幸せの果実 3
2015 / 03 / 06 ( Fri ) 「つくしー! こっちこっち!」
入った店の奥で久しぶりに見る顔につくしも自然と笑顔になる。 「ごめーん! 待った?」 「ぜーんぜん。 あたしもさっき来たところだから。ねっ?」 「うん」 息を切らしながら椅子に腰を下ろすと、帰国以来久しぶりに顔を合わせる3人が既に席に着いていた。 「全員揃うのってつくし達が帰国した次の日以来だっけ?」 「多分そうですね」 「えー、ってことはもう2ヶ月近く経つの? 早いー!」 「先輩、飲み物は何にされますか?」 「えっ? えーと・・・じゃあカプチーノで」 「了解です」 すぐに話に花を咲かせる滋にそれに相槌を打つ優紀、そして世話焼き上手な桜子、いつになってもこの自然体な構図は変わらない。 「なんかごめんね? 皆忙しいのにあたし達の都合で集まってもらっちゃって・・・」 「何言ってるの! 親友の晴れ舞台なのに駆けつけない方がおかしいでしょ?!」 「っていうか呼んでもらえない方が滋さん怒りそう・・・」 「そんなのあったり前じゃん! 万が一にもそんなことがあったら手製のバズーカ砲を持って式場に乱入するよっ!」 「バズーカ砲ってあんた・・・」 「でも滋さんなら何の違和感もなさそうなところが怖いですよね」 「あははは・・・!」 すぐに笑い声が溢れるところも何も変わらない。 「桜子は今ロンドンにいるんだっけ?」 「はい。今手がけてる仕事の都合でもうしばらくは向こうにいることになりそうです」 「わざわざ帰国させちゃって大丈夫だったの?」 「もちろんです。それとこれとは全く別問題ですから。先輩が気にするようなことは何一つありませんよ」 「そっか・・・ありがとね」 「とんでもありません」 ニッコリ笑って見せた笑顔は以前に増してまた美しくなった気がする。 つくし達の式まであと2日。 目前まで迫った今日、滋の声かけで久しぶりにT4が一堂に会した。 4人全員が揃うのは、帰国した翌日にF3も含めた全員が集まった時以来だ。 今現在全員がバリバリの社会人。 ましてや優紀以外は全てが上流階級の人間。 それぞれが世界中を飛び回り、昔のように全員が顔を揃えることは難しくなっていた。 「つくしは今お邸の仕事を手伝ってるんだっけ?」 「うん。最初は普通に働くつもりでいたんだけど、ほら、籍だけ先に入れて式とか諸々はまだだったでしょ? その準備でバタバタするから司が落ち着いてからでも遅くはないんじゃないかって」 「確かに色々準備大変そうだもんねぇ・・・」 「なんだかね・・・。招待客のリストとか見てるとそれだけで気を失いそうになるよね」 「あははっ、何それ」 「嘘じゃないよ! だって、普通にテレビとか新聞の世界でしか見たことのない人の名前なんかがずらっと並んでるんだもん。平気でいろって方がムリでしょ」 「確かにそれはそうかも・・・」 「優紀っ! やっぱりあんただけだよ、この気持ちをわかってくれるのはっ!!!」 庶民の感覚を理解できるのはこの中では優紀くらいのものだろう。 つくしは優紀の両手をガシッと掴むと、うるうるしながらうんうんと激しく頷いた。 「あははっ、結婚してもつくしは変わらないねぇ」 「当たり前じゃん。人はそんなに簡単に変わらないんだよ」 「先輩のそういうところが道明寺さんの心を掴んで離さないんでしょうねぇ・・・」 「はぁっ? なんでそういう話になるのよ」 「だって事実そうなんですから。 ・・・っていうか今後もお仕事続けられるつもりなんですか?」 「え? もちろんだよ。なんで?」 「なんでって・・・」 キョトンとするつくしに残りの3人が顔を見合わせる。 「勝手な想像だけど、道明寺さんってそのままつくしにお邸に入って欲しいのかな~、なんて」 少し言いづらそうに優紀が言った。 「あー、そういうことか。まぁねぇ、それも0ではないんだけどね。でも基本的にはあたしのしたいようにすればいいって言ってくれてるよ」 「へぇ~、司も大人になったんだぁ」 「あはは、大人って。・・・ほら、あたしの貧乏気質って見ての通りあいつと結婚しようがどうしようが消えないでしょ? やっぱり何か働いてないと落ち着かないっていうか。