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彼と彼女の事情 16
2016 / 04 / 30 ( Sat )
人というのは心の底から驚いたとき、すぐには反応できない生き物らしい。
今のは空耳だろうか。

「空耳じゃないよ」
「・・・あ?」

我ながら相当間抜けな声が出たと思う。その証拠に目の前の男が途端に面白そうに吹き出したのだから。でも今はそんなことに構ってる余裕なんかねぇんだよ。

「何を・・・」
「入れ替わったらやることまで似るんだね。今思いっきり心の声が漏れてたよ?」
「・・・・・・」

クスクスと肩を揺らす男はとんでもないことを口にしているというのに、さもそれが何でもないことのようにあっけらかんとしている。その信じがたい光景に、俺ともあろう人間が言葉すら出せないでいる。
ひとしきり笑うと、真っ直ぐに俺・・・もとい 「牧野」 を見据えながら言った。

「司なんでしょ?」
「・・・お前、なんで・・・」
「そんなことに気付いたのかって? んー、なんでだろうね。言葉で説明しろって言われても難しいなぁ。第六感とでも言うのかな、今日お前達を見た時から何か違和感感じてたんだよね」
「・・・・・・」
「でもそんな漫画みたいなことがありえるわけないって普通は思うじゃん。だからまたケンカでもして微妙な空気になってるだけなのかなって思ってたんだけどさ。それとなく2人を観察してたらまさかのまさかなのかな~って。そんな時に別行動になったから半信半疑で来てみればビンゴだったってわけ」
「・・・・・・」

俄には信じられない。
だがこの男の言っていることは一言一句間違ってはいない。会話したのは最初の5分にも満たない時間。そんな僅かな時間で全てを見抜いたっていうのか・・・?

「ほら、俺って牧野の一部らしいからさ。あいつの変化には誰よりも敏感なんだよね」

ピクッ

わざと俺を挑発するような言葉にこめかみが動く。
この野郎、顔が引き攣っているであろう 「牧野」 を前にニッコリ笑ってやがる。

「聞きたいことは山のようにあるんだけどさ」
「・・・」
「とりあえず戻った方がいいんじゃない?」
「あ?」

山の天気のようにコロコロと変わる話に顔をしかめると、笑顔から一転、類も真面目な顔に戻って言った。



「 あの場に牧野を1人にしたままで大丈夫? 」











「・・・司さん? どうなさったんですか?」
「・・・・・・・・・」

・・・ちょっと待って。
えーと、何をどう整理すればいいの?
そもそも相手があんた誰状態なのは仕方ないとして。さっきこの人なんて言った?

『 NYでは素敵な夜をありがとうございました 』

・・・あれってどういう意味?
まさか・・・って、いやいやいや、道明寺に限ってそれはないでしょう!
その点に関してはあいつを信じてる。

・・・けど、実際問題なーんにもない相手にあんなこと言う?
しかも相手はこの男だよ?
下手打てば返り血に遭うような男相手に、ありもしないこと言うような命知らずがいるの?
しかもこんな・・・がっつり胸を押しつけてさ。

っていうかこいつの視界からだとこんなに谷間がくっきり見えるものなの?!
明らかに普段あたしが目にしている世界とは別物。
20センチ違うだけで見える景色がこんなにも変わるなんて。
あらためて道明寺の周りはこういう誘惑だらけなんだって気付かされる。

「司さん? どうなさいますか?」
「あ・・・」

さらに押しつけられた弾力のある胸にハッとする。
ちょっ・・・やめなさいよ!
ここにいるのが本物のアイツだったらあんたなんかとっくにぶっ飛ばされてるんだからね!

・・・って、そうだよね?
なんだかだんだん自信がなくなってきた。
だって意味深すぎるセリフは言ってるしやたらとベタベタしてくるし。

そもそも相手が誰だかわかんないだけに今ここでどうするのが正解なのかもわからない。
十中八九あいつはこんな女相手にしないって思ってるけど、もしすんごく大事な取引先のご令嬢とかだったら? あいつなら軽くあしらってもその後のことにだってうまく対処するんだろうけど・・・今のあたしにそれは土台無理な話だ。
下手こいて後で取り返しのつかないことにでもなったら・・・

あぁっ! でもでもこの腕に纏わり付く巨乳をなんとかしたい!
大体何なのよ、そんなホルスタインみたいな乳を恥ずかしげも無く晒してさ。
あたしに対する当てつけかっつーの!

「私、今夜はずっと空いてますから・・・」

ギラギラに光るグロスを歪めて笑う女にゾクッと背筋が凍り付く。

っていうか何してんのよ、早く戻って来なさいよっ・・・!




「 司 」




その時背後から聞こえた声にパッと振り返る。
声の主を確認した瞬間、自分でも驚くほど全身からどっと力が抜けていくのがわかった。

「類・・・」

「ちょっと司に用事があるんだけど、いい?」
「えっ?」

用って・・・でもあたしじゃ何もわからないし・・・
それにこの女をどうしたらいいのか。

「結構急ぎだから来て欲しいんだけど」
「え・・・わ、わかった」

あまりにも真剣な眼差しに一体何事かと思う一方で、有無を言わさない類の態度にこれはむしろ助かったのだと思い直す。この女と距離を取る正当な理由ができたのだから。
突き放したところで文句を言われる筋合いはなくなったはず ___

「花沢さん、せっかくですけれど今司さんとお話しているのは私なんです。またの機会にしていただけませんか?」

___ と思ったら予想に反して女が噛みついてきた。
っていうか普通類を相手にここまで言える女ってそうそういない。
となればやっぱりかなりの権力者の娘って可能性が濃厚ってこと・・・?

「司、大事な話だから早く来てくれる」

そんなことをぐるぐる考えているあたしとは真逆で類の態度は一貫していた。
声をかけてきたときから一切目の前の女を視界に捉えていない。
話しかけられたこともガン無視ならそもそもその存在すら認めていない、そんな感じだ。
どうしていいか狼狽えるしかなかったあたしにとって、その清々しいまでの態度に胸のモヤモヤがスッと洗い流されていくようだった。

「司?」
「えっ? あ・・・り、了解」
「あっ、司さんっ?! ちょっ・・・花沢さんっ!!」

類の声に導かれるようにバッと手を離すと、女が名残惜しげに再び腕を巻き付けようとしてくる。絡みつく前にすかさず距離を取ると、既に数歩先を歩き始めた類を追いかけるようにして走り出した。

「司さんっ!!」

真後ろで金切り声を上げているのが聞こえたけれど、こんな時あいつなら見向きもしない、そう信じて今はひたすら前に足を進めていった。




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smile for you
2016 / 04 / 29 ( Fri )
「てめぇのやったことはてめぇで責任取れよ」
「そっ、それはっ・・・」
「決まってんだろ。明日からこの会社にお前の居場所はねぇってことだ」
「 ____ っ・・・! 」

紙のように真っ白になってしまった男に躊躇うことなくそう吐き捨てると、ガタッと立ち上がった男はカツカツと高質な靴音を立てて横をすり抜けていく。

「ま、待ってくださいっ! どうか、どうかそれだけはっ・・・!」

「西田、後始末はお前がやっておけよ」
「・・・承知致しました」
「まっ・・・! 副社長、副社長ぉっ・・・!!!」

男の必死の懇願を耳にも視界にも入れることすらせず、長身の男は怒りを滲ませたまま風のようにその場から立ち去ってしまった。
伸ばした手のひらからガクッと崩れ落ちた男の後ろで眼鏡のフレームを押し上げると、西田はいつもと全く変わらない抑揚のない声を静かに発した。

