生まれてきた意味を
2016 / 01 / 31 ( Sun ) 『 タマ、パパとママは・・・? 』
うさぎのぬいぐるみを大事そうに抱えながら不安げに瞳を揺らす少年に、タマは申し訳なさそうに微笑みかけた。 「 司坊ちゃま、旦那様と奥様は急なお仕事でNYへ行かれました。ですがご安心ください、このタマをはじめお邸には坊ちゃまのお誕生日をお祝いしたい者で溢れかえっていますよ。今日は盛大なパーティをいたしましょう! 」 『 ・・・・・・ 』 「 何か食べたいものはございませんか? 今日はどんなリクエストでも・・・ 」 『 何もいらない 』 「 えっ? 」 キュッとぬいぐるみを持つ手に力を入れると、少年はタマを睨み上げた。 『 何もいらないよっ。どうせ僕が本当に欲しいものなんか手に入らないんだからっ!! 』 「 坊ちゃま! お待ちください、司坊ちゃまっ!! 」 バタバタバタバタ・・・バターーーーーンッ!!! 誰をも寄せ付けないオーラを纏って走り抜けると、少年はそのまま自室の扉を固く閉ざしてしまった。 『 坊ちゃま・・・ 』 そのまま強引に扉をこじ開けることもできたが、今は下手な慰めは逆効果のように思えた。子どもとはいえ彼が繊細で傷つきやすいことを誰よりも知っている。そして小手先の誤魔化しはすぐに見抜かれてしまうということも。 「・・・・・・また後で参りますからね。パーティの飾り付けを皆でいたしましょう」 浮いたままの右手をそっと下ろすと、タマは何度も振り返りながらゆっくりとその場から離れて行った。 *** 『 はぁ、はぁ・・・ママは・・・? 今日かえってくるっていってたよね・・・? 』 「 坊ちゃま・・・申し訳ございません。実はどうしても予定がずれこんでお帰りになるのは難しいと・・・ 」 『 えっ・・・? 』 「 ですが大丈夫ですよ。このタマが朝まで坊ちゃまのおそばを片時も離れませんから。ですからどうかゆっくりお休みくださいませ 」 『 ・・・・・・ 』 高熱で紅潮していたはずの顔が目に見えて青白く色を変えていく。 それはまるで体中の血の気が全て失われていくかのように。 「 坊ちゃま、今のお仕事が終われば奥様はきっとお帰りになりますから。ですから・・・つっ!! 」 タマの顔面にバシッと小さな塊が直撃して思わず顔が歪む。 『 もういいよっ、いつもいつもうそばっかりでうんざりだっ! そう言っていちどだってかえってきたことなんてないじゃないかっ!! おまえらどいつもこいつも大うそつきだっ! 』 「 坊ちゃま! 興奮すると熱が・・・! 」 『 でていけ・・・でていけよっ! だれのかおもみたくなんかないっ・・・でていけっ、でてけぇーーーーっ!! 』 「 坊ちゃま! ぼっちゃ・・・! 」 ガタンッバタンッ!! 枕元にあるものを手当たり次第に投げ散らかして、その興奮状態はもはや宥めたところで火に油を注ぐだけ。 『 ・・・わかりました。タマは部屋の外に出ておりますから。ずっとそこにおりますからいつでもお声かけくださいね 』 「 うるさいっ! はやくでていけっ!! 」 申し訳なさそうに部屋から出て行くタマの後ろ姿目がけて投げた背当てのクッションは、目的の場所まで届くことなく途中で力なく落下してしまった。 『 はぁっはぁっはぁっはぁっ・・・! 』 40度近い熱のせいで普通に座っていることすら難しい。少年はグニャグニャと歪んだ視界の端に自分が放り投げたぬいぐるみを捉えると、途端に悔しさで涙が込み上げてくるのを感じた。 握りすぎてすっかりくたびれてしまったそのぬいぐるみはまるで今の自分のようだ。 「 いつだってぼくのたんびょうびにいてくれたことなんかないじゃないか・・・! おとななんかだいっきらいだ・・・! 」 この涙は自分の意志で出てくるものなんかじゃない。 熱のせいで勝手に出てきているだけに過ぎない。 歯を食いしばっても尚ボロボロと零れ落ちていく涙で枕を濡らしながら、少年は大きなベッドの中央に小さく小さく蹲った。 その姿は豪華すぎる部屋とはあまりにも対照的で儚げで、今にも消え入りそうに震えていた。 *** 「・・・・・・・・ま・・・・・・さま・・・司様」 「 ! 」 トンッと肩を叩かれてハッと意識が覚醒する。 「お疲れのところ申し訳ございません。ご自宅に到着しましたのでお休みになられるならお部屋に戻られてからごゆっくりどうぞ」 「・・・・・・」 どうやら帰りのリムジンの中で眠ってしまっていたらしい。 人に起こされるまで寝落ちするなど普段ならばまず考えられない。 ・・・不覚だった。 それもこれも夢見の悪さのせいだ。 あんなガキの頃の夢を見るだなんて一体どういうことか。 思い出すこともなかったことを今さら見るだなんて胸糞わりぃにもほどがある。 「明日のお迎えは午後に参りますので」 「・・・あ? てめぇ何言ってやがる」 「随分と疲れも溜まってらっしゃるようですからたまにはゆっくりとお休みください。幸い今は火急の用事もございませんし」 「いらねーよ。そんな無駄な時間があるならさっさと次の仕事を回せ」 「ですが・・・」 「いらねーっつってんだろうが」 「・・・かしこまりました。ではもしも気が変わられた場合はまたご連・・・」 「てめぇーも大概しつけーな。いらねーっつってんだろうが。ぶっ飛ばされてぇのか?」 「・・・・・・」 「フン、じゃあな」 それ以上は口を噤んだ西田を車内に残すと、司は颯爽とリムジンから降りて行った。 今日のNYは殊更寒い。雪こそ降ってはいないがおそらく今現在の気温は氷点下に違いない。 はぁっと吐き出した真っ白な息がゆっくりと空に消えていく。 何故何の脈絡もなく突然あんな夢を見たというのか。 特別何かがあったわけでもなくいつも通り仕事に追われる日常を送っていただけだというのに。 誕生日やイベントに親がいなくて悲しんでいたのなどチビもチビの頃の話。 物心ついた頃には既にそのことに悲しいとも腹が立つなんて感じることもなくなっていて、もはやいないのが当たり前ではなく 「いなくていい存在」 へと変わっていた。 それでもふとした瞬間に 「一体何のために生まれてきたのだろうか」 という疑問が湧き上がってくることがあって、当然ながらそんなことは考えるだけ無駄だった。 「後継者としての駒が必要だった」 ただそれだけのこと。 それに気付いて荒れ狂った頃もあったが、そのうちそれすらもどうでもよくなった。 今日の空気と同じように、季節に関係なく心の中には常に氷点下の風が吹き抜けているようなそんな状態が当たり前となっていった。 だから自分にも辛うじて子どもらしい時代が存在していたということをこの瞬間まで忘れていた。 ギイイィ・・・ 「・・・?」 シーーーーンと静まりかえるエントランスホールに違和感を覚える。 いつもなら既に使用人が整列して待ち構えているのが常だというのに、今日は何故か人っ子一人いない。別に出迎えが欲しいわけでもなんでもないが、与えられた仕事をしていないともなれば話は別だ。 「おい、誰もいねーのか」 カツン・・・ 中へ数歩踏み入れてみても状況は変わらない。響いているのは自分の声と足音だけ。 今朝はいつもと何ら変わらなかったというのに一体何があった? 「おいっ! お前ら・・・」 カタン・・・ 左手から小さな物音がしてハッと振り返る。 「お前ら、主人に無断でこんなことするなんざいい度胸 ___ 」 言いかけた言葉がそこでブツンと途切れた。 「お、お帰りなさい・・・」 「・・・・・・・・・」 大きな花瓶の裏からもじもじといかにも挙動不審に姿を現したのは・・・ 「え、えーと・・・な、何か言ってよ・・・」 「・・・・・・・・・」 「・・・道明寺? ね、ねぇ、聞こえてる? きゃっ!!」 ガシッ!! 「・・・・・・牧野?」 「は、はい?」 「・・・牧野か?」 「う、うん」 「・・・本物の牧野か? ・・・いや、また俺は夢見てんのか?」 「い、いや、だから本物だってば!」 両手を掴まれた大きな黒目がパチパチと瞬きを繰り返す。 どんな宝石よりも輝くこの一点の曇りのない漆黒の双眸の持ち主、それは ____ 「 牧野っ?! 」 「だ、だからそうだってば!」 間違いない。 この世でただ1つこの俺が求める牧野つくしだ。 「お前・・・なんでこんなところに? 俺マジで夢見てんのか・・・?」 「ち、違うってば! 本物! 現実! ほら、触ってみてよ!」 混乱する司の右手を掴むと、つくしはそのまま自分の頬に持って来て触れさせた。 凍てつきそうなほど冷たい司の右手にふわっと確かな温もりが伝わる。 「っていうか道明寺の手冷たすぎ! 手袋してなかったの? こんなに冷たくなっちゃって・・・あ!」 何かを思い出したようにつくしは花瓶の後ろに置いてあった荷物の中から何かを取り出すと、司の目の前まで戻ってきてそれをゆっくりと差し出した。見れば綺麗に包装された袋がそこにはある。 「・・・?」 「お誕生日おめでとう、道明寺」 「・・・え?」 「あ。やっぱり忘れてたでしょ。あたしの誕生日は覚えてるのにどうして自分のは忘れちゃうのよ」 「・・・自分のなんて昔からどーでもいいからな」 「ダーメ! 今度からちゃんと覚えておいてね。はい、これプレゼント。・・・って言ってもあんたからすれば全然大したものじゃないんだけど・・・ほら、気持ちだけはちゃんとこもってるから! ねっ?」 「・・・・・・」 半ば強引に渡された袋の中身をそっと取り出すと、中からは揃いの手袋とマフラーが顔を出した。今の司の首を温めている最高級カシミヤとは似ても似つかないただのウール素材のマフラーをじっと見つめる。 それはどこからどうみても手作りだというのがわかる出来映えだ。 「・・・あの、肌触りが気になるとか見た目が気になるとかなら無理してつけなくていいからね? ごめんね、本当ならもっといいものをあげられたらいいんだろうけど、あたしにはこれでせいいっ・・・」 バサッ! 「・・・えっ?」 いきなりつくしの首回りが温かくなった。それもとびっきり。 司が身につけていたマフラーが巻かれたのだと気付くまでにそう時間はかからなかった。 「お前が巻けよ」 「え?」 「俺にくれんだろ、これ。だったらお前が巻け」 「道明寺・・・・・・いいの?」 「何がだよ。ほらさっさとしろ、さみーだろ」 「・・・うんっ!!」 瞳を潤ませながら笑顔で頷くと、つくしは少し前屈みになった司の首に自分が何日も寝る間を惜しんで作り上げたマフラーをゆっくりと巻き付けた。 