そんなことはあいつもお見通しだろうし、条件さえ呑めば好きにして構わないって。まぁ今は準備とお邸での仕事だけでもいっぱいいっぱいだけどさ。結構お邸での仕事ってあるんだよね~」 「条件? 何それ」 「え? あっ・・・!」 そこまで詳しく話すつもりはなかったつくしが思わず口に手を当てる。 だが既に遅い。 全員の目が興味津々と自分に注がれているではないか。 こうなると自白するまでは追求が続く。 つくしははぁ~と息を吐くと、そうなる前に自分から話し始めた。 「・・・あいつの目の届く範囲で働くこと、それが条件」 「それってつまりは秘書ってこと?」 「いや、必ずしもそうじゃないんだけど・・・まぁあいつの直属の部下ならなんでも」 「へぇ~、独占欲の強い司なら邸にいろって言ってもおかしくなさそうだけど。NYでの秘書生活が案外楽しかったのかな」 「副社長と秘書・・・なんか響き的にはHだもんね」 「ちょっと、優紀! あんた何言ってんのよ!」 「だってぇ~・・・」 とんでもないことを言い出す優紀の脇腹を突っつくが、今度は滋の目がキランと輝きだした。 「上司と秘書の情事・・・うぅ~、たまらんっ!!」 「滋までやめてよねっ!!」 「だってあの司だよ? そういうことが一切なかったの?」 「そっ、それは・・・」 何かを思い出したのか、つくしの顔がみるみる赤く染まっていく。 「あーーーーーーっ! あったんだあったんだ?! なになになに、どういうシチュエーションで?! デスクに押し倒されてそのまま? それとも応接用のソファーに?!」 「ちょっ・・・声が大きいからっ!!」 「むごごごっ・・!」 「先輩の声が一番大きいですよ。・・・そっか、さすがは道明寺さん、しっかりやることはやられてるんですね」 「桜子っ!!」 「ふふふ」 全くこの人達は相変わらずっ!! というかそもそもあいつがあんなことをしなければ・・・ つくしの脳裏に誰一人として教えていない秘密の情事が蘇る。 あれはとあるパーティに出席するために仮眠室で着替えていた時のこと。 その前に会ったある男性会社役員がつくしに色目を使っているだのなんだの言い出した司の嫉妬により、ドレスと素肌ギリギリのところにマーキングを施されたことがあった。 だがそこは野獣。 一人で勝手に時間と相談した結果大丈夫だと判断し、抵抗するつくしを問答無用で押し倒してそのまま・・・ 「あー、思い出してる思い出してる」 「えっ?! ちっ、違う違う違う違う!!」 「そんな耳まで真っ赤な人に否定されても説得力は皆無ですよ」 「う゛っ・・・!」 ガバッと咄嗟に押さえた耳は燃え上がるように熱い。 「今更恥ずかしがらなくたっていいじゃーん! だってあの司だよ? むしろそんなことの一つや二つ、ない方が心配になるよ」 「いや、それなんかおかしいから」 「なんだかんだ言ったって幸せなんでしょ? つくし」 「う・・・・・・うん、それはまぁ」 ぽっとほのかに頬に赤みが差す。 そんなつくしの背中を滋がバシッと一発叩いた。 「くーーーっ、結局はのろけかこのやろうっ!!」 「いったあ!! ちょっと、少しは手加減しなさいよっ!」 なんだかこのところ背中を殴られてばかりじゃないか?! というか明後日にはドレスを着るんだから手形が残るのだけは勘弁して欲しい! 「うるさいっ! 幸せボケした奴にはこれくらいがちょうどいいのじゃ!!」 「滋さん今度は何設定・・・」 「ワシはおのろけ成敗仙人じゃっ!!」 「いや、相変わらず意味わかんないから」 「あはははっ!!」 4人が揃うと相変わらず笑いと大騒ぎが止まらない。 「でもつくしってさ、いずれあの楓社長みたいな立ち位置になるの?」 「えっ?」 優紀の何気ない一言にカプチーノを一口飲み込もうとしていた手が止まる。 「いやほら、道明寺さんの奥さんってことはいずれは社長夫人になるわけでしょ? ってことはああいう表舞台に立っていくのかなーって」 「ないないないない! それはないっ!」 「え、でも可能性はなきにしもあらずでしょ?」 「そうだけど、あたしはお義母さんとはタイプが違うよ。