星降る夜に奇跡をひとつ 1 by みやとも
2015 / 02 / 13 ( Fri ) ![]() こちらは昨年公開されたうさぎ様とのコラボ企画第一弾になります。当サイトでも解禁です。 尚、このお話の未来形が 『時を超えて』 になりますので、未読の方は合わせてどうぞ ^^ 「ほらほら牧野さんどうしたの、手が止まってるわよ?」 「あ、あはは、はい、すみません・・・」 握りしめたままちっとも動く気配のないグラスを持ち上げると、無理矢理その中身を口に放り込む。途端に口の中には生温くて苦い味が広がっていった。 「まず・・・・」 誰にも聞こえない蚊の鳴くような声で呟くと、もう今日何度目かもわからない溜め息がこぼれた。 今日で仕事納めだというのに、どうしてこんなにも気持ちが重いのだろう。 せっかく皆で一年の疲れを労うはずの日だったというのに。 鞄の見えるところに忍ばせてある携帯にチラッと視線を送る。 だが液晶は真っ暗なまま何の変化も示してはいない。 それを確認した途端、今日一番の大きな溜め息を人知れず吐き出した。 ことの始まりは3日前、世間で言うクリスマスの日だ。 イブの前日から仕事で日本を離れていた道明寺から連絡が来たのは。 『もうすぐ帰国できるから28日の夜は空けとけよ』 何の前触れもなくそう突然言われた。 道明寺の仕事の都合でクリスマ スは一緒に過ごすことができなかったから。 だから私だってその場で「yes」と言いたかった。 けれど。 「ごめん、その日は忘年会だから無理だと思う」 『あぁ?忘年会って何だよ?!』 まさか無理だなんて言われるとは夢にも思っていなかったのだろう。 明らかにムッとしたような声色に変わったのがわかる。 「何って・・・同じ職場の人でやる一年間のお疲れ様会みたいなものだよ」 『そんなんキャンセルしろ』 「キャンセルって、そんなことできるわけないじゃん!それも仕事の一環みたいなものなんだから」 『チッ・・・・・・何時頃終わるんだよ?』 「その時になってみないとわかんないよ。私新入りだから。すぐに帰れるかもしれないし、最後まで連れ出されるかもしれないし・・・・」 『最初だけ顔出してその後は何とかして抜け出せよ』 こちらの都合なんてお構いなしに何でもないことのように要求する道明寺に、徐々に苛立ちを覚えていく。 「何とかって、そんな簡単に言わないでよ」 『簡単になんて言ってねーだろ。お前は俺と会いたくねぇのかよ』 「そんなこと言ってないじゃん!でも仕事なんだから仕方ないでしょ」 『ただの飲み会だろ?』 「ただのって・・・・道明寺だって仕事で飲まなきゃいけないことだってあるでしょ?それと同じだよ」 『・・・・まぁいい。とにかくその日のうちに何としても帰るようにしろよ』 何を言っても彼の主張は変わらないらしい。 なんだか腹が立つやら、悲しいやら、何とも言えない気持ちでいっぱいになっていく。 そりゃあ道明寺の大変さに比べたら自分なんて鼻くそ以下の苦労しかしていないのだろうけど。 それでも、自分だって社会の一員として頑張っているのだ。 ・・・・道明寺を色んな意味で支えられる自分でいたいから。 守られるだけなんてガラじゃない。 一緒に戦える自分でいたい。 だからこそ、仕事に私情を挟みたくないのに。 「・・・・・・約束はできない」 『あぁ?』 「間に合えばそうするけど、無理なときは無理」 『お前本気で言ってんのか?』 「本気だよ。道明寺こそなんでそんなに強引なの?!少しはあたしの都合も考えてよ!」 これまでどんなに急な仕事が入ったって文句一つ言ったことはない。 クリスマスだって、仕事な んだから、遊んでるわけじゃないんだから。 あいつが頑張ってるってわかってるから、だから何も言わずに受け入れたというのに。 10回に1回くらいこっちの都合に合わせてくれたっていいじゃない! 『なんでって・・・』 道明寺が驚いたような声を出した気がするけれど、なんだか悲しくて頭に入ってこない。 「道明寺にはあたしの気持ちなんてわかんないよ・・・・」 だから、気が付けばついそんなことを口走っていた。 『・・・・・・・・・・・・・そうかよ。じゃあお前の好きにしろ』 スーッと。 道明寺の温度が下がっていくのがわかった。 しまった!!と思った時は時既に遅し。 「あ、あのっ、道明寺!あた・・・・」 ブツッ、ツーッ、ツーッ、ツ ーッ・・・・ 耳に響くのは無機質な機械音だけ。 ・・・・・やってしまった。 昔から道明寺が一番嫌がる言葉を言ってしまった。 いつも言った後に後悔するのに、何で自分はいつまで経っても懲りないんだろう。 ・・・・でも、もう少し話を聞いてくれたっていいのに。 「はぁ~~~っ・・・」 洗面所の鏡に映る自分は想像以上に不細工な顔をしていた。 あれから、道明寺とは連絡が取れなくなってしまった。 一度だけ連絡をしてみたけど、繋がることはなかった。 仕事で忙しいのか、避けられているのかはわからない。 もう既に帰国しているのかすら。 私情を挟みたくないと自分で思っていたくせに、作り笑いでその場にいるのがやっ とだなんて。 場が盛り上がれば盛り上がるほど、気持ちが沈んでいく自分に耐えられなくて、こうしてお手洗いに逃げ込んでしまった。 ピロロロ~ン♪ 「えっ?!」 突然鞄の中から聞こえたメールの着信音に、我に返ったように急いで携帯を取り出す。 もしかしたらあいつが連絡をくれたのかもしれない! 「あ・・・・・・・・」 超特急で確認した中身に愕然とする。 そうか、そういうことだったのか・・・・・ 『つくし~!ちょっと遅くなっちゃったけどお誕生日おめでとう!(*^▽^*)』 優紀からのメールでようやく今日が自分の誕生日だったことを思い出す。 このところ仕事が忙しくてそんなことはすっかり頭から抜け落ちていた。 ・・・だからだったんだ。 だから道明寺は何としても今日中に時間を作れって言ったんだ。 「あ~・・・・、もうっ!!!」 自分のあまりの不甲斐なさにがっくりとその場に項垂れた。
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