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時を超えて 3  by うさぎ
2015 / 01 / 31 ( Sat )
「露天風呂入ろうぜ。」

「いいねぇ。景色も一望できる部屋だし、夕食前に入りたいかも~♡」

部屋から外の露天風呂を見渡すつくし。

ウキウキ気分のつくしに俺まで嬉しくなる。

部屋に温泉付きってプランを選んだ子供たちを褒めてやりたい。

俺の事わかってんじゃねぇか。

帰ったら、お礼にアイツらのお願いなんでも聞いてやるか。

思わず口角が上がっちまう。


「わぁ~ご飯はこの景色見て食べれるんだね。」

部屋とは別に食事処の座敷が準備されていた。

座りながらでも一望できる、熱海の景気。

グレードアップしなくても十分楽しめる。

「その前に、温泉って言ったら卓球でしょ?」

イキイキとした表情で振り向き俺を見る。

「夕飯前に体動かしてお腹空かせないと。」

にっこり笑うつくしの眩しい笑顔。



出たっ。



俺の高ぶる気持ちを一瞬で脱力に変える技。


自分で聞いたくせに、つくしの中では決定事項。

すげぇー嬉しそうな顔に俺もダメだとは言えなくなるこの笑顔。

この顔の魔力はすげぇ厄介。



「決まりっ勝負ねっ。行こうっ。居ない間に布団も引いてもらおうかな?」

返事もしてねぇのに靴を履きはじめる。

後ろ姿で浮かれているのが分かっちまう。

何歳になっても変わらないつくしの魅力の一つ。

もう39歳だっつーのに、家族旅行は子供たちよりはしゃぐ。

ふつうは親をウザがる年頃の高校生になった息子たちもつくしの姿に、自然と笑い旅行を楽しむ。

いつだって家族の中心はつくし。

「記念記念」と言い、自らカメラをもち写真を撮る。

変な銅像の前で何枚も撮る姿。

嬉しそうな顔を見るたび、またどこかに家族で旅行に行きたいと俺に思わせてくれる。



「・・・・わかったよ。負けた奴は旅行中、絶対服従な。」

ニヤリと笑う俺。

「なっなんでそうなるのよ。もうっ。じゃあ、あんたはスリッパで戦ってよ。まともにやったらあたしが負けるんだからっ」

急に焦り始める。

「はいはい、ハンデならいくらでも。なんなら、5対0からスタートすっか?」

「もうっバカにしてっ」

口をとがらせて怒るつくしに笑う俺。

頬を膨らませてそっぽ向くつくしに何歳だよっ。と突っ込みたくなる俺。

ホント見てて飽きないコイツの表情。

こいつと出会って満たされた感情の一つ一つが俺の人生を色鮮やかな物へと変え、幸せだと感じさせる。


「行くぞっ」


手を繋ぎ、卓球台に向かう俺たち。

「スリッパなら、回転はかけられないわよね。うん。勝てる勝てる。」

独り言を言うつくし、その自信はどこから来るのか。

簡単に俺から勝てるわけねぇだろ。



俺たちが熱海に来るのはこれで3回目。

1回目は、高校生の時。

2回目は、新婚旅行。

本当はつくしが行きたかったハワイの予定だったけど、俺たちは籍だけ先に入れた。

結婚式は6月のジューンブライド。

入籍と式の数か月の間に、長男を妊娠したつくし。

大事をとってハワイ旅行は出産して落ち着いてからってことで延期した。

つわりは軽い方だった。

温泉の独特の匂いを気にはしていたが折角の休みだからと言って熱海に旅行に来た俺たち。

ハネムーンって雰囲気でもなかったが、つくしとゆっくりと過ごすが出来た数日間。

ここなんかとは比べ物にならないくらいの高級旅館。

最上級のおもてなしだった。

つくしの頭には温泉=卓球

高級旅館にもなぜか卓球台はあった。

妊婦のくせに卓球をやりたいと言ったつくし。

気が気じゃない俺。