「粉飾決算に手を染めようとしていたのですから当然の結果です。むしろ事後に発覚していたならばこんな生温い処分では済まなかったでしょう。手遅れになる前に見つかって感謝すべきかと思いますが」

そう、本当に。 「この程度」 で済んだのが奇跡なのだ。
彼ならば半殺し・・・いや、事実殺されてもおかしくなかっただろうから。
そうして何事もなかったかのように社会からも抹殺される。
あの男ならばそうすることに何の躊躇いすらなかったに違いない。


___ あの頃の彼ならば。


「っ・・・うぅっ、う゛ーーーーっ・・・!」

絶望の淵に追いやられた男は額を床に付けたままひたすらに嗚咽を漏らす。
50を過ぎた男のその姿にはもはや恥も外聞も皆無だった。
西田はその一部始終をただ黙って見つめながら、とはいえこの後に待ち構えているであろう我が上司の最凶最悪な機嫌をどう修正していくか、そのことを考えるだけで人知れず深く溜め息を吐き出したのだった。





***



バンッ! ドガッ、ガシャーーーーーーンッッ!!!


高級な絨毯をもってしても吸収できない音が響き渡る。
有り余るほど長い足で目の前の応接テーブルをひっくり返すと、そのままドサッと背中からソファーへとダイブした。

「ったく、胸糞わりぃったらねぇ・・・!」

朝っぱらから最悪の気分だ。
本当ならば半殺しにでもしてやりたいところだが、実害が出る前に証拠を押さえられたことがあの男の人生を辛うじて繋いだ。
それに直接の関わりがないとはいえ、己の部下であることに違いはない。つまりは自分の不手際でもあるということを意味する。
単純にトカゲの尻尾を切っただけでは問題の本質は改善されない。
あらためて己への戒めにしなければ ____

「・・・チッ!」

そこまで考えて真面目かよと自分で自分に舌打ちする。

自分への戒め?
誰がだよ?
そんなん俺のキャラじゃねーだろ。
自分でつっこんで鳥肌が立つほどにらしくねぇと自覚がある。

・・・それなのに。

気が付けばそう考えるのが当たり前になっていたのはいつ頃だっただろうか。
潰れようとどうなろうと知ったこっちゃねぇと思っていたはずの会社の重役椅子へドシリと腰を下ろしているのは誰だ?
昔ならばあんな底辺の人間など喜んで社会から、あわよくばこの世から抹殺してしまうことすら厭わなかっただろうに、まるで温情をかけたような処分で済ませているのはどこのどいつだ?

「俺らしくもねぇ・・・」

『 俺らしく 』 あるならばとっくにこの部屋の中にあるのもは破壊されているだろう。
それがたかだかテーブル1つが犠牲になっただけで済んでいるのだ。

何をやってる、お前はそんな生温い人間じゃねーだろと唾を吐く自分と、
今のお前にはそれが正解だと冷静に語りかける自分、
脳内で繰り返される相反する主張に加えて連日の激務も相まってイライラはピークだ。
この後だって数十分後にはヨーロッパへ飛ばなければならない。

全てはあのクソ野郎がふざけた真似をしでかしやがったせいだ・・・





ピロロ~ン♪  ピロロ~ン♪





「・・・・・・」

そんなことを考えていたところで広い執務室になんとも気の抜けた音が響いた。
普通であればこの状況下で胸ポケットから音をたてるその存在をガン無視するのが 「日常」 であるはずだが、今この瞬間、司は目にもとまらぬ速さでポケットへと手を突っ込んでいた。
そうして手にしたスマホに視線を落とす。

「・・・・・・・・・クッ、 バーーーーーーーーーーーカ」

画面を見るやいなやさっきまでの苛立ちなど一瞬にして霧散し、怒りが消えたその顔に浮かんでいるのはまるで子どものような無邪気な笑み。
こめかみに何本も浮かび上がっていた青筋はどこへいったのやら。


『 100円詰め放題にて15本ゲット! 今夜はいい夢見られそう 』


短い文章と共に送られて来た1枚の写真。
そこにはこれでもかと引き延ばされたビニール袋の中にパンッパンに詰め込まれたにんじんとドヤ顔の女。よくも破れないものだと感心すると同時に、これまた幸せそうな満面の笑みを浮かべる女の姿にさっきまでのイライラが心底どーーーでもいいことに思えてくる。

「お前は俺に盗聴器でも仕掛けてんじゃねーのか?」


いつもいつもいつもいつも。
どうしてこの女は絶妙なタイミングでその存在を現すのだろうか。
疲れがピークの時、イライラがピークの時、
・・・あいつに会いたくて頭がおかしくなりそうな時。

この3年半の間、いつだってこの女はそれを見透かしたかのようにこうして現れる。
しかも心底どーでもいい話題を携えて。

「普通 『元気?』 とか 『会いたい』 とかじゃねーのかよ? なんだよ、100円で15本って。そもそもんなもん食えんのか?!」

クッと笑いが零れる。
時間と共に大きく肩が揺れるほどに盛大に。

「くっははは・・・! ったく、この女は・・・くくくっ・・・」

やっぱり最高の女だと認識する。
今にも破れんばかりのにんじんまみれの袋を手にこの俺を笑わせることができる女。
そんな女は過去も現在も未来も、世界中どこを探してもこいつしかいない。
本音では寂しいと思ってるくせに、死んでもそんなことを口にはしない可愛げのない女。
自分のことより人のこと、こんなに不器用な女は後にも先にもこいつだけ。



俺にとってただ1人の女。



「あと半年だ。待ってやがれ ___ 」


その時が来たらお前をこれでもかと甘やかしてやるから。



「失礼致します。あの者の手続きは全て終わりました。変な逆恨みなどの心配はないかと・・・・・・いかがなさいましたか?」

ノックと共に執務室に入ってきた西田が司を見るなり怪訝そうな顔へと変わる。

「あ? なにがだよ」
「いえ、予想に反して随分とご機嫌な表情をなされていましたので」
「誰がだよ。お前の目は腐ってんじゃねーのか?」
「・・・それは大変失礼致しました。では早速ですがジェットの方に移動していただけますでしょうか」
「あぁ」
「・・・・・・」

すんなりと立ち上がった男の足取りは軽い。
目が腐っていると言われようとどうしようと目の前の男の気分は上々だ。
見えない音譜が体のまわりを踊っているのがはっきり認識できるほどに。
とはいえせっかく上機嫌なところに水を差す気はないので口に出すつもりはないのだが。

「連日の移動でお疲れではないですか?」
「この程度でくたばってるようじゃとっくに死んでんだろ」
「それは確かに仰るとおりですね」
「なんだ、お前こそとうとう電池切れか?」
「まさか。この程度でばてているようでは私の仕事は成立しませんから」
「くっ、てめぇはサイボーグだからな」

この扉を開けたら我が上司がどれだけ不機嫌かと思って来てみれば。
扉の向こうで出迎えたのは誰よりも気分が良さそうに笑っていた1人の男。
あれほどまでに気分を損ねる出来事があったというのに。
通常ならばこの部屋にあるものほとんどが破壊されていてもおかしくないというのに。

