あなたの欠片 4
2014 / 11 / 06 ( Thu ) ピピピッピピピッピピピッ
「・・・・・・・・・・」 ピピピッピピピッピ・・ のそのそと出てきた手が携帯を捉えると、小さな室内に響き渡っていた音がプツリと途絶えた。 その手は再び毛布の中へと戻っていくと、ごそごそと布団が大きな山を描く。 「・・・・・・・・・あ~、ダメだ。目が覚めちゃった」 ガバッと布団を捲って体を起こすと、つくしは恨めしそうに携帯を眺めた。 「はぁ~、せっかくの休みなのにアラームセットしたままにしちゃうなんて迂闊・・・・」 だったら二度寝すればいいだけの話なのだろうが、性格なのか体質なのか、つくしはどうも二度寝が上手にできないタイプの人間らしい。溜め息をつきながら立ち上がると、真っ先にカーテンを開けた。6畳一間の小さな空間に目映いばかりの太陽が燦々と降り注ぐ。 「わ~、すっごいいい天気。洗濯頑張らなきゃ」 そう言うとキッチン・・・と言えるほどの広さでもないが、そこへ移動しケトルの電源を入れる。お湯を沸かしている間に洗面所へ移動して軽く身だしなみを整える。戻って来た頃にはちょうどお湯が沸いていて、ティーパックで紅茶を煎れる。それを持ってベッドに腰掛けると窓の外を眺めながら手元の紅茶を一口飲み込んだ。 「あ~、あったまるなぁ・・・・」 日常化している一連の動作を終えると、つくしはぼんやりとそんなことを呟いた。 半分ほど飲むとキッチンへと戻り、軽く朝食を取るためにパンをトースターに放り込む。焼いている間にテレビのスイッチを入れると、いつもなんとなく見ているニュースが流れ始めた。チーンという音がしてからトーストを取り出すと、バターを片手に小さなテーブルの前に座った。 「いただきま~す」 なんの味気もないパンにかじり付くと、もぐもぐ咀嚼しながらつけたままのテレビをあてもなくただ眺める。今流行の商品が紹介されていたり、今日の天気を紹介したり、いつもとさして変わらない内容が流れていく。そうこうしているうちに全てを食べ終え、片付けでもしようと立ち上がった。 『・・・・・・・・・・道明寺ホールディングスがアメリカの資本会社マキシリオンと近く業務提携することが正式に発表されました。これに伴いかねてから噂されていたご令嬢との結婚も正式に公にされるのではないかと言われています。なお・・・・・・・・』 背後から不意に聞こえてきた言葉につくしの体がピタリと止まる。ゆっくりと振り返り画面をじっと見つめていたが、やがて何事もなかったかのようにキッチンへ移動すると黙々と後片付けを始めた。 ****** ガーガーガー・・ ピンポーーン 「・・・あれ?誰だろう・・・・」 2回目の洗濯をしている間に掃除機をかけていたところで聞こえてきたインターホンの音に顔を上げる。スイッチを切って来客の可能性を考えるが何も思い当たらない。 ピンポーン そうしているうちに再びその音が響く。つくしは静かに移動するとドアスコープからそっと外を覗き込んだ。そこから見えた人物に驚くと、慌てて施錠を外し扉を開けた。 「おはよ」 「突然どうしたの?!」 「今日俺とデートしてよ」 「へっ?」 鳩が豆鉄砲を食ったように間抜け面をするつくしに、目の前にいる男はプッと吹きだした。 「だからデート。なんだっけ、牧野が前に言ってたなんとかパフェってやつ?あれを見てみたくなったから連れてってよ」 「類・・・・・」 突然目の前に現れた類に驚きを隠せないが、この男がそうと言い出したらもうそのペースを崩すことはできないことを知っているつくしは、クスッと呆れたように笑いながら頷いた。 「・・・・・いきなりなんだから。わかったわよ。でも今掃除してるからもうちょっと待ってくれる?お茶入れるから上がって待っててよ」 「わかった」 「・・・・・・ぷぷっ」 「・・・何?」 「い、いや、類にはこの部屋は似合わなすぎだと思って・・・・・ぷ、あはははっダメだっ!」 我慢の限界を超えたのか、ついにはつくしはお腹を抱えて笑い出してしまった。 あれから類を部屋に上げてお茶を出すと、つくしは急いで片付けを始めた。2回目の洗濯物を干し、あらかたの用事を済ませてふと室内に目をやると、そこにはどう考えても不釣り合いな王子様然とした男が座っている。6畳一間の小さな円卓にぽつんと座っているその姿を見たら・・・・・もう笑いが止まらない。 