愛が聞こえる 27
2015 / 04 / 23 ( Thu ) 「よう」
入り口から伸びてきた長い影に映し出された特徴的な髪型は、それだけで誰が来たのかを教えている。 「・・・なんだよストーカーおっさん」 「こんなとこに1人で何してんだよ、クソガキ」 「んだとっ?!」 ずっと背中を向けたままだった遥人が思わず振り返って睨み付ける。 だがそれが狙いだったのか、目の前の男はニッと不敵に笑っていた。 「・・・チッ!」 「最近のあいつはどうだ?」 「知るかよ」 再び背を向けた遥人にお構いなしに司は声をかけ続ける。 それどころか遥人のすぐ後ろの椅子を引っ張り出して腰掛けてしまった。 「何だよっ! 来んじゃねーよ!」 「どうしようと俺の自由だろ」 「・・・っ!」 似た者同士、どちらも口が達者なのは変わらないが、そこは年齢を重ねている分だけ一枚も二枚も司の方が上手だ。 「牧野は? 発作は起こしてないのか?」 「自分で聞けよ」 無視すればいいだけなのに何故いちいち答えてしまうのか。 遥人自身も自分の行動が自分で理解できない。 「それができるならお前に聞かねぇよ」 「俺だってお前に答える必要なんかねーだろ」 「・・・クッ、まぁそれはそうだな」 どこか愉快そうに司が笑う。 だが遥人が何なんだこいつはと心の中で思った瞬間、その顔が一瞬にして真顔に戻った。 その変わりように思わず息を呑む。 「俺とお前は似てるんだよ」 「・・・は?」 「お前を見てるとガキの頃の俺を見てるんじゃねぇかと思う時がある」 「・・・・・・意味がわかんねぇよ」 ジロッと司を睨み付ける。 一体この男と自分の何が似ているというのか。 胸糞悪いにもほどがある。 「長谷川遥人。 お前、長谷川コーポレーションの息子だろ?」 「っ?! なんでそれを・・・!」 「クッ、そんなん俺くらいの人間が調べようと思えばわけねぇに決まってんだろ」 「・・・!」 「お前、なんでこんなところにいるんだ?」 「・・・え?」 「確かお前の親父は東京にいるはずだろ。何でお前だけこんな田舎にいる?」 「それは・・・」 思わず口を開きかけてハッと我に返ると慌てて口をつぐんだ。 すんなり答えが聞けるとは思ってもないのか、それともはなから聞くつもりもなかったのか、司はそれ以上深入りしようとはしない。 「まぁどういう理由だろうと俺には関係ねーけどな」 「なっ・・・だからお前は一体何なんだよっ!」 わけのわからないことばかり言いやがって! らしくもなく感情を揺さぶられて遥人のイライラが募る。 「いかなる理由であれお前がここにいてくれたことに俺は感謝してる」 「・・・は?」 全くもって意味がわからない。 やっぱりこのおっさんどこか頭がおかしいんじゃねぇのか? そんな心の声が手に取るようにわかって司が実に愉快そうに肩を揺らす。 「まぁお前がそんな顔するのは当然だな。だが事実なんだからどうしようもねぇ」 「だから意味がわかんねぇっつーんだよ」 「お前がいたから牧野が救われてる。お前は俺とあいつを繋ぐ存在なんだよ」 「な、何言って・・・俺はつくしとお前を取り持つつもりなんてねぇぞっ!」 「お前にそのつもりはなくても実際そうなんだよ」 「・・・っ!」 こんな男、つくしの前から消し去ってやりたいと思う一方で、そうすることがつくしを悲しませることになってしまうのだろうか。 そんな相反する感情を持て余し遥人は唇を噛んだ。 「お前、あいつの存在に救われてるんだろ」 「えっ・・・?」 顔を上げて見た男はいつの間にか真顔に戻っていた。 「あいつの・・・牧野の存在にお前の心は救われてるんじゃねぇのか」 「・・・・・・」 救われてる・・・? 俺が? つくしに・・・? 「俺だってそうなんだよ」 その言葉にハッとする。 「俺もお前と同じような境遇で育った人間だ。お前の孤独や苛立ちは俺には手に取るようにわかる。そしてそんな子どもが成長したらどんな人間に育っていくかってこともな」 「・・・」 「まぁ俺はそんな自分に何の疑問も感じてなかったけどな。金さえあればできねぇことは何もなかったし、それが当たり前だとも思ってた。 ・・・でもそんな俺にガツンと喝を入れた奴がいたんだよ」 「・・・・・・それって」 初めて自分から興味を示した遥人に司の口角がくっと上がる。 「お前、あいつに初めて会った時何か説教されなかったか?」 「えっ?」 そう言われて記憶を辿る。 初めて会ったのは、ここでの連中と馬が合わずにイライラして施設を飛び出して・・・ その時つくしとぶつかって・・・ 『 まずはごめんなさいでしょっ!! 』 この俺に初対面でそんな説教たれた人間など初めてだった。 いつだってヘコヘコと媚びへつらうような人間しかいなかったというのに。 「・・・やっぱりな。つくづくお前と俺は似てんだよ」 「・・・・・・」 「俺はあいつに腐った根性を叩き直されたんだ」 その言葉に遥人が司を見た。 