彼と彼女の事情 3
2015 / 06 / 28 ( Sun ) 「嘘・・・でしょう・・・?!」
「残念ながら嘘じゃねぇ」 そう返ってくるのはわかっていても言わずになどいられない。 今更ながらにようやく気付く。 自分の発している声がとてつもなく低くて太い声になってしまっていたという現実に。 そしてあの時確かに道明寺が自分を守ってくれたと思ったのは気のせいなんかじゃなかった。 『 守ってくれたからこそ痛かった 』 何故ならあたしが 「道明寺」 になってしまったのだから。 「つーかマジかよ・・・どうすりゃいいんだ?」 ぼりぼりと目の前であぐらをかきながら頭を掻きむしる男・・・じゃなくて 「あたし」 が。 「ちょっとっ! あたしの体でそんな格好しないでよっ!」 「うおわっ?! 何だよ?! 仕方ねーだろ、自然に出ちまうもんは!」 「やだやだやだやだ! いくらあたしでもそんなことはしないんだからっ!!」 「つーかそりゃこっちのセリフだ! 俺の姿でんな気持ちわりぃセリフ吐くんじゃねぇよ! 鳥肌が立ってしょうがねぇっつーんだよ!」 「そんなこと言ったって中身は 『あたし』 なんだからしょうがないじゃん!」 「それを言うなら俺だって一緒だっつの!」 道明寺の言葉は至極正論で。 この状況にどうしていいのかわからないのは彼だって同じに決まってるのだ。 「う゛っ・・・」 「おっ、おいっ?!」 あっという間に瞳が潤んでいくあたしに、目の前の 「あたし」 がみるみる慌てていく。 「うわぁ~~~~んっ!!!」 「おいっ、泣くなっ! つーか俺の姿で泣くとかマジでやめろっ! どう考えても罰ゲームじゃねーか! おい牧野っ、頼むからやめてくれっ!!」 「そんなん言ったってムリ~~!! うわあ~~~んっ!!」 「・・・マジかよ・・・」 目の前で突っ伏しておーいおいと泣き出してしまった 「自分」 を目の当たりにすると、道明寺はクラッと一瞬目眩を起こしながら天を仰いだ。 *** すっかり雷雨のおさまった深夜の室内はシーーンと静まり返っている。 ソファーに座って向かい合って互いに難しい顔をしたまま。 「・・・・・・どうするの・・・?」 「・・・・・・」 聞いたところで道明寺に答えがわかるはずがない。 だって自分にだって何をどうしていいのかわからないのだから。 あれからしばらくして泣き止むと、2人で何とかして元に戻る方法はないかと試みてみた。 当時の状況からわかることは、雷が鳴っていたこと、激しく転んだこと、体が密着していたこと、 せいぜいこの程度のことしか考えられないと思う。 そもそも本当にそれが原因なのかすらわからないのだけれど。 でも何も行動に起こさないなんて選択肢はあたし達にはなかった。 だからまだ鳴り響いていた雷のタイミングを狙って何度もあの時の再現をしてみた。 ・・・けれど、繰り返せど繰り返せど何一つ変化はなく。 いや、あるとしたら互いの体が痛くなっていくだけという何とも有難くない変化だけ。 結局2時間ほどそんなことを繰り返しながら今に至るのだ。 「はぁ・・・なんでこんなことになっちゃったの・・・」 「・・・・・・」 相変わらず黙り込んだままの道明寺に、思わず頭を抱えて項垂れてしまった。 なんで? なんでこんなことに・・・?! これが夢じゃないということはさっき互いに散々頬をつねり合って証明済みだ。 こんなあり得ないことが夢じゃないなんて、もしかしてあの世に来たんじゃないかとすら思える。 それくらいに信じられないしあり得ない。 ___ まさか互いの体が入れ替わっちゃうだなんて。 ギシッ・・・ 「 ?! 」 ソファーのすぐ隣が沈み込んでハッと横を見たときには既に手が握りしめられていた。 その手は今の自分よりも一回りも小さい。 