「・・・あはっ、やっぱりおかしいね」 お世辞にもうまいとは言えないその出来映えに自分でも苦笑いするしかない。 司の身につけているものと本人の醸し出す高級感とのアンバランスさにも今さらながら不釣り合い感がすさまじい。 「あったけーな」 「・・・本当?」 「あぁ。それよりもよっぽどあったけー」 「道明寺・・・ありがとう。うれしっ・・・!」 グイッといきなり体を抱き込まれてそれ以上の言葉を紡げなくなってしまった。 「あぁ・・・牧野、牧野、牧野・・・ほんもんのお前だ・・・」 「っ道明寺・・・!」 ギュウギュウに締め付けられて苦しいが、それ以上に幸せだ。 その幸せを思いっきり吸い込むと、つくしは大きな背中にめいっぱい手を伸ばしてしがみついた。 やっと・・・やっと、やっとやっとやっとやっと会いに来ることができた。自らの足で。 司がNYへ経って3年、約束の4年まであと1年。 これまで片手で数えられるほどだけ会えたことはあるが、どれも顔を合わせて話をする程度の時間しか確保できなかった。こうして面と向かってきちんと会えたのはこれが初めてのこと。 ・・・そう、会いたくてたまらなかったのは司だけではない。 つくしとて彼に会いたくて会いたくてたまらなかった。 「・・・このためにわざわざ来てくれたのか?」 「うん・・・皆が行ってこいって背中を押してくれたから・・・。ごめんね? 内緒で来たら迷惑かもって思ったんだけど、いつの間にかF3が西田さんに連絡取ってくれてたみたいで。そうしたら今なら大丈夫ですって言ってくれて・・・」 その言葉に全ての合点がいく。 だからさっきあんなわけのわからない提案をしたのか。 こんな理由があるならあるとさっさと言えばいいものを、相変わらずあの能面は・・・ 「クッ・・・!」 「・・・道明寺?」 「・・・癪だが西田に連絡しなきゃなんねーみてぇだな」 「えっ?」 「いや、こっちの話だから気にすんな。お前いつまでこっちにいられんだ?」 「あ、えっと、明後日の便で帰ろうかと・・・」 「つーことはもう2日もねーってことか。こうしてる時間がもったいねぇな。さっさと部屋に行くぞ」 「えっ? あの、ホテルを・・・」 思わぬ言葉に司が心底呆れかえる。 「はぁ? バカ言ってんじゃねーぞ。誰がホテルなんざ行かせるか。お前は俺の部屋に泊まるに決まってんだろうが」 「へっ?」 「へっ、じゃねーよこのタコ! 貴重な時間をわざわざ離れて過ごすバカがどこにいるってんだよ。いいから行くぞっ!」 「えぇっ?! あっ、ちょっと! 荷物が・・・!」 「んなもん5秒もすりゃ誰かが持って来るから気にすんな」 「ちょっ・・・そんなに思いっきり引っ張らないでってばぁっ!」 あんなにも凍り付きそうだった末端から溶け落ちていくように温もりが広がっていく。 まだ子どもらしさを失ってはいなかった頃、自分は何故この世に生まれたのだと何度も自問自答を繰り返した。その答えを与えてくれる者はどこにもおらず、自ら辿り着いた答えはただ1つ。 だが ____ 今なら違うと言える。 何故俺は生まれてきたのか。 牧野・・・全てはお前に出逢うために。 俺を人らしくしているのはお前。 俺を生かしているのもまたお前。 お前というかけがえのない存在があるからこそ俺は俺らしくいられる。 あと1年。 全てが終われば俺は全力でお前を迎えに行く。 その時にはお前に選択肢は1つしかない。 泣こうが喚こうがお前は俺と家族になるんだからせいぜい今のうちに覚悟しておけよ? なぁ、牧野? 「 道明寺・・・あらためて、お誕生日おめでとう 」
何もしないつもりでいたんですがポッとお話が浮かんだので一気に書いちゃいました。 次からはまた王子様に戻ります~^^ スポンサーサイト
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王子様の憂鬱 26
2016 / 01 / 30 ( Sat ) 「あ、花音ちょっと待って」
「えっ?」 呼び止められると同時にピタリと密着するように寄り添われて心臓が跳ね上がる。 体温が伝わるほどの距離にドキドキが止まらない。 「髪に何かついてる。・・・綿ぼこり?」 「あ・・・さっき資料室で色々探したからかな・・・」 そうは言いつつも実際はそんなことはどうでもよくて。 指の先についた綿にフッと息を吹きかけるその姿から目が離せない。 「取れた」 「あ・・・ありがとう」 こちらを向いてニコッと笑う顔と目が合うと、花音は慌てて別の方向へと視線を動かした。 今さらなのは百も承知だが、この至近距離で見つめ合えるほどまだ免疫はついていないのだ。 いや、むしろ全てを知ってしまったからこそ恥ずかしくてまともに見られない。 ・・・というのに、遥人の溺愛ぶりは目に見えて増していく一方で、隙あらばいつだってこうして距離を詰めてくる。 「かーのーん」 「・・・」 甘い悪魔の囁きが聞こえる。 見ちゃダメ見ちゃダメ。 見ちゃ・・・ 「ふぅっ」 「ひゃあっ?!」 「あっははは! やっとこっち向いてくれた」 「な、な、な・・・!」 生温かい吐息をかけられた場所が燃えるように熱い。 それを押さえる右手にまでその熱が伝わっていくほどに。 「だってさっきから全然こっち見てくれないから」 「そ、そんなこと・・・」 「ない? ほんとに?」 「ちょ、ちょっと・・・?!」 ズイズイッと迫られてあっという間に壁際へと追い込まれてしまう。ドンッと壁にぶつかってそれ以上の逃げ場を失うと、すぐに伸びてきた両手に最後の抜け道すら完全に塞がれてしまった。 「せ、専務!」 「あ。今は2人きりなんだから遥人でいいよ」 「よくありません! お仕事中でしょう?!」 「時計見て」 「えっ? ・・・あ」 チラリと肩越しに見えた時計が示しているのは午後0時3分。 ・・・つまり今は自由時間だと主張したいらしい。 「花音」 「だ、ダメです! いくらお昼休みだからってこういうことは・・・!」 「こういうことってたとえば?」 「そ、それは・・・」 みるみる困った顔で赤くなっていく花音に遥人がやけに嬉しそうに笑う。 「今日の夜は大事な接待があっただろ? だから今のうちに充電させて。ね?」 「ね、って・・・」 「花音・・・」 「ハルに・・・」 ・・・ダメだ・・・逆らえるはずがない。 だって心の中ではちっとも嫌がってなんかいないのだから。 それどころかこうして自分が求められているのだと実感できることが嬉しくてたまらないくせに。 花音は心の中で小さくごめんなさいと口にすると、徐々に大きくなる遥人の顔をその目に焼き付けながらゆっくりと目を閉じてその瞬間を待った ____ 「コホンッ!」 唇にほんの少しだけ何かが掠ったまさにその時、どこからともなく聞こえてきた咳払いにビクッと飛び上がる。空耳であってほしい、そう願いながら恐る恐る目を開けると・・・ 「 !! きゃあっ!!」 「おわっ?!」 ドンッ!!と普段じゃ考えられないほどのバカ力で遥人を突き飛ばすと、その拍子に手にしていたファイルがバサバサと足元へと零れ落ちてしまった。 「ごっ・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」 「花音、何も謝る必要なんて・・・」 「山野さんも本当に申し訳ありませんでした! 私はこれで失礼致しますっ!!」 「あっおい、花音っ!!」 金魚すくい名人も勝てないほどの早技で全てのファイルを拾い集めると、花音は全身を真っ赤にしながらひたすら頭を下げて執務室から逃げ出ていってしまった。 「・・・・・・」 「・・・何でしょうか。私が何か?」 花音が出ていった扉のすぐ横に立っているのは他でもない仕事人間山野だ。 こうして邪魔をされるのは一体何回目になるだろうか。 毎回毎回絶妙なタイミングでやってきては花音に逃げられてしまうのがパターン化している。 だったらやらなきゃいいだろと突っ込まれようともそれはまた別問題というもの。 「・・・はぁ~~~っ、お前はほんと何なんだよ? 俺に恨みでもあるのか?」 「とんでもございません。むしろこのところいつになく仕事に精を出されておられるのでこちらとしては嬉しい限りです。よほどいいことでもおありになったようで」 「だったらもっとやる気が出るように少しは協力しろよ」 「本当ならばそうしたいのは山々ですが・・・先方から先程連絡が入りまして」 「先方? ・・・ってもしかして今夜のか?」 「はい。何でも今夜の席には花音様も同行させて欲しいとのことです」 その言葉に遥人の眉尻がピクッと動く。 「・・・花音を? 何故先方が花音の存在を知っている? あそこと花音はこれまで一切の接点を持たせていないはずだぞ」 「それは私には分かりかねますが・・・元来花音様は道明寺財閥のご令嬢でありますから、あるいはそちらで何かしらの面識があった可能性も否定できないかと・・・」 「・・・ということは花音に対して個人的な感情をもってる可能性があるってことか・・・?」 「あくまでも可能性の話ではありますが」 「・・・・・・」 「どうなさいますか? 無理に要求を呑む必要はないかとは思いますが」 カリッと爪を噛みながらしばらく何かを考え込む遥人の答えを山野がじっと待つ。 「・・・いや、下手に別行動するよりは俺と一緒にいた方が安心できる」 「では」 「あぁ、あいつも一緒に連れていく。だが俺から寸分も離すことはしない。お前もそのつもりでいろ」 「・・・かしこまりました。では先方にもそのようにお伝えしておきます」 「・・・・・・」 山野が部屋を後にすると、遥人は自分のデスクへと足早に着く。 手元を一切見ることなく一気に何かを入力すると、長くせずして表示された画面をじっと食い入るように見つめた。 「・・・・・・マーキュリーカンパニーのマイケル・ワイス・・・か」 液晶に映し出された自分よりも幾分若いブロンドヘアの男を見ながら、遥人はカツンと指先でデスクを小さく叩いた。
昨日は気分が悪くて仕方がないと書いたんですが、あれから1日経って劇的に良くなってきました!今日から旦那が仕事に復帰したから・・・?( ̄∇ ̄)(超小声) 気分が良くなってきたのが嬉しくて書いちゃいましたよ~!^^ 明日は司のバースデーでしたがそれどころじゃなくてすっかり忘れてました(苦笑)なんのイベントもできないかもしれませんので先に謝っておきます、すみませんっ!! |
君が笑えば
2016 / 01 / 29 ( Fri ) ダダダダダダダダダダ・・・!
