明日への一歩 3
2015 / 01 / 05 ( Mon ) 「えー、いいよぉ」
「いーから。どの辺りなんだよ。場所を教えろっ!」 「そんなに類に対抗しなくったっていいのに・・・」 ボソッと呟いた一言に司の地獄耳がピクリと反応する。 「何か言ったか? タイムズスクエアのど真ん中で濃厚なキスしてやろうか?」 「ひっ・・・! い、いえいえいえ、何も言ってませんからっ!!」 一歩後ずさりながらつくしが必死で首を横に振る。 司はふんと鼻を鳴らすと辺りを見渡した。 「で? 実際どの辺りなんだよ?」 「えー・・・もう7年も前の話だからなぁ。ぼんやりとしか覚えてないよ。しかも露店だったから今もある可能性は限りなく低いだろうし・・・」 「とにかく場所だけでも思い出せ」 「うーん、あのレストランで食事して・・・で、朝になって外に出て・・・・・・・・・あ。」 辺りをキョロキョロ見渡していたつくしの視線がある一点で止まる。 「なんだ? あったか?」 「うん・・・わかんないけど、もしかしたらあれかも」 つくしの視線の先には一台のトラックが止まっている。 荷台の部分には色とりどりの花が置かれていて、次から次に客が来ては花を買い求めている。 司は迷わず足を進めると、あっという間にその車のところまで行ってしまった。 「あ、ねぇ、待ってよ!」 急いで追いかけると、何やら店員の女性に聞いている。 「 Do you have this shop from seven years ago here? 」 「 Yes , for ten years 」 「 OK. so... this one please 」 ペラペラとまるでネイティブのような流暢な英語でやりとりを繰り返すと、やがて2本の花を手にした司が戻ってきた。持っているのは赤と青の薔薇だ。 「10年前からここでやってるらしいから多分ここだな。 ん。」 「えっ?」 「お前にやるよ」 「え・・・あ、ありがとう。・・・綺麗」 差し出された薔薇を受け取ると、思わずそんな言葉が素直に出ていた。 情熱的な真紅の薔薇と、今日の青空にも負けないような真っ青な薔薇。どちらも花びら一枚一枚が生き生きとしている。 「俺は2本だぞ」 「えっ?」 うっとりと見とれているつくしに司がおもむろに声をかける。 「類がやったのは1本だろ。俺は2本だ。これでお前の思い出が塗り替えられたな」 「へっ?」 「言っとくけどちゃんと自分で稼いだ金だからな。学生の頃とは違うぞ」 「・・・・・・・・・」 ポカーンと口を開けたまま呆気にとられるつくしに構うことなく、当の本人はどこか誇らしげに胸を張っている。 ・・・まさか、類に対抗するために? それだけのために?! 「・・・・・・ぷっ、あはははははははっ!! そ、そんなにムキになんなくても・・・あははっ!」 「うるせー。何と言われようとあいつには譲れねぇもんがあんだよ」 「あははっ、もうだめ、おかしー!」 お腹をよじって大笑いするつくしに次第に司の顔がしかめっ面に変わっていく。 「おい、笑いすぎだろ」 「だ、だって・・・! 司が可愛いからっ・・・!」 「あぁ?!」 「もう7年も前のことなのにっ・・・なんでそこまでするのよ、あははっ!」 ついには涙を拭い始めてしまった。 そんなつくしにムッとしつつも、司は決して怒ろうとはしない。 「・・・嫌なんだよ」 「・・・え?」 「ここでの楽しい記憶が類とのものだけだってのが・・・今さらあの時のことをどうにもできねぇってのはわかってる。それでも、俺との記憶が苦々しいものだけなのは許せねぇんだよ」 「司・・・」 そう言った司の顔には自分への怒りや後悔、悲しみ、ありとあらゆる感情が滲み出ていた。 あれから公園で昼食を終えた後、特にどこかはっきりとした目的があるわけでもないが、2人でNYの街並みをぶらりぶらりと見て回った。何でもないことがこの上なく楽しかった。 だがもうすぐ日が暮れる頃になって突然司が 「類に花を買ってもらった場所を教えろ」 などと言い出した。 一体何を言っているのかとつくしは呆れかえったが、この男は本気だった。 うろ覚えな記憶を無理矢理にでも引っ張り出させ、散々探し回させられて今に至る。 ・・・もうとっくに時効だというのに。 思い出ならこれからいくらだって塗り替えられるというのに。 今だってまさにそうだ。 それなのに、この男はそれでも自分が許せないのだと言う。 