そして目線だって頭一つ分低いところにある。 どこからどう見ても 「牧野つくし」 そのもので。 「大丈夫だ。根拠はねーけど心配いらねぇ。なんとかなる」 「道明寺・・・」 それなのに。 不思議なくらい目の前にいるのが 「道明寺」 にしか見えなくなる瞬間があるのだ。 きっと道明寺だって混乱しまくっているに違いないのに。 動揺してるのはあたしだけじゃないに決まってるのに。 こうして1人混乱しまくっているあたしを落ち着かせようとしてくれている。 あぁほら! そんなことを考えるだけでまたドキドキしてきちゃうじゃないか。 ダメダメダメ! 今はそれどころじゃないんだから。 まずはこのあり得ない状況をどう乗り越えるか、それだけを考えなきゃ。 「・・・っていうかさ、週が明けてもこのままだったらどうなっちゃうの・・・?」 そう。 不幸中の幸いか今は金曜日。 土日でこの状況が打破されていなければ月曜から一体どうすればいいというのか。 お互い仕事だってある。 百歩譲って道明寺があたしレベルの仕事をやるには何の問題もないだろうけど、あたしが道明寺の仕事をやるなんて・・・ 「むっ、ムリムリムリムリ! あたしに道明寺の代わりなんてぜっっっっっったいにムリっ!!」 「おい、落ち着け! 最悪の場合の対策は土日の間になんとか考えればいいから」 1人パニック状態のあたしを道明寺は必死で宥める。 っていうか・・・ 「・・・なんで道明寺はそんなに落ち着いてるの? こんなあり得ない状況になってるのに! ねぇなんで?! 怖くないの? 焦らないの? なんでっ・・・」 「わかったからちょっと落ち着けっつってんだろ!」 目の前の 「あたし」 の両腕を掴んで必死に問い詰めるあたしに 「あたし」 が声を荒げる。 自分の声なはずなのに驚くほど野太く聞こえて、思わず体が竦み上がった。 道明寺はそんなあたしを見てはぁっと大きく息を吐き出した。 「・・・悪ぃ。ただ、無理矢理にでも冷静にしてねーと頭の中がパニックになりそうで・・・。俺だって混乱してるに決まってんだろ。だからって2人してパニくってたってどうにもならねーだろうが。お前の焦りも苛立ちもよくわかるから、とにかく少し落ち着け。・・・わかったか?」 「・・・・・・うん、ごめん・・・」 一言一句全てが正論過ぎて、もはやぐうの音も出ない。 すっかり意気消沈してしまったあたしを見て再び道明寺が溜め息をついた。 「別に謝る必要はねーよ。つーか俺の姿でそんなションボリするとかマジでやめろ。さっきから鳥肌が消えねぇんだよ」 「そんなこと言ったってムリだよ・・・だって中身はあたしなんだもん」 「・・・はぁ~、マジでなんでこんなことになったんだ・・・」 額に手をついたまま再び天を仰いだ道明寺・・・もとい 「あたし」 の足がパカッと開いている。 「だからっ!! 足開くのやめてって言ってるでしょ!」 「あぁ?! 中身は俺なんだから仕方ねぇだろうが!」 「やだやだやだ! 元に戻ってもそのままになってそうでやなんだもん!」 「 『だもん』 とか 『やだやだ』 とか俺の顔で気色わりぃこと言ってんじゃねーよ! つーかそれ言うならお前だって内股で座るのやめろっ!!」 「そんなのムリっ!!」 「だったら俺だってムリだってんだよ!」 ギャーギャー結局辿り着く場所は同じ。 何一つ解決の糸口なんて見つからない。 それでも、今はこうして騒いでなきゃとてもじゃないけど落ち着いてなんていられなくて。 て・・・・・・。 「・・・・・・・・・」 「・・・? おい、急に黙り込んでどうした?」 急激に黙り込んで俯いてしまったあたしを道明寺が心配そうに覗き込む。 「おい牧野。 まき・・・」 「・・・・・・どうしよう」 「は? つーかお前顔が真っ青じゃねーか。どうしたんだよ?!」 