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あなたの欠片 3
2014 / 11 / 04 ( Tue )
色とりどりの花や葉が昨夜の雨粒をその身に纏い、朝日に反射してキラキラと輝いている。
その輝きの中に佇んでいたつくしの口から出た言葉は、その光を一瞬にして真っ暗にしてしまうだけの威力をもっていた。

「・・・・・・・牧野・・・・?」

ようやく絞り出した声は自分でもびっくりするほど掠れていて。

「あ、あの、ごめんなさい。どちら様ですか・・・・・?」

聞き間違いだろうと思っていた言葉が確かに目の前の女の口から再び放たれる。
驚きに目を見開いている男を前に、つくしは申し訳なさそうに、どこか怖がった様子でおずおずと顔を見上げている。

「あ、あの・・・・?」

やっとのことで聞こえてきた声に我に返ると、司は目の前のつくしの肩を両手で掴んだ。

「牧野っ?!お前一体何を言ってんだ?何の冗談を言ってんだよ!散々待たせた俺への仕返しか?!」
「・・・つっ・・・・!」

矢継ぎ早に言葉を続ける司の目の前でつくしの顔が苦痛に歪んだ。

「あっ、悪い。痛かったか?」

ハッとして慌てて掴んだ手の力を緩めたところで初めて気付く。
つくしの左手と左足にはギプスがはめられ、すぐ後ろには電動の車いすが置かれていたことに。

「お前・・・・・その怪我・・・・一体どうしたんだ?!」
「あ、あの・・・・・・」
「一体何があったんだよ!!」

ガラスを扱うようにそっとつくしの肩に手を触れるが、いきなり現れた見覚えのない大柄な男のあまりにも狼狽した様子に、つくしはただただ怯えることしかできなかった。


「怖がってるだろ」


見つめ合ったまま身動き一つできずにいる二人の背後から静かな声が響く。

「類・・・・」
「久しぶりだね、司」

声の元に顔を向けると、やはり数年振りに見る親友の姿がそこにはあった。
類は一瞬だけ司を見ると、その視線をすぐに横にいるつくしの方へと移しながら近付いてくる。

「あまり無理したらダメだって言われてるだろ?」
「あ、ごめんなさい・・・・でも車いすもあるし、少し立ち上がるだけだから・・・・」
「そうやってすぐに気付かない間に無理するのがあんたの悪いところ」
「・・・・・ごめん」
「うちの使用人も牧野がいないって探してたよ」
「えっ!!」
「とりあえず戻りな。ご飯だってまだなんだろ?ほら、座って」
「うん、ありがとう・・・・・」

差し出された類の手につくしは自分の右手を乗せると、ゆっくりと時間をかけて車いすへと腰掛けた。膝の上には立ち上がるときに使うのだろうか、一本の杖が乗せられた。

「牧野様!お連れ致します」
「あ、ごめんなさい・・・・」
「気にされなくていいんですよ」

邸の中からつくしの姿を捉えた使用人の一人が慌てて駆け寄ってくると、にこっと優しく微笑みながら車いすの後ろを押して歩き始めた。
その一連のやりとりを、目の前にいた司はただ呆然と眺めていることしかできない。

「あ、あの・・・・・」

少しも逸らされることのない視線につくしも気まずさを感じたのか、申し訳なさそうに司の方を見上げた。

「とりあえず戻りな。あとは俺に任せておけばいいから」
「・・・・・・・うん。・・・・じゃあすみません、失礼します」

類の言葉に後押しされたのか、つくしは司の方に体を向けて一礼すると、そのまま車いすを押されながら邸の中へと入っていってしまった。

今目の前で見たことは一体何だったのだろうか?
確かにあれはつくしだった。
数年振りに見た彼女は昔の面影を残しながらも、大人の女性として美しく成長していた。

・・・・だが目の前で見たのはつくしであってつくしではない。
一体何がとうなってるんだ・・・・・?

