明日への一歩 19
2015 / 01 / 24 ( Sat ) 「左足は軽い捻挫ですね。酷くはありませんが以前大怪我をされた場所のようですから、軽いと甘く見て無理はされないでくださいね」
「はい」 「それから頬の傷ですが、大丈夫。跡が残るようなものじゃありませんよ」 その言葉に誰よりもほっと胸を撫で下ろしたのは他でもない司だ。 思わず安堵の息が漏れる。 「ありがとうございました」 「いえ、お大事にどうぞ」 丁寧に頭を下げたつくしにニッコリ微笑むと、一言二言だけ司に必要なことを告げて女医は部屋を後にした。その医師と入れ替わるような形で司がつくしの目の前へとやって来る。 「あ、あの・・・ほんとにごめんね?」 ギシッと音を立ててベッドに腰掛けた司にもう何度目かわからない謝罪の言葉を口にする。 司の視線の先には包帯を巻かれた左足がある。 最上階まで辿り着くと、司は脇目も振らずに副社長室へと戻っていった。 そしてさらにそこを通過して最終的にやって来たのは仮眠室。 つくしをベッドにゆっくり降ろすと、SPか誰かに連絡を受けていたのだろうか、すぐに女医が駆けつけた。 つくしの受けた怪我は主に3つ。 平手打ちされた両頬の赤み。女の力とはいえ少し腫れている。 ナイフが掠めたことによる頬の切り傷。 そして思いっきり引っ張られた反動での左足首の捻挫だ。 「お前・・・頼むからもっと自分を大事にしてくれよ」 ふわっと頬を撫でる手がとてつもなく優しい。 どの怪我も軽く大したことはない。 だがそれはあくまでも結果論に過ぎない。 一歩間違えれば大惨事になってきた可能性だって否定はできないのだから。 あの時のケイトリンの狂った目を思い出すと今頃になってゾッと背中が冷たくなるのを感じる。 「ほんとにごめんなさい・・・。警戒はしてたんだけど、まさか仕事中にあんな大胆な行動に出るなんて夢にも思わなくて・・・」 「・・・・・・」 司は厳しい表情で無言のまま視線を動かすと、包帯の巻かれた左足に触れる。 そのまま優しく足首を掴むと自分の顔の高さまで持ち上げ、包帯の上からそっとキスを落とした。 「あ・・・」 視線は真っ直ぐつくしを射貫いたまま、羽に触れるように優しく繰り返されるそれは妙に扇情的で、つくしの心臓がざわざわと落ち着かなくなっていく。 「あ、あの! パンツが見えちゃうから!」 スカートを履いた状態で足を上げられてはほぼ丸見えに違いない。しかも司は真っ正面にいる。 慌ててスカートを押さえるように手を出した瞬間、司は足首を掴んだままグイッと膝を折り曲げた。 「ぎゃあっ?!! ちょ、ちょっとぉ?! 何すんのよ!」 膝まで曲げられてスカートが思いっきり捲れ上がる。これでは丸見えどころの話ではない。 「うるせぇよ。散々人に心配かけてんだ。ガタガタ文句言うんじゃねぇ」 「えっ・・・ひぃっ?!」 チュ・・・と音を立てて内膝にキスを落としたかと思えば、次の瞬間にはざらりとした生温かいものがそこを這っていた。途端につくしの全身がゾクゾクと粟立っていく。 「ちょっ・・・司?! まっ、待って!!」 「待たねー」 ツツーーーッと舌を這わせてなぞっているのはあの時の傷跡だ。 司が傷跡をこうして愛撫するのはよくあることだが、今は仕事中だ。 しかも場所が場所だけに何とも背徳的な気分が湧き上がってきてしまう。 つくしの抵抗など聞く耳を持たず、司は丹念にそこを舐めあげていく。その一つ一つの動きが愛を伝えているようで、徐々につくしの体から抵抗する術を奪っていく。 「あっ・・・?! うそっ、やだっ! それは待って!」 「待たねーっつってんだろ。心配かけたおしおきだ」 「うそうそうそっ?! 駄目だって!! あっ・・・!」 司の行為は次第にエスカレートしていき、内膝に終始していた愛撫が徐々にその場所を変えていく。膝上、太股、内股、片足を掴まれた状態では抵抗しようにも思うように体に力が入らない。 ・・・いや、そもそも本当に抵抗する気があるのだろうか。 