時を超えて 4 完 by みやとも
2015 / 01 / 31 ( Sat ) 「うわぁ、おいしそうっ! お腹空いたぁ~!」
目の前に並べられたご馳走の数々につくしが感嘆の声を上げる。 その目にはハートマークが浮かんでいる。 「たっぷり運動したから腹も減るよなぁ?」 「・・・っ、もう! やめてよね!」 ニヤニヤとからかう俺にぶうっと頬を膨らませて怒りを露わにする。 お前はガキかよ。 とてもじゃねぇけど来年40になる女だとは思えねぇな。 ・・・そう。 目の前にいる女は何も変わらない。 出会った頃と何一つ。 見た目も、中身も。 ・・・いや、やっぱり変わった。 俺に愛されて、家族に愛されて、磨けば光る原石は美しい宝石へと変貌した。 だがそれは見た目云々の話ではない。 つくし自身が放つオーラがそうさせている。 笑顔と、慈愛と、自信に満ち溢れたつくしの姿は、会う人会う人の心を瞬時に鷲づかみにしてしまう。俺がそのことでどれだけ気を揉んできたかなんてこと、この女は微塵も気付いてはいないのだろう。 だがそれでいい。 それでこそ俺の愛した女だ。 魑魅魍魎(ちみもうりょう)とした世界で生きていかなければならない俺にとって、ずっと変わらずにいてくれる人間が傍にいることがどれだけ価値のあることなのか。 こいつに出会っていなければそれに気付くこともなかっただろう。 _____ 全てはつくしに出会えたから。 「ねぇ、食べないの? せっかくの料理が冷めちゃうよ?」 「あ? あぁ・・・食うよ」 「早く食べないとあたしがもらっちゃうからね」 「クッ・・・じゃあ食った分だけまた運動しねぇとなぁ?」 「なっ・・・もう! なんですぐにそっちの方に話を持っていくのよ!」 何を今さら真っ赤になってんだか。 ついさっきまであんなに乱れてたくせに。なんだかんだ言いながらお前も乗り気だったじゃねぇか。 ・・・って、いつまでたってもからかうことをやめられない俺も大概ガキだな。 「失礼致します。 お子様からお預かりしたものをお持ち致しました」 「えっ・・・?」 スーッと開いた襖から女将がお盆にケーキを乗せて入って来た。 「こちらはお子様達からのプレゼントです」 「わぁっ・・・! 凄いね、司!」 「あいつら・・・」 ホールケーキの上部には40thの文字と太いろうそくが4本。 そしてど真ん中に鎮座するのは誰が見ても俺とつくしだとわかる顔が2つ。 満面の笑みを浮かべるつくしに、特徴的な髪型で不敵な笑みを浮かべる俺。 ・・・あいつら、よく特徴を掴んでやがるじゃねぇか。 「本当に素敵なお子様達ですね。こちらのケーキともう一つ。実はカメラをお預かりしてるんです」 「カメラ・・・ですか?」 「はい。こちらです」 そう言うと女将は胸元に忍ばせていたデジタルカメラを取り出した。 あれは確か・・・いつかの誕生日に長男に買ってやったもののはずだ。 もっと新しいものが出ているからそっちに変えてやろうかと何度か言ったが、これがいいんだと言ってずっと大切に使い続けている。 「今日の良き日を記念に撮ってあげてくださいだそうです。残念ながら自分はその場にいられないから、こちらにお二人の姿を写真に収めて欲しいとのお願いがありました」 「そうだったんですか・・・」 感慨深そうに呟いたつくしの瞳は潤んでいた。 「では撮らせていただいてもよろしいですか?」 「もちろんです。司、撮ってもらおう?」 「・・・・・・あぁ」 2人でテーブルの中央に移動すると、全体が映るようにつくしがケーキを斜めに持ってニコッと笑った。そんなつくしを見ていたら自然と俺まで笑顔になる。 カシャッ そのほんの一瞬を女将は逃さなかった。 おそらく一番のシャッターチャンスだったに違いない。 「素敵なお写真が撮れましたよ。お子様もお喜びになると思います。ではケーキはどうなさいますか?今食べられますか?」 「あ・・・じゃあ主人のだけはほんの少しにしてもらっていいですか? 甘いものは苦手で」 「あら、そうなんですね。くすくす、でも少し食べられるんですね。優しいお父様で」 「だって。良かったね、司」 「うるせー」 苦虫を噛み潰したような俺を見てつくしと女将が顔を見合わせてくすくす肩を揺らす。 仕方ねぇだろうが。昔っから甘いもんは苦手なんだよ。 かと言って子どもの気持ちを踏みにじるほどの冷酷な人間ではとっくになくなっていた。 目の前に一口サイズにカットされたケーキが置かれる。 つくしの前のものは特大だ。 