幸せの果実 19
2015 / 04 / 24 ( Fri ) 「つくし様、ご友人の皆様がいらっしゃいましたよ」
「え? わぁっ?!」 「つくしぃ~~~~~~~~~~っ!!! ぐえっ?!」 言われて顔を上げたときにはもう既に目の前に突進するように滋の顔が迫っていた。 だがつくしにぶつかるすんでの所でその動きがピタリと止まる。 「滋さん、先輩にタックルなんかしちゃダメですよ!」 「あっ・・・てへへ、そうだった。ごめぇ~~ん!」 テヘッと舌を出して笑う滋の首根っこが桜子によって掴まれている。 どうやらカエルが潰れたような声の正体はこれだったらしい。 一番後ろから入って来た優紀が一部始終を見てクスクス笑っている。 「皆・・・来てくれたんだ」 「あったり前じゃんっ! もう嬉しくて嬉しくていてもたってもいられなくて。つくし、おめでとうっ!!」 「先輩、おめでとうございます」 「つくし、おめでとう! ほんとによかったね!」 「あ、ありがとう・・・」 妊娠が判明してからというもの耳にタコができるほどに言われ続けている言葉だが、何度言われようとも気恥ずかしさは抜けていかない。 「体調はどう?」 「あ、うん。今のところはまだそんなに。たまに体がだるいなって思う時があるくらいかな」 「そっかぁ」 つくしの向かいのソファーに座ると、当然の如く全員の視線がお腹へと集中する。 まだまだ言われなければ妊婦だなんて誰にもわからない。 「つくしがついにママになるのかぁ~」 一番付き合いの長い優紀が感慨深そうに呟く。 「ほんとだよね。自分でもびっくり」 アハハっと笑いながらお腹に手を当てる。最近は時間さえあれば無意識のうちに触っているのだが、本人はさほど自覚していない。そんなつくしの様子を見ていた桜子が言った。 「・・・なんか、すっかり母親の顔ですね」 「えっ?」 「お腹に手を当てる姿だけでも母性に溢れてますよ」 「えぇっ?! そ、そうかな・・・?」 「そうですよ」 「うんうん、なんかすっごーーーく柔らか~い表情してる。今までそういう顔って見たことないもん」 「そ、そう・・・? 自分じゃ意識してないからわかんないよ」 あらためて指摘されると恥ずかしいったらありゃしない。 一体どんな顔をしているのやら。 「そうやってお母さんになっていくんだねぇ・・・」 「・・・うん」 優紀の言葉がじんわりと心に響く。 「そういえば今日司は?」 滋がキョロキョロと部屋を見渡しながら主の姿を探している。 「あ。今日は仕事なんだ。この前検査にいくために休んじゃった分のしわ寄せがきてて」 「へぇ~っ? じゃあ司も病院に行ったんだ?」 「う、うん」 「すごーーーい! あの司が産婦人科に行くとか・・・なんか想像しただけで萌えるわぁ」 「滋さん顔やばいですから。でも確かに意外と言えば意外かもしれませんね」 「あたしもびっくりだよ。まさか一緒に行くなんて言うとは思ってもなかったもん」 むしろ男がそんなところに行ってられっか! くらいのことを言われるとばかり思っていた。 「そうかなぁ? あたしはむしろいかにも道明寺さんらしいと思ったけど」 「・・・優紀?」 「ほら、道明寺さんってつくしのためだったらたとえ火の中水の中って感じの人でしょ? だから何よりも大事なつくしに赤ちゃんができたともなればそうするのが至って普通じゃないかな~って」 「言われてみればそうかもねぇ・・・」 「先輩命ですものねぇ・・・」 「なっ・・・何よそのニヤニヤした顔はっ?!」 全員が足並みを揃えたようにニヤついた顔でつくしを見ている。 「別に~? そんなに愛されてるつくしが羨ましいなって話」 「愛っ・・・?!」 「今更照れるなっての~! 子どもができるようなこと散々しておきながらこれしきで」 「し、滋っ!!」 「あははっ」 ついこの前もどこかの誰かに似たようなことを言われたような。 ・・・全く! 「そういえば先輩って今もお仕事続けられてるんですか?」 「え? ・・・あぁ、うん。一応ね」 「よくあの司が許したねぇ? てっきりすぐやめさせるとばかり思ってたけど」 「それが・・・最初は大変だったのよ・・・」 はぁっと溜め息をつきながらつくしは少し前のことを思い出していた。 「・・・今なんつった?」 ピシッと空間に見えない亀裂が走ったのをひしひしと肌で感じる。 だがここで怯んでなるものか。 「・・・だから、これからも仕事は続けさせて欲しいの」 「っざけんなっ! 万が一お前と腹の子に何かあったらどうするんだよっ!!」 張り上げられた声に思わずつくしの体がビクッと揺れる。 「坊ちゃん! 妊婦にそんな大きな声を出してどうするんです! 言ってることとやってることが矛盾してますよ!」 「あ・・・悪い。