愛が聞こえる 21
2015 / 04 / 08 ( Wed ) 「ねぇねぇ、さっきさ、隣町ですっごいイケメンに遭遇したんだけど」
「えっ、どんな感じの?!」 「まさにザ・モデルって感じの長身とナイスバディでいかにも!な高級スーツを着こなしててさぁ~」 「へぇ~っ」 「でね、その髪型がまた特徴的だったのよ」 「どんな?」 「それがさ・・・クルックルなの!」 バサバサバサッ!! 突然背後から聞こえてきた音にはしゃいでいた声が止まる。 「あ・・・申し訳ありません」 整理中に落下したのか、女は落ちた本を拾うと軽く頭を下げて再び作業に没頭し始めた。 話し声が大きかったと自覚があったのか、それ以降は2人ともひそひそと顔を寄せ合うように話し始め、それ以上館内に声が響き渡ることはなかった。 「クルクル頭の男性ってあの人のことでしょう?」 「えっ・・・?」 空になったワゴンを押して書庫へ戻って来てみれば、一足先に入っていた女性が顔を出した。 「連絡は取ってないの?」 「・・・・・・」 その場に立ち竦んだまま何も答えないことが全てを物語っている。 「何があったかは聞かないけど・・・気になってるんでしょう?」 「・・・・・・どうして・・・」 「そう思うかって? だってそんなこと聞かなくたってわかるわよ。あの日・・・あの人が初めてここに来てからあなたの様子が変わったんだもの」 「変わった・・・?」 全く自覚のないその驚き方に女性はふっと表情を和らげる。 「えぇ、とってもね。どこか憂いたところは変わらないけど、それだけじゃなくてどこかそわそわしてるんだもの。嫌がってるっていうよりも、ドキドキして落ち着かないみたいな感じかな」 「・・・・・・」 「・・・はい、これ」 「・・・え?」 どこか気まずそうに俯いてしまったつくしの視界に封筒が差し出された。 よく見覚えのあるそれに顔を上げれば、いつの間にかすぐ目の前まで来ていた女性がにっこりと笑っている。 「昼過ぎにね、これを渡してくださいって持って来られたの。すぐ近くにいて会おうと思えば会えるのに、あなたに見つからないようにそっと来て帰って行ったわ。これで何回目になるのかしらね? ・・・私には詳しいことは何もわからないけど、それでも、あの人はあなたのことをちゃんと考えていてくれてるからこそこんな遠回りなやり方に耐えられるんじゃないのかしら?」 「・・・・・・」 「私が余計な口出しをする立場にいないのはよくわかってる。あなたがこのままでも構わないって言うのならそれでいいと思う。 でも、少しでも前に進みたいと思っているのなら、このままじゃ何も変わらないんじゃないのかな」 「・・・・・・」 戸惑ったように再び視線を落としてしまったつくしの手に封筒を握らせると、つくしは黙ってそれを握りしめた。 「じゃあこの後お昼休憩に入っていいから」 女性がポンッと優しく肩を叩いて出ていくと、その場にはつくし1人だけが取り残された。 紙の匂いで充満した部屋にそれとは違う香りが微かに広がる。 つくしは自分の手の中に納められた封筒をじっと見つめた。 そこからほのかに香るとても懐かしい香り。 名刺代わりとも言えるその香りはつくしの心に様々な思いを巡らせていく。 だが、最後に辿り着くのはいつだって同じ感情。 会いたい だけど会えない・・・ 相反する感情に押し潰されそうになると、つくしは両手で封筒を包み込むように胸に抱き込み、静かに目を閉じてギュッとその手に力を込めた。 *** 「すぐにお帰りになりますか?」 「・・・いや、先に車で待ってろ」 「かしこまりました」 頭を下げた西田に顔を向けることもなく司は施設の奥へと進んでいく。 施設の中でも一番人気の少ない場所へ入っていくと、そこには予想通りの顔があった。靴音で人の気配を感じたのか、そこでひたすら読書に没頭していた人物がふっとこちらを見た。 「・・・んだよおっさん、また来たのかよ。まじでストーカーだな」 顔を見るなり開口一番クソ生意気な悪態をつくが、何故か司は怒らない。 「お前こそまたここかよ。