あなたの欠片 5
2014 / 11 / 07 ( Fri ) 運命の歯車が狂い始めたのはいつからだったのか。
あの雨の日だったのか、 渡米が決まったときだったのか、 あるいは3年前のあの日だったのか。 それとも全てははじめからそうなべくしてなった運命だったのか_______ 司が渡米して3年。 多忙な日々を送りながらも全ては順調だった。 あれだけ奔放な10代を送っていた男が副社長に就任することに対し、心中快く思わない者がいるのも事実だった。司の蛮行を振り返ればそれも当然の感情だろう。 だがひとたびその身をビジネスに投じれば、その疑心暗鬼だった思いはたちまち払拭されていく。名ばかりのバカなジュニアだとばかり思っていた男は、その年齢からは想像もつかないほどの鋭いビジネス感覚を持ち合わせていた。余計なものは容赦なく淘汰し、光ると見れば鋭い眼光で磨き上げていく。 ジュニアだからではない、司は己の力で自らが後継者に相応しいのだということを浸透させていった。 だがそれは本人の努力だけでは到底無理なことだった。 牧野つくし___ 何の変哲もないただの庶民の女。 その女の存在こそが司の原動力の全てだった。 彼女に出会わなければ、司は一生暗闇の中を彷徨い続けていただろう。 気に入らない者は問答無用で破壊し、金で揉み消し、闇に葬り去る。 それを悪いことだなんて少しも思わなかったし、顧みることすらあり得なかった。 司にとって、大財閥だろうとそんなことはどうでもよかった。 自分の代でぶっ壊してしまっても構わないとすら思っていた。 それほどに毎日がつまらなく、バカバカしく、何の生きがいも見出せない人生だった。 あるのは金だけ。 湯水のように溢れる金はあっても、心が満たされたことはただの一度もない。 破壊行為でしか満たされない心は虚しさを招くだけ。 だが当人はそれが虚しさだと気付かない。 やり場のない原因不明の苛立ちを晴らすように再び破壊行為に出る。 一生出口の見えない暗闇を彷徨い続けるのかと誰もが思っていた。 だが彼は見つけたのだ。 己を唯一照らしてくれる光を。 その光は頑なだった氷をいとも簡単に溶かし、温めていく。 彼女と出会ったことで痛みを知った。 痛みを知ったことで己の過ちに気付くことができた。 そうしてその光は男を一人の人間へと導いていく。 光を、彼女を手に入れるためならどんなことでもできる。 忌み嫌っていた魑魅魍魎としたビジネスの世界へ身を置いても、その先にあるのが彼女との未来であるならば。 ただその想いだけが司を突き動かしていた。 つくしと最後に会ったのはイタリア___類の計らいで会ったあの時だ。 あれから2年以上、一度も会うことはできていない。 楓の嫌がらせとも取れる仕事の入れ方により、日本に帰国するチャンスは一度もなかった。 何度かNYに来るように打診したが、つくしは学業とバイトに勤しむ日々を送り、それに加えて司が常に多忙なことに遠慮してばかりで結局来ることはなかった。 本音を言えば会いたいに決まっている。 会いたくて、会いたくて、毎日夢に見るほどその存在を欲していた。 だが、その会えない日々がまた二人を強くしているのも事実だった。 明確なゴールのために、ただひたすらに日々を懸命に生きる。 そうすることで結果的に司のビジネス界での評価もうなぎ登りに上がっていくこととなった。 考えてみれば、それも全て楓の計算の内だったに違いない。 メールと電話だけの日々が続いたが、互いの心は不思議と満たされていた。 そうした日々は瞬く間に過ぎ、約束の4年も残すところあと1年を切った。 一部の人間のやっかみこそあったが、司の立場は名実ともに認められるものとなっていた。 あとはアメリカでの業務を全て終えて日本に帰国する。 そしてつくしを迎えに行く。 それだけだった。 そうなると誰もが信じて疑わなかった。 だが事態は急変する。 現場に復帰して1年が経っていた司の父親が急死したのだ。 まさに青天の霹靂。会長である父親に楓、司、これ以上ない盤石の布陣でこれからの道明寺ホールディングスが一体どれだけの成長を遂げるのかと、いい意味で想像もつかないと思われていた中での急逝。 病休から復帰してこれからだと思っていた矢先でのこの事態に、誰もが混乱した。 そしてその混乱に便乗する形で社内にほんの一部潜んでいた反勢力がクーデターを起こした。 それは主に現副社長である司の過去のゴシップ暴露という形でなされた。 これまでならば事前に察知して表に出すことを食い止められていたが、会長の急逝という一つのパニックが起こっている最中では対処が後手に回ってしまった。 一度公になってしまってはもうマスコミの格好の餌食となるばかり。会社の混乱との相乗効果を狙い、暴力沙汰だけではなく数々の女との乱交パーティまで、あることないこと掻き立てるマスコミが続出した。 大半がでっち上げの捏造記事だったが、その中には司が昔引き起こした紛れもない事実が含まれていたこともあり、火消しはそう簡単にはいかなかった。 過去最高にまで上がっていた株価はこの一連の騒動で大暴落し、会社は一気に窮地へと立たされていく。 当然ながら今の司を知る者は真実がどうであるかを主張した。最初こそ司に対して不信感を抱いていた者も、彼と共に仕事をしていくうちに信を得るだけの人物だとその意識が変化していたからだ。 だが人という者はいい加減なもので、時として何が真実であるかよりも、どちらが「面白いか」にその興味を奪われる。大財閥の副社長のゴシップは、一つの偽りがまた新たな偽りを生むという形でより状況を厳しいものへと追い込んでいった。 そしてこのことがつくしと司の運命を大きく変えていくこととなる。 ![]() ![]() |
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by: * 2014/11/07 08:06 * [ 編集 ] | page top
--ブラ※※様--
一晩寝たらあっさり生き返りました。ふーよかった。 司パパって本当に謎ですよね。 あれだけの長さで一度も出てこないんですから。 でも同じ場所にいるだけで空気がビリビリしてくるようなそういう人なんだろうなぁ。 とりあえずイケメンなのは間違いなさそうですね( ̄ー ̄) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --翔様--
はじめまして! お名前が一文字なので伏せ字にできずにごめんなさい>< 私のことをご存じくださっていたとのこと。有難うございます<m(__)m> 自分で思っている以上に知ってくださってる方がいらっしゃって、 これはますます変なことはできないなと思ってます。 いえ、もう充分今さらなんですけどね(笑) 皆様との出会いでサイト開設というまさかの展開になっていますが、 こうしてまた新たな出会いをすることができて有難く思っています。 Rへの期待値が上がり続けていますが(笑) これから末永くお付き合いいただけましたら嬉しいです。 よろしくお願い致します(*´∀`*) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
Rなしでも楽しい!と言ってもらえることが何よりも嬉しいです。 有難うございます(*^^*ゞ ドラマチック・・・・にできるかはわかりませんが、 まずはちゃんと完結できるように頑張ります。 あと鬱~な展開にはしません(書けない)のであまり心配しないでくださいね^^ |
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