その証拠に、口では何だかんだ言いながらもつくしの体からは力が抜けていく一方なのだから。 そんなつくしが可愛くて、司はニヤッと笑うと太股の付け根の方に舌を這わせそのままジュッときつく吸い付いた。 「・・・っ!」 瞬間痛みが走ったのか、つくしの顔が歪んだ。唇を離したところに咲いた赤い花に司が満足そうに笑いながら舌舐めずりをしていく。 このフェロモンが出ているときは危険指数が相当高い時だ。 「副社長、そろそろいいですか」 「・・・えっ?!!」 ドガッ!! 「いってええええええええええ!!!! おまっ、何しやがるっ!!!」 「ひぇっ、ごっ、ごめっ・・・! で、でも! だってっ!!」 驚いたつくしの蹴りを顎にまともに喰らった司が痛みに悶絶する。 あわわと慌てながらもつくしの視線は右往左往しまくっている。 それもそのはず、誰もいないと思っていた室内に普通に人が立っていたのだから。 「に、に、に、にににににににしにしにしださん、いつからそこにっ・・・?!」 「2、3分ほど前でしょうか。一応ノックはしたのですが反応がありませんでしたので失礼させていただきました。お取り込み中と判断してしばらく待っていたのですがこれ以上は今は困りますのでね」 顔色一つ変えずにさも平然と答えられていく内容につくしはふーっと目眩がする。 見られていた。 全部見られていた。 「お前、取り込み中だってわかってんなら邪魔すんじゃねーよ」 「そうしたいところは山々ですが今はまだやらなければならないことがありますので。今ここでおっぱじめられても困るのです」 「チッ・・・」 この男達は真顔で一体何を言っているというのだろうか。 つくしはいっそのこと今気を失えたらどれだけいいだろうかと神に祈る。 「ケイトリン・アンダーソンはどうされますか?」 「あの女か・・・」 「処分は当然ですが身内の犯行ですからね。私にも責任がないとは言えません」 その言葉につくしがハッとする。 「西田さん・・・? 西田さんは何も悪くないですよ!!」 「いえ、私が秘書課を束ねている以上部下の引き起こした責任の一端は私にあります。牧野様、あなたに危険が及ぶようなことになってしまい申し訳ありませんでした」 あの鉄の男がつくしに頭を下げている。つくしはそんな西田の姿を見て激しく狼狽える。 「そんな・・・! ねぇ司! 今回のことはあたしの不注意も原因なの。西田さんは何も責任取る必要なんてない!」 「・・・・・・」 司の袖を掴んで必死で訴えるが司は否とも応とも答えない。 「司っ!」 「・・・まずは何であんなことになったのかを説明しろ」 「えっ?」 「どっちにしてもあの女には何かしらの処分が必要だ。実際お前に怪我をさせてるわけだからな。西田のことはその後だ。だから何があったのか包み隠さず話せ。・・・これまであったことも全て」 これまで・・・きっと嫌がらせされていたことも全てお見通しだったのだろう。 つくしはこの期に及んで隠す理由もないと判断し、全てを話す覚悟を決めた。 「・・・あのパーティに同伴してからロッカーの中にちょっかい出されるようになったの」 「どんなことだ?」 「衣類の一部が濡れてたり、ストッキングが破れてたり・・・あとは時々ゴミが入ってた。司に話そうかとも思った。でもやってることがあまりにも幼稚でくだらなかったから、こんなことで司が出るまでもないって思ってたの。実際あたしにとっては取るに足らないことだったし」 修羅場に慣れすぎている自分に苦笑する。 「でも結果的にあたしが何の反応を示さなかったことが相手をつけ上がらせちゃったみたいだね・・・」 それならどうするのが正解だったというのだろうか。 上司で婚約者でもある司に話して解決してもらう? やはりそれは間違ったアプローチだとしか思えない。 完全に公私混同だ。 「本社で重役秘書をするほどの人がまさか白昼堂々あんな行動にでるなんて思いもしなかったから・・・。それに、能見さんだって近くにいるっていう安心感から完全に油断してた。