ダチの1人くらいいねぇのか」 「うるせーよ! んなことおっさんに関係ねぇだろ!」 「あぁ関係ねぇな」 「はぁ? じゃあ最初から聞くんじゃねぇよ! マジでなんなんだよお前」 ブツクサ愚痴をこぼしながら再び手元の本へと視線を落としていく。 だがいつまで経っても消えない気配に再びその顔を上げた。 「だからなんなんだよ! さっさと帰れよ!」 憎々しい男は何故か入り口で腕を組んだままじっとこちらを見ている。 しかも長い足を持て余すようにクロスさせているその余裕の態度がまた腹立たしい。 「あいつはちゃんとここに来てんのか?」 「またそれかよ。ストーカーに話すことなんて何もないっつってんだろ!」 一番嫌いなガキにこれだけ悪態をつかれているというのに、何故か司はクッと肩を揺らして笑っている。その姿をますます怪訝そうに睨み付けている少年が1人。 「なに笑ってんだよ。マジで頭おかしいんじゃねぇの?」 「・・・・・・ストーカーか。 ・・・あいつには本気でそう思われてんのかもしんねーな」 「は・・・?」 自虐的な笑いが止まらない男が不気味すぎて掛ける言葉も見つからない。 だがひとしきり笑うと急に真顔になって再び少年を見据えた。 どんなに悪態をつこうとも、この男に真っ直ぐに射貫かれると思わず体が竦んでしまう。 悔しくて認めたくないほど屈辱的なことだったが、それはもう条件反射のように体に染みついてしまっていた。 「たとえそうだとしても俺は諦めるわけにはいかねぇんだよ」 まるで少年の向こう側にいる誰かに語りかけるようなその口調にすぐに言葉が出せない。 「そ・・・そんなん知るかよ! 俺には何の関係もないだろ! これ以上俺のところに来るんじゃねぇよ!」 「それは断る」 「なっ・・・?! お前ほんとに頭おかしいんじゃねーの?!」 「おかしくたって構わねぇんだよ。たとえ間接的でも今はあいつと繋がっていられること全てが俺にとって重要なんだからな」 「勝手に人を利用すんなよ! 毎回毎回来られても迷惑なんだよっ!」 「俺は俺のやりたいようにやる」 「ふっ、ふざけんなっ!!」 そう叫ぶと少年はこれまで手にしていた本を思いっきり男へ向かって投げつけた。 だが男の体を目がけて投げたそれは勢い余って顔面に直撃してしまった。 ガツッという音と共に目の上に直撃すると、バサバサと真下へと落下していく。 避けることだってできたはずなのに、何故だか男はそうしなかった。 「あ・・・!」 たちまち赤くなっていくそこは、もしかしたら血が出ているのかもしれない。男に当てるつもりだったとはいえ、思いも寄らぬところからの出血に少年の顔が一瞬にして青ざめていく。 だが司は目の上を気にする素振りも見せず、コツコツと音をたてて少年へと近づき始めた。 「な、なんだよ・・・! ストーカーみたいなことするお前が悪いんだろっ?!」 口では必死で虚勢を張っているが、明らかにその表情は怯えている。 司はまるで今にも泣きそうに見える少年の目の前までやって来ると、スッと手を動かした。 その瞬間ビクッと少年が身を竦めたが、男の取った行動はその予想とは全く違っていた。 「・・・・・・?」 恐る恐る目を開けると目の前にあるのは紙切れだった。 意味がわからずに思わず司を見上げたが、その表情は相変わらず怒っているようには見えない。だが何を考えているのかも全くわからない。 「これをお前にやる」 「・・・はぁ? 意味わかんねーし」 「お前にとってもあいつは大事な人間なんだろ」 「・・・?」 「牧野は今はまだ俺の言葉を素直に聞ける状況じゃない。だからといってこのままでいいはずがない。行動を起こさなければあいつは一生あのままだ。俺はそんなことは絶対に認めない」 「何言って・・・」 わけがわからなそうにしている少年に司は再び握りしめた紙を強く差し出した。 「おそらく今あいつの心に一番近いのはお前だろう」 「・・・え?」 「・・・お前は似てるんだよ」 「・・・・・・? 何が・・・?」 謎解きのような言葉にますます混乱を見せる少年にフッとほんの少しだけ表情を緩めると、司は目の前の小さな手を掴んで半ば強引にその紙を握らせた。 