「司」

つくしのいなくなった方向を見ながらただ立ち尽くしている司に類が静かに声をかける。
その声に弾かれたように振り返ると、司は両手で類の服を掴みながら眼前まで迫って問いただした。

「一体どういうことなんだよ?!類っ!!」
「・・・・・・・見ての通りだよ」
「あぁっ?!」

苛立ちを隠そうとはしない司とは対照的に、類は静かに口を開く。

「牧野、記憶がないんだ」
「・・・・・・・・・んだと・・・・・?」

まさか・・・・とは思っていた。
どんな鈍感な人間だってつくしの様子を見ていれば普通じゃないことくらいわかる。
それでも、心のどこかでそれは悪い冗談なのだと信じていたかった。
だが、その一縷の望みも目の前の親友によって紛れもない事実なのだと突きつけられてしまった。

己の知らないところでとんでもないことが起こってしまっていたという現実に、司の足元がガクガクと小刻みに震え始める。服を掴んでいたはずの両手はいつの間にかダラリと下がり、茫然自失している。
類はそんな司の様子をただ黙って見つめているだけ。

「なんでそんな・・・・・・・」
「ここで話すのもなんだから、とりあえず俺の部屋に移動した方がいいんじゃない?」




*******

「類、一体どういうことなんだ?牧野に一体何があった?!」

パタンと扉が完全に閉まりきる前に司が切羽詰まったように切り出す。
だが聞かれた当の本人はゆったりとベッドに腰掛けると、飄々とした様子で全く関係のないことを口にし始めた。

「司に最後に会ったのっていつだっけ?俺がNYに行ったついでに会った時だから・・・・3年くらい前になるんだっけ」
「今はそんなことは関係ねぇだろが!牧野に何があったかって聞いてんだよ!」

昔から予測のつかないマイペースな男だったが、こんな時にまで全く関係のないことを口に出すことに司はとてつもない苛立ちを覚えていた。

「あのことが起きたのも3年前でしょ?」
「・・・・・!」

その一言で言葉を詰まらせた司に顔を向けると、類は口元だけを緩めて笑った。
だがその目は決して笑ってなどいない。

「牧野、健気に頑張ってたよ。いつだって自分の事は二の次。いつだってお前のことを一番に考えて頑張ってた」
「・・・・・・・・・・」

どれだけ我慢をさせてきたのかなんて自分が一番わかっている。
それでも、二人の未来のためには耐えなくてはならないことだった。
だからこそ全ての欲望を無にして死に物狂いで突っ走ってきた。

何故今類がそんなことを言うのかがわからない。
我慢させた咎めならいくらでも受けよう。
だが己の聞きたいこととその答えが一致していない。

この男は一体何が言いたい?

目の前の男の顔をじっと見るがその表情からは真意を伺い知ることはできない。

「頑張ってた、本当に。・・・・・・・でも、頑張りすぎたんだ」
「・・・・類?」
「バカ正直だから、頑張りすぎた」
「・・・・・・・一体なにを」

そこまで言いかけたとき、類の顔からフッと笑顔が消えた。
そして真っ直ぐに司の顔を射貫く。
これまで見た彼のどの表情とも違うその様子に、司は言葉を続けることができない。



「牧野、3ヶ月前に事故にあったんだ」






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by: * 2014/11/04 13:08 * [ 編集 ] | page top
--ブラ※※師匠様--

いやいや上手いだなんてとんでもございません!
もう一体どこぞの老夫婦かってくらいマンネリ化してまして、
旦那も私もすっかり・・・・・・・・・
・・・・え?そっちの話じゃない?
・・・・・いやはやこれまた失礼致しました( ̄∇ ̄)マイッタナコリャ

ある意味ドぎつい個性があることは自覚しておりますが(笑)
ちゃんと最後まで書き切れるのか、不安だらけです^^;
でも少しでも楽しんでいただけてるのなら嬉しいです~(*´∀`*)アリガタヤ~
by: みやとも * 2014/11/04 14:41 * URL [ 編集 ] | page top
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