「・・・全く、あの方は一体どんな魔法をかけられたことやら」

「あ? 何か言ったか?」
「いえ、何でもございません。では参りましょうか」


道明寺司という男を真に落ち込ませることができるのも喜ばせることができるのもただ1人。
彼女の魔法にかかれば彼はたちまちただの男へと変わってしまう。
そう、彼はそんな彼女の魔力に身も心も捉えられているのだから。

煩わしい仕事がすっぽりと立ち消えたことに心の底から感謝をしなければ ___










ピロロロ~ン♪


「ん~・・・」

草木も眠った丑三つ時、液晶画面が音と共に光りを放つ。
ぐっすり眠っていたつくしは重い瞼をこすりながらその小さな物体に手を伸ばした。

「こんな時間に誰よぉ・・・・・・って・・・・・・・・・へっ?」


『 15本くらいで喜んでんじゃねーよ。天下の道明寺様の女なら20本くらいとりやがれ 』


「・・・・・・に、20本ってあんた・・・どう考えても袋が破壊されるんですけど・・・」

んな無茶な。
そう思いつつももしかしたらもしかして、そんな神業があるのかもしれない、なんて。

「・・・あそこの角度をもう少し調整すればもちょっといけたかなぁ」


その日、つくしはいい夢を見るどころかいかにして次は20本という偉業を成し遂げるのか?!
ひたすらそのイメトレに浸りながら再び夢の世界へと落ちていったのだった。




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やる気チャージにたくさん力をいただいてます!
復帰1作目は短編をお届けしました。久しぶりの遠恋時代の2人です。にんじんでご機嫌になる坊ちゃん。きっとヨーロッパでその名の通り馬車馬のように頑張ったことでしょう( ´艸`)
次回から「彼カノ」を再開する予定です。まさか類が・・・?!の気になるところで終わってましたね。一体どんな展開になっていくのかお楽しみに!
前回のお話はこちらから → 『彼と彼女の事情 15』
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ご無沙汰しています
2016 / 04 / 27 ( Wed )
皆様お久しぶりです。
あれから私事でもドタバタしていまして、なかなか更新するだけの余裕が出ずにいました。

地震についてその後ですが、身内や知り合いで避難生活を送っている人もおり(1回目はなんとか凌いだけど2回目でやられたという人が多数)、皆さんそれぞれに大変な思いをされているようです。離れた場所にいる者にできることは限られていますが、自分にできることでこれから先継続して何か少しでもお手伝いができればいいなと思っています。
体験談やご心配のコメントをくださった皆様、本当に有難うございました。


そして更新がすっかり止まってしまって申し訳ないです。
気が付けば10日。物語に至っては約2週間。これだけ長い期間更新しないのはサイト開設後初めてのことです。これまでなんだかんだで1週間以上空けたことはなかったはず。
毎回自分で言ってますが、空けすぎてはかなり危険な人間なので(笑)、そろそろ戻って来ないとまずいな~と思っているところです。

とはいえ今思うように時間がとれないのも事実なので、ペースは読めませんがゆっくりと更新していけたらいいなと思っています。とりあえず復帰1発目はつかつく短編をアップする予定です。それからすぐに「彼カノ」に戻るかはまだ何とも言えませんが、近いうちに連載も再開します。
結構皆さんも盛り上がってきたところでの中断だったので、是非皆さんには復習をしてもらってテンションをアップアップ↑しておいてもらえたらな~と思っています(笑)


ここ数日また咳に苦しめられてます。治りが本当に悪い!
病院に行ってもちゃんと診てもらえてるのかいまいちわからないし・・・(=_=)
今は結核患者なんかも増えてると言いますし、長引く咳は怖いですね。1日でも早く治したいです。

あ。そういえば最近の記事ではランキングバナーも一切載せてなかったにもかかわらず、毎日地道にポチしてくださってる方がいたようで有難うございました!久しぶりに覗いてみたら毎日ほぼ一定数の方がポチってくださってるのがわかって、なんとも有難い存在だなぁ~と、それを見てまた1日でも早く復帰しなければ!と思わせてもらいました。
ほんといつも力をいただいてます!(o^^o)

ということで明日か明後日にまずは短編を更新、その後はおそらく「彼カノ」を再開、このような流れでやっていきたいと思います。
ではでは次の更新でお会いできるのを楽しみにお待ちしておりますヾ(*´∀`*)ノ



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絶句
2016 / 04 / 16 ( Sat )
深夜に大変なことが起こってしまっているようです。
こんなに強い地震が続くだなんて・・・もう言葉にできないです。
これから被災地は悪天候になっていく予報で一体どうなってしまうのでしょうか・・・
震源が阿蘇山に近づいて広範囲になっているのも怖くてたまりません。
これ以上は、これ以上はもうどうか・・・

すみません、状況が変わってしまったのでまたあらためて今後についてご連絡したいと思います。
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ご報告
2016 / 04 / 15 ( Fri )
その後私の親族及び知人は全員無事であることが確認されました。
人づてで直接連絡が取れていない相手もいますが、ひとまずは命が助かったことに心の底から安堵しています。

とはいえ大災害ですから家屋等への何かしらの被害が出ているでしょうし、今後の余震にも全く気が抜けない状態が続くことと思います。避難生活を余儀なくされることもあるかもしれません。
震源が浅いため地震の規模以上に大きい被害へと直結する可能性があるので、ただただ少しでも早く落ち着いてくれることを願うしかありません。
犠牲になられた方、また被災された方に心からのお見舞いを申し上げます。
私も今後自分にできることで大好きな街への支援をしていこうと思っています。

熊本は本当に本当にいいところです。食べ物は最高においしいし自然も豊か。特に阿蘇の雄大な自然は何十回行こうとも飽きることがないほど素晴らしいです。
今でも里帰りした折には必ず行くと言っていいほど大好きな場所です。
今回のことが落ち着いて復興の兆しが見えてきたら、行かれたことのない方は是非一度行ってみてください。熊本出身じゃない私ですら太鼓判を押す場所です。

尚更新について現時点でまだはっきりとはしていませんが、私も気持ちを切り替えて明日明後日にはできたらいいなと思っています。ので、続きが気になられている方はまたチェックをお願いします。

災害大国日本、いつどこで自分に降りかかってくるかわかりません。
備えあれば憂い無し、またあらためて災害への意識を高めなければと思いました。
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地震
2016 / 04 / 15 ( Fri )
半分ほど書き上がっていたところで九州地方の地震が発生し、震度7というとてつもない数字にとてもそれ以上は書けなくなってしまいました。というのも私は九州出身でして、熊本にも友人や親戚が複数住んでいるのです。
自分自身も大きな地震を2回経験しているだけにとても人ごとだとは思えず、心臓がドキドキして胸騒ぎが収まりません。(幸い実家の両親は無事だと確認できています)

物語も皆さんが盛り上がってきたところで申し訳ないのですが、とりあえず知り合いの安否が確認できるまでは書くことを楽しむことが出来ないので、執筆をお休みさせてもらいたいと思います。

どうか被害が少しでも小さくあってくれますように・・・
火山に影響が出ませんように・・・
幼い頃から毎年必ず家族旅行に行っていた大好きな熊本の街並みが無事でありますように・・・
いつもここに遊びに来てくださっている方の中に被害に遭われた方がいませんように・・・
祈ることしか出来ない自分がもどかしいですが祈り続けたいと思います。
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彼と彼女の事情 15
2016 / 04 / 14 ( Thu )
「あなたは・・・花沢類さん、ですよね・・・?」

