幸せの果実 8
2015 / 03 / 27 ( Fri ) 「ん~~っ、おいしいっ!!!」
もしかしたら今日の中で一番の笑顔じゃなかろうかという至福の顔を見せるつくしを、総二郎が心底呆れたように見ている。 「お前・・・一体それで何貫目なんだよ?」 「え? ・・・さぁ? 全然数えてない」 「10皿目だぞ?! 10皿っ!! 花嫁が食う量じゃねぇだろっ!!」 そういう総二郎の前にはわずか3皿置かれているだけ。 つくしは必死につっこむ総二郎を見ながらもしかして食べ過ぎなんだろうか?・・・なーんて考えることは微塵もなく、手元のお寿司をパクッと一口で頬張った。 「う~~ん、おいひぃ~~~っ!」 「・・・・・・この体のどこにそんなに入んだよ・・・」 「え~? だーって、今日は朝からほとんど口にしてないんだもん。まーだまだ食べちゃうよ~?」 「・・・好きにしてくれ」 「好きにしまーーす」 この女の食欲が底なしなのは知っていたが、よもやこんな時まで変わらずとは。 だがその気持ち良すぎる食いっぷりにはもう笑うしかない。 「つくしはほんと変わってねぇんだなぁ」 「・・・そうかな?」 咀嚼していた口の中のものをゴクンと飲み込むと、つくしは会場内に作られた特設カウンター越しに懐かしい顔を見た。 「あぁ。ちーーーーっとも変わってねぇな。でもお前ならきっとそうだと思ってたけどな」 「えー? そういう金さんだって変わってないじゃん!」 「バカ言うない! 格段に腕が上がっただろうよ!」 「えっ? あはははは、ごめんごめん、それは仰るとおりでございます。大変おいしゅうございます~!」 そう言ってまた一貫口に放り込んだ。 そんなつくしを清之介は実に満足そうに見ている。 「ほんと気持ちいい食べっぷりだなぁ。うまいもんはそうやって食べるのが一番。こちとら作りがいがあるってもんよ」 「独立したのか?」 つくしの隣で地味に食べ続けていた司が思い出したように聞くと、清之介は待ってましたとばかりにニカッと笑った。 「おうよ! 3ヶ月前にやっとな」 「へぇ、凄いじゃねーか」 「へへっ、当ったり前田のクラッカーよ!」 「金さん、こってこての江戸前も全然変わってないんだね」 「ガッハハハ! 俺からこれを抜いたら何が残るんだよ。お前達が結婚するときには腕を振るうって密かに決めてたんだけどな。ギリギリ間に合って良かったぜ。どうぜなら一人前になった姿を見せたかったしな」 「凄いね。金さんおめでとう!!」 「へへっ、ありがとよ。そういうお前達も色々大変だったみたいだな。まぁお前達なら何があっても大丈夫だとは思ってたけどな」 「えへへ、ありがと」 特設カウンターにはいつものメンバーに加えて数年振りの再会となる懐かしい友人の姿もある。それぞれ最後に会ってから7年前後の時間が経っており、皆がもうどこからどう見ても立派な大人だ。 「そういえば4月から社長に就任されると聞きました。おめでとうございます」 中でも一際上品な空気を漂わせているのがあや乃だ。初対面の人間でもお嬢様育ちだとわかるほどの雰囲気と所作の美しさは更に磨きがかかっていた。 「サンキュー・・・って言っていいのか微妙だけどな。俺もついさっき知ったし」 「ふふふ、楓社長らしくていいじゃないですか。牧野さ・・・じゃなくてつくしさんも社長夫人ですね」 「えっ? やだー、あや乃さんったら! あたしはそんな肩書きは関係ないんだって!」 「そういうお前らはどうなってんだよ? 確か清之介に惚れてたんだよな?」 「えっ・・・?」 司の思わぬ問いかけにあや乃の顔が一瞬で真っ赤に染まる。 「あーー! もしかしてっ?! ・・・・・・あっ、それ!」 その時、目ざといつくしがあや乃の薬指にキラリと光るものに気が付いた。 あや乃と清之介が照れくさそうに顔を見合わせた後、コホンと咳払いをして姿勢を正す。 「えーー、なんだ、この度、俺たちの結婚が決まりました」 「「「 えーーーーーー!!!! そうなのっ?! おめでとうっ!!!! 」」」 一気に沸き上がる面々に2人とも大照れに照れっぱなしだ。 「そっかぁ、やっぱりそうなんだ! よかったね、あや乃さん!」 「つくしさん・・・ふふ、本当にありがとう」 あや乃は本当に幸せそうに目尻を拭っている。 