「坊ちゃま! お待ちくださいませっ!!」 「やーーーーっ!」 だだっ広い廊下にスッタンバッタン何事かと思うような物音が響き渡る。 四方八方から現れた使用人が右に左にと小さな影を追いかけて走り回るが、まるで死に物狂いで逃げる鼠の如く僅かな隙間をすり抜けていく幼子に、未だ誰一人として手が届いた者はいない。 「坊ちゃま!! お願いですからお待ちくださいっ!!」 「やなのーーー!! ママがいいのーーーーっ!!!」 「ですから奥様には今は会うことはできませんと・・・!」 「やーーーーーーーっ!!!」 「あっ、そちらはダメですっ・・・!」 今度こそ届きそうだった手のほんの数センチ脇をすり抜けていくと、少年は一番奥にある部屋を目指して猛ダッシュしていく。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ママ・・・!」 あと1メートル、50センチ、30センチ、10センチ・・・ ゼ・・・ ガッ!! 「あっ?!」 ドアノブに指先がほんの少しだけ掠った瞬間、突如ふわりと体が宙に浮いた。まるで背中に羽が生えて天使にでもなったかと思うほどに、両手両足がブラブラとぶら下がっている。 最初こそキョトンとしていたが、それが自分が捕まったことに他ならないと気付くまでにそう時間はかからなかった。 「やっ・・・! やぁーーーーっ!! ぼくはママのところにいくのーー!! はなしてぇー! はなしぇーーーーっ!!!」 「うるせーぞ、男がギャーピー言ってんじゃねぇ」 「・・・えっ?」 顔の真横から聞こえてきた声に、それまでジッタンバッタン動き回っていた手足が面白いようにピタッと止まった。 「ぱ・・・ぱぱ・・・? パパっ!!」 つい3秒前まで顔を真っ赤にして抵抗していたのが嘘のように、幼子の表情が一瞬にして花開く。 「かえってきてくれたのっ?!」 「誰だ? いつまでも我儘言って大人の手を煩わせてんのは」 「 ! ご、ごめんなしゃい・・・でも、ぼく・・・」 「つくしには今は会えねーって言われただろ」 「う、うん・・・」 わかりやすく目に見えてしょんぼりする。 「何も一生会うななんて言ってねぇだろうが。あいつが元気になるまでは我慢しろっつってるだけだろ。それとも何だ、お前はつくしを困らせてーのか?」 「ち、ちがうよっ! ぼくはただ、ママに・・・ママに・・・」 ブンブンと首を振ると、みるみる大きな黒目に涙が溜まっていく。 子どもと言えど父親の前で泣くことへの意地があるのか、今にも溢れ出しそうなギリギリのところで踏みとどまって唇を噛みしめている。司はそんな息子の姿にふぅっと軽く息を吐くと、鷲掴みにしていた洋服ごと少年をゆっくりと地面へと下ろした。 そして立ち尽くしたまま尚も泣かずに耐えている息子の頭にポンッと大きな手を置いた。 「お前があいつに会いたいって気持ちはわかる。けどな、別に誰も意地悪で会わせねーってんじゃねぇ。あいつは今病気なんだ。お前みたいなチビが会えば確実にうつる。そうなったときに一番悲しむのは誰だ?」 「・・・・・・ママ・・・?」 「あぁ。自分のせいでお前を苦しることになってみろ。あいつは自分を責め続けるぞ。それでいいのか?」 「や、やだっ!!」 「だろ? だったらあと数日だけ我慢しろ。つくしだって1日でも早くお前に会いたいに決まってんだろ? だからたとえ今は会えずに寂しくたって、お前と一緒にいる時間のために必死で頑張ってんだろうが」 「・・・・・・げんきになったらママといっぱいあそべる?」 「あぁ」 「1日中ずーーーーっと?」 「あぁ。いつだってそうだったろ?」 「うん・・・。・・・そっか、そっかぁ。パパがいうならぜったいだね!」 「自慢じゃねーが俺は嘘だけはついたことはねーぞ」 「うん! いつだってパパが言うことはほんとだもん!」 「わかったならさっさと自分の部屋に行って寝ろ。今何時だと思ってる」 大きな窓の外はとっぷりと日が暮れ、綺麗な満月が煌々と邸の中を照らしていた。 「ねぇパパ! えほんよんでっ!!」 「あ?」 「ねぇいいでしょ? せっかくパパがかえってきてくれたんだもの! おねがい!!」 「・・・チッ。仕方ねーな。今回だけ特別だぞ」 「やったあーーーーっ!!!」 よっぽど嬉しいのか、幼児としてはあり得ないほどの跳躍力で跳びはねている。 「じゃあさっさと行くぞ」 「あっ、まってぇ! ねぇパパ、かたぐるましてっ!」 「あぁ?!」 「おねがい!!」 「・・・・・・」 ひしっと膝にしがみついて見上げる姿が一瞬だけつくしに見えた。 ・・・なんて、チビ相手にそんな錯覚を起こすなんて一体どんだけ欲求不満なんだか。 「クッ・・・あいつが不足してんのは俺も同じか」 「えっ? なーに?」 「なんでもねーよ。おら、行くぞ!」 「えっ? きゃーーーーーっ!!! すごいすごーーーいっ!!」 ヒョイッと小さな身体を肩に担ぎ上げると、さらにハイテンションで大喜びだ。 この調子で本当に眠りにつくのやら。 「ねぇ、たーーくさんえほんよんでねっ!!」 「あぁ? 一冊読みゃあ充分だろ」 「ママはいつもみっつはよんでくれるよ!」 「げ・・・」 「3びきのこぶたでしょー? あとはー、シンデレラもいいな! あとはねぇ~・・・」 「つーかお前髪の毛引っ張ってんじゃねーよ。いてーだろ」 「だってパパのかみふわふわできもちいいんだもん!」 「だもんじゃねーだろ。ったく・・・ブツブツ・・・」 「きゃっきゃっ」 ほんの5分前までの喧騒が嘘のように楽しげな声が響き渡る廊下に、精も根も尽き果てた使用人がグッタリとしながらも、どこからどう見ても瓜二つな親子の後ろ姿をいつまでも微笑ましそうに見送っていた。 *** カタン・・・ 「・・・タマさん・・・? ごめんなさい、さっきあの子騒いでましたよね・・・?」 「いい。起きんじゃねぇ」 「え・・・?」 入り口から聞こえてきた物音にフラフラと体を起こしかけていたつくしの動きが止まった。 ゆっくりとこちらに近づいてくるその人物、それは・・・ 「つ・・・司?! どうしてここに・・・? シンガポールじゃ・・・まさか、」 「心配するようなことは何一つねーよ。やるべきことを終わらせて帰ってきたまでだ。予定よりうんと早くな」 「そんな、もしかして・・・あたしのために・・・?」 「そうじゃねーよ。これは俺のためだ。だからお前が気に病むようなことは何一つねぇ」 「・・・・・・」 司の1週間ほどの海外出張の間につくしのインフルエンザが判明したのは彼が日本を経って2日後のことだった。まだ予防接種の終わっていなかった子どもは当然ながら近づかせることは出来ず、母親と会えないストレスを与えてしまっていることがつくしにとっても辛かった。 だからこそ必死で治そうと闘っていたのだが、思うように回復しないことに焦りと苛立ちを感じてしまっていた。こんな時に司がいてくれたら・・・そう思わなかったと言ったら嘘になる。 