・・・大丈夫か?」 憤慨していたのから一転、まるで壊れ物を扱うように優しくつくしの肩に触れる。 その顔は罪悪感で埋め尽くされている。 「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」 「いや・・・」 自分の行動を後ろめたく思っているのか、何ともバツが悪そうに司が視線を泳がせた。 めったにないその動揺につくしの中の何かがギュッと締め付けられる。 「司・・・あたしは病人じゃないの。働いてる妊婦さんだってたくさんいる。つわりだってまだそんなに出てない。・・・だから、できるだけ可能な限り仕事は続けていきたいって思うの」 「・・・・・・」 「司のお母様だってお腹が大きくなっても会社のトップとして働き続けてたって聞いたことがある。私だって、道明寺の人間としてできることは頑張りたいの」 司の視線がつくしのそれと真っ正面からぶつかる。その目は承服できない、そう言っている。 つくしは肩に置かれた手に自分の手を重ねた。 「体調が悪くなるようだったり、自分がいることでかえって皆の足を引っ張ると思ったときには潔く身を引く。だからお願い。司の元で働かせて・・・?」 「・・・・・・」 真っ直ぐに見つめたまま載せた手にギュッと力を込めると、やがてはぁ~~っと特大の溜め息が聞こえた。 かと思った次の瞬間にはつくしの体は大きな体に包まれていた。 ギュウギュウと、決して腹部に負担をかけないようにしながらもその力は強い。 「つ、つか・・・」 「お前、卑怯だぞ」 「えっ・・・?」 グッとさらに力が込められる。 「この状況でその必殺技使うとかタチが悪すぎだろうが・・・」 「ひ、必殺技・・・?」 一体何のことを言っているのか。全く意味がわからない。 だがそんなつくしなど放ったまま司はつくしの肩に顔を埋めて再び特大の溜め息をついた。 「まぁまぁ坊ちゃん。坊ちゃんの心配はごもっともなものですよ。でもね、つくしの言うことも一理あるんです。妊娠は病気じゃないんです。妊娠したからって全ての行動を制限してしまってはむしろその方が体に毒ですよ」 「・・・・・・」 「今は幸いつわりもほとんどないようですし、しばらくは今まで通りで様子を見たらいかがですか? それからでも遅くはないと思いますよ」 「・・・・・・」 つくしを抱きしめたままウンともスンとも言わない司にやれやれとタマが苦笑いする。 つくしもいい加減苦しくなってきた。 「それにね、つくしが妊娠したからって坊ちゃんの仕事が変わるわけじゃないんです。忙しいことも多いでしょう。つくしが今邸に入るとなれば、今までのようにいつでも顔を合わせることだってできなくなってしまうんですよ?」 ピクッ 初めて司の体が小さく動いた。 すかさず畳み掛けるようにタマは続ける。 「その点仕事をしていればつくしとの接点もある。直接つくしの体調を見守ることだってできる。違いますか?」 ピクピクッ 明らかに心の動きが見て取れる司にトドメの一言を投げた。 「一番近くで守ってやれるのは坊ちゃん、あなたなんですよ。赤ん坊を身に宿した女性にとって一番傍にいて欲しいのは父親なんですから」 「・・・・・・・・・」 しばしの沈黙が続く。 だがやがて変わらず背を向けたまま司が口を開いた。 「・・・タマ」 「はい」 「・・・お前も卑怯くせぇぞ」 「あら、そうですか? 私はごく当たり前のことを進言しただけですけどねぇ」 「・・・・・・・・・チッ」 しゃあしゃあと惚けるタマに司が舌打ちする。 つくしはそんなやりとりを身動きできない状態で必死で聞いていた。 だが突然フッと体に纏わり付いていた力が解けて思わず顔を上げる。 「司・・・?」 「約束しろ」 「えっ?」 「お前の体が最優先事項だ。少しでもおかしいと思ったら絶対に無理はしない。状況に応じて仕事は辞める。約束できるか?」 「それって・・・」 目を丸くするつくしに構わず司は続ける。 「どうなんだ。約束できるのか? できないのか?」 「・・・っできます! 約束しますっ!」 ハイッと手を挙げて元気よく返事したつくしを司がじっと見つめる。 そして最後の最後にもう一度今日一番の溜め息をつくと、諦めたように頷いた。 「・・・わかったよ。お前の好きにしろ」 とうとう白旗を揚げた司につくしの笑顔がぱぁっと花開く。 と同時に司の首に両手を巻き付けて子どものように飛びついた。 「司っ!! ありがとうっ!!! 大好きっ!!」 「おわっ?! ・・・バカッ! 激しく動くんじゃねぇっ!!」 「うんうん。でも司にありがとうって言いたかったの」 「ったく・・・。 お前ら女はほんっとに卑怯でタチが悪い生きもんだぜ」 なんだかんだ言いながらもつくしを優しく抱きしめながらジロリと視線をタマに送る。 