あたしは裏方で働いてる方が性に合ってると思う」 「それは確かに言えてるかも・・・。つくしって昔から気がつけば中心に立ってるような人間だったけど、自分から真ん中に立つってイメージはないんだよね」 「でしょ? 仮にあたしがお義母さんみたいな立ち位置に立ったとしても、きっと空回りして上手くいかなくなっちゃうと思う。もちろん仕事は続けていくし、道明寺財閥のために一肌でも二肌でも脱ぐつもりだけど、あたしはあいつの後ろから支える形で十分だよ」 「縁の下の力持ちかぁ~。いかにもつくしらしくていいかもね」 「適材適所って言葉がありますしね。先輩の仰るとおり、今の社長みたいに率先して自らトップに立っていく姿は想像ができないですね」 「そうそう」 つくしは止まったままだった手を動かしてカプチーノを一口含むとふぅっと息を吐いた。 「それにさ、」 「ん? 何?」 「いつか・・・いつかもしあたしたちに新たな家族ができるんだとするなら・・・その時はしっかり自分の手で育ててあげたいなって思ってるから」 「つくし・・・」 「もちろんわかんないことだらけで人の手を借りてばかりだとは思うよ? でも下手でもいいからちゃんと自分で向き合って育てていきたいんだ。・・・って気が早いんだけどさ。あはは」 照れくさそうに笑うつくしに3人がうんうんと頷く。 「そっかそっか。うん、そうだね。つくしなら絶対にいい肝っ玉母ちゃんになるもんね」 「表舞台は今の道明寺さんなら怖いものなしでしょうからね。いずれ子どもが出来てさらに守る者が増えればもっと強くなるでしょうし。先輩は内助の功を発揮してあげてください。・・・とはいえ結局なんだかんだで目立っちゃうんでしょうけど。でもそれが先輩らしくていいんですよ」 「え? 最後何か言った?」 「いいえ、こちらの話です」 「・・・・・・?」 くすくす顔を見合わせて笑い合う3人を見ながらつくしが不思議そうにしているが、当の本人は何故笑われているのかがわからない。 「あーでもいよいよ明後日かぁ」 「早いよねぇ・・・」 「っていうか入籍してもう2ヶ月近く経つことにびっくりだよ」 「あー、それもほんとにねぇ・・・」 「って、ちょっとつくし! 当事者の自覚あるのっ?!」 まるで人ごとのように話すつくしの腕を滋がガシッと鷲掴みする。 手にしていたカップがひっくり返りそうになって慌ててテーブルに置いた。 「ちょっ・・・零れちゃうから! 自覚って言っても・・・なんか緊張しすぎて逆に今は実感が湧かないんだよね。さっきも言ったけど、招待客の多さだけじゃなくてその顔ぶれも非現実すぎて・・・。自分ではどうしていいのかわかんないんだもん。だからもう披露宴に関しては司に全部任せることにしたの。あたしはとりあえず笑顔を絶やさずにいればいいかなって」 「あはは、それが一番間違いないかも」 「正直披露宴はおまけみたいなものですものね」 「確かに。メインはその前の式とその後の近しい人間だけのパーティだもんね。披露宴は仕事関係の人のためのお披露目みたいなものだからねぇ」 「あたし、終わる頃には顔筋が戻らなくなってるかも・・・」 「あはははっ! その時はこのゴッドハンドがマッサージしちゃる!」 「や、やめてっ! その手の動き変だからっ!」 滋がわさわさしている手の動きはどこか卑猥でつくしが思わず後ずさりする。 「ついでにモミモミさせろっ!!」 「ぎゃーーーっ、やっぱりっ! やだやだやだっ!! 桜子助けてっ!!」 「えっ?! ちょっ、先輩っ!」 「こら、お肌ピッチピチの新妻っ! 腹が立つほどツルツルした乳を揉ませてみやがれっ!!」 「ぜっっっったいやだっ! 滋の触り方いやらしいんだもん! あっちいけっ!!」 「司ほどはいやらしくないよ~~~だっ」 「先輩! 人を盾にするのやめてくれませんかっ?!」 「っていうか滋さん、仙人の次は一体何なんですか?!」 「うへへへへ、今度はただの変態オヤジだよ~~」 美貌に似合わぬニヤニヤ顔は変態顔負け。 というかほとんど素に近いのではなかろうか。 桜子の背中に隠れて必死で逃げ回るつくしをぐるぐる追いかけ回す姿はまるで子どもだ。 