でも実際こうして本当に帰ってきてくれたらくれたで何とも言えない申し訳なさでいっぱいになる。 きっと相当な無理をして帰って来たに違いないのだ。 ・・・彼は優しい人だから、そんなことは口が裂けても絶対に言ったりはしない。 「また難しいこと考えてんだろ。お前の悪い癖だぞ」 「・・・ダメ。司も近づいちゃダメだよ。うつしちゃったら大変」 いつの間にか真横にいた司の手がつくしの髪をさらりと撫でる。 咄嗟に身を引いたものの、最初からベッドに横になっている状態ではほとんど逃げ場はない。 「俺は毎年予防接種だってしてるし病気につえーのは知ってんだろ」 「そういう問題じゃないよ・・・万が一のことを考えなきゃ」 「だからマスクしてんだろ?」 「そう、だけど・・・」 司がマスクをすることなんて普段ならまず考えられない。 つまりは自分を安心させるためにやってくれているのだ。 「お前が逆の立場ならぜってー同じことするだろ?」 「・・・・・・」 そこは悲しいほどに否定出来ない。 うつる覚悟で必死にお世話するに決まってる。 「な? とにかくお前は余計なことなんて考えずにゆっくり休め。あいつだってお前が元気になるのを今か今かと待ってんだ」 「・・・あの子にも悪いことしちゃったな・・・」 「病気なんだから仕方ねーだろ」 「うん・・・。元気になったらうんと遊んであげなきゃ」 「あぁ。でもお前が相手すんのはあいつだけじゃねーぞ」 「えっ?」 キョトンと見上げる顔はやっぱりさっきのチビにそっくりだ。 「・・・何? なんで笑ってるの?」 「ククッ・・・いや? なんでもねーよ。とにかく。お前に飢えてんのは何もガキだけじゃねーってことだ。さっさと元気になって早く俺を充電させろ」 「あ・・・」 ようやく言わんとすることが理解できたのか、つくしの頬がほんのり色づいていく。 「あー、その顔やめろよな。つーかキスくらいならいいんじゃねーのか?」 「だ、ダメっ!! そんなの絶対にダメダメダメっ!!!」 バッサバッサと布団を引っ張ると、つくしは自分の口元を必死で死守した。 「チッ、やっぱだめか。じゃーせめてお前の寝顔くらい見せろよ」 「で、でも、早く部屋から出た方が・・・」 「心配しなくても朝まではいねーよ。お前が眠ったのを確認したら俺も別室に行くから。だからお前は安心して寝ろ」 「うん・・・ありがと、司」 「お礼なら治ってからたんまりしてもらうから心配すんな」 「・・・ふふ、そうだね」 「ほら、もう寝ろ」 「うん・・・ほんとに、ありが・・・と・・・う・・・」 頭を撫で始めてからスースーと寝息が聞こえるまで一体どれほどの時間があっただろうか。 あるいは息子を心配する余り思うほど眠れていなかったのかもしれない。 すっかり安心しきった顔で幸せそうに微睡む姿に仕事の疲れも何もかもが一瞬にして吹き飛んでいく。 「早く元気になって今度は俺を幸せにしやがれ」 すっかり夢の中のつくしの耳元でそう囁くと、司はグイッとマスクをずらしてつくしの頬へとキスを落とした。 「・・・・・・今日はここで我慢しておいてやるよ。続きはまた今度たっぷりな」 「・・・ん、う~ん・・・」 一瞬だけ眉間に皺を寄せて寝返りをうったつくしに思わず吹き出すと、司はポンポンと布団の上から背中を叩いて静かに部屋を後にした。 明日はもっと笑って会えますように。
たくさんの激励有難うございました。皆さんの気持ちが嬉しくて、比較的気分のいい時間に一気に書き上げました。おかげさまで熱は2日ほどで下がったのですが、どうにもこうにも気分の悪さが抜けず・・・。酷い船酔いが続いてる感覚です。インフルのせいなのか両鼻が詰まって蓄膿みたいな状態になってるせいなのか、はたまた他の原因なのか・・・もうわけがわかりません(笑) ただ願うことは早く気分が良くなってくれ、ただそれだけ(苦笑) チビゴンは早くも本来の元気を取り戻しつつあり・・・自分の衰えを痛感しています。トホホ。 今後の更新はしばらく不規則になるかもしれませんが、気長に待っていてくださいね!(o^^o) |
インフルになりました・・・
2016 / 01 / 28 ( Thu ) 何の連絡もなしにお休みしてしまって申し訳ありません。
その間に体調を心配してコメントくださった皆様も有難うございます。 予想されていた方もいるでしょうが・・・はい、インフルにかかってしまいました。 夜中にきつくて熱を測ったところ高熱が判明。何となく嫌な予感がしてチビゴンも測ってみたところこちらも高熱が。その日のうちに病院に行ったら私はインフル陽性が、チビゴンはまだ反応が出ませんでしたが、状況から見てほぼ間違いないでしょうと言われ2人揃ってインフル治療をすることになりました。(逆にチビゴンが実はインフルじゃなかったということになる方が困るんですよね・・・またうつる可能性が出てくるので) インフルにかかるのなんて一体いつ以来でしょうか・・・ 多分軽く10年以上はかかってません。 久しぶりでしたがやっぱりしんどいですね・・・。 このところ看病続きだったこと、そんなときに1人で大雪対応に追われて体を酷使したことでうつりやすい状況になってしまったのかなと思います。その証拠に口唇ヘルペスができちゃってたんですよね。免疫力が低下するとできるタイプなのでわかりやすいんです。 おまけに月のものが始まってしまって重い腹痛にも苛まれ・・・ まさに踏んだり蹴ったりという言葉がふさわしい状況です(苦笑) でもまぁどうせなるならチビゴンと同じタイミングでよかったかなと思ってます。 私だけ隔離されるとなるとチビゴンが大泣きするのが目に見えてるので。 最初の2日はきつくて何もできませんでしたが、ここにきて熱が下がってきて気分の悪さもだいぶよくなっているので、気分転換もかねて布団の中でゆっくりと執筆を再開したいなと思っています。(寝てばかりなのもこれはまたこれでしんどいです・・・) とりあえず今日まではお休みさせていただきます。 明日以降はどうなるかまだ不透明ですが、もし更新できなかったり飛び飛びになったとしても、こういう事情のためだと思っていただけたら有難いです。 最初はつかつくの短編で復活しようかななんて思っています。状況が状況なので本当に短いお話になるかと思いますが・・・彼らに私も元気をもらえたらいいなと思ってます。 私の住む街では学級閉鎖が出るなど本格的な流行を迎えているようです。 皆様もどうか体調管理にはお気をつけくださいね。 踏んだり蹴ったりの私が言っても説得力がありませんが・・・こうはなってはいけませんよということで(笑) それでは明日か明後日か・・・また近日中にお会いいたしましょう^^ ・・・あ!お休み中にもかかわらず地道に↓のポチを押し続けてくださっていた皆様、本当に有難うございます!元気玉、確かに受け取ってます!!(*^o^*)ゞ お礼の気持ちは作品を通して返させてもらいますからね!