「なっ、何する・・・!」 「あいつを守ってやりたいと思ってるなら素直に受け取れ」 「えっ・・・?!」 「悔しいが今の俺には直接これをあいつに伝える術がない。だからお前に託す。・・・あいつを守ってやってくれ」 「・・・・・・」 呆然としている少年の頭をポンッと軽く叩くと、司は踵を返して今来た道を戻り始めた。 「あんた道明寺司って言うんだろっ?!」 部屋から片足が出たところで叫んだ声にその動きが止まった。 ゆっくりと振り返るとまた睨み付けるようにしてその力を宿している。 「あぁ」 「あんたすげぇ会社の人間なんだろ! なんでこんな田舎に来てんだよ。そんなに暇なのかよ」 「いや、すげぇ忙しいな」 「じゃあなんで・・・」 「そんなん決まってんだろ。あいつを取り戻すためだろうが」 「・・・・・・!」 問いかけの途中ではっきりと言い切られ、一瞬それ以上の言葉が続けられない。 「・・・で、でもつくしはそんなこと望んでないだろ!」 「あいつがそう言ったのか?」 「えっ」 「あいつが本当にそう言ったのか? お前に」 「そ、それは・・・」 嘘でもいいから 「そうだ」 と言えばいいのに、何故か全て見透かされているような気がして誤魔化すことすらできずにいる。一体どうしてなのか。 「あいつが俺がいない方が本当に、心の底から幸せになれるっつーんならその時は潔く身を引いてやるよ」 思いも寄らぬ言葉に少年が思わず驚いて顔を上げた。 「だが残念だったな。それは死んでもあり得ねーことだ」 「どういう・・・」 首を傾げる少年に司は揺るぎない眼差しではっきりと言い切った。 「あいつの幸せは俺と共にある。それは俺にとっても同じこと。だから俺は何があっても諦めない」 「・・・・・・!」 「元々あいつには地獄の果てまででも追いかけるっつってるからな」 言いながら可笑しくて堪らないのか男は笑っている。 「俺はあいつを7年も待たせたんだ。だったら俺は一生でも待つ」 「・・・・・・」 「とはいえ一生このままでいる気なんかねぇけどな。自分にできることならどんな手だって使う。それだけだ。今のあいつにとってお前の存在は大きい。俺の直感だがそれに間違いはねぇ」 「・・・・・・」 「お前も俺と同じで牧野を守りたいと思ってるんだろ。だったら俺の話をちゃんと聞いておけ。何かあって後悔したくないんならな。お前はガキだがガキにだってできることはあんだよ」 いつの間にか黙って司の言葉を聞いていた少年にそう言い残すと、今度こそ出ていこうと背中を向けた。 「お前とかガキとか言ってんじゃねぇよっ!!」 再び飛んできた怒鳴り声に前に出かかった足が止まる。 フッと自然と口角が上がると、司は不敵な笑みを浮かべながらもう一度少年を振り返った。 「じゃあ遥人。今はお前が牧野を守ってやれ」 「・・・・・・!」 司の口から出た予想だにしない言葉に目を丸くして驚く遥人をその場に残し、3度目の正直とばかりに司は足早にその場を離れて行った。 残された少年・・・遥人はしばし呆然とその場に立ち尽くしたまま。 「あいつ・・・なんで俺の名前・・・」 ゆっくりと視線を下げた先には自分の手に握られた一枚の紙が。 憎い男が渡した物などすぐに破り捨ててしまえばいい! 心の中ではそう毒づいているのに、何故だかそれをゆっくりと開いてしまう自分がいる。 遥人は静まりかえった室内でその紙をただ黙って見つめていた。
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by: * 2015/04/08 00:44 * [ 編集 ] | page top
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遥人少年にとっては、司の自信の強さにただただビックリでしょうね。 司はつくしの顔を見たいのを我慢して、あえてそれをせず、それでも通い続ける。 遥人につくしを守ってくれと告げて・・・。 渡したのは、連絡先の書かれた名刺ですか? それとも何でしょう? つくしに気持ちの変化が起こるのはまだまだ先ですか? 気になります。 でもお忙しい中、ちょっと創作意欲が停滞気味の中、アップありがとうございます。 無理なさらないで下さいね。 --ka※※i様--