長い沈黙の後に我に返ったようにそう絞り出した中央に立つ女を前に、類は冷たい微笑のまま何も答えない。司はそんな状況を座り込んだままじっと黙って見つめていた。

「ど、どうしてこんなところに・・・ここ、女子トイレですよ・・・?」
「うん、そうだね。でもそんなこと今はどうでもいいでしょ」
「なっ・・・?!」

あまりにもあっさりと返ってきた言葉に唖然とする。

「どうでもいいって、だって・・・!」
「友人が理不尽な仕打ちにあってるのに気付いたら助けるのが普通なんじゃないの」
「えっ・・・?」

『 友人 』 という言葉に女がハッと足元を見た。
そこには転んだままの状態で事の成り行きを見守っている憎たらしい女がいる。

「友人って ___ 」
「牧野、大丈夫? ほら」
「・・・・・・」

女の疑問には一切目もくれず手を伸ばすと、類はいまだ反応を見せないつくしの手を掴んでゆっくりと立ち上がらせた。その時膝から血が流れていることに気付く。
スッと目線を横に向けると、女達がビクッと肩を揺らした。喜怒哀楽の全く見えない表情がかえって彼の怒りを如実に表していたからだ。

「ち、違います! 私達は何もしていません! これは彼女が・・・!」
「牧野が何?」
「彼女が・・・」
「トイレで1人勝手に転んだって?」
「 ____ っ 」

嘲笑するように先手を打たれて女が言葉に詰まる。だが必死の抵抗は続く。

「そ、そんなことより花沢さんともあろうお方がこんなことしていいんですか?」
「・・・何が?」
「だってここ女子トイレですよ?! いくらあなただとはいえこんなところに入って来たなんて知られたら・・・むしろあなたのような人だからこそただごとじゃ済まないと思いますけど?」
「・・・・・・」

ここにきて初めて女が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。最初はこの状況に混乱していたが、よく考えれば人数は自分達の方が多いのだ。彼らほどではないとはいえそれなりの権力もある立場。突然彼がこの場に侵入して来たと証言してしまえば・・・きっと自分達に悪いように事は運ばない。
もちろん憧れの彼を相手にそんなことをするつもりはないが、余計なことを詮索されないためにも牽制しておく必要はあるというもの。
あわよくばこれを機に繋がりをもつことができれば一石二鳥だ。

「・・・・・・別にいいんじゃない?」
「・・・えっ?」

だが思いも寄らぬ切り返しに浮かべていた笑顔が瞬く間に引っ込んだ。
見れば飄々と顔色一つ変えずに変わらない冷たい視線をこちらへ向けているではないか。

「あんた達の思うように訴えてみれば? 俺は別に一向に構わないけど」
「なっ・・・? だって、それじゃあ・・・!」
「そのかわり俺は俺で主張させてもらうけどね」
「えっ・・・?」

そう言うと、おもむろに胸ポケットからスマホを取り出して顔の横でゆらゆらと揺らしてみせた。

「あんた達がやけにでかい声で話してるから廊下にまで響いてたんだよね、全部」
「なっ・・・ま、まさか・・・!」
「論より証拠って言うでしょ? 口だけなら何とでも言えるからね。だから俺は俺で耳にした真実を呈示すればいいってわけ」

彼が言わんとすることがわかったのか、みるみる女達の顔から血の気が引いていく。
そんな様子をじっと見下ろしていた類が、次の瞬間フッと柔らかな顔で微笑んだ。
それは見る者全ての心を奪うほど魅力的なものだったが、それと同時に足元からゾクッと震え上がるような恐ろしさも滲ませていた。

「だから思う存分あんた達のやりたいようにやっていいよ」
「 _____ っ・・・! 」

わなわなと怒りと恐怖に震えると、女はキッとつくしを睨み付けてそれ以上は何も言わずに体を反転させた。残り2人も追いかけるように慌てて向きを変える。

「あとさ」

だが一歩踏み出したところで再び掛かった声に、金縛りに遭ったようにその場に足が貼り付いた。

「親切心から教えといてやるけど。司が女を引き連れてこんなところに来るなんてありえないよね。その点だけはあんたの言う通りだよ。でもだからこそなんでその 『ありえない』 がありえてるのかよく考えた方がいいんじゃない?」
「え・・・」
「言っておくけど、司が本気でキレたら誰にも手が付けられないから。・・・たとえ相手が女でも」
「・・・っ!」

顔面蒼白で振り返った女がブルッと震えあがった。

「・・・あ、違った。1人だけ止められる奴がいたんだった。・・・ね、牧野?」
「 ! 」

そう言って横に立つつくしに向かってニッコリ微笑むと、そのあまりにも違う柔らかな表情に女達は愕然とした。ついさっき見せられた笑顔とは真逆の表情。
かつてない仕打ちに、天狗のようなプライドがガラガラと音をたてて崩れていく。

「 ____ っ、行くわよっ! 」

ギリッと唇を引き結ぶと、女は凄まじいスピードでその場から駆け出していった。
脱兎の如く尻尾を巻いて逃げていくその姿を見ながら、類はやれやれと肩を竦めた。

「大丈夫? 血出てるけど」

足元を心配そうに覗き込んできた男にハッと我に返る。

「だ・・・大丈夫」

牧野として存在しているため自分がどう出るべきかを考えあぐねている間にこの男が全てを解決してしまった。もしあの時こいつが入ってこなければ、間違いなく俺はブチ切れていた。
それはつまり牧野が牧野ではなくなってしまうということを意味する。
・・・いや、あいつはあいつであの女達に立ち向かっていっただろうが、少なくとも俺とは違う。怒りの感情のままに反撃していては結果的に牧野を追い込むことになっていたに違いない。
だからこいつが助けに入ったことで救われたのだ。

だが・・・純粋に良かったと思えない自分がいる。
他人に一切の関心を示さない男がこんな場所に足を踏み入れてまで行動を起こす。
その原動力になっているものなんて1つしかない。


・・・全ては牧野のため。


「牧野? 大丈夫?」
「あ・・・なんでもね・・・なんでもない。大丈夫だから。・・・ありがとう」

引き攣りそうになる頬を無理矢理動かして何とか笑顔をつくると、あまりにも優しい眼差しを向ける類を直視できずにサッと視線を逸らした。
とにかく早くここから立ち去りてぇ。

「 ?! 」

だが逸らしたはずの視界に何故か類がいる。
しかもドアップで。

「なっ・・・?!」
「なんで目逸らすの?」

それもそのはず。追いかけるように腰を屈めてあいつが俺を追いかけてきたのだから。

「なんでって・・・別に意味はない。じっと見てるから恥ずかしいだけ」

あいつなら言いながら頬を染めるんだろうが死んでもんなことになってやるか!
腹立たしいほどに強力な視線を感じるが、それをガン無視して類の横を通り抜けた。

「恥ずかしがる必要なんてないじゃん。俺と牧野の仲でしょ?」
「・・・・・・」

全て無視だ、無視!

「それに、牧野が困った時は俺が助けるって約束してたじゃん」
「・・・・・・」
「そうやってこの5年絆を深めてきたよね」
「・・・・・・」
「また司には内緒でデートしよっか」
「・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・はぁっ?!」



今なんつった、こいつ?

