愛が聞こえる 1
2015 / 02 / 24 ( Tue ) 『 もういい 』
やめろ・・・その先の言葉を言うんじゃねぇ 『 あんたはもう あたしの好きだった道明寺じゃない 』 泣くな、頼むから泣かないでくれ・・・ 『 ・・・・・・ バイバイ 』 やめろ・・・ 待ってくれ・・・ 行くな、 行かないでくれっ・・・! 「 牧野っ!!!! 」 自分の叫び声で意識が覚醒する。 ハァハァと呼吸は乱れ、全身汗でびっしょりだ。 「大丈夫ですか?」 後方から聞こえてきた声にハッとすると、今自分が置かれていた状況をようやく思い出す。 「・・・・・あぁ。夢を見ただけだ。何でもねぇ」 「・・・そうですか。あと30分ほどで着陸となりますので」 「・・・あぁ」 フーッと息をはき出しながらドサッと背もたれに体を倒すと、窓の外の景色に視線を送った。 青々と澄み渡った空は雲一つない。まるで自分が大海原に浮かんでいるのではないかと錯覚を起こすほどに。 気持ちいいほどのその青さがかえって今の司にとっては皮肉だった。 ___ 己の心とあまりにも対極すぎて。 こんな風にぼんやりと空を眺めたのなんていつぶりだろうか。 昨日の天気がどうだったかすら思い出せないような男にとって、目の前の青空は直視できないほどに眩しかった。 *** 「一度邸に戻られますか? それとも社の方へ?」 「いや、あいつのところに行け」 「・・・かしこまりました」 司の声に西田が運転手に指示を出すと、リムジンが音もなく静かに動き出した。 車内は無言のまま沈黙が続く。だがそれは司にとっての日常だった。 車窓から流れる景色は最後にこの地を踏んだ時と変わったのか変わっていないのか。 そんなことすらも忘れてしまった。 ただ一つわかっていることは、7年ぶりに降り立ったこの地に、自分が置き去りにしてしまった魂が残されているということだけ。 何を見ても、聞いても、話しても、見える世界は全てモノクロ。 まるで己の心を映しだしたかのようなその世界に沈み続けること7年。 今、ようやくその色を取り戻そうとしている。 どんな色に染まるかなどわからない。 わからないが、必ずこの手に掴んでみせる。 司はそう固く誓うと、何かを探すようにただ黙って遠くを眺めた。 *** 「専務、アポなしのお客様がいらっしゃってるのですが・・・」 秘書の言葉に動かしていた手がピタリと止まる。 「客・・・? 一体誰 」 一企業の重役に会うのにアポなしで突撃訪問するなど非常識にもほどがある。 ___ 普通に考えるならば。 「はい・・・それが、道明寺ホールディングスの道明寺司様だとおっしゃるんです」 「・・・・・・」 戸惑いがちに説明する秘書とは対照的に、至って冷静にその言葉を受け止める。 「・・・・・・そう。あげていいよ」 「え?」 「ここに通して」 「は、はい。承知致しました」 ペコッと頭を下げると、秘書は急ぎ足で専務室を後にした。 誰もいなくなった室内で手にしていたペンをデスクに放り投げる。 コロコロと転がっていった高質なペンが落ちるか落ちないかのギリギリのところでかろうじて踏みとどまった。 「・・・・・・思ったより早かったね」 ぽつりと呟いた一言は誰の耳にも届くことなく室内に溶けていった。 「失礼します。お連れ致しました」 コツン・・・ 先導する秘書に続いて入って来た男は、最後に見たときとは比べものにならないほどやつれていた。まるで別人のように。 だが、その瞳に宿る炎だけはギラギラとした生命力が漲っている。 「下がっていいよ」 「はい。失礼します」 パタンと音を立てて扉が閉まったのを確認すると、あらためて目の前に立つ男を見上げた。 「・・・久しぶり。随分痩せたんじゃない?」 「・・・・・・」 その言葉にも何の反応も示さずにただじっとこちらを見ているだけ。 「・・・で? いきなりどうしたのさ。帰国したのも今知ったんだけど? しかもアポなしで来るなんてどういうつもり?」 「どこに隠した」 「え?」 「あいつを一体どこに隠した」 何のアポもなしにやってきたかと思えば、挨拶もなしに不躾に投げかけてくる友人の姿にもう笑うしかない。 ___ あの頃と何一つ変わってなどいないその姿に。 「こっちの都合もお構いなしに来た上に何? 意味がわからないんだけど」 「とぼけんじゃねぇ。お前しかいないだろ」 「だから何が?」 サラッと受け流すように即答されて明らかに苛立ったのがわかる。 その背後には見えない炎が燃え上がっているようにすら見える。 「お前以外にいるわけねぇだろ。俺をもってしてもあいつの消息を辿れないようにするなんて」 「・・・・・・」 「あいつは・・・・・・牧野は今どこにいる? 答えろよ、類」 睨み付けるようにぶつかった視線が、音もなく激しい火花を散らしていた。
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by: * 2015/02/24 00:10 * [ 編集 ] | page top
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司が動き出した。 つくしを捜して‥‥。 7年という長い歳月を、つくしを忘れてしまったことを、想い知らされる時がきた。 類は、どう答えるのか? つくしはどこに? あ~気になる~。 --管理人のみ閲覧できます--