その表情はどこか楽しげに見える。 「あいつに出会ってからの俺の世界は変わった。モノクロから色のついた世界にな。お前の今の世界だってそうじゃねぇのかよ?」 「それ、は・・・」 毎日何の楽しみもなくただ生きていた。 自分は何のために生まれてきたのかと思ったことは一度や二度じゃない。 ・・・でも、つくしに出会ってそれは変わった。 イライラしながらも、どこかそれが楽しいと思ってしまっている自分が・・・いた。 戸惑うように視線を泳がせる遥人に司は目を細める。 「俺にとってもお前にとってもあいつの存在は絶対だ。そしてあいつを救いたいと思ってる。 違うか?」 「・・・・・・」 遥人は黙り込んだまま俯いてしまった。 「あいつがああなってしまった原因の一つに俺がいる。俺は何としてもあいつを救い出さなきゃならねぇんだ。 ・・・そしてこの手に必ず取り戻す」 燃えるような決意の言葉に思わず顔を上げる。 その瞳は一点の曇りもない。 ただ真っ直ぐに、前だけを見ていた。 「お前もあいつを助けたいと思ってるのなら不本意だとしても俺の言うことに耳を貸しておけ。子どものお前にできることには限界があるんだよ」 「んだとっ?!」 「副社長、そろそろお時間です」 カッとして遥人が立ち上がったところで入り口から西田の声が掛かった。 それで我に返ったのか、遥人は再び座るとプイッと司に背を向けた。 「タイムリミットだ。あいつに何かあったらすぐに連絡しろ。俺の連絡先は知ってるだろ」 「そんなんとっくに捨てたっつーんだよ」 ふて腐れたような答えに司がフッと笑う。 「嘘だな。お前は捨てきれてなんかねーよ。とにかく、何かあったときはいつでも連絡しろ。俺が駆けつけるから」 「知らねーよ!」 「・・・フッ、じゃあな。 遥人」 ずっと背を向けたままの遥人にそう言い残すと、司はゆっくりと立ち上がった。 「・・・・・・なぁ」 「・・・あ?」 だが室内から一歩足を踏み出したところで声を掛けられてその足が止まる。 見れば遥人は変わらずに向こうを見たままだ。 「・・・7年も待たせたってどういう意味だよ」 前回会った時に司は意味深なことを言っていた。 『 俺はあいつを7年も待たせたんだ 』 と。 「・・・・・・俺は7年前記憶喪失になったんだ」 「・・・え?」 全く予想だにしない答えだったのか、さすがの遥人も振り返って司を見上げた。 その顔は苦しげに歪んでいた。 この男のそんな顔を見るのは・・・初めてだった。 「何よりも大切なあいつの記憶だけ・・・失った」 「そんな・・・! そんなバカなことが・・・」 「あぁ。俺はどうしようもない大バカ者だ。んなこたぁ俺自身が一番よくわかってる。今更あいつの前にのこのこ姿を現して取り戻そうだなんて、虫が良すぎる話だってこともな」 「・・・・・・」 「それでも俺はあいつを失えない」 「・・・え?」 変わった声のトーンと共に男の表情もガラリと変わった。 それはまるで瞳の奥に燃えさかる炎が見えるかのように、熱くて強い眼差しだった。 「たとえそうだと罵られようと、俺はあいつを失うことなんてできない。生きている以上それはどう抗ったって変えることのできない俺にとってのただ一つの真実だからな」 「・・・・・・」 迫力のあまり言葉を失う遥人を一瞥すると、司は一転して優しい顔で笑った。 らしくないほどの顔で。 「まぁそういうことだ。いくらお前が抵抗したところで運命は変えられねぇ。だから諦めて俺に協力しろ」 「なっ・・・?!」 「クッ、じゃあな」 「あ、おいっ!」 言いたいだけ言い残して風のように去って行った男を、少年はただ呆然と見つめることしかできなかった。 「・・・・・・何が運命だよ、くそじじぃ」 捨てるに捨てられず、それどころかどうしてだか常にカバンに潜ませてしまっているくしゃくしゃの名刺を手に、遥人はバスに揺られながらそう呟いた。
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by: * 2015/04/23 02:32 * [ 編集 ] | page top
--マ※ナ様<拍手コメントお礼>--
もちろん覚えているに決まってるじゃないですか~! 勝手に我が家の常連さんとして名を連ねられておりますので諦めてください(笑) おぉ、息子さんパジャマで通園ですか! それはなかなかの強者ですね(笑) 聞けばそれぞれにいろんなエピソードがあるようで、 そんな子ども達も数年経てば立派なお兄ちゃんお姉ちゃんになってるんですよね。 うちの娘も今はママママベッタリだけど、そのうちびっくりするくらい離れていっちゃうんだろうな・・・(苦笑) それはそれで寂しいと思う勝手な親です(≧∀≦) --マ※※ち様<拍手コメントお礼>--
