愛が聞こえる 25
2015 / 04 / 14 ( Tue ) 「・・・どういう意味だ?」
「どうもこうもそのままの意味だよ」 まるで謎解きのような答えに司の苛立ちが募る。 わざわざ呼び止めてまで言いたかったのはこんなわけのわからないことだけなのか。 そんな司の胸の内が手に取るようにわかるのか、類がフッと目を細めた。 「司は俺に対して色々思うことがあるのかもしれない。裏切り者だと思うのなら別にそれでも構わない。まぁ俺自身は裏切ってるつもりも妨害してるつもりもないけどね。ただ俺にとってベストだと思う選択をしてるだけの話」 「それとさっきの発言とが繋がらねーだろ。 俺達の鍵を握るのは誰なんだよ?」 「言っただろ? 俺があげるのはヒントだって。ここから先は司自身が見つけろよ」 「・・・チッ!」 結局それではヒントにすらなっていない。 司にとってはからかわれたも同然だ。 忌々しげに舌打ちすると、自分とは対照的に涼しげな男を視界から外して再びその場から離れて行く。 「俺は全ての真実を知ってるわけじゃない。きっとお前が知ったことと俺の知ってることはそう大差ないはずだ。だからそもそも俺が司の未来をどうこうすることなんてできないんだよ。 ・・・ただ、その鍵を握る人間が必ずいるってことだけは言える」 その言葉に一瞬だけ司の足が止まる。 類はその背中に向かってさらに言葉を続けた。 「お前がその人間を見つけ出せた時に何かが変わるかもしれない」 「・・・・・・」 「俺が司に言えるのはこれが全てだよ」 チラリと目だけ振り返った男と目が合うと、類はフッと仄かに笑った。 「・・・・・・」 しばし無言で向かい合っていたが、そのまま言葉もなく司が再び歩き出した。 3度目の正直、今度こそ立ち止まらずにその場から立ち去っていく。 その場に1人残された類が条件反射のようにすぐにソファに体を横たえた。 「お前の野生の勘をお手並み拝見ってとこかな」 とうに本人はいない。 だが語りかけるようにそう呟くと、類は静かに目を閉じてやがて眠りの世界へと落ちていった。 「鍵を握る人間・・・?」 邸へと戻るリムジンに揺られながら考える。 類の表情を見ればあの言葉に嘘は感じられなかった。 もともとあいつは小手先で何かを誤魔化すような人間じゃない。 そしてわざわざ誰かのために苦労を買って出るような人間でもない。 何を考えているのか掴み所のない人間ではあるが、そこは自分たちが誰よりもよくわかっている。 あいつは全てを知っているわけではない・・・? だが牧野を守るために動いているのは間違いない。 類にそうさせているのは牧野の存在だけではないということか。 一体誰が? 「・・・・・・弟か・・・?」 それはただの直感にすぎない。 だが何故か確信めいたものがあった。 司自身、未だ進の居場所が掴めていない。単純に類がその存在を隠しているとばかり思っていたが・・・牧野同様あいつ自身がそう望んでいるのだとしたら? それは一体なんのために? ・・・・・・わからない。 真実を知るためにはあまりにもわからないことが多すぎる。 だが・・・まるで俺が見つけ出すのを待っているように感じるのは気のせいか。 恐らく類はあいつの居場所を知っているのだろう。 だがそれを教えられない正当な理由が存在する。 それでも俺にわざわざそれを言及するということは・・・ 『 道明寺さん、僕を見つけ出せますか? 』 頭の中であの弟の声が響いたような気がした。 まるでお前の本気がどれほどのものか試させてもらうとでも言わんばかりに。 「・・・クッ、クックックッ・・・!」 どうしてだか笑いが止まらない。 こんな気持ちになるのは一体いつぶりだというのか。 何一つ問題は解決されていない。暗中模索の状態も変わらない。 ____ だがそれでも。 とてつもなく大きな光明を掴んだ気がした。 「 受けて立ってやるよ・・・! 」 そう口にした司の目は野心に満ちた赤い炎でどこか楽しげにギラギラと燃えていた。 *** 「はぁ~~~~っ・・・」 溜め息と共にテーブルに伏せたおでこからゴツンと思った以上にいい音が響いた。 「どうしよう・・・」 もう何百回目だろうか。 何度も何度も同じ所を行ったり来たりしては出てくる言葉も皆同じ。 ぐるぐるぐるぐるいつまで経っても出口が見えてこない。 「ハルの顔見てたら誤魔化せる自信ない・・・」 その呟きと共にまた溜め息が出る。 あの日、ハルが事故に遭いそうになった日。 彼の口から飛び出した 『 道明寺 』 という言葉が頭から離れない。 そもそも何故ハルは彼のことを知っているのだろうか? 施設で偶然鉢合わせた以外にも接点があったということなのか。 他人に興味を示さないハルが何かの理由なしにわざわざ調べるとも思えない。 道明寺が子ども相手にわざわざ名乗るとも思えない。 となれば、自分の知らないところで何かしら接点があった可能性が高いのだろう。 今日はボランティアの日。 施設に行けばハルが待っている。 きっと、あの嘘を許さない真っ直ぐな目でこの前の答えを聞いてくるに違いない。 そうしたら一体どうすればいい? どうすれば・・・ 「はぁ~~~~~っ・・・」 溜め息で幸せが逃げていくと言うけれど、それが本当ならもうとっくに干からびているに違いない。 初めて見たときから彼は不思議な少年だった。 投げつける乱暴な言動とは裏腹に、どこか寂しげな瞳をした男の子だと思った。 全くと言っていいほど人を寄せ付けなかった彼が、少しずつ歩み寄っていく中で見せてくれた素顔。それは年齢よりもずっとずっと幼い純粋な心だった。 その心がほんの少し垣間見えてはすぐにその扉は閉ざされる。その繰り返し。 そして大人よりも大人びた態度で他人との間に見えない壁を作り出す。 そんな彼にずっと既視感を覚えていた。 ずっとずっと感じていたこと。 ・・・そしてずっとずっと考えないようにしていたこと。 『 俺とあの道明寺って男、似てるのか? 』 ・・・そう。 ハルを初めて見たときから何故か初めて会った気がしなかったのは・・・ 彼が似ていたからだ。 ____ 道明寺司という男に。 年齢も姿形もまるで違う。 それだというのに、あの2人がずっと重なって見えていた。 一匹狼のように虚勢を張っていても、その心は純粋で脆い。 人を攻撃することで自分を守っている。 そんな心の内が疑いようがないほどに似ていたのだ。 ずっとずっとその現実から目を背け続けてきただけ。 「・・・っ・・・ハッ・・・! ・・・・・・っ、・・・・ふぅっ・・・!」 一気に上がりそうになる呼吸をゆっくり何度も何度も深呼吸して落ち着けていく。 本来ならばもっと苦しくなるところが、少しずつコントロールできるようになってきたのを感じる。 子どもであるハルに散々説教されてから、いい加減自分のこの状態と向き合わなければならないと思い直し、職場のパソコンを使って自分の症状について色々と調べてみた。 病院に行くのが怖くて、酷い発作に襲われるのが怖くて、ずっと避けて通ってきた道。 ハルの言う通り、常に咄嗟の対処法としてきたやり方は今では避けるべきだと言われていることを初めて知った。最初の発作が起きたときにはそうするようにと勧められていたことが、実は今となっては危険な行為だったなんて。 あの時ハルが言わなければ気付くこともなかった。 ・・・あのハルが自分のためにわざわざ調べてくれたことを無駄にはできない。 発作の原因は自分が一番よくわかっている。 それでも不思議だった。 ハルに言われて以来、その原因が頭を過ぎっても突発的な発作が襲うことはなかった。 それは自分でコントロールする術を身につけたからなのか、それとも・・・ 彼は・・・道明寺はいつまでも自分を待ち続けているに違いない。 久しぶりに見た彼の目は自分のよく知る目だった。 ___ 彼が本当に戻って来たのだと思った。 たとえ見た目が別人のように痩せてしまっていても、あの瞳だけでわかってしまう。 自分だけを忘れ去っていた彼はもうどこにもいないのだと。 「・・・・・・」 つくしは思わず両手で顔を覆った。 