「あや乃には俺みたいな先がはっきり見えない自営業なんかじゃなくて、もっと地に足がついた奴の方がいいんじゃねぇかって何度も言ったんだけどな」 「何言ってるの、金さん! 条件で相手を選ぶの? そんな結婚したって幸せになれないよ。誰だって進んで苦労したいわけがない。それでも、愛する人となら一緒に苦労することになったって苦にならないんだよ! ね、あや乃さん?」 「はい。その通りです」 「ははっ、お前達全く同じこと言うんだな。あや乃にも同じことを言われて説教されたぜ。・・・ったく、強い女には勝てねーよ」 「まー、失敬な!」 「・・・へぇ、愛する者との苦労なら買ってでもしたいってか。なかなかな愛の告白だな」 「へ?」 ふと隣を見れば司がニヤニヤ口元を思いっきり緩ませてこちらを見ているではないか。 そこでハッとする。 今自分は何て言った・・・? 「牧野にしては結構な愛の告白だったな」 「だな」 「いいなーいいなー、ラブラブって感じで羨ましい~!」 「い、いやっ、そういうつもりじゃなくて、その、あたしはただっ・・・!」 「わーったわーった。お前が俺にとことん惚れてるってことはよく伝わった。照れる必要はねぇぞ」 あたふた慌てふためくつくしの肩をグイッと引き寄せると、司は周りの目などお構いなしに目の前の額にチュッと唇を落とした。 「なっ、なななな、何すんのっ!!」 「あ? たかだかこのくれーでいちいち慌ててんじゃねぇよ。そもそもお前がその気にさせっからだろ。むしろ口にするところを我慢してやってんだ。感謝しろ」 「なななっ、その気になんかさせてないでしょっ?!」 「いや~牧野、あんなこと言われたら男ならたまらないぜ~?」 「いやっだから、あれはあや乃さん達に・・・!」 「わーったわーった。そういうことにしといてやるからもう黙ってろ、な?」 そう言うと問答無用で再び唇が落とされる。しかも何度も。 その度にジタバタもがくがつくしの体が解放されることはなく、もがけばもがくほど司の思うツボになっていくその姿に、その場は湧きに沸いた。 「つくしちゃん」 すっかり満たされたお腹をさすっていると、今日再会したメンバーで最も親交が深い相手がやってきた。 「和也君! 帰国してたんだね!」 「うん。留学してそのまま向こうで働いてたんだけどね。去年帰国したんだ」 「そっかー。また会いたいって思ってたから嬉しいなぁ!」 「へへっ、僕もつくしちゃんのことは風の噂で聞いてたから、こうしてお祝いに駆けつけることができてほんとに嬉しいな」 「・・・なんか、和也君すっかり大人の男性って感じだね?」 「えっ?」 マジマジと和也の顔を覗き込みながらつくしが真剣に言う。 「だってさ、私の知ってる和也君ってどこか頼りなさげなところがあって・・・って感じだったけど、今じゃすっかり落ち着いた大人の男性って感じなんだもん」 「あはは、それって褒められてるのかな? でもつくしちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな」 「あーでもそうやって笑った顔は全然変わってないね。なんかほっとするなぁ」 「僕もつくしちゃんが全然変わってなくて嬉しかった。やっぱりつくしちゃんはありのままが一番輝いてるからね」 「えっ? やだーー! 和也君ってばなんか女ったらしになってる?!」 「てっ!」 笑いながらバシッと和也の背中を一発叩くと、照れくさそうに笑いながらも和也は懐かしそうにつくしをじっと見つめた。その姿があまりにも真剣で、つくしの笑いも思わず止まってしまう。 「・・・何?」 「いや、本当に幸せそうだなって」 「えっ?」 「遠くの空からいつも思ってたんだ。つくしちゃんはどうしてるかな、幸せにしてるかなって。実際こうして再会したつくしちゃんは僕の想像以上に幸せそうで、綺麗になってて本当に驚いた。本当に嬉しいんだ。つくしちゃんは僕にとって一生特別な存在だからね」 「和也君・・・」 「へへ、なんか照れくさいね」 ポリポリと鼻を掻きながら照れくさそうにする和也につくしも本当に嬉しそうにはにかんだ。 と、その体が突然引き寄せられたかと思えば分厚い胸板に顔から激突して止まった。 