大丈夫ですよ! 司への迸るような情熱がばっちりどの記事を指してるのか教えてくれましたから!(笑) あはは、司目線だともっと協力してよ!ってなりますよね。 そこはね、やはり7年という歳月がありますから。 司にも多少の忍耐は必要です。 記憶戻った~!よっしゃー、じゃあすぐにくっついてハッピーエンド~! だと連載が成立しないので(笑) でも最後は幸せになれるように頑張りますよ~(o^^o) --k※※hi様--
ツンツン同士の年齢を超えた友情物語。 結構いいやん(*´ェ`*)なんて思いながら書いてます(笑) 遥人との出会いは司にとってもとても大きな意味を持ちそうです。 そうなんですよ。娘がこの春から年少さんになりまして。 初日は1時間以上泣いてたそうです(^_^;) 絶対そうなる子だろうな~とは覚悟してたんですけどね、 別れ際はドナドナが聞こえてきそうで・・・(笑) まだまだ泣く日も多いでしょうけど、少しずつお友達を作って自分の世界をつくっていってくれたらいいなぁと思っています。 皆さんのエピソードを聞くとうちだけじゃないんだなとホッとします(笑)心強い! 頑張れ我が家のチビゴン!! --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
言われてみればつくしちゃんoffデーでしたね! そうそう、ハルについて新たにわかったこともあれば新たな謎も。 どうやら彼は地元の人間ではなさそうですよ。 あはは、ハル以外におっさん呼びされたら司に殺されるかも~(≧∀≦) --k※※ru様<拍手コメントお礼>--
お久しぶりですっ(≧∀≦)わぁーい! ちょっとずつ希望の光が見えてきた感じがしますよね~。 とはいえこの物語の最大の山場(?)はまだこの後ですよ。 つくしと司がどう再会してどう向き合っていくのか。 そしてハルは?進は? 気になることばかりですがぼちぼち動き出しましたのでね、もうちょっとの辛抱です(笑) --管理人のみ閲覧できます--
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確かに迷惑ボックスに振り込まれてましたねぇ。 多分ですけど「勃性」このワードが引っかかったんじゃないかと。 コメント欄って何が弾かれるかいまいちラインがわからないんですよねぇ~。 私も棒本部でどれだけ弾かれたことか・・・( ̄∇ ̄) 幼稚園ね~、全く愚図らない子のお母さんは逆に寂しいって言ってました(笑) 結局お互いないものねだりなんでしょうね~。 とはいえいつかうちのチビゴンも乗り越えてくれる日が来ると信じてるので、 これも数年経てばいい思い出になるんだろうな~と思ってます。 でもやっぱり泣かれると辛いですよね>< ハルですか?えーと・・・そのうち・・・ですね!(^◇^;) --ぴ※※あ様--
ほんとに、ハルが相手だとやたらと司が大人びて見えますよね。 まぁハルがチビ司だとすると、いくらなんでも一回り以上歳を重ねたのに精神年齢が一緒とあっちゃあねぇ・・・坊ちゃん暴動起こしちゃいますから(笑) やっぱり富豪でありながらも不遇な幼少期を送ってきた司ならではの立ち位置があるんでしょうね。 なんだか我が家の連載での司は耐えてばかりのような(笑) ・・・ま、いっか( ̄∇ ̄) --さと※※ん様--
ツンデレ VS ツンデレ、結構萌え要素多し。 結構この2人の対決書いていて楽しいんです。 おっさん言われてキレない相手なんてハルくらいでしょうからね。 最後なんてくそじじぃですよ、あーた! ちなみに司が遥人と呼んだのは2回目なんですよ。 えーと初めて呼んだのはいつだったかな。(オイ) 何話かは忘れちゃいましたがとにかくあるんです! ←丸投げ 気に入らないのに気になって仕方がない男、それが司なんでしょうねぇ。 ハル、揺れる少年の今日この頃でございます。 --ブラ※※様<拍手コメントお礼>--
おぉ、お師匠様!ご無沙汰しております~! そしていつの間にこちらがお気に入りになったんで? 1日4回更新とかまたそんな殺生な。同じ文字数でやったら死にまんで。 ・・・あ、でも同じ内容を4分割にするでいいなら喜んで( ̄∇ ̄)v ところでお師匠様~、拍手の管理画面でコメント一覧ってありまっしゃろ? その中の「お礼」って項目が何だか知ってます? ぜーんぜん意識してなかったんでつい最近気付いて。 どう使うのかさっぱりわからないんです。何か知ってますか~?(・o・) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --コ※様--
ほんとですよね~。嫌よ嫌よも好きのうち?! 同族嫌悪と言う言葉もありますけど、どうもそうはなりきれてなさそうですね、ハル( ´艸`) どうしてハルはこんな田舎にいるんでしょうねぇ? それがわかるのは物語終盤かなぁ~? |
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