ほんとにごめんなさい」 黙って言葉を聞いている司に頭を下げた。 「・・・お前のせいじゃないだろ」 「えっ?」 「どう考えたって勝手に嫉妬してお前を攻撃する奴が悪ぃに決まってる。あの女がやったことに対してお前が謝る必要なんか微塵もねぇ」 「でも・・・」 「ただし。俺にちゃんと報告しておかなかったことはまた別問題だ。あれだけどんな小さなことでもいいからちゃんと話せっつってただろうが!」 「う・・・・・ごめんなひゃい・・」 びよーんと頬を伸ばされてなんとも間抜けな声しか出せない。 怪我のことを考えて実際のところその手にほとんど力は入っていないが、司の目は真剣だ。 「いいか。俺と生涯を共にしていく以上、こういったことは一生付きまとう問題だ。お前がどうこうの問題じゃねぇ。むしろ俺の問題だ。だから大小にかかわらずちゃんと話せと言ったんだ。わかるか?」 「・・・うん」 「お前がああいうくだらねぇ争いなんか眼中にねぇことも、いちいち相手するまでもないってこともわかってる。それでもお前の問題は俺の問題でもある。お前にそういう宿命を背負わせてる以上、俺はどんな小さなことでもちゃんと把握しておきてぇんだ」 「・・・うん」 決して感情的にではなく、一つ一つ言葉を選びながら伝えられるその言葉がつくしの心にズシンと響く。これまで、自分の問題は自分で解決する、そのことにこだわり過ぎていたことにあらためて気付かされた。 事実を伝えることと問題の解決はまた別問題だ。 司は自分が出てどうこうすることよりも、つくしが自分に打ち明けてくれるのか、そこを重視していたに違いないのだ。 それなのに・・・ 「ほんとにごめんなさい・・・」 つくしが目に見えてシュンと萎れていく。 「お前が逞しい女ってのも重々わかってる。この俺を足蹴にできるのはこの世にお前ただ一人しかいねぇんだからな」 「ちょっとぉっ?!」 ガバッと顔を上げて反論しかけたつくしの両頬を挟み込んで司は言葉を続ける。 「それでも自分が女だってことを忘れんな。たとえお前に一生消えない傷が残ろうとも障害が残ろうとも、俺のお前に対する気持ちが揺らぐことは1ミリだってあり得ねぇ。けどな、だからといってお前が傷つけられるのは絶対に許せねぇし許さねぇ」 「司・・・」 「当然だろ? お前が何と言おうと俺はお前を守るし、そのために必要なことならどんなことだって把握しておくつもりだ。これだけは何があっても譲る気はねぇぞ。わかったか?」 「・・・・・・うん」 何一つ反論できなかった。 司の想いがストレートにつくしの心をぶち抜いて、考えるよりも先に頷いている自分がいた。 やがて端正な顔が近付いてくる気配を感じる。見ればすぐ目の前までその顔が迫っていた。 ・・・けれどそれを拒む理由など何もない。 何も・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ひ、ひええええぇええええええっ!!!!!」 ドンッ!! 「おわっ?!」 ドサドサッ!!! 「あぁっ?! ご、ごごごごごめんっ!! 大丈夫っ?!」 「ってぇ~~! 大丈夫なわけあるかっ! てめぇ一度ならず二度までも何しやがるっ!!」 あと少しで唇が触れるというその時、つくしが思いっきり司を突き飛ばした。 完全に力の抜けていた司の体は後ろに転がり、勢い余ってベッドから落下してしまった。 司にこんな目に遭わせられるのは宇宙を探してもつくし以外にいまい。 「ごっごめんっ!! でも、だってっ、西田さんがっ・・・!!」 「あ゛ぁっ?!」 体を起こしながら司が視線を上げると、ベッドからほどない距離のところで西田がじーーっと表情を変えずにことの一部始終を見ていた。 「・・・・・・そろそろよろしいですか?」 「てめぇ、少しは気ぃ使え」 「そうして差し上げたいのは山々ですがね、今雰囲気を作られては止まらなくなるのは必至ですからね。こちらとしてもそれだけは困るのですよ」 鉄仮面の口から出される爆弾発言に再びつくしの気が遠のいていく。 「チッ・・・ったく! 