足し算の法則 前編
2015 / 01 / 09 ( Fri ) 「どうしたんですか? 何だか元気ないですね」
「えっ・・・そ、そう? そんなことないよ?」 「・・・相変わらず嘘がつけない人ですよね、あなたって人は」 呆れたような口調の桜子につくしはそれ以上反論できなくなってしまう。 久しぶりに会ったというのにずっと心あらずの状態でいられれば桜子でなくとも様子がおかしいことに気付くに決まっている。 「それで? 今度は何があったんですか?」 「今度はって・・・そんな、人を問題児みたいに言わないでよ」 「あら、違うんですか?」 「あんたね・・・・・・まぁいいわよ。・・・実は、さ」 そこで一度言葉を切ると、つくしは何故かキョロキョロと周囲を見渡して挙動不審な行動をし始めた。そしてひとしきり見終わると、桜子に手招きして顔を近づけろと合図する。桜子も意味がわからないが、つくしがここまでするにはそれなりの理由があるのだろうと素直に指示に従って顔を近づけていく。 つくしも顔を寄せると口元を手で隠しながらひそひそと話し始めた。 「ここのところ乗り気じゃなくて・・・さ」 「は?」 「ほら、夜の、いわゆる・・・わかるでしょ?」 そこまで聞いただけで桜子の中でははぁ~と大まかな筋書きが成立した。 夫婦生活に乗り気じゃないつくしとやる気満々の司。 男と違って女にはバイオリズムというものがあって、つくしの言う通りなんとなくその気になれない時があるのが事実だ。だがつくしのことだからそれを上手く司に伝えることができないのだろう。 そして司は司でその辺りの女性心理というものをよくわかっていない。 何故ならどちらもお互いしか知らないのだから。 司からしてみれば自分を拒絶されたような気がして、おそらくそれが原因で口論にでもなったのだろう。 「それで喧嘩しちゃったんですね」 「えっ! まだ何も言ってないけど?!」 「先輩達ならその一つの情報だけでどうなるかくらい容易に想像つきますよ」 そんなにわかりやすいのだろうかとつくしが驚きながらも何とも微妙な顔になる。 「それで? 道明寺さん怒っちゃったんですか?」 「怒ったっていうか・・・拗ねたって言った方が正しいのかな」 「はぁ~、なんですかそれ、ある意味ノロケですよ」 「えぇっ?! のろけてなんかないから! もうこっちは面倒くさいったらありゃしない。毎日毎日獣みたいに求められても体がもたないっつーの! たまにはそんな気分になれない時があったって仕方ないじゃん!」 「・・・先輩、声大きい」 「はっ!!」 口に手を当てたときは時既に遅し。 周囲を見渡せば同じカフェにいた客の視線がチラチラと自分に突き刺さっていた。 あぁ、やってしまった。 「道明寺さんはどうしてるんですか?」 「それが・・・昨日から大阪に行っちゃってて。連絡もしてこないの、あの野郎! ったく、あれくらいのことでそういう態度に出るならこっちにだって考えがあるってのよ!」 「とか言いつつこうして私を呼び出して悶々としてるわけですね」 「うっ・・・!!」 思いっきり図星だったのだろう。 つくしは言葉に詰まってしまった。 桜子はそんなつくしに苦笑いだ。 「全く・・・相変わらず素直じゃないですね。どうせ売り言葉に買い言葉で可愛くないこと言っちゃったんでしょう? 道明寺さんだってちゃんと話せばわかってくれますよ。先輩の嫌がることを無理強いするような人じゃないでしょう?」 「う・・・」 「だったら素直に言えばいいじゃないですか。大丈夫ですよ。道明寺さんだってどうしようかって思ってますから。先に素直になった者勝ちですよ。その方がこの後の主導権を握れますから」 「主導権って・・・あはは、確かにそうかもね」 「先輩、男女の仲は駆け引きが大事ですよ。足し算と引き算を上手に使い分けるんです。押すときは押して、引くときは引く。それが上手な嫁は旦那の操縦も上手くなるらしいですよ」 「あはは、何それっ」 桜子の言葉に頑なになっていた気持ちがなんだか楽になった気がする。 ・・・そうだよ。難しく考えなくたっていいんだ。素直にごめんねって言えばいいだけ。 きっとあいつだって言い過ぎたって後悔してるに違いないんだから。 「・・・ありがと。なんか気が楽になってきたよ。今日帰ったら電話する」 「そうそう、素直が一番、ですよ。帰って来たらいっぱい可愛がってもらってくださいね」 「あはは、可愛がってもらうって。あんたが言うとなんかやらしくなるわ」 「まぁ、失礼な」 「ふふっ、あ、ちょっとお手洗い行ってきてもいい?」 