デカすぎだろ! まだそんなに食えんのかよ。 「それでは残りはケースに入れてお帰りの時にお渡し致しますね」 「ありがとうございます。そうしていただけると嬉しいです。帰ったら子ども達にも見せて一緒に食べたいと思います」 「かしこまりました。ではごゆっくりどうぞ」 つくしの言葉に嬉しそうに頷くと、女将は再びケーキを持って部屋を出て行った。 「おいしいね。 幸せだね」 目の前のケーキをパクパクと口にしながらつくしは涙を流している。 「・・・甘ぇ」 「とかなんとか言っちゃって。ほんとは嬉しいくせに」 一口口にして顔をしかめる俺につくしが泣き笑いする。 喜んでるのはお前の方だろが。 ・・・・・・なんて、俺もまんざらじゃない。 そんなことは口にしなくともこいつにはお見通しなんだろう。 愛する妻に愛する子ども達。 ・・・俺には一生無縁だと思っていた愛の形がここにある。 はっきりと言える。 俺は幸せ者だと。 *** 「あっという間に夜も終わっちゃうね」 食事も終わり、後は寝るだけの状態で2人窓際の椅子に腰掛けながら外の景色を眺める。 「俺たちの夜はまだまだこれからが本番だけどな」 「もうっ! またそういうことばっかり・・・」 「お前だって期待してるくせに。40代になろうと俺は現役バリバリだから心配すんな」 「心配なんかしてませんっ! むしろ少し衰えたって構わないから!」 「ははっ」 「・・・司、これ」 「ん? ・・・なんだよ?」 差し出されたのはアルバムのような冊子。 ・・・というかアルバムだ。 「あたしからの誕生日プレゼント。40歳っていう節目の誕生日だし、何にしようかずーーーっと考えてた。 考えて、考えて、考えて・・・結局これになっちゃった」 「なんでアルバムなんだ?」 パラパラと捲っていくと中は空っぽだ。 「これまで色んなプレゼントあげてきたでしょう? それに、司って意外と物欲ないから。だから何をあげたらいいんだろうってずっと前から考えてたんだ」 「・・・で?」 「それで、これからの未来を贈りたいなって思って」 「未来?」 「そう」 首を傾げる俺につくしは笑って頷く。 「今そこにはまだ何も入ってないでしょう? そこにあたしたちの未来を一つずつ入れていくの。最初の一枚はもう決まりね。さっき撮ってもらったから。そうして節目節目にあたしたちの家族像をそこに綴っていって、シワシワのお爺ちゃんお婆ちゃんになった時に一緒にみようよ」 「・・・・・・」 「これまで撮ってきた思い出ももちろん同じだよ? あたしからのプレゼントは、ずーーっと変わらない司との未来」 「つくし・・・」 「って、へへ、なんかあらためて言うと恥ずかしいね?」 ポリポリと赤くなった頬を掻きながらつくしが照れ笑いを浮かべる。 そんなつくしの腕を引いて自分の中に閉じ込めると、驚いたつくしの顎を引いて上を向かせた。 「お前はいつまでたってもすげぇ女だな」 「え・・・? 何が・・・?」 「わからねぇならいい。俺だけがわかってりゃいいんだから」 「? ? ? 」 顔中に?マークを貼り付けた顔に笑うと、尚も不思議そうにしているつくしの唇を塞いだ。 何の抵抗もなくすぐに自分の首に回された細い手に俺たちのこれまでの歴史を感じる。 恥ずかしがり屋のこいつがこうやって素直な自分を見せるようになって、 写真が大嫌いだった俺が素直に撮られることを許すようになって、 ・・・そうして、今この瞬間も新たな思い出が作られているのだろう。 それはこれからも変わることなく、永遠に_______ 旅を終えた俺たちを邸では子ども達が首を長くして待っていた。 つくしが持ち帰ったケーキをおいしいおいしいと、口の周りに大量のクリームをつけて食べながらあいつらは嬉しそうに笑っていた。 カメラが返ってきた長男は、中に収められた写真を見て幸せそうに微笑んでいた。 現像された写真をつくしの宣言通りあのアルバムの最初のページに飾った。 ・・・・・・・・・・そして。 そこから少し進んだページに、新たな小さな家族と共に写された思い出が刻まれるのは・・・ もう少しだけ未来の話だ。
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by: * 2015/01/31 19:06 * [ 編集 ] | page top
