私をスキーに連れてって 前編
2015 / 01 / 25 ( Sun ) 「わぁっ?!」
ドザザザッ!! 「・・・・・・・・・もぉおおお~~~っ!!!」 つくしは雄叫びをあげるとその身をボフッと後ろに倒した。 勢いよく倒れていったが、柔らかくて冷たい感触がふわりとその身を受け止めてくれる。 「・・・・・・はぁ~、綺麗だなぁ・・・」 大の字に寝転がりながら上を見上げると、雲一つない真っ青な空が自分を見下ろしていた。 白と青のコントラストに思わず感嘆の息が零れると、吐き出した息もまた真っ白にとけていく。 ・・・・・・・シャーーーーーーーー・・・・ 「・・・ん?」 どこからともなく聞こえてくる音に首だけ起こして辺りを伺う。 ・・・・・・と。 シャーーーーーーーーーーッ ズザザザッ!!!! 「きゃあああああああっ?!!!!」 凄まじい音と共に襲いかかってきた真っ白な壁に、つくしの体が再び真っ逆さまに倒れ込んだ。 「・・・ははっ!」 「~~~~~~~~~っ! ちょおっとぉっ!!!!」 真っ白な中に怒り狂った真っ赤な頬が浮かび上がる。 「わりぃわりぃ。ほら、手ぇ出せ」 ヌッと差し出された大きい手を苦々しい顔で掴むと、あっという間にその体が引き起こされる。 「もうっ! 全然悪いと思ってないでしょっ?!」 「はははっ、思ってるって」 目の前の男は実に楽しそうにつくしの体に貼り付いた雪をはたき落としていく。 「絶対思ってないから! 何なのよその笑顔はっ!」 「お前もたいがいしつけーな。そうカリカリすんなよ」 「あんたが子どもみたいなことするからでしょっ?!」 「はははっ!」 「全く・・・!」 ぷりぷり怒りが収まらないつくしを宥めているのかはたまたからかっているのか、司は雪を落としながら頭をポンポンと撫でる。その顔は相変わらずニコニコ上機嫌だ。 「つくしぃ~~っ!」 「えっ? わぁっ!!!」 ズザザザザザーーーーっ!!! 声のする方へ振り向きざまに再び白い壁がつくしを襲う。 司が体を掴んでいたから倒れこそしなかったが、真っ正面からもろに喰らった格好だ。 「あちゃ~、ごめぇ~ん! えへへっ」 俯いたままぷるぷると小刻みに震えるつくしに滋がてへっと舌を出す。 「・・・・・・・・・・・・ちょおっとぉ!!!! あんた達はなんで皆そうなのよっ!!!」 「きゃーーーーっ!!」 「うおわっ!」 ガバッと顔を上げるとつくしはその辺にある雪をむんずと掴み、手当たり次第に投げ始めた。至近距離にいた滋と司の顔面に直撃してもなおつくしの怒りはおさまらない。 「バカお前、やめろっ!」 「うるさーいっ! 元はといえばあんた達がやったんでしょぉっ! しかも雪の量が比較にならないっての!」 「きゃーきゃー!!」 まるで小学生のように雪を投げ合いながらギャーギャー騒ぎ回る。 「おまえらなーーにやってんだ? ブッ!!」 「あっ! 美作さんごめんっ! でも今それどころじゃないから!」 騒ぎを聞きつけて近付いて来たあきらの顔面に雪玉がクリーンヒットする。 「あいつら何やってんだ?」 「・・・さぁな。とりあえず俺もお見舞いの一発をもらったわ」 「ははっ。つーか司がこんなことするなんて信じらんねぇな」 「ほんとですよねぇ。道明寺様が雪合戦とか・・・かなりレアな光景ですね」 三つ巴の激しいバトルを繰り広げる姿を物珍しいものでも見るように総二郎達が見ていたのを当の本人は知る由もない。 司が帰国して8ヶ月余り。 つくしの大学が休みに入ったこともあり、突然滋が旅行に行こうと言い出した。 最初は女だけの旅になる予定だったが、それに異議を唱えたのは司だった。 帰国したとはいえ、立場的に多忙を極める日々。さらにはつくしも大学最後の年ということもあり、2人が想像していたほどの甘い日々は送れていないのが現実だった。 だからこそ司としては何としてもこの冬につくしとの時間を作るつもりでいた。 そこにきて突然女共で旅行に行くなどとほざきだしたではないか。 人の苦労など知らずに嬉しそうに話すつくしに司は断固反対した。 が、つくしがはいそうですかと素直に聞き入れるはずもなく。 それからというもの 「行く」「行くな」 の押し問答は延々と繰り返された。 そこに折衷案を出したのが滋だ。だったら皆で行ったらどうかと。 当然の如く司は論外だとバッサリ切ったが、それとは対照的につくしは乗り気だった。 あのメンツで旅行ができるなんてそうそうないというのもあるが、つくしにとって純粋に大人数でどこかに出かけるということに憧れがあった。 中学まではともかく、高校・大学と英徳で過ごしているつくしは、実は修学旅行に行っていない。 修学旅行ですら数百万の費用がかかるからだ。もはや学生の旅行レベルではなく、牧野家にそんなお金があるはずもなかった。 ・・・まぁそれ以前にあの欲と虚栄心の塊の集団とどこかにでかけたいとも思わなかったのだが。 そういうこともあり、仲間内で行く旅が楽しみでしょうがなかった。 結局最後まで譲らなかったつくしに折れる形で司も参加することを渋々了承したというわけだ。 提案したのは滋だったが、最終的には道明寺家の所有するスキー場へとやって来た。当然ながらゲレンデも宿も完全貸し切りだ。 美男美女は何をやっても様になるらしく、一人転がりまくるつくしを尻目に、皆スイスイと真っ白なゲレンデを駆け下りていく。もしこれが一般客も混じったゲレンデだったら、認めたくはないがその場にいる誰もが釘付けになるに違いないほどカッコイイ。 天は二物を与えるとはなんて憎らしい! 最初はつくしにマンツーマンで滑りを教えていた司だったが、いつまでも自分につきっきりになってもらうことが気の毒で仕方がないつくしが半ば無理矢理司を上級者コースに追いやった。 そして超初心者コースでのんびりしていたところで・・・・・・今に至る。 「っていうか何で皆そんなに上手いのよ!」 雪合戦で疲れ切ったつくしが肩で息をしながら真っさらな雪の上に座り込んだ。 「なんでって・・・小さい頃からやってたから?」 「そうですね。うちも冬になると別荘に行ってよく滑ってましたからね」 「まぁ俺らも似たようなもんだな」 「つーか俺の場合基本的に最初から何でもできるからな」 お家自慢から能力自慢まで、途切れることのない答えに思わず溜め息が出る。 「はぁ~~、生粋のお金持ちなのね・・・っていうか金持ちでスポーツもできるって卑怯でしょ!」 「いや先輩、その理屈意味がわかりません」 「天は二物を与えないんじゃなかったの?!・・・あ、でも道明寺の場合性格に難ありなのか」 サラッと人格否定をされて司のこめかみがピクッと動く。 「んだと? てめぇ・・・喧嘩売ってやがんのか?」 「えー? でも事実でしょ? 極悪非道を生き字引でやってるような人間だったじゃない」 ピクピクッ 「我ながら何でこんな男と付き合うことになったんだろうって今さらながら不思議だわ~あははは」 ビキビキビキっ!! 「おい牧野、正面見ろ」 「え? ・・・ひっ!」 総二郎の言葉にフッと顔を上げて見ると、般若の様な顔で司が自分を見下ろしていた。 顔中に怒りマークを貼り付けて。 「てめぇ・・・」 「あ、あははは。 ちょっとバカ正直に言いすぎちゃった・・・?」 「・・・全然フォローになってねぇだろうがぁ!!」 「きゃーーーーーーーーーーっ?!!! バカバカバカ、離せぇっ!!!」 笑って誤魔化そうとするつくしに司がヒグマの如くぐわっと飛びかかる。 座った状態のつくしは抵抗する暇もなくそのまま雪の上に押し倒されてしまった。 ジッタンバッタン暴れても司はぴくりともしないどころか、かえって新雪の中に体が埋もれていく。 「ぎゃ~~! 埋もれるっ・・・助けてぇ~!」 「助けて欲しけりゃ訂正しろ。俺の人間性は素晴らしいと」 「む、ムリっ! あたしは嘘がつけない性格なのっ!」 「・・・・・・・・・・・・」 「あーーーーーっ、やめてぇっ! そこに乗られたらもう身動き取れないからっ。し、死ぬぅっ!」 「じゃあ言え。私の恋人は世界一格好良くて素晴らしい男性だと」 「・・・・・・嘘はつけな・・・ぎゃーーーーっ!!!」 「よし、じゃあその口を塞いでやる」 「アホかーーーっ! ひぇぇえええっ、ムリ、ムリぃっ! 桜子、滋っ、助けてぇ~~~っ!!」 上に乗ったまま迫ってくる顔につくしが必至でSOSを出すが、ウンともスンとも自分を助けに来てくれる気配はない。 「誰か・・・ぎゃーーーーーーっんむっ・・・・!!」 「・・・あー、あほらし。バカップルは放っておいて先に戻ってよっか」 「そうですね」 「夕食前に温泉でも入ったらどうだ?」 「あ~、それいいねっ! 楽しみ~♪」 悲鳴が沈黙に変わったのを背中で聞きながら、他のメンツは薄情にもさっさとその場を切り上げていった。 *** 「あ゛~、散々な目にあったわ・・・あいつら後で覚えてなさい!」 ようやくペンションへと戻って来られたつくしはヨロヨロと覚束ない足取りでウエアーを脱いでいく。 ・・・と、だだっ広いロビーに置かれたソファーから足だけが顔を出しているのが見えた。 「あれ? ・・・お~い、類? まだ寝てるの?」 「ん・・・?」 つくしが近付いて覗き込むと、顔に本をのせたまま腕組みした状態で類が惰眠を貪っていた。 つくしの声が聞こえると目をしぱしぱさせながらうっすらと目を開いていく。 「あれ・・・もう終わったの?」 「うん。っていうか何で類は滑らないの?」 「うーーーん・・・眠いから?」 ふああと欠伸をしながら気怠そうに答える。 「眠いからって・・・わざわざ何しにここまで来たのよ」 「うーーん・・・牧野と一緒にいたかったから?」 