あなたの欠片 2
2014 / 11 / 03 ( Mon ) カツカツカツカツカツカツ
ガチャッ、バターン! 「おはようございます。昨日のお休みで少しは疲れが・・・・・っ!!」 ガッ、ドンッ!! 上司の姿を見て一礼をした男の言葉は最後まで放つことは叶わず、何の前触れもなく突然胸ぐらを掴まれるとそのままの勢いで壁に激突した。男同士だが身長差のあるその体格の違いに、足が浮きそうになるほどの凄まじい力で締め上げられていく。 だが突然のその事態にも男は決して少しの動揺も見せることなく、静かに目の前の人物を見据えている。 「どういうことだ?」 「・・・・・何がでしょうか」 「とぼけんじゃねぇ!お前が何も知らないはずねぇだろうが!」 「・・・・・・・・」 目の前に見えるのは明らかな怒りの炎。 触れたら、・・・いや、見ているだけで全身が焦げ付きてしまいそうなほどの怒りのオーラに満ちている。 服を掴んだ手はギリギリと血管が浮き出るほどに小刻みに震えている。 「誰の指図だ?ババァか?」 「・・・・・・・・・・・」 「言えっ!!!」 「・・・・・・社長は今回のことには一切関わっておりません。全て私一人の判断で行ったことです」 「・・・・んだと・・・?」 予想外の答えだったのだろうか、男の目が驚きに見開かれていく。 虚を突かれた形となり、首を締め上げていた手からほんの少しだけ力が抜けたのがわかる。 「今回のことを副社長にお伝えしないようにとの命を下したのは他でもない私です。社長は何も存じ上げておりません」 「・・・・・ざけんなっ!てめぇ、ぶっ殺すぞ!!」 一瞬だけ緩んだ手が再び力を取り戻し、先程よりもさらに強く首を締め上げていく。 もうほとんどつま先だけで立っている状態で、今にも体が浮きそうなほどだ。 それでも男は決して取り乱すことはない。まるでこうなることをずっと前から予測していたかのように。 「副社長には優先順位というものがあります。あの時の副社長にはそのことを伝えることは・・・・・」 「うるせぇっ!!」 ガッ!!ドサッ 右頬に入った拳で男の体が床に倒れ込む。その勢いでかけていた眼鏡も吹き飛んだ。 「お前は一体誰の秘書なんだ?西田ァっ!!!」 怒鳴り声と共に倒れたままの体に馬乗りになると、再び胸ぐらを掴んで男の上半身を引っ張り上げた。 その目は昔を彷彿とさせるほど鋭く、もうしばらく見ることのなかった怒りを露わにしている。 おそらく普通の人間ならばそれだけで震え上がり身動き一つできなくなってしまうだろう。 「俺が何のために血を吐くような思いでここまでやってきたと思ってる!全てはあいつと一緒になるためだろうが!それなのに・・・・なんでてめぇは何よりも大事なことを俺に言わなかった!!!」 その叫びはまるで泣き声のようにも聞こえるほど悲痛なもので。 だがそれでも西田の表情は変わらない。 「私は副社長の秘書です。あなたの業務が滞りなく遂行されるためにはどんな手段も」 「黙れぇっ!!」 まるで機械のように平然と言葉を連ねていく己の秘書が殺したいほどに憎い。 司は再び振り上げた拳に力を込めるが、じっとこちらを見つめたままの西田の姿にその動きが止まる。 「くそっ!!出ていけ!!」 ガッとその拳を床に叩きつけると、放り投げるように下に横たわっていた西田の体を突き飛ばした。 司は立ち上がると大股で窓際まで移動し、背を向けて窓の外に視線を送った。 西田はそんな司の様子をじっと見つめながら己の体をゆっくりと起こすと、乱れた首元を静かに整えていく。全てが終わると言われたとおりに扉の方へと歩いて行った。 ドアノブに手をかけたところで振り返ると、怒りの炎に満ち溢れている背中へと言葉をかけた。 「副社長、私の判断は間違っていなかったと思っています」 一言、それだけ告げると西田は部屋から出て行った。 