擦りながら大塚の言っていたことが甦る。 『 男っつーっもんは頼ってもらえないと寂しいもんなんだよ。甘えてやれ 』 ・・・・・・それってこういうこと? 「・・・・・・・・・嘘でもいいんだ?」 「アホっ! それはものの例えっつーもんだろうが!」 「・・・ぷっ、あはははは! ・・・・・・うん、じゃあ会えないのは寂しいけど、年末を楽しみにお互いに頑張ろ?」 「 ____ っ 」 不意打ちで返ってきた言葉に珍しく司の頬が赤く染まった。 「・・・あれ? なんか赤くなってない?」 「っ、なってねーよ!」 「え、でも赤いよ? あれれ、耳まで?」 「うっ、うるせーな! これはあれだ、この店の温度調整がおかしいせいだ!」 「あはははっ、かぁわいいところもあるんじゃ~ん!」 「てんめぇ・・・んの野郎っ!」 「えっ? きゃーーーーーっ! バカバカバカっ! 離しなさいよっ!」 羽交い締めにしてギャースカ騒ぎまくる迷惑千万な男女に店内にいた客がこぞって白い目を向けている・・・かと思いきや、意外や意外。男の見た目とのギャップに萌える女性が続出。 店員も含めて羨望の眼差しでその光景をうっとりと見つめていたなんてこと・・・当の本人達が気付くはずもなかった。
昨日もらった分からコメント返事を再開しました。その前までにコメントをくださった皆様、本当に有難うございました。そしてお返事できなくてごめんなさいm(__)m 1つ1つ有難く拝読させていただいておりますので、また気が向いたらコメントお待ちしております(o^^o) |
忘れえぬ人 75
2015 / 11 / 13 ( Fri ) 赤札 ___
それはあの学園にいる人間にとって恐怖の死刑宣告だった。 絶対王者として君臨していた男が始めたくだらない遊び。 だが遊びと言うにはあまりにも残忍で非道なその仕打ちに、逃げるように学園を追われた者は後を絶たない。人生そのものを狂わされたに違いない者だって ___ そして他でもない自分自身もその1人だった。 きっかけは本当にくだらない。 覚えていることすらバカバカしい、そんなちっぽけなことであたしは学園中の人間を敵に回した。 それからはまさに地獄のような日々。 いつやめてやるか、そればかりを考えてた。 必死で踏みとどまったって自分の人生において何の糧にもならないくだらなすぎる時間。 さっさと色の違う世界に見切りをつけて本来自分があるべき世界へと戻ればいい。 ずっとそう思ってた。 だけどそうすることがまるであいつから尻尾を巻いて逃げるようで ___ 決して逃げたいわけじゃない。 乗り越えて意味のある試練とそうじゃない試練がある中で、あの意味不明ないじめは確実に後者だった。だから相手にすることすらバカバカしくてならなかった。 だから思いっきり軽蔑の眼差しを向けてあの学園を捨ててやりたかった。 あんた達とはレベルが違うんだよ! って腹の底から嘲笑って。 ・・・それなのに、何故かあの男にだけは絶対に負けたくなかった。 事実はどうあれ、自分が負けたような形になることは耐えられなかった。 だからあたしは闘い続けたのだ。 「 はぁ~~・・・ 」 大きな溜め息と共にゴンッと額をテーブルにぶつける。 その痛みすら感じないほどに頭の中でグルグルと同じことが駆け巡っていた。 ____ 記憶の一部が戻っていた。 衝撃の事実に一番驚いているのは他でもないこの自分自身だった。 何がきっかけで甦っていたのか、全く身に覚えがない。 それどころか他人に指摘されて初めてその事実に気付くという有様。 何の意識もせずに、ごく当たり前のことのように自然と話している自分がいた。 それは本当にごくごく自然な形で。 「いつから・・・? 一体いつ思い出して・・・」 ・・・わからない。 考えても考えても何一つわからない。 ただわかることは、この4年どうやったって思い出せなかった記憶の一部が、自分の気付かない間に勝手に頭の中に存在していたということ。 まるで記憶が最初からそこにあったと言わんばかりに。 それが失われていた記憶だったということがまるで嘘のように。 「思い出したあいつの記憶、最悪なんだけど・・・」 学生相手に使う言葉じゃないのかもしれないけれど、 『 極 悪 人 』 まさにこの言葉が最も相応しい、それがあの頃の道明寺司という男だった。 