「ぶっ・・・!」 「愛の告白なら受けつけねーぞ?」 「ちょっ・・・司っ、いきなり何すんのよ?! 顔が潰れたじゃない!」 「あ? 全然変わってねーから心配すんな」 「ちょっと! それはそれでどういう意味よっ!!」 突然間に入ってきたかと思えばすぐに夫婦漫才を繰り広げる2人に和也がお腹を抱えて笑い出した。 「あははっ! 本当に、気持ちいいくらい2人とも変わってないんだなぁ」 「あぁ。お前の入る隙なんか1ミクロンもねーからな。諦めろ」 「ちょっと?! 何言ってんのよ!」 「あはは、さすがに人妻に邪な気持ちはもてないよ。僕のつくしちゃんに対する気持ちはもうそういうのを超えた特別なものだから」 「和也君・・・」 「ふん、どうだかな」 「くっ、相変わらずつくしのことになると余裕ねーんだな」 「あ?」 すぐ後ろから聞こえてきた声に振り向けば、司と瓜二つの男がそこにいた。 「亜門・・・」 「よぉ。久しぶりだな。あれから7年か? 時間が経つのははえーよな」 「・・・なんでお前までいんだよ」 「なんでって・・・呼ばれたからだろ?」 「チッ、あいつら余計なことしやがって・・・」 相変わらず自分には敵意剥き出しの司を亜門が愉快そうに笑う。 「亜門って今何やってるの?」 「俺か? バーテン。昔もバイトしてただろ。あのまま店を任されるようになったんだ」 「へぇ~、そうなんだ。なんか亜門らしいね」 「バーテンなんかで食ってけんのかよ」 予想通りの反応だったのか、亜門がクッと肩を揺らして笑った。 「お前なら絶対そう言うと思ったよ。おかげさまでこれでも繁盛してんだぜ。まぁそれ以外にもデイトレードとかやってんだけどな。結構そっちも順調で収入に困ったことはねぇよ」 「へぇ~・・・あたしにはできない世界だわぁ」 「はは、かもな。 それよりもどうだ? 渡った橋の向こうには目的のもんはあったか?」 「え?」 その言葉にハッとする。 どこか懐かしさを感じるそのフレーズに、つくしの中に昔の記憶が一瞬にして蘇っていく。 やがて不敵な笑みを浮かべる亜門を正面から見据えると、つくしは笑って大きく頷いた。 「うん、あったよ。ずっと心の底から欲しいと思ってたものが手に入った」 「・・・そっか。ならよかったな」 「うん。ありがとう。あの時亜門がいたから今の自分がいると思ってる」 「フッ、大袈裟だろ」 「大袈裟なんかじゃないよ。だってあの時あたしは橋を渡るつもりはなかったんだから」 「おい、お前ら一体何の話をしてんだよ!」 向かい合ったままわけのわからない会話を繰り広げる2人の間に立ちはだかるようにして司が割り込んだ。 「俺とつくしだけの大事な会話してんだから邪魔すんじゃねーよ」 「あぁ? んだとっ?!」 「ちょっ、司待って! いちいち亜門の挑発に乗らないでよ。亜門も面白がらないで!」 つくしが慌てて司の体に手を回すと、面白いくらいにその動きが静かになっていく。 その猛獣使いっぷりが実に見事で亜門がくはっと喉を鳴らした。 「・・・まぁつくしとはキスした仲だからな。俺が気にくわなくても仕方ねぇかもしれねーけど」 「・・・んだと?」 まさかの衝撃発言に司のこめかみがピクッと動いた。 つくしはつくしで目ん玉がぼろっと零れ落ちそうなほどに目を見開いている。 「ちょっ、なななななななななななななななななな何言ってんのよっ???!!!」 「だって事実だろ?」 「そういう問題じゃなくて、なんでわざわざ昔のことをほじくり返すのかって言ってんのっ!!」 「・・・・・・っつーことはガチってことか?」 ゆらり、ユラリ。 背後から凄まじい負のオーラを感じる。 とてもじゃないが振り向けない。 「いやっ、あれは・・・そう、事故! 事故だったっていうか。はははは。完全な不可抗りょ・・・」 「っざけんなあああああ!!」 「きゃーーーーーーーーっ!!!」 逃げ腰のつくしを後ろから羽交い締めにすると、何の前触れもなくバクッと耳朶を口に含んだ。 「ちょおっ?! バカバカバカ! 何すんのよぉっ?!」 「うるせぇ、バカはお前だ! どうせお前が無防備だったんだろ! 簡単に想像がつくってんだよ! そんなお前にはおしおきだっ!」 「いやーーーーっ、やめてぇ~~っ! ひっ、ひひヒヒっ・・・くっ、くすぐったいからぁっ!」 