あなたの欠片 1
2014 / 11 / 02 ( Sun ) どうしてかはわからない。
わからないけれど、雨の降る日はいつも切なくなる。 雨粒がまるで涙を連想させるからだろうか。 ほら、今日もまた雨を見て何故だか胸が苦しい。 いつも晴れない霧の中にいるようにその答えが見つからないでいる_____ ***** 6年ぶりに降り立つ地は最後にいた時と何も変わらないように見える。 だが、ぼんやりと見つめた画面の中で見たことも聞いたこともない流行の言葉や人物の名前が視界に入ってくると、確実にそこに6年という時間の流れがあったのだということを痛感させられる。 やっと・・・・やっと約束を果たせる。 はやる気持ちをなんとか落ち着かせながら、窓の外の景色に目をやった。 そこは今にも降り出しそうなほどの厚い雲が空を覆っていた。 用意されたタラップへと一歩踏み出す。日本の地を踏むのは実に6年ぶりだ。 あれから6年、その時間は瞬く間だったのか、それとも地獄のように長かったのか。 「司」 タラップを下りた先でかかった声に顔を向けると、そこには充分過ぎるほど見知った顔があった。 「お前ら・・・・なんでここに?」 「道明寺財閥の副社長のようやくの帰国だぞ。俺たちに情報が入らないわけがないだろ」 そう言って近付いてくる二つの影は、やがて大きな男の前で立ち止まった。 「総二郎、あきら・・・・」 「お前元気だったのか?あれからほとんど連絡がつかなくなってさすがに心配したんだぞ」 「・・・・・悪ぃ。そこまで気を回すほどの余裕がなかった」 「・・・・・・・まぁお前が大変だったのはわかってるけどよ。せめて10回に1回くらい連絡が取れてもいいんじゃねぇのか?」 「・・・・・・あぁ」 さすがに悪いと思う気持ちがあるのだろうか、柄にもなくやけに大人しく返事をするだけ。 ふと顔を上げると、二人の後ろに目線を送りながら司が口を開いた。 「ここに来てるのはお前らだけか?類は?」 「あ、あぁ・・・・・・」 どこか歯切れの悪い様子の二人を怪訝そうな顔で見るが、別にここに来なければならないというわけでもない。 しかも何一つ連絡をしない状態での帰国だ。マイペースな類ならば来ないと言ったって何の不思議もない。 「まぁとりあえず車に行こうぜ」 「あぁ・・・・」 総二郎の一言で司は後ろにいた西田と軽く何かの打ち合わせをすると、その足で用意されていたリムジンへと乗り込んだ。 車内は大きな男が3人乗り込んでもなお充分なゆとりがあるほど広い。 コの字の形になったソファに各々腰掛けると、軽くグラスを合わせて乾杯した。 「しばらくは日本なのか?」 「あぁ。最低でも2年はいる。その後はまだ何とも言えねぇけどな」 「そうか。・・・・あれから6年か・・・・」 あきらがリムジンの外を流れていく景色を見つめながらポツリと呟く。 そう。あれから___急遽決まった渡米からもう6年の月日が流れていた。 当初の予定だった4年を優に過ぎ、その間一度たりともこの地を踏むことはなかった。 いや、踏む余裕など寸分たりともなかった。 「あいつ・・・・・・あいつはどうしてんだ?元気なのか?」 ずっと司の頭の中を占めてきたその存在。 二人の口からそのうち出てくるかもしれないとは思っていたが、未だにその気配は感じられない。 自分たちのことを誰よりも知る友人の存在を前にして、このまま聞かずになどいられなかった。 「司、お前どうするつもりなんだ?」 いつになく真面目な顔で総二郎が言う。 「どうするってどういう意味だよ?」 「牧野に会って一体どうするつもりなんだって聞いてんだよ」 「お前何言ってんだ?迎えに行くに決まってんだろ」 何をバカなことを聞いてるのかと不満を滲ませるが、その言葉に総二郎とあきらが互いに顔を見合わせた。 「お前らもう別れたんだろ?」 「はぁ?!何言ってんだよ!んなことあるわけねぇだろうが!」 「でもあれから連絡取ってないんだろ?そんなの付き合ってるなんて言えねぇだろうが」 「それは・・・・・・俺はちゃんとあいつに話したし、必ず迎えに行くってことも伝えてる。だから俺の中では何一つ変わっちゃいねぇ。予定より時間が過ぎちまったってこと以外は」 司ははっきりとした口調で答えるが、変わらず二人の表情は晴れない。 「・・・・でも牧野はそうは思ってねぇぞ」 「あ?」 「あいつ、もうお前と別れたつもりでいるぞ」 「あぁ?!んだとっ?んなわけねぇだろうが!」 背の低いリムジンの中では立ち上がることができないため、司は目の前にいる総二郎の胸ぐらを掴む。 