「極悪人が今度はストーカーに変わっていったのよね・・・」 そう。甦った記憶はあれだけではない。 あたしがあの学園から逃げ出すのを今か今かと高みの見物で待ち続けていたはずの男が、何故か気が付けば今度はあたしを好きだと言って追い回し始めたのだ。 極悪人からストーカーへ。どっちにしたって最悪な男だ。 「再会した頃にストーカー扱いしてたのもあながち間違ってなかったんじゃん・・・」 人間の本質って記憶の有無に関係なくそうそう変わらないんだと痛感する。 「でもどうしたらいいの・・・?」 はっきりと記憶の一部が戻ったとはいえ、まだ全てが甦ったわけじゃない。 思い出したことと再会してからの出来事を総合して考えるに、あいつと当時付き合っていたというのは揺らぎようのない事実なんだと認めざるを得ない。初期の記憶だけなら認めたくないのが正直なところだけど、何故付き合うに至ったのか、その答えはきっとまだ封印された記憶の中に閉じ込められているに違いない。 そして別れに至った経緯も ____ 「あいつに言った方がいい・・・? でも・・・」 一部だけ記憶が蘇ったと言ったところでどうなるのだろうか。 向こうからしてみれば思い出せないことを話されたところでかえって変なプレッシャーを与えてしまうかもしれない。自分が逆の立場だったらやはりどうしていいかわからないと思う。 それに、全てが思い出されたわけでもないのに中途半端に話したところで自分でもだからどうした? って感じだ。 ピリリリリリッ テーブルに置いていた携帯がいきなり鳴り始めて心臓が跳びはねる。 「び、びっくりしたぁ~。置いてるの忘れてたよ・・・。誰だろ・・・って・・・」 液晶に表示された名前を確認してもう一度心臓がドキッと大きく脈打つ。 あまりにもタイムリーすぎるその名前に、ほんの少し手を震わせながら携帯を手に取った。 「も・・・もしもし?」 『 お前今どこにいる? 』 「えっ?」 『 今お前のアパートの前にいんだけどいねーだろ? どこにいんだよ 』 「・・・・・・えぇっ?!」 *** そわそわ落ち着かずに手元のカフェラテを意味もなく何度も掻き回す。 店員さんの渾身のラテアートも見る影もないほどの幾何学アートへと変わってしまっていた。 「 ・・・あ。 」 心ここに非ずでグルグルしていると、少し離れたところに見えた人影に思わず立ち上がった。 最初は小さかったその姿があっという間に大きくなり、そして気が付いたときには店の扉が鈴の音と共に開いていた。店内にいた人全ての視線を奪ったその男は、ほんの少しだけ肩で息をしている。悔しいがそれすらも絵になっている。 「・・・ほんとに来た」 「はぁ?! お前今さら何言ってんだよ」 開口一番わけのわからないことを言い出した女を前に思いっきり顔をしかめると、何も言わずにつくしの横の椅子を引いてドカッと腰を下ろした。 「む、向かいじゃないの?」 「ここでいいだろ。何か問題あんのか?」 「な、ないけど・・・」 「じゃあいいじゃねーか」 っていうか肩が触れてるんですけど。 恥ずかしいんですけど! 皆が見てるんですけどっ?! 「ここで何してたんだよ?」 「え? 別に何ってわけじゃなくて・・・。仕事も休みで特にすることもなかったし、散歩がてら外に出て疲れたからちょっと一服しようかなーって、なんとなくここに入っただけだよ」 「ふ~ん・・・」 「そっちこそ今日も仕事だったの?」 「まぁな。予定より大分早く切り上げられたからお前に会いに行ったんだけど留守だったから」 「ごめんね? 事前にメールか電話もらえてたら帰ったのに」 「その時間すら惜しくて早く会いたかったんだよ」 「 ____ っ・・・! 」 相変わらずクサイセリフを堂々と言い放たれてカァッと頬が熱くなる。 「・・・あ? なんだお前、顔があけーぞ?」 「う、うるさいよっ! ほらっ、店員さん待ってるでしょ? 早く何か注文しなさいよっ!」 「ぶっ!!」 至近距離にある顔に思いっきりメニューを叩きつけると、燃えるように熱い顔を両手で覆って平常心を取り戻すべく必死で深呼吸を繰り返す。店員に注文する姿を横目で見ていると、さっきまで考えていたことがどうでもいいことのように思えてきた。 記憶が戻っても戻らなくても何も変わらないと道明寺は前に言った。 それは彼が未来を見ているから。 