幸せの果実 20
2015 / 04 / 25 ( Sat ) 「よぉ~! 主役のくせにおせーぞ」
「るせーよ。忙しいのに無理矢理呼び出したのはそっちだろうが」 「ははっ! まぁまぁ、細かいことは気にせずさっさと座れよ」 「ったく・・・」 長い足を持て余すように足を組んでソファに座ると、たちまちその空間だけ色が変わる。 元々3人だけでも目には見えないキラキラがそこかしこも飛び交っていたが、最後に来た男はそのふわんとした空気を一瞬にして引き締めてしまった。 とはいえオーラだけは目映いほどに見えているのだが。 「じゃあとりあえずは乾杯だな」 「「「「 乾杯! 」」」」 カチンと軽快な音と共に全員がグラスの酒を一気に煽った。 「ついに司も親父になんのかぁ」 司がグラスを置いたタイミングを見計らってあきらが言う。 「つーかあの司がだぜ? 女嫌いで政略結婚以外はありえねぇだろって感じの男がだぜ?」 「ざけんな。政略結婚なんか死んでもするわけねーだろ」 「それよりもつい2年近く前まで童貞だった男が、だぞ」 「あぁ、言われてみりゃあそうだよな。お前帰国するまで童貞だったんだもんなぁ~!」 何とも感慨深そうに総二郎とあきらがうんうんと頷く。 「童貞男が初っぱな失敗していきなりデキ婚なんて話もたまに聞くけどな」 「まぁ、司の場合は・・・・・・こいつ無駄にテクだけはもってそうだからな」 「おい、無駄とはなんだ無駄とは」 チラッと自分を見た総二郎をジロリと睨み返すと笑って誤魔化している。 「つーかお前らいつ解禁したんだよ?」 「あ?」 「なんだかんだずっと牧野と一緒に暮らしてるよな?」 「あ? あぁ・・・言われてみりゃ確かにそうかもな」 6年ぶりに帰国した司を待っていたのは類の邸で生活する変わり果てた姿のつくしだった。 それからしばらくしてからはなんだかんだでずっと司と同じ空間で生活してきたのだ。 「まぁあいつと結婚するのは揺るがなかったし、俺は最初から避妊しなくても良かったんだけどな。やっぱあいつはそういうわけにはいかねーだろ」 「結婚するまで待ったのか?」 「正確には入籍してからだな」 司の言葉に2人がくう~~っと大袈裟に泣き真似をしてみせる。 「おっまえ大人になったなぁ~! お兄さんは嬉しいぞ!」 「誰が兄だ、ざけんな」 「つーかお前くらいの男なら婚約が成立した時点でそうしててもおかしくねーよな」 「まぁな」 「お前ってなんだかんだ牧野のためなら待てる男だよなぁ~」 感心したようにあきらが唸る。 「まぁ、とはいえ解禁された暁には牧野の方が散々な目にあってんだろうけどな」 「それは違いねーな。 ハハハッ!」 「おい、お前らさっきから人で遊んでんじゃねぇぞ」 「おっと~、んな怖い目で睨むなって」 待ったのポーズで総二郎が慌てて苦笑いする。 「牧野は? 元気なの?」 これまで黙ってただ事の成り行きを見守っていた類が初めて口を開いた。 「あぁ。今のところはな。ただ人によってはつわりってもんがそろそろ出てくるらしいから・・・それがどうなっていくかはまだわかんねーな」 「仕事は? 辞めんのか?」 「まぁ司ならそうさせるに決まってるよな」 「・・・・・・」 思いの外反応がない司を総二郎とあきらが振り返る。 「牧野の事だからやめたくないとか言ったんでしょ」 「・・・あぁ」 「まぁ司のことだから当然反対はするよね。で、なんだかんだと丸め込まれて仕事は続けることになった。腑には落ちないけど自分が一番近くで見守ってやれるというメリットもある。 最終的に認めた理由はそんなとこ?」 「・・・・・・お前・・・」 「・・・何? 何か変なこと言った?」 驚きに目を丸くする司とは対照的に類は飄々としている。 その顔にはそれくらい考えなくてもわかるでしょと書いてある。 非常に気にくわないが、この男は一番すっとぼけた顔して一番洞察力が鋭い。 「え、じゃあ牧野はマジで仕事続けんのか?」 「・・・あぁ」 「へぇ~! 類の言ったことがあるとはいえよくお前が許したな」 愉快そうに笑う総二郎を司が苦虫を噛み潰したような顔で睨み付ける。 「あいつ・・・卑怯くせぇんだよ」 「は?」 「すっげぇ可愛い顔しながら上目遣いで傍にいさせて、だなんて言いやがって・・・。 あんなにタチのわりぃ女は何処探してもいねぇぜ。ブツブツ・・・」 「「「 ・・・・・・ 」」」 「・・・なんだよ? 