一人残された司の拳は尚も震えが止まらない。 「・・・・・・・・・くそったれがぁ!!」 ガタッガシャーーーーン!!! 振り向きざまに視界に入った椅子を蹴り上げる。回転しながら倒れていく椅子が机にぶつかり、机上の書類が激しく散乱した。 本当ならば室内のものを全てぶち壊してしまいたい。西田を本気で殺してやりたい。 だがこれだけでとどめられているのもまた6年の月日が流れたという一つの証明なのだろうか。 「牧野・・・・・」 震える声で呟いた名前は恐ろしいほど静まりかえった室内に消えていった。 ******* 「今なんつった・・・・・?」 総二郎の放った言葉の意味がすぐには理解できない。 「・・・・牧野、今は類の邸に世話になってる」 「な・・・にを・・・・?お前何言ってんだ?ふざけてんじゃねぇぞ!」 「ふざけてるわけねーだろが!言っとくけどなぁ!これだって全部お前に伝えようとしたんだ。それでも俺たちとコンタクトを取ろうとしなかったのは他でもない司、お前なんだぞ!」 ダラリと全身から力が抜けていく。 ソファーの支えがなければ膝から落ちていたのではないかというほどに。 信じられない事実を前に司は呆然とするしかない。 「なんで・・・・・・・牧野は・・・・類と・・・・・・?」 数年振りに見る親友のあまりにもらしくない姿にあきらと総二郎も顔を歪める。 だが紛れもない事実なのだからいつかは本人の知ることとなる。 「司、お前の牧野に対する気持ちが変わってないっていうのなら自分の目で確かめてこい」 あきらの言葉に司がハッと顔を上げる。 「ただし条件がある。お前にも事情があってこの数年の時間が流れたように、牧野には牧野の時間が流れてたんだ。お前の一方的な気持ちを押しつけるようなことだけはするな」 「・・・・・・あきら?」 「牧野を本当に大切に思うのならばそれだけは絶対に守れよ」 「・・・・・・」 それから黙り込んでしまった司と共に、車内もひたすら沈黙に包まれた。 誰一人として言葉を発する者はいない。 だが司の瞳には怒りと嫉妬の炎が宿っていたことを気付かないほどバカな二人ではなかった。 「お帰りなさいませ、司様。ようこそお帰りくださいました」 「・・・・・・・・あぁ」 6年ぶりに見るタマは幾分腰が曲がったように見えるが、まだまだ現役バリバリの様相だ。 主の帰国に邸は沸き上がったが、当の本人は帰宅した瞬間からどす黒いオーラを纏っており、タマ以外には声をかけられる者などいなかった。 ろくに会話もせず一直線に自室に戻ると、司は荷物の中からある物を取り出した。 そのまま窓際まで移動して外を見ると、帰宅後に降り始めたのだろうか、外はしとしとと雨が降り出していた。 『牧野は類の邸にいるよ』 信じられない言葉が頭の中を駆け巡る。 何故? どうして? その思いだけが己の中を埋め尽くしていく。 今すぐにでもあいつの家に行きたいが、あきらの言葉がそれを引き止める。 徐々にその強さを増していく雨をぼんやりと見上げながら、司は一睡もすることなく夜明けを迎えた。 ******** 「ご無沙汰しています、道明寺様。どうぞ中へお入りください」 翌朝、いてもたってもいられない司は8時に類の邸へと来ていた。 この日は帰国後の疲れを癒やすためにと与えられためったにない休日だった。 突然現れた男に使用人は驚いていたが、主の親友ともあればすぐに好意的に中へと招いてくれる。 「類様は今ご自身のお部屋にいらっしゃいます」 「・・・・わかった」 使用人からそう告げられると、勝手知ったる友の家とばかりに、網羅し尽くしている邸の中をどんどん進んでいく。 類は自室にいると言った。ではつくしは・・・・? まさか同じ部屋で過ごしているのだろうか? 