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愛しい野獣には冒険をさせよ 中編
2015 / 04 / 04 ( Sat )
____ あれから一週間。

約束通り庶民デートたる日を迎えたのはいいのだが・・・
初っぱなから頭が痛くなるような要求ばかりだった。

まず待ち合わせするところからやりたいと言い出しやがった。
リムジンは当然の如くノー、俺が運転する車で迎えに行くと言ってもシャットアウト。
しかも人通りの多い、デートの待ち合わせスポットとしてはベタすぎる場所を指定しやがった。
案の定俺の嫌な予感は的中し、逆ナンしてくる女は後を絶たなかった。
んなこたぁ眼中に入ってもいないが、視線が纏わり付くだけでも鬱陶しい。
全員ぶっ飛ばして回りたいくらいだがそうするわけにもいかず。
牧野が来るのがもう少し遅かったらマジでやばかったかもしれない。


そして今。

目の前にある機械を前に固まる男が1人。
その1人とは他でもないこの俺自身なのだが・・・

この先一体どうすりゃいいんだ?
どう見てもブラックカードが使えるようには見えない。
牧野にカードは厳禁と釘を刺されていたからまぁそれ以前の問題ではあるのだが、久しぶりに握った紙幣を手にしたまま次に起こす行動がわからない。

液晶に無数に並んだ数字を一体どうすりゃいい?
左右で作業をしてる奴らを横目で見ると、どうやらいずれかの数字をタッチすると切符が出てくるシステムらしい。
だが俺はどれを押せばいいんだ?
とりあえず一番でかい数字を押しときゃ問題ないのか?
・・・わからねぇ。 俺にはさっぱりわからねぇ。


「あれっ、まだ買ってないの?」

と、何やら用事を済ませてくると言っていた牧野がようやく戻って来た。
が、紙幣を握りしめたまま未だに切符すら買えてない俺に驚いているようだ。
くそっ、だからこんなデートは嫌だったんだ!

「あ、ごめんごめん。行き先ちゃんと教えてなかったもんね。えーとね、行き先はここだよ」

だが牧野は特段気にしたような素振りも見せずにサラッと笑いながら目的地を指差した。
こいつなりの俺に対する気遣いなんだろうというのがよくわかる。

「あ、あぁ・・・」

言われたとおりの場所をタッチすると、切符と共に大量のおつりが出てきた。

「財布から真っ先に出てくるのが万札ってのが道明寺らしいよねぇ~。 でも今日は2人で合わせて1万円しか使えないんだからね?」
「・・・・・・」
「よし、じゃ電車乗ろっか」

すっげー楽しそうに前を歩く牧野とはきっと対照的な顔をしているだろう俺。
あいつが提案した庶民デート、その条件の中に予算は2人合計して1万円なんつー、とんでもないものがあった。しかも当然の如く全て割り勘だと言い切りやがった。
1万円っ?! 1万円で一体何ができんだよ? 一食分の値段じゃねーのか?
普段現金すらろくに持ち歩かない俺には未知の世界だ。
だがこいつができるっつーことにきっと不可能はないのだろう。
移動は当然公共交通機関のみ。
それで最初の待ち合わせに遡るというわけだ。


バコーーンッ  ドカッ!!


「いてっ!」


と、突如膝周辺に痛みが走った。 何だ?!

ピコーーン! ピコーーン! ピコーーン! ピコーーン! ピコーーン!

見れば足元のゲートが俺の行く手を阻んでいる。
何だこいつはっ?!
他のヤローはちゃんと開いてるじゃねぇか! っざけんなっ!!

「どっ、道明寺っ?!」

先に改札をくぐっていた牧野が大慌てで引き返してきた。

「このクソ野郎、一体どういうつもりだ?! 切符なら買ったじゃねぇか!」
「わわわわわわ、待って待って待って! 足で跨いじゃダメだって!」
「んでだよ! 切符なら買っただろ? なんでこの野郎閉まりやがるっ!」
「きっ、切符ちゃんと入れたっ?」

ゲートごと飛び越えようとする俺を牧野が必死で押し留めながら聞いてきた言葉に俺の体がピタリと止まる。

「そこに切符を入れるところがあるでしょ? ちゃんと入れた?」

切符を? 入れる・・・?

