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幸せの果実 5
2015 / 03 / 19 ( Thu )
厳かな雰囲気の漂う神殿には、互いの親族といつものメンバー。
そしてタマの姿があった。
挙式は本当に近しい人間だけに祝って欲しい。
それはどちらからともなく望んでいたことだった。


雅楽の演奏に合わせて朱門をくぐると、すぐに愛すべき人達の顔が見えてきた。
つくしを目にした瞬間、本番までは見るのを我慢すると言っていたT3達から感嘆の声があがった。ちらりと目をやれば滋は既に号泣していて、思わず吹き出しそうになる。
それと同時に、これまでの道のりを思うと彼女が流す涙の重みを痛感して、こちらまでもらい泣きしそうになってしまう。でもまだ始まったばかり。先はまだまだ長い。

ふと視線をずらせば今日も眩しいほどの色男が揃いも揃って3人並んでいる。
こんな場所で彼らに見守られているなんてなんだか不思議な感覚だ。
彼らがこんな場所に足を運ぶなんてこと、実はかなりレアなことなんじゃないだろうか?

そして彼らの先にはまるでロボットのように凝り固まった両親の姿が見える。
さっきまであんなに脳天気なことをやっていたというのに、今はまるで別人のようにガッチガチだ。それがいかにも我が親らしくて、さっきまで出かかっていた涙が引っ込んで今度は思いっきり吹き出しそうになった。
玉の輿だなんだと大騒ぎしているくせに、いざそれを目の当たりにするとびびって縮こまることしかできないだなんて・・・。全く、だから人間そう簡単には変わらないといつも言っているのに。
でもそんな両親だからこそ愛おしい。
いつだって落ち着きのない両親に、実は牧野家の中で一番しっかり者の弟。
これが愛すべき牧野家の姿なのだ。


そしてその反対側に視線を移す。
ピシッと見えない音が聞こえてきそうなほどの美しい佇まいで座る女性、道明寺楓はこの厳かな場所にそれはそれは自然に溶け込んでいた。彼女の内から溢れ出るオーラは他の誰にもない唯一無二の絶対的な存在感だ。
司同様、おそらく見るのは初めてではないかと思われる和装姿。これまた最高級の一点ものの留め袖を身に纏ったその佇まいは、見る者の呼吸が一瞬止まるほど。
美しさと気品、そして風格。 全てを兼ね備えている。

彼女を見ているとつくづく司と血が繋がっているのだと実感する。
司も絶対的なオーラをもつ人間だから。
それは生まれたときから持つ潜在的なもので、努力で得られるものではないのだろう。
この場に当たり前に彼女がいてくれるという現実。
その奇跡にまたしても胸の奥から込み上げてくるものがある。
ギリギリまで仕事に没頭して、式の前日に帰国するなんてところもいかにも彼女らしくて自然と顔が綻んでいく。

楓の隣には椿一家もいる。
楓と見た目はそっくりながらもその性格は実に対照的。
彼女の天真爛漫さにどれだけ救われてきたことか。
これから道明寺つくしとして一生を送っていく中で、彼女の存在が幾度となく自分を支えてくれる存在になるに違いない。


そしてそんな彼女達の後ろに座るのは一際小さい体の老婆、タマだ。
本人は自分なんぞが式に出ることなどできないと言っていたが、ここは司もつくしも絶対に譲れないところだった。
彼女に見届けてもらわなくて一体誰に見届けてもらうというのか。
実の肉親よりも肉親らしく2人の絆を支え続けてくれた人物だというのに。
彼女の存在を言葉で表すことなどはもはやできない。
大切とか、かけがえのないとか、そんな言葉を超えた存在なのだから。
ニコニコと、歳を感じさせる皺とはまた別の皺をたくさん寄せながら、目尻を下げて温かい眼差しで見守ってくれている。


2人はこの場にいる全ての人間に、胸の奥がギュッと熱くなるのを感じながらゆっくりと一歩ずつ噛みしめるように歩いて行った。




神前で、そして愛すべき人々に見守られながら一つ、また一つと儀式を進めていく。

入籍して2ヶ月。
つくしの左手にはあの日、司と初めて結ばれた夜にもらった指輪が常に輝いていた。
だが夫である司の左手は未だ空席状態だった。
指輪自体はとっくに存在していたが、どうしてもこの日まで待ちたかった。
誓いを立てて初めて互いの指に通したかった。

案外古風な人間だったのだろうかと自分で自分が可笑しい。
こうして新しい自分を発見できた瞬間、本当に自分が結婚したのだと実感する。
1人では気付くことができないことなのだから。