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ドカ雪です・・・
2016 / 01 / 25 ( Mon ) この冬、雪国である私の住む地域はこれまで積雪0でした。
ここへ来て10年、これほどまでに降らないのは初めてのこと。 先週末の寒波(関東に雪を降らせた)予報の時ですらここだけまるで別世界。降ってもせいぜい数センチ程度ですぐにとけてしまってました。 今年はこのままほんとに降らないかも・・・と半分本気で思っていました。 ・・・がっ!!!! 今現在積雪1メートル超・・・(たった1日で) 今もガンガン降り続いてます。というか吹雪いてます。 いえね、正直私も南国気質がいつまで経っても抜けない人間ですし、チビゴンはチビゴンで雪乞いをしてたくらいなので降って欲しいとは思ってましたよ? でもね、誰もドカ雪になってくれなんて言ってなーーーーーい!!! どうしてこうも極端なんだ・・・(T_T) 持ち家なので雪掻きは必須。(これがかなりの重労働) しかもこんな時に限って旦那はインフル・・・ 悲鳴を上げながら一日中雪掻きに追われました。(&通常業務) 吹雪いてる時はやってる傍から自分が雪だるまになってしまうのでほんと厄介で。でも雪が軽い質のものだったのだけが唯一の救いでした。(これも1日経てば圧雪されて重くなってしまうんです) 雪掻きしながら横で遊ぶチビゴンのためにひーひー言いながら滑り台(大人の腰の高さほど)を作ってあげたはいいものの、1時間もしないうちに雪の中に埋もれていってしまいました・・・トホホ(T△T) ということで今日は全く書く時間が取れませんでしたm(__)m ただいま絶賛全身筋肉痛(苦笑) PCを打つ手も痛みで震えてます(^_^;)毎年最初の雪掻きをした後は必ず筋肉痛になります。どうも普段使わない筋肉を使いまくるみたいです。 ・・・え?単なる運動不足だって? わーっとるわい!(*`皿´*)ノ 元気玉がしぼみにしぼみまくってます・・・(´д`) 明日の更新を目指してますが予報は大雪。どうなるかな~・・・ 皆さんのお住まいの地域は大丈夫ですか? 普段あまり降らない西日本で大雪になっているようなので夜が明けてからが大混乱になるでしょうねぇ・・・。怪我人や死者がでないことを願うばかりです。 ということで今日はお休みです。ごめんなさい! m(__)m
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王子様の憂鬱 25
2016 / 01 / 24 ( Sun ) 「あっ、おねえちゃん! ハルにぃっ!」
長い廊下を歩いていると、たまたまそこにいた渚と鉢合わせた。 結局あれから道明寺邸へと帰ってこれたのは日もすっかり暮れてからのこと。 「もう一度だけ」 なんて言っておきながら、彼がその言葉を守ることはなかった。 そしてなんだかんだで自分もそれを拒むことはなかった。 ・・・信じられない。信じられない。信じられないっ! は、は、初体験したのはつい昨日のことだというのに。 人間というのはこれほどに順応能力を持ち合わせた生き物だったのか。 最初はあんなに痛くて内心二度としたくないなんて思っていたくせに、次の日にはもう・・・ か、か、快楽で満たされているなんて・・・! 恥ずかしすぎると同時にある意味で身体の神秘に遭遇した気分だ。 ・・・って一体何を考えてるんだか?! 「遅かったねぇ~! どこ行ってたの?」 「え? えーと・・・」 「ちょっとね、2人でゆっくりデート」 「デートぉ? いいないいな~、あたしも行きたかったぁ!」 「ははは、渚はまた今度な」 「ぶーーー!!」 「それよりパパとママは? いる?」 「いるよ~! ご飯も終わって大広間でお茶でも飲んでるんじゃないかなぁ。一緒に行く?」 「そうだね。行こっか」 「わーい! じゃあ行こ行こっ!!」 渚はピョンピョン跳びはねながら2人の間におさまると、両手でそれぞれの手を掴んで満面の笑みで歩き出した。何も知らない人が見たらパパとママに見えたりして・・・なんて考えてしまう自分がちょっと恥ずかしい。 そんなことを考えながらチラッと横目で遥人を見上げると、いつから見ていたのかバチッと思いっきり視線がぶつかった。 「 ! 」 「ん?」 「う、ううん。何でもない!」 慌てて前を向くと横からクスクスと笑う声が聞こえる。 ・・・もうっ! 「こうしてると親の疑似体験してる気分だなー」 「えっ?! ・・・あ」 驚いて二度見したら、それを予測していたかのようにニヤニヤと笑っている。 ・・・全部読まれてる。 「早くほんとにこうなるといいな」 「・・・うん」 「あれー? おねえちゃん顔真っ赤だよー? どうしたの~?」 「な、なんでもないっ!!」 「へーんなのぉ」 「ははははっ!」 *** 「パパ、ママ、おねえちゃんたちが帰ってきたよっ!」 大広間へと辿り着くと今度は両親の元へと駆けていく。 そんな娘を両手を広げて受け止めながらつくしは笑顔で2人を迎え入れた。 「おかえりっ!」 「た、ただいま・・・」 「お邪魔してます」 「やだー、そんな言葉遣いハルじゃないっ! どこか具合でも悪い? 変なもの拾い食いしちゃった? それとも何かいいことでもあっておかしくなっちゃった?」 「・・・・・・」 パチッとウインクしながら大袈裟に笑うつくしに遥人が半笑い気味に流す一方で、花音はみるみる真っ赤に染まっていく。 「うんうん、とっても充実した時間が過ごせたみたいだね~。よかったよかった!」 何度も嬉しそうに頷くつくしの視線は娘の左手に注がれている。 「ねっ、司?」 「・・・・・・」 話をふられた張本人はぶっすーっと返事もせずに仏頂面でソファーにふんぞり返ったまま。 「ねぇねぇパパ! おねえちゃんとハルにぃはデートでおそくなったんだってぇ!」 「・・・」 「ほらほら、立って立って~!!」 末娘には逆らえないのか、尚も面白くなさそうな顔をしながらも引っ張られるままに司が立ち上がる。どうやら父娘にしかわからないアイコンタクトで肩車を求められていたらしく、暗黙の了解のように渚を担ぎ上げた。 渚のテンションは最高潮だ。 「花音、よかったね」 「ママ・・・うん」 ポンポンと腕を叩かれて、はにかみながらも花音が幸せそうに笑う。 娘の変化に、つくしも母として何とも言えない想いに包まれる。 そんな親子の様子を少し離れたところで見ていた遥人の傍に、渚を担いで歩き回っている司が次第に近づいて来た。一瞬だけ目があったが、すぐにフイッとまた違う方向へと司が視線を動かす。 「ハルにぃ~!!」 ブンブンと手を振りながら目の前を通過していく渚に笑って手を振った、その時・・・ ドガッ!! 「いってぇっ?! っおいっ、何しやがるっ!!」 いきなり弁慶の泣き所に蹴りが入り、あまりの痛みに思わず飛び上がった。 「わりーな。足が長すぎて当たっただけだ」 「はぁっ?! んなわけねーだろ!」 ゲシッ!! 「いって! おいっ、ざけんなおっさん!」 「わりーな。足がすべっただけだ。気にすんな」 「はぁ~~っ?! んの野郎・・・!」 ボゴッ! 「~~~~っ、おいっ、いい加減にしろこのクソ親父っ!!」 我慢も限界を迎えた遥人が司の脛を思いっきり蹴ろうと思ったその瞬間 ___ 「こらぁーーーっ!! けんかはダメっていつも言ってるでしょおっ!!!」 2人の頭上から激しい雷が落ちてきた。 見れば小さな雷様がぷんぷんといたくご立腹だ。 「2人とももっとおとなにならなきゃメッ!!」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「いったい何回言ったらわかるのっ!!」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・ぷっ! あっははははははは! あーあ、まーた怒られちゃった」 「もう・・・パパもハルにぃもいつまで経ってもすぐムキになるんだから」 「ほんと、男の人はお子ちゃまでこまりますねー!!」 「あっはははは! ねーっ?」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 6才の子どもの手厳しい指摘に大の男がブスッと心底面白くなさそうに黙り込むと、雷様を囲むようにして女衆はいつまでも大笑いを続けた。
チビゴンがようやく元気になり、一方でちょっと風邪の気配を感じるようになった私。これは気をつけねばと気合を入れ直し、日曜(今日ですね)は旦那が久しぶりに休みだからチビゴンを任せよう!!と思っていたのに・・・やっと少し楽が出来ると心から楽しみにしていたのに・・・!! 今度は旦那がインフルにかかるってどういうこっちゃねん?! ガビ( ̄■ ̄)ーン!! シクシクシク・・・。しかもこんなときに大雪になるとか予報が出てるし。 いえね、この冬散々降る降る詐欺にあってるんでね、普通なら「どうせまたスカシだろっ!!」なんて言って鼻で笑ってやるところなんですけどね、人生こういうときに限って当たったりするものなんです・・・。なので笑えねー!( ̄∇ ̄;) 昨日やっと15センチくらい積もったので朝からチビゴンとひたすら雪遊び。体が既に筋肉痛・・・ 母は今日も頑張ります。・・・トホホ(ノД`) ということでせっかく再開したコメント返事がまたまちまちになるかもしれませんが、どうかご理解いただけましたら有難いですm(__)m |
王子様の憂鬱 24
2016 / 01 / 23 ( Sat ) 「・・・ハルにぃ?」
