牧野家の人々 前編
2015 / 02 / 20 ( Fri ) ピンポンピンポンピンポーーーーーン!!
けたたましく鳴り響いたインターホンの音に手にしていたお椀が思わず手から滑り落ちた。 「あぁっ! 貴重な味噌汁が・・・!」 「いいから早く拭いて拭いて! ・・・にしてもこんな朝早くに一体誰かしらねぇ?」 台ふきを手渡すとよっこいしょと立ち上がり玄関へと移動する。 今現在朝の7時。 人が訪問してくるには非常識な時間帯と言えるだろう。 「どちらさまです___ 」 「牧野さんっ!! 大変よっ!!」 「わぁっ?! びっっっくりした・・・。早川さん、こんな朝早くに一体どうし・・・」 「そんなことはいいから! テレビ見てないの?!」 「テ、テレビ・・・?!」 ボンビーまっしぐら。朝からテレビなんて余程のことでないとつけられるはずもなく。 「あぁ、もうじれったいわね! ちょっとお邪魔するわよっ!」 そう言うと早川は許可も取らずにズカズカと室内へと上がっていく。 突然入って来た隣人に必死で床を拭いていた晴男が呆気にとられているが、早川はそんなことなどお構いなしにテレビのリモコンを掴んでスイッチを入れた。 「早川さん、一体どうし・・・」 「いいからほらっ! 今日のトップニュース見なさいな!」 「えっ・・・?」 早川の指差した画面を晴男と千恵子が覗き込むようにして眺める。 ・・・と、そこに写っている映像にたちまち目を丸くした。 「こ、これは・・・・・・!」 「これって牧野さんのところの娘さんじゃないの?! やけに綺麗な格好してるから一瞬わからなかったけど、この人が牧野つくしさんって言ってたから間違いないわよね?!」 「えっ、えぇ・・・うちの娘に間違いありません・・・」 呆然としたように千恵子が呟くと早川が黄色い声を上げた。 「まぁーーーーっ!! やっぱり!! お宅の娘さん、とんでもない人と結婚するのねぇ~~!! 朝からこのニュースで持ちきりよぉ~~!!」 「は、はぁ・・・」 小さな画面に映し出されているのは紛う事なき我が娘。 普段の姿からは想像もつかないような綺麗な格好をしていて、親でなければ一瞬わからないのは当然のことだろう。 その娘の隣に立っているのは他でもない、かの道明寺司本人で、堂々と婚約宣言をしているではないか。 しかも娘を抱きしめたかと思えば続いて濃厚な接吻シーンまで映し出され、見ればその一連のシーンが何度も何度も繰り返し放送されていた。 これは全国放送だ。 画面左上には 『 平成のシンデレラ誕生!! 』 とデカデカと書かれている。 それから、早川がしばらくの間なんだかんだと大興奮で喋っていたが、晴男も千恵子もただ画面に釘付けになるばかりで会話らしい会話は成立しなかった。 一通り騒いで気が済んだのか、それからほどなくして早川は帰っていった。 「パ、パパ・・・・・・」 「マ、ママ・・・・・・」 「と、とうとう来たのね・・・?」 「と、とうとう来たんだな・・・?」 しばし呆然とした後、同じ動作でゆっくりと向き合う。 見つめ合ったままぷるぷると体が震えていたが・・・ 「や・・・」 「「やっったあああああああああああああああああああ!!!!」」 まるでタイミングを合わせたようにひしっと抱き合うと、玉の輿だーーーっ!! と叫びながら2人歓喜の渦に包まれていった。 遡ること1年ほど前___ 不況の煽りで東北で生活していた晴男と千恵子の元に一本の電話が入った。 それはつくしが交通事故に遭って重傷を負い、さらには記憶喪失になったというものだった。 信じ難い連絡に慌てて上京すると、思わず目を逸らしたくなるほど痛々しい娘の姿があった。 つきっきりで介護が必要なことは誰の目にも明らかだった。 進は都内の大学に通ってはいるが、そろそろ就職活動が始まること、また異性である進には全てのお世話は無理だということ。相談の結果、当初千恵子だけ上京してきてつくしの看病にあたるつもりだった。 だがそれを止めたのが類だ。 彼が言うには無条件で全ての面倒を見てくれると言うではないか。 事故に遭ったときに一緒にいたことで相当な責任を感じているようだった。 当然彼は何一つ悪くなどない。 有難いと思う一方で、さすがに重傷を負った娘を人任せにすることはできない。 玉の輿願望の強い千恵子達と言えど、今回ばかりは丁重にお断りしたのだが・・・ 類は決して譲ろうとはしなかった。 結局厚意に甘えさせてもらうことにした2人の元には、類の邸の人間から逐一つくしの様子についての報告が来る生活がそれから数ヶ月続いた。 「なんつーかさ、類さんってもしかしてねーちゃんのこと好きなのかな?」 「えっ!!!」 休みを利用して東北へ様子を見に来ていた進がポツリと呟いた。 内職をしていた千恵子の手が思わず止まる。 「だってさ、普通に考えたらそう思うんじゃないの? いくらねーちゃんと友達だって言ってもあそこまでする?」 「そ、それは確かにそうよね・・・」 いくら友人と言えど。 いくらお金持ちの御曹司と言えど。 何とも思ってない相手を邸に住まわせてまで面倒を見ることは普通なら考えられない。 「俺、前から思ってたんだよね」 「何を・・・?」 