ゆっくり顔を上げたあたしを見て道明寺の顔が驚きに染まる。 それもそのはず。多分今のあたしの顔からは血の気が引いているはずだから。 「・・・・・・たい」 「は? 聞こえねぇよ。今なんつった?」 「・・・トイレに行きたい」 「は・・・」 そう言って互いに見つめ合ったまましばし空気が固まったのがわかった。 考えなきゃならないことは山ほどある。 万が一月曜になってもこのままだったらどうしようとか、金太郎飴のように問題は尽きない。 ・・・でも。 でもっ!!! もっと現実的な問題が今そこにあるじゃないか! 今そこに迫る危機が!!!! 「道明寺ぃ~、どうしよう、どうすればいいの?!」 「ま、待てっ! とりあえずトイレ行くぞ!」 うるうると涙目のあたしの手を引っ張ると道明寺はトイレへと急いで連れて行く。 「ほら、行ってこい!」 「えっ?! むっ、ムリだよ!! 男の人の体なんて何もわかんないもん! ムリムリムリっ!」 「手で掴んですりゃあいいんだよ!」 手で掴む・・・? な、なに、何を・・・ ナニを・・・? 「ひぃっ! むっ、ムリムリムリムリムリっ! 死んでもムリ~~~~~っ!!」 「仕方ねぇだろが! 男は皆そうしてんだよっ!」 「だってあたしは男じゃないもん~~! むりむりむ゛り゛ぃ~~~~っ!!!!」 「じゃあションベン我慢できんのかよ!」 「それもム゛リ゛~~~~!!」 もうあたしはほぼほぼ泣いてると思う。 道明寺の姿のまま。 「チッ・・・! 仕方ねぇな」 そう言うと、見た目はあたしの道明寺が見た目は道明寺のあたしの体を押して自分の体ごとトイレの中へと入って来た。超高級マンションだけに大人2人が入ったところで中は広々空間だ。 「えっ、なに? 何するの?!」 「決まってんだろ。そんなに嫌ならお前は目ぇ閉じてろよ。俺がやってやるから」 飛び出したトンデモ発言に思わず粗相してしまいそうなほどに飛び上がる。 「はっ?! 何言ってんの?!」 「お前がムリなんだったらそうする以外ねーだろが。ほらいいからズボン下ろすぞ」 パニックを起こすあたしとは対照的に道明寺は努めて冷静にベルトへと手を掛けた。 呆然としていたのがカチャカチャという音でハッと現実に引き戻される。 「いやーーーーーーっ! ムリムリムリっ!! あたしの体でそんなことなんて絶対にムリっ!!」 「中身は俺なんだから気にするんじゃねぇよっ!!」 「ぜったいにムリーーーーっ!!! 目の前で自分があ、あ、あんなもの触ってる姿なんて絶対に耐えられないっ!」 「おいっ、あんなものとはなんだあんなものとは!」 「とにかくムリなものはムリなのぉっ!!」 「じゃあションベン漏らしてもいいんだなっ!」 「それもいやああああああああああっ!!!!」 深夜の高級マンションに野太い男の悲鳴が響き渡る。 あぁ神様。 今からでもいいからやっぱり夢だと言ってください!!
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韓国ドラマ【シークレット・ガーデン】状態ですね。 さてさて この2人・・・どうやって元通りになるのか? それまでどう過ごすのか凄く楽しみです!!
by: キル・ライム * 2015/06/28 00:23 * URL [ 編集 ] | page top
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トイレの問題・・・これは切実ですね(笑) さあどう乗り切るのか? まだまだ問題は山積。 結局は西田さんにも話さなきゃならないだろうし・・・。 頑張れ、二人。 --管理人のみ閲覧できます--
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