仕方ねぇな」 「それで処分も含めてどうされますか?」 「・・・ババァはいつ戻ってくる?」 「社長でしたら明日の午前中には帰社される予定です」 そのまましばらくじっと何かを考えると、司は何か閃いたように顔を上げた。 「明日だな。ババァも含めて処分を決める。どっちにしろ報告しなきゃなんねーからな」 「ケイトリンはそれまでの間どうされる予定で?」 「メープルにでも押し込んでおけ。処分が決まるまでは監視下に置いておく」 「かしこまりました」 「ね、ねぇっ! お義母さんも一緒にって・・・どうするつもりなの?」 2人のやり取りを聞いていたつくしがおもむろに口を挟むと、司はニッと不敵に微笑んだ。 「決まってんだろ。もうこんな茶番は終わりだ。お前との関係を公にすることを認めさせる」
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いやいや~顔の傷も痕が残らないようで良かった~。 頬が腫れるほどって、ケイトリン、力ありすぎ。 左足もまたややこしいことにならなくて良かった~。 それでも司は怒りMaxだろうし、心をひどく痛めてるだろうし・・・。 婚約を公にしても、結婚しても、司と共にいるということは、そういうこともあり得るということ。 つくしは、やっと理解できたよね。 そしてお約束事(笑) フェロモンむんむんでどこまでやるつもりだったのか? 際どいんだもん、することが・・・つくしもちょっとその気になってたし・・・。 おっぱじめられると困るからとそれを見ていた西田さん、あなたが何気に一番凄い。 それなのにまたまた存在を忘れて甘い口づけタ~イムって時に、その存在を主張。 二回もつくしにやられた司が一番可哀そうかな(笑)
by: みわちゃん * 2015/01/24 00:48 * URL [ 編集 ] | page top
--名無し様<拍手コメントお礼>--
スポーツ大好きですか?(・∀・) 今日はテニスの応援団を結成しないとですね! --みわちゃん様--
女と言えど結構バカにできないんですよね。 嫉妬に狂った女は手がつけられません。 跡が残らないのは一安心です。 ふふふ、ここでお約束をぶっ込みです(笑) え?どこまでやるつもりだったのかって? そんなの決まってるじゃないですか。 世界の果てまでイッてピュー!! ですよ( ̄∇ ̄)え?お下品? チューだけでも司がやるとエロくなるってことを表現したかったんですが・・・ 伝わりました?(汗) 西田凄いですよね。どこまで真顔で見ていられるのかある意味見てみたい(笑) そして西田のスイーツタイムが想像できないっ! --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
ふふふ、今日の主役は西田でしたね(笑) ほんと、どこまで真顔で見続けられるんでしょうね。 というか彼が女性といい雰囲気になったら一体どうなっちゃうの?! ま、まさかチェリーってことはないさね?!(笑) --管理人のみ閲覧できます--
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このコメントは管理人のみ閲覧できます --ke※※ki様--
わかります~! 私もどのキャラも原作のイメージで二次を書いているんですが、 西田だけはどうしてもデビさんがちらついちゃいます。 彼の西田ははまり役でしたよね~。 というか原作では本当に端役でしたもんね(笑) 確かドラマスタッフも必死に手分けして西田の名前を探したって言ったような。 さぁ、次は本丸(?)が登場です。 --コ※様--
傷が残らないのはやっぱり安心しますよね。 ケイトリンはどう処分されるでしょうか。 西田は凄いですよね。 私もどこまで冷静に見続けられるのか西田を観察してみたい(笑) |
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