「どうぞ、ごゆっくり」 緊張が解けた途端体中が緩んでしまった気がする。 つくしはガタンと立ち上がるとお手洗いを目指した。 その時。 スーーーーーーーーっと。 急に立ちくらみがしたような気がして、なんだか目の前がグラリと揺れたような気がして。 「先輩っ!!!」 ガタガタンッ!! _______桜子の言葉を最後に意識が途絶えた。 *** 「随分ご機嫌斜めのようですね」 「あぁ? 誰がだよ!」 あなた以外に誰がいるのかこちらが教えていただきたい、という言葉は呑み込んで西田はやれやれと書類を渡す。乱暴にそれを奪い取ると、司は不機嫌を隠しもせずに目を通し始めた。 「何があったか知りませんが仕事には支障を出さないでくださいね」 「んだと?」 「いえ、それでは失礼致します」 しれっと頭を下げるとそれ以上の追及から逃げるように西田はさっさと出て行ってしまった。 西田のいなくなったドアに向かって持っていたペンをガツンと投げつけると、細いペンがコロコロと虚しく転がっていく。 「・・・くそっ!」 やり場のないイライラに司はガシガシと自分の髪を掻きむしった。 ことの始まりは一週間ほど前に遡る。 このところどこかつくしがおかしい。 どこがと言われても難しいが、いつもと何となく違う。それは感じていた。 それが一番顕著に表れていたのが夜の生活だ。 結婚してから三ヶ月、つくしの体調が悪いとき以外はほとんど毎日のようにつくしを求めていた。 口ではなんだかんだ言いつつも、つくしもまんざらではなさそうなのは間違いなかった。 実際体は全く拒絶などしていなかったのだから。 それがここ一週間明らかに拒絶されている。体調が悪い・・・というわけでもなさそうだ。 それなのに、夜にベッドに入るとそれとなくそういうことを避けようと必死になっている。 なんだかんだわけのわからない理由をつけては抱かれるのを拒んでいるのだ。 最初の2、3日こそまぁそんな時もあるのだろうと聞き入れていたが、さすがにこうも続くと心も体も不満が溜まってきた。理由を聞いても相変わらずなんともはっきりしない言葉を並べるばかりでさっぱりわからない。 そしてついに一昨日大喧嘩になってしまった。 まさに売り言葉に買い言葉。本筋とは関係ないところまで飛び火して互いに言いたい放題。 翌日になってもイライラは収まらず、会話もすることなく大阪へと飛んだ。 つくしから折れてくるまでは今回は連絡しないと決めているが、相手は意地っ張りの代表格。 うんともすんとも連絡して来ない。それが原因でイライラは募るばかり。 鳴らない携帯を見て溜め息をつくのはこれで何千回目だろうか。 「あの野郎、いつになったら連絡して来やがる・・・」 今回ばかりは俺は悪くねぇ。 こっちは何度も譲歩してたってのにあの女がわけのわからないことばっか言って誤魔化しやがるから。 ・・・だから絶対に俺は悪くねぇ!! そう思うのに胸のもやもやは晴れない。 最後に見たあいつの悲しそうな顔が頭から離れない・・・ 「あーーーー、くそっ!!」 ガンッ! と拳でデスクを叩きつけるのと同時にドアからノック音がした。 だが司が返事をする前には扉は既に開いていた。普段なら考えられないことに眉間に皺を寄せた司の視界に慌てた様子の西田が入ってくる。 何があっても取り乱すことのない西田のその様子に、瞬時に妙な胸騒ぎが司を襲った。 「おい、にし・・・」 「つくし様が倒れられて病院に搬送されたとの連絡が入りました」 「なっ・・・・・・?!」 ガタンッ!! 信じられない言葉に凄まじい勢いで立ち上がるとその勢いで椅子が派手な音をたてて転がった。 そんなことには構わず血相を変えて西田の元へ駆け寄ると、胸ぐらを掴んで問い詰める。 「倒れたってどういうことだよっ?! あいつは? 一体何があったっ!!」 「それはまだわかりませんっ・・・三条様と一緒にいたらしいんですが、急に倒れられたとかで。病院に向かう途中に三条様が急いで連絡をくださったようです。ですので詳しいことはまだっ・・・!」 ギリギリと締め上げる力に耐えながら西田も必死で言葉を紡ぐ。 バッと突き飛ばすような形でその手を離した司の顔は真っ青だった。 「ヘリを飛ばせ」 「は・・・」 「今すぐ手配しろっ!」 「ですがこの後には藤田社長との会食が・・・」 「そんなん後でいくらでもフォローする! とにかく今はヘリを用意しろっ!!」 「・・・わかりました。すぐに手配致しますのでお待ちください」 普通なら副社長ともあるものがドタキャンなどあり得ない。 西田も普通であればまずそんなことは許さない。 