驚愕の顔で振り返った俺に、類は類できょとんとした顔で笑った。

「司には言わないから安心して? まぁ色々と監視も鋭いからあいつがいなかった時のようにはいかないかもしれないけど。大丈夫だよ、何があっても俺が牧野を守るから。だからまたデートしようよ。今度はどこに行きたい? 牧野の好きなところでならどこでも・・・」


「てめぇっ、ざけんじゃねーぞっ!!!」


考えるよりも先に体が動いていた。
今俺が誰かなんて関係ねぇ。俺は俺だ。こんなことを聞かされて黙ってられっかっ!!
こいつ・・・ブッ殺す!!!

「・・・・・・」

うんと低い目線から睨み上げる 「牧野」 を前に、下から胸倉を捻り上げている 「牧野」 を前に、類は驚いた顔でパチパチを目を瞬かせた。

・・・かと思ったら何故か突然ニッコリと笑いやがった。





「 やっぱり司だ 」





そうはっきりと口にしながら。





 
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彼と彼女の事情 14
2016 / 04 / 13 ( Wed )
「ではまたよろしくお願い致します」

お辞儀をしてその場を後にした中年男性の後ろ姿を見ながら、自分でも気が付かないうちにふぅっと深い息を吐き出していた。

「疲れたか?」

そう小声で尋ねてくる 「あたし」 の顔にはこんなの朝飯前だと書いてある。

「そりゃあね・・・慣れない場に自分じゃない姿でいるんだから当然でしょ」
「でも心配してるようなことはなかっただろ?」
「・・・うん」

そう。道明寺の言う通り、いつもと様子が違うと不審に思われるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたというのに、意外や意外、そんな様子を見せる人はただの1人もいなかった。
次から次に挨拶に来てはあたしが 「道明寺」 だと疑いもせずに頭を下げる。そうして上機嫌で去っていく人間をこの1時間で何人見たことだろうか。

「所詮この世界は狸の化かし合いの連続だからな。相手の顔色を伺って駆け引きをする。本質的な部分までちゃんと見てる奴なんてそうそういねぇんだよ」
「・・・・・・」

あまりにもあっさり口にした言葉に何故だか胸がズキンと痛んだ。
事実、来る人来る人がその顔に満面の笑みを貼り付け、「世界の道明寺」 を相手にこれでもかと賛辞を並べていく。中には本音もあるのかもしれないけれど、その根底にあるのはあくまでビジネス。
ペーペーの社会人であるあたしですらその空気を感じるくらいなのだから・・・幼少期からそんな世界に身を起き続けてきた彼がそう思うのは当然のことなのだろう。

「大変なんだね・・・」
「別に。ああいうわかりやすい連中の方が扱いやすいからな。案外悪いことばかりじゃねーぞ」
「・・・ふふ、逞しいね」
「でなきゃこの世界で生き残れっかよ」
「・・・うん」

本当に。
この世界で生きていくと言うことは 「強さ」 を求められるのだ。
これまであたしが生きていた世界とは全く色の違う強さが。

「つーかそろそろ落ち着いてきたししょんべん行ってきてもいいか?」
「ちょっ・・・?! いきなり何てこと言うのよ!」

突然飛び出した仰天発言に慌てて周囲を見渡す。

「あ? なにがだよ」
「何が、じゃないでしょ! あたしの姿でしょ、しょ、しょ・・・」
「しょんべんがどうしたんだよ」
「っ、だからっ!! そんな下品な言葉口にしないでよっ!!」
「んでだよ。別に普通だろうが」

声にならない叫びで必死に訴えど、道明寺は怒っている理由がまるでわからない様子だ。

「あのねぇ、あんた達にとっては普通かもしれないけど、女がそんな言葉使ったりなんてしないの! しかもこんな誰が聞いてるのかわからない状況で・・・ほんとやめてよね!」
「別に誰も聞いてねーだろ。 で、行ってきていいのか?」
「え? あ、もちろん。・・・すぐに戻って来るよね?」
「あぁ。もし誰かに話しかけられてもテキトーに流しときゃいい。あらかた必要な相手とは話し終わってっからな。来たとしてもどうでもいい連中ばっかだ。何ならシカトしても構わねーよ」
「シカトって・・・いくらなんでもできるわけないじゃん」
「まぁとにかくすぐに戻ってくっから。メシでも食って大人しく待ってろよ」
「わかった。そっちこそ変なことしないですぐ戻って来てよね」
「ふん、誰に言ってやがる。じゃあな」

軽く手を挙げて足早に会場を後にする 「自分」 を見ながら、脱力するようにどっと体から力が抜けていくのを感じた。
たった1時間。
けれどこんなにも緊張し続けた1時間は生まれて初めてだったに違いない。
バレないかはもちろん、きちんとビジネスとしてのやり取りができるのか、常に緊張の糸がピンと張り詰めた状態だった。

「あいつの生きてる世界ってこんなんなんだなぁ・・・」

いくら小さい頃から身を置いてきたとはいえ、これが当たり前の中で生きているあいつは・・・素直に凄いと思った。
いつかそんなあいつを支えられる自分になれたらって、離れていた5年間自分なりに必死に努力してきたつもりだけど・・・あたしの成長するスピードの何倍もの速さであいつはもっと先へと行っているのかもしれない。

あたしに 「その覚悟」 はちゃんとあるのだろうか・・・?

「・・・やめやめ、なるようになるんだから考えるのなしっ! よし、西田さんも席を外してることだし、せっかくだから思う存分おいしいもの食べさせてもらおっと!」

そうと決まれば行動は早い。
常に感じる様々な視線を全身に浴びながら、それを全く気にしない堂々とした素振りでテーブルに近づいていく。所狭しと並べられた見目麗しい料理の数々に嬉しい悲鳴をあげそうになるのを必死に堪えると、空腹のお腹を満たすべく手近な皿を1枚手に取った。



「 司さん 」



けれど今まさに肉を掴もうとしていたその瞬間、真後ろからかけられたソプラノのような声に手が止まった。ゆっくりと振り返ると、そこには綺麗なドレスに身を包んだ綺麗な女性が立っていた。
当然ながらそれが誰かなんて全くわからない。
けれど、道明寺は大事な相手には既に接触済みだと言っていた。ということは考えられるのは彼らにはありがちな女性からのアプローチか何か・・・

「NYでは素敵な夜をありがとうございました」
「・・・へ?」

・・・夜?
・・・って何のこと?

「よろしかったら今夜どうですか?」
「・・・・・・」

そう言ってぐっと目の前まで近づいてくると、状況がまるで掴めないこちらの返事を待たずしてその女性があたし・・・ならぬ 「道明寺」 の腕に手を巻き付けた。触れたところにふくよかな弾力をはっきりと感じる。
それをわかっているのか、女性は上目遣いでウフッと微笑んで真っ赤なルージュを纏った唇に弧を描いていった。






***




「ちょっとあんた」

一息ついて手を洗い終えたところで鏡越しに数人の女が立っているのが目に入った。
その目にははっきりとした敵意が映し出されていて、この女共が一体何のためにここにいるかなんて考えるまでもない。

「・・・・・・」

無言のままゆっくり振り返ると、まるで仁王立ちするようにして3人の女が行く道を塞いでいる。いつもの俺なら女だろうとお構いなしで強行突破するところだが、 「牧野」 である以上そういうわけにもいかない。