揃いもそろってその顔はなんなんだよ」 突き刺さるような視線を感じて見てみれば、雁首揃えたように全員が呆れ顔でこっちを見ているではないか。 「そりゃこっちのセリフだろ」 「あぁ?」 「お前自分が今どんな顔してるのかわかってんのか?」 「は? だからさっきから何言ってやがる」 「言葉とは正反対に口元にやついてるけど。頬も少し赤いんじゃない?」 「?!」 類の言葉にガバッと片手を口元にあてる。 ・・・確かに口角が上がっているのがなんとなくわかる。 ハッと再び視線を感じて顔を上げれば今度は三者三様のにやけ顔でこっちを見ていた。 「・・・てめぇらうるせぇぞっ!!」 「おわっ! バカっ、八つ当たりすんじゃねぇよ! ニヤけてたのはお前だろうが!」 「うるせぇっ! 今にやけてんのはお前らだろうがっ!!」 「そんなん完全な屁理屈だろ!」 「知るかっ! 俺は屁はこいてねぇっ!」 「屁じゃねぇよ! 屁理屈だ!」 「んなんどっちだっていいんだよ!」 「いや、よくねぇだろ」 その後もしばらくの間実にくだらない押し問答が続けられ、手前の空間でそれを聞いていた他の客が見た目とあまりにも乖離したそのやりとりに、何とも言えない顔で笑っていたことを当の本人達は気付いてもいない。 「俺そろそろ行くわ」 「えっ、もうか?」 司が店に入ってきてまだ1時間も経っていない。 4人で集まったのもなんだかんだ久しぶりだというのに。 「わりぃな。 金は俺が出しておく」 「いや、んなことは構わねーんだけどよ・・・」 言いながら既に司は立ち上がっている。 「牧野によろしく言っといて。また今度日を改めて会いに行くからって」 「あ、俺らもそう伝えておいてくれよ。おめでとうって」 「あぁ。 じゃあまたな」 「おう、じゃあな」 軽く笑うと司は一度も後ろを振り向かずにその場を去って行った。 「・・・あいつ、ますます付き合いが悪くなってねぇか?」 すっかり誰もいなくなってしまった方向を見ながら総二郎が零す。 「だな。ここに来ても帰るまで終始時計を気にしてたしな」 「完全に溺れきってんなぁ~」 「はは、牧野にとっちゃある意味ご愁傷様ってやつか?」 「案外子どもができるのも遅かった方なのかもな。司のことだから野獣並なわけだろ」 「だな。はははっ!」 ひとしきり笑うと、は~と息を吐きながらあきらがあらためてしみじみと噛みしめる。 「しっかし司が父親になるのか・・・。牧野が母親になった姿なんて目を閉じなくても浮かんでくるけど、あの司がとうとう・・・。なんかまじで感慨深いもんがあるな」 「ほんとだな。今からあんなんでガキが出てきたらあいつどうなるんだ?」 「万が一男だったら牧野の奪い合いを始めんじゃねぇのか?」 「はははっ! それガチであり得るな」 「どっちにしても案外いい父親になるんじゃない? 司なら」 類の一言にピタッと笑いが止まると、総二郎もあきらもやけに真剣な顔で頷いた。 「・・・だな。 あいつはああ見えていい父親になると思うぜ」 「今流行のイクメンってやつか?」 「はは、だな」 「・・・じゃああらためて俺たちだけで乾杯といくか」 「おう」 「「「 乾杯 」」」 各々笑いながら、手にしたグラスを親友が出ていった方へ向かってカチンと鳴らした。 *** 「あっ、司~!」 エントランスを入ってすぐのところで聞こえてきたのは使用人の声ではなく甲高い女の声。 顔を上げて見れば滋を含んだ3人がこちらへ向かってくるところだった。 「・・・あれ、お前ら来てたのか?」 「うん。ちょうど今から帰るところ」 「あいつは?」 「先輩ならお風呂に入って横になるって言ってましたよ」 「そっか。わざわざサンキューな」 「えぇ~? 親友なんだから来るのは当然じゃん! っていうか司のお礼なんて激レア~!」 「うるせぇよ」 あははっと3人が笑い声をあげる。 「司~、おめでとう!」 「道明寺さん、おめでとうございます」 「おめでとうございます」 「あぁ、サンキュ。 たまにあいつの息抜きに付き合ってやってくれよ」 「そんなのこっちがお願いしたいくらいですよ」 「そうだよ~! つくしが嫌だって言っても来ちゃうもんね~!」 「・・・フッ、お前らならそうだったな。うちのに送らせるから気をつけて帰れよ。 じゃあな」 「は~い! またね~!!」 めったに見せないふわりとした笑顔を見せると、司はあっという間にその場からいなくなった。 その心はもうとっくにその先の目指す場所へと行っていたに違いない。 