あまりにも真剣な司の顔を見ていたら、つくしは自分でも気付かないうちに自然と笑っていた。それが面白くないのか、またしても司の眉間に皺が寄る。 「何笑ってんだよ」 「ううん、幸せだなぁって思って」 「・・・は?」 訝しげな顔をする司にクスッと笑うと、つくしは握りしめている薔薇を見つめた。 「司がそう思って今こうしてくれてることも、全ては今が幸せだからできることなんだなって。確かにあの時はお互いにとって辛いことばかりだったかもしれない。でもそれも全てが今に繋がってるわけでしょ? そう思ったらなんだか全てが愛しい記憶に思えてくるよ。自分でも不思議なくらいに」 「つくし・・・」 「ほら、終わりよければ全てよしって言うでしょ?」 「おい、勝手に人の人生終わらせんな」 「あははっ! ごめんごめん。でもさ、あの時の思い出はずっと変わらないし、今この瞬間の思い出だってそうだよ。あたしにとってはどれもかけがえのないことなの。これからは司と色んな思い出を積み重ねていけたらいいなって思ってる。・・・この薔薇も今この瞬間、思い出のアルバムに載せられましたとさ」 そう言うとつくしは薔薇を顔の横に持ってきてニカッと笑った。 「・・・お前、薔薇の花言葉知ってるか?」 「えっ? ・・・えーと・・・」 確か・・・薔薇は情熱的な愛の言葉だったような・・・ ベタな恋愛漫画なんかにもよく出てくるし。 「あなたを愛しています、だよ」 「あ、そっか・・・」 照れるでもなく真っ直ぐに見つめられながら言われると恥ずかしい。 まぁこの男にとってはそんなことは全くもって今さらなのだろうが。 つくしは思わず赤い薔薇に視線を泳がせた。 「じゃあ青い薔薇は知ってるか?」 「・・・え。 赤と青で違うの?」 「あぁ。花言葉は色によって変わることもよくあるからな」 「へぇ~、そうなんだ。 青・・・・・・なんだろう?」 普段あまり目にすることのない青い薔薇を見ながらうーんと首を捻る。 司はつくしの手から青い薔薇をスッと抜き取り、色んな角度から一通り見ると、その様子をじっと見ていたつくしに視線を戻した。 「 『奇跡』 だよ」 「奇跡?」 「あぁ。青い薔薇を作り出すのは不可能だと言われていたくらい難しいことだったんだ。だからもともとはそういう花言葉しかなかった。でも作り出すことを諦めなかった研究者達のおかげで今こうして普通に世の中に溢れてる。夢を現実に変えたんだ。ちなみに日本人も研究に関わってるんだぜ」 「へぇ~、そうなんだぁ・・・」 つくしは初めて知る事実にただただ感心する。 「俺たちに相応しい花だと思わねぇか?」 「え?」 「一見不可能と思われることを現実にしてんだから」 「あ・・・」 そっか。 そういうことだったのか。 彼の伝えたいことがようやくわかった。 本当に、誰がどう考えても自分たちが一緒になることは奇跡としか言い様がないのだから。 交わるはずのない糸が結ばれる。 それを世間では運命というのだろうか? 「うん、そうだね。あたしたちに相応しい花だね。・・・司、本当にありがとう」 心から嬉しそうに笑ってみせると、ようやく司にも笑顔が戻って来た。 そしてつくしの手を取りもう一度花を握らせる。 「あぁ。ちゃんと最後は押し花にして保管しろよ」 「へっ?!」 じーーんと。 とても感動的な気持ちで胸がいっぱいになっていたというのに。 この男の放った一言で全てがぶち壊しになってしまった。 全く! 「ぷっ、あははははっ! まだそこ気にしてたの?! もう、相変わらず執念ありすぎだよっ!」 「うるせーな。お前が何と言おうとここは譲れねぇんだよ」 「あははは、わかりました。ちゃんと押し花にしてずーーーーっと大切にさせていただきますよ」 「・・・よし。じゃあそろそろ行くか。いつまでもここにいるのもなんだしな」 「あ、ほんとだね」 ここはタイムズスクエアのど真ん中だ。 薔薇を2本持った男女がいつまでも何をやっているのだろうか。 「ん」 「うん」 たった一言。 まるで暗号のようなやりとりだけでつくしは差し出された大きな手にごく自然に自分の手を重ねる。 はじめはぎこちなかったこの一連の動作も、今ではすっかり当たり前のことになってしまった。 不可能と思われたことが現実となり、それが日常となっていく。 これを奇跡と言わずして何と言うのだろう。 「お義母さん、週明けには帰って来るかな」 「多分な。良くも悪くも予定が変更されることはあるから確実なことはわかんねぇけどな」 「そっか、そうだよね。