愛が聞こえる 20
2015 / 03 / 29 ( Sun ) 「様子がおかしいって・・・具体的にどんな風に?」
透明感のある目はまるで心の奥まで見透かされているような錯覚を覚える。 進は吸い込まれそうになる自分を奮い立たせると、思い出すように言葉を選んで話し始めた。 「・・・何て言うか、心ここに非ずって感じで。 あの一件以降、姉ちゃんは発作を起こすとき以外はいつだって気丈に振る舞ってたんです。僕に余計な心配をかけないために。それが自分には逆に痛々しくて・・・。でも自分にはどうすることもできない。ただそれを見守り続けることしか・・・」 「・・・」 「この2年はほとんどそんな感じだったのに、この前会った時は違ったんです。 何だかずっと一人の世界に入り込んで物思いに耽ってるというか。時々我に返ったように何でもない素振りをしてはまたぼーっと考え込む。それの繰り返しでした」 「・・・・・・そう」 類の発した言葉はたったそれだけ。 だが拍子抜けした進が更に言葉を続けようとしたところで再び口を開いた。 「・・・それで? 君はどう思うの?」 「え?」 「牧野の様子を見て、君はどう思ったわけ? 今日俺を呼んだのにも理由があるんでしょ?」 やっぱりいつまで経ってもこの人は心が読めない。 それなのにこちらの心は面白いほどに筒抜けだ。 進は参りましたとばかりに正直に答えた。 「・・・・・・・・・もしかして道明寺さんと何かあったんじゃないかって」 「・・・・・・」 「・・・やっぱり、そうなんですか?」 進には確信に近い予感があった。 昔からつくしの様子がおかしいときは決まってあることを考えていたのだから。 あの悲劇から2年、それでも気丈であり続けようと頑張ってきた姉がおかしくなるのなら、その原因もまた一つしかないに決まっている。 進は目の前で表情一つ変えずに自分を見ている男の言葉をじっと待ち続けた。 「・・・おそらくそうだろうね」 「え?」 「俺もはっきりとは知らないんだ。司が帰国してすぐに会いに来てからは連絡取ってないからね。 まぁ、とは言っても俺も数日前にパリから戻って来たばかりなんだけどさ」 そう言ってクスッと笑う。 「・・・類さんのところに来たってことは、その・・・」 「うん。 記憶が戻ったって」 「・・・・・・!」 言葉に詰まる進の代わりにいともあっさりと類が認めた。 「記憶が・・・・・・」 その上で姉に接触を図るということは、つまり・・・ 「牧野を取り戻すんだって凄い形相だったよ」 「・・・・・・その、道明寺さんには」 「何も言ってないよ。俺は協力できないともはっきり伝えてる。だからそれっきり司からの連絡もない。あいつは自力で牧野を探し出したんだろうね」 「自力で・・・」 「それが容易なことでないのはよくわかってるからね。最終的にどうやって見つけたのかは知らないけど、それだけ本気ってことだろうね。・・・ククッ、あいつもようやく人間らしさが戻って来たってところかな」 そう言って笑う類はどこか楽しげだ。 だがその笑顔を見れば見るほど、逆に進の中に罪悪感が芽生えていく。 「・・・・・・本当にすみません。色々とご迷惑をかけて・・・」 「・・・何のこと?」 頭を下げて項垂れる進を気に留めることもなく類は飄々と返す。 「僕たちの・・・僕のわがままで無理を言ってしまって・・・。 もしそれで類さん達の友情に亀裂が」 「勘違いしないでくれる?」 「・・・え?」 言葉を切られたことに顔を上げて見れば、相変わらず目の前の男は飄々としたまま。 「俺は別にあんたのために何かをしてやってるなんて思ってないよ」 「・・・」 「俺は人に言われたからって自分が嫌だと思えば絶対に動かないしやらない。自分で言うのもなんだけど、他人の事なんてぶっちゃけどうでもいいと思ってるからね。だから今回のことだって君がどうこうじゃない。俺が自分の意思で決めてやってるだけのことだ。 だからそうやってうじうじ悩まれても正直迷惑なんだよね」 「・・・・・・類さん・・・」 一見突き放すだけの冷たい言葉のようだがそうじゃない。 彼はわざとこうすることで自分がこれ以上悩まなくて言いようにと考えてくれているのだ。 一見わかりにくいその優しさが心に染みる。 進はキュッと唇を結ぶとあらためて類を見た。 その表情からは真意を読み取ることはできない。 ・・・それでも。 「・・・そうですね。類さんの仰るとおりです。一人で勝手に余計なことを考えてしまってました。・・・今はとにかく自分にできることを、・・・すべきことを精一杯頑張りたいと思います」 「仕事は? 順調?」 「順調・・・かは正直何とも。毎日ついていくだけでも必死ですから。でもだからこそ充実してます」 そう言って見せた笑顔は心からのものだった。 類はそんな進を見てフッと目を細める。 「そう。ならよかった。牧野にとってはそれが何よりも嬉しいことだからね。でもだからといってあんたがそれを気負う必要なんて全くない。余計なことは考えず、自分らしくいればそれが一番だよ」 「・・・・・・はい。 ありがとうございます」 「クスッ、だから俺は何もしてないって」 「・・・あ、そうでした」 あははっと笑いながら頭をぽりぽり掻いたところでテーブルの上に置かれた類のスマホがブルブルと震え始めた。すぐにそれを止めると類がはぁ~っと深く息を吐き出す。 「・・・残念。タイムリミットみたいだ」 「え?」 「呼び出しがかかった。