失った記憶は過去の事。 それらが全て無意味で無駄な存在だなんて思わない。 それも含めて今の自分がいる。それは紛れもない事実なのだから。 でも、だからといっていつまでもそれに囚われて前に進めないのはまた違う。 まだまだ長い人生、今ですらその通過点に過ぎないのだ。 ならば今の自分の気持ちに正直に生きていきたい。 「 自分 」 というただ1人の人間が、それを心から望んでいるのなら ___ 「お前さ」 「えっ? わわっ!」 弾かれたように顔を上げると数センチの距離に美しい顔があって思わず後ずさる。 男は見るからに面白くなさそうにムッとした。 「んだよその態度は」 「いや、これに悪意は全くないっていうか・・・なんていうか、もう条件反射みたいなものだから大目に見てよ、ねっ?」 「・・・ふん」 「それより何? 何か言いかけてたけど」 その言葉におもむろに肩肘をつきながらじっとつくしを見ると、司の口から予想外の一言が飛び出した。 「お前の誕生日って来月だろ?」 「えっ?」 「なんだよ、違うのか?」 「いや、違わないけど・・・え・・・でも何で知ってるの?」 「恋人の誕生日くらい知ってんだろ、普通」 「そうかもしれないけど・・・」 記憶があるならともかく、ないのなら本人に聞かなければ知る術なんて ___ そこまで考えてハッとする。 この男にとってそんなことは朝飯前なのだと。 思い返せば激しく憎まれてた時ですらアパートで待ち伏せされていた。もはや知られていない情報なんてほぼないと思っておいた方が後々ショックも少なくてすむのかもしれない。 「はぁ・・・あんたってばほんとに・・・」 「別にそれくらい調べることに何の問題もねーだろ?」 「まぁそうだけどさ・・・。で、何? それがどうしたの?」 「旅行いかねーか?」 「えっ?」 あまりにもサラッと言われすぎてすぐに理解できなかった。 「 だから旅行いこうぜ。 2人で 」 ・・・・・・・・・なんだって?!
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忘れえぬ人 74
2015 / 11 / 12 ( Thu ) 何・・・?
一体何が起こったの? 今何て言った・・・? 泥棒猫? ・・・・・・誰が? っていうか、もしかして殴られた?! 偶然現場近くに居合わせた人が何事かとチラチラ視線を送っている。 今さらながらようやく我に返ると、酷く醜い顔でこちらを睨んでいる女性を睨み返した。 「な、何するんですかっ!」 「何するですって? そんなのはこっちのセリフだわ! この泥棒猫っ!!」 「はぁっ?!」 いきなり声をかけてきたかと思えば平手打ちに身に覚えのない罵倒まで。 なんなのこの女は?! 「あなたでしょう? 司さんにまとわりついてるって女は」 「えっ?」 なんでここに道明寺が出てくる? 「私という存在がありながらあなたが司さんにちょっかい出してるのはわかってるのよ!」 「ちょっかいって・・・っていうかあなた一体・・・」 「私は司さんの婚約者よ!」 「こ、婚約者?! そんな相手は・・・」 そこまで言いかけてハッとする。 どこかでうっすらと見覚えがあるような気がしたこの女性・・・思い出した。 あの時の週刊誌に載っていた女性だ。 モノクロではっきりは見えなかったけれど、目鼻立ちがはっきりしていたのといかにも高級そうな身なりだったので記憶に残っている。 それを思い出した瞬間、今自分に起こっていることの全てがわかったような気がした。 と同時に自分でも驚くほど冷静になっていくのがわかる。 「・・・申し訳ないですけど、とんだ言いがかりはやめてもらえますか」 「なんですって? あなたが彼にまとわりついてるのはもう調べがついてるのよ!」 「ですからそれが言いがかりだと言ってるんです。しかも別にまとわりついてなんていませんし」 それを言うなら絶対あの男にこそふさわしい言葉じゃないか。 今となってはあたしだってあいつを好きだけど、神に誓って張り付くなんてしていないっ! むしろストーカーだったのは確実にあの男の方だ。 「あなた本気で言ってるの? 私は彼の婚約者なのよっ!」 「婚約者・・・?」 「そうよ。私という存在がありながら彼に手を出すなんて・・・自分が今後どうなるか当然覚悟はあるんでしょうね?」 