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Sweet x Bitter x Sweet 中編
2015 / 02 / 15 ( Sun )
かったりぃ。

接待、ビジネス、接待、ビジネス、パーティ、ビジネス、パーティ。
無限ループのような目が回るほど忙しい日々の繰り返し。
少し前の俺だったらとっくに爆発して暴れてるに違いねぇ。

だが今の俺には明白な目標がある。

だからどんなにクソつまんねぇことだろうと、ただひたすらそのゴールを目指して突き進むだけ。
そのゴールに辿り着くために必要なことなら、どんなことでも乗り越える確固たる自信がある。
胡散くせぇゴマすりオヤジ共も、化け物みたいなケバい女共も、俺にとっては人形と同じ。
誰を見ても同じ人形にしか見えない。
何も感じない。

今ここにいるのがあいつだったらどれだけいいだろうといつも考える。
あいつがそこにいるだけで、このモノクロの世界が一瞬で色鮮やかな世界へと変わるのに。
いるはずなどないとわかっているのに、つい見渡してあいつがどこかにいるんじゃないか・・・なんて探してしまう自分が女々しくて情けない。

「・・・クッ」

思わず自嘲めいた笑いが零れる。

「どうかされましたか?」
「・・・いえ、何でもありません」

我ながらビジネス用の愛想笑いも随分身についたもんだと感心する。
中には本当に信頼の置けるビジネスパートナーもいるが、大抵は人形だ。
上辺だけに擦り寄ってくる奴には俺も上辺だけの対応で返す。
こんなことですら反吐が出そうなほど嫌で仕方なかったが、あいつを一日でも早く迎えに行くためには己の立場を理解するしかない。

次の事業で手を組む企業の令嬢だかなんだか知らねぇが、パーティが始まって最初のうちだけでいいからエスコートをしろとババァに厳命された。
冗談じゃねぇ。
俺がエスコートするのはこの世にただ一人。
あいつだけ。
俺がエスコートするようなことは絶対にしない。
指先一本触れることもない。
どんなに譲歩しても隣に立つだけ。これ以上はあり得ない。

だが中には調子に乗って俺に触ってくる女もいる。
静かにその手を振りほどいても、何事もなかったかのように再び触れてくる。
俺の目が全く笑っていないことになど気付かない勘違い女は、まるで俺が自分のものにでもなったかのような尊大な振る舞いを見せる。
今日の女がいい例だ。
必死で何かを喋っているが何一つ頭に入ってなどこない。
自分の立場を何一つ考えなくていいのならば、一発ぶん殴ってやるところだ。
強制労働の時間がいつ終わるのか、ひたすらそのカウントダウンを頭の中で繰り返すだけ。

・・・・・・そしてあいつのことを考える。

今頃あいつは何をしているだろうか。
日本は夜中だから、きっとグースカ大口開けて寝ているに違いない。
そんなことを考えながらこのクソつまらない時間をひたすらやり過ごす。
そうしているとどうだ、不思議なほど心が凪いでいく。
もしかしたらそれが顔に出ているかもしれないと思うほど、あいつのことを考えるだけで余計なことが己の中から排除されていく。


会いたい・・・


何百万回と心の中で繰り返す言葉。

最後に会ってから1年。
あいつに会えないのもそろそろ限界になりそうだった。
毎夜夢に出てくるあいつはいつも花のような笑顔を見せて・・・そして泣いている。

我慢させている。
寂しい思いをさせている。

そんな事は俺が一番わかっている。
そしてあいつはそんなことを一言だって口にしない。
思っていたって、それを言葉にしてぶつけるような女じゃない。
自分のことになるとひたすら我慢して、いつだって相手のことばかり考える奴だ。

それが痛いほどわかるからこそ、俺がなんだかんだと愚痴をこぼすわけにはいかない。
納得がいかない仕事だろうと、ババァとのビジネスをしっかりこなす。
そして一日でも早く何一つ口出しできねぇような一人前の男になってみせる。
それが今の俺にできる唯一にして最大のあいつへの誠意だ。



