fc2ブログ
愛が聞こえる 2
2015 / 02 / 26 ( Thu )
ザアアアアアア・・・・・・・・・



頭から指先まで全身に冷たいシャワーを浴びても何も感じない。
冷たいどころかむしろ体の奥底から沸き上がってくる熱に体が燃え上がりそうだ。











「今さらそれを知ってどうするの」
「・・・・・・何?」
「仮に俺が牧野の居場所を知ってたとして、司がそれを知ってどうなるっていうの」
「決まってんだろ。あいつを取り戻しに行く」

即答した自分に久しぶりに見た親友が呆れたように肩を揺らした。

「自分が突き放しておきながら今度は取り戻すだって?」
「・・・・・・!」
「あ、勘違いしないでよ。別に司を責めてるわけじゃないんだ。犯人以外に誰が悪いわけでもない、あれは事故だったんだから。ただ、お前にとっては記憶が戻ってあの時のことがまるで昨日のように感じてるのかもしれない。でも実際はそうじゃない。7年という時間が流れてるんだ」
「・・・・・・」

2人の間を沈黙が走ると、類は椅子を回転させ窓の外の景色にへと目をやった。
まるでどこか遠くに想いを馳せるように。

「・・・・・・確かにお前の言う通りだ。それでも・・・それでも俺はあいつを失えない。たとえ身勝手だと罵られようとあいつを取り戻す。だから教えろよ。あいつは今どこにいる?」

背中越しに聞く声はどこか苦しげだ。
きっと後悔と懺悔の念で押し潰されそうになりながらも必死で踏みとどまっているに違いない。
7年という年月はそれほどに重い。


だが ____



「悪いけど俺は協力できないよ」
「・・・・・・何・・・?」

ゆっくり振り返ると信じられない面持ちでこちらを見ている親友を真っ直ぐ見据える。

「司が俺の親友であることは変わらない。それと同時に牧野も大事な友人だ。俺はあいつが望まないことを押しつけるつもりはない。・・・だから協力はしない」
「一体何を・・・・・・それじゃああいつは俺に会いたくないってのか?」
「・・・・・・」

黙り込んでしまった男にイラッとした司は全速力で近付くと、そのまま胸倉を掴んで締め上げた。

「どうなんだよ?! 答えろ、類っ!!」

ギリギリと首を締め上げられてもその表情は少しも変わらない。
まるで全ては予想通りと言わんばかりに落ち着き払っている。
その態度が余計司の苛立ちを煽った。

「・・・・・・思い通りにならないとそうやって感情的に暴れていくつもり?」
「何?」
「この前の電話の時も思ったけど、今日実際に会ってみて確信したよ」
「何がだよ」

遠回しに説教されているようでますます苛立ちが募っていく。
掴んだ手の力をさらに強めたところで類が冷静に言い放った。

「お前は7年前から何も成長してないんだよ」
「・・・・・・んだと?」
「司がこの7年をどう過ごしてきたかなんて俺は知らない。ただこれだけは確実に言える。お前の成長は18歳のままで止まってるんだ」
「・・・・・・何・・・?」
「思い通りにならないとこうやって力に訴えるところだって何も変わってない。俺を殴って気が済むなら殴ればいい。それでも俺の考えは変わらないよ」
「・・・・・・!」

この状況にもかかわらず顔色一つ変えずに平然とそう言ってのけた男にカァッと全身の血が燃え上がる。条件反射で胸倉を掴む手にもギリギリと震えるほどの力がこめられる。

「・・・・・・・・・くそっ!!」

ワナワナと震える手で目の前の男を突き飛ばすと、その苛立ちを落ち着かせるように何度も何度も大きく息を吐いた。
やり場のない怒りの矛先をどこへぶつければいいというのか。
今さら目の前の男を殴るなんてことができるはずもない。

司はぐしゃっと自分の髪を掻きむしると、しばらく何かを考えるようにしてそのまま黙り込んでしまった。だがやがてそれを黙って見ていた類の方に視線を送ると、明らかな強い意志を持った瞳で睨み付けた。