キョトンとまるで人ごとのように黒目を瞬かせる姿に遥人が苦笑いする。 「そんなに驚くことか? 本当はずっと前からきちんとした形でお前にプロポーズし直すつもりでいたんだよ。・・・この指輪と一緒に」 「・・・・・・」 視線を落とした先、そこには光沢のあるベルベットの小さな箱がある。 いつまで経ってもそれを握りしめたまま動けずにいる花音に代わって遥人がそれを開くと、中から眩い光を放つ小さな塊が顔を出した。 「すごい・・・綺麗・・・」 「本当はお前をアメリカに迎えに行ったときには既に準備してあったんだ」 「えっ?」 「当然だろ? お前を受け入れると決めたのは将来のことまで見据えてのことなんだから。それに、それくらいの覚悟がなきゃあのおっさんが許すはずないしな」 確かに・・・パパなら言いかねない。 「あの時俺は帰国と同時に入籍してもいい、それくらいの決意をもってお前を迎えに行ったんだ。でも散々お前を待たせておきながら、自分がその気になった途端全てを自分のペースに巻き込むことに何とも言えない罪悪感も抱いてな。お前は社会人としての新たな生活に夢と希望に満ち溢れてたし、牧野の姓を名乗りたいとも言ってたから・・・ある程度は俺も待とうと思ったんだよ」 「ハルにぃ・・・」 「とは言ってもそう長く待つつもりはなかったけどな。・・・で、結局はどうにもこうにも耐えきれなくなってこうしてあらためてプロポーズしたってわけだ」 「・・・・・・」 「ほんと、我ながら情けなさ過ぎて嫌になるよな」 「・・・ぷっ!」 「笑うなよ。・・・って言いたいところだけど、残念ながら言えそうもない」 「あははは!」 お腹を抱えて笑う花音を目を細めてしばらく見つめると、遥人はケースの中から指輪を取りだした。その瞬間ハッと笑いが止まった花音の左手をゆっくりと持ち上げて、細い薬指にするすると銀色の輝きを通していく。指のサイズなど教えたことも聞かれたこともないというのに、寸分の狂いもなくそれはピタリとおさまった。 「・・・・・・」 中央に見えるのはきっと誕生石だろう。 そのまわりを星のように取り囲む無数のダイヤモンド達。 あまりの美しさに言葉もでないが、それらがゆらゆらと輝いているのはきっと宝石だからという理由だけではないはずだ。 「花音」 「・・・・・・はい」 顔を上げてしっかりと前を見つめる。 ・・・決して涙でぼやけてしまわないように。 「今度のパーティでお前のことを正式に対外的にも婚約者として発表したいと思ってる。だからこれからはこの指輪をずっとつけていてほしい。・・・俺と結婚してくれ」 カタカタと小さく震える両手が力強く握りしめられる。 その大きな手を負けじと握り返すと、花音はゆっくりと息を吸い込んでから頷いた。 「・・・はい。よろしくお願いします」 スローモーションのように頭を下げると、重力に逆らえずにぽろりと一滴の涙が零れ落ちていった。 「・・・・・・はぁ~~~~っ・・・」 「・・・? ハルにぃ?」 頭上から降ってきた盛大な溜め息に思わず顔を上げると、何故か遥人が額に手を当てて天を仰いでいる。 「・・・すっげ~緊張した・・・」 「えっ?!」 「手汗止まんねーよ。ほら」 「・・・・・・」 差し出された手を触ってみると、言う通りじっとりと濡れている。 あんなに落ち着いて見えたのに? 「・・・緊張してたの?」 「あぁ。ものすごく」 「ハルにぃが?」 「俺は誰かみたいにサイボーグじゃねーぞ」 「・・・もしかしたら断られるかもしれないって?」 「アホか! そんなん誰が言わせるかよ! ・・・って、何言ってんだ俺・・・」 「・・・ぷっ!」 さっきまでの緊張が嘘のようにほどけていく。 「絶対OKしてもらえるってわかってても、やっぱけじめをつけようと思うと滅茶苦茶緊張するもんなんだな」 「・・・そういうもの?」 「そういうもの」 「そっか・・・。ハルに・・・遥人、ありがとう」 「え?」 ガバッと遥人が花音を凝視する。 が、それと同時に明後日の方向に顔を逸らすと、目に見えて花音がきょどり始めた。 「え、えへへ・・・えーっと、そろそろ出掛ける準備しないとだよね!」 「花音」 「洋服も乾いたかな? ちょっと乾燥機見てくるね」 「花音」 「よいしょっと・・・」 「花音!」 立ち上がったところで右手をがしっと掴まれた。 そのままの勢いで顔を覗き込まれそうになるのを必死で逃げる。 右から来れば左に、左から来れば右に。 もう一度右から覗き込まれそうになって左に・・・ 「 !! 」 向いたところで急に正面から現れた顔に唇を奪われた。 「は・・・ハルに・・・っ!」 「遥人だろ、花音」 「んっ・・・!」 足元がふらついた勢いで2人そのままソファーへと倒れてしまう。 それ幸いとばかりに遥人のキスはより激しさを増していく。 「はっ・・・!」 「・・・・・・」 「んっ・・・・・・えっ?!」 息苦しさに堪らず顔を逸らそうと思ったその時、ふわりと体が宙に浮いた。 「な、なにっ?!」 「・・・ダメだ」 「え?」 「・・・お前が悪いんだぞ。変に火をつけるから」 「えっ? 火? な、なんのこと・・・?」 時々彼はこんなわけのわからないことを言う。 一体何のことを言ってるの?! 顔中に疑問符を貼り付ける花音をよそに、遥人は花音を抱き上げたままズンズンと足を前へと進めていく。 「ね、ねぇ、ほんとにどうしたの? 一体何が・・・」 と、ピタリと足が止まった場所を見て言葉を失った。 「は、ハルにぃ? まさか・・・」 「・・・悪い。まだお前を帰してやれそうもない」 「え・・・」 「絶対優しくするから。・・・だからもう一度俺に愛されて? 花音」 「ハル、にぃ・・・」 ニッコリ笑ってもう一度軽くキスを落とすと、尚も放心状態の花音の返事を待たずに遥人は寝室の中へと入っていった。 その後、再び扉が開かれたのは日が傾き始めた頃だったとかなかったとか。
すみません、諸事情により予定より短くさせてもらいました>< |
王子様の憂鬱 23
2016 / 01 / 22 ( Fri ) とても懐かしい夢を見た。
まだ小さかった頃、両親が呆れるほどにハルにぃのお邸に遊びに行っていたときのことを。 夏さんもハルにぃも、お邸の人もみーんな、嫌な顔一つせずいつも笑顔で迎えてくれたっけ。 ・・・そしてペロも。 昔長谷川家で飼われていた柴犬のペロ。本当はベックっていうかっこいい名前があるのに、子どもだったあたしが舐められる度に「ペロ!」って呼ぶものだから、いつの間にか皆からもペロっていう愛称で呼ばれるようになってたんだっけ。 行くとカンガルーみたいに跳びはねて喜んで、顔中をペロペロ舐めるんだ。 それがくすぐったくってくすぐったくって、でもすごく嬉しくて・・・ チュッ・・・ 「ん・・・」 チュッチュッ・・・ 「ふふっ、くすぐったいよ、ペロ・・・」 「・・・・・・ペロか。それもいいな」 ・・・ペロッ 「ふふふふっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」 ペロペロッ 「・・・んん?!」 パチッと目を開けて真っ先に飛び込んできたのはもちろん柴犬のペロ・・・ 「おはよう。お姫様のお目覚めかな?」 「・・・・・・・・・・・・は、ハルにぃっ?!」 「あ。やっぱりハルにぃか。夕べはあんなに名前で呼んでくれたのに」 「え? 夕べ? 夕べって何が・・・・・・って、ひゃあああああっ!!」 「おい、花音っ?!」 ふっと視線を下げた先に見えたのは紛れもなく遥人の逞しく美しい裸体。 そしてそれは自分も例外ではなく。 一瞬にして昨夜の出来事がフラッシュバックすると、花音はむんずと掛け布団を掴んでその中へと潜り込んでしまった。 「おーい、花音、顔見せて」 「は・・・恥ずかしいよ・・・!」 「何を今さら。もう花音の体で見てないところなんてないから」 「そっ、そういうこと言わないでっ!!」 「ははは、花音、お願いだから顔を見せて。・・・お前の顔が見たい」 「・・・・・・」 真綿で包むような柔らかな声に導かれると、花音がおずおずと布団の中から顔を出した。 「おはよう」 「・・・おはよう」 「ふっ、顔真っ赤だな」 「う゛・・・」 「可愛い」 「・・・」 嬉しそうに笑うハルにぃの方がよっぽど可愛いよなんて言ったら・・・怒られるかな。 「あっ?!」 脇に手が差し込まれると、あっという間に体ごと上へと引っ張られていく。そうして互いの体がピッタリ密着するように抱きしめられると、遥人が額にチュッと口づけた。 「は、ハルにぃ・・・!」 「うん、でも今はこうしていたい」 「・・・・・・うん」 触れ合った場所からは互いの肌をリアルに感じる。胸と胸がくっつき合って、脚が絡み合って。 トクントクンと同じリズムで刻まれる鼓動に伝わってくる肌の温もり。 「・・・気持ちいい」 「うん。これは離れられそうになくて困ったな」 「・・・ふふっ」 「ははっ」 2人で肩を揺らして笑いあうと、遥人がほんの少しだけ距離をとって顔を覗き込んだ。 「体、大丈夫か?」 「う、うん・・・」 「って言っても辛くないわけがないよな。今日は無理しなくていいから。身の回りのことは全部俺がやってやるから花音は何もしなくていいぞ」 「えっ? そんな、大袈裟だよ! 全然大丈夫だから」 「いいんだって。俺がそうしたいんだからそうさせて。 ね?」 「ね、って・・・」 おねだりする姿がまるでペロみたい。・・・なんて。 「花音・・・ありがとう」 「え?」 「俺に全てを預けてくれて、・・・そしてこんなおっさんを一途に待ち続けてくれて」 「ハルにぃ・・・」 「こうしてお前の体温を肌で知ってしまった以上、多分これからの俺は引くくらいにお前から離れられなくなると思う。その覚悟はできてる? ・・・まぁ、できてないって言われてもやめるつもりはないけど」 「えっ? ・・・ぷっ、あははははっ!」 真顔で、しかも全裸状態で何を言い出すかと思ったら。 ・・・本当に、ページを捲るごとに知らない彼が顔を出す。 大笑いして目尻の涙を拭うと、花音は両手で遥人の顔を挟み込んだ。 「覚悟? そんなものは生まれた時からできてるに決まってる。忘れたの? あたしはずーーーっと、ほんとにずっとハルにぃだけを見続けてきたんだから! 引く? そんなのこっちのセリフだよ。今さらあたしの気持ちが重いって言われたって、絶対絶対離してなんかやらないんだから。覚悟してよね!」 「・・・・・・」 キョトンと目を丸くすると、少し間を空けて今度は遥人が吹き出した。 「はははっ! あーダメだ、やっぱり俺はお前には勝てない。