「類さんがねーちゃんのこと好きなんじゃないかって」 「そっ、それは本当なのか?!」 風呂上がりの晴男がパンツ一丁で進に食い付く。 「っていうか父ちゃんシャツ着ろよ! ・・・いや、まぁわかんないけどさ。類さんって簡単に心を開くような人じゃないじゃん。でもねーちゃんにだけは昔っから違ったっていうか・・・。少なくとも事故の責任感だけであそこまでやる人じゃないなって」 「確かに・・・」 晴男がやっとシャツを着てうんうんと頷く。 「でも道明寺さんとはどうなってるの?」 それは千恵子がずっと気になっていたが聞けずにいたことだった。 司と恋人同士だということは間違いなさそうだったが、もともとつくしは自分の事をペラペラ話すような性格ではない。 とはいえ、こちらから聞けばチラチラとそれらしい話をしてくれてはいた。 だがここ2年ほどは司の話題がパッタリと出なくなっていた。 何度かそれとなく話を振ったが、いずれも司には触れずにさらっと流されてしまった。 それ以降、聞きたくても聞けないでいる、それが現状だったのだ。 そこに来て今回の事故、そして類の過度なまでの世話の焼き方。 一体どうなってるんだと気になって気になってしょうがなかった。 「・・・別れたっぽいよ」 「・・・えっ?!」 「俺、1年前くらいにねーちゃんの家に行ったときに聞いたんだよ。道明寺さんは元気?って。そしたらもう会わないからわかんないって。それって別れたって事だろ? なんか、あまりにもさらっと言ったから俺、それ以上は聞けなくてさ」 「そ、そうなのか?」 「うん」 進の言葉に室内がシーーーンと静まりかえる。 「で、でもほら、花沢さんがいるじゃないか! ねぇママ?」 「えっ? ・・・えぇ、そうね。つくしが幸せになれるならどちらでもいいわよね」 「そうそう! しかもどっちもいい男、しかも玉の輿間違いナシ!」 「あらやだ、パパったらぁ~!」 沈みがちな空気を盛り上げようと2人がアハハと大袈裟なくらいに笑い飛ばす。 「・・・今度こそうまくいくと思ってたのになぁ。 ・・・道明寺さんと」 「・・・・・・・・・」 だが進の放った言葉に再び沈黙が戻って来てしまった。 「俺、類さんのことも大好きなんだよ。もちろん道明寺さんも。・・・でもやっぱねーちゃんには道明寺さんが一番あってるんじゃないかと思うんだよね。アメリカに行く前に俺言われたんだ。俺がいない間姉貴がフラフラしないように見張ってろよって。だから道明寺さんが心変わりするとは思えないし、それはねーちゃんだって・・・」 「・・・・・・」 「道明寺さんの会社、少し前に大変なことになってたみたいだから、やっぱそういうのも関係してんのかな。婚約者の噂とかも週刊誌で見たし・・・」 進の一言一言に、千恵子も晴男も黙り込むばかりで何も言えない。 「・・・でもまぁ類さんもねーちゃんのことすげぇ大切にしてくれてるからね。・・・それに、記憶がないのならある意味では余計なことを考えなくていいのかな・・・」 もしそこに辛い記憶があるのならば尚更のこと。 「そっ、そうよ! あんなに良くしてくれる人なんてそういないわよ」 「そうだな。俺たちがここでなんだかんだ言ったってつくしが決めることなんだから」 「うんうん、そうよね。そうだわっ!」 「それにほら、どっちにしたって玉の輿であることに変わりはないじゃないか」 「あらやだっ、パパったらもう~~!!」 わざと明るく振る舞うようにおちゃらけてみせる晴男の背中を千恵子がバシッと叩いた。 その時。 ピンポーーーーーーーン 狭い室内に鳴り響いた音に3人が顔を見合わせた。 「・・・誰? こんな夜遅くに」 時計を見ればもう夜の10時。 こんな時間に来訪者など普通は考えられない。 ピンポーーーーーーーン だが考えている間にもインターホンが再びその音を響かせた。 「・・・まさかつくしに何かあったとか?」 千恵子の言葉に全員がハッとすると進が慌てて立ち上がった。 「俺が出る」 急ぎ足で玄関まで移動すると、覗き穴も見ずに勢いよくドアを開けた。 「・・・えっ・・・?!」 玄関から聞こえてきた声に千恵子と晴男が部屋から顔を覗かせる。 「進、どうしたの? 誰だったの?!」 「あ・・・・・・・・・」 だが進は口を開けて驚愕したまま何も答えようとはしない。 一体どうしたというのだろうか。 「ちょっと進、一体何が・・・・・・」 コツン・・・ 痺れをきらした千恵子が一歩足を踏み出したのと同時に、高質な靴の音が室内に響いた。 「・・・・・・えっ?!」 正面を見た千恵子もまた進と同じように固まる。 1人残された晴男がどうしたもんだと千恵子の後ろから顔を出した時だった。 「ご無沙汰しています。夜分遅くに申し訳ありません」 「・・え・・・あ、あな、あなたは・・・・・・!」 2人に続いて晴男もそれ以上の言葉を無くしてしまった。 「大事なお話があるんです。聞いていただけませんか」 驚き腰を抜かす3人を前に、6年ぶりに突如現れた男が言った。 その男は高級な黒いコートを身に纏い、昔と変わらぬ堂々たる風格を醸しだしている。 ・・・いや、6年前など比較にならないほど大人になった姿がそこにはあった。 「ど、道明寺さん・・・・・・!」