・・・奇跡がそこで終わったりしませんように」 「ドアホ。させるわけねーだろ」 「あはは、そうだよね。頼りにしてます」 「おー。頼れ頼れ。まぁ今はひとまずメシ食って帰るぞ。腹が減っては戦は終わるからな」 「あはは、何それ。戦は終わるって、なら食べない方がいいじゃん!」 「なんでだよ? 食わなきゃどうにもなんねーだろが」 「あはは、再会してからすっかり大人になったと思ってたけど、やっぱり人間ってそう簡単には変わらないのね」 「あぁ?!」 「あはははっ」 少しずつ灯され始めたネオンの中に、楽しげに寄り添う2人の影がやがて消えて行った。 ![]() ![]() |
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徹底的に類に対抗意識むきだしの司。 押し花にすることまで、しっかり要求して‥‥。 そんな司が花言葉を知ってるところがツボ(笑) 楓さんに合うための勇気を司の愛からもらってるつくし。 NYに行って良かったね。
by: みわちゃん * 2015/01/05 00:35 * URL [ 編集 ] | page top
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自分が悪いとはいえ、類と同じ家にいたんですからね~。 そりゃあ心中穏やかではないことでしょう。 でも司君、キスくらいで済んで良かったと思わなければ駄目だよ、君。 司って結構ロマンチストですよね。 花言葉もいつ知ったんだか。 でもエリートビジネスマンって博学なイメージがあります。 バカだけどただのバカじゃないっ!(笑) --こ※様--
明けましておめでとうございます。 こちらこそ今年も宜しくお願いします(*^o^*) 番外編楽しんでいただけているでしょうか? ただまったりしているだけで皆さんどう思ってるのかな・・・なんて気になったり(^^ゞ おじさんはどこかで登場させようかな~なんて画策しておりますが、ハテ?! それから魔女の登場場面はもう考えてます! どうぞ期待「しないで」 ←ここ重要ポイント 待っててくださいね( ̄∇ ̄) --管理人のみ閲覧できます--
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おぉっ! 19歳のぴちぴちの女の子に青の薔薇をあげる旦那様! なかなかやりますねぇ( ̄ー ̄) 結構ロマンチストですか?( ´艸`) それとも物珍しさで買っただけとかゲフンゲフン! なんだかね、あの青を出すのって難しいみたいですよ。 青色発光ダイオードも開発が大変だったって言われてますけど、 青って実は出すのが難しい色だったりするんですかね? 単なる偶然?( ̄∇ ̄) --け※ひ様--
良かったです。 まったり過ぎてイライラしてる人がいやしないかと内心びびってました(笑) 今は嵐の前の静けさ・・・?!はてさて。 たまーにね、ドラマの要素をぶっ込んでます。しれっと。 原作司と松潤司は結びつきませんが、それぞれ別物として好きです(*´∀`*) でもバカエピソードに関しては共通なのでこうして時々利用しちゃうんです(笑) --ke※※ki様--
そうそう、順調ですよね。 「ここまでは」 ( ̄∇ ̄) エッ? いよいよラスボス登場?! おかげさまでようやく娘も平熱に戻りました! またまたぶり返すことがないように気をつけます。 そうですよね、お年寄りは入院すると一気にボケますよね・・・ うちの祖母もそうでした。 そして男の方がオタオタするばかりでちっとも役に立たないのもよくわかります(~_~;) 色々と大変だと思いますが、どこかで息抜きするなどして 疲労が溜まらないようにされてくださいね>< --管理人のみ閲覧できます--
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こちらこそ今年も宜しくお願い致します(^ω^) 年末年始もお仕事お疲れ様でした。 私は別の意味でバタバタしておりました(苦笑) リクエストが多かったことと私も別れ難かったこともあり続編です。 このまままったり行けるのか、それとも波乱があるのか?! 行き当たりばったりで頑張ります~(*´∀`*) |
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