「・・・おや? 何のことでしょうねぇ? 私には何のことだかさっぱり」 「タマさん! ありがとうございます!!」 「だから何のことだかさっぱりわかりません」 「ふふふっ」 相変わらず惚けた顔で片付けを続けるタマはやはりつくしにとって最大の理解者だ。 自分はこんなに幸せでいいのだろうかと怖くなるほどに、幸せだと断言できる。 「・・・ん?」 だが笑っていたつくしの顔がグイッと司の両手によって挟み込まれた。 見れば今にも唇がくっつきそうなほどの至近距離に司の顔がある。 「な、何・・・?」 「俺が大好きなんだろ?」 「へっ? そ、それが一体・・・」 「じゃあお礼しろ」 「へっ? へえぇっ?! ま、待って待って! タマさんがまだいるからっ!!」 手の平にグッと力が入るとますますその顔が近づいてくる。 司の顔と視界の隅にいるタマの姿を交互に見ながらつくしは必死で抵抗するが、当然の如く全く歯が立たない。 「今更接吻ごときで何とも思いませんからごゆっくりどうぞ」 「たっ、タマさんっ! そんなっ、んんっ・・・!」 フッとタマの姿が視界から消えたと同時に熱く燃え上がるような唇が重なった。 抵抗していたのも最初だけでたちまちつくしの体から力が抜けていく。 司は予想していたかのようにその体を自分に引き寄せると、これでもかと時間をかけてつくしを翻弄し続けていった。 宣言通り目の前で繰り広げられる濃厚なラブシーンを見てもタマは全く動揺していない。 まるで何も見えていないかのようにテーブルの上の物を片付け終えると、完全に2人の世界に入ってしまった若夫婦・・・もといバカ夫婦を残してワゴンを押していく。 「仲がよろしいのは結構なことですけどね、そのまま子作りはなされないでくださいよ」 果たしてあの2人にその声は届いているのやら。 捨て台詞を残すとタマはやれやれと部屋を後にした。
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by: * 2015/04/24 11:43 * [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
ははは、どんな生き物にもディープな世界は存在するみたいですよぉ~(笑) 坊ちゃん、あっちでコロコロ、こっちでコロコロ、面白いくらいに転がされております( ̄∇ ̄) 今からこんなんで大丈夫か?!ってくらいに。 普通なら夜の生活でつくしをやり込めるんですけどね、今それができないからさぁ大変!(≧∀≦) --ke※※ki様--
そうそう、意外と妊娠中って過度に心配されるのもストレスですよね。 自分で考えすぎるのも良くないっていうじゃないですか。 って散々色々あった自分が言うのもなんですけどね(^_^;)←当然心配しまくりだった奴 今思えば本当にこれでもかってほどの茨の道があったなぁ・・・しみじみ。 しばらくは禁欲生活ですからね~。 意外とその辺はガツガツいかなそうな坊ちゃん。 とはいえ欲情するのはまた別問題ってことで。 悩殺チューの使い手ですからね、キスでもすればつくしは腰砕けなわけですよ。 その顔を見た坊ちゃんと坊ちゃんは夜な夜な悶々とするんでしょうね( ̄∇ ̄) ----
やっぱり当然のごとく仕事を続けるのを反対されちゃいましたね。 司としては、心配で心配で仕方がないですものね。 でも妻から無自覚に可愛くお願いされ、タマさんに上手いこと言いくるめられ、落ちましたね(笑) そしてなぜかしっかりお礼を要求しながら、自分から濃厚なキスをするって・・・。 ホントなんなんでしょうね・・・。 タマさんが透明人間はたまた空気になっちゃいましたね。 お熱いことで。 --みわちゃん様--
まぁ司が猛反対するのも無自覚な小悪魔にいいように丸め込まれるのも、 全ては想定内ってことで(笑) 妊婦にストレスを与えられない司がどこまでコロコロと転がされていくのか。 それがもまた妊娠中のお楽しみかもしれません( ̄∇ ̄) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --コ※様--
コロコロコロコロ、どでかい図体が面白いように転がされてますね(笑) この邸で坊ちゃんの味方をしてくれる人は果たしているんでしょうか( ̄∇ ̄)ガンバレボッチャン 野獣ではありますけどね、なんだかんだこういうときはちゃんと我慢できる男、 それが道明寺司だと思ってます。 ただし解禁された暁には反動が凄いでしょうけどね(笑) |
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