だがこの時ばかりはすんなりと頷いていた。 相手が日頃から懇意にしている藤田社長だから話が通じるということもあったかもしれないが、それを抜きにしても今すべきことは司の言う通りだと思えた。 ドクンドクンドクン・・・・・・ 急いで西田が部屋を出て行くと、急激に司の心拍数が上がっていく。 ここまで動揺したのはおそらく人生で初めてだろう。 倒れた・・・? 誰が・・・? ドクンドクンドクン・・・・・・ ふと自分の手のひらが小刻みに震えているのに気付く。 震える・・・? この俺が・・・? ・・・・・・・・しっかりしろ!! 「司様、最短で今から30分後に飛び立つことが可能だそうです」 戻って来た西田の声にハッと我に返る。 震えていた手をギュッと握りしめると、西田のいる方へと振り返った。 「すぐに帰るぞ」 「かしこまりました」 西田が頭を下げたときにはもう既に司の体は部屋から出て行っていた。 その心はとうにつくしの元へと飛んでいたに違いない。 ![]() ![]()
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つくしは、もしかしてオメデタですかね? 自分でもそれは知らずに、なんとなく拒否っていたと‥‥。 からだの神秘ですかね。 それが上手に言い訳できるわけじゃなく、結局喧嘩してしまった。 さすがの司も最初は、我慢してあげたが、のらりくらりと逃げられて、爆発したと‥‥。 それがつくしが倒れて病院に向かってると聞いてからは、仕事は頭から飛んでしまい、もうつくしのことしか考えられないなんて、さすが司。 足し算の法則ですか‥‥続きが楽しみです。
by: みわちゃん * 2015/01/09 01:09 * URL [ 編集 ] | page top
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うふふ~、えへへ~、おほほ~ ( ̄∇ ̄) ← さぁ、どうなんでしょうか?!(笑) --こ※子様<拍手コメントお礼>--
さすが皆様鋭いですね!(笑) 言われてみれば色々な形の二次があれど、 つくしのお相手は皆絶倫ばかりですね ( ̄∇ ̄)イヤーン 恋愛下手なつくしなのに、相手が底なしばかりとはこれいかに! あちこちのサイト様を思い浮かべてはどれもこれも当てはまっているので、 あらためて考えるともう笑いが止まりません( ´艸`)ムフフー --みわちゃん様--
女なのに気付かないってそんなバカな~! と思いつつ、つくしならあり得そうと思わせるところが凄い(笑) 体の神秘って本当にありますよね~。 特に女性はそうですよね。 タイトル気になりますか? いつものことですが期待はしちゃいけませんよ?!(笑) --ふ※※ろば様--
もしかして・・・? むふふ、どうなんでしょうか( ´艸`) 普通は気付くだろって思うんですけどね、そこはほら、つくしですから(笑) というか後半のいつもの劇場に大笑いさせてもらいました。 いやぁ~、相変わらずアイデアが素晴らしい! 勉強になります。 押忍!! --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
ちょっとちょっと~~!! 相変わらず妄想が暴走してますからぁ~~! あー、びっくりした(笑) あはは、旦那さん妊娠中は切実だったんですね。 でも週刊誌で我慢してるところが可愛い~( ´艸`) うちの旦那はその辺り結構平気な人みたいで、 何の面白エピソードもありません( ̄∇ ̄) --ke※※ki様--
はい。やっぱりたまには短編も入れたいな~と思いまして^^ ふふふ、なんとな~く、ですよね。やっぱり(笑) 秘書シリーズとはまた別に楽しんでいただけたら嬉しいです。 男はね・・・大概役に立たないですよね、そういう時。 うちの父なんかもまさにそうです。 外面はすっごくいいんですけどね。家のことになるとまー役に立たない! 司はどうなんでしょうね~? 介護してる姿なんて想像つかない(笑)けど、案外協力しそうな気もしますね。 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --コ※様--
どっちもそういうことに関しては鈍そうですからね~。 反応はどんなでしょうか? もうネタ明かしがされていますが予想と同じでしたか?(*^o^*) |
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