「俺は諦めねぇぞ。お前が教える気がないって言うなら他の手段を考えるまでだ」

はっきりとした口調でそう吐き捨てると、司は身を翻した。

7年ぶりの感動的な再会など夢のまた夢。
一触即発のピリピリとした空気のまま司がドアノブへと手を伸ばした。


「 司 」


ノブを握る手に力をこめたところでピクッと止まる。

「忘れるなよ。7年という時間は決して軽くない。何度も言う。お前を責めてるんじゃない。ただ、7年という時間が流れたことはどうやったって消すことのできない事実なんだ。記憶の戻ったお前が突っ走りたい気持ちもわからないわけじゃない。それでもよく考えろ」

じっと止まったまま司は何も答えない。
聞いているのかいないのか、振り返ることすらしない。

「・・・・・・・・・・・」

ガチャッ、 バタン・・・・・・

しばらくそのまま立ち止まっていたが、やがて何も言わずに司はそのまま出て行ってしまった。


挨拶もなしに突然やってきたかと思えば無言でこの場を立ち去っていく。
我が親友ながら相変わらずな振る舞いに思わず笑えてしまう。


___ 本当に7年前から何も変わっていないのだと。


・・・・・・いや、失ったものが大きい分むしろ状況は悪化しているのかもしれない。



「 これはお前のためでもあるんだ、司 」



そう呟いたところで肝心要の当人の耳に届くはずもなかった ____









ザアアアアアアア・・・・・・・・・・



冷水を浴びれば浴びるほどに体の奥底から得体の知れない炎が燃え上がってくる。
今自分が浴びているのは実はガソリンでどこからか引火しているのではないかと思うほどに。


手をついた先にある鏡に映る自分を見つめる。

痩けた頬にギラギラと光る瞳。
そのアンバランスさが際立つ。
それでも、こうして己の顔を見ることなど一体いつぶりのことだろうか。

それと同時に思い出す。
久しぶりに見た己の友人の姿を。
同じようでいて同じでない。
確実に7年という時間を感じさせる風格を伴っていた男の姿を。


それなのに自分は・・・・・・



何故、・・・何故7年もの間忘れられていたというのか。

こんなにも、こんなにも求めて止まない唯一無二の存在を。

薄暗い水の底に沈んでいる間手を伸ばしていた光はあいつだった。

そんな簡単なことに何故気付くことができなかったのか _____




ガッシャーーーーーーーン!!




鏡に映る自分が忌々しい。
やり場のない怒りをぶつける先など己しかいない。

力でボロボロに砕くことはできても、忌々しい過去を消すことなどできやしない。




「絶対に諦めねぇぞ・・・・・・!」




ギリッと握りしめた拳からポタポタと滴り落ちる真っ赤な滴が、水に滲んでは延々と渦を描いて消えて行った。





 にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
ポチッと応援をよろしくお願い致します!
関連記事
00 : 00 : 00 | 愛が聞こえる(完) | コメント(20) | page top
<<幸せの果実 1 | ホーム | 道明寺邸の人々>>
コメント
----

司にどんなに教えろと言われても、全く動じずやり過ごした類。
それどころか、司の心に痛手を与えたように思った‥‥。
でも、司のためでもあると言った言葉の意味は?
確かに7年の歳月が流れてるのに、司にとっては記憶を失ったあのときに戻ったような感じなのかな?
さあ、司はどうする?
めっちゃ気になりすぎる~(笑)
by: みわちゃん * 2015/02/26 00:27 * URL [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/02/26 00:37 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/02/26 01:12 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/02/26 01:21 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/02/26 09:20 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/02/26 10:49 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/02/26 12:45 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/02/26 21:35 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/02/26 23:06 * [ 編集 ] | page top
--k※※ru様<拍手コメントお礼>--

働くお母さん、毎日ご苦労様です!
せっかくの息抜きタイムなのにこんな内容ですみません(笑)
くったくたの時は元気なときに読むように後回しされてくださいね(笑)

でも私ですから!
最後は笑っていただけるように頑張りますよ~^^
by: みやとも * 2015/02/26 23:31 * URL [ 編集 ] | page top
--みわちゃん様--

類君、司相手でも引かないときは強いですからね。
今回の言葉も彼なりの大義があってのことなのでしょう。
どっちも悪くないだけに難しいところですよね。
すぐに謎は解明されないので「んむむ~!!」となると思いますが、
そんなときは他の話で心を落ち着かせてやってください(笑)
by: みやとも * 2015/02/26 23:35 * URL [ 編集 ] | page top
--k※※hi様--

