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彼と彼女の事情 4
2015 / 06 / 29 ( Mon )
スースーと眼下で寝息を立てる女・・・もとい 「俺」 の目尻はまだ濡れている。
拭って頭を撫でてやろうとしたところで我に返り、伸ばした手をグッと握りしめた。

「・・・・・・何が悲しくて自分にこんなことしなきゃなんねーんだ。・・・・・・クソッ!」

やり場のない苛立ちを押さえるように立ち上がると、尚も眠り続ける牧野を寝室に残してリビングへと足早に戻る。そしてテーブルに置かれたままになっていた携帯を乱暴に掴んでひっくり返るようにしてソファーにダイブした。



あの後、たかだかトイレを済ませるだけでも散々だった。
結局選択を迫られた牧野が選んだのは自力でするというもの。
とはいえ当然ながら直接見ない、触れないという大前提付き。
ガラガラと紙をこれでもかと引っ張り出して泣きながら触ったんだろう。あんなにペーパーホルダーが回転する音を聞いたのは生まれて初めてだったっつーくらいに大量に出してやがった。

ざけんなっ!
俺様の大事なもんをまるで新型ウイルスのように扱いやがって。
泣きてぇのはこっちの方だっ!

しかもやっとのことでトイレ騒動が終わったと思った矢先、今度は俺の方が用を足したくなった。
俺だって女の体に詳しいわけじゃねーが、とりあえず男と違ってただ座ってやりゃあいいってことくらいはわかる。しかも大事なところを見る必要だってない。
だから何の問題もなく済ませようと思ったのに・・・
あのヤロウ、またしても嫌だ嫌だと号泣しやがった。

結局タオルか何かを下半身に掛けた状態でやるということでなんとか落ち着いたが・・・
そんなん根本的な解決になんざなってねぇ。
生理現象はこれから嫌ってほど繰り返されるし、フロにだって入らなきゃなんねぇ。
んなときにいちいち体なんて隠してられっか!

セックスだってした仲だっつーのに今更それくらいで何言ってんだ!!
・・・といってやりたいのは山々だが、やったとは言ってもまだたったの2回。
俺はともかく、牧野からすればほぼほぼ未経験も同然な状態なんだろうとは思う。
実際、俺はあいつの体のほとんどを見てるのに対しておそらくあいつはまともに見ちゃいねぇ。つーか見れるような性格じゃねぇのは百も承知だ。
最初はすっげー泣いてたし、2回目は泣きこそしなかったが、見たところまだ気持ちがいいとか感じるまでには至ってねぇだろうってことは俺にだってわかる。

あいつらだって言ってたが、どんなに経験があってもこればっかりはどうにもならねぇらしい。
とにかく時間をかけて、女の反応を見ながらじっくり慣らしていくしかねぇって。

あいつを待たせた俺が言うのもなんだが、そっちのことに関しては充分待ったと思う。
決して焦ってるつもりも無理強いしたつもりもない。
お互い合意の上で極々自然な流れで最初の時を迎えた。

この歳にして初めて知った女っていうのは・・・想像以上に凄かった。
それはもう言葉でなんか簡単に表せねぇくらいに。
当たり前のことだが、女なら誰でもいいって問題じゃねぇ。
この俺が心底惚れて、心底欲しいと望んだあいつだったからこそ得られた快感だ。

だからもっともっとあいつといたいと思ったし、もう少しだって離れていたくねぇと思った。
それなのにあの女、相変わらずわけのわからねぇ御託を並べるばかりでてんで埒があかねぇ。
人がどんな思いでこの5年を突っ走って来たのかわかってんのか! あのヤロウ!


・・・そんな中で起きた今回のあり得ないこの状況。


「ったく、ようやくあいつと一緒にいられると思ったのに・・・俺は呪われてんのか?!」

体が入れ替わったって愛し合うことはできる。
でもそれじゃあ意味がねぇ。
俺が愛したいのは牧野つくしただ一人。
頭のてっぺんから足の爪先まであいつじゃなけりゃあ意味がねぇんだよ。

「くっそ、とにかく現状を何とかしねぇとな・・・」

ピピピッ

携帯の画面を見ると短縮2番へとコールする。
今現在夜中の3時過ぎ。
普通で考えれば電話なんてしねぇ時間だろうが今はそんなことなんざ言ってられねぇ。


プルルルルルッ プルルルルルッ プルッ・・・


『 ・・・・・・はい。 いかがなされましたか 』

ましてや相手がこいつなら尚更のこと。
緊急時ほどこの男の存在は欠かせねぇ。

「俺だ。ちょっと厄介なことになった」
『・・・・・・・・・・・・』
「・・・おい? 聞いてんのか?」

予想通りこんな時間にも関わらず電話に出た男だったが、こっちの声を聞いた途端黙り込んでしまった。
話しながら自分ですっかり忘れていたがそれもそのはず。
今は俺であって俺じゃねぇんだから。

『・・・はい。申し訳ありません、もしかして牧野様でいらっしゃいますか?』
「表面的にはそういうことになる。だが間違いなく俺だ」
『・・・・・・牧野様、今どちらに? 司様は近くにいらっしゃらないのですか?』

こいつ・・・牧野が酔っ払ってわけのわかんねぇ電話したとでも思ってやがるな。
つーかまぁそう思うのが普通だろうな。

「おい西田。細けぇことは後からだ。とにかく今話してんのは牧野であって牧野じゃねぇ。俺だっつーことだけは言っておく。全てはマンションに来てからだ。さすがに今すぐ来いとは言わねぇ。だがお前の段取りがついたらすぐにマンションまで来い。わかったな」
『・・・・・・』

西田からすりゃあどう考えても酔っ払いの戯れ言にしか聞こえねぇだろう。
誰がどう聞いても牧野の声なんだから。
だが同時にどんなに酔っても牧野がこんなことをあの西田に言うはずがないってことにだって気付いてるはずだ。

『・・・・・・かしこまりました。1時間ほどでそちらに向かいますのでお待ちください』

ほらな。
わけのわからねぇ状態でも冷静さを失わねぇ。
こんなときこそこの男の力が必要だ。

「あぁ、頼んだぞ」

そう言ってすぐに通話を終了すると、携帯を持ったまま手を額に載せてはぁ~っと息を吐いた。
これで何度目になるかもわからない。


目を開けたら夢でした・・・そうあってくれたらどれだけいいか。



何故だかそんな願いは叶わないと確信を持ちながら、少しでも自分を落ち着かせるために俺は静かに瞳を閉じた。





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by: * 2015/06/29 22:39 * [ 編集 ] | page top
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