幸せの果実 4
2015 / 03 / 18 ( Wed ) その日は朝から澄み渡るような青空が広がっていた。
前日まで降っていた雨が嘘のように。 まるで2人の門出を祝福してくれているかのように。 「ぐずっ・・・うぅっ・・・つくし、つくしぃ~~っ」 太陽がキラキラと差し込む室内に似つかわしくない何とも情けない声がこだまする。 鏡に映された女はそんな男を呆れた顔で見ている。 その姿もまた、身につけた衣装には似つかわしくない間抜け面だ。 「もう・・・パパ! とっくに入籍してるのになんでそんなに泣いてるのよ?!」 「ぐすっ、それとこれとはまた別なんだよぉっ・・・ぐずっ・・・」 そう言うやいなやますますむせび泣き始め、我が親ながら開いた口が塞がらない。 「まぁまぁつくし、これが親心ってものなのよ」 「ママ・・・」 「娘のこんなに綺麗な姿を見られるんですもの。嬉しくて泣くなって方が無理な話じゃない」 鏡越しに映った母の目にもうっすらと光るものが見える。 なんだかそれを見ていたら自分の目まで潤んできそうになるが、慌ててその涙を引っ込めた。 今泣いてしまったらせっかくのおめかしが台無しだ。 「姉ちゃん、義兄さんが来たよ」 「え?」 視線を上げるとカタンと言う音と共に実に凜々しい姿へと変貌した男が入ってくるのが見えた。 「準備できたか?」 「あ・・・うん」 すぐには振り向けないためゆっくりとその体を入り口の方へと向けていく。 すると徐々に見えてきたつくしの姿に目の前の男が息を呑んだのがわかった。 「・・・っ」 「・・・!」 あらためて真正面から互いの姿を見合うと、どちらからともなく頬がほんのりと赤く染まっていく。 悔しいけれど、この男が凄まじくいい男なのは抗いようのない事実ではあった。 だが今目の前にいる男はその比ではない。 ミーハーではないつくしをもってしても思わず見とれてしまうほどに、今日の我が夫は凜々しく逞しい。 そしてそれと全く同じように、司は司でつくしの姿に呆然と見とれてしまっていた。 互いにポカンと口を開けたまま見つめ合うこと数十秒、まるでそこだけ時間が止まってしまったかのように異質な甘い空気が漂っていた。 「まあ~~~っ! 道明寺さん、なんて素敵なお姿なんでしょう!」 なんとも照れくさいはにかんだ空気を切り裂くような黄色い歓声が響き渡る。 見れば千恵子が目を特大ハートにしてうっとりと司を眺めているではないか。 見とれるあまり意識的か無意識か、じりじりとその距離を詰めている。 司もそれに気付いたのか、引き攣った笑いでじわりじわりと後退していく。つくしの母でなければぶっ飛ばされていること間違いなしだが、よもやそんなことができるはずもなく。 このままでは中年女子による壁ドンになること違いなし。 名付けて 『 中ドン 』 まるで爆弾の投下音のような響きだが、あながち間違いとも言えない。 そんなの誰が見たいんだっっっ!!! 「ちょっと、ママ! 司が困ってるでしょっ!!」 「・・・ハッ!! あらやだっ・・・私ったら! 恥ずかしい~~!!」 いや~んとでも言わんばかりに頬赤らめて体を捩らせているいい歳の女。 イヤはこっちのセリフだっつーの! 「道明寺さん、ごめんなさいね? 道明寺さんの和装姿なんて初めて見たものだから、つい見とれてしまいました」 「いえ、大丈夫です」 どう見てもその笑顔は若干引き攣っているが、ハイテンションの千恵子が気付くはずもなく。 とはいえ千恵子がそれだけ興奮してしまうのも致し方ないことなのかもしれない。 何故なら ____ 「義兄さん、本当にかっこいいですね」 「おう、進。 惚れんじゃねーぞ?」 「あはは、義兄さんが世界一いい男なのは間違いないですけど、残念ながらそっちの気はありません」 「くっ、悪ぃけどそれはこっちのセリフだ」 「はははっ、ですよね」 顔を合わせて笑いあう男同士、義理の兄弟はいつの間にやらすっかり気の合う友人のような関係になっていた。 結婚後も進は司のことを 「道明寺さん」 と尊敬の念も込めて呼び続けていたが、それを司が許さなかった。いつまでも他人行儀な呼び方をやめないならお前を弟だとは認めねぇなどと、ほとんど脅すような形で強制的に変えさせたが、結果的にそれが2人の距離をグッと近づけることとなった。 社会人となった進にとっては司は純粋に尊敬すべき人間だった。 この若さで大財閥を引っ張っていくことがどれだけ凄まじいことなのか、新米ながら・・・いや、新米だからこそそれを身に染みて感じているのだ。 そして見た目の格好良さに加えて持ち前の男らしさ。 全てが進の憧れの的だった。 司は司で可愛い弟分ができたようで、まんざら嫌そうでもなく。 というよりむしろ誰の目にも嬉しそうなのは明らかだった。 