愛が聞こえる 32
2015 / 05 / 01 ( Fri ) なんだか久しぶりにとても心地のいい夢を見た。
光の中で笑っているのは自分と、進と、・・・そしてパパとママ。 何がそんなにおかしいのかわからないけれど、4人共お腹を抱えてひたすら笑ってた。 ・・・懐かしい。 たとえ貧乏だって、あたし達4人はいつだってそうだった。 お金では買えないものを、家族の絆で築き上げてきた。 『 お金はなくとも愛はある! 』 それがあたし達家族の合言葉だった。 そんな家族が・・・・・・大好きだった。 夢の中でももうずっと、家族の笑う顔を見ていない。 もう夢でしか会えないのに、いつもパパとママは寂しそうに笑ってた。 どうしてそんな顔をしてるの? って聞いても、またどこか悲しそうに笑うだけ。 そんな2人が今、心の底から笑ってる。 何がそんなに楽しいの? って聞いても、ただひたすら笑ってる。 理由なんてわからないけれど、その姿を見ているだけで胸が熱くなる。 ずっとずっと会いたかったから。 ____ 本当の笑顔のパパとママに会いたかった。 その時、パパが笑いながら後ろを指差した。 ・・・何・・・? 振り返って見たけれど、その先には霧が出ていてよく見えない。 よーく目を凝らしてみれば、うっすらと人影が見えるような気がする。 意味がわからずパパを振り返れば、やっぱりあっちを見ろと言う。 一体何が・・・誰がいるというのだろう。 じっとそこから視線を逸らさずにいると、やがてスラリとした長い足が見えてきた。 ・・・・・・誰・・・? あと少しで顔が見える・・・ 男の人・・・? もう少し、もう少しでその顔が・・・ その時、ハッとして振り返れば、いつの間にかパパとママが消えかかっていた。 嫌だっ! 行かないでっ!! 必死で手を伸ばすあたしに、パパもママも笑って手を振っている。 そして、変わらず向こうを指差したまま。 嫌だっ! あたしはパパとママと一緒にいたいっ! どこにも行かないでっ!! あたしの訴えにパパは首を横に振った。 そして最後にもう一度笑って指をさすと、そのまますぅっと消えて行った。 パパっ! ママっ! 置いて行かないでっっっ!!! 急いで追いかけようとした瞬間、凄まじい風が巻き上がった。 まるで竜巻のようなその風は、あっという間にあたしの体を呑み込んでいく。 このままどこかへ飛ばされてしまうのではないかと思ったその時、フワリと体が何かに包まれた。 それは大きくて、温かくて。 まるでお母さんのお腹の中にいるような安心感を与えてくれた。 きっと、パパとママが守ってくれたんだ・・・ 「パパ、ママ・・・」 スーーっと、目を閉じていても涙が頬を伝っていくのがわかる。 あぁ、あたし泣いてるんだ。 どうして泣いているんだろう。 嬉しくて? 悲しくて? ・・・わからない。 わからないけれど、自分を包み込んでいるこの温もりで勝手に涙が溢れてくるんだ。 大きくて、温かくて、優しくて、・・・そして懐かしい。 この温もりが・・・ ふわりと、何かが涙を伝った場所をなぞっていく。 それは優しく、優しくそこを撫でる。 ・・・何? ・・・誰・・・? 「 ・・・・・・・・・ 」 フッと一気に意識が浮上していくと、つくしはゆっくりと目を開いた。 なんだか長い夢を見ていたような気がして、頭がぼんやりと働かない。 ・・・ただ、目の前に真っ白なシャツが見える。 ・・・・・・・・・シャツ・・・? 一体どういう状況なのか全くわからない。 と、再びさっきと同じ感触が頬に触れた。 「大丈夫か?」 「・・・・・・え?」 頭上から降ってきた声に視線を上げれば、そこには人がいた。 ___ 目と鼻の先に。 ずっと優しく頬を撫で続けていたその手の正体は・・・ 「 ____ っっっ??!!! 」 声にならない声を上げながら一気に頭が覚醒していく。 目の前の光景に驚愕してガバッと体を起こした。 その時、 「きゃあっ?!」 「牧野っ!」 ドサドサガタンッ!! 狭いベッドの淵からズルッと手が滑り落ちると、そのまま背中から真っ逆さまに落下した。 「痛・・・」 ・・・くない。 確かに落ちたはずなのに、どこも痛くない。 それどころか何か大きなものに包まれていて気持ちがいいくらいだ。 「・・・どこも打ってねぇか?」 「え・・・?」 全身に響き渡るような低い声にハッとしてようやく気付く。 自分が今誰かの上に乗っかるような形で抱きしめられているのだと。 「あ、あ、あのっ・・・!」 「いい。しばらくこのままでいい」 慌てて起こそうとした体は、背中に回された手によって簡単に阻まれてしまった。 むしろギュウギュウと押しつけられている。 「ちょっ・・・待って・・・!」 「待たねぇ」 グッと背中の手に力が入る。 厚い胸板に顔が密着して、そこからドクンドクンと力強い鼓動が響いてくる。 もはやそれが自分のものなのか相手のものなのかなんてわからない。 何・・・? 一体何が起こってるの?! 