そう言えばこちらがびびって身を引くと信じて疑っていないのだろう。 もしあの週刊誌を見た直後に同じ場面に遭遇していたら・・・もう少し動揺していたかもしれない。 でも ___ 「覚悟も何も・・・あなたこそこんなことをして大丈夫なんですか?」 「何ですって?」 「昨日も彼に会いましたけど、あの週刊誌に書かれていたことは全くの嘘だって言ってましたよ」 「嘘じゃないわっ! だってうちとの業務提携は紛れもない事実なのよ!」 「それとこれは話が別ですよね?」 「別じゃないわ! 父が言ってたもの。提携が正式に決まれば司さんとの婚約の話を進めていくって。だから私はっ・・・!」 「それは彼も同意の上のことなんですか?」 「っ、それはっ・・・・・・でも親同士が納得してるなら婚約は成立しているも同然よ!」 同然って・・・一体いつの時代の話なんだ。 成人していれば親の同意無しで結婚だってできるのに、本人の意思を無視してその逆が成立するわけがないじゃないか。それでこんな行動に出ているかと思うと心底呆れかえる。 「とにかく、あなたがどんな主張をしようと私は道明寺を信じるだけですから」 「まぁっ、道明寺だなんてなんて馴れ馴れしい・・・! 身の程をわきまえなさいっ!」 身の程って・・・だから恋人なんですけど。 別にだからって大きな顔するつもりなんてこれっぽっちもないけど、少なくともあなたよりはあいつに近い存在だって確信はありますけど? っていうかそっちこそ勝手に 「司さん」 なんて言って大丈夫なのか? 絶対キレる思うんだけど・・・ 「はぁ・・・もういいですか? お話しすることは何もないので失礼します」 「なっ・・・ちょっと待ちなさいっ!!」 体を反転させたところで伸びてきた手に腕を思いっきり掴まれた。 めり込むほどに力を入れているせいで長い爪が食い込んで痛みを伴う。 「・・・痛いんですけど。離してもらえませんか」 「あなた何様なのっ?! この私にそんな態度をとるなんて許されると思ってるのっ!」 「許されるも何も・・・どちら様かも知りませんし、あなたにこんな言いがかりをつけられる覚えもありませんから。それに、別に脅すつもりなんてサラサラありませんけど、あなたがこういう行動に出たって彼が知ったら後悔するのはきっとあなたの方だと思いますよ」 「なんですって・・・?」 「あいつ、キレたら手が付けられないくらい酷いですから。男だろうと女だろうと関係ない。容赦なくやられますよ」 「 ___ っ、 言わせておけば、このっ・・・!」 「 !! 」 その瞬間、女の右手が凄い勢いで振り上げられた。咄嗟に離れようとしても反対の手で掴まれた腕が凄まじい力で押さえ付けられていて身動きがとれない。 女の執念たるや恐るべし。何故に2回も殴られなきゃならないのか。 全くもって理不尽極まりないが、目の前に迫る痛みを覚悟してギュウッと歯を食いしばった。 「 牧野っ?! 」 だが頬に痛みが走るよりも先に聞こえてきた声にビクッと女の体が跳ね上がった。 「きゃっ?!」 「あ、おいっ!」 声をかけたのがつくしの知り合いだとわかるやいなや、女は手を離した勢いでつくしを突き飛ばし、そのまま一目散に駆けだした。どうやら路上に車を待たせていたらしく、急いでそれに乗り込むと追いかける暇もないほどあっという間に車は走り出してしまった。 「いったたた・・・!」 「おい牧野、大丈夫かっ?!」 「・・・・・・大塚・・・? なんでここに・・・」 「今日は寄るところがあってたまたまこっちを通ってたらお前が見えて・・・ってそんなことはいいから! 大丈夫か? ほら、手!」 「あ、ありがとう・・・」 差し出された手を掴んで立ち上がると、ジンジンとお尻に痛みが広がっていく。 おまけに左頬まで痛いし・・・ほんと、とんだとばっちりもいいところだ。 付き合う前の受付嬢の時も思ったけれど、どうしてあいつを狙う女はこうも気性が激しいのか。 全く、そういう意味ではあいつにほんっとお似合いだよっ! 「お前、その頬・・・もしかして殴られたのか?」 「あ・・・あはは、いきなりだったから避ける暇もなくて。もうほんとびっくりしちゃうよね~」 「ひでーな・・・大丈夫かよ?」 「大丈夫大丈夫! 時間が経てば赤みも引くし何の問題もないって!」 