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彼と彼女の事情 5
2015 / 07 / 15 ( Wed )
「こんな時間にわりぃな」
「・・・・・・」

玄関に仁王立ちで待ち構えていた俺・・・ならぬ 「牧野」 を前にしばし西田の動きが止まる。
さすがのこいつをもってしても疑心暗鬼になるなと言う方が無理な話だろう。
もし俺が逆の立場ならば確実にぶっ飛ばしてるところだ。

「・・・牧野様では・・・」
「ねぇっつってんだろ」
「・・・・・・」
「まぁいい。とにかく中に入れ」

探るようにじっとこちらを見ている西田を残してさっさとリビングへと戻る。
既に日付の変わった今は土曜日。
1日くらいならともかく、立場上いつまでも仕事に穴をあけるわけにはいかない。
つまりは月曜を迎えるまでの2日、その間になんとか現状打破の一手を打たなくてはならない。

「・・・一体何があったのですか」

遅れて入って来た西田が真面目な顔で核心を突いてくる。
その目は既に俺の話をほぼ信じている。
こんな尊大な態度の牧野の姿を見ていればそうなっていくのも当然の流れなわけで。
だが決め手が欲しい、そんなところだろう。

「夕べあいつを助けようと床に転がった後に体が入れ替わった」
「・・・・・・」

反応がない。 ・・・まぁ普通はそうなるよな。
誰がこんな漫画みてぇな話を信じるっつーんだよ。

「状況としては言い合いをしてた、外は雷雨、転びそうになったあいつを咄嗟に庇った。これくらいだな」
「・・・今私が見ているのが本当に司様だとして、牧野様は一体どこに?」
「あいつなら泣き疲れて寝てる。少し前にトイレに行くだけで死ぬほど大変だったんだよ」
「それはまぁ・・・そうなるでしょうね」
「あいつ、俺の姿でわんわん大泣きしやがった。あれほどの屈辱はなかったぜ・・・」

生まれてこの方泣いたことなどないのに、何が悲しくて自分がカマみてぇに大泣きするところを見なきゃならねーんだ。
しかも俺の体をまるでゲテモノのように扱いやがって。
いくら好きな女が中にいるのだとしても、目の当たりにしなければならない俺にとっては屈辱的だ。

「・・・お聞きしても?」
「なんだよ」
「NY時代のあなたにとって一番嫌な記憶は?」

いきなりの質問にみるみる牧野の顔が凶悪なものになっていっているに違いない。
西田は無表情でじっとこちらを見ている。

・・・んのやろう。

「・・・・・・ババァが勝手に設定したクソ見合いに決まってんだろうが」
「それであなたはどうなされたのでしょう?」
「聞かなくてもわかってんだろうが」
「確認のためです」

この野郎・・・
既に俺の話が真実だととっくに信じてんな。
その上で 「わざと」 聞いてやがる。
牧野の体じゃなければぶっ飛ばしてやるのに、それができないことも計算尽くでやってやがる。

「机だけじゃなくて契約一本吹っ飛ばしたんだろ」
「そうですね。あれからしばらくは大変でした」
「知るかよ。そもそもお前も事前に知ってたくせにしゃあしゃあとあんな場所に連れて行きやがって・・・その程度で済んで感謝されてもおかしくねーぞ」

約束の4年をもうすぐ終えようとした頃、ババァの最悪な嫌がらせがなされた。
それなりに大きな契約を結ぼうとしていた企業の令嬢だかと勝手に見合いの場を設けやがったのだ。何も知らされずに仕事だとばかり信じてその場に行った俺は当然のことブチ切れた。
元々立場を利用してやたらと馴れ馴れしくモーションをかけてくる女だったが、その気が微塵もないことも日本に婚約者がいるということも全て話していた。それは親父に対してもそうだ。
だがそれを知らぬ存ぜぬで強引に事を進めようとしやがった。

ババァは最初から結果がどうなるかなんてわかってたに違いない。
その上で敢えて嫌がらせをふっかけてきやがった。
すんなり帰国して牧野を迎えに行く俺が面白くなかったとかそんなところだろうが冗談じゃねぇ。
相変わらず悪趣味過ぎるババァにはうんざりだ。

「契約の直前、あの会社が粉飾決算に手を染めていることが発覚しました」
「だからって俺を利用すんじゃねぇよ」
「ただでは転ばない。さすがは社長の手腕でしたね」
「・・・・・・チッ!」