あの時はジャンケンでサーブ権が俺からだった。

だから回転のかかったサーブでつくしには1点も取らせず勝敗を決めた。

それ以来、卓球はやらなかったが、子供たちが大きくなり邸に卓球台を置いた。

子供たちと特訓するつくし。つくしが子供たちに勝つのは2割くらい。



そして俺たちが戦うのは久しぶり。


「司はスリッパね。」

この宿にもある卓球専用のスリッパ。

これを考えた奴はつくしみたいに貧乏だったのだろうか。

そんなことを考えながらスリッパを握る。

俺にこんな事をさせる奴は世界でたった一人。

それが心地いいと思う俺。

サーブ権は今回も俺から。

ジャンケンが弱いつくし。

だけど真剣な表情でいつも挑んでくる。

すげぇ負けず嫌いはあの時から変わらない。

回転が出来ない代わりに、高いバウンドでサーブする。

意地悪、卑怯者そんな言葉は聞こえない。

ハンデは宣言通り5対0でスタート。

もちろんつくしが5。

サーブ権が俺のまま、結局俺が勝っちまう。

ニヤつく俺と怒ってるつくし。

ったく、相変わらず勝気な奴。

何度勝負しても俺の勝ち。


「絶対服従だよな?」

呼吸を整えるつくしの手を握りニヤリと笑い、文句を言いそうな口を塞ぎ抱きかかえ部屋を目指す。




部屋に戻る最中、他の客とすれ違う。

恥ずかしそうに俺の腕の中にいるつくし。

「一緒に部屋の露天風呂入ろうぜ、奥さん。」

耳元でわざと唇が触れるか触れないかの距離で囁く。

観念したつくしは俺にしがみつき真っ赤な顔を隠していた。








***





露天風呂にゆっくりとつかる。

包み込むように後ろから抱き、俺の腕の中にすっぽり納まるつくし。

幸せな時間が流れる。

子供たちから貰った最高のプレゼント。


「動いたら、お腹空いたね。」

「俺は全然動いてねぇ。」

「それはあんたが卑怯だから。」

「卑怯は人聞き悪いぜ。作戦勝ちだ。」

「毎回余裕なのがムカつく。」

「俺に勝とうなんて100万年早いぜ。」

「いつか、勝ってやるんだから。」


色気もない他愛もない会話が心地いい。

景色が一望できる露天風呂。

海に沈む夕日が見える。

「綺麗な夕焼けだね。」

夕日に染まるつくしの顔が何だか妙に色っぽい。

「一緒に夕日を見るのは久しぶりだな。」

「そうだね。考えてみたら司と日の出見たことはないかも。」

「毎年、初日の出見ようって言っていつまでもグーグー寝てんのお前だろっ」

「なっそれは毎年あんたが遅くまで寝かせてくれないからでしょっ」

振り向いて真っ赤になって文句を言うつくし。

のぼせてんじゃなくて、思いだして真っ赤な顔をしている。

何回俺たちは抱き合ってんだよ。

子供も4人も居るつーの。

「今日も寝かせるつもりねぇけど。」

耳元で囁けばもっと真っ赤になる。

「もうっじゃあ、プレゼントあげないんだからねっ」

「お前とこうやって二人っきりで過ごせた時点でプレゼントはもうもらってんだよ。
それに絶対服従だろ?何にすっかなぁ。」

「何にって変な事じゃないでしょうね?」

ニヤリと笑い

「ナニはナニだろ?夫婦なんだから変じゃねぇし。」

「なっ」

文句を言う口を塞ぐ。

唇を離すと潤んだ瞳で見上げるつくしの顔。

風呂で赤くなっただけじゃねぇよな。

「夕飯前に体動かしてお腹空かせないと。だろ?」

夕日が完全に沈むころ、俺たちは既に準備された布団に温泉より熱いキスを繰り返して沈む。






もちろん、つくしが楽しみにしていた夕食は1時間遅れさせた。






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