「・・・・・・そんなこと言ったって仕方ないだろ。ここしか座れないんだから」 「うんうん、そうだよねっ・・・・・でも、でも・・・・・あははははっ!」 それでもなお笑い転げるつくしに怒るでも文句を言うでもなく、類はただじっとその姿を見つめている。 「あはは・・・・・・何?何かついてる?」 「いや。あんたがそんなに大口開けて笑ってるの見るの久しぶりだなと思って」 「・・・類・・・・・・」 「で?準備は終わったの?」 「えっ?あぁ、うん。大丈夫」 「じゃいこっか」 そう言ってスッと立ち上がると、類は颯爽と玄関の方へと歩き出した。つくしはそんな類に慌てて鞄を手にするとその後を追いかけた。 ***** 「ぷ、くくくくっ・・・・・・・」 「・・・・・・・・・何」 「だっ、だって、似合わなすぎっ・・・・・ぶくくくっ!」 さっきとまるで同じようにお腹を抱えて笑っているつくしだが、大声を出さないのはここがお店だからだろうか。必死で声を殺しながら涙を浮かべている。類はそんなつくしを不服そうに見ている。 「だって俺は食べるって言ってないだろ」 「うんうん、それもわかってるんだけどね。どうしても類の前に置いてみたかったっていうか、あはははっ!」 「・・・・・もうわかったらそろそろ食べなよ。溶けちゃうだろ」 「う、うんっ・・・・・」 ひーひーと涙を拭いながら類に差し出されたものを受け取ると、つくしはスプーンを手にそれを一口口に放り込んだ。 「ん~、おいしいっ!!」 「・・・・・よくそんなのが食べられるね」 「え~?連れてきてって言ったの類じゃん!」 「俺は見たいって言っただけ。でもここまでだとは思ってなかった」 類はそう言ってもう一度目の前のものを呆れたように見つめた。 今つくしがおいしいおいしいと口にしているもの。それは通常の3倍ほどはあるかと思われるビッグパフェだ。たっぷりの生クリームにアイスにプリン、色とりどりのフルーツがのったそれはミラクルパフェという名前で、どうやらつくしのOL仲間の間で今大流行しているらしい。一口食べるだけでもうんざりなのに、よくもこれだけの大きさのものがこの体に入るものだとある意味感心もする。 「甘いもの嫌いだもんね~」 「見てるだけでも胸焼けしてきそう」 「あははっ!じゃあなんで見たいなんて言ったのさ~」 「世の七不思議巡りみたいな感じ?」 「あはははは!七不思議って」 つくしは笑いながらも次々にパフェを口にしていく。類は最初こそ見ているだけでも気持ち悪いと思っていたが、気が付けば面白いほどつくしの胃袋に消えていくその様子を楽しそうに観察していた。 そして大半を食べ終わったところでつくしが動かしていた手を止めると、静かに口を開いた。 「・・・・っていうかさ、私のためだよね?」 「え?」 「私のこと心配してくれたんでしょ?」 「・・・・・・牧野・・・」 「あはは、そんな顔しないでよ。あのニュースで私が傷ついてないかって心配してくれたんでしょ?相変わらず類は優しいなぁ。・・・・・ありがとね。でも大丈夫だよ?もうとっくに吹っ切ってることだし」 あはっと笑うと再びパフェを口に放り込む。類はそんなつくしの姿をじっと見つめている。 「会いに行きなよ」 「・・・・・え?」 類の口から出てきた予期せぬ言葉にパフェに差し込んだスプーンの動きがピタッと止まった。 「司に会いに行きなよ。ちゃんと会って話してきな」 「な、何を・・・・・・・・そんな必要ないよ。私たちはもう終わってるんだから」 「そう思ってるのはあんただけだろ?司はちゃんと納得してるの?」 「それは・・・・」 それ以上言葉を続けられずにつくしは俯いてしまった。 「何のために今まで頑張ってきたの。途中で諦めてあんたは本当に後悔しないの?」 「・・・・・・・」 「たとえ同じ結果になるんだとしても、ちゃんと直接話してきた方がいい」 類は変わらずつくしから視線を逸らさないが、俯いた顔には髪がかかっていてその表情を確認することはできない。だがしばらくの沈黙が続いた後上げたつくしの顔には笑顔が浮かんでいた。 「・・・・ありがとうね、類。本当に。その気持ちは凄くありがたいと思ってる」 「・・・・・牧野?」 「でもね、自分の中でもう決めたことなんだ。・・・・・・あいつが本気で頑張ってるのがわかってるから。