誓詞を読み上げ、神様に玉串を奉納し、いよいよその時がやってきた。
台座に置かれた2つの指輪は照明を浴びて目映いほどの光を放っている。
婚約指輪とは違って極々シンプルなデザイン。
だがその素材は最高級のものが使われ、一般人には到底手の届かないほどのお値段だ。

ダイヤの埋め込まれたプラチナリングが白くて細い指にするするとはめ込まれていく。
根元まで辿り着いてその動きが止まると、まるでタイミングを合わせたかのようにつくしの瞳からぽつりとひとしずく零れ落ちた。
それに追随するようにそこかしこからも鼻を啜る音が響き渡る。
見えはしないが、中でも特大の音を立てているのは間違いなく滋だろう。

同じ気持ちで涙を流してくれているのだと思ったら、つくしの瞳からは堰を切ったように次から次へと涙が溢れ出した。すぐに、大きいのにびっくりするほど綺麗な手がその涙を拭ってくれる。
それでも、その優しさがかえって火をつけて滝のように流れ出してしまった。

「お前・・・まだ俺の指輪嵌めてねぇだろ」
「う゛っ・・・うぅ゛っ・・・ご、ごめぇん・・・ぐずっ」

厳かな式にしたいという願望などどこへやら。
つくしの号泣っぷりはもはやコント並だった。
ぐすぐすと啜り泣く音に笑い声が混ざり始める。

だがそれがいい。
どんな時でもつくしらしさを失わない。
だからこそこれだけの人間が彼女に心を囚われるのだ。

司も呆れ笑いをしつつ、そんな妻が愛おしくてたまらない。
むせび泣く妻の手を自ら誘導しつつ、つくしは震える手で愛する夫の指に指輪を嵌めていった。
するすると収められ、大きな手に輝く指輪を見たとき、つくしの涙腺は完全に崩壊してしまった。

「お前・・・泣きすぎだろって。顔面崩壊するぞ」
「うぅ゛っ・・・こっ、これ以上は崩れようがないから多分だいじょうぶっ・・・ずびっ」
「はっ?!」

この女は真剣に泣きながら真剣に何を言い出すのか。
ぽかーんと呆れかえる司の一方で、その場にいた全員がとうとう吹き出した。よく見れば斎主まで口元が緩んでいるように見えるが、立場が立場、必死でそれを堪えているようだ。
天下の道明寺財閥の後継者の厳かな式がよもやこんなことになろうとは。その反応も当然のことだろう。
楓だけがやれやれと頭を抱えていたが、あの冷徹な眼差しはどこにも見当たらなかった。


荘厳にと臨んだはずの式は、誰でもないそれを所望した本人の手でいつの間にやらアットホームな世界へとすっかり様変わりしたまま終わりを迎えた。







***


「つくしぃ~~~っ!」
「滋っ!!」

控え室に戻るとすぐに暴れ牛のような勢いで滋がつくしへと飛びついた。

「すっっっっっっごく綺麗だよ! おめでとうっ!!!」
「ありがとう! 滋もすっごく綺麗だよ」
「やだもうっ! あたしのことはどうだっていいのよっ!!」
「アイタッ!」

白無垢姿だろうとお構いなしにバシッと一発気合が注入される。

「ちょっと滋さん、いくらなんでも花嫁を殴るのはタブーじゃないですか?」
「えへへっ、だってぇ~ついっ!」

ぺろっと舌を出して笑う滋に後から入って来た桜子と優紀が呆れ笑いしている。

「つくし、おめでとう。すごく綺麗だよ」
「先輩、今日はお世辞抜きで本当にお綺麗ですよ。おめでとうございます」
「あははは、お世辞抜きでって・・・じゃあありがたく受け取っておきます。ありがとう」

女4人、顔を見合わせてふふっと笑い合う。


「よぉ、牧野。和装もなかなか似合ってんじゃねぇか」
「美作さん」
「馬子にも衣装ってな」
「もう、西門さんっ!」
「牧野、ほんとに綺麗だよ」
「類・・・」

三者三様、それぞれらしい祝福の言葉を並べていく。
次々に入ってくるそうそうたるメンバーに、またしても両親がロボコップのように緊張で固まってしまった。主役の親だというのに部屋の隅っこで小さくなっている。

「しっかし司の和装っつーのも新鮮だよなぁ。俺がどんだけ勧めても嫌がってた男が愛する嫁のためならすんなり着るんだからなぁ」
「うるせーよ」

ニヤニヤが止まらない総二郎をジロリと睨み付けるが本人は意にも介していない。

「でも和装ってやっぱりいいですよね。私も自分が結婚するときは神前式にしたいなって今日あらためて思いましたもの」
「おっ、桜子そんな予定でもあんのか?」
「残念ながらまだ予定は未定ですけど」
「あはははっ!」