見間違いでなければ、さっき同じベッドで寝ていた・・・? ずっと気持ちいいと思っていたあの温もりはもしかして・・・?! あぁ、もうわけがわからない! 完全にパニック状態だ。 「~~~~っ、お願いっ、離してっ! 道明寺っ・・・!」 これ以上は心臓が限界だと、つくしが必死で叫んだ。 ___ と、それまでどうやっても離れなかった手の力が面白いほどに抜けていった。 それに気付いたつくしは慌てて体を起こすと、馬乗りになっていた体から飛び降りた。 追いかけるようにしてすぐに起き上がった男の顔をあらためて見て、つくしの顔が驚愕に染まる。 「ど・・・どうして・・・?」 目の前にこの男が。 何故? 何故・・・?! 「牧野、落ち着け。いいか、お前は俺を見ても発作を起こしはしない」 「え・・・?」 完全に混乱に陥っているつくしを落ち着かせるように司が語りかける。 言われてみれば、パニックを起こしてはいるが呼吸は乱れていない。 つくし自身も全く気付いていなかった事実に驚きを隠せない。 「とにかく落ち着け。何故こんなことになってるのか全て説明するから。だからお前はゆっくり息をしろ。・・・そうだ。 絶対に発作は起こらない。信じろ」 「・・・・・・」 何故? が頭の中に入りきらないくらいに動き回っている。 それでも、不思議なくらいに司の言葉がすんなりと耳に入ってくるのは何故だろう。 まるで魔法の言葉のようにつくしの混乱した心を落ち着かせていくと、それ以上呼吸が乱れることはなかった。 「・・・落ち着いたか?」 「・・・うん・・・」 自分を目の前にしても発作が起きないことに司は心の底から安堵する。 口ではああ言ってみたが、実際のところ発作か起きるか起きないかは司にとっても賭けだった。 だがつくしは乗り越えたのだ。 一つの大きな大きな山を。 これは2人の未来にとって大きな一歩だと言える。 過呼吸を起こさないまでも、その顔は激しく困惑しているつくしに優しく語りかけていく。 「お前は昨日ストーカー男に襲われかけたんだ」 「ストーカー・・・?」 記憶を辿っていくうちにようやく思い出したのか、つくしの顔色がサッと青くなった。 すかさず司がつくしの手を握ると、ビクッとその体が揺れた。 「俺に遥人から連絡が来た」 だがその言葉に手を握られたことも忘れてつくしの目が丸く見開かれる。 「ハルが・・・?」 「そうだ。あいつが俺に連絡してきたんだ。お前が危ないかもしれないと」 「・・・・・・」 「あいつには前から言ってたんだ。お前に何かがあったらいつでも連絡しろと。・・・まぁ一度も連絡が来たことはなかったけどな」 クッと笑った後にすぐに真顔に戻る。 その真剣な顔につくしは言葉が出てこない。 「そんなあいつが俺に助けを求めてきたんだ。・・・お前を助けて欲しいと」 「・・・・・・」 ハルが・・・? あたしのために、道明寺と・・・? 「幸い俺はまだそう遠くないところにいたからな。すぐにぶっ飛ばして戻って来たらお前が発作を起こしてあの男に連れて行かれそうになってるところだった。タイミング的にはギリギリだった」 「・・・・・・」 うっすらと野口の記憶が蘇る。 底知れぬ恐怖を感じて逃げようとしたら発作が起きて・・・その後はよくわからない。 覚えているのは、死にそうなくらいに苦しかったということだけ。 「っ?!」 考え込んでいたつくしの体が大きな何かに包まれた。 それが司の腕の中だと気付いた時にはもう動けないほどにきつく抱きしめられていた。 「ちょっ・・・離・・・道明寺っ!!」 「お前が無事でよかった・・・」 はぁっと吐き出した息と共に心の底から安堵する姿に、抵抗していたつくしの体からも何故だか力が抜けていく。抵抗することをやめたつくしの体を、司はさらに強く抱きしめた。 「牧野・・・・・・本当に悪かった」 その言葉につくしの体がビクッと揺れる。 だがそれを掻き消すほどに司の手にも力が籠もった。 「俺は最低の人間だ。こんなにも大事なお前を・・・7年もの間忘れてただなんて。・・・本当に悪かった」 「・・・・・・」 「俺にとっては地獄のような7年だった。そしてそれは同時にお前にとってもそうだったってこともわかってる。記憶が戻ったからって、今更のこのこお前の前に現れることも自分勝手なことだってよくわかってる。 それでも・・・ 」 そこまで言うと司はゆっくりとつくしの体を離した。 その代わりに肩に手を置いて真っ正面からつくしの顔を見つめる。 戸惑いながら目を泳がせるつくしから一瞬たりとも目を逸らさずに、真っ直ぐと。 「 お前が好きだ 」 つくしの瞳が自分の姿を捉えた瞬間、司ははっきりと言い切った。 そのままつくしの瞳が大きく見開かれたと思ったら、再び戸惑いの色を滲ませた。 「お前が戸惑うのは当然のことだ。散々放ったらかしておきながら、記憶が戻ったからって現れてお前を取り戻すだなんて虫が良すぎる話だってこともわかってる。 ・・・それでも、俺はお前を失えない」 「・・・・・・」 「牧野、お前が好きだ」 もう一度はっきりそう言うと、たちまちつくしの瞳が揺れ始めた。 ゆらゆらと、光るものが溜まっていって今にも落ちそうなほどに揺れている。 見られたくないのか、咄嗟に俯いた瞬間、パタリと音をたててつくしの手のひらへと落ちていった。 「牧野・・・」 つくしの肩を引き寄せると、抵抗もなくその体は簡単に司の腕の中へと閉じ込められた。 すっぽりと収まってしまった体は震えている。 涙の意味はつくしにしかわからない。 ・・・いや、本人もわかっていないのかもしれない。 ただ、嬉しいだけで泣いているわけではないということは司にもわかる。 それほどまでに、この7年という月日はあまりにも長く、重い。 ・・・それでも。 もう二度とこの手を離しはしない。 何があっても、永遠に。 「牧野・・・好きだ」 「・・・うっ・・・うぅ゛っ~~~・・・!」 何度も何度も好きだと囁き続けると、やがて堰を切ったようにつくしが声を上げて泣き始めた。 月明かりだけが差し込む薄暗い室内に、女の泣き声だけが響き渡る。 そうしてわんわんと子どものように泣きじゃくるつくしを、司は優しく、強く抱きしめ続けた。
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by: * 2015/05/01 00:25 * [ 編集 ] | page top
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ほんとに、「とりあえずは」良かったですねぇ。 え?意味深だって? ほら、だって相手はつくしですから。 今までが今までだっただけに、そうとんとん拍子で事が進めばいいんでしょうけどねぇ・・・ 坊ちゃん頑張るしかないぞー! --マ※※ち様<拍手コメントお礼>--
切ない告白ですよねぇ。 もっと司の記憶が早く戻っていれば・・・ なんてたらればを言ってもしょうがないんですが、言わずにはいられない。 でも仰るとおり大きな一歩を踏み出しました。 あとはどう乗り越えていくかですね。 --ち※様--
あはは、愛の直球三番勝負って感じですね(笑) やっぱり司なら直球でしょう!!ってことで好き好き光線出しまくりです( ̄∇ ̄) こんなにいい男に言われたら普通の女ならコロッといきそうなものですけどね。 そこは漬け物石より重いつくしの女心ですから。 まだまだ坊ちゃん頑張らなければ駄目なようですよ。 --k※※hi様--
ようやく向き合えましたねぇ・・・ここまで長かった。 とはいえまだ終わりませんけど(笑) なんてったって7年ですからね。 そう簡単には元通りにはなりませんよ。 まだまだ乗り越えなければならない山がありそうです。 坊ちゃんを応援してあげてくださいませm(__)m --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
このままギューしてブチューしちゃえ~~!!って感じなんですけどね、 そうは問屋が卸さないでしょうねぇ・・・ そうなんですよ。あの人は今?!ってな謎がまだ解決されておりません! --チ※※みりん様--
つくしにとって本当に辛い7年だったでしょうね。 だからこそ記憶が戻った、はいめでたし!とはならないんです。 司の腕の中で嬉しいと思う気持ちと同じくらい苦しい気持ちがある。 つくしが抱える心の呪縛を解いてあげない限りは本当の意味で笑える日はこないんです。 --sh※※ko様--
ほんと、発作が起きなくて良かったですよね~! 司のことを考えるだけで起きてたわけですから、この一歩は凄まじいですよ! 一気に全てが解決というわけにはいかないでしょうからね。 少しずつつくしの心を解かしていかなければなりません。 司のストレートな愛情がつくしを変えられるのか?! 物語はいよいよ終盤に向かっていきますよ。 --ke※※ki様--
やっぱり司の愛情表現と言えば直球ですからね。 これまで我慢するしかなかった分、ガンガン伝えていきますよ。 このままブチューとやれ~!と思うんですけどね、 さすがに今はそこまで強引にはなれないかな・・・ 寝ながら自分が泣いてるのがわかる時ってありますよね~。 私の場合大抵何かを叫びながら泣いてます。 で、「あ、泣きながら叫んでる」って意識があるんですよねぇ。(寝てるくせに) なんとも不思議な現象です。 --ブラ※※様<拍手コメントお礼>--
おぉ~、お師匠様!! え?! 名前被っちゃってましたか? あははは、もうそんなこたぁ全く気にしないっ!! 数ある二次作品、被らない方がおかしいと思って開き直っちゃいましょう!!(笑) え・・・ベリカの方本気で知りたいですか? ・・・・・・本気ですか? ・・・本気・・・?(・ω・;) |
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