なんだか昨日の拍手が凄いことになっていてただただびっくりしています( ゜Д゜;) 本当なら今日はお休みをもらう気満々だったのですが、皆さんの気持ちが嬉しくて頑張って書いちゃいました。なんとかギリギリで間に合いました(^_^;) 予告通り、つくしの知らない司と牧野ファミリーのお話になります。 昨日いただいたコメントで、「婚姻届を出しに行ったけど何かしら失敗して結局出せない話」とか、「やる気満々で邸に帰ったら当然の如くF3達が来ていてやり損ねる」など、皆さんどんだけドSやねんと言わんばかりのリクエストが多数ありました(笑) 全部書きたいところですが・・・さすがに全部はムリ(笑) |
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私も思った‥‥拍手が500超えてる‥‥。 す、すごい。 さすがみやとも様。 おかげで、今夜もお話が読めました。 良かった(笑) お隣さんに教えてもらって、NYでの婚約発表を知った牧野家。 濃厚なキスまで見ちゃって。 照れちゃったかな? それよりやっぱ、玉の輿~かな。 なんといっても、念願だったものね~。
by: みわちゃん * 2015/02/20 00:47 * URL [ 編集 ] | page top
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ね、なんだか凄いことになってますよね( ゜Д゜;)ビックリ・・・ よーーし今日はグータラして休むぞぉ~♪と張り切ってた気分が全部吹っ飛びました(笑) ずーーっと書きたかった牧野家のお話。 本編とリンクしながら楽しんでもらえたら嬉しいです。 それにしても新婚編のタイトル何にすっぺかなーー。 思いつかないなぁ~(^◇^;) --名無し様<拍手コメントお礼>--
牧野家目線の新しい世界観を楽しんでいただけたら嬉しいです(*^o^*) あの時水面下ではあんなことが起こっていた?! --和菓子屋の※※さん様--
はい、来ましたよー!(笑) もうね、牧野家視点は絶対書くと決めてたんです。 いつどういう形で出すかを迷ってただけで。 ようやくお披露目となりました。 本編とリンクさせながら「おぉ~、あの時実はこんなことが裏であったんだ!」 なんて楽しんでいただけたら嬉しいです(*^^*) おっとー、牧野家だけじゃなくて周辺住民の話ですか? そしたら次は周辺住民の親戚の話とか? どこまでも可能性は広がりますね(笑) --管理人のみ閲覧できます--
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なんだかね、拍手がドえらいことになっててちびりそうです((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル ただ結婚するだけじゃなくて前作の流れがあってのゴールインなので、 皆さんの喜びもひとしおなのかな~なんて勝手に思ってます。 私も自分でお話を積み上げてきたということで感無量でございます。 お察しの通り、牧野ファミリーにはドラマの牧野一家を少し重ねて書いてます。 漫画での両親って正直あまり感情移入できなかったですよね(^_^;) おいおいおい~!ってことがほとんどだったような。 いつも話を作るときは完全に原作モードで書いていくんですけど、 牧野家(というか両親)だけはドラマのイメージを強めて書きました~。 --ぴ※※あ様--
あららららららららっ?!! なんだかコメントの中に二次小説がありますけど?!(笑) いやぁ~、残念ながらね、ショートカットでもなければ美人でもない。 美人じゃなくてブ人です。 無条件土下座レベルですよ。トホホ むしろリバウンドしたピン子さんに近いかも?(笑) 小川はないですが家のすぐ近くにどでかい川が流れてますが何か?! あぁ、ぴ※※あさんが見た夢が現実だったらどれだけいいか・・・( ̄∇ ̄)スベテガマギャク・・・ 牧野ファミリーのお話はずっと書きたかったところなのでようやく、です♪ --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
つくしがいなければ実はかなりスマートな大人の男に成長した司君。 時制的に帰国して間もないので、まだまだクールな大人モードですよ~。 で、つくしと過ごしていくうちにだんだん崩れていきます(笑) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --さと※※ん様--
うふふ、味噌汁のくだりは自分でもお気に入りです。 ほんと、どーーーーでもいいところにマイこだわりを入れる私です。 そしてひっそりと自己満足しているという(笑) 何気に牧野家で一番大人なのは進君な気がしてます。 アノ親に波瀾万丈な姉。 しっかりしないわけがないかと(笑) 彼はきっといい男に成長するんでしょうね~。 いつか進む主役の短編もいいかも♪ |
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