「披露宴ではドレスになるんでしょ?」
「うん」
「わぁ~、きっと綺麗なんだろうなぁ。楽しみ~」
「えへへ、恥ずかしいんだけどね」
「そんなこと言わずにお姫様気分を存分に味わなきゃっ!!」
「お、お姫様って・・・」

確実に自分からは一番遠いところにある言葉だ。

「司~、つくしのこんな姿を見ちゃって幸せで堪らないんでしょぉ~」
「まぁな」

その気持ちいいほどの即答っぷりに総二郎とあきらがヒューッと口を鳴らす。

「お前、ほんっと変わったよな。昔は女嫌いだったなんてとても信じらんねぇぜ・・・」
「バカ言ってんじゃねーよ。女嫌いは今も変わってねぇっつの。こいつだからだろ」
「おーおー、お熱いことで。ったくここにいたら当てられっぱなしでしょうがねぇな」

総二郎の茶々入れにつくしの頬がボッと赤くなった。

「その白無垢ってつくしが選んだの?」

つくしの身につけた白無垢に見とれながら優紀の口からほうっと感嘆の息が出る。

「え? あ、これはね・・・」











「つくし、本当にお綺麗でしたねぇ・・・」

別の控え室でお茶を飲みながらタマがしみじみと噛みしめている。

「本当に。つくしちゃんって元々素材はいい子なのよね。磨けば光る原石っていうか。司を見た?ずーーーーっと鼻の下が伸びっぱなしだったじゃない。今からあの調子じゃこの先どうなっちゃうのかしら」
「いいんじゃないですかねぇ。ありのままの坊ちゃんの姿を皆さんに見てもらう機会なんてそうそうないんですから」
「うふふ、それもそうね」

そう言って笑う椿は本当に嬉しそうだ。

「それにしても・・・お母様。 本当にありがとうございます」

突然体の向きを変えたかと思うと、別の席に座っていた楓に深々と頭を下げた。

「・・・何のお話です?」
「あの子に・・・つくしちゃんの白無垢を準備してくださったのはお母様でしょう? この世に2つとないあの素敵なお衣装・・・本当につくしちゃんによくお似合いでした。あの子がお母様の贈られた衣装を身に纏った姿が眩しくて眩しくて。 私、それだけで泣きそうになってしまいましたもの」
「・・・大袈裟な」

「いいえ、大袈裟などではありません!」

呆れたように答える楓にタマがずいっと一歩前に出た。

「今日を迎えるにあたってあの子が一番嬉しかったことは奥様、あなた様がつくしのためにあの衣装を準備してくださったことです。共に生活していないこともあって、あの子の中にはいつも奥様のことがありました。式の準備をしながらも、いつも奥様がこれでいいと言うだろうかと常に気にされていたんです。そんな中であの衣装が邸に届いたとき、あの子は人目も憚らず泣いたんですよ。あの子にはあの衣装がどれだけの価値を持つものかなんてよくわかっていないでしょう。でもそんなことはどうだっていいんです。たとえ安物の衣装だろうと最高級のものだろうと、奥様があの子を想って準備してくださった、その事実だけであの子はこの世で一番の幸せ者になったんです」

「・・・・・・」

タマの言葉を聞きながら、椿の瞳からはほろほろと涙が零れ出した。

「私からもお礼を言わせてください。奥様、本当にありがとうございます」

深々と頭を下げたタマを見てふぅーっと息を吐くと、窓の外に目をやりながらぽつりぽつりと口を開いた。


「全く・・・あなたも大袈裟な方ね。 私は当然のことをしたまでです。 ・・・・・・母親として」


その言葉に椿がハッと顔を上げる。見れば変わらずに外に視線を向けたまま。
だがそれは彼女なりの照れ隠しなのだろう。



「 ・・・・・・お母様っ!!! 」

「 ・・・っ?! 何です?! おやめなさいっ、椿さんっ!! 」


突然背後から襲いかかってきた椿に驚くが、気が付いたときには時既に遅し。
力一杯しがみつく椿を何とか振り払おうとするが、その体はぴくりとも離れはしない。


「お母様、お母様っ・・・!」



まるで子どものように泣きながらしがみつく我が娘に心底呆れたように溜め息をつくと、抵抗することを諦めたのか、全身から力を抜いてただなされるがままに娘に身を委ねた。

タマはそんな親子の様子を顔をしわくちゃにして見守っていた。






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コメント
--大好き--

つくしサイコー
感動

楓も母親として白無垢用意するなんて
by: ひさ * 2015/03/19 00:55 * URL [ 編集 ] | page top
----

涙、涙でぐちゃぐちゃのつくし。
折角きれいにお化粧してたのに。
なんとか、司に指輪を嵌めることができて良かったけど・・・。
ほんと、可愛い💕
そして、一番変わったかもしれない人、楓さん。
母親としてできること…白無垢の贈り物。
つくしだけでなく、司にも椿にも、どんなに忘れられないものになったか・・・。
タマさんの話をきいて、楓さんも嬉しかっただろうなぁ。
by: みわちゃん * 2015/03/19 04:49 * URL [ 編集 ] | page top
--名無し様<拍手コメントお礼>--