「いつまでも隠れるつもりなら・・・・・・まずは桜子からだよっ!」 「えっ? ちょっと・・・?! ひっ、やめてくださいっ!! 先輩っ!!」 「桜子許せっ!」 「いやぁ~~~っ!!」 「・・・・・・社長、どうされましたか?」 やいのやいの騒がしい店の奥をじっと見つめたまま動かない上司を秘書が不思議そうに覗き込む。 「・・・いや、何でもない」 「・・・? この後は是枝社長との会食になっております。そろそろ移動のお時間です」 「あぁ、そうだな。行こうか」 「はい」 先に店を後にする秘書に続いて出ようとしたところで立ち止まると、もう一度賑やかな一角を振り返った。 そしてその中心にいる一人の女をじっと見つめる。 「牧野つくし・・・。 道明寺つくし・・・・・・か」 一見大財閥に嫁いだとは到底思えないような女をしばしじっと観察していたが、やがて男はクッと口角を上げて不敵に笑うと、カツンと革靴の音を立てて颯爽とその場を立ち去っていった。 じっと見られていたことなど、当の本人は気づくはずもなかった。
|
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/03/06 00:46 * [ 編集 ] | page top
----
そっか〜結婚式まで2日ですか。 集まれば、遠慮ない会話の仲間、優希まで・・。 司なら知らない所で何を言われても恥ずかしくも、隠すことでもないだろうし。 で、やっぱ気になるのは最後に出てきた社長さん。誰でしょう? 味方か、敵か? --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ke※※ki様--
ガールズトークを遠目に見ている怪しい影。 さぁ誰でしょうね? 平穏なだけの新婚生活じゃあ連載にする意味がありませんから♪ ラブラブながらも色々起こりますよ~! --H※様<拍手コメントお礼>--
ははは、安心して読めるの「安心」が人によって度合いが違うのでね。 何をもってそう言えるのかは難しいところです。 こちらのつかつくはラブラブという意味では安心してもらえるのでは?と思ってますが。 でもせっかくの連載ですからね。 色んな事件(?)は起こりますよ~^^ ただイチャイチャするだけなら短編でいいんじゃない?と個人的には思ってますので。 --みわちゃん様--
結婚までの準備を細かく書くか迷ったんですけど、 そうしたらきりがないと思ってやめました^^; あくまでも書きたいのは2人の新婚生活&ドタバタ。 早速謎の社長が出てきました。 彼が新婚つかつくに波乱を巻き起こす?! --k※※ru様<拍手コメントお礼>--
正反対の展開の連載ですがついてこれてますかね?^^; 皆さん大丈夫かな~と思いつつ頑張って書いてます。 ラブラブ新婚さんいらっしゃいのこちらでございますが、何やら怪しい社長さんの登場です。 新婚さんとはいえつかつくですから、色々起こりますよ~! 歩く事故発見器がいることですし(笑) 猫はね~、私大好きなんです。 猫馴らし検定なるものが存在するなら飛び級で師範代になる自信がありますっ!(笑) --ゆき※※う様--
何やら怪しい社長さんが現れましたね。 次回は式&ドタバタ(?)披露宴等々になります。 ラブラブな2人にも色んなハプニングが巻き起こっていきますよ~! 何せ連載ですからね。 どうぞお楽しみに~^^ --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --す※れ様<拍手コメントお礼>--
さぁ、気になる男の正体は一体?! その前にまずは結婚式です~^^ ・・・が、これが結構難しくて筆が進んでません^^; もうしばしお待ちくださいね~。 --こ※様--
うふふ、ラブラブモードであることに変わりはありませんよ~。 当の本人達は至って順調なのです。 ただそこは連載ですから、色んな嵐(?)が吹き荒れていきますよ。 夫婦になった2人の絆をお楽しみいただけたらと思っています。 |
|
| ホーム |
|