自分のためにも、彼のためにも、いつまでもこのままではいられない。 いかなる形であれ、いつかは向き合わねばならない日がくるだろう。 「・・・・・・よし、行くか」 パンッと両手で頬に一発気合を注入すると、つくしはカバンを手に立ち上がった。 「まずはハルと向き合うことから始めよう」 まだ今の自分にはすぐに向き合うだけの勇気はない。 それでも、今のままでいいわけじゃないことくらいはわかってる。 そう思えるようになっただけでも自分の中の何かが変わってきている。 焦るな、 焦るなつくし。 自分を鼓舞するように心の中で呟くと、つくしは強く一歩を踏み出した。
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by: * 2015/04/14 07:00 * [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
つくしちゃんの心境にもようやく(?)変化が。 それが司にとってどっちの方向に転がるかはまだわかりませんが・・・ 司は司で戦闘モードオンになっちゃいましたからねぇ。 どっちの戦闘力が勝つのでしょうか?(笑) --k※※hi様--
野生の勘の特許持ってるような男ですからねぇ(笑) ギンギラギンに燃えたぎってると思いますよ~( ̄∇ ̄) 燃え尽きないように気をつけてっ! 進君、何かしら鍵を握ってそうな気配ですね。(坊ちゃんレーダー参照) つくしの心境にもようやく少し変化が。 そうなんです。つくしちゃん、手放しで喜べてないんですよね。 そこにはきっと彼女にしかわからない苦悩があるんです。 それでも発作が起きないだけ随分前進してますよ。 あとは坊ちゃんの野生力に期待しましょう! --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ke※※ki様--
ほんの少しでも前向きになっただけでも今のつくしには大前進です。 あとは坊ちゃんの頑張り次第かな。 つくしの心の闇を振り払ってやれるのはきっと君しかいない! 花晴れ読んでますよ~。っていうかあれってずっと無料なんですかね? 土台が同じなだけにどうしても比べちゃいますよねぇ。 全てにおいて前作には勝てないよなぁと思っちゃいます。 いっそのこと全く別物として始めれば見る目も違うんでしょうけどね。 道明寺と比べちゃうとやっぱりキャラが弱くて・・・ どれくらいの連載にするんでしょうねぇ?長すぎるのはやだな~。 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --コ※様--
坊ちゃんの闘争心にいよいよ火がついちゃいましたね~♪ 進が何かしらの鍵を握っていそうですね。 でも正確にはきっと彼だけじゃないですけどね。 つくしも少し心境の変化が出てきたようです。 まだ司に向き合う勇気はないようですけど、発作がすぐに出ないだけ一歩前進です(o^^o) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ブラ※※様<拍手コメントお礼>--
お師匠様おつついて!おつついてっ!! 変態モードセットオンになるには場所間違えてますって!! それは本部でゆっくりと・・・ぐふふ( ´థ౪థ) --ふ※※ろば様--
おぉ!すばらしい3分クッキング激情! ←え、違う? そういえばリリーズっていましたねぇ~。 はっはっは。完全に頭から抜けてました。 ということでそこまで深い設定など考えていません( ̄∇ ̄)チーン 皆さん細かいところまで注視してくださっていて、多分書いてる本人より詳しいと思います。 いつも凄いな~~!!と感心しきりです。 もう行き当たりばったりだと書いた傍から忘れる忘れる(笑) 今度解説本作ってください(≧∀≦) |
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