ひどく心配そうにしている大塚にこっちの方が申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 「つーかあの女、一体何者なんだ?」 「えっ? あ~・・・うん、なんていうか・・・多分この前の週刊誌の人だと思う」 「えっ?!」 「あっ、誤解しないでね? あの後あいつが直接来てくれて、そのことに関してはもう話も終わってるから」 「じゃあ・・・」 「うん、多分思い通りに事が進まない腹いせに矛先をあたしに向けてきたってとこかな」 「・・・・・・」 大塚が呆れかえるのも無理はない。 一番そう思ってるのは他でもないあたし自身なんだから。 「あいつには・・・」 「言わないよ。だってあいつが悪いわけじゃないし、今めちゃくちゃ頑張ってるのも知ってるから。それに、どうやったってああいうタイプの人間ってこれから先も出てくると思うんだよね。その度にいちいち報告するわけにもいかないでしょ? だからこっちは毅然とした態度で流すだけ」 「・・・・・・」 「・・・何? なんか変なこと言った?」 「いや・・・なんかお前、その辺の男よりよっぽど男前だなと思って」 「えぇ~? 何それ、褒められてるの?」 「あぁ、惚れ直しそうなほどにな」 「え・・・」 その言葉に笑っていたのがピタリと止まったつくしに、大塚がフッと表情を緩めた。 「まぁお前らしいっちゃらしいよな」 「わわっ! ちょっ、ちょっと!」 わしゃわしゃっと髪を乱されて足元がふらつく。 「・・・頑張るのもいいけど、たまには甘えてやれよ?」 「えっ?」 「お前が頑張り屋なのはよーーーく知ってる。確かにお前の言う通り相手にせずに流すのが一番いい方法なんだろう。でもな、男っつーもんは好きな女に頼られるのが嬉しいもんなんだよ。それに、たとえ間接的だとはいえ自分のことで好きな女を嫌な目にあわせてるって考えてもみろ。そんなことを自分だけが知らずにいるなんて耐えられねーだろ?」 「・・・・・・」 「お前が逆の立場だったら何も知らなくても平気か?」 「・・・嫌だ」 「だろ? 全部を打ち明けるのが無理ならせめてもっと甘えてやれよ」 「大塚・・・」 「つーか俺何言ってんだ? なんか結果的にあいつを喜ばすようなこと言ってるよな」 言った後で気付いたのか、何とも不服そうな顔へと変わっていくその姿に笑えてくる。 「ぷはっ! 今さら?」 「ほんとだよな。男の気持ちを代弁したつもりが結果的にあの野郎のフォローになったみたいですこぶる気に入らねーぜ」 「あはははっ!」 「・・・でもまぁマジな話、何でもかんでも自分で解決しようとすんなよ? それってある意味では信頼されてねーのかって寂しいもんなんだぜ」 「・・・なんか経験者は語るって感じだね」 「ぐっ・・・、うるせーよ!」 「あははは、ごめんごめん。・・・っていうか用事は? 時間は大丈夫なの?」 「あ? あぁ、まぁな。8時までに行けばいいし。お前は帰るんだろ? だったら方向が一緒だから駅まで送ってやるよ」 「えっ? そんなわざわざいいよ!」 「どうせ同じ方向なのに別々に行く方が変だろ?」 「それはそうだけど・・・」 「じゃあ行こうぜ。またさっきの女がどっかで待ち構えてても厄介だしな。虫除けくらいにはなるだろ」 「・・・・・・ありがと」 「だからついでなだけだって」 そうは言いつつも心配してくれていることに違いはない。 前を行く友人の背中に心の中でもう一度ありがとうと呟くと、つくしは足早にその背中を追った。 「それにしてもお前も色々と災難だなー。相手が相手なだけに宿命なのかもしんねーけど・・・」 「まぁね~。でも正直あの程度のことなんて慣れてるし」 「慣れてる?」 「うん。だって高校の時なんてもっと酷かったもん。ほら、あたしだけ場違いな人間だったでしょ? だから金持ち達の暇つぶしのターゲットになっちゃってさ。そりゃあ散々な目に遭ったってわけ」 「へぇ・・・英徳って華やかなイメージだけど、内情はドロドロしてんだな」 「してるってもんじゃないよ! そもそもその元凶とも言えるのがあいつだったんだし」 「え?」 「あの学園を牛耳ってたのこそ道明寺で。気に入らない奴を見つけては赤札なるものを貼ってやりたい放題。あるときふとしたことがきっかけであたしもそのターゲットになっちゃって。