「はぁ~~、あんな優しい笑顔の司なんて久しぶりに見たかも・・・」 「見られたとしても先輩がいる時限定ですものねぇ・・・」 「今日はかなりレアケースだったかもしれないね」 「「「 はぁ~~~~~っ、つくし (先輩) が羨ましい~~~~っ!!! 」」」 溜め息にも似た羨望の声が広い広いエントランスへとこだました。 *** さらりと何か温かい感触が頭に触れたような気がする。 「・・・・・・ん」 うっすらと目を開けると、スーツ姿でベッドに腰掛けた状態で頭を撫でている夫がいた。 「悪い。起こしちまったか?」 「司・・・。 あ、ごめん、あたし・・・」 「いいから。そのまま寝てろ」 起きようとしたつくしの体を司の手が押し留める。 「でも・・・」 「気にすんな。とにかくそのまま横になってろ」 「・・・ありがとう。 お仕事お疲れ様」 「おう。 こっちこそ悪かったな。予定ではもっと早く帰ってくるつもりだったのが急にあいつらに呼び出されてな」 「へぇ・・・そうだったんだ」 「あぁ。俺は行かねぇっつってんのにしつけーったらありゃしねぇ」 口では文句を言いながらも本音では嫌がってなどいないことをつくしはよく知っている。 「ふふっ。あたしのことは気にしなくていいからゆっくりしてきてよかったのに」 「バーカ。 ゆっくり酒を飲もうなんて気にはならねーよ」 「・・・ごめんね? いっぱい心配かけて・・・たっ!」 話している途中で軽いデコピンがヒットした。 全く想定外だったのか、驚いたつくしがおでこを押さえながら目をまんまるにしている。 「アホか。心配だからじゃねぇ。俺がお前の傍にいたいからに決まってんだろ」 「司・・・・・・ふふっ、ありがと」 「おう」 顔のすぐに置かれた手に自分の手を重ねて顔を寄せると、つくしは幸せそうに目を閉じた。 「眠いか?」 「・・・うん。 ごめんね・・・ちゃんと司が帰ってくるまで起きて待ってるつもりだったんだけど・・・どうしても眠気が抜けなくて・・・」 バサバサと音をたてて司がベッドの中へと入ってくると、腕枕をしてあっという間につくしの体を自分の中へと閉じ込める。 「司・・・?」 「だから言ってんだろ。まずはお前と腹の子が第一だって。自分の体の調子に逆らうんじゃねぇよ。俺のことは二の次だ。そんなことで余計なストレス抱えんな」 「司・・・」 ほんの少し怒ったようなその声は愛情で溢れている。 ・・・駄目だ。 これだけのことでももう泣きそうになってしまう。 ほんとに最近の自分は一体どうしてしまったというのか。 ・・・それでも。 幸せで幸せでたまらない。 つくしは顔を埋めながらまるで子どものようにぎゅうっと司の大きな体にしがみついた。 「・・・ありがとう。 大好き」 「・・・フッ。 どうした、子どもができてからやたらと甘えんじゃねーか」 「そうだよ。迷惑?」 顔だけあげて悪戯っぽく照れ笑いするつくしの唇にすかさずキスを落とす。 「あぁ。この上なく迷惑な話だな。欲情するったらありゃしねぇ」 「えっ? ・・・ぷっ、あははっ!」 「笑うな。こっちは真剣だ」 「あははは! それは大変だぁ~!」 笑いの止まらないつくしを再び腕の中に閉じ込めると、はぁ~っと溜め息をひとつ。 「ったく。人が襲えないタイミングに限って普段は言わねぇようなことばっか言うんだもんな。これがタチの悪い女じゃなけりゃなんだっつーんだよ」 「ふふふっ」 「・・・まぁいい。これも惚れた弱みってやつだからな。しばらくは我慢してやる。 その代わり・・・」 「・・・・・・その代わり・・・?」 恐る恐る視線を上げると妖しい笑みを浮かべる男が1人。思わず背筋がゾゾッとする。 「解禁になった時は覚悟してろよ?」 「えっ・・・?!」 「ほら、早く寝ろ」 解禁の意味を必死で考えるつくしの頭を自分に引き寄せると、そのまま赤子を宥めるようにポンポンと撫でていく。 規則的なリズムを刻むその振動と自分を包み込む温もりに、もともと眠かったつくしの瞼があっという間に落ちていく。 「・・・・・・司・・・」 「ん?」 「・・・やっぱり大好きだよ・・・」 眠りに落ちる寸前そう言い残すと、そのままスースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえ始めた。 「・・・・・・・・・やっぱりお前はほとほとタチのわりぃ女だよ」 この上なく幸せそうな顔で微睡むつくしにそう言うと、やれやれと呆れ笑いを浮かべながら宝物を抱きしめた。