だがすぐに慣れたようにその手は振り払われ、それと同時に信じられない言葉を投げつけられた。 「俺に文句言うなよ。牧野本人が言ってたんだぞ。お前とはもうとっくに終わってるんだって」 「・・・・・んだと?」 「言っとくけど嘘じゃねぇぞ。俺にだけじゃねぇ。あいつ、他のメンバーにも同じ事を言ってる」 初めて聞かされた衝撃の事実に司の目がこれ以上ないほどに大きく見開かれる。 人は心の底から驚くと何も言葉がでなくなるのだろうか。 司はしばらくそのまま何も発することができずにいる。 「だから俺たちはお前とコンタクトを取ろうとしたんだ。でも何をどうやったってお前と繋がることはできなかった」 「・・・・・・・」 「あの令嬢と結婚するのか?」 これまで沈黙を守り続けていた司はその言葉に敏感に反応すると、鬼のような形相で怒鳴り声を上げた。 「するわけねぇだろうがっ!」 「そう思ってるのはお前だけだぞ。あの報道を知ってる人間のほとんどがそうだと信じ込んでるし、・・・・それは牧野だって同じだ」 「ざけんなっ!俺はあいつにちゃんと言ったんだ。必ず迎えに行くから信じて待ってろって」 「だからこの何年も連絡一つ取らずにいたってのか?それはお前の勝手な都合なんじゃないのか?」 「それは・・・・・」 そこを突かれては反論する術がなくなってしまう。 あの時、全ての予定が狂ってしまったあの時、そうすることが最善策だと考えていた。 耐える時間がどれほど長くなってしまうかはわからないが、互いを信じ想い合う気持ちがあれば乗り越えられると信じて疑わなかった。 だがそれは己の勝手な思い込みだったというのか・・・・? 呆然と一人考え込んでいる司にあきらが宥めるように声をかける。 「司、お前がとてつもなく大変だったのはよくわかる。曲がりなりにも俺たちだって今となってはジュニアとして社会に出てるんだからな。だけどそれでもやっぱりお前だけは違うんだよ。俺たちとはレベルが。そんなお前がああいうことになって、その中で何年も連絡一つよこさないってのはあまりにも酷なことなんじゃないのか?」 「俺は・・・・・・」 「責めてるつもりじゃないんだ。ただ、お前が少しでもいいから現状を報告してくれていればあいつはあんなことにならなかったんじゃないかって・・・・・・」 聞き捨てならない言葉にピクリと体が揺れる。 「なんだ・・・?今何つった?まさかあいつに何かあったのか?!」 司の叫びに一瞬だけあきらがしまったと言うような顔をしたのを見逃さなかった。 司はあきらの胸ぐらを掴むと一気にその体を引き寄せてギリギリと迫った。 「言えっ!あいつに何があったんだよっ!!」 「やめろ、司っ!!」 「うるせぇ!早く何があったか言えっ!!」 慌てて横から止めに入る総二郎の言葉などまるで耳に入らず、あきらの体を締め上げていく。 あきらは時折苦しそうに顔を歪めているが、決して口を割ろうとはしない。 そんな様子に痺れを切らした司は掴んでいた胸ぐらを乱暴に振り払うと、運転席の方に向かって叫び声を上げた。 「おいっ、予定変更だ!このまま牧野のアパートまで行けっ!!」 今は既に夜の10時を回っている。本音を言えばすぐにでも会いに行きたい。 だが、己の都合で散々我慢をさせてしまったという自覚がある。 だからこそきちんとした時間にきちんとした形で迎えに行きたかった。 明日、あらためてようやく約束が果たせる時が来たということを伝えにいくつもりだった。 だがもうそんなことは言っていられない。 あきらが言葉を濁すなんて普通じゃないに決まってる。 時間なんて関係ない。今すぐに会いに行く。 「あいつ、アパートにはいないぞ」 「・・・・・・あ?」 だが、そんな司の行動を見透かしたように総二郎が言った。 しかも俄には信じられないことを。 「牧野は今はあのアパートにはいない」 その言葉に司の頭の中が真っ白になる。 そんなことあるわけがない。 確かにあれから直接連絡をすることはなかった。 だがつくしに万が一何かがあったときにはすぐに連絡をするようにとSPに伝えていた。 つくしが引っ越したなんて報告は一言だって受けていない! 「嘘つくんじゃねぇよ!そんな報告は入ってねぇぞ!」 「お前んとこの事情なんて俺は知らねぇよ。でも紛れもない事実だ」 今にも殴りかかりそうな様子の司に溜め息をつくようにあきらが呟いた。 「そんなわけ・・・・・・じゃああいつはどこに行ったんだ?またどっかの漁村に行ったってのか?!」 今この瞬間までつくしが自分を待ってくれていると信じて疑わなかった司の手から力が抜け落ちていく。 そんな司の様子を見つめていた総二郎が静かに告げた。 「あいつは今・・・・・・・・・類の邸にいるよ」 ![]() ![]() |