・・・・・・だから、私たちはこうするのが一番いいの。もう決めたの」 「牧野・・・・・・」 「ふふっ、だからそんな顔しないでよ!私全然後悔なんてしないし、不幸でもなんでもないんだから。大丈夫っ!類がそんな顔してたらまるで不幸な人間みたいになるじゃない」 「・・・・・・・・」 「さっ、この話はもうこれで終わりっ!じゃあラストスパートで食べないとね」 カラッとした笑顔を見せるとつくしは残ったパフェを食べ始めた。類は何かを言おうと口を開いたが、目の前のつくしを見てその口をつぐんだ。 結局それ以上言葉をかけることができないままただつくしを見つめていた。 「ほんとにご馳走になっていいの?」 「俺が誘ったんだもん。当然でしょ」 「・・・・・じゃあお言葉に甘えて。ご馳走様でした」 「どういたしまして。またデートにつきあってよ」 「うん」 つくしがお手洗いに席を立っている間にいつの間にやら類が会計を済ませてしまっていた。 性格的に恐縮しながらも、どれだけ言ったところでお金を受け取るような人ではないと諦め、つくしは素直にその厚意を受け取ることにした。 「じゃあ送っていくよ」 「あ、ここでいいよ。私ちょっと寄りたいところがあるんだ」 「そうなの?」 「うん。多分類が来るには合わないところだろうから一人で行って電車で帰るよ」 「俺は別に気にしないけど。でもあんたがそう言うならわかった」 「今日はほんとにありがとね。おいしかった」 「俺も面白いものが見られて楽しかったよ」 「あはは、面白いって。・・・じゃあまたね!」 「うん。気をつけて帰れよ」 「わかってるよ。じゃあねっ!」 笑顔でぶんぶん手を振りながら遠ざかっていくつくしの姿を、類は視界から消えてもなお立ち尽くしたまま見つめ続けた。 ***** 「・・・・・・・あ、いっけない。いつの間に青になってたんだろ」 類と別れてから交差点でぼんやりと信号待ちをしていたが、待っていたはずの信号はとっくに青になっていて、さらには点滅を始めていた。 つくしはハッと我に返ると慌てて横断歩道を駆けて渡り始めた。 一方の類もとっくにつくしの姿は見えなくなっていたが、ただぼんやりとその場に立ち竦んでいた。後ろから歩いてきた人にぶつかられてようやく意識が戻ってくる。 「・・・・・・・・あんたの大丈夫は全然大丈夫じゃないんだよ」 ぽつりと呟くと、ゆっくりと振り返って歩き始めた。 キキィーーーーーーーーーーッドンッ!!!!!! それと何かの衝撃音と悲鳴が響き渡ったのはほぼ同時だった。 ![]() ![]() |
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by: * 2014/11/06 09:00 * [ 編集 ] | page top
--H※様<拍手コメントお礼>--
描写を気に入っていただけてとても嬉しいです。 もうとにかく語彙力と発想力が乏しい人間なので^^; 毎回どうやって書けばいいのやらと苦悩する日々です。 でもこうして読んでくださる方とコメントまで入れてくださる方がいらっしゃるおかげで頑張れてます。有難うございます。 この更新ペースがいつまで保てるか怪しいですが、気長に楽しんでいただけたらと思ってます^^ --ブラ※※様--
毎日楽しみにしてるなんて言われたら汁という汁が全部出ちゃいますよ。 有難いことです(゜´Д`゜)ウワーン ランキング、実は開設後にとあるお方にやった方がいい!と勧められ、 それじゃあと右も左もわからずとりあえず設定してみたのはいいものの、 いつまでたってもランキングが出なくておかしいな~と思ってたんです。 で、今日のこちらのコメントであらためて調べてみたんですけど、 ちゃんとできてませんでした。はい。チーーーーーーーーーーン(-人-)ゴシュウショウサマデス… もうね~、お前は何やってんだってやつですよ。 でもこのレベルだと自覚してるので驚きはないんですけどね。はっはっは。 今度こそ大丈夫・・・・・なはず。 もし気が向いたらポッチしてやってくださいませ<m(__)m> いや~、参った参った。もう疲労困憊ですじゃ。 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ブラ※※師匠--