言葉は悪いけどお前なんかくたばっちまえ! って毎日思っちゃうくらいほんと、印象は最悪だったなぁ・・・」 今となっては懐かしい思い出でなんだか笑えてくるけど。 「・・・・・・」 「・・・あれ、どうしたの?」 少し前を歩いていたはずの大塚がいつの間にか随分後方にいたことにようやく気付く。 しかもその足は完全に止まっていて、何かに驚いているようにすら見える。 「ねぇ、どうしたの? どこか具合でも・・・」 「・・・お前、自分で気付いてないのか?」 「えっ? ・・・何のこと?」 彼が言わんとすることが皆目検討つかない。 「お前・・・学生時代のあいつの記憶は残ってないんじゃなかったのか?」 記憶・・・? そうだよ。あたしには断片的な記憶がない。 特にあいつに関することは全くと言っていいほど覚えてなくて・・・ 「・・・・・・・・・えっ・・・?」 ・・・あれ? どうして英徳時代散々な目に遭ったってわかったんだっけ? その原因が道明寺だって、どうして・・・ ・・・・・・赤札?! 「・・・お前、もしかして記憶が戻ってきてるんじゃねーのか?」 「・・・・・・えっ・・・?」 記憶が・・・戻ってる・・・?
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忘れえぬ人 73
2015 / 11 / 11 ( Wed ) 今この男の口から何が飛び出した?
白くてみずみずしいボディはお漬け物に最高! ・・・って、それは大根。 穴がいっぱい開いててきんぴらにすると最高よね~! ・・・って、それは蓮根。 中年男性はそろそろ気にしなきゃだめよね。 ・・・って、それは毛根。 ・・・じゃなくてっ!!!!! 「 け、けっこんっ???!!!! 」 「だからうるせーよ。んなに驚くことか?」 「お、驚くに決まってるじゃんっ! だって、け、結婚って・・・!」 「言っただろ? 俺は遊びで女を好きになるような男じゃねーって。つーかお前以外に好きになった女もいねーよ。引く手あまたのこの俺様が満を持してお前を選んでやったんだ。将来的なことまで見据えてるに決まってんだろ」 「・・・・・・」 なんだかツッコミどころが満載過ぎて一体どこからつっこめばいいんだ? とはいえ自信過剰な俺様発言であることに違いはないけれど、それと同時にその顔は真剣で少しもふざけていない。 ・・・つまりは本気だということ。 いきなりのことに何と答えていいのかもわからない。 半分以上夢見心地だった気分はどこへ。 すっかり目が冴えてしまった。 「・・・あの、道明寺」 「まぁそれだけ俺が本気だってことだ。あんまぐだぐだ難しく考えんじゃねーよ」 「でも・・・」 「つーか早くここに来いよ」 「わっ?!」 いきなり腕を引っ張られると、倒れた体ごとがっしりホールドされて数分前とまるで同じ状態になってしまった。 「ちょっ・・・くるしっ・・・!」 「クソババァのせいで最近ろくに眠れてねーんだよ」 「え?」 「お前とこうしてるとどうしてだかよく眠れるんだ。だからこうしてろ」 「・・・・・・」 それが人にものを頼む態度か? と呆れつつも、あっという間に目の前でスースーと寝息をたて始めた男にそれ以上の言葉を呑み込む。余程疲れていたのだろう、寝ていても前回会った時よりもさらに疲労度が増しているのがわかる。 「お疲れ様・・・」 そっと頬に手を添えるとほんの一瞬だけピクッと瞼が動いたが、またすぐに深い眠りへ落ちていく。こんなに疲れているのに、あのことを説明するためだけにわざわざ来たのかと思うとなんだか言葉にできない感情でいっぱいになる。 結婚・・・? あたしと、道明寺が・・・? 嘘でしょう?! ・・・と言いたくても口に出せないのはあの真剣な顔を見てしまえば自然なことだろう。 もともとこの男は冗談を言うようなタイプじゃない。 冗談だと思わなきゃやってられないようなぶっ飛んだことでも、全て真っ正面から本気でぶつけてくる。良くも悪くもそういう男だとよく知っているじゃないか。 「・・・だめだ、こんな時間に頭なんて働かないよ」 トンデモ発言をした男はさっさと寝てしまったし、こっちだって明日は仕事。 今から寝てもせいぜい3時間しか寝られない。 眠気などすっかり吹き飛んでしまったが、それでも不眠状態で仕事に行くわけにはいかない。 