「えっ!!!」 思わぬ言葉につくしの心臓がドキッと跳ねる。 「・・・なんて言ったらどうする?」 まるでつくしの心を見透かしたように類がいたずらっぽく笑った。 「・・・・・・もうっ! ほんっとあんた達って性格に難ありだわっ!」 「あははは、 『達』 ってなに」 「そのまんまの意味だよ! ほんっと一癖も二癖もあるんだから」 「はははっ・・・・・・あ。」 「え?」 笑い転げていた類の視線がつくしの後方に向いたまま止まった。 つられるようにつくしも振り返って見ると、再び般若面した男がこちらへと向かってきていた。 「てめぇら、何いちゃついてやがる」 「ひっ・・・! 何言ってんの?! いちゃついてなんかないから!」 「うるせぇ。顔が近すぎんだよ」 確かに覗き込んだこともあり顔はかなり至近距離ではあった。 というかどれだけ目ざといんだ! 「別にいいじゃん。俺と牧野の時間を邪魔しないでよ」 「んだとぉ~?」 「ちょ、ちょっと類っ! なんでそういう言い方すんのよ!」 「何が? だってそうでしょ? 2人で楽しく話してたんじゃん」 「そ、それはそうだけど・・・って、ひぃっ!」 いつの間にか真横には氷点下の睨みをきかせた男が。 「お前・・・いい加減類って呼ぶのはやめろっつってんだろ」 「え? だってこれはもういつの間にか変わってたっていうか・・・」 「だったら早く俺のことも名前で呼びやがれ。どう考えてもおかしいだろうが。類が呼び捨てで俺が名字のままとか」 「う~・・・だって、そんなに簡単には変えられないもん。道明寺は道明寺だし」 ピクピクッ 「そうだよ。俺と牧野の絆なんだからいちいちヤキモチやくなよ」 「だから類っ! そうやって面白がらないで!」 「だって楽しいんだもん」 ピクピクピクッ! 類のからかいにトドメはつくしの呼び捨て。 墓穴を掘っていることなど気付かずにつくしは司の地雷をこれでもかと踏みまくる。 「・・・・・・てめぇら・・・」 「えっ? ひえぇっ・・・!!」 おどろおどろしい空気を纏った司につくしの危険センサーが激しく反応する。 このままではさっきの二の舞になりかねない。 類の目の前で押し倒してこれでもかと見せつけるような行為に及ぶ。 この男ならやる。 絶対にやる! 「あっ、あたしお風呂に入ってくるから! あんた達も入ったら? じゃあねっ!!!!」 「あっ、てめぇ待ちやがれっ!!!」 捨て台詞を残すとつくしは脱兎の如くその場から逃げ出した。 まだウエアーを身につけたままの司がいつものスピードが出せずにもたつく間にあっという間に視界から消えていく。 「くっそー、あの女。後で覚えてやがれ!」 頭をガシガシと掻きながら苦虫を噛み潰したようにそう吐き捨てると、面白くなさそうに司も引き上げていった。 「・・・どうしてわざわざ来たのかって? こうやって面白いもんが見られるからに決まってるじゃん」 類は再びその体をソファーに横たえると、堪えきれないように肩を揺らして笑い転げた。
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どこにいても、つくしと司のドタバタを見るのは、みんなの楽しみ。 完全に遊ばれてる。 類なんて、スキー場に来て、スキーせずに、つくしをからかいながら、二人のやり取りをしっかり楽しみ、そしてまた、寝ると‥‥。 スキー場の夜はまだまだ長いはず(笑) これから何がおきるのか? このタイトル‥‥懐かしい(笑)
by: みわちゃん * 2015/01/25 01:29 * URL [ 編集 ] | page top
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そうなんです。 完全におもちゃにされてます(笑) 類も相当な筋金入りですよね~。 単純思考の司の方がよっぽど扱いやすいかも。 さぁ、後編ではどんな事件が起こるんでしょうか? え、事件が起きるのは大前提?!( ̄∇ ̄) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
まぁ心の奥底で言えばまだつくしのことは好きでしょうね。 完全に昇華することはなさそうな気がします。 でもだからといってどうこうしたいというわけでもなく、 誰よりもドMで誰よりもドSなのが類だと思ってます(笑) --コ※様--
せっかくの旅行が修学旅行状態になっちゃいましたからね。 司の嫉妬の炎はメラメラと燃え上がっていることでしょう(笑) 類はMなのかSなのか。 なんとも微妙な男ですね。 でも基本はドSだと思います( ̄∇ ̄) |
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