ふお~~!!そういうことですかい! ぬぬぬ、丸々猫さまからもスマホからだと表示が出なくなることがあるから要注意! とアドバイスをいただいてたんですが・・・ なるほど、そういうことですか~!(大事なことなので2回言いました) いえね、私実はガラケー族なんですよ。 えぇ、今流行の絶滅危惧指定種です。 スマホがなくてもなーーんにも困らない生活を送ってるのでね、 とりあえずぶっ壊れるまでは使い果たしてやろうと思ってまして。 だからスマホからのアクセスに関する知識がほぼないんですよね~(;´Д`) いえ、正しくは全てにおける知識がないんですけど。 もうこうやって指摘されないと気付かない&わからないアナログ人間なので、 気付いたことはバンバン言っちゃってください! そもそもサイト設立したこと自体奇跡的なレベルの人間なので。本気で。 とりあえずアドバイス通りに各記事につけてみましたがどうでしょう? ちゃんとできてますかね?(不安だらけ) 一つ一つ勉強になります。有難や~<m(__)m> 基本PC向けにしか考えてないサイトなので、時々PCからも覗いてみてくださいね。 そしてテンプレ、ふふふ、可愛いでしょう?( ̄ー ̄) 変態仮面、こう見えても可愛いものがだーい好きなんです。 えぇ、おっしゃる通り変態が実は可愛いもの好きだった。 それでこそ変態の神髄を極めると思って精進する日々であります。 --惜っしい!--
何かが間違っていて、登録されていないカテゴリーに飛んでしまう!? ヾ(゜0゜*)ノ? 何かが違う!(|| ゜Д゜) PC用はちゃんと飛べているんですけどね( ・ε・) --ブラん子師匠--
ふぃ~~ん(゜´Д`゜) 何か違ってますかね? 一応絶滅危惧の自分のガラケーからアクセスしたら上手く飛んだんですが・・・・ どこが違うかすらわからない・・・・ 誰かバイト代払うから設定してぇ~~!!(。´Д⊂) グスン 『みやとものHPは残り1となった・・・』 ----
みやとも様、こんにちは。 某委員会で名前を聞いたことがあるでしょうか?向日葵です。 ここができたことを知りませんで、丸々猫さんのところから飛んできました。 そして一気読み~!やっぱりとっても最高におもしろいです! 委員会で読んだけどやっぱり再読したくて電卓片手にPWだしました! あ~みやとも様の世界、やっぱり大好きです。 私自身は総つく書いてますけど、花男にハマってのはこ茶子さんの影響なので つかつく大好きです!なのであちこち花男サイト徘徊中です。 「あなたの欠片」どうなっちゃうんでしょうか~? 思い出すよね~、つくし~。これから楽しみに読ませていただきますね。 ではまたお邪魔します☆彡 --向日葵様--
こんにちは^^直接のやりとりはもしかしてお初になりますでしょうか・・・? もちろん向日葵様のことはよーーーく存じ上げておりますよ。 もう勝手に仲間意識をもってしまっております! 「チーム棒」みたいな、ね( ̄∇ ̄) こんな変態仮面の世界観が大好きと言っていただけて光栄極まりないです。 有難うございます<m(__)m> 本当にひっそり始めたサイトでしたが、 色んな方に見つけていただいて日々驚いてばかりです。 変態故にRへの期待値が高いのが悩みどころではありますが、 これから末永くお付き合いいただけましたら嬉しいです(*´∀`*) ちなみに本部にて向日葵様へのメッセージを残して逃亡しておりますので( ̄ー ̄) --ブラん子様--
とりあえずこの記事だけ新たに貼り直したので試してもらっていいですか? あわよくばスマホとPC両方から試していただけると有難いのですが・・・・ (自分の携帯とPCでアクセスしても何の問題も起きないのでわからず) もう今かなりちんぷんかんぷんです(×o×) それで問題なさそうなら全てを貼り替えていきたいと思ってます。 宜しくお願い致します。 --ばっちりです!!--
ちゃんと、ランキングサイトが開きました!!(〃∇〃) --ブラん子様--
あ~、良かったぁ~~!!ほっ(*´∇`*;△ もう精魂尽き果てました。 私が尽きた後のことは全て師匠にお任せします。 ・・・・・バタッ |
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