今から会社に行かないと」 「あっ・・・すみません! お忙しいのにお呼びだてしてしまって・・・」 そこまで言いかけた進の前にスッと手が出された。 簡単に言えば 「待て」 の状態で。 「あ、あの・・・?」 「言ったでしょ? 俺は自分がやりたくないと思うことには動かないって。だから今日だって自分の意思で来ることを決めたんだ。つまりはいちいちあんたが気にする必要もなければましてや謝る必要なんかない」 「・・・・・・! ・・・はい、すみま・・・ありがとうございます」 「・・・フッ、お礼を言われる覚えもないけど、まぁそれくらいは受け取っておく」 「えっ? ・・・ふ、あははっ」 楽しそうに笑う進を一瞥すると、類は静かに席を立った。そのついでに伝票まで手にしようとするのを進が慌てて引き止める。 「あのっ! 今日は僕に出させてください! 僕が呼んだんですし」 「いいよ。面倒くさい」 「で、でもっ・・・」 「じゃあこうしよう。君の願いが叶ったらまた牧野の庶民食をご馳走して」 「えっ・・・?」 「あ、これだと牧野にも了承してもらわないと駄目なのか。・・・ま、いっか。じゃあそういうことで。何かあったらいつでも連絡して」 「えっ、あっ、類さんっ?!」 ぽかーんとしているうちにあっという間にその場から立ち去っていく。もちろん伝票を持ったまま。 「・・・・・・本当に、何から何までありがとうございます・・・」 本人はとっくに店を出て見ているはずもないが、それでも進は類の立ち去った方へ深々とお辞儀をした。それは思わず周りにいた人間が見てしまうほど、長い時間続けられた。 「今はただ、俺にできることを精一杯・・・」 噛みしめるようにそう呟くと、またゆっくりとした足取りで進もその場から立ち去った。
今日は「幸せの果実」もダブル更新していますので見落としがありませんようご注意を! |
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by: * 2015/03/29 03:04 * [ 編集 ] | page top
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類は当然の如く、司は必ずつくしの居所を突き止めるとわかっていた。 そして類も進も、つくしの様子がおかしいのは、司が絡んでると分かってしまう。 今の時点では、司に協力してないけど、相変わらずの態度で成り行きを見透かしているよう。 でも、進のことは、わからん(>_<) だから、早く続きを・・・知りたい。 --管理人のみ閲覧できます--
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あはは、焦れてますね~。 でも何やら進の存在が一つのキーポイントだということがわかりました。 駒が徐々に揃ってきましたよ~。 あとはどう繋がっていくんでしょうか。 じっちゃーん!ご飯ですよぉ~!・・・じゃなくて出番ですよぉ~~(・∀・) --k※※hi様--
類が司にあんなことを言ったのは何やら進が関係してそうですね。 彼は何故そんなことを頼んだのか。 つくしのことと何かしら関係してそうですね。 進の存在が今後大きな意味を持ってきますよ~。 --みわちゃん様--
野獣ですからね。 一番近くで育ってきた類なら自分の協力なしでも見つけるのは時間の問題と思ってたでしょう。 進の発言は意味深で謎ですよね。 その辺りがわかると、この物語は大きく動きますよ~。 --コ※様--
2年前に事故が起こったので、やはりそれに何かしら秘密がありそうですね。 進が何やら大きなキーマンになりそうな予感です。 でもぼちぼち駒が揃ってきましたからね。 あとはそれぞれがどう絡んで、どう絡んだ糸を解いていくのか。 そうそう、類は何を考えてるのかわからないですけどね、 つくしにとってマイナスになるようなことは絶対しないのでその点では安心ですよ。 --管理人のみ閲覧できます--
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ふふ、そのうちわからないことが一気に解明されていきますので。 それまでは焦れに焦れてくださいませ( ̄ー ̄) そして大変でしたね。 薬とアルコールの反応は怖いですよね。 今年はいつも以上に花粉がきっつい感じがします。 私も家の中にいてもくしゃみが止まらず、旦那はとうとう耐えきれずに病院に行きました。 早く特効薬が開発されないかなぁ・・・ --マル※※ズ様--
楓さんはどこまで知ってるんでしょうねぇ。 つくしの動向を全く追ってなかった・・・ってことはないかもしれませんね。 ふふ、ハルが気になりますか? 皆さんミニ司みたいで人気急上昇中です( ´艸`) 予定以上に活躍してもらうかもしれません。 --ブラ※※様<拍手コメントお礼>--
ほうほう・・・?(・ω・) --管理人のみ閲覧できます--
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はじまして~^^ 色々と気になる展開ですよね。 ドキドキハラハラするかとは思いますが、 2人が幸せになれるようにどうぞ見守ってあげてくださいね! これからもよろしくお願い致します(*´∀`*) |
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