涙で顔がぐちゃぐちゃだろうけど、つくしの場合愛嬌で可愛いだろうなぁ~。
なんて勝手に想像しちゃってます( ´艸`)
司の和装は言わずもがな超絶かっこいいでしょうね!
by: みやとも * 2015/03/19 07:37 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--

あは、子猫ちゃんが椿お姉様に見えました?
よかった~、そう受け取ってもらえて(笑)
司にばかり感情移入しがちですけど、親の愛情に飢えていたのは彼女も同じなんですよね。
つくしとの出会いは色んな人を変えたんです。良かったねぇ(ノД`)
西田さんはですね~、迷ったんですけど、彼ならあくまでも影に徹するだろうなと敢えて式には登場させませんでした~。
by: みやとも * 2015/03/19 07:40 * URL [ 編集 ] | page top
--ひさ様--

ふふふ、皆の感動が少しでも伝わったのなら嬉しいです(*^^*)
なんだかんだ、楓さんもちゃんとつくしのことを考えてくれてるんですよね。
基本ツンなのは変わりませんが、たまに見せるデレの破壊力は凄まじいです(笑)
by: みやとも * 2015/03/19 07:42 * URL [ 編集 ] | page top
--みわちゃん様--

おしろい塗って号泣しちゃったら間違いなく顔は凄いことになってますよね(笑)
でもそれを込みで可愛いと思わせてしまうのがつくしの魅力なんだと思います。
ブサ可愛いつくしに坊ちゃんギュンギュンやられちゃってますよ( ´艸`)

楓さんに白無垢をもらったりしたらもう死にそうに嬉しいに決まってますよね。
しかも自分は決して表に出てこずさらっとやっちゃうんですもの。
そのちょっと捻くれた優しさがまた溜まらないのかもしれません。
ツンデレは不滅ですが、たまに見せるデレは強烈ですよ~(*´∀`*)
by: みやとも * 2015/03/19 07:46 * URL [ 編集 ] | page top
--あー※※ん様<拍手コメントお礼>--

するする・・・2人の揺るがない絆を出したくてそう描きました。
何気ない一言を気に入っていただけて嬉しいです(*^^*)
さぁ、披露宴諸々どうなるでしょうか?!
by: みやとも * 2015/03/19 07:50 * URL [ 編集 ] | page top
--k※※ru様<拍手コメントお礼>--

ね~!2人の和装姿見たいですよね~!
どなたか描いてくださいませんかぁ~~っ?! ←本気
ふふふ、ラブラブな生活に嵐を起こすのは誰?!
しっかり怪しい男の存在を覚えておられましたか。
心配しなくてもそう遠くない未来に出て参りますよ~。心の準備をしておいてくださいね!(笑)

お母さん業、お疲れ様です!
お子さん、母親のおいしいお弁当が食べられて喜んでますよ~!(*´∀`*)
by: みやとも * 2015/03/19 07:54 * URL [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/03/19 11:28 * [ 編集 ] | page top
--ke※※ki様--

ね~、和装姿イラストで見てみたいですよね~。
是非とも有志を募りますっ!!(笑) ←でも本気

全体的に悩みましたね~。どう持っていこうかと。
でも一番難しいのはやっぱり披露宴かな。
二次って数多くあれど結婚式や披露宴を書いてる人って相当少ないですよね。
その意味が今ならよくわかります(^_^;)

そう言えば類が大人しいですねぇ。
彼は基本「静」ですから。でたまに爆弾投下すると( ̄∇ ̄)
by: みやとも * 2015/03/19 23:06 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--

あっちいったりこっちいったり、一体このタイムマシーンの燃料名はどうなっとんのじゃ?!笑
私の中ではどうしても優しすぎる楓さんって想像できないんですが、たまに見せる優しさが「楓様ーーーっ!!」って感じで案外慕われるのかも、なんて思ってます。
by: みやとも * 2015/11/03 03:25 * URL [ 編集 ] | page top
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