あまりのくすぐったさに悲しいかな、嫌を通り越して笑えてきた。 司はそんなつくしにさらなる制裁をと、内に含んだ耳朶をベロッと舌でなぞった。 「ひィっ!!! やっやめてぇ~~!! もう時効でしょおっ?!」 「うるせぇ! 俺の法律に時効は存在しねぇんだよっ」 「意味わかんないからっ! ちょっと、亜門っ! あんたわざとでしょ?! ふざけんな、このバカぁっ!!!」 恨めしげに叫んでみても怒りの矛先は既に姿が見えない。 「あいつらほんっと変わってねーんだな。あれで大財閥の社長夫婦とか信じらんねぇぜ」 これまた特設のバーカウンターでカクテルを作りながら亜門が呆れ顔でつくし達を見ている。 「でもそれがつくしちゃんらしくていいんだよ。ずっと変わらないで欲しいな」 「まぁなぁ。前代未聞の社長夫婦ってのもあいつららくしていいもんな」 「今からあんなんでこの後どうなることやら・・・」 そう言ってアルコールをくいっと飲み込むと、類はやれやれと離れた場所で未だにじゃれあっている親友夫婦を見守った。
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by: * 2015/03/27 00:40 * [ 編集 ] | page top
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なつかしい仲間たちとの会話。 いちいち司がからんできて、嫉妬もして。 いつかこんな日がくるなんて、だれが思っただろう。 仲間に助けられ、お互いのことを強く想いあい、信じあった結果、迎えられたこの日。 ほんと良かったね。 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
あはは、猫番長にツボりました(笑) ほんと、やれやれって感じですね。 やれやれついでにもう少しだけバカ騒ぎにお付き合いくださいませ~(*´∀`*) --ふ※※ろば様--
あはは、それも面白いですね。 連載じゃなくて読み切りだったら思いっきり滅茶苦茶にしてたかも(笑) 一応ね、続きがあるのでほどほどにしとかないと繋がらなくなるもんで(笑) ふっふふふ、ほんとよく細かいところまで覚えてますね~。 書いた本人より詳しくていつもびっくりさせられます。 ありがたやーありがたやーm(__)m で、謎の男は秘書編?がスタートしてから出てきますのでお楽しみに♪ --ブラ※※様<拍手コメントお礼>--
つい長くなっちゃうのはもう仕様なのだと思うことにしました( ̄∇ ̄) 自分で自分の首を絞めていくという、なんて究極のドM・・・イヤン(*´ω`*) --みわちゃん様--
懐かしい仲間達との再会。 つくしにとっては最高のプレゼントになったでしょうね。 司はさっさと2人きりになりたくてしょうがないでしょうけど(笑) もう少しで会社編もスタートするのでイチャコラするのも今のうち~?! --k※※ru様<拍手コメントお礼>--
司の嫉妬っていいですよね~( ´艸`) なんて本人に言ったら殺されますけど(笑) 社長夫人=秘書生活の始まりでもあるので、またそこから新たな展開を迎えます。 あと少しだけわちゃわちゃをお楽しみくださいませ(*´∀`*) --ke※※ki様--
ほんとにね、この2人ってスタートは記憶喪失のつくしだったよな?!みたいな(笑) 嘘みたいなほんとの話ですが、 まぁ余計な心配さえなくなればどうやったってこうなる2人ってことで( ̄∇ ̄) あと少しだけお祭り騒ぎ&イチャコラ?!して、 そこから新展開を迎えますのでお楽しみに(o^^o) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --コ※様--
あはは、ほんとですねぇ。 ぜーーーんぶ話しちゃったら多分地獄絵図になっちゃうだろうな(笑) 亜門も一応その辺りは考えて爆弾投下したのかも? もう少しだけバカ騒ぎを楽しんでいただいた後、新展開を迎えますよ~^^ |
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