振り払っても振り払っても頭を埋め尽くす思考を必死に追い出すようにギュウッと目を閉じた。 *** 「結婚・・・かぁ・・・」 鏡に写る自分をどこか他人を見ているかのようにぼんやりと眺める。 早朝になって起きたあいつは結局そのことに深く言及することなく帰って行った。 正確には時間に追われて話す暇もなかったって感じだったけど。 『 何があっても俺の気持ちは揺らがねーから。お前はそのままで俺を信じてろ 』 去り際にそう言ってキスをして。 「あわわっ・・・!」 ぼわんとその時の甘ったるい空気が甦ってきて必死で首を振る。 前から思ってたことだけど、あの男の激しさと甘さのギャップは犯罪級だと思う。 正直、ようやく好きだと自覚したばかりなのに 「結婚」 なんて言われてもピンと来ない。 もちろんあいつを好きだって胸を張って言えるし、あたしだってその気持ちが揺らぐことはないって自信もある。 でも・・・いかんせん人生で初めてできた彼氏なのだ。 全てにおいて経験値の乏しい女にいきなりこんな高いハードルなんて・・・ 戸惑うのは当然のことだと思う。 だってあたしはまだ21で向こうは22。もうすぐ1つ歳をとるって言ったってまだまだ若い。 とはいえあいつと付き合うって決めた時点でそこまでの覚悟がなきゃだめなのかもしれない。 日本どころか世界の経済を背負っているような立場にいる男なのだ。 生半可な気持ちで付き合えるような相手ではない。 「あら、つくしちゃん」 「あ・・・里子さん」 化粧室に入ってきたのは会社の社長夫人である里子さんだ。 「今日は珍しくやけにあくびしてたけど、また何か悩んでるの?」 「えっ!! いえいえ、ちょっと夕べは夜更かしして映画を見過ぎちゃって・・・」 「そうなの? もし何か悩んでることがあるならいつでも相談してね?」 「あ、ありがとうございます」 ふふっと笑うと、里子さんは鏡を見ながらメイク直しを始めた。確かこの後外回りがあったはず。 実年齢よりもずっと若々しく見えるそんな彼女の横顔をじっと見つめる。 「・・・里子さんと社長が結婚したのっていつですか?」 「えっ?」 突拍子もない質問に彼女が驚くのも無理はない。 「ちっ、違うんです! 実は同級生が今度結婚するって聞いて。まだまだ若いのに結婚だなんてすごいなーって思って、それで里子さん達はいつだったんだろうってふと思って。ただそれだけなんです。もし失礼な質問だったらごめんなさい!」 ペラペラと弁解するように口数の増えたつくしに呆気にとられていた里子がふっと笑った。 「確かにつくしちゃんからすれば早く感じるのかもしれないわね~」 「え?」 「ふふっ、実はねぇ、私もその歳で結婚したのよ」 「えっ・・・?!」 確か里子さんは大卒だったはず。ということは卒業と同時に結婚したということ? 社長の方が年上とはいえ驚きは隠せない。 「普通に考えれば大学卒業と同時に結婚なんて! って思うわよね。彼のことは両親も知ってたけど、さすがに早すぎるって反対されたもの。・・・でもねぇ、あの当時彼は独立することを目指してたから、誰よりも近くでそれを支えたいと思ったのよね」 「支える・・・?」 「そう。恋人としてもできることはあるけど、家族になるのとは全然違う。万が一何かあっても真っ先に連絡が来る。一番近くで支える権利を得ることができる。あの人には既に両親はいなかったから・・・一番大変な時期をどうしても家族として支えたかったの」 「・・・・・・」 「最悪駆け落ちする覚悟もしてたんだけどね。あの人がそれだけは絶対にダメだって言うから。必死で両親を説得したわ」 すごい・・・ とてもお似合いのおしどり夫婦として有名だったけど、そんな経緯があっただなんて。 社長が今の成功を手に入れられたのは間違いなく里子さんの支えがあったからこそだ。 「迷いは・・・少しもなかったんですか?」 「ないわ。あの人1人に大変な思いをさせたくない。たとえ生活が苦しくても、その苦労も2人で分け合いたい。ただ支えたい、その一心だった。年齢なんて関係ないわ」 即答だった。 その一切の迷いのない潔さは同性から見てもカッコイイ、その一言。 「つくしちゃんも色々悩む時期なのかもしれないけど、その人を信じられると心から思えるのなら迷わず飛び込んでみることも人生では必要なのかもね?」 「えっ?」 