「何か? というかそこ通してください」

いかにもあいつが言いそうな言葉ではっきり牽制したが、予想通り女共がどく気配はない。
それどころかますます鬼のような形相でこっちを睨み付けている。

「あんた誰なの? 道明寺様の隣に金魚のフンみたいに付きまとうなんて、ありえないでしょう!」
「・・・・・・」
「ちょっと、何とか言ったらどうなの? あんたこの人が誰だかわかってるの? あの鈴木建設のご令嬢なのよ! 道明寺様の隣にいるべきはあんたみたいなみすぼらしい女じゃなくて京子さんみたいな女性なんだからっ!」
「・・・・・・」
「あーら、もしかして怖くて何も喋れなくなっちゃったのかしら?」

中央に立つ女が高笑いすると、一歩足を踏み出して 「牧野」 を蔑むように見下ろした。

「あんたがどこの誰かしらないけどね、痛い目にあいたくないならさっさと身を引きなさい」

ギリッ・・・

握りしめた右手が血管が切れそうな程に小刻みに震えている。
・・・これが俺といるあいつにとっての 「日常」
あいつのことだ、俺が知らないだけでこんなことはこれまで数え切れないほどにあったんだろう。その度に自分だけで対処してきた。
あいつなりの闘い方で。

「ちょっと! 聞いてるのっ?!」
「 !! 」

ドサドサッ!
ハッとしたときには肩を強く押されていて、そのまま大理石の洗面台に背中をぶつけて膝から転んでしまった。見下ろした膝からじわりと血が滲んでいくのを見た瞬間、自分の中の何かがブチッと切れたのがわかった。

「・・・てめぇ・・・ざけんじゃねーぞ・・・」
「はぁ? 何言ってるのか聞こえないのよ!」
「・・・・・・」

ざけんじゃねーぞ。
こいつが何したってんだ?
俺が求めるままに俺の傍にいるだけのこいつが一体何を。

沸々とマグマのように湧き上がる怒りを抑えることなどできやしない。
頭上で尚も喚き散らす女共を睨み付けながらゆっくりと立ち上がると、

「・・・・・・っ!」

俺の形相を正面から見た女がその瞬間言葉を失った。
これほどまでに怒りが湧いてくるのはいつぶりだろうか。
・・・ただで済むと思うなよ。

「な・・・なによ。なんなのよ、その目つきは! あたしを誰だと・・・!」



「 鈴木建設のご令嬢だったっけ? 」



「え・・・? なっ・・・?!」

突然聞こえてきた声に全員がハッと振り返ると、本来ここにいるはずのない男が入り口にもたれ掛かるようにして立っていた。

「な、なんでこんなところに男の人が・・・」
「っていうかあなたは、もしかして・・・!」



「 類・・・ 」



思わず俺の口から出た名前に、呼ばれた本人がニコッと笑って見せた。


「なんだか随分物騒なトイレなんだね、ここ」


その目は全く笑ってなどいなかったが。




 
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00 : 02 : 15 | 彼と彼女の事情 | コメント(11) | page top
彼と彼女の事情 13
2016 / 04 / 12 ( Tue )
「びっくりした。なんで牧野がここに?」
「え、と・・・」

いきなりの事態にもごもごとうまく切り替えのできないあたしに気付くはずもなく、類がいつもの王子様スマイル全開であたし達の前へとやって来た。

「もしかして今日婚約発表するとか?」
「はっ?! まっ、まさかっ!!」
「・・・え?」

きょとんと驚いた顔を見せた類に、自分の中の危険センサーがけたたましく音を奏で始める。
しまった・・・! 今あたしは強引で自己中で傲慢な俺様なのだ。
この状況下であいつだったら何て答える?
そんなの決まってる。

『 まーな 』 とか 『 それも悪くねーな 』 とか。

あたしの了承を得ていなかったとしてもそんなのお構いなしであっさり肯定するに決まってる。
だってこの男はそれを切望しているのだから。
元はといえばそれが原因でこんな状況に陥っているも同然なわけで・・・

「・・・司? どうかしたの?」
「えっ? あ、あー、なんでもねーよ。俺としてはいつでもそのつもりなんだけどな。こいつがギャーギャー抵抗してうるせーから。ついあんな風に言っただけだ。気にすんな」

トホホ、何が悲しくて自分を咎めるような発言をせにゃあならんのだ。
っていうか 『お前自分のことをよくわかってんじゃねーか』 ってその目をやめなさいよっ!
僅かに口角を上げて不敵に微笑している 「あたし」 をギロッと睨み付けてやった。

「今日はこいつの都合が良かったから半ば強引に連れて来ただけだ」
「ふーん・・・?」

うぅっ、そんなじっくりあたし達を見比べないでよ!
心臓が痛い。痛すぎる。
何でもいいから話を逸らさないと類にはすぐに見透かされてしまいそうだ。

「つーかお前も今日来るだなんて聞いてねーぞ」
「うん、だって言ってないし。でもまぁ顔を合わせることなんて珍しいことでもないだろ?」
「・・・まぁな」
「確か総二郎とあきらも来るって前に言ってた気がするけど」
「えっ!!」

げげぇ~~っ!! あいつらまで来ちゃうの?!
最悪、類にばれたとしても彼ならきっと味方になって助けてくれる・・・と思う。
けど、あのお祭り男2人は違う。
絶対に面白がってあることないこと言い出すに決まってる。そして下世話な妄想でやいのやいの騒ぎ出すに違いないのだ。
うぅ、会いたくない~~!

「ねぇ、そろそろ時間でしょ? 中に行こうよ」

心の中で頭を抱えたその瞬間、サラッと聞こえてきた 「自分」 の声にハッと横を見た。
今の・・・誰?
そう言いたくなるあたしはおかしくないよね?
だって、体が入れ替わってから今というこの瞬間まで、道明寺が女を意識したような言動をしたことはただの一度もないのだから。だからこそ今日この場を何事もなくやり過ごせるのかが不安で不安で仕方がなかったというのに。

・・・だというのに。
今あたしの姿をしたこの男の口から飛び出したのは紛うことなく 「あたし」 の喋り方だった。

「ほら道明寺、あんた無理矢理ここに連れて来たんだからさっさとしなさいよね!」
「・・・・・・お、おぉ・・・」

ぶっちゃけ混乱状態のあたしを尻目に道明寺・・・もとい 「あたし」 が大きな男の背中をグイグイと押す。チラッと後ろを伺えば、どうだ見たか! と言わんばかりのドヤ顔で 「あたし」 がほくそ笑んでいた。
っていうか普通にできるんじゃん! 今までは何だったんだよっ!!

「じゃあ類、またな」

言いたいことは色々あるけど、とりあえず今は類から離れることが最優先。
道明寺があたしになりきれるということがわかればこの後のこともグッと気持ちが軽くなった。
あとは必要以上な人との接触を避けさえすれば・・・


「司、牧野」


ドアを開きかけたところで再び呼び止められて思わず跳びはねそうになる。
心の中では戦々恐々、顔にはしつけーんだよテメェ臭を纏って横目で見ると、何故か類が真っ直ぐにこちらを見つめていた。

「・・・なんだよ」
「・・・・・・・・・」

な・・・何?
なんでそんなにじーーーーっとこっちを見てるわけ?
まさか・・・もうばれたなんてことはないよね?
いやいやいや! いくら類でもこの僅かな時間であたし達が入れ替わっただなんて、そんなありえないとんでも事態に気付くはずがないでしょう!
・・・ないよね?