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はじめまして。 おはようございます。 某委員会ですっかり有名人のみやとも様。 お話を呼んで、ファンになりました。 今はブラジルへの渡航禁止措置のおかげで、ちょくちょくお名前をお見かけしています(笑) サイト立ち上げたんですね。 早朝に発見して、全部読みました。 パスワードは一生懸命足し算して‥‥。 そしてこのお話‥‥スタートはかなりヤバい感じですよね。 6年間一度も連絡をとってなくての帰国。 つくしは類の邸にいるという‥。 早く続きを知りたくて仕方がありません。 ドキドキしながら、お待ちしていますね。
by: みわちゃん * 2014/11/02 07:09 * URL [ 編集 ] | page top
--わッ!--
なんだか切なげなはじまり。 どきどきわくわくです(´m`*) どうなっちゃったの、つくしちゃーん! --みわちゃん様--
はじめまして! ひっそりとした辺鄙なサイトへようこそお越しくださいました(*´∀`*) 棒・・・・某サイトで有名人だなんてそんなめっそうもない! え?指名手配犯的なアレだって? ・・・・・・えぇ、それは否定できません。 いつ捕まってもおかしくないと自覚しております( ̄∇ ̄) ますますブラジルへの渡航が厳しくなったと身をもって痛感する日々です。 パスワードも解読できたようでよかったです。 一応かけておかないと・・・・と思いまして(笑) こちらのお話、短編とはちょっと色味を変えてお届けしようと思っております。 果たして無事に完走できるのかわかりませんが(笑) 少しずつ何があったのかがわかっていきますので、 末永くお付き合いいただけましたら嬉しいです(*^o^*) --丸々猫様--
初の長編作品、ちょっと路線を変えてみることにしました。 変態仮面にこの路線が完走できるのか?! そこにご注目してお楽しみください。(え、そこ?!) 今日は時間に余裕があれば「晴れ、ときどき~」の方も更新したいと思ってます!(・∀・) --管理人のみ閲覧できます--
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そうですよね、晴れは~??!!!ですよね。 そのご意見ごもっともです<m(__)m> とりあえず頭の中に浮かんでいる間に書いてしまおうと思いまして、 突然ではありますがぶっ込ませていただきました。 今日はなんとか晴れ~の方もアップしたいと思っているのですが、 全ては我が家の怪獣次第です。 是非とも傷心の坊ちゃんと一緒に添い寝してあげてください。 超長編で生転がししちゃっていいんですか? じゃあ焦らして焦らして焦らして焦らして・・・そのまま放置します( ̄∇ ̄) --きな※※ち様--
むむっ!かなり鋭い推察ですね! まぁ小学生レベルの脳みその私が考えるお話なんて誰にでも予測できるかと( ̄∇ ̄) え?小学生以下?・・・・・・・・・ちーん。 火サスのテーマもちろん知っております。 やばいです。これから書く度にそれが頭から離れそうにありません(笑) 出だしはこれですが、いずれ坊棒・・・・・・ えぇ、必ずやお届けできるようにしましょうぞ(ほんとか) 名付け親としてのメンツがかかっておりますからね。 最後までついてくる・・・・というよりも私が最後まで走りきれるように後ろから叩いてやってください。 それこそ坊棒でバシバシと( ̄∇ ̄) --Vi※※様--
そうなんです。出だしはちょっと不穏な空気に包まれています。 司はつくしを放ったらかしにしてたのか?!一体いつから? そして一番気になる何故類のところに? など徐々にわかっていきますので、最後までお付き合いいただけましたら嬉しいです^^ --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --きな※※ち様--
ぶはっ! ニンジンの代わりに・・・ですか? あぁやばい~!もうニンジンを見る度に思い出しそうで・・・・どうしてくれるんですか! でも凄い記録が出そうですね( ̄∇ ̄) |
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