「ふふっ、じゃあまたね」 「・・・・・・」 なんだか意味深な言葉だけを残して里子さんは颯爽といなくなってしまった。 もしかして友達の結婚が嘘だってバレバレだった?! ・・・・・・もしかしてじゃなくて絶対そうだ。 「はぁ~~、やっぱり敵わないなぁ」 尊敬する彼女はいつも何でもお見通し。 っていうかあたしがわかりやす過ぎるだけ? 「卒業と同時に結婚かぁ・・・」 行動力のある人だとは思ってたけどまさかそこまでだったとは。 大変な時期を家族として支えたかったと言っていた。 正直、結婚だなんて今のあたしには唐突過ぎてやっぱりピンとこない。 でも・・・ ご飯をおいしいと思ったことなんてただの一度もない、親を親とも思ったことはないと顔色一つ変えずに平然と言えてしまうあいつを見ていると、決してそんなことはないんだよと声を大にして言いたくなってしまう。 あんたは決して愛されてないわけじゃない。孤独なんかじゃない。 それはお姉さんやタマさんを筆頭にしたお邸で働く人達を見れば明白な事実で。 ・・・そしてあたしだって。 子どものような無邪気な笑顔をもっと見たい。 その笑顔を引き出してるのがあたしなんだとしたら、もっともっと傍にいたい。 そう思う先に結婚の二文字があるんだろうか・・・? 「って、今プロポーズされたわけでもあるまいし、あたしってば考えすぎ!」 そう。あいつは確かに結婚するならあたししかいないと言ったけど、何も今すぐしようと言ったわけじゃない。あまりにも唐突な話が出たものだから、ついつい過度に考え過ぎちゃってた。 これだから偏差値の低い女はって笑われそう。 ・・・でも、それだけあいつが真剣なんだってことは素直に嬉しかった。 「よ~し、今日は昨日の分までたっぷり寝るぞ~!」 あたし達はまだ始まったばかり。 里子さん達とはそもそもスタートラインが違う。 彼らは彼ら、あたし達はあたし達。 それぞれのペースで、一歩ずつ進んでいけばいいんだ。 その先にいつか・・・ 「 牧野つくしさんですか? 」 「 えっ? 」 ビルを出て駅までの道のりを歩いている途中、ふいに後ろから名前を呼ばれた。 条件反射で振り返って見れば、同世代か少し上くらいだろうか。メイクバッチリで腰まである髪はくるんくるんに巻かれていて、いかにも高級そうな服を身につけている女性がそこに立っていた。 確かに自分の名前を呼ばれたが、こちらには全く見覚えがない。 ・・・違う。 どこかでうっすら見覚えがあるようなないような・・・ でもこれだけ目立つ容姿なら一度でも会ったことがあるなら忘れるはずがない。 一体どこで・・・? 「牧野つくしさんで間違いないわね?」 「えっ? は、はい、そうですけど・・・あの、失礼ですがどちら様ですか?」 誰かもわからないけど一体何の用で呼び止められたのだろうか? 不思議そうに首を傾げるつくしの質問には何も答えず、女性はコツンとヒールの音を響かせて一歩つくしへと近づいた。 と思った次の瞬間、 パンッ!! 「この泥棒猫っ!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」 何が起こったのか全くわからない。 ただわかるのは、乾いた音がしたと同時にに左頬に痛みが走ったということだけ。 ___ そして目の前の女が鬼のような形相に変わったということだけ。
たくさんの心配のコメントを有難うございます。そしてここ数日コメント返事ができておらずすみませんm(__)m まだ本調子ではないので、申し訳ありませんがコメント返事はもう少しお休みさせていただけたらと思っています。ですが全て有難く楽しく拝読させてもらっています。いつも本当にありがとうございます(o^^o) |
お休みします
2015 / 11 / 10 ( Tue ) ごめんなさい、ちょっと体調不良のために今日は更新をお休みさせていただきますm(__)m
次の話は8割方書けているので、明日の定時には更新できるかと思います。 尚、昨日も時間をずれ込んで更新していますので、見落としのある方はチェックをお願いします。 ではでは。 お前が言うなって感じですが皆様も体調管理にはお気を付けくださいm(__)m
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