星降る夜に奇跡をひとつ 3 by みやとも
2015 / 02 / 13 ( Fri ) 青天の霹靂。
鳩が豆鉄砲を食ったよう。 今の自分を表現するならまさにこの言葉が相応しい。 でもそれは決してあたしだけじゃなくて。 この場にいた全員がポカンと口を開けて突如現れた男に目を奪われていた。 最初に我に返ったのは相葉さんだ。 「あ、あの、どちら様ですか・・・?」 目の前で仁王立ちする大男にびびっているのだろうか、かなり弱腰だ。 「あぁ?てめぇこそ誰だ。人の女にちょっかい出すなんざ、それ相応の覚悟はできてんだろうな」 「えっ?!女・・・・・?」 人を殺しかねない鋭い睨みに縮み上がりながらも相葉さんは耳に入った言葉を繰り返す。 やがて室内がザワザワと騒がしくなり始めた。 「ね、ねぇ牧野さん、女ってまさか、この男性って牧野さんの・・・?」 「えっ?あ、あははははは」 すぐ隣に座っていた二宮さんが道明寺とあたしを交互に見ながら耳打ちしてきたが、この場にいる全員の視線が突き刺さり、もう笑うしかない。 「あれ誰・・・・?」 「めちゃくちゃカッコイイ~!」 「っていうかどっかでみたことないか?」 「誰だっけ・・・・?」 会場のあちらこちらからそんな声が聞こえてくる。 あぁ、これまで彼氏がいるか疑問にすら思われたことのないあたしが。 別に隠してたわけでもないけど、内心平穏に過ごしたかったのも本音で。 それでもいつかはこういう日が来るだろうとは覚悟はしていたのだけれど。 よりにもよってこん な形でばれることになろうとは。 「なぁ、牧「おい、牧野」 オロオロしながら声をかけてきた相葉さんに被せるようにして響いた重低音。 ビクッとお尻が浮いたような錯覚を覚える。 頭上から痛~~~い視線をビリビリと感じながらゆっくりと顔を上げていく。 ・・・・うっ!! そんなに怖い顔で睨まないでよ! 「ひ、久しぶり」 へらっと。どうしていいかわからずにとりあえず笑ってみる。 ピキッ! 瞬間、あいつの顔に青筋が一本立ったような気がした。ヒ、ヒィっ!! 「久しぶりじゃねーよ。さっきのは何なんだよ。今日は仕事なんじゃなかったのか?」 「し、仕事だよ!ここにいるのは全員職場の人なんだから!」 「じゃあ何で告白なんかされてんだよ。 おかしいだろうが!」 「そっ、それは・・・!」 あたしに言われても困る!・・・・と言いたいけれど怖くて言えない。 どうせお前に隙があるからだとか言われるに決まってる。 あたしが望んで告白されたんじゃないのに! っていうか相葉さんは何かの罰ゲームでもさせられてたんじゃないの?! 「しかも何なんだよその格好は・・・」 「へ?」 格好って・・・色気もクソもないただのリクルートスーツですけど? 「うなじがチラッと見えるような髪型に妙に色気づいた化粧してんじゃねぇか」 「あっ、これは・・・!」 そうだった。さっきレストルームで二宮さんにやってもらったんだった。 自分じゃ見えないからすっかり忘れていた。 「人が必死こいて来てみりゃあ お前は相変わらずフラフラしやがって・・・!」 「ちょっ、ちょっと!人聞き悪いこと言わないでくれる?!」 「事実だろうが!」 「あのねぇっ!」 突然目の前で始まった言い争いにその場にいる全員が固唾を呑んで見つめている。 「あ、あのっ!!」 その時、震える声で二宮さんが手を上げてあたしたちの間に入ってきた。 「わ、私です・・・・」 「あぁ?」 道明寺の切り返しに二宮さんが一回り小さく縮んだような気がする。それでも彼女は諦めない。 「私なんです!牧野さんのメイクとヘアアレンジさせてもらったのは。さっきお手洗いで話したのが楽しくて、それにちょっと落ち込んでたみたいだから元気づけようと思って、それで・・・・ごめんなさい!だから牧 野さんは何も悪くないんですっ!!」 そう言うと二宮さんはガバッと頭を下げた。 「ちょっと二宮さん!そんなことしないで!」 「いいの、私の余計なお世話が喧嘩の原因になってるのは事実なんだから」 頭を上げるように肩に手を置いても二宮さんは引かない。 あたしは道明寺をキッと睨んだ。 「ちょっと道明寺!あたしの友達になんてこと言わせるのよ?!彼女は何も悪くないんだから!」 さすがにこうも堂々と謝られてはこれ以上何も言えないのか、道明寺もバツが悪そうな顔をしている。 「・・・わかったよ。悪かったな」 「・・・・!いえ、こちらこそすみませんでした」 二宮さんがホッとしたように笑って目を潤ませている。 「おい、今道明寺って 言ったか・・・?」 「道明寺って、あの?!」 「っていうか俺、経済誌で見たことあるぞ」 「えっ、じゃあ牧野さんの彼氏って道明寺財閥の・・・・?!」 一難去ってまた一難。 今度はあたしの口から飛び出した道明寺という言葉に室内が異様などよめきに包まれていく。 相葉さんが驚愕の顔で私を見ている。 「お、おい牧野、本当なのか?」 「えっ、えーと、は・・・」 「おい、そこのお前」 「は、はいっ!!」 ドスのきいた声にご指名を受けた相葉さんがビクッと跳ねた。 次の瞬間、あたしの体が大きな手にグイッと引き寄せられ、気が付いたときにはあいつの胸の中にすっぽりと収められていた。 「ちょっ、ちょっと?!」 「いいか、耳をかっぽじってよーーーー ーく聞いとけよ。こいつは俺のもんだ。指一本髪の毛一本も触れることは許さねぇ。万が一の時は・・・・・・それ相応の覚悟をしておけよ。・・・わかったか?」 「は、はいィっ!!!!」 相葉さんは直立不動で壊れたロボットのようにただ首を縦に振り続ける。 これじゃあ完全な脅しじゃないか! 「ちょっと道明寺!すごまないでっていつもんっ・・・・・・・!!!!!!」 口から出かけた文句がすっぽりと呑み込まれる。あいつの中に。 何を思ったか、あいつはそのままあたしに覆い被さると皆が見ている前で濃厚なキスをしてきた。 「ん~、ん~~~~っ!!!!」 ジタバタ体を動かして抵抗してもうんともすんとも言わない。 あいつが少しでも本気を出せばあたしの 力なんてありんこ以下なわけで。 為す術もなく全員の視線を浴びながらされるがまま翻弄され続けた。 「はぁっはぁっはぁっ・・・・・」 「おっと」 ようやく解放された時には足元からガクッと崩れ落ちて。 あいつはそれを予想していたかのようにいとも簡単に抱きとめた。 「こいつの荷物は?」 「えっ?あ、あぁっ、こちらです!!」 たまたまあたしの近くに座っていた同僚が献上物を捧げるように道明寺にあたしの荷物を差し出している。 「じゃあこいつはもらってくから」 そう言うと、片手でヒョイッとあたしの体を持ち上げてその身を翻した。 だが一歩進んだところでピタリと止まる。 「あ、そういえばここの会計は全部済ませてっから。じゃな」 最後の捨て台詞を残して道明寺は颯爽とその場を去って行った。 まるでハリケーンでも過ぎ去ったかのように、 その場に残された誰もがしばし動くことができなかった______ なんてことを聞かされたのはもう少し先の話。
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