「姉ちゃん! いつまで見とれてんだよ」 「・・・えっ? あ、あぁ、見慣れないから・・・つい」 「ははっ、見とれてたのは認めるんだ」 「う、うるさいよ、進っ!」 「へぇ~、見とれてたのか?」 「もうっ、司までうるさいっ!」 そう。 今日の司はつくしですらうっとりと見とれてしまう。 ____ 何故なら普段滅多に見ることのない和装だから。 式をするにあたり、お前の願望を何でもいいから出しまくれと言われた。 その時につくしの脳裏に浮かんだのはチャペルでの洋式ではなく厳かな神前式だった。 披露宴では立場上大々的なものになってしまうのは避けられないし、つくしも道明寺に入った人間としてそこは覚悟していた。 そんな中でも、式だけは限られた人間だけで落ち着いた中でやりたかった。 そこで和式に拘りたいという想いがふっと湧き上がってきたのだ。 別にそれまで神前式に対する拘りがあったわけでもない。 だが司に聞かれてあらためて思ったのだ。 人生の節目に自分が日本人であることを誇りに思いたい、と。 そして昔から伝わる和装に身をつつんで厳かに誓いを立てたいと。 司は面倒くさがるかと内心心配もしたが、それは全くの杞憂に終わった。 二つ返事であっさりとゴーサインが出た。 後でわかったことだが、司自身にも拘りは全くなかったし、披露宴でさほど自由が効かない分、式はつくしの思う存分やりたいことをさせてやりたいと思っていてくれていたらしい。 それがつくしには何よりも嬉しかった。 自由にできることが嬉しいのではない。普段あまりそういうことに頓着がないように見えてしっかりと考えてくれていたことが嬉しかったのだ。 司の深い愛情を感じることができて。 そして迎えた今日、実際に昔ながらの黒の紋付き袴を身につけた司の精悍さ。 世の女性が見たらほぼ全員がほの字になること間違いなしだろう。 いや、つくしですらうっとり見とれてしまうほどにカッコイイのだから絶対だ。 「俺は見とれてたぜ」 「えっ?」 「お前のその姿、想像以上にすっげー綺麗だ」 「司・・・」 相変わらず恥ずかしげもなく堂々とそんなことを口にする。 だがつくしも想いは同じだった。 ほんのりと頬を染めながらも嬉しそうに笑うと、自分でも驚くほどにすんなりと素直な気持ちが出ていた。 「・・・ありがとう。 司もすっごく素敵だよ」 「ったりめーだろ。 俺は何をやってもいい男なんだよ」 「えっ? ・・・ぷっ、あはははっ! それがなければもっといい男なんだけどね~」 「バカ言えよ。これがあってこその俺らしさだろ」 「・・・そっか。その通りかも。あははっ」 せっかくの白無垢姿で美しくなっているというのに、大口をあけて笑う姿はいつもと何一つ変わらない。司はそんなつくしをを見て目を細めると、スッと右手を頬に伸ばした。 触れた感触につくしの顔から笑いが消えて行く。 そのまま見つめ合うこと数瞬、どちらからともなく吸い寄せられるように近づいていく ____ 「 ごほごほっうぉっほんっ!!」 「 はっ?!」 ドンッ! 「 うおわっ!!」 ドサドサッ!! 「「どっ、道明寺様っ!!」」 「義兄さんっ!!」 突然響いた咳払いに咄嗟に目の前にあった体を突き飛ばした瞬間、夫が視界から消えた。 と同時にその場にいた家族全員の悲鳴があがる。 つくしが慌てて立ち上がると、目線を一段下げたところで尻餅をついている姿が目に入った。 「いってぇ~!!」 「ひっ、ひぇえぇっ! ごっごめんっ!! 大丈夫っ?!」 「・・・じゃねぇよっ! お前は式の直前までこのオチかよっ!!」 「ひーーーん、ごめぇ~~~~んっ!!」 「ゴメンで済むか! このドアホっ!!」 「うわーーーーーんっ!!」 最高級の白無垢姿の女と最高級の正絹袴を身につけた男、いずれもこれ以上ない極上のものを身につけているというのに、口から出るのはその姿からはあまりにもかけ離れた子どものようなやりとりだけ。 「ま・・・ママ、僕たちは外で待ってようか・・・?」 「そっ、そうね、パパっ! そうしましょう!」 「そうしようそうしよう。しばらくは終わらないよ、コレ」 いい雰囲気に思わず咳払いしてしまったせいでこんなことになったと責任を感じている晴男は、我先にと一目散に控え室から消えて行く。それを追うようにして千恵子も続く。 最後に進が扉まで行ったところでふっと振り返った。 「化粧が落ちない程度にしときなよ、姉ちゃん。着崩れなんか論外だからな」 どう見てもいちゃついているとしか思えないゴタゴタを続ける2人に何とも意味深な言葉を投げかけるが、当の本人が気付くはずもなく。 そんな2人を見てやれやれと呆れたように溜め息をつくと、駄目押しのように 「ごゆっくり~」 と声を掛けてそのまま外へと出て行った。 それから司が式に上機嫌で現れるまでの間、2人に何があったのかは・・・誰にもわからない。