「司」



どこか聞き覚えのある声がしたような気がして振り返る。
ゴチャゴチャとした人混みが見えるだけでただの気のせいかと思った時、頭一つ分背の高い男の姿が視界に入ってきた。

「・・・・・・類?」

まさか。 何故ここに?
・・・あぁ、俺の知らない間に花沢物産にも招待状を出していたのか。
そんなことを考えている間にどうやら本物らしい男が目の前までやって来た。

「久しぶりだね」
「あぁ。お前も来てたなんて知らなかったぜ。うちから連絡がいったのか?」
「まぁね。今度の事業は間接的にうちも関わってるから」
「あぁ、それでか。元気だったか?」
「俺はね。 元気だよ」

ピクッ。

何気ない一言だが何故か妙に引っかかる。暗に何かを含んでいるような。
こいつがこういう言い方をする理由は大抵一つしかない。
・・・あいつが絡んでいる時だ。
あいつに何かがあったのだろうか。

「牧野来てるよ」
「・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・今なんつった? 空耳か?


「牧野、ここに来てるよ」
「・・・・・・・・・は? お前、何言って・・・」

一瞬ふざけてんのかと思ったが・・・・・・違う。
こいつの目を見ればそれが真実か否かなんてすぐにわかる。
あいつが・・・・・・ここに?

「でもここにはいない」

バッと顔を上げて会場中を見回す俺に類がわけのわからないことを言う。
やっぱりふざけてんのか?

「あ? お前さっきから何言ってんだ。ふざけてんのか?」
「正確にはここにいた。でもいなくなった」

いなくなった?!

「おい、一体どういうことだよ?!」
「さっきまで俺といたのは本当。でも牧野走っていなくなったんだ。・・・お前を見て」
「俺を・・・?」

一体どういうことだ?!
経緯はどうあれあいつがここに来るなんて俺に会うために決まってる。
それなのにいなくなるなんて、一体・・・・・・

「お前を見て今にも泣きそうな顔で出てったよ、あいつ」
「俺を・・・?」

「道明寺さん、どうなさったんですか?」

わけがわからない俺に聞こえてきた声にハッとする。
そして自分の隣に陣取って立つ女の存在に今初めて気付く。
ない存在としてずっと思考から、視界から消えていたその女に。

牧野は俺を見て泣きそうになったと言っていた。
俺を・・・・・・



「クソッ!!」



「あっ?! 道明寺さんっ!!」

必死で手を離すまいと近付いて来た女を思いっきり振り払うと、俺は呼び止める声など耳にも入れずにその場を駆けだした。













***




「・・・っ、グズッ・・・・・・・・もう帰らなきゃ・・」

一体どれくらいの時間泣き続けていたのか。
目はヒリヒリ。鼻はズルズル。きっとメイクも酷い有様だ。

「類のこと置いてきちゃった・・・どうしよう」

思わず飛び出してしまったけれど、だからといって今さら戻る勇気なんてない。

・・・・・・こんな情けない姿を見せられるわけがない。

「ちゃんと連絡入れればいっか。・・・よし、帰ろう」

ズビッと最後にもう一度鼻を啜ると、エントランスへ向かって歩き始める。


・・・あいつ、元気そうで良かった。
少しだけ、痩せたかな?
相変わらず自信に満ち溢れて、そして決して楽しそうではなかったけど。
・・・それでももう立派な社会人だった。
やりたくない仕事でも、本音を隠して順応できる、そういう男になってた。

そのうち類と会ってあたしがここにいたことを聞かされるに違いない。
ここまで来ておきながら帰ったって知ったら、きっと怒るんだろうな。


「・・・・・・ごめんね、道明寺」


いくじなしで本当にごめん。


ガシッ!!