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みやとも様、うさぎ様、素敵なお話ありがとうございました。 結婚して15年以上が経ち、子供からのお小遣いを工面してのバースデイプレゼント。 決して豪華ではないが、露天風呂があるお部屋での一泊旅行。 とても気持ちのこもったプレゼント。 そして何よりつくしが一緒。 ここが大切(笑) つくしと知り合うまでは、自分にこんな幸せが訪れるなんて思ってもいなかった。 決して忘れることができない40歳のバースデイ。 司、お誕生日おめでとう♡ --管理人のみ閲覧できます--
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はじめまして!読み逃げ大歓迎ですよ~(*^^*) また読み返してもらえるとのお言葉、書き手にとって一番嬉しい褒め言葉です。 これからも少しでも楽しんでいただけるように頑張りますので よろしくお願いしますね(*´∀`*) --雅様<拍手コメントお礼>--
お気に召していただけたようで何よりです。 さらに未来のお話ですか? きっとしわくちゃになっても憎まれ口を叩き合ってるんでしょうね(笑) 読み専でも大歓迎ですよ~(*´∀`*) --みわちゃん様--
最後の一言がもの凄くしっくりきました。 そうですよね、どんな贈り物だって嬉しいけれど、 それは全てつくしがいてこそですよね。 もっと言えばつくしさえいればあとはなんでもいいみたいな(笑) 幸せそうな中年司が書けて私も楽しかったです(*^^*) --ち※※ち様--
何度も読み直してくださったなんて嬉しいです。 ありがとうございます(*^^*) 人って自分を変えてくれる人に出会えればいつでも変われるんですね。 大好きなうさぎ様とのコラボは私にとっても幸せな時間でした。 また機会があれば皆さんにお届けできたらいいなと思っています。 --名無し様<拍手コメントお礼>--
楽しんでいただけたようでこちらも嬉しいです^^ --ke※※ki様--
未来の坊ちゃんはとても幸せに暮らしていたようです。 書いている方も幸せ気分に浸れました(*^^*) そして言われてみれば1月31日って愛妻の日ですね。 おぉ~!坊ちゃんの誕生日とリンクしているなんてなんだか素敵( ´艸`) 偶然だとしてもいいですね~。 そうそう、熱海のコウノトリさんが降臨したようです(笑) 坊ちゃんは何歳まで現役かな~( ̄∇ ̄) うさぎ様とのコラボは私にとっても楽しい時間でした。 また機会があれば是非!! --こ※様--
コラボ企画、楽しんでいただけたようで何よりです(*^^*) えぇえぇ、坊ちゃんはいくつになっても現役バリバリですよ~。 多分棺桶に片足突っ込もうともつくし相手ならいけるんじゃないですかね( ̄∇ ̄) そしてあっちの世界でも追いかけ回すというね(笑) --V※※i様<拍手コメントお礼>--
は~い、そうなんです。 40代一発目でしっかり仕込まれたようです( ̄∇ ̄) 坊ちゃんならよぼよぼ爺になってもいけそうな気がするんですよね(笑) --管理人のみ閲覧できます--
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楽しんでいただけたようでこちらも嬉しいです! コ※様の仰るとおりで、不遇な幼少期の分の寂しさを取り戻すかのように 今の坊ちゃんは幸せに満ち溢れています(*^^*) そしてきっと彼はヨボ爺になっても現役バリバリなんだと思いますよ~。 もちろんつくし限定で(笑) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ふ※※ろば様--
コラボ作品、どちらも楽しんでいただけたようで嬉しいです(*^^*) 私もとっても楽しかったです! ふふふ、つくしママ、40を目前におめでたでございます。 まぁ、まぁね。これくらいは今の時代珍しくはないですからね。 夫が絶倫とくりゃあそれは大いにあり得るかなと。 そして50代で身籠もる・・・いや、なきにしもあらずかと( ̄∇ ̄) いざとなれば帝王切開できますし金は捨てるほどありますからね。 そしてなんてったって絶倫王がいますから(笑) ふふふ、NY編も終わりになりますがその後の新婚編はどうしましょうね? どんな波乱を起こすか必死で考えてます~(≧∀≦) |
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