気付けば前回の更新から結構空いてしまって・・・申し訳ないですm(__)m そうなんです。つくしにも少しずつ変化が見えてきてますよ。 そりゃそうですよね、だって司が現れたわけですから。 どんなに平常心を装うとしても隠せない感情があると思います。 亀行進でじれったいと思いますが、動くときは一気に動きますので。 どうぞ2人の応援をよろしくお願いします(*^^*) --名無し様<拍手コメントお礼>--
あはは、つぶやきコーナーが好きだと言ってくださる方が意外と多くて有難いことです。 と同時に中身のなさに恐縮します(笑) あんなどうでもいい内容でも結構悩んで書いてるんですよ~(笑) --みわちゃん様--
遥人からすればどうして司がこうも自分にグイグイくるのかさっぱりわからないでしょうね。 司ってガキンチョが基本的には大嫌いだと思うんですけど、 遥人には色々と思うところがありそうです。 うーん、ハルの存在はやっぱりキーポイントになりそうですね。 そして物語もそろそろ動きを見せてきますよ。 ハルが渡された紙もなんだったのか?近々わかります。 このところ更新が滞っていて申し訳ないです。 もうすこしでいつものペースが取り戻せると思いますm(__)m --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
あはは、「??」が増えていく一方で面目ない(=_=) わかるときはぱーっとわかっていくのでその時をお待ちください。 ほら、我慢した後のトイレってすっごく気持ちいいじゃないですか! ・・・え?そうじゃない? はっはっはっはっは( ̄∇ ̄) --管理人のみ閲覧できます--
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ここ数日寒かったですね~! 関東は花見のピークを過ぎた頃に雪って・・・凄いですね( ゚Д゚) こっちはようやく蕾が赤くなってきましたよ~。 あはは、狙ってるつもりはないんですけどねぇ。 でも連載というと漫画やドラマの続き方を無意識に意識してるのかも。 「えっ、どうなるの?!」と思わせるところで切らなきゃ、みたいな。 ドラマや本よりも間隔は空かないのでそこはもう我慢してくださいませ(笑) ぼちぼち物語が動き始めますからね~。 --ブラ※※様<拍手コメントお礼>--
いやぁ、すっかり間が空いちゃって面目ないです>< ちょっと時間と心に余裕がなくてしばらく放置しようかな・・・ なーんてことがチラッと頭を過ぎったりもしちゃったんですが戻って参りましたっ!(ロ_ロ)ゞ お師匠様のところもしっかりストーキングさせてもらってますからっ!! そのうち足跡とツバをこれでもかと残しに参りますゆえ!(≧∀≦) --コ※様--
そうですよねぇ。 皆さんの頭の中は「???」が一杯ですよね・・・ でもこれから物語が動いていきますから。 わかるときにはドドーーーッと色んな事が発覚していきますので。 どうぞそれまではありとあらゆる妄想タイムでお楽しみくださいませ( ̄∇ ̄) ちょっと時間に追われてるので更新時間があやふやですが、 できるだけ皆様にお届けできるように頑張りますので(o^^o) こうしていただくコメントが私の原動力です♪ --一※※者様<拍手コメントお礼>--
連休中も更新頑張りました! 今日はちょっと無理かな~と思ったんですが、気合でなんとかしました(笑) わぁ~、序章から読み返してくださってるんですか? 有難いやら色んな綻びを指摘されそうやらでドキドキでもありますが(苦笑) 皆さんのコメントにやる気をもらってます(o^^o) |
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