・・・そう。 気に入らないことはそれだけではなかった。
何が一番気に入らないって、あのババァ、最初から契約をご破算にするために俺を利用しやがったのだ。

西田の言った通り、あの会社は汚職に手を染めていた。
だがそれに気付いたのは契約がほぼ確約されていた段階のこと。
しかもこいつら、俺にだけはばれないように徹底的にその事実を隠してやがった。
その上であの見合いを設定したことで俺が全てをブチ壊す。

当時、相手は一方的な行為だと罵り被害者面で世論の同情を求めた。
しばらくは俺と道明寺ホールディングスが完全に悪者扱いだったが、その後例の汚職が発覚する。その中で俺との結婚も強引に進めようと画策していた証拠まで挙がり、一気に形勢逆転した。
むしろ俺の行為が正当なものであると賞賛される形となったのだ。

汚職がわかった時点で契約をなかったことにするより、それを逆手にとっていかに自社に効果的に事を運ぶか。損して得取れどころか、絶対に利益しか残らないように。
あのババァ、そこまで計算尽くでやってやがった。

・・・気に入らねぇ。
コロコロとあの女の手の上で転がされていたかと思うだけで虫唾が走る。
あの女ほど忌々しい奴はこの世にいない。

「そんな極悪人のようなお顔をなされませんように」
「元はと言えばお前らが悪いんだろうが」
「ですがわが社にとっては最も有意義な結末を迎えることができましたよね」
「ざけんな」
「今はつくし様のお体なのでしょう? そんな顔をつくし様がなされることは絶対にありません。悲しませるようなことがあってよろしいのですか」
「・・・・・・」

こんのやろう。
それを言われちゃ何もできないことをわかってて面白がってやがるな。
くそったれ。 何から何まで腹が立って仕方がねぇ。

「もういいだろうが。とっくに俺の話は信じてんだろ?」
「・・・そうですね。先程廊下で歩く後ろ姿を見た時に確信しました」
「だったら無駄な時間使ってんじゃねーよ」
「先程のは個人的に聞いてみたかっただけですから」
「・・・・・・」

ほんとぶん殴れないのをいいことにやりたい放題だな。
体が戻ったら覚えてやがれ。

「問題は、考えたくはねーが万が一週が明けても戻ってなかった場合どうするかってことだな」
「・・・」

その言葉に西田は顎に手を当てて何やら真剣に考え出した。


「・・・・・・万が一のときは・・・」







***




カタン・・・



「よぉ、よく寝てたじゃねーか。こんなときまで爆睡すんのはさすがお前だな」
「・・・・・・」

爆睡していた割には随分具合の悪そうな顔で俺の姿をした牧野がリビングへと入ってきた。
夜も明けて夕べの雨が嘘のように外は快晴だが、それとは対照的に室内の空気は重い。

「起きたら夢だったって笑えると信じて必死に寝たけど・・・悪夢のような現実だった・・・」
「おい、俺の姿でそう簡単に泣くんじゃねーぞ」

基本言うだけ無駄だろうが一応釘は刺しておかねーと。
実際俺からしたら冗談じゃねぇ話だからな。

見た目はどう見ても俺なのに、キッと睨み返す姿が何故かあいつとダブって見える。
人間の見た目っつーのは思ってる以上に内面に影響されるんだろうか?

「泣きたくもなるよ・・・だって、このままだったら一体どうすればいいの?! 万が一週が明けちゃったら・・・お互い仕事だってあるのに・・・」

泣きそうになったかと思えば鋭い視線で睨み付け、かと思えばまた泣きそうに萎れていく。
牧野の姿なら可愛いと思えるが、俺がやってると鳥肌が立ってしょうがねぇ。

「そのことですが」

「・・・え?」

明らかに自分たちとは違う声に牧野が顔を上げた。
そして予想外の事態だったのか、目ん玉が零れ落ちそうなほどに驚いている。

「・・・え、道明寺・・・?」

状況が掴めずに俺に助けを求めてくる。

「万が一の時は俺たちだけじゃどうにもならねーからな。一番の理解者になれるのはこいつしかいないだろ」
「・・・・・・」

俺との付き合いが認められたとはいえ、牧野と西田の面識はそう多くはない。
高校の時はババァの犬同然だったし、帰国してからの日もまだ浅い。



「あってほしくはないですが、万が一お二方がこのまま週を跨いでしまうようなことがあれば・・・次のような手立てを取りたいと思います」



西田の提案に、ゴクリと俺の中のつくしが喉を鳴らした。





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「幸せ~」の方が間に合わなかったので久方ぶりの「カレカノ」です。お忘れの方はまだ数話しかないので是非復習を^^
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