|
----
つかさ甘甘ですね うらやましいかも
by: ひさ * 2015/04/25 00:08 * URL [ 編集 ] | page top
----
もう~なんて甘いんでしょう(笑) その甘さに慣れちゃってるのか、司は自分が思いっきり惚気てるのに気付いていないという・・・。 F3ビックリ~。 類の相変わらずの鋭い洞察力にもビックリ~。 この幸せ感満載の二人に、どっかの社長がちょっかい出して、一悶着おきるなんて、ドキドキですね。 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ひさ様--
ムフフフ~、脳内でつくしちゃんを自分に変換してお楽しみくださいね♪ --マ※ナ様<拍手コメントお礼>--
あはは、「私は貝になりたい」ならぬ「わたしはつくしになりたい」 と思った方がたくさんいらっしゃることでしょう(笑) かく言う私も書きながら「何なんだよこいつら、ざけんじゃねーよ」 と、理想と現実のギャップにやさぐれずにはいられません( ̄∇ ̄) 兵庫に出張ですね、了解です。 どこかで向かわせま~す(ロ_ロ)ゞ --みわちゃん様--
なんという甘さでしょう・・・! な~んてナレーションが聞こえてきそうな激甘っぷりですねぇ。 匠の技とか言われちゃうんでしょうか(笑) そうなんです。こんな幸せ絶頂の2人ですが、まだ例の社長問題は解決していないんですね~。 ドキドキ --k※※ru様<拍手コメントお礼>--
私も一応旦那がいるんですけどね。 叶えられそうにない理想を全て司に託してます(笑) そして気になるあの社長の存在。 ラブラブっぷりに忘れがちですけどまだ解決してませんからね~。 さてどうなることやら。 --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
この2人にドンピシャのニャンズですよね~♪可愛い( ´艸`) 私も紆余曲折があって今の子ができたのですんごいピリピリ神経質な妊婦生活だったなぁ・・・ 今思えば・・・ってなるけどその時は皆必死ですよね。 つくしには皆様にハッピーを届けてもらいたいものです。 --委員長殿--
うふふ、気に入っていただけましたか? 私も今回のは特に好きです♪ まさに描写にドンピシャですよねぇ( ´艸`) これ自分で探したものをバナーにしてるだけなのでブログ村は関係ないんですよ~。 余裕があるときにラブレターでも送りますね~。 猫だけじゃ限界が来たときに犬にも登場してもらう予定です(笑) --ミ※※ル様--
ボーイズトーク楽しいですよね~(≧∀≦) F3も純粋に2人が羨ましいと思ってるでしょうね。 でもここまで相思相愛の相手を自分が見つけられるかと言ったら・・・ それはまたそれで別問題と思ってるかも(笑) --ke※※ki様--
甘くできるところはとことんしておかないとですからね~。 ←意味深? 皆さんには「こんな旦那だったらどんなにいいか」の理想像をギュギュッと詰め込んでお届けしたいと思ってます(笑) 子どもの名前はまだまだ間に合うので是非チャレンジしてみてくださいね♪ --み※※ん様--
司の溺愛っぷりはもう言わずもがな、 皆さんにはつくしちゃんの天然小悪魔っぷりも楽しんでいただけたらと(笑) 無自覚ってほんとに一番厄介ですよねぇ。 妊娠してなければ朝までコース間違いナシですよ( ̄∇ ̄) --さと※※ん様--
えっちぃ展開も大好物ですけど、実はこういうまったりした時間はもっと好きなんです。 本当の意味での愛情が感じられるというか。 うふふ~、ニャンズが2人の雰囲気にドンピシャですよね~( ´艸`) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --コ※様--
類はセリフも決して多い方ではないんですが、 毎回毎回要点を正確に突いてくるんですよね。 まさに壁に耳あり障子に目あり状態で(笑) ほんと、荒んだ日々を送っていた男がこんなに変わるなんてね。 彼らが一番感慨深いでしょうねぇ。 司にこんなに愛されてつくしが羨まし過ぎますよね! 猫バナーはなるべくイメージに近いものを探してるんですが、 そろそろ限界が近づいて参りました(笑) |
|
| ホーム |
|