「だからなんだっつってんだよ!」

ここは道明寺節全開で行かなきゃマズイ。
綻びを見せた瞬間一気にボロが出てしまう予感がぷんぷんだから。

「・・・・・・いや、何でもない。なんとなく呼んでみただけ」

はぁっ?! 相変わらずこの男の言い出すことは予測がつかない。

「ざけんな。こっちは忙しいんだよ。おい牧野、行くぞ」
「え? う、うん・・・」

うまいっ! 道明寺、あんたその戸惑いがちな返事、いかにもあたしっぽいよ!
っていうかこいつやればほんとにできるんじゃん。

「じゃあまたね、牧野」
「えっ?」

あたしが心の中でそんなことを考えていると、何を思ったか類が突然 「あたし」 の頭を撫でた。
まるで子どもにいい子いい子をしてあげるように優しく微笑みかけながら。
けれど触れた瞬間 「あたし」 の顔がピキッと凍り付いたのがわかった。
このままじゃやばいっ!

「おい類、てめぇ気安く人の女に触ってんじゃねーぞ!」
「なんで、別にこれくらいいいじゃん」

強く腕を掴まれた類が例のきょとん顔でこっちを向いた。
別にいいならこんなこと言わないっての!
っていうか絶対わざとやってるよね?
やっぱりこの男達、揃いもそろって曲者だわっ!

「ざけんな! お前もぽやっとしてんじゃねぇ。行くぞっ!」
「あっ・・・!」

自分でも100点満点の道明寺らしさだったと思う。
逃げるように 「あたし」 の腕を掴んでドカドカと会場の中へと入っていくと、

「牧野、またね」

飄々とした類の声が扉が閉まる直前に聞こえた。

足早にそこから離れてなんとかあの場をやり過ごせたことにひとまず安堵すると、掴んでいた手をそっと離した。

「はぁ~~、焦った。類って変な嗅覚が利くからばれやしないかハラハラだったよ」

ひそひそと道明寺にそう囁くと、何故かじろっと鋭い視線が返ってきた。

「ばれるとすりゃどう考えてもお前が原因だろうが」
「うっ・・・で、でも道明寺だってさっきすんごい形相してたじゃん! いくらなんでもあたしあんなガン飛ばししないから!」
「あいつがお前に触るからだろうが」
「だからってあんな鬼の形相しないでよ。おかしく思われちゃうでしょ!」
「あぁ? お前は俺以外の男に触られてるっつーのに問題にするのはそこなのかよ」
「だから今はそっちの方が圧倒的に重要なことでしょうが!」
「どうだかな。お前は昔っから類には態度が違うからな。内心喜んでんじゃねーのか」
「はぁっ?! あんた何言ってんの? あたしは真剣に言ってるんだから!」
「こっちだって大マジだっつんだよ」
「ちょっと、あんたね・・・!」



「 お二方とも、本日の目的をお忘れではありませんか 」



いつの間に来たのか、すぐ背後から聞こえた低い声に思わずヒィッと悲鳴を上げそうになった。

「に、西田さん・・・」

救世主ともいえる彼は既に呆れ顔で眼鏡のフレームを押し上げている。
うぅ、これは間違いなく説教タイムだ。

「この場を穏便に済ませたいのであれば、自分達がどのような行動を取るべきかよくよく考えていただきますようお願い申し上げます」
「は、はい、すみません・・・」
「ふん」

ちょっとー! だから 「道明寺」 が素直に謝って 「あたし」 がふんぞり返ってるってどう考えてもおかしいでしょうが!
叫びたい気持ちを必死で飲み込んだ。

「これからどうしても接触を避けられない方々への挨拶回りへと参りますので」
「は、はい、頑張ります!」
「 『 牧野様 』 もよろしいですか?」
「・・・・・・・・・」

わざと 『牧野様』 と強調した西田さんに道明寺がわかりやすくムッとしている。

「・・・・・・わーったよ。やりゃあいんだろ、やりゃあ」
「よろしくお願い致します。では参りましょう」

西田さんの後をやっぱりふてぶてしさを隠せていない様子でついていく 「自分」 を見ながら、これで本当に大丈夫なんだろうかという不安が再燃してきたのに気付かないフリをした。
赤の他人はもちろん、この会場内にはまだ類だってお祭り好きなあの2人組だっている。

とにかく今夜という時間が何事もなく平和に終わってくれますように。
現状からもわかるように既に効果無しだと嫌と言うほどわかってはいるけど、それでもあたしはあらためてそう心の中で神頼みをしたのだった。




 
ポチッと応援をよろしくお願い致します!
皆さんの温かいお言葉におだてられて木に登っちゃいました。 ( ̄(oo) ̄)ノ ブヒー
みやともさん、ブタよりも単純な思考回路なの。 ( ´(00)`) ブヒブヒッ
毎日は無理だと思いますが、短くても頻度を増やせるように頑張りますね~!
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00 : 00 : 00 | 彼と彼女の事情 | コメント(3) | page top
彼と彼女の事情 12
2016 / 04 / 11 ( Mon )
「ねぇねぇ、例の女見た?」
「それがまだなのよ。隙あらばと思ってはいるんだけどさ、相当ガードが堅いわよね?」
「うんうん。・・・でもさ、あたし今朝チラッとだけ見たのよね」
「えっ、それマジ?!」
「マジマジ。とは言ってもほんとに一瞬だけなんだけどさ。西田さんの後ろについて執務室に入っていく後ろ姿をチラッとだけ」
「顔は?」
「残念ながら全く。ただ、細身でストレートの黒髪の女だってことだけははっきりしてる」
「ストレートの黒髪・・・」

言われた特徴をブツブツ呟きながら女の眉間に皺が刻まれていく。

「・・・っていうか何者なの? 牧野つくしって」
「それがわかれば苦労しないのよね~。西田さんからある日突然期間限定の補佐をつけたって、名前を知らされた以外は一切の情報ナシでしょ? そもそも顔すら見せないってことが異常でしょ」
「ほんとよねぇ。副社長が西田さん以外の直属の部下をつけること自体ありえないのに、これだけ鉄壁のガードで守られてるなんて・・・」
「つまりは副社長が意図的にそうしてるってことでしょ?」
「・・・考えたくはないけど間違いないでしょうね」
「・・・・・・」

2人の女の間に重苦しい沈黙が広がる。

「まさか・・・副社長の女とか?」
「やだーっ! そんなの冗談でもやめてよっ!!」
「でもそうでもなきゃ説明つかないでしょ?! 確か副社長って渡米する時に彼女の存在について言及したんじゃなかったっけ? だから・・・」
「やだやだやだっ! 絶対に信じない! っていうか万が一にもそうだったとして副社長も何考えてんのよ。社員にきちんと紹介もできない形で女を忍び込ませるなんて。会社としてそれってどーなのよって話でしょ?!」
「あっ、ちょっと・・・!」
「えっ? ・・・あっ!」

グイッと腕を掴まれた女が慌てて後ろを振り返ると、給湯室前の廊下を今まさに横切っていく副社長その人の姿が目に入った。それは本当に一瞬の出来事で、女達が顔面蒼白になる頃には既にその姿は室内へと消えてしまっていた。

「・・・・・・・・・」
「ちょっ、大丈夫?!」

さっきまでの啖呵が嘘のように膝から崩れ落ちてしまった同僚に、もう1人の女もしゃがみ込んだ。彼女自身の顔も負けず劣らず血の気が失せている。

「・・・絶対聞こえたよね・・・」
「・・・・・・」

否定できないことが全てを物語っている。
再びの沈黙がますます2人を奈落の底へと突き落としていく。


『 不可侵の絶対王 』


社員の間で密かに囁かれている副社長像。
普段直接お目にかかれること自体なかなかない存在だが、仕事で関わったことのある一部社員や何かの折に偶然見かけたことのある社員が口にしたことがたちまち全体へと浸透していった。
他人にも厳しいが自分にも厳しい。
重大なミスでもおかそうものなら容赦なくクビが飛ぶ。
その緊張感が社内全体に浸透している証拠なのか、彼が日本支社へと戻ってきてからの業績は良くなっていく一方だった。