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そうなんです。大分やつれちゃってるようです。 相当不摂生な生活を送っていたのでしょう。 生きることに執着していない状態でしたからね。 そんな彼には仙豆かマリオのキノコをプレゼントしてやりたい(笑) なんだかんだ類がキーマンになるのは宿命でしょうね(笑) --莉※様--
あら、いい感じですか? 良かったです~。 公開する前はほんとギリギリまで悩んだんですよ。 受け入れられなかったらどうしようって。 でも結構皆さんお好きなようでほっとしました~(ノД`) 忘れられた方の7年って重いですよね・・・ つくしの登場はまだ先になりそうです~。 --s※※uko様--
ヤバイですか? かっこいいですか? そのコメントがヤバイです~(≧∀≦) でも良かった、皆さんに読んでもらえそうで・・・ホッ(心底) ゆるりと展開していきますが、どうぞ長ーい目で見守ってくださいませ~。 --みわちゃん様--
そうなのです。 彼には辛いでしょうが7年の重みを痛感するのはまだまだこれから。 つくしがどこで何をしているのかはまだもう少し先になりそうです。 うふふ、早速焦らしプレイ?( ̄∇ ̄) --り※様--
はじめまして^^ 二次の世界が大好きなり※様に当サイトを気に入っていただけて嬉しい限りです。 有難うございます(*^^*) 記憶喪失話は鉄板ですが、やっぱり書き手としては一度はやりたい題材だと思います。 設定が似ていても個性はそれぞれ違いますし、 私らしいお話にできたらいいなと思っています。 そうですそうです、最後は信じてくださって大丈夫ですのでね。 ゆったりと見守ってあげてくださいませ。 これからもよろしくお願い致します(*´∀`*) --ke※※ki様--
えぇ~?!これでもどろどろですか? うぅ~ん、そしたら類出せなくなっちゃいますよ(苦笑) 類と司の友情&対立はもう鉄板ですから外せない要素ですね。 彼が絡まない方がむしろ不自然と言いますか。 しかも司がつくしを突き放して記憶喪失のままいなくなったとくればね・・・ 彼が知らんぷりするはずもなく。 とはいえ実際つくしとどう繋がりがあったのかというのはまだまだこれからなのですが。 どろどろの基準って難しいですね~。 とりあえず類と火花を散らすのは私の中では「全く」に分類されます(^_^;) --琴※様<拍手コメントお礼>--
おぉ~、ゾクゾクしながら読んでいただけてますか? 嬉しいです~(≧∀≦) 亀更新で焦れると思いますが、長い目で見守ってやってくださいね~! --は※※つ様--
はじめまして^^ 今作はこれまでの「ほっこり路線」とは違うので不安もあったのですが、 そうやって応援してくださる声がたくさん届いてほんとに嬉しいです。 有難うございます(*^^*) しかもドキドキしたからコメントをくださるなんて・・・この上ない喜びです(ノД`) どんな内容を書いたとしても我が家のつかつくは永遠ですから! そこは絶対に揺るぎませんのでどうぞ最後まで見守ってやってくださいね。 これからもよろしくお願い致します(*´∀`*) --コ※様--
有難うございます! そう言っていただけるとほんとにホッとします(ノД`) そうなんですよね~。道明寺の力をもってしても見つからない。 これって結構なことですよね。 類は何かを知ってるんでしょうか? そしてつくしは今どこに?! 気になるでしょうがつくしの登場はもう少し先になりそうです~。 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --みる※※ん様--
はじめまして^^ つくしはどこでどうしているのでしょうね? 登場はもう少し先になります。 あはは、仰るとおりの展開があってもいいと思うんですけどね。 現実だとむしろそうなるのが普通でしょ?!と思うんですが・・・ 二次の世界だと荒れるでしょうね~(^_^;) 私も暴れちゃうかもしれませんから(笑) これからもよろしくお願い致します(*´∀`*) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --きゃーーーー--
たまらん( `pq´)うっくっく 毎日楽しみです~ あ、このお話は毎日ではなかったか… 残念じゃのぉ --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
司君、随分荒んだ生活を送っていたようです。 さぁ、つくしは今どこに?! まだまだすぐには出てきませんよ~(笑) --ふ※※ろば様--
予定外ですが新連載です~。 近々新婚編も始まるので甘いと切ないをお楽しみくださいませ。 司が真っ先に類を疑うのはもうパブロフと同じですよね。 ハーハー鼻息荒い司犬が容易に想像できます(笑) 私もまだざっくりとした構成しか考えてないので 書きながら細かく肉付けしていく予定です~。(えっ!) どうなるかは私にもわかりません( ̄∇ ̄)ハッハッハ --ブラん子様--
あーー、悪いかおになってるぅ! これは暗にもっと坊ちゃんをいじめろということ?!(笑) なんだかね、絶対敬遠されると思ってたんですが 予想に反して皆さんの反響が大きくてびっくりしてます。 亀更新の予定ですけどもう少し増やした方がいいのかなぁ…?(・ム・) |
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