随分お待たせしてしまいました~m(__)m これからぼちぼちこちらも更新して参ります! こちらでは基本イチャコラをお楽しみいただきつつ、もちのろんでハラハラドキドキ(?)してもらえる展開もご用意しております。どうぞお楽しみに^^ |
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楽しみにまってました ありがとう これからも楽しみです 司の和装みてみたい
by: ひさ * 2015/03/18 00:16 * URL [ 編集 ] | page top
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えー、二人に何があったか、知りた〜い。 司の和装見た〜い。 久しぶりのほのぼの、幸せモード。 次はいよいよ結婚式ですね。 楽しみ〜。 --ひさ様--
お待たせしてしまいました~m(__)m ね~、司の和装見てみたいですよね~! 思っきし自分の願望を詰め込んでみました(笑) 絶対絶対かっこいいと思うんですよね~! 誰か描いてくれないかな・・・(笑) --名無し様<拍手コメントお礼>--
バランス良く更新していけたらいいな~と思ってます。(願望) 糖分補給はこちらで♪ --マ※ナ様<拍手コメントお礼>--
ほんと、お待たせしてしまいましたm(__)m 向こうが甘くない分こっちはたっぷりと♪ あはは、司が出張に来た時もしかしたら街で遭遇するかも?!とドキドキしちゃいました? じゃあ今後も頻繁にそちらに出張に行かせますね(笑) --みわちゃん様--
えーと、一体何があったんでしょうね? ナニが・・・ えっ、ナニ?! いやいやいやいや、白無垢に袴まで装備してよもやそれはナイ・・・ ナイ・・・よね? ナイ・・・はず。 いやいやいやいやいくらなんでもそこまでは・・・・・・ ナイ・・・・・・よね? --k※※ru様<拍手コメントお礼>--
随分とお待たせしてしまいました~m(__)m こちらは幸せ&おバカ全開ですよ~! 数話結婚式関係が続いて、その後はラブラブな2人に波乱が巻き起こる?!予定です( ´艸`) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
こちらは結構前に書き上げてたんですけどね。 あっちでは両親が死んだとかいいながらこっちではおバカやってるわけじゃないですか(笑) だからタイミングを伺ってたんです。 あっちの坊棒にはしばし出番はないでしょうから、こっちで大暴れです~。 ・・・いや、さすがに和装になってまでやってないでしょ!! ・・・・・・ないよね?(震え) --管理人のみ閲覧できます--
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ほんとにタイムリーでしたね! 朝コメント拝見してあららっ?!とずっこけちゃいましたもの(笑) 司の和装は意外でしたか? でもいい男は何を着ても絶対いい男なはず。 見たいですよね~!( ´艸`) --ke※※ki様--
ふふふ、中ドンついでにチューしたいですよね(! 例えその後殴られようとも一度でいいからしてみたい・・・( ̄∇ ̄) 悩みに悩んで神前式を選びました。 やっぱりね、日本人なら和装でしょ!ってことで。 あとは司に袴を着せてみたいという個人的願望で(笑) とかいいつつ文章だけで絵はないんですけどね。 皆さんに妄想で萌えていただけたらと思いまして(笑) おぉ~!あちらもそんなことになっていたのですか! ある意味シンクロで嬉しいです( ´艸`) ってお相手にとってははた迷惑なだけでしょうけど(^◇^;) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ふ※※ろば様--
いい加減こっちも更新せねば~!と思いまして。 書き上がってはいたんですがあっちでは両親が亡くなったという展開だったのでね(^_^;) こちらではイチャコラな2人を楽しんでいただく予定です。 ・・・が!ふふふ、さすが鋭いですね。 こんなに更新が途絶えていたというのにばっちり覚えておられましたか。謎の男を。 仰るとおり司パパはとっくに亡くなってる設定なんですよねぇ。 じゃあ誰?!って話になるわけなんですが・・・そこは「待て!!」ですよ( ̄∇ ̄) ラブラブ新婚さんだからって油断は禁物ですよ~( ̄ー ̄) 後日談の件ですがどうぞ~♪ 何気にこういうことって初めてなので楽しみです^^ |
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