「どうしよう・・・明日になってクビ宣告されたら・・・」
「それどころかヘタすれば今日中になんて可能性だって・・・」

決してありえなくはない現実に、2人は両手をついたままガックリとその場に項垂れてしまった。





***



「はぁ・・・」
「背中を丸めないでください。司様らしくありませんよ」
「は・・・はいっ!」

副社長室へと繋がる西田の執務室に入った瞬間、気が抜けてしまっていたところをしっかり指摘されて慌てて背筋を伸ばした。
いけないいけない。

「気にするな、と言う方が無理かもしれませんがお気になされませんよう」
「・・・・・・はい・・・」

力の無い返事に、西田がふぅっと小さく溜め息をついたのが背中越しにわかった。
だって・・・やっぱり気にするなって言う方が無理だよ。

同じ秘書課に勤めている彼女たちがあんな風に思うのは当然のことだ。逆の立場だったらあたしだって何が何だかわけがわからないし、上司への不満だって抱くかもしれない。
彼女たちが会いたがってる 「あたし」 こそが実は今目の前を通り過ぎただなんて ___
自分でも信じられないことが他人に理解されるはずもなく。

「あの・・・あたしが何を言われようと平気なんですけど、道明寺に対する不信感が募っていくようなことになるのは会社としては大丈夫なんでしょうか・・・?」
「言いたい人間には言わせておけばいいのです。副社長としての評価がこの程度のことで崩れてしまうようであれば司様もそれまでのお人だったということですから」
「それまでって・・・」

そんな身も蓋もない。

「ですから心配には及ばないと言っているのです」
「・・・え?」

振り返ると、いつものキリッとした表情を崩さずに西田は淡々と言葉を続けた。

「こんなことで足元を掬われるような男ではないと断言します。私はできないことを口にするような人間ではありません。ですから牧野様は常に堂々としていてください。今のあなたに求めることはそれだけです。司様もあなたが落ち込むようなことは決して望んでおりませんから」
「西田さん・・・」
「さぁ、そろそろ出発の時間です。司様もお待ちですから参りましょう」
「あ・・・はい!」

その言葉にまた違った緊張感が走ると、続き部屋へと入っていった彼の後を早歩きで追いかけた。





***




「う~~・・・」

震えるな、震えるな。
しっかりしろ、あたし!
あたしは道明寺司、道明寺司。こんな状況は朝飯前の俺様男。
強引で自己中で傲慢な俺様が法律男。

「おいてめぇ、堂々と本人の前でケンカ売ってんのか」
「・・・へっ?」

真後ろから聞こえてきた 「自分」 の声に振り返ると、紺色の小綺麗なワンピースに身をつつんだ 「あたし」 がその格好に全くそぐわないすこぶる不機嫌そうな顔で睨み付けていた。

「え? ・・・っていうかもしかして・・・」
「強引で自己中で傲慢な法律男がどうしたって?」
「あ・・・はは、は? ど、どうしたんだろうねぇ? あはははは」

やっぱり・・・またしてもやらかしてしまったらしい。
器が変わろうとやってしまうことはどこまでいっても 「あたし」 そのもの。

「ったく。一言くらいいい男とか言えねーのかよ」
「っていうか自分でそれ言うの?」
「いい男なんだから言うに決まってんだろうが」
「あー、はいはい、そうでございましたね~」
「おい、適当に流すな」

しょーもないやりとりにほんの少しだけ肩の力が抜けた気がした。
きっと道明寺はそんなあたしのこともお見通しでわざとそう仕向けてるんだろう。
強引なくせに、こうして見せる押しつけがましくない優しさが心に染み入る。

「ほんとにバレないかな・・・」

目の前に迫ってきた大きな扉を前にまたしても弱気の木がむくむくと成長していく。

「お前さえ堂々としてりゃまずばれねーから安心しろ」
「ほんとに? あたしはむしろ道明寺の方が心配だよ!」
「あぁ? なんでだよ」
「だって、俺様の道明寺がいくらがさつなあたしだとはいえ女になりきるだなんて・・・。今までは閉鎖的な空間でしか過ごさなかったけど、こんな大人数がいる場所なんて・・・やっぱり不安だよ」

そう。この扉の向こうは何百人の人で溢れかえっているのだ。
とうとう仕事の上でどうしても欠席することが避けられなかったパーティへと出向くことになってしまった。いつかはこんな日が来るとは覚悟していたけれど、本音を言えばそうなる前に元に戻りたかったに決まってる。

自分がきちんと 「世界の道明寺」 を演じきれるのか、不安がないわけがない。
それでも、ふんぞり返るくらいに堂々としていればこいつを相手に無理難題をふっかけてくる相手などそうそういないだろうし、いざというときには西田さんに任せれば全てうまくフォローしてくれる。
その絶対的な安心感があった。

でも道明寺はそうじゃない。
明らかに場違いな 「牧野つくし」 としてこの場にいるのだ。
あたしの存在を公にしていないのだから 「あんた誰」 状態になるのは必至で。
さっきの秘書さん達のときもそうだったけど、あたしはどんな攻撃を受けようと我慢できるしそれ相応の耐性だって身についてる自信がある。

でも道明寺が 「あたし」 として周囲の冷たい目線にきちんと対応できるのか・・・
無意識のうちに睨みでもきかせようものなら、そんな女を引き連れてる道明寺自身の評価に傷がついてしまいそうで・・・。西田さんは言わせておけばいいと言ったけど、状況が状況とはいえこんなことで僅かでもあいつの足枷になるようなことにはなりたくない。
・・・だって、それほどにこの5年を頑張ってきたのをあたしは知ってるから。

「考え込むなっつってんだろうが」
「いたっ!」

ゴツッと背中を小突かれて思わず声が出る。

「なるようになるしなるようにしかなんねーんだから開き直れよ」
「いや、開き直りすぎてもだめでしょう」
「いいんだよ。とにかくお前は俺らしく堂々としてろ」
「それはわかってるけどあたしが心配してるのは道明寺なんだってば! 間違っても大股開きしたり相手にガン飛ばしたりしないでよ?」
「うるせーな、わーってるっつってんだろ! いい加減信用しろよ」
「今まで一度だって女性らしい素振りしてこなかったんだから無理に決まってるじゃん・・・」
「とにかく行くぞ。西田もすぐに来るっつってたんだから心配すんな」
「う、うん・・・」




「 司、牧野 」




意を決して扉に手を掛けたその時、後方から聞こえてきた声に2人して足が止まった。
振り返らなくてもわかる、この声の主は・・・


「 類 」


「あたし」 の口から出たその名前に、ビー玉の瞳の王子様がふわりと微笑んだ。
その瞬間これまで経験したこともないような音でドクンと心臓が音をたてた。




 
ポチッと今後へのやる気スイッチをよろしくお願い致します!
更新する詐欺状態になってしまってすみません・・・m(__)m
あの後も色々イロイロとありまして、なかなか書ける状態になっていませんでした。
少しずつ書いていけたらいいなと思ってますので、気が向いたら元気玉をお願いします(o^^o)
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