万が一にも考えたくないおぞましい事態が一瞬脳裏をよぎる。 ふと大きな窓の外から光が差し込んでいるのに気付いた。 夕べはあんなに降っていたにもかかわらず、今は眩しいほどに太陽が降り注いでいる。いつもならそんなことを気にかけることすらあり得ないのだが、何故だかこの時は不思議と足が止まっていた。 何気なく窓の外へと視線を送ると、そこには数え切れないほどの花に埋め尽くされた広大な庭が広がっている。 ・・・・・・と、その花の中にチラリと影が見えたような気がした。 「・・・・・・・?」 何故かはわからない。 だが引き寄せられるようにその影を視線が追った。 次の瞬間 「っ・・・・!!牧野っ!!!!」 言葉よりも先に体が動いていた。 この6年、毎日毎日夢に見ていた。 何よりも大切な、何よりも愛おしい、 己にとって唯一無二の愛する女性。 「牧野っ!!」 花に囲まれながら嬉しそうに微笑んでいた女が、突然目の前に飛び出してきた大きな男の姿にビクリと肩を揺らす。 男は男でようやく目の前に見ることのできた愛する女の姿に、全てのことなど吹っ飛び笑みが零れていた。 「あ、あの・・・・・」 「牧野・・・・・会いたかった」 司は条件反射のようにつくしを引き寄せようと手を伸ばした。 だが次の瞬間その手がピタリと動きを止めた。 「あの・・・・・・・・どちら様ですか・・・・・?」 ![]() ![]() |
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by: * 2014/11/03 10:45 * [ 編集 ] | page top
--ブラ※※様--
はい、出ちゃいました・・・・(何が?) 原作を読んでいたときから逆バージョンが見てみたい!という思いがずっとあって、 どうせサイトを立ち上げたのならその願望を叶えてしまえ!!と、 ベッタベタなのはわかってたんですがやっちまいました。 いいんです、どうせ変態仮面は常にベッタベタなので(だから何が?) 生殺しタイム突入?! ベシベシ叩いていきますよっ!( ̄∇ ̄)////// --み※ちゃん様<拍手コメントお礼>--
予想当たってましたか? って多分多くの人が予想してたかな^^; ベタな展開ですが楽しんでいただけたら嬉しいです。 一体何があって何故類と一緒にいるのか?! 是非今後も予想しながら楽しんでくださいね(*^o^*) --管理人のみ閲覧できます--
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はい、やっちまいました・・・・。 禁域ですか? いいんちょ様がそれを言うとまたよからぬ妄想が頭を駆け巡って・・・・・ って、え?違う? ・・・・フー、いかんいかん。 どうも最近脳の変換機能がおかしくなっているようで。コマッタナー 所詮、変態仮面の書く世界です。 どうぞご安心してお見守りくださいませ( ̄∇ ̄) --マ※様--
類つく?つかつく?と悩んじゃいましたか? 大丈夫です。私はつかつく派ですから( ̄ー ̄)ニヤ >そしてここからどう®につながるのか。 ありゃ~、早くもそこの展開を気にしちゃいます?(笑) これはかなりのプレッシャーだぞぉ~( ̄∇ ̄) そもそもしっかり完走できるかも怪しいこの私め。 ほんの少しでも皆様のご期待に添える展開にもっていけるのか・・・・ でもそこで怯んじゃ変態仮面の名が廃るってもんですよね。 ッシャー、頑張るでぇ~~!! あと、サイト内の調整をするとおっしゃってたので、 心配しなくて大丈夫ですよ~! 棒所でゆるーりと過ごしながらまったり待ってましょう(*´∀`*) |
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