死んでも勝てねーよ」 ひーひーとお腹がよじれるほど笑い転げると、頬に置かれた手の上から自分の手を重ねる。 「いいよ。重かろうがなんだろうが全部受け止めて、それ以上のものをお前に返してやる」 「ハルにぃ・・・」 「まぁとりあえずは自然に名前が呼べるようにならないとなー。結婚するのにいつまでも 『兄ちゃん』 なのもなんだしな」 「う、うん・・・」 「なんだったら今からもう1回するか?」 「えっ? するって・・・?」 「ほら、夕べは何度も俺の名前を呼んだだろ? 遥人、遥人ぉ~って・・・ぶっ!!」 ベシッと強烈な張り手が口を塞ぎ込む。 「は、は・・・ハルにぃっ!!!」 「はははっ!」 「はははっ、じゃなあーーーーーいっ!!」 「花音、好きだよ」 「 !! 」 「好きだよ」 「・・・・・・」 抑え込んでいた手はいつの間にかこちらが捉えられていて。 魔法の言葉で身動きがとれなくなると、近づいてくる影を感じながら花音は静かに目を閉じた。 *** 「う~~~っ、これって・・・もうっ・・・!」 ヨロヨロと歩いてリビングへと行くと、フライパンを片手に持つ遥人が笑顔で振り返った。 「お、上がったか? ・・・うん、予想通り可愛いな」 「か、可愛いって! どうして上しか置いてないのっ!」 あれからバスルームまで運んでもらうと、既にたっぷり張られていたお湯にゆっくりと浸かった。 一緒に入るか? なんて言われたけど、さすがに今日はそれは遠慮させてもらって。 色んな緊張が一気にほぐれて最高の気分に浸ったのはいいのだけれど・・・入っている間に準備しておいてやると言われた衣類を見て唖然とする。 ・・・ないのだ。どこをどう探しても、ない。 ズボンがないっ!!! 「なんでって・・・決まってるだろ? 短い裾をそうやって恥ずかしそうに伸ばすお前が見たいから」 「・・・・・・」 あんぐりと開いた口が塞がらない。 この人は一体誰? って何回言っても足らないくらい子どもみたいな悪戯っ子は。 太股が半分ほど隠れる大きなスウェットの裾を必死で伸ばすものの、多少変化があったとしても微々たるもの。いわゆる生足というやつが出放題の状態だ。 え~い、こうなったらヤケだ。型崩れしまくるほどにこれでもかと裾を引っ張りつくしてやるっ!! 「ほら、そろそろメシができるからそこ座って」 「ご飯って・・・ハルにぃが作ったの?」 「まぁこの格好でメシ作ってないんだったら何してんだって話だよな」 いい男が左手にフライパン、右手にフライ返しを握りしめている。 「お前の好きだったオムレツ作ったから。たらふく食え」 「えっ?! オムレツって・・・あのオムレツ?!」 「どのオムレツかはわかんねーけど・・・多分あのオムレツだな」 ははっと愉快そうに笑いながら皿の上にふわふわのオムレツを器用にのせると、その皿を片手にもう一方の手で花音の背を押してテーブルへと連れていく。そこには既にサラダや飲み物まで完璧に準備されている。 「さ、食べな」 「あ、ありがとう・・・。いただきます」 向かいの席でニコニコと見られながら食べるのはちょっと照れくさい。 「・・・! おいひいっ!!」 「ぷはっ! おいひいって・・・」 「だって! ものすっごくおいしいんだもの! ・・・ん~っ、おいしいっ!!」 綺麗で可愛い顔をしながら、それには到底似つかわしくない大きな口を開けてパクパクとあっという間に平らげていく。一口飲み込む度においしいおいしいと幸せそうに笑う姿に、見ている方までつられて笑ってしまう。 「・・・お前は本当にうまそうに飯を食うよな」 「えっ?」 「ガキの頃からなんにも変わらない。俺が昔お前達にオムレツを作ってやったときと・・・何も。たまに失敗してクソまずい時があったのに、それでも花音だけはうまいうまいって食べてたよな」 「だ、だって、ほんとにおいしく感じたんだもん・・・」 「・・・うん。その意味が俺にもやっとわかったよ」 「え?」 「メシは何を食べるかよりも誰と食べるかの方が大事なんだってな。俺もガキの頃・・・おふくろがまだ生きてた頃、たまに失敗した料理をうまいうまいって食ってたなって今になって思いだしたよ」 「ハルにぃ・・・」 「お前とならそういう温かい毎日を送れるんだろうな」 「・・・ん、うんっ・・・!」 何故かはわからないけれどほろりと涙が零れ落ちた。 とても幸せだっただろう彼とお母さんの光景が目に浮かんで・・・涙が止まらなかった。 「・・・うん、おいしい!」 「ははっ、泣くか食べるかどっちかにしろよ。つーかなんで泣いてんだよ」 「いいの! 人はおいしいものを食べても涙が出る生き物なの!」 「ははは、なんだそりゃ?」 ぽろんぽろんと涙を流しながら、結局花音は全てを食べ終えるまでずっとおいしいおいしいと言い続けた。 *** 「花音、ちょっとこっち来て」 「え? はい・・・」 2人並んで後片付けを終えた頃、妙に真面目な顔で遥人が手招きをしている。 不思議そうに首を傾げながらも、言われるままソファーの隣に腰を下ろして遥人と向き合った。 「お前に渡す物があるんだ」 「渡す物? ・・・何?」 「・・・これ」 ごそごそとポケットから何かを取り出すと、遥人はそっと花音の両手にそれを握らせた。 「 ! 」 何かに気付いた花音がハッと顔を上げる。 どんなに恋愛偏差値の低い女だろうと一目でわかるこの箱は・・・ 「 あらためてお前に言うよ。 俺と結婚してほしい 」
ガクガクブルブルしながらアップした昨日のお話、想像を絶する反響の大きさにびっくりしています。皆さん、彼らをこんなに愛してくださって有難うございます! お父さん、お母さん、天国のじぃばぁ、やったどーーー!!!!(≧∀≦) そしてたくさんの方にご心配いただいたチビゴンですが、ほぼほぼ復活しております!母が怪しい体調になってきたのと入れ替わるように、怪獣は今日も元気に吠えております( ̄^ ̄) |
王子様の憂鬱 22
2016 / 01 / 21 ( Thu ) |
王子様の憂鬱 21
2016 / 01 / 20 ( Wed ) 「ハルにぃ、ここは・・・?」
がっしりと右手を握られたまま連れて来られたのは20階建てほどのマンション。 比較的新しいそれは超とまではいかないものの高級であることに違いはない。 だがそもそもこんなところに何の用があるのかが全くわからない。 見たこともなければ聞いたこともない場所なのだから。 相変わらず問いかけに答えることなく無言のまま足を進めると、オートロックを解除してすぐにエレベーターへと押し込まれた。狭い空間でチラッと顔を見上げてみても、やはり視線がぶつかることはない。 あれから彼は一度だってこちらを見ようとはしない。 怒っているのは明白で、この後一体どんなことが待ち受けているというのか・・・ 今度こそ本当に愛想尽かされたとか・・・ その先の最悪のシナリオが頭を過ぎってブルッと震える。 信じられないような醜態をさらしたのだ。 自分ですら嫌気がさして仕方がないのに、他人がそう思わないはずがないわけで・・・ 「行くぞ」 「えっ? あっ・・・!」 いつの間に目的の階に着いたのか、再び手を引かれるとそのまま問答無用でとある部屋の前までと連れて来られてしまった。一体ここには誰が住んでいるというのか。 不安と混乱でどうしていいかわからない。 「入って」 「でも、ここ・・・」 「いいから入って」 扉を開けると同時に中へと押し込まれると、すぐに後ろからバタンと扉が閉まる音が響いた。 「ハルに ___ 」 振り向こうとするよりも先に体を引き寄せられて、一瞬にして目の前が真っ暗になった。 何が起こっているのがすぐに理解することなど出来ず、ただただ混乱に陥っていく。 だが唇に触れる何かと背中に回された力強い腕、・・・そして優しく後頭部を撫で続けるその柔らかい感触に、今自分が何をされているのか、少しずつ頭がクリアーになっていく。 「ハ・・・んっ・・・!」 開き書けた唇はすぐに塞がれ、それどころか喋ることは許さないとばかりに生温かいものが口内で暴れ回る。逃げることなど絶対に許さないと拘束を強める腕に、無意識のうちにこのまま離さないでと自ら手を回している自分がいた。 どれほどの時間が経ったのかわからないほどそれは続けられ、気が付けば自分の足では立っていられないほど全身から力という力が抜けてしまっていた。 「はぁっはぁっ・・・・・・ハルに・・・」 「お前一体どういうつもり?」 「え・・・?」 ようやく解放されたかと思えば彼の顔も声も怒りに満ちている。 ついさっきまで満たされていた幸福感から一瞬にして現実に引き戻された気分だ。 「ハ・・・」 「あんなところであんな可愛いこと言うなんて。俺の理性を試してるのか?」 「・・・・・・え・・・?」 何を言っているのか全くわからない。 可愛い・・・? 理性を試す・・・? ・・・・・・何を言ってるの? 「物わかりのいいお前が初めて我儘を言ったと思ったらあんな可愛い内容とか。俺があの時どんだけ我慢したかわかってるのか?」 「・・・・・・」 わかるわけがない。 「あっ?!」 「とりあえず中に入ろう」 混乱する体ごと掬い上げられると、抱き上げられたまま部屋の中へと連れて行かれる。 やがてリビングに置かれたソファーにゆっくりと座らされると、遥人も体を密着させるようにしてすぐ隣に腰を下ろした。両手は握りしめたままで離されることはない。 「ここは・・・?」 「ここは俺のマンションだよ」 「えっ?」 「誰にも教えてない俺だけの空間。こっちに帰国してすぐに借りたんだ。1人になりたい時や仕事でどうしても遅くなりそうな時はここで過ごしてきた」 初めて知る事実に驚きを隠せない。 そんな素振りは微塵もなかったというのに、もう5年も前から・・・? 「当然ここへ足を踏み入れたことがあるのは俺だけ。・・・そしてお前だけだ。この空間に足を踏み入れてもいいと思えたのは、後にも先にもお前ただ1人。今日は最初からここに連れて来るつもりだった」 「ハルにぃ・・・」 ぐっと握りしめられている手に力が込められたのを感じる。 「まず最初に言っておくが俺は何も怒ってなんかいない。