その時、突然左手を掴まれてハッとする。

・・・・・・まさか。 いや、違う。
あいつがここに、こんなに早くここに来るはずが・・・・・・

ドクンドクンと緊張と期待の入り交じった状態で恐る恐る振り返っていく・・・・・・

「ずっと泣いてたみたいだけど大丈夫? さっきから気になってたんだ」
「あ・・・」

目の前には全く見覚えのない男。お酒が入っているのか、頬が少し赤くて顔が緩んでいる。

「すみません、何でもありません」
「そんなこと言わないで。ゆっくり話聞いてあげるよ? ね?」
「ちょっ・・・離してくださいっ!!」

引こうとした手を強引に掴まれて離れない。

「君日本人でしょ? 大丈夫だよ、僕もそうだから。だから安心して?」
「ふざけないでっ! 離してください!」

何が大丈夫なんだ?! ふざけるなっ!!
そうは思いつつも悲しいかな、男の力には到底勝つことなどできず。

「じゃあゆっくりできるところに行こうか」
「ちょっ・・・!!」

ズルズルとそのまま引き摺られていきそうになる。
冗談じゃない。
何が悲しくてこんなところまで来てこんなろくでもない男にこんな目に遭わなきゃならないんだ。

「・・・っ離せって言ってんでしょうがっ!!!」
「ぶっ!!」

右手で持っていた紙袋を思いっきり男の顔面にヒットさせると、呻き声と共に掴まれた手が離れた。その一瞬の隙に全速力で逃げ出す。

「あ、おいっ! 待ちやがれっコラァ!!」

待てと言われて待つバカがどこにいる。
あぁもう。 ヒールなんかで走るもんじゃないってついさっき言ったばかりじゃないか!
全くどうしてこんな目に遭わなきゃなんないっての?!

はぁはぁはぁはぁ

あと少し・・・あと少しで表に出られる。そうすれば車を拾って・・・


ガシッ!!!


「ひっ!!」

エントランスの自動ドアが開いた瞬間、後ろから肩を掴まれて思わず悲鳴があがる。

「おい・・・」
「はなせぇっ!! はなせぇーーーーーーーーっっっっ!! このヘンタイっ!!!!!」
「うぉわっ!!!」

腹が立つやら悲しいやら悔しいやら。
もうわけがわかんなくなって振り向きざまに袋をブンブンと思いっきり振り回す。
この際どこでもいいからヒットしてぶっ倒れやがれ!!

「ちょっ、やめろっ!!」
「ふざけんなっ!! 触るな! 近付くな! このヘンタイっ!!!!」

「ちょ・・落ち着けっ! 牧野っっっ!!!」

「うるさいっ! なんであたしの名前を知ってんのよ! なんでっ・・・・・・・・・え?」

ブンブン力の限り振り回していた手がピタリと止まる。

今、牧野って言った・・・?

っていうか、あの声は・・・・・・

「俺だ。だから落ち着け」
「・・・・・・・・・・・・」

うそ・・・。 どうして?
どうしてこの男がここに? だって・・・・・・


ボフッ


そんなことを呆然と考えていたら、いつの間にか自分の体が大きな何かに包まれていた。
全く力の入っていないあたしを、それはこれでもかとギュウギュウに締め付けていく。

これは・・・なに・・・?

「牧野、悪かった」
「・・・・・・・・・え・・・?」
「不安にさせて悪かった」

何言って・・・
何も謝る必要なんか・・・
勝手に来て、勝手に不安になって、勝手に帰ろうとしたあたしに謝る必要なんてどこにも・・・


「・・・ふっ、・・うぅっ・・・・・・うぅ゛~~~~っ・・・」


ぷつりと糸が切れたように、気が付けばボロボロと涙がこぼれていた。
それはもう自分の意思なんか関係なく、次から次と止まることを知らない。

「ごめん・・・。 牧野・・・会いたかった」
「うっ、うぇっ、うぅ゛~~~っ・・・・・・」

まるであたしの泣き声を、不安をかき消すように、背中に回された手に力が籠もる。
これ以上力を入れたら潰されて死んじゃうんじゃないかってほどに強く。
でも、その痛みすら心地よくて。
あったかくて。