おぉ、通な楽しみ方をしていただけて嬉しいです^^
おっしゃる通りで、「あなたの欠片」とこちらの司君、
年齢的にはほぼ同じなんですけど中身が真逆です。
彼の成長にはつくしは必要不可欠なんですよねぇ。
その一方で時間の分だけ成長していた類。
その対比を結構意識して書いていきたいんです。

やっぱりね、記憶戻りました、じゃあすぐハッピーに♪
となったら1話(というか10行くらい)で終わっちゃいますから(笑)
坊ちゃんには辛くても頑張ってもらわないと!
by: みやとも * 2015/02/26 23:39 * URL [ 編集 ] | page top
--セ※ジ様--

まだ出だしですのでね。
なーんにも状況がわからないだけにただ切ないだけですよね。
坊ちゃんには頑張った分だけ幸せになれるよ~!と教えてあげたい(笑)

新婚編もいよいよ始まりますよ~^^
真逆の世界観をお楽しみください。
by: みやとも * 2015/02/26 23:41 * URL [ 編集 ] | page top
--ke※※ki様--

F4って全員が心の奥に闇を持ってる印象です。
司がそれを露骨に表に出すから他が目立たないだけで、
全員本質的なところはあまり変わらないんじゃないかと。
(実は思ってる以上に純。そして闇を抱えてる)

類が意地悪かどうかはわかりません。
司の思い通りに動かない=意地悪だとは思わないので。
まぁ司目線だけで見ればそうでしょうけどね。
でもきっと彼の言い分にも理由があると思うので、
司がこれからどうしていくかってところでしょうね。

ちなみに年数はあまり深く考えてません^^;
でも書きながら何か意味を持たせられそうだったらそこも活用しようかなと。
いっつもこんな感じで行き当たりばったりなんですよ~(笑)
by: みやとも * 2015/02/26 23:48 * URL [ 編集 ] | page top
--s※※uko様--

坊ちゃん、荒れてますよね~。
状況的にはつくしが漁村に消えたあたりの感じでしょうか。
心の荒れっぷりはもっと激しいでしょうけど。
序盤は皆さんにも焦れながら耐えてもらわねばならない展開が続きそうです。
by: みやとも * 2015/02/26 23:54 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--

司目線で見れば辛い状況ですけど、
きっと冷静に見れば類の言葉にも納得できる何かがあるのだと思います。
どうか坊ちゃん応援隊で頑張ってください!(笑)
by: みやとも * 2015/02/26 23:57 * URL [ 編集 ] | page top
--さと※※ん様--

おぉ、こういう路線もお好きですか?
ぎりぎりまで悩んだんですが、
ラブラブでハッピーだけを毎日だと逆に煮詰まりそうだな・・・
とチャレンジする方を選択しました。

状況的に坊ちゃんかなり不利ですが、
野獣が黙っておとなしくしているわけがございません。
長~い目でお楽しみいただけたら嬉しいです^^
by: みやとも * 2015/02/27 00:28 * URL [ 編集 ] | page top
--サ※様--

お返事不要とのことだったのですがどうしてもお伝えしたくて。

な~~んにも気にされなくて大丈夫ですよっ!!
私何にも気分を害してなどいませんから^^
サ※様こそどうか気に病まれないでくださいね?!

私はむしろ嬉しかったんですよ?
だって考えが私と全く同じだったんですもの。
そんな私が描く世界です。
どうか信じていてくださいませ。

この物語を公開するかは迷ったんです。
でもブログを長く続けるならばワンパターンの話ばかりではスランプに陥るなと判断しました。
新婚編も始まりますから、どうかそちらで気分を上げていきましょう!^^
by: みやとも * 2015/02/27 00:33 * URL [ 編集 ] | page top
--コ※様--

そうなんですよ。
類がこういう態度に出るのにもきっと理由があるに違いなくて。
つくしは今どこにいるのでしょうね?
しばらく焦れ展開が続きますが新婚編で中和してくださいね(笑)
by: みやとも * 2015/02/27 00:38 * URL [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/02/27 00:47 * [ 編集 ] | page top
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

| ホーム |