むしろその逆だ。お前があまりにも可愛いこと言うもんだから・・・正直あの場で押し倒したいくらいの衝動に駆られたんだぞ。それを必死で押し留めるために顔を見ることも喋ることもしなかった。・・・できなかったんだ」 「・・・」 「ちょっと待ってて」 そう言って一度リビングから出て行くと、しばらくして遥人は小さな箱を手に戻ってきた。 隣に座ると同時にそれを手渡される。 「ハルにぃ・・・?」 「いいから開けて」 「・・・」 意味などわからないが言われるままに箱を開けると、中身を見た瞬間花音が目を見開いた。 「 ___ これって・・・!」 「覚えてるか?」 「覚えてるも何も・・・」 箱の中に所狭しと入れられているもの、それは他でもない自分が送り続けた手紙達だ。 まだまだぎこちない子どもの字が書かれたものから遥人が帰国する直前に出したものまで、10年近く、数にして100通は超えているであろうと思われる全てがそこにはあった。 箱を持つ手の震えが止まらない。 「これを見ても俺が迷惑に思ってただなんて思うか?」 「・・・・・・」 「俺はな、花音。本当にお前達に、お前から力をもらってたんだ。いくら経営者の息子だって言っても俺は所詮ひよっこの若造に過ぎない。理不尽な思いをすることだってあったし、時には全てを投げ出して自由に生きたいと思うことだってあった。でもいつだってそうやって迷ったときに絶妙なタイミングでお前からの手紙が届くんだ。純粋で穢れのないお前の言葉の1つ1つが俺の心を癒やしてくれた。そうしてまた頑張ろうって思えて今日までやってこれたんだ」 「・・・・・・」 「年に数回お前達に会えるのが本当に楽しみで仕方なかったよ」 「ハル、にぃ・・・」 その言葉が真っ直ぐに心に染みこんできて、スーッと瞳から涙が零れ落ちていった。 それを指で拭いながら、遥人は少しだけバツが悪そうな顔をしてみせる。 「・・・あいつは・・・五十嵐と付き合ってたってことは否定しない。俺も30過ぎたおっさんだから、人並みにそういうことがあったってことも。・・・ただ、あいつとの付き合いはちょっと特殊だったって言うか・・・」 「・・・どういうこと?」 「いや、なんつーか・・・こんなことを言ったらまたお前に軽蔑されるだろうけど、正直俺はあいつに対してそういう気持ちはなかったんだ。告白されるまで付き合うだなんて考えたこともなかったし、OKしたのもあまり深い意味はなかったっていうか・・・。ただ一緒に働く上であいつがどんな人間かをある程度理解しているつもりだったし、実際仕事していて居心地がいい相手でもあった。だから付き合っていくうちに自分の気持ちも変わっていくだろうくらいの気持ちだったんだ」 「・・・」 子どもじゃないのだから、必ずしも両想いから始まることばかりではないのだということはわかる。 それに、彼ならきっかけは何であれ相手に対して不誠実なことはしないに決まっている。 「でも俺は何もわかっちゃいなかった」 「え・・・?」 「あいつは表面に完璧な仮面を貼り付けてる女だったんだよ。俺も付き合って初めて気付いたんだが・・・恋人という立場を手に入れたあいつは目に見えてその本性を出し始めたんだ」 「本性・・・?」 「あぁ。とにかく嫉妬深くて攻撃性が強い。嫉妬からあることないことでっち上げてしつこく追求されるのは日常茶飯事。当然その矛先はあの当時まだ子どもだったお前にすら向けられた。自分の見る目のなさと軽率さに心底後悔もしたが・・・受け入れた以上はきちんとあいつと向き合っていこうと思い直したんだ。でも・・・」 その先を聞きたいような聞きたくないような。 変な汗がじわりと滲んでくる。 「仕事上で繋がりのある別の同僚にわざとミスの濡れ衣を着せたことが判明したとき・・・俺の中で何かが切れた」 「濡れ衣・・・?」 「あぁ。あいつは俺とその子が仕事で仲良くしてるのが気に入らないってだけで重大な書類に不備を加えたんだ。結局、ギリギリのところでそれに気付いたおかげで会社に直接の影響を与えることはなかったが、万が一の時にはその子の首が飛ぶどころか会社の存続さえ危うかった。それほどのことに手を出したんだ」 「・・・!」 「矛先が俺に向かうならいくらでも向き合うつもりでいた。だが全く無関係の、しかもあいつの完全なるでっち上げだけで人を、会社を陥れようとした罪は重い。当然ながらあいつはクビになったし俺も2人の関係に見切りをつけた。半年にも満たない付き合いだったよ」 「・・・」 そこまで話すと、自責の念を込めているのか遥人が深く溜め息をついた。 「もともとはあいつの本性を見抜けずに安易な気持ちで受け入れてしまった俺の責任だからな。さすがに自分の不甲斐なさに落ち込んだよ。・・・そしてもう女はこりごりだとも思った」 「・・・え?」 「あぁ、お前の考えてるとおりだよ。俺はそれ以降誰とも付き合っていない。もう6年になるかな」 「う、そ・・・」 予想通りの反応をされて遥人も苦笑いするしかない。 「こんなことで嘘言ってどうするんだよ。言っただろ? 俺はお前に嘘をついたことはないって。まぁ帰国して専務となってそんな余裕なんてなかったのも事実だけど、それ以上に俺自身が全くそういう気持ちになれなかった」 「・・・・・・」 「そんなときにお前に告白されたんだ」 「えっ?」 「目に入れても痛くないお前にそんなことを言われて素直に嬉しいと思ったよ。・・・でもそれ以上に怖くなった」 「・・・怖い?」 「あぁ。純粋で穢れを知らないお前を俺と付き合うことで変えてしまうかもしれない・・・そう思ったら怖かった。本当にお前が大事だからこそ、絶対に手を出すわけにはいかないってね」 「・・・・・・」 「でも自分にそう言い聞かせながらも本当はその時点からとっくに答えは出てたんだよな」 「・・・え?」 フッと柔らかく目を細めると、遥人は花音の前髪をくしゃっと掻き上げた。 「さっきも言っただろ? 渡米中の俺の心を癒やしてたのはお前の存在だったって。そうして帰国してからは尚更それを実感したんだ。・・・どんなときでもお前の笑顔を見るだけで心が洗われていくようだって。だから大した用もないのに邸に行ってただろ?」 ・・・確かに。 帰国してからの彼はまるで離れていた時間を埋めるかのように足繁く通ってくれた。 告白して玉砕するまでの1年間はずっと。 「そうしてる時点でとっくに俺はお前なしじゃ駄目な男だったんだよ。その証拠にお前がいなくなってからの4年はやり場のない喪失感に苛まれ続けてたからな」 「・・・・・・」 サラサラと髪を梳いていた手がそのまま頬へと移動する。あまりの心地よさにそのまま頬擦りして目を閉じてしまいたくなるが、最後まで彼の話を聞こうと花音は真っ直ぐに遥人を見つめた。 「不謹慎なのは百も承知だけど、お前が嫉妬してくれて俺は嬉しかった」 「・・・え?」 「お前は昔から物わかりが過ぎるくらいに良すぎるんだ。俺に対しても我儘どころか甘えることもそう多くはない。それがお前らしさでもあるけど、俺としてはもっともっと我儘をぶつけて欲しい。ずっとそう思ってたよ。・・・この前の夜みたいにな」 「 !! あれはっ・・・! 」 「ははっ、わかってるって。でも俺にとっては本気で嬉しかったんだぞ? この前のこともさっきのことも。あんなに可愛い我儘ならいくらでも聞きたいって思うくらいに」 「ハルにぃ・・・」 「・・・確かに俺とお前の年齢の差は永遠に埋めることはできない。でもそのことに不安を感じるのはお前だけじゃない。俺だって、お前と同世代で他にいい奴が現れたら・・・なんて全く考えないわけじゃないんだから」 「そんなことっ・・・!」 言いかけた言葉がスッと目の前に出された手で制止される。 「でも俺たちは長い時間一緒にいたからこそ誰よりもお互いのことをわかってる。そうじゃないのか?」 「・・・」 「この30年以上、俺が積み重ねてきた時間は消すことはできない。でもこれから先刻まれる時間には全てお前がいる。・・・それに、お前は俺の初めてを何も知らないって言ってたけど、思ってる以上にお前は俺の初めてを目にしてるんだぞ」 「えっ?」 「らしくもなく感情を乱されたり、年甲斐もなくガキみたいになったり・・・恋人にこんなに甘い顔を見せたり。全てが花音、お前とこうしていなければ自分でも知ることのなかったことばかりだ」 「ハルにぃ・・・」 うるうると瞳が揺らぎ始めると、すぐに大きな手が首の後ろへ回され体ごと引き寄せられた。 「俺はお前が生まれた頃からずっと成長を見守ってこられたことを本当に幸せなことだと思ってる。こういう出会いだったからこそ今の俺たちがある、そう信じてるんだ」 「・・・・・・」 「不安に思ったことや気に入らないことはこれから先いくらでもぶつけてくれればいい。俺はそれを正面から受け止めるし、たまには俺にも年上の貫禄ってやつを見させてくれよ」 「えっ? ・・・ぷっ!」 初めて顔を綻ばせたと思った次の瞬間、花音の目からはぽろぽろと涙が流れ出した。 遥人はぽんぽんと優しく頭を撫でながら、穏やかな口調で同じ言葉を繰り返し花音に言って聞かせる。 「心の底からお前が好きだよ」 「っ・・・ハルにぃ・・・ハルにぃっ・・・! ごめんなさいっ・・・!」 「謝る必要なんかない。もっと自分の感情を出していいんだ」 「うぅっ・・・ハルにぃ・・・ハルにぃ~~っ・・・」 「・・・お前には悪いけど、俺はお前の初めてを全てもらえて世界一の幸せ者だと思ってる。この部屋に入った以上もう逃げることは許されないからな?」 「・・・・・・」 キョトンと上げた顔が予想以上に涙でぐしゃぐしゃで思わず吹き出した。 普段大人びて見える彼女がまるで子どものように感情を剥き出しにする。 それがこんなにも幸せなことだなんて、彼女に出逢わなければ知ることもなかった。 「 好きだよ 」 もう一度耳元でそう囁くと、しばらく無言で見つめ合った後、どちらからともなく引き寄せられるように静かに唇を重ねた。
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