「ど・・・みょうじ・・・。 道明寺っ、どうみょうじぃ~~~っ・・・!」


頭で考えるよりも先に、自分が求めているものは何なのか、この手が、心が知っていた。


震える手をゆっくりと大きな背中へと回して触れると、さらに自分を引き寄せるように道明寺の手に力が込められた。
それに導かれるように力の限りしがみつくと、あいつの胸に顔を埋めて他の事なんて何一つ考えられないくらいに、ただひたすら声をあげて泣いた。






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コメント
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類あんたは偉い(笑)
つくしが心配だろうけど、まず司に会って、つくしが来ていたこと、そしていなくなったことを伝える。
司はすぐに追いかけると知ってるから。
自分が追いかけても、つくしの不安はなくならないと知ってるから。
危なかったけど、司が追いついてくれて、抱きしめてくれて、良かった~。
by: みわちゃん * 2015/02/15 00:22 * URL [ 編集 ] | page top
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by: * 2015/02/15 01:27 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2015/02/15 02:17 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2015/02/15 10:11 * [ 編集 ] | page top
--みわちゃん様--

類君、いつもナイスアシストに本当に感謝です。
彼も基本的には余計なことはしない性格なんでしょうけど、
そんな彼が強引な行動に出るくらいきっとつくしはギリギリだったんでしょうね。

危機一髪、坊ちゃん間に合いました(*^^*)
by: みやとも * 2015/02/15 22:56 * URL [ 編集 ] | page top
--r※※co様--

甘酸っぱい恋心が伝わったでしょうか?
是非最後まで見守ってあげてくださいね^^
by: みやとも * 2015/02/15 22:58 * URL [ 編集 ] | page top
--ke※※ki様--

あはは、昨日はあっちもこっちもお祭り騒ぎでしたからね~^^

さぁ、私も続編見ましたよ!
っていうか普通にPCからでも見られるんですね。
てっきりタブレット端末じゃないとダメなのかとばっかり。
初っぱな司が出てきてテンション上がりましたが、あれって高校生の頃の司なんですよね。
嬉しいけどもっと未来の司が見たい~~~!!

主人公がまるっきりつくしで見分けがつきません(^_^;)
神尾先生のキャラって割とそんなのが多いですよね。
どうなるのか未知数ですが・・・なんだかんだ見ちゃうと思います(笑)
by: みやとも * 2015/02/15 23:01 * URL [ 編集 ] | page top
--こ※様--

基本強くて逞しいつくしですけど、
時にはこうして弱い一面も見せる女の子であってほしいな~なんて思ってます。
つくしだって恋する女の子。
やっぱり不安に押し潰されそうな時もあるんじゃないかなと。
類は相変わらずいい仕事してくれます(笑)
by: みやとも * 2015/02/15 23:04 * URL [ 編集 ] | page top
--k※※ru様<拍手コメントお礼>--

そうなんです。普通は男に絡まれたときに司登場!!と思いますよね。
でも敢えてそれを外しました~(笑)
その後に大泣きしてしまうのを効果的に見せたくて。

さて、続編ですが私も見ましたよ~^^
まぁ普通に漫画としては面白いですよね。
でもやっぱりあのメンバーのその後が見たい!!
とはいえ司のカットが出てきただけでも興奮するような私はなんだかんだ見ちゃうんだろうな・・・(苦笑)
まんまと相手の思うツボになるファンは後を絶たないかと( ̄∇ ̄)
by: みやとも * 2015/02/15 23:09 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--

そういう負のループってありますよね~。
信じることと寂しさを感じることは別物だと思うので、
負の感情を素直に出せないつくしなんかは延々溜めてしまうんでしょうね。
アシストしてくれる仲間がたくさんいてあんた幸せもんだよ~~!!
by: みやとも * 2015/02/15 23:12 * URL [ 編集 ] | page top
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