牧野の視線の先を辿っていくと確かに何かを入れるであろう機械が目に入った。
そして牧野の視線の先には俺の左手に握られたままの買ったばかりの切符が。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

阿呆鳥でも飛んでいったのではないかと言うほどの沈黙が走る。

「どうかされましたか?」
「えっ・・・? あっ、なんでもないです、ごめんなさい! 道明寺、早く切符入れて!」
「あ? あぁ・・・」

何事かと駆けつけた駅員に牧野が必死で釈明している。
その隙に言われたとおりに切符を入れるとなんなくゲートが開いた。
見れば駅員以外にもこの騒ぎを見ている人間が何人もいたようだ。
ジロッと一睨みすれば蜘蛛の子を散らすようにササーーーっと逃げていく。

・・・・・・・くそったれ。
だから庶民デートなんて嫌だったんだ。
この俺がこんなことで右往左往するなんて・・・情けないにもほどがある。
いつだって牧野をリードしていたいってのに、こんなカッコ悪ぃ醜態を晒して死にてぇほどだ。



「なんか・・・ごめんね?」
「あ?」

ガタンゴトンと揺れる電車の中で牧野が申し訳なさそうに俺を見上げている。
だからその顔やめろっつってんだろが。

「あたしのせいで道明寺に・・・その・・・」

恥をかかせてしまってとでも続けたいのだろうが言いづらそうに言葉に詰まっている。

「別にお前のせいじゃねーだろ」
「でも・・・」
「言われてみれば昔も同じ失敗してたことをすっかり忘れてた俺が悪い」
「え?」

意外そうに目を丸くしているが事実だ。

「道明寺って電車乗ったことあるんだ?」
「片手でも優に余る程度だけどな」
「そうだったんだ・・・意外~!」

俺が予想外に怒っていないことに安堵したのか、牧野はホッと表情を緩めてようやく笑った。
初めて乗ったのはガキの頃だったか。
たまたま見たテレビで電車に乗ってる奴らを見て子ども心に羨ましくて使用人に命令したんだったか。

「大人になってからはないの?」
「ねぇな。そもそも必要性がないからな。それにそれ以前に嫌なんだよ」
「え?」
「こういう狭い空間で不特定多数の人間が集まる場所がうっとおしくてな」

視線を動かしてそれとなく暗に知らせると、牧野が周囲を見渡して何かに気付いたようだ。

「あ・・・そっか・・・。やっぱりごめんね? 我が儘言って」

牧野の視線の先には俺を遠巻きに見ている女がこれでもかといたに違いない。
さっきの待ち合わせでもそうだが、このルックスに纏わり付いてくる人間は後を絶たない。
総二郎やあきらならそれもまた楽しみの一つとしてうまくやり過ごすのだろうが俺は違う。
視界にすら入れたくもない女共の格好の餌食になるような場所は頼まれてもごめんだ。

だが・・・

「だからお前が謝るなっつってんだろ」
「でも・・・」
「俺がいいっつったんだ。お前が気にすることじゃねぇ。俺の舌打ちじゃねぇけど、お前が謝る度にペナルティ与えっからな?」
「えっ?!」
「そうだな、1回言うごとにキスにすっか」
「だ、ダメダメダメっ!!」

ガバッと両手で口を押さえて速攻でガードに入った。予想通りだ。

「バーーーカ! だったらいちいち謝るんじゃねぇよ。お前が庶民デートしたいっつったんだろ? それなら余計なこと考えずに楽しめよ」
「道明寺・・・・・・うんっ! ありがとう・・・!」
「別に礼を言われることはしてねーぞ」
「うん、でもいいの。嬉しいから」

ポンっと頭に手を置くと、牧野はその手に自分の手を重ねて嬉しそうに笑った。
・・・あー、やっぱ庶民デートなんてさっさとやめて邸に連れて帰りてぇ。
でも自分で言った手前約束はちゃんと果たさねぇとな。
・・・ま、夜は長いんだし。

「ん? どうしたの?」
「なんでもねぇ」

今夜のことを想像して緩みそうになる口元を慌てて引き締めると、滅多に見ることのない車窓からの景色を2人並んでしばらくの間楽しんだ。





***




「わ~、やっぱり休日ともなると結構混んでるんだねぇ」

電車に揺られてやって来たのは下町にある古びた遊園地。
遊園地なんて・・・それこそガキの時にアメリカで行って以来なんじゃねぇのか?
どんなことをしたのかすらもうろくに覚えてないほどの微かな記憶しかない。
俺が遊園地なんて似合わないにもほどがあるって自覚があるが、まぁ動物園じゃなかっただけマシだろう。

「遊園地なんて結構金がかかんじゃねぇのか? 予算は1万だろ?」
「あ、大丈夫大丈夫。ここはね~、フリーパスでも1人2千円なんだよ? 安いでしょう!」
「へぇ・・・俺にはよくわかんねーけど、お前が言うくらいならそうなんだろうな」
「あははっ! 普通は4、5千円くらいが平均なんだけどね。その分ちょっと古いけど、でもだからこそ味があっていいんだよ?」

ほんとこいつは何でも楽しそうに話すよな。
貧乏人のくせに俺なんかよりよっぽど充実した人生を送ってきたんだろう。

「はい、これ道明寺の分のチケットね」
「あ? あぁ、サンキュ。これはどこに入れんだ?」

今度こそあんな恥ずかしい真似はゴメンだ。 二度と繰り返してたまるか。

「え? ・・・ぷっ、あははははっ!」

それなのにこいつときたら、いきなり腹を抱えて笑い出しやがった。

「なっ、何だよ? チケットはどっかに入れるんだろ?!」
「あはははっ! うんうん、そうだね。でもここは手渡しでいいんだよ、ほら」

指差した先には入り口ゲートに立つ係員と思しき人間がチケットを手で受け取っている。
場所によってやり方が違うって事か? 庶民の世界も案外奥が深ぇんだな。

「・・・・・・? 俺にはよくわかんねーな」
「あははっ、普段来ることがないとそう思うよね。まぁ今日は庶民の世界を色々堪能してよ。さっ、行こう?」
「・・・あぁ」
「あっ?!」

牧野の左手に握られていた大きなバッグをサッと奪い取ると、空いた手に自分の手をすかさず絡ませた。申し訳なさそうにしてるが気にすることなんかねぇのに。さっきまでは両手で握りしめてたから奪うチャンスがなかっただけだ。
つーか結構ずっしりしてるけど一体何が入ってんだ?
庶民の世界も女の世界も俺には謎だらけだ。

「・・・ありがとう」
「おー」

嬉しそうにはにかむあいつに相槌を打つと、再びスキップしそうな勢いで足取りの軽くなる牧野に引き摺られる形で園内へと入っていった。






「きゃーーーーーっ!!!!」

ゴーーーーッという轟音と共に急降下していく体に合わせて牧野の悲鳴が響き渡る。
なんとかコースターとかいう乗り物らしいが俺にとっちゃあちっとも怖くねぇ。
一人乗りの小型機を操縦してる時の方がよっぽどスリルがある。
・・・ただやけにギシギシ怪しい音がするのが少々気になるところではあるが。
つーか今にもぶっ壊れるんじゃねぇのか?! これ。
なんてことを冷静に考えている間にあっという間に一周してしまったらしい。


「はぁ~~、怖かったぁ」
「すげー声だったな」

胸を押さえながらはーーっと深呼吸した牧野がふと俺を見上げる。
その顔はどこか不服そうに見えるのは気のせいか?

「おかしくない?」
「・・・は?」
「普通さ、遊園地に来たら実は男の人の方が絶叫マシンに弱かった! ってのがよくあるパターンなんじゃないの?」
「はぁ? そんなん知るか!」
「んも~~! てっきりそのパターンになるのを楽しみにしてたのにぃ~」
「アホか! 勝手にそんなもん押しつけられても迷惑なんだよ」
「ちぇ~っ。じゃあ次はメリーゴーランドね」
「メリー・・・?」

聞いたこともない言葉に頭の中が疑問符でいっぱいになる。

「あれあれ」

牧野が指差す先を見れば摩訶不思議な馬に跨がる子どもに、何故だかカボチャの馬車に乗った女の姿がちらほらと。

「・・・・・・却下」
「えっ、ダメだよ!」
「俺にあんなメレンゲな世界は到底無理だ。お前だけ乗ってこい」

俺様ともあろう男があんな恥ずかしい真似できっか!

「メレンゲ・・・? もしかして、メルヘンって言いたい?」
「・・・どっちだっていいんだよ。とにかく却下だ」
「やだやだやだ! 道明寺とじゃないとやだ!」
「ぜってぇ断る」
「お願いっ! 道明寺と乗りたいの! すっごい楽しみにしてたのっ!」
「うっ・・・!」

出たっ!
牧野の必殺技。上目遣いのおねだり攻撃。おまけに腕を掴んで離さねぇとか。
お前・・・ここでそれは卑怯すぎるだろっ!
マジでタチが悪いにもほどがある。
それをやってりゃ俺が何でもかんでも言うこと聞くと思ってんじゃねーぞ?
そんなバカなことが世の中そう簡単にあるわけ・・・・・・





「きゃははははは! 楽しいねぇ~~!!」
「・・・・・・」
「ねぇ楽しくないの?」
「・・・もう何も聞かないでくれ」
「え~っ? あたしはすっごい楽しいけどなぁ~? きゃははっ!」

・・・・・・どうか社員がこの場にいないでくれと心から願う。
何が悲しくて俺がカボチャの馬車に乗ってクルクル回らなきゃならねぇんだ?
これが庶民の常識ってやつなのか?
こんな姿、あいつらには死んでも見せられねぇっ!!

思わずゾッとして周囲を見渡してみたが、どうやらそれらしい姿は見当たらずにひとまずほっと胸を撫で下ろす。
こんなメルヘンな乗り物に乗るだなんてもう一生ごめんだが、こいつのこんな楽しそうな姿をを見てると・・・なんか細けぇことなんかどーだってよくなってくるから不思議だよな。

いつもどこか忙しい俺に気を使ってるこいつが、今日は心の底から嬉しそうに、まるでガキに戻ったみてぇにはしゃぎまくってるなんて。
こうしてこいつの新たな一面を見られるのなら、庶民デートっつーのもたまには悪くねぇんじゃないかとすら思える。


「次はお化け屋敷行こっ!」
「は? まだ行くのか?」
「もちろんでしょ~。しっかり元とるまでは遊びまくらないと! ささ、行こ行こっ!」

こいつのこの底なしの体力は一体どこから湧いてくるんだ?




やっぱり庶民デートは1回きりでいいっ!!!





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by: * 2015/04/04 07:11 * [ 編集 ] | page top
--名無し様<拍手コメントお礼>--

ね~、2000円なんて何度でも行きたいですよね~!
でも壊れるのは勘弁して欲しいな・・・(笑)
by: みやとも * 2015/04/04 07:47 * URL [ 編集 ] | page top
--あー※※ん様<拍手コメントお礼>--

楽しそうですよね~(o^^o)
坊ちゃんお詫びを兼ねた庶民デートなので逆らえません(笑)
by: みやとも * 2015/04/04 07:50 * URL [ 編集 ] | page top
--k※※ru様<拍手コメントお礼>--

楽しんでもらえてるようでよかったです(o^^o)
相手がつくしだから司もイヤイヤながらも従っちゃってますけど、
他の人間だったら半殺しされてますよね(笑)
あの連中にもし見られてたら・・・やっぱり半殺し決定だろうな( ̄∇ ̄)
by: みやとも * 2015/04/04 07:52 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--

メリーゴーランドってかなりハードル高いですよね・・・
司が乗ってる姿を想像しただけで・・・スマンと言いたくなります(笑)
でもね、日頃我慢ばっかりさせてるつくしのためのデート日和ですからね。
ぐっと耐えるしかありません( ´艸`)
by: みやとも * 2015/04/04 07:56 * URL [ 編集 ] | page top
--苹※様--

やっぱり原作だとそうでしたかね?
今手元になくてどうだったかな~とうろ覚えで書いたんですよねぇ。
色々辻褄が合わない点もあるかと思うんですが、
これはリクエスト用の単発だと思って楽しんでくださいね♪
by: みやとも * 2015/04/04 07:58 * URL [ 編集 ] | page top
--ブラ※※様<拍手コメントお礼>--

リクエストをいいことにやりたい放題してスマン、坊ちゃん( ̄∇ ̄)
カップ猫じゃなくてメリーゴーランドを